説明

コンバイン

【課題】穀粒タンクの容量を増加させても機体のバランスが悪くならず、機体全体幅を広げることなく、穀粒タンクへ穀粒を満載して不安定にならずに安全に走行できるようにする。
【解決手段】コンバイン(1)の機体(2)上における脱穀装置(3)の側部に穀粒タンク(4)を配置し、該穀粒タンク(4)を上部タンク(5)と下部タンク(6)とに分割して該上部タンク(5)を下部タンク(6)に対して脱穀装置(3)の上側へ伸長可能に構成し、穀粒タンク(4)の内側或いは外側に設ける揚穀筒(7)の上部揚穀筒(8)を前記上部タンク(5)側に係止して該上部タンク(5)と共に伸長可能に構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、脱穀済穀粒を一時的に貯留する穀粒タンクを備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
コンバインは、圃場内を走行しながら穀稈を刈り取って脱穀し、脱穀済の穀粒を機体上に設けた穀粒タンクに一時的に貯留して収穫作業を続行し、穀粒タンクが満杯になると収穫作業を中断して、圃場近くの道路に止めているトラックへ移動して穀粒タンク内の穀粒をトラックの籾タンクへ移し変える。
【0003】
このコンバインの穀粒タンクからトラックの籾タンクへの穀粒の移し変えは、収穫作業を中断しなければならず作業効率低下の原因になっている。このために、穀粒タンクの容量を大きくすることが考えられるが、穀粒タンクを大きくするとコンバインの路上走行安定性が悪くなり、機体が大きくなって交通法規上から一般道路を走行できなくなる。
【0004】
そこで、例えば、実用新案登録第2504585号公報には、コンバインの穀粒タンクを上部タンクと下部タンクに分割し穀粒が多くなってくると上部タンクを上方へ押上げて容量を多くすることが考えられている。
【特許文献1】実用新案登録第2504585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の特許文献1に記載のコンバインは、適宜に収穫作業時に収穫穀粒が多くなると穀粒タンクの上部タンクを押上げて容量を大きくするので、穀粒タンクを空にして走行する路上走行には支障がないが、穀粒タンクが機体の左右どちらかの片側に設けられているために、上部タンクを押上げて穀粒を満載した際に機体左右のバランスが悪くなり、圃場走行が不安定になる問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、穀粒タンクの容量を増加可能にし、容量を増加にしても機体のバランスが悪くならず、機体全体幅を広げることなく、穀粒タンクへ穀粒を満載して路上走行しても不安定にならずに安全に走行できるようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1記載の発明では、コンバイン(1)の機体(2)上における脱穀装置(3)の側部に穀粒タンク(4)を配置し、該穀粒タンク(4)を上部タンク(5)と下部タンク(6)とに分割して該上部タンク(5)を下部タンク(6)に対して脱穀装置(3)の上側へ伸長可能に構成し、穀粒タンク(4)の内側或いは外側に設ける揚穀筒(7)の上部揚穀筒(8)を前記上部タンク(5)側に係止して該上部タンク(5)と共に伸長可能に構成したことを特徴とするコンバインとした。
【0008】
この構成により、路上走行時には、上部タンク5を短縮させて全高を低く抑えることができる。そして、圃場での刈取脱穀作業時には、脱穀装置3で脱穀され揚穀筒7の上端部から穀粒タンク4内へ供給される穀粒が穀粒タンク4へ満杯になるに従って穀粒タンク4の上部タンク5を脱穀装置3の上側に伸長して容量を増加出来る。
【0009】
請求項2記載の発明では、前記上部タンク(5)の伸長位置を検出するタンクセンサ(9,10,11)を設けて、このタンクセンサ(9,10,11)による検出結果に基づいて上部タンク(5)の伸長位置を規制するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとした。
【0010】
この構成により、例えばコンバインに搭乗したオペレータの身長に合わせて操縦時の後方視界を妨げない範囲で穀粒タンク4の容量を増加できる。
請求項3記載の発明では、前記上部タンク(5)を下部タンク(6)の内側に嵌合させて伸長可能に構成すると共に、該上部タンク(5)を伸縮させるシリンダ(12)を設けたことを特徴とする請求項1に記載のコンバインとした。
【0011】
この構成により、シリンダ12によって上部タンク5を伸縮させて穀粒タンク4の貯留容量を増減できる。
請求項4記載の発明では、前記上部タンク(5)と共に移動する満杯センサ(13)を設け、該満杯センサ(13)による検出結果に基づいて前記シリンダ(12)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項3に記載のコンバインとした。
【0012】
この構成で、穀粒タンク4への穀粒の溜り具合によって自動で穀粒タンク4の上部タンク5を伸長させることが出来る。
請求項5記載の発明では、前記下部タンク(6)の低位置に穀粒を検出するセンサ(14)を設け、該センサ(14)による穀粒非検出結果に基づいて前記シリンダ(12)を作動させて上部タンク(5)を短縮作動させるように構成したことを特徴とする請求項3に記載のコンバインとした。
【0013】
この構成で、穀粒タンク4への穀粒の溜り或いは減り具合によって上部タンク5を短縮することが出来る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によると、路上走行時には上部タンク5を短縮させて全高を低く抑えることができると共に、圃場での刈取脱穀作業時には、上部タンク5を下部タンク6に対して脱穀装置3の上側へ伸長させて容量を増加させることが出来、穀粒を貯留した際の穀粒タンク4全体の重量がコンバイン1の機体2中央側に寄るために機体2の左右バランスを悪化させにくく、機体幅を広げることなく圃場或いは一般道路を安定して走行できる。
【0015】
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果に加え、例えばコンバインに搭乗したオペレータの身長に合わせて操縦時の後方視界を妨げない範囲で穀粒タンク4の容量を増加でき、刈取脱穀作業の能率を向上させることができる。
【0016】
請求項3記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果に加え、上部タンク5と下部タンク6との間からの穀粒の漏れ出しを防止できると共に、シリンダ12によって上部タンク5を伸縮させて穀粒タンク4の貯留容量を増減でき、操作性を向上させることができる。
【0017】
請求項4記載の発明によると、上記請求項3記載の発明の効果に加え、穀粒タンク4への穀粒の溜り具合によって自動で穀粒タンク4の上部タンク5を伸長させることが出来、操縦者による手動操作を省略して刈取脱穀作業の能率を向上させることができる。
【0018】
請求項5記載の発明によると、上記請求項3記載の発明の効果に加え、穀粒タンク4への穀粒の溜り或いは減り具合によって上部タンク5を短縮することが出来、穀粒タンク4の全高を低くして操縦席からの後方視界を良好に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を具現化したコンバインを図面を参照しながら説明する。
コンバインの全体は、図1と図2に示される如く構成され、クローラ走行装置15を有する機体2の前方には、刈取装置16が設けられている。この刈取装置16には、植立穀稈を分草する複数の分草具17と、植立穀稈を引き起こす複数の引起装置18と、植立穀稈を刈り取る刈刃19と、該刈刃19にて刈り取られた穀稈を挟持して後方に搬送する供給搬送装置20が設けられている。刈刃19が刈り取った穀稈は、供給搬送装置20で上方へ搬送され、穀稈脱穀搬送装置21に引き継がれ、穂先を脱穀装置3内へ供給して脱穀され、脱穀後の穀稈が機体2の最後部に設けたカッター22で細かく切断され圃場へ放出される。
【0020】
機体2の上方には、脱穀装置3の右側方にこの脱穀装置3で脱穀選別された穀粒を一時貯溜する穀粒タンク4と、該穀粒タンク4の前方に位置していてコンバイン1の操縦等の各種操作を実行する操縦操作部23が載置されている。
【0021】
穀粒タンク4の後側に揚穀筒24が立設され、穀粒タンク4内の穀粒量が満杯となると、この揚穀筒24と穀粒排出オーガ25から穀粒を穀粒タンク4の底部から外へと排出する。揚穀筒24は電気モータ(図示せず)にて旋回可能に構成され、また、穀粒排出オーガ25は油圧シリンダにて昇降可能に構成されている。そして、穀粒排出オーガ25は揚穀筒24の上部に連結されて一体的に構成され、揚穀筒24が旋回すると、穀粒排出オーガ25も一緒に旋回する構成となっている。
【0022】
穀粒タンク4は、図3に示す如く、下部タンク6の上部開口部に上部タンク5を内側へ勘合させて斜め上方の脱穀装置3上へ伸長可能にしているが、最大に伸長しても機体の左側面から側方へ突出することはない。上部タンク5の左傾斜下面にガイド杆26を側面に沿って下部タンク6のガイドブラケット27に嵌合させて設け、ガイドブラケット27のセンサ取付杆28に所定間隔で取り付けたタンクセンサ9,10,11で上部タンク5の伸長程度を検出するようにしている。また、上部タンク5の右傾斜面には下部タンクとの間にシリンダ12を設けて上部タンク5を油圧で伸長するようにしている。複数のタンクセンサ9,10,11は、上部タンク5を必要最小限に伸長させるために満杯センサ13が穀粒を検出すると段階的に上部タンク5を伸長させる。
【0023】
下部タンク6と上部タンク5の内部には、螺旋を内装した揚穀筒7を内蔵して脱穀装置3で脱穀した穀粒を穀粒タンク4の内部上側面近くまで送り揚げるようにしている。また、揚穀筒7の上部揚穀筒8は、上部タンク5の伸長方向と同方向へ傾けると共に伸縮可能にして上部タンク5の内面へリンク29で連結し、上部タンク5と共に伸長するようにしている。即ち、揚穀筒7の上部に対して上部揚穀筒8の下部を摺動自在に嵌合させ、上部揚穀筒8の内部に設けた断面六角形状の駆動軸8bの外周に、多数の分割螺旋体8aを嵌合させて、該分割螺旋体8aの相互の螺旋体の連続性を維持しながら、相互のボス間の間隔を拡縮自在に構成したものである。上部タンク5の上内面に取り付けた満杯センサ13は、穀粒を感知して穀粒タンク4が満杯状態になったことを知らせる。また、揚穀筒7の側面に下限センサ(センサ)14を設けて、穀粒タンク4内から穀粒が排出されたことをこの下限センサ14で検出して伸長した上部タンク5を自動で縮めるようにしている。
【0024】
図4に示す実施例は、上部タンク5内に設ける上部揚穀筒8を垂直にしたもので、上部タンク5内へリンク30で連結して上部タンク5の伸縮に伴って上下に伸縮する。この実施例で、満杯センサ13を上部揚穀筒8の側面に取り付けても良い。
【0025】
なお、上記実施例は、油圧でシリンダ12を伸縮させて上部タンク5を伸長させているが、シリンダ12に代えて上部タンク5を手動で動かせるようにダンパを取り付けて、操縦席に居るオペレータの手が届く位置に設ける上部タンク5の取っ手を持って上部タンク5を人力で伸縮出来るようにしても良い。
【0026】
このように構成したコンバイン1を前進させて刈取作業をすると、圃場面に植立している穀稈は、分草具17にて分草され、その後、引起装置18にて引き起こされて刈刃19にて刈り取られる。その後、刈り取られた穀稈は供給搬送装置20にて後上方へ搬送され、穀稈脱穀搬送装置21へと引き継ぎ搬送される。この穀稈脱穀搬送装置21に引き継がれた穀稈は、穂先側が脱穀装置3へ供給されて脱穀選別され、脱穀済の穀稈がカッター22で細かく切断され圃場へ放出される。
【0027】
脱穀装置3で脱穀された穀粒は穀粒タンク4内へ揚穀筒7で送り込まれて貯留されるが、貯留される穀粒が増えてくると満杯センサ13が穀粒を感知してシリンダ12を延ばして上部タンク5を脱穀装置3の上方へ伸長して穀粒タンク4の容量を増加する。
そして、最終的に穀粒タンク4が満杯になると、コンバイン1を道路に停止したトラックへ近づけて揚穀筒24と穀粒排出オーガ25で穀粒をトラックの籾タンクへ移し変える。
【0028】
図5は、刈取装置16と引起装置18の機体2への支持構造を示している。刈取装置16の左右両側部にリンク31,32で機体2へ連結し、シリンダ33,34で刈取装置16と引起装置18を昇降するようにしている。リンク31,32は側面視で上下にずらして配置することで剛性を高めて、シリンダ33,34の推力を従来構造よりも軽く出来る。リンク31,32の機体側は球ジョイント36で連結し、刈取装置16側はピン37で連結している。刈取装置16の左右中央にユニバーサルジョイントで駆動軸35を繋いで動力を入力している。
【0029】
図6は、脱穀装置3に関連する穀稈脱穀搬送装置21やカッター22をモータ38で駆動するようにした構成で、走行関係の駆動はエンジン39で行う。このようにすると、従来の全ての駆動を1台のエンジンで行っていた構成よりもエンジンを小型化でき、環境にやさしいものとなり、脱穀装置も走行抵抗に関係なく定常回転を維持できて性能が安定している。
【0030】
図7と図8は、機体2の走行を制御するHSTレバー40と副変速レバー42の連動構成を示すもので、HSTレバー40は変速溝41をクランク状に前後することで前後進速度を調整し、副変速レバー42は変速溝43を後から前に移動すると、低速、中立、標準、中立、高速に切り替える。両レバー41,42の移動位置に係合する牽制プレート44,45を図示の如く配置し、リンク46で連動している。そして、図9に示す如く、副変速レバー42を高速へ移動すると牽制プレート44,45が動いてHSTレバー40を後進の高速へ移動できないようにしている。この構成で、高速後進が出来なくしている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明実施例のコンバイン全体を示す側面図
【図2】本発明実施例のコンバイン全体を示す正面図
【図3】本発明実施例のコンバイン全体を示す一部断面の背面図
【図4】本発明別実施例の一部断面の拡大背面図
【図5】コンバインの刈取部支持構造を示す斜視図
【図6】本発明実施例の全体側面図
【図7】一部の拡大平面図
【図8】一部の拡大平面図
【符号の説明】
【0032】
1 コンバイン
2 機体
3 脱穀装置
4 穀粒タンク
5 上部タンク
6 下部タンク
7 揚穀筒
8 上部揚穀筒
9,10,11 タンクセンサ
12 シリンダ
13 満杯センサ
14 下限センサ(センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバイン(1)の機体(2)上における脱穀装置(3)の側部に穀粒タンク(4)を配置し、該穀粒タンク(4)を上部タンク(5)と下部タンク(6)とに分割して該上部タンク(5)を下部タンク(6)に対して脱穀装置(3)の上側へ伸長可能に構成し、穀粒タンク(4)の内側或いは外側に設ける揚穀筒(7)の上部揚穀筒(8)を前記上部タンク(5)側に係止して該上部タンク(5)と共に伸長可能に構成したことを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記上部タンク(5)の伸長位置を検出するタンクセンサ(9,10,11)を設けて、このタンクセンサ(9,10,11)による検出結果に基づいて上部タンク(5)の伸長位置を規制するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記上部タンク(5)を下部タンク(6)の内側に嵌合させて伸長可能に構成すると共に、該上部タンク(5)を伸縮させるシリンダ(12)を設けたことを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項4】
前記上部タンク(5)と共に移動する満杯センサ(13)を設け、該満杯センサ(13)による検出結果に基づいて前記シリンダ(12)を駆動するように構成したことを特徴とする請求項3に記載のコンバイン。
【請求項5】
前記下部タンク(6)の低位置に穀粒を検出するセンサ(14)を設け、該センサ(14)による穀粒非検出結果に基づいて前記シリンダ(12)を作動させて上部タンク(5)を短縮作動させるように構成したことを特徴とする請求項3に記載のコンバイン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−109880(P2008−109880A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294278(P2006−294278)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】