コンバイン
【課題】双方が可変容積型とされた走行ポンプ及び走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインにおいて、刈取作業効率を向上させる。
【解決手段】走行モータを小容積状態に移行又は保持した状態で走行側HSTの出力を変速操作部材の操作位置に応じて変化させる小容積制御モードと、走行モータを大容積状態に移行又は保持した状態で走行側HSTの出力を変速操作部材の操作位置に応じて変化させる大容積制御モードと、走行モータの容積状態変更時に走行側HSTの出力が変化しないように走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、コンバインが作業状態の際には小容積制御モードが選択されるように構成する。
【解決手段】走行モータを小容積状態に移行又は保持した状態で走行側HSTの出力を変速操作部材の操作位置に応じて変化させる小容積制御モードと、走行モータを大容積状態に移行又は保持した状態で走行側HSTの出力を変速操作部材の操作位置に応じて変化させる大容積制御モードと、走行モータの容積状態変更時に走行側HSTの出力が変化しないように走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、コンバインが作業状態の際には小容積制御モードが選択されるように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容積型の走行ポンプ及び可変容積型の走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
走行系伝動経路に可変容積型の走行ポンプ及び可変容積型の走行モータを有する走行側HSTが備えられたコンバインは従前から公知である。
例えば、下記特許文献1には、前記走行側HSTの走行モータを小容積状態及び大容積状態の2段の出力状態を取り得る可変容積型とすると共に、可変容積型の走行ポンプの出力状態を変化させるHSTレバーに前記走行モータの出力状態を切り換える切換スイッチを設けたコンバインが開示されている。
【0003】
前記特許文献1に記載のコンバインは、前記走行モータの出力状態を2段階に切換可能とすることで、変速幅(言い換えると、トルク幅)を広げることができる点で有用であるが、刈取作業の作業効率については全く考慮されていない。
即ち、前記特許文献1に記載のコンバインは、直進走行時で且つ非作業時には前記走行モータが小容積状態を取ることができ、且つ、旋回走行時や刈取作業時には前記走行モータが大容積状態を取るように制御されているだけであり、刈取作業の効率化については何ら記載されていない。
【特許文献1】特開2004−323014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、双方が可変容積型とされた走行ポンプ及び走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインであって、刈取作業効率を向上させ得るコンバインの提供を一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、双方が可変容積型とされた走行ポンプ及び走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインにおいて、前記可変容積型の走行モータが小容積状態及び大容積状態とされている際の走行に要する動力(以下、走行負荷という)を検証した。
なお、前記小容積状態とは、前記走行モータの可動斜板の傾転位置が中立位置に近接された状態を意味しており、前記大容積状態とは、前記可動斜板の傾転位置が中立位置から離間された状態を意味している。
従って、前記走行ポンプの可動斜板の傾転位置が一定であるとすると、前記走行モータの出力は小容積状態の方が大容積状態よりも高速となる。
【0006】
具体的には、走行ポンプ及び走行モータの双方が可変容積型とされた走行側HSTを備えた大型コンバイン(機体重量約6.5トン)及び中型コンバイン(機体重量約4トン)に対し、前記走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した。
なお、刈取作業時においてはコンバインは直進走行されることを考慮して、前記走行負荷の検証は、コンバインを直進走行させて行った。
【0007】
図1及び図2に、それぞれ、大型コンバイン及び中型コンバインにおける測定結果を示す。
図1及び図2から明らかなように、大型コンバイン及び中型コンバインの何れにおいても、車速を一定とすると、前記走行動力は、前記走行モータが小容積状態に保持されている場合の方が大容積状態に保持されている場合に比して低くなっている。
【0008】
本発明者は、斯かる検証結果に基づき、刈取作業時においては前記走行モータを小容積状態とすることによって走行動力を増加させることなく走行速度をアップさせることができるという新規な着想を得るに至り、本発明を完成させた。
【0009】
具体的には、本発明は、エンジンと、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する走行側HSTと、前記走行側HSTを操作する変速操作装置と、前記走行側HSTによって作動的に駆動される走行装置と、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する刈取装置と、前記刈取装置によって刈り取られた穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置とを備え、前記走行側HSTは、前記エンジンに作動連結された可変容積型の走行ポンプと、前記走行ポンプによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータとを有し、前記変速操作装置は、人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプの容積量を変更するポンプ用作動装置と、前記走行モータの容積量を変更するモータ用作動装置と、前記ポンプ用作動装置及び前記モータ用作動装置の作動制御を司る制御装置とを有するコンバインであって、前記走行モータは小容積状態及び大容積状態の2段の容積状態を取り得るように構成され、前記制御装置は、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが作業状態の際には小容積制御モードを選択するコンバインを提供する。
【0010】
好ましくは、前記制御装置は、人為信号に基づき小容積制御モード又は大容積制御モードの少なくとも一方を不能とするように構成され得る。
【0011】
好ましくは、前記制御装置は、前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードを選択するように構成され得る。
【0012】
好ましくは、前記制御装置は、小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成され得る。
【0013】
好ましくは、前記制御装置は、前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが刈取作業状態にあると判断するように構成され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコンバインによれば、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが刈取作業状態の際には小容積制御モードが選択されるように構成したので、刈取作業時に走行負荷を減らすことができる。逆に言えば、走行に使用し得る動力の範囲内で車速を増速させることができ、従って、刈取作業効率を向上させることができる。
さらに、小容積状態及び大容積状態間の移行時に走行速度差が生じることを防止できるので、走行操作性を良好に維持することができる。
【0015】
人為信号に基づき小容積制御モードが不能とされるように構成すれば、湿田等における刈取作業時において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保できる。
人為信号に基づき大容積制御モードが不能とされるように構成すれば、路上走行時等において高速走行を行うことができる。
【0016】
前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードが選択されるように構成すれば、旋回走行時において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保できる。
【0017】
小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成すれば、小容積制御モードにおいて走行側HSTの作動圧が不当に上昇することを防止でき、これにより、前記走行側HSTの作動油リークを有効に防ぎ、走行伝動効率の悪化を防止すると共に、前記走行側HSTの耐久性を向上させることができる。
【0018】
前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが作業状態にあると判断するように構成すれば、小容積制御モードの作動期間を必要最小限に止めることができ、これにより、走行側HSTの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。
図3〜図5は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るコンバイン1の側面図,正面図及び伝動模式図である。
【0020】
図3〜図5に示すように、前記コンバイン1は、本機フレーム2と、前記本機フレーム2に支持されたエンジン9と、前記本機フレーム2に連結された左右一対の走行装置(本実施の形態においては、クローラ式走行装置)10と、前記エンジン9からの回転動力を変速して前記一対の走行装置10へ出力する走行系トランスミッション100と、前記本機フレーム2の前方において該本機フレーム2に昇降可能に支持された刈取装置30と、前記刈取装置30によって刈り取られた穀稈を前記本機フレーム2の左側方において後方へ搬送するフィードチェーン装置20と、前記フィードチェーン装置20によって搬送される穀稈に対して脱穀処理を行うように、前記本機フレーム2の左部分に配設された脱穀装置40と、前記脱穀装置40の下方に配設された揺動選別装置50と、前記エンジン9から作動的に定速動力を入力し且つ前記走行系トランスミッション100の下記走行側HST120から作動的に車速同調動力を入力して、前記刈取装置30,前記フィードチェーン装置20,前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50を含む作業機に向けて回転動力を出力する作業機系トランスミッション200と、前記本機フレーム2の右前方部分に配設された運転席5と、前記揺動選別装置50によって選別された穀粒を収容するグレンタンク6であって、前記運転席5の後方に配設されたグレンタンク6と、前記フィードチェーン装置20から脱穀済の排藁を受け継ぎ、該排藁を後方へ搬送する排藁搬送装置60とを備えている。
【0021】
まず、前記コンバイン1における伝動構造について説明する。
前記コンバイン1の伝動構造は、前記エンジン9から前記走行装置10へ至る走行系伝動経路に介挿された前記走行系トランスミッション100と、前記エンジン9から前記作業機へ至る作業機系伝動経路に介挿された前記作業機系トランスミッション200とを備えている。
【0022】
図6に、前記走行系トランスミッション100の伝動模式図を示す。
図5及び図6に示すように、前記走行系トランスミッション100は、前記エンジン9に作動連結された走行側HST120及び旋回側HST130と、前記両HST120,130の出力を合成して一対の走行系出力軸55a,bに伝達する走行系伝動機構140と、前記走行系伝動機構140を収容すると共に、前記走行側HST120及び前記旋回側HST130を支持するミッションケース110とを備えている。
【0023】
図7に、前記コンバイン1の油圧回路図を示す。
前記走行側HST120は、図5〜図7に示すように、前記エンジン9に作動連結された可変容積型の走行ポンプ120Pと、前記走行ポンプ120Pによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータ120Mとを備えている。
【0024】
詳しくは、前記可変容積型の走行ポンプ120Pは、前記エンジン9に作動連結された走行側ポンプ軸121と、前記走行側ポンプ軸121に相対回転不能に支持された走行側油圧ポンプ本体122と、前記走行側油圧ポンプ本体122の容積量を変更させる走行ポンプ側容積調整手段123とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行ポンプ側容積調整手段123は、走行ポンプ側可動斜板と、前記走行ポンプ側可動斜板を傾転させる走行ポンプ側制御軸とを有している。
【0025】
前記可変容積型の走行モータ120Mは、前記走行側油圧ポンプ本体122と一対の第1及び第2走行側HSTライン129a,129b(図7参照)を介して流体接続された走行側油圧モータ本体127と、前記走行側油圧モータ本体127を相対回転不能に支持する走行側モータ軸126と、前記走行側油圧モータ本体127の容積量を変更させる走行モータ側容積調整手段128とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行モータ側容積調整手段128は、走行モータ側可動斜板と、前記走行モータ側可動斜板を傾転させる走行モータ側制御軸とを有している。
【0026】
なお、本実施の形態においては、前記走行モータ側容積調整手段128は、前記走行側油圧モータ本体127の容積量を小とし、これにより前記走行モータ120Mを高速回転可能な小容積状態とする小容積位置と、前記走行側油圧ポンプ本体127の容積量を大とし、これにより前記走行モータ120Mを大容積状態とする大容積位置との2位置を取り得るように構成されている。
即ち、前記走行ポンプ120Pから送られているくる作動油量が一定であるとすると、前記走行モータ120Mは小容積状態の際に高速回転し、且つ、大容積状態の際に低速回転する。
【0027】
前記走行側HST120は、変速操作装置によって操作される。
詳しくは、前記変速操作装置は、図7に示すように、HSTレバー310等の人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプ120Pの容積量を変更させる走行側ポンプ用作動装置320と、前記走行モータ120Mの容積量を変更させる走行側モータ用作動装置330とを備えており、前記走行側ポンプ用作動装置320及び前記走行側モータ用作動装置330は前記コンバイン1に備えられる制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0028】
前記走行側ポンプ用作動装置320は、走行側ポンプ用油圧ピストン装置321と、前記走行側ポンプ用油圧ピストン装置321への作動油の給排を切り換える走行側ポンプ用電磁切換弁322とを有している。
【0029】
前記制御装置400は、前記変速操作部材310の操作位置を検出する操作位置検出センサ410(図5参照)からの信号に基づき、前記走行側ポンプ用電磁切換弁322の位置制御を行い、これにより、前記走行ポンプ側可動斜板が傾転して前記走行ポンプ120Pの容積量が変更されるようになっている。
なお、前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記HSTレバー310の中立位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記HSTレバー310が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記HSTレバー310の操作位置を認識し得るようになっている。
【0030】
前記走行側モータ用作動装置330は、走行側モータ用油圧ピストン装置331と、前記走行側モータ用油圧ピストン装置331への作動油の給排を切り換える走行側モータ用電磁切換弁332とを有している。
前記制御装置400は、例えば、前記走行モータ120Mが大容積状態における最高速出力状態となると、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行するように前記走行側モータ用作動装置330を作動制御する。
【0031】
好ましくは、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが大容積状態及び小容積状態の間で変更される際に車速が急激に変化することを防止する為に、前記走行モータ120Mの容積状態変更前後において前記走行モータ120Mの出力回転数が変化しないように前記走行側ポンプ用作動装置330の作動制御を行うことができる。
詳しくは、前記制御装置400には、走行側ポンプ用作動装置320の作動位置(即ち、前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置)と前記走行モータ120Mの出力との関係(以下、ポンプ−モータ出力関係という)が、前記走行モータ120Mが小容積状態及び大容積状態のそれぞれの場合について予め記憶されている。
前記制御装置400は、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの容積状態変更前後において該走行モータ120Mの出力が実質的に一定となるような該走行モータ120Mの容積状態変更後での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(目標傾転位置)を算出し、該目標傾転位置と容積状態移行前の前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置との差異量に応じた制御信号を前記走行側ポンプ用作動装置320に出力する。
【0032】
前記旋回側HST130は、図5〜図7に示すように、前記エンジン9に作動連結された旋回ポンプ130Pと、前記旋回ポンプ130Pによって流体的に駆動される旋回モータ130Mとを備えている。
【0033】
前記旋回ポンプ130P及び前記旋回モータ130Mは少なくとも一方が可変容積型とされている。
本実施の形態においては、図5に示すように、前記旋回ポンプ130Pが可変容積型とされ、且つ、前記旋回モータ130Mは固定容積型とされている。
【0034】
詳しくは、前記可変容積型の旋回ポンプ130Pは、前記エンジン9に作動連結された旋回側ポンプ軸131と、前記旋回側ポンプ軸131に相対回転不能に支持された旋回側油圧ポンプ本体132と、前記旋回側油圧ポンプ本体132の容積量を変更させる旋回ポンプ側容積調整手段133とを備えている。
本実施の形態においては、前記旋回ポンプ側容積調整手段133は、旋回ポンプ側可動斜板と、前記旋回ポンプ側可動斜板を傾転させる旋回ポンプ側制御軸とを有している。
【0035】
前記固定容積型の旋回モータ130Mは、前記旋回側油圧ポンプ本体132と一対の旋回側第1及び第2HSTライン139a,139bを介して流体接続された旋回側油圧モータ本体137と、前記旋回側油圧モータ本体137を相対回転不能に支持する旋回側モータ軸136と、前記旋回側油圧モータ本体の容積量を固定する固定斜板(図示せず)とを有している。
【0036】
前記旋回側HST130は、旋回操作装置によって操作される。
詳しくは、前記旋回操作装置は、図7に示すように、ステアリングハンドル350等の人為操作可能な旋回操作部材と、前記旋回ポンプ130Pの容積量を変更させる旋回側ポンプ用作動装置360とを備えており、前記旋回側ポンプ用作動装置360は前記制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0037】
詳しくは、前記旋回側ポンプ用作動装置360は、旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361と、前記旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361への作動油の給排を切り換える旋回側ポンプ用電磁切換弁362とを有しており、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362が前記制御装置400によって位置制御されるようになっている。
【0038】
前記制御装置400は、前記ステアリングハンドル350の切れ角を検出する切れ角センサ420(図5参照)からの信号に基づき、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362の位置制御を行い、これにより、前記旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361が作動して前記旋回ポンプ側可動斜板が傾転されるようになっている。
なお、前記切れ角センサ420として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記ステアリングハンドル350の直進位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記ステアリングハンドル350が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記ステアリングハンドル350の操作位置を認識し得るようになっている。
【0039】
前記走行系伝動機構140は、図6に示すように、一対の第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bと、前記走行側モータ軸126の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bに同一回転方向で伝達する走行側出力伝動機構180と、前記旋回側モータ軸136の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bの一方に正転方向で伝達し且つ他方に逆転方向で伝達する旋回側出力伝動機構190とを備えている。
【0040】
前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a、bは前記走行側出力伝動機構180及び前記旋回側出力伝動機構190からの回転動力を、それぞれ、第1及び第2走行系出力軸55a,bに伝達するように構成されている。
詳しくは、前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bは、それぞれ、サンギヤ171と、前記サンギヤ171の回りを公転し得るように該サンギヤ171に噛合された遊星ギヤ172と、前記遊星ギヤ172を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ172と共に前記サンギヤ171の回りを公転するキャリア173と、前記遊星ギヤ172と噛合するインターナルギヤ174とを備えている。
本実施の形態においては、前記インターナルギヤ174に前記走行側出力伝動機構180が作動連結され且つ前記サンギヤ171に前記旋回側出力伝動機構190が作動連結されており、前記キャリア173に対応する前記走行系出力軸55a,bが作動連結されている。
【0041】
前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸126に作動連結された走行側出力軸181と、前記走行側出力軸181に作動連結された分岐軸185と、前記分岐軸185の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記インターナルギヤ174に伝達する第1走行側出力ギヤ列186aと、前記分岐軸185の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記インターナルギヤ174に伝達する第2走行側出力ギヤ列186bとを有している。
前記第1及び第2走行側出力ギヤ列186a,bは、伝動方向及び伝動比が互いに同一とされている。
【0042】
なお、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記構成に加えて、前記走行側モータ軸126に作動的に制動力を付加し得る駐車用ブレーキ装置182を備えている。
本実施の形態においては、前記駐車用ブレーキ装置182は、動力伝達方向に関し前記走行側出力軸181及び前記分岐軸185の間に配設されている。
具体的には、前記駐車用ブレーキ装置182は、前記走行側出力軸181から回転動力を受け且つ前記分岐軸185へ出力するブレーキ軸183と、前記ブレーキ軸183に対して選択的に制動力を付加し得るブレーキユニット184とを備えている。
【0043】
さらに、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸124の回転動力を多段変速させる副変速機構187を備えている。
本実施の形態においては、前記副変速機構187は、前記走行側出力軸181及び前記走行側ブレーキ軸183の間で多段変速可能に構成されている。
【0044】
前記旋回側出力伝動機構190は、前記旋回側モータ軸136に作動連結された旋回側出力軸191と、前記旋回側出力軸191に作動連結された共通軸192と、前記共通軸192の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記サンギヤ171に伝達する第1旋回側出力ギヤ列193aと、前記共通軸192の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記サンギヤ171に伝達する第2旋回側出力ギヤ列193bとを有している。
前記第1及び第2旋回側出力ギヤ列193a,bは、伝動比は同一であるが、伝動方向は互いに対して反対となるように構成されている。
【0045】
なお、図6中の符号194は、前記旋回側モータ軸134に作動的に制動力を付加し得る旋回側ブレーキ装置であり、符号195は、前記旋回側出力軸134から前記共通軸192への動力伝達を係合又は遮断させるクラッチ装置である。
又、図6中の符号155は、前記入力軸140からの動力によって回転駆動される冷却ファンであり、符号501は後述するチャージポンプである。
【0046】
前記作業機系トランスミッション200は、前記エンジン9からの定速回転動力及び前記走行系HST120からの車速同調回転動力を入力し、前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50に対しては定速回転動力を出力し、且つ、前記刈取装置30及び前記フィードチェーン装置20に対しては定速回転動力又は車速同調回転動力を選択的に出力し得るように構成されている。
【0047】
図8に、前記作業機系トランスミッション200の伝動模式図を示す。
詳しくは、図5及び図8に示すように、前記作業機系トランスミッション200は、カウンターケース210と、脱穀クラッチ機構45を介して前記エンジン9に作動連結される定速入力軸220と、前記定速入力軸220に作動連結され、前記脱穀装置40の扱胴駆動軸41へ向けて回転動力を出力する脱穀出力軸221と、前記定速入力軸220に作動連結された定速伝動軸223と、前記走行側モータ軸126に作動連結される車速同調入力軸224と、変速伝動軸225と、前記車速同調入力軸224及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う車速同調側変速機構240と、前記定速伝動軸223及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う定速側変速機構250と、前記変速伝動軸225に作動連結され、前記刈取部30へ向けて出力する刈取出力軸226と、前記定速伝動軸223の回転動力及び前記変速伝動軸225の回転動力を合成するFC変速機構280と、前記FC変速機構280の出力部に作動連結され、前記フィードチェーン部20へ向けて回転動力を出力するフィードチェーン出力軸227とを備えている。
【0048】
本実施の形態においては、前記定速入力軸220及び前記脱穀出力軸221は、図8に示すように、単一軸によって一体形成されている。
即ち、前記単一軸は、一端部が前記カウンターケース210から後方へ突出し且つ他端部が前記カウンターケース210から前方へ突出するように、車輌前後方向に沿って前記カウンターケース210に支持されており、前記一端部が前記エンジン9に作動連結される入力端部を形成し且つ前記他端部が前記脱穀装置40へ向けて回転動力を出力する出力端部を形成している。
【0049】
前記定速入力軸220(前記単一軸の前記一端部)には定速入力プーリー201が装着されており、該定速入力プーリー201に巻き回された定速入力ベルト202を介して前記エンジン9から前記定速入力軸220へ定速回転動力が入力されるようになっている。
前記脱穀用出力軸221(前記単一軸の前記他端部)には脱穀出力プーリー203が装着されており、該脱穀出力プーリー203に巻き回された脱穀出力ベルト204を介して前記脱穀部40へ前記エンジン9からの定速回転動力を伝達するようになっている。
【0050】
本実施の形態においては、前記脱穀クラッチ機構45は、前記定速入力ベルト202に対してテンションを付加/解除させることで、前記エンジン9から前記定速入力軸220への動力伝達を係合又は遮断させ得るように構成されている。
【0051】
なお、前記脱穀クラッチ機構45は、前記制御装置400によって制御される脱穀クラッチ作動装置510によって作動される。
前記脱穀クラッチ作動装置510は、図7に示すように、脱穀クラッチ用油圧ピストン機構511と、前記脱穀クラッチ用油圧ピストン機構511に対する作動油の給排制御を行う脱穀クラッチ用電磁切換弁512とを有しており、前記脱穀クラッチ用電磁切換弁512が脱穀スイッチ(図示せず)の入り切り操作に基づいて前記制御装置400によって位置制御されるようになっている。
【0052】
前記定速伝動軸223は、図8に示すように、一端部が前記定速入力軸220に作動連結し且つ他端部が前記カウンターケース210から外方へ突出するように、車輌幅方向に沿って前記カウンターケース210に支持されている。
前記定速伝動軸220の前記他端部は、前記揺動選別装置50へ向けて定速回転動力を出力する揺動選別用出力軸228を形成している。
前記揺動選別用出力軸228(前記定速伝動軸223の前記他端部)には揺動出力プーリー205が装着されている。
【0053】
前記車速同調入力軸224は、一端部が前記カウンターケース210から外方へ突出した状態で、車輌幅方向に沿うように前記カウンターケース210に支持されている。
前記車速同調入力軸224の前記一端部には、車速同調入力プーリー206が装着されている。
前記変速伝動軸225は、前記定速伝動軸223及び前記車速同調入力軸224と略平行となるように前記カウンターケース210に支持されている。
【0054】
さらに、前記作業機系トランスミッション200には、図5及び図8に示すように、前記車速同調入力軸224及び前記車速同調変速機構240の間に介挿された一方向クラッチ35が備えられている。
【0055】
前記車速同調側変速機構240は、前記車速同調入力軸224から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に高速伝動状態、低速伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0056】
詳しくは、前記車速同調側変速機構240は、図8に示すように、前記車速同調入力軸224に作動連結された高速ギヤ列241及び低速ギヤ列242と、前記高速ギヤ列241又は前記定速ギヤ列242の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る車速同調用シフター243とを備えている。
【0057】
前記車速同調用シフター243は、前記高速ギヤ列241を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速位置と、前記低速ギヤ列242を前記変速伝動軸225に作動連結させる低速位置と、前記高速ギヤ列241及び前記低速ギヤ列242の双方を前記変速伝動軸225に対して作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0058】
斯かる車速同調側変速機構240は、前記制御装置400によって制御される刈取クラッチ/変速作動装置520によって作動される。
詳しくは、前記刈取クラッチ/変速作動装置520は、図7に示すように、刈取クラッチ/変速用油圧ピストン機構521と、前記刈取クラッチ/変速用油圧ピストン機構521に対する作動油の給排制御を行う刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522とを有している。
一方、前記運転席5近傍には、刈取スイッチ430(図7参照)及び刈取変速レバー(図示せず)が備えられている。
前記制御装置400は、前記刈取スイッチ430のOFF操作に基づき、前記車速同調用シフター243が中立位置に位置するように前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522の位置制御を行い、前記刈取スイッチ430のON操作に基づき、前記車速同調用シフター243が前記刈取変速レバーの操作位置に対応した高速位置又は低速位置に位置するように前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522の位置制御を行う。
【0059】
前記定速側変速機構250は、前記定速伝動軸223から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に流し込み伝動状態、高速カット伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0060】
詳しくは、前記定速側変速機構250は、図8に示すように、前記定速伝動軸223に作動連結された流し込み用ギヤ列251及び高速カット用ギヤ列252と、前記流し込み用ギヤ列251又は前記高速カット用ギヤ列252の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る定速用シフター253とを備えている。
【0061】
前記定速用シフター253は、前記流し込み用ギヤ列251を前記変速伝動軸225に作動連結させる流し込み位置と、前記高速カット用ギヤ列252を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速カット位置と、前記流し込み用ギヤ列251及び前記高速カット用ギヤ列252の双方を前記変速伝動軸225に作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0062】
斯かる定速側変速機構250は、前記制御装置400によって制御される流し込み/高速カット用作動装置530によって作動される。
詳しくは、前記流し込み/高速カット用作動装置530は、図7に示すように、流し込み/高速カット用油圧ピストン機構531と、前記流し込み/高速カット用油圧ピストン機構531に対する作動油の給排制御を行う流し込み/高速カット用電磁切換弁532とを有している。
前記制御装置400は、運転席5近傍に備えられる操作部材(図示せず)の操作に基づき、前記流し込み/高速カット用電磁切換弁532の位置制御を行い、これにより、前記定速用シフター253が流し込み位置,高速カット位置又は中立位置のうち前記操作部材の操作に対応した位置に位置するようになっている。
【0063】
前記刈取出力軸226は、一端部が外方へ延在された状態で前記カウンターケース210に支持されている。
前記刈取出力軸226の前記一端部には、刈取出力プーリー207が装着されている。
なお、本実施の形態においては、前記刈取出力軸226は、トルクリミッター229を介して前記変速伝動軸225に作動連結されている。
【0064】
前記FC変速機構280は、図8に示すように、遊星ギヤ機構を有している。
詳しくは、前記FC変速機構280は、サンギヤ281と、前記サンギヤ281の回りを公転し得るように該サンギヤ281に噛合された遊星ギヤ282と、前記遊星ギヤ282を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ282と共に前記サンギヤ281の回りを公転するキャリア283と、前記遊星ギヤ282と噛合するインターナルギヤ284とを備えており、前記サンギヤ281に前記定速伝動軸223の回転動力が入力され且つ前記インターナルギヤ284に前記変速伝動軸225の回転動力が入力され、前記キャリア283が前記フィードチェーン出力軸227に作動連結されている。
なお、本実施の形態においては、前記キャリア283及び前記フィードチェーン出力軸227の間には、FCクラッチ機構285が介挿されている。
【0065】
ここで、前記コンバイン1の油圧回路について説明する。
図7に示すように、前記コンバイン1は、前記脱穀クラッチ用電磁切換弁512,前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522及び前記流し込み/高速カット用電磁切換弁532に対して作動油を供給する脱穀・刈取用油圧回路550と、刈取昇降用油圧機構561,左右一対の車体昇降用油圧機構562a,562b及びオーガ作動用油圧機構563に対する作動油給排を司る昇降用油圧回路560と、前記走行側HST120及び前記旋回側HST130を含む走行系油圧機構の油圧制御を司る走行系油圧回路570とを備えている。
【0066】
前記走行系油圧回路570は、図7に示すように、前記走行側油圧ポンプ本体122及び前記走行側油圧モータ本体127が閉回路を形成するように両者を流体接続させる前記第1及び第2走行側HSTライン129a,129bと、前記旋回側油圧ポンプ本体132及び前記旋回側油圧モータ本体137が閉回路を形成するように両者を流体接続させる前記旋回側第1及び第2HSTライン139a,139bと、前記一対の走行側HSTライン129a,129bのそれぞれ及び前記一対の旋回側HSTライン139a,139bのそれぞれに作動油を補給する為のチャージライン575であって、チャージ圧設定用リリーフ弁576によって所定圧に調圧されたチャージライン576と、前記走行側ポンプ用電磁切換弁322に向けて作動油を供給する走行側ポンプ用作動油ライン581と、前記走行側モータ用電磁切換弁332に向けて作動油を供給する走行側モータ用作動油ライン582と、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362に向けて作動油を供給する旋回側ポンプ用作動油ライン583とを備えている。
なお、前記走行側ポンプ用作動油ライン581,前記走行側モータ用作動油ライン582及び前記旋回側ポンプ用作動油ライン583へは、前記チャージライン576を介して作動油が供給されている。
【0067】
本実施の形態に係るコンバイン1は、図7に示すように、前記構成に加えて、前記チャージポンプ501及び補助ポンプ502を備えており、
前記昇降用油圧回路へは前記補助ポンプ502から圧油が供給され、且つ、前記チャージライン575及び前記脱穀・刈取用油圧回路550へは前記チャージポンプ501から圧油が供給されるようにするように構成されている。
【0068】
ここで、前記制御装置400について説明する。
前記制御装置400は、演算処理を実行するCPU及び後述する制御プログラムが格納された記憶手段を有しており、種々の設定手段及びセンサから信号を入力して前記制御プログラムに基づき前記走行側ポンプ用作動装置320及び前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力するように構成されている。
【0069】
図9〜図11に、前記制御装置400に記憶された前記制御プログラムのフローチャートを示す。
前記制御プログラムは、小容積制御モード(図10参照)と、大容積制御モード(図11参照)と、前記小容積制御モード又は前記大容積制御モードの何れを選択するかを判断する選択制御モード(図9参照)とを含んでおり、前記コンバイン1が刈取作業状態の際には前記選択制御モードによって小容積制御モードが選択されるように構成されている。
【0070】
本実施の形態においては、前記制御装置400は、前記刈取装置30が駆動状態で、前記コンバイン1が直進状態で且つ前進状態の場合において、刈取作業状態であると判断するように構成されている。
具体的には、前記選択制御モードは、図9に示すように、前記刈取装置30が駆動状態か否かを判断するステップA−10と、前記コンバイン1が直進状態か否かを判断するステップA−11と、前記コンバイン1が前進状態か否かを判断するステップA−12とを含んでいる。
【0071】
ステップA−10の判断は、例えば、前記刈取スイッチ430(図7参照)からの入力信号に基づき判断される。
ステップA−11の判断は、例えば、前記ステアリングハンドル350の切れ角を検出する切れ角センサ420(図7参照)からの入力信号が所定の閾値範囲(所定の角度範囲内)にあるか否かに基づき判断される。
ステップA−12の判断は、例えば、前記変速操作部材310の操作位置を検出する操作位置検出センサ410(図7参照)からの入力信号に基づき判断される。
【0072】
なお、前記切れ角センサ420として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は、前記ステアリングハンドル350の直進位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記ステアリングハンドル350が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記ステアリングハンドル350の操作位置を認識しており、前記制御装置400は、ステップA−11において、その時点での操作位置が予め記憶されている前記閾値の範囲内にあるか否かを判断する。
【0073】
同様に、前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は、前記HSTレバー310の中立位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記HSTレバー310が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記HSTレバー310の操作位置を認識しており、、前記制御装置400は、ステップA−12において、その時点での操作位置が前進側か後進側かの判断を行う。
【0074】
本実施の形態においては、前記選択制御モードは、図8に示すように、前記ステップに加えて、ステップA−20,ステップA−30及びステップA−31を備えているが、これらについては後述する。
【0075】
前記小容積制御モードは、前記走行モータ120Mが小容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330を制御した状態で、前記走行モータ120Mの出力状態が前記変速操作部材310の操作位置に応じて変化するように前記走行側ポンプ用作動装置320を制御する。
なお、前記走行モータ120Mの小容積状態とは、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置が中立位置に近い小傾斜位置に保持されている状態であり、この状態において前記走行モータ120Mは高速回転可能である。
【0076】
具体的には、前記小容積制御モードは、図10に示すように、前記走行モータ120Mが小容積状態か否かを判断するステップB−10と、ステップB−10においてYESの場合に移行されるステップB−11と、ステップB−10においてNOの場合に移行されるステップB−20と、ステップB−20に後続する移行制御モードとを有している。
【0077】
ステップB−10の判断は、例えば、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置を検出する傾転位置センサ450(図7参照)からの信号に基づいて行われる。
ステップB−20において、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが小容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力する。
【0078】
このように、ステップB−20において前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されると、前記走行ポンプ120Pからの吐出油量が一定である場合には前記走行モータ120Mの出力回転数が増速して前記コンバイン1の走行速度が上昇する。
この点に関し、本実施の形態においては、前述の通り、ステップB−20の後段に前記移行制御モードが備えられており、この移行制御モードによって、前記走行モータ120Mの容積状態変化時にコンバイン1の走行速度が変化することを防止している。
【0079】
即ち、前記移行制御モードは、前記走行モータ120Mが小容積状態及び大容積状態の間で状態変化される際に該走行モータ120Mの出力状態が変化する量だけ前記走行ポンプ120Pの出力状態が変化するように前記ポンプ用作動装置320を制御する。
【0080】
具体的には、前記移行制御モードは、図10に示すように、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されることによって増速される該走行モータ120Mの出力変化量に応じた分量だけ前記走行ポンプ側可動斜板が中立位置に近づくように(即ち、前記走行側油圧ポンプ本体121の吐出量が少なくなるように)、前記走行側ポンプ用作動装置320を制御するステップC−10と、前記走行モータ120Mの出力が前記HSTレバー310の操作位置に合った回転数か否かを判断するステップC−11とを有している。
【0081】
詳しくは、前記制御装置400には、前述の通り、ポンプ−モータ出力関係が前記走行モータの小容積状態及び大容積状態のそれぞれについて予め記憶されている。
前記制御装置400は、前記走行モータ120Mの出力回転数を検出する走行モータ出力検出センサ440(図7参照)からの検出信号に基づき、前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行される前の状態における該走行モータ120Mの出力回転数(以下、移行前モータ回転数という)を記憶しており、さらに、前記移行前モータ回転数及び前記ポンプ−モータ出力関係を用いて算出される前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行される前の状態における前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(以下、移行前ポンプ傾転位置という)を記憶している。
そして、前記制御装置400は、ステップC−10において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの小容積状態への移行後の出力が前記移行前モータ回転数と一致するような、前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行された状態での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(以下、移行後ポンプ側傾転位置という)を算出し、この移行後ポンプ側傾転位置と前記移行前ポンプ側傾転位置との差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0082】
ステップC−11では、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440からの検出信号に基づく実際の車速が、前記HSTレバー310の操作位置を検出する前記操作位置検出センサ410からの検出信号に基づく操作車速に対して所定の閾値範囲内に入っているか否かを判断する。
そして、ステップC−11においてNOの場合には、ステップC−10へ戻り、前記制御装置400は、前記操作車速及び前記実車速の差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0083】
ステップC−11又はステップB−10においてYESの場合には、前記制御装置400は、ステップB−11においてHSTレバー310の操作有無を判断する。
このステップB−11においては、前記制御装置400は、前記HSTレバー310の操作有無の判断に加えて、前記HSTレバー310の操作があった場合には該HSTレバー310の操作方向及び操作量を算出する。
前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられている場合には、ステップB−11における制御は例えば以下のように行われる。
即ち、前記制御装置400は、前記操作位置検出センサ410からの信号に基づき前記HSTレバー310の操作開始時点及び操作終了時点を判断すると共に、前記操作開始時点から前記操作終了時点までの間において操作された前記HSTレバー310の操作方向及び操作量を前記操作位置検出センサ410からの信号に基づき算出する。
【0084】
ステップB−11においてYESの場合には、前記制御装置400は、ステップB−12において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記操作方向及び操作量に応じた制御信号を前記走行側ポンプ用作動装置に出力する。
【0085】
その後、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440からの検出信号に基づく実際の車速が、前記HSTレバー310の操作位置を検出する前記操作位置検出センサ410からの検出信号に基づく操作車速に対して所定の閾値範囲内に入っているか否かを判断し(ステップB−13)、NOの場合には、ステップB−12へ戻り、前記制御装置400は、前記実車速及び前記操作車速の差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0086】
このように、本実施の形態に係るコンバイン1においては、刈取作業状態になると前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行又は小容積状態に保持されるようになっている。
課題を解決するための手段の項に記載した通り、前記走行モータ120Mが小容積状態の際の走行負荷は、前記走行モータ120Mが大容積状態の際の走行負荷よりも小さい(図1及び図2参照)。
つまり、前記走行モータ120Mを小容積状態とすることによって、前記走行モータ120Mが大容積状態の場合に比して走行負荷を低減させつつ同一速度で走行することが可能である。
逆に言うと、前記走行モータ120Mを小容積状態とすることによって、低減される走行負荷を利用して車速を増加させることができ、従って、刈取作業効率を向上させることができる。
【0087】
さらに、本実施の形態においては、前述の通り、前記走行モータ120Mが大容積状態の際に刈取作業が開始され、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されても、前記移行制御モードによって車速が一定に保持される。従って、走行操作性を良好に維持することができる。
【0088】
好ましくは、前記制御装置400は、小容積制御モード時において、前記走行ポンプ120P及び前記走行モータ120Mを流体接続する一対の第1及び第2走行側HSTライン129a,129bのうち前進時に高圧となる第1走行側HSTライン129aの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成され得る。
斯かる構成を備えることにより、小容積制御モードにおいて走行側HST120の作動油圧が不当に上昇することを防止でき、これにより、走行側HST120の作動油リークを有効に防ぎ、走行伝動効率の悪化防止と共に、走行側HST120の耐久性向上を図ることができる。
【0089】
具体的には、図10に示すように、前記小容積制御モードは、ステップB−11においてNOの場合又はステップB−13においてYESの場合に、前記第1走行側HSTライン129aの油圧が所定値以下か否かを判断し、NOの場合には大容積制御モードへ移行するステップB−14を含み得る。
【0090】
ステップB−14における判断は、例えば、前記第1走行側HSTライン129aの油圧を検出する油圧検出センサ460(図7参照)からの信号と前記制御装置400に予め記憶されている油圧上限値とに基づき行われる。
【0091】
前記大容積制御モードは、前記走行モータ120Mが大容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330を制御し、この状態で前記走行モータ120Mの出力状態が前記変速操作部材310の操作位置に応じて変化するように前記走行側ポンプ用作動装置320を制御する。
なお、前記大容積制御モードを示す図11において、前記小容積制御モードにおけると同一ステップには同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0092】
前記大容積制御モードは、図11に示すように、前記走行モータ120Mが大容積状態か否かを判断するステップB’−10と、ステップB’−10においてNOの場合に移行されるステップB’−20と、ステップB’−20に後続する移行制御モードとを有している。
ステップB’−10の判断は、ステップB−10と同様、例えば、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置を検出する傾転位置センサ450からの信号に基づいて行われる。
【0093】
ステップB’−20において、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが大容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力する。
【0094】
このように、ステップB’−20において前記走行モータ120Mが小容積状態から大容積状態へ移行されると、前記走行ポンプ120Pからの吐出油量が一定である場合には前記走行モータ120Mの出力回転数が減速して前記コンバイン1の走行速度が下降する。
この点に関し、本実施の形態においては、前述の通り、ステップB’−20の後段に移行制御モードが備えられており、この移行制御モードによって、前記走行モータ120Mの容積状態変化時にコンバイン1の走行速度が変化することを防止している。
【0095】
前記大容積制御モードにおける移行制御モードは、ステップC−10がステップC’−10に変更されている点を除き、前記小容積制御モードにおける前記移行制御モードと同一である。
【0096】
ステップC’−10においては、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが小容積状態から大容積状態へ移行されることによって減速される該走行モータ120Mの出力変化量に応じた分量だけ前記走行ポンプ側可動斜板が中立位置から離間するように(即ち、前記走行側油圧ポンプ本体121の吐出量が多くなるように)、前記走行側ポンプ用作動装置320を制御している。
【0097】
詳しくは、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440(図7参照)からの検出信号に基づき、前記走行モータ120Mの移行前モータ回転数を記憶しており、さらに、前記移行前モータ回転数及び前記ポンプ−モータ出力関係を用いて算出される前記走行モータ120Mが大容積状態へ移行される前の状態における前記走行ポンプ側可動斜板の移行前ポンプ傾転位置を記憶している。
そして、前記制御装置400は、ステップC’−10において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの大容積状態への移行後の出力が前記移行前モータ回転数と一致するような、前記走行モータ120Mが大容積状態へ移行された状態での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(移行後ポンプ側傾転位置)を算出し、この移行後ポンプ側傾転位置と前記移行前ポンプ側傾転位置との差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0098】
ここで、前記選択制御モードにおけるステップA−20,ステップA−30及びステップA−31について説明する。
前記選択制御モードは、好ましくは、前記刈取装置30が駆動状態で、前記コンバイン1が直進状態で且つ前進状態であることに加えて、前記刈取装置30内に穀稈が存在する場合においてのみ、刈取作業状態であると判断するように構成され得る。
具体的には、前記選択制御モードは、図9に示すように、前記ステップに加えて、前記刈取装置30内に穀稈が存在するか否かを判断するステップA−20を備え得る。
ステップA−20の判断は、例えば、前記刈取装置30に備えられる穀稈存否検出センサ470(図7参照)からの信号に基づいて行われる。
斯かるステップA−20を備えることにより、小容積制御モードの作動時間を必要最小限に止めることができ、これにより、前記走行側HST120の耐久性を向上させることができる。
【0099】
さらに、前記選択制御モードには、図9に示すように、小容積制御モードを不能とするか否かを判断するステップA−30及び/又は大容積制御モードを不能とするか否かを判断するステップA−31を備えることができる。
ステップA−30の判断は、例えば、人為操作可能な小容積制御モード不能スイッチ480(図7参照)のON/OFF操作に基づき行われる。
ステップA−31の判断は、例えば、人為操作可能な大容積制御モード不能スイッチ490(図7参照)のON/OFF操作に基づき行われる。
【0100】
ステップA−30を備えることにより、湿田時等において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保することができる。
又、ステップA−31を備えることにより、路上走行時等において高速走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、機体重量約6.5トンの大型コンバインにおいて、走行側HSTにおける可変容積型走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行側HSTにおける可変容積型走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、機体重量約4トンの中型コンバインにおいて、走行側HSTにおける可変容積型走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行側HSTにおける可変容積型走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係るコンバインの側面図である。
【図4】図4は、図3に示すコンバインの正面図である。
【図5】図5は、図3及び図4に示すコンバインの伝動模式図である。
【図6】図6は、図3〜図5に示すコンバインにおける走行系トランスミッションの伝動模式図である。
【図7】図7は、図3〜図5に示すコンバインにおける油圧回路図である。
【図8】図8は、図3〜図5及び図7に示すコンバインにおける作業機系トランスミッションの伝動模式図である。
【図9】図9は、図3〜図5及び図7に示すコンバインにおける制御装置に記憶された制御プログラムにおける選択制御モードのフローチャートである。
【図10】図10は、前記制御プログラムにおける小容積制御モードのフローチャートである。
【図11】図11は、前記制御プログラムにおける大容積制御モードのフローチャートである。
【符号の説明】
【0102】
1 コンバイン
9 エンジン
10 走行装置
30 刈取装置
40 脱穀装置
120 走行側HST
120P 走行ポンプ
120M 走行モータ
310 HSTレバー(変速操作部材)
320 ポンプ用作動装置
330 モータ用作動装置
400 制御装置
129a,129b HSTライン
240 刈取クラッチ(車速同調側変速機構)
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容積型の走行ポンプ及び可変容積型の走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
走行系伝動経路に可変容積型の走行ポンプ及び可変容積型の走行モータを有する走行側HSTが備えられたコンバインは従前から公知である。
例えば、下記特許文献1には、前記走行側HSTの走行モータを小容積状態及び大容積状態の2段の出力状態を取り得る可変容積型とすると共に、可変容積型の走行ポンプの出力状態を変化させるHSTレバーに前記走行モータの出力状態を切り換える切換スイッチを設けたコンバインが開示されている。
【0003】
前記特許文献1に記載のコンバインは、前記走行モータの出力状態を2段階に切換可能とすることで、変速幅(言い換えると、トルク幅)を広げることができる点で有用であるが、刈取作業の作業効率については全く考慮されていない。
即ち、前記特許文献1に記載のコンバインは、直進走行時で且つ非作業時には前記走行モータが小容積状態を取ることができ、且つ、旋回走行時や刈取作業時には前記走行モータが大容積状態を取るように制御されているだけであり、刈取作業の効率化については何ら記載されていない。
【特許文献1】特開2004−323014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術に鑑みなされたものであり、双方が可変容積型とされた走行ポンプ及び走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインであって、刈取作業効率を向上させ得るコンバインの提供を一の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、双方が可変容積型とされた走行ポンプ及び走行モータを有する走行側HSTを備えたコンバインにおいて、前記可変容積型の走行モータが小容積状態及び大容積状態とされている際の走行に要する動力(以下、走行負荷という)を検証した。
なお、前記小容積状態とは、前記走行モータの可動斜板の傾転位置が中立位置に近接された状態を意味しており、前記大容積状態とは、前記可動斜板の傾転位置が中立位置から離間された状態を意味している。
従って、前記走行ポンプの可動斜板の傾転位置が一定であるとすると、前記走行モータの出力は小容積状態の方が大容積状態よりも高速となる。
【0006】
具体的には、走行ポンプ及び走行モータの双方が可変容積型とされた走行側HSTを備えた大型コンバイン(機体重量約6.5トン)及び中型コンバイン(機体重量約4トン)に対し、前記走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した。
なお、刈取作業時においてはコンバインは直進走行されることを考慮して、前記走行負荷の検証は、コンバインを直進走行させて行った。
【0007】
図1及び図2に、それぞれ、大型コンバイン及び中型コンバインにおける測定結果を示す。
図1及び図2から明らかなように、大型コンバイン及び中型コンバインの何れにおいても、車速を一定とすると、前記走行動力は、前記走行モータが小容積状態に保持されている場合の方が大容積状態に保持されている場合に比して低くなっている。
【0008】
本発明者は、斯かる検証結果に基づき、刈取作業時においては前記走行モータを小容積状態とすることによって走行動力を増加させることなく走行速度をアップさせることができるという新規な着想を得るに至り、本発明を完成させた。
【0009】
具体的には、本発明は、エンジンと、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する走行側HSTと、前記走行側HSTを操作する変速操作装置と、前記走行側HSTによって作動的に駆動される走行装置と、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する刈取装置と、前記刈取装置によって刈り取られた穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置とを備え、前記走行側HSTは、前記エンジンに作動連結された可変容積型の走行ポンプと、前記走行ポンプによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータとを有し、前記変速操作装置は、人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプの容積量を変更するポンプ用作動装置と、前記走行モータの容積量を変更するモータ用作動装置と、前記ポンプ用作動装置及び前記モータ用作動装置の作動制御を司る制御装置とを有するコンバインであって、前記走行モータは小容積状態及び大容積状態の2段の容積状態を取り得るように構成され、前記制御装置は、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが作業状態の際には小容積制御モードを選択するコンバインを提供する。
【0010】
好ましくは、前記制御装置は、人為信号に基づき小容積制御モード又は大容積制御モードの少なくとも一方を不能とするように構成され得る。
【0011】
好ましくは、前記制御装置は、前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードを選択するように構成され得る。
【0012】
好ましくは、前記制御装置は、小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成され得る。
【0013】
好ましくは、前記制御装置は、前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが刈取作業状態にあると判断するように構成され得る。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るコンバインによれば、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが刈取作業状態の際には小容積制御モードが選択されるように構成したので、刈取作業時に走行負荷を減らすことができる。逆に言えば、走行に使用し得る動力の範囲内で車速を増速させることができ、従って、刈取作業効率を向上させることができる。
さらに、小容積状態及び大容積状態間の移行時に走行速度差が生じることを防止できるので、走行操作性を良好に維持することができる。
【0015】
人為信号に基づき小容積制御モードが不能とされるように構成すれば、湿田等における刈取作業時において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保できる。
人為信号に基づき大容積制御モードが不能とされるように構成すれば、路上走行時等において高速走行を行うことができる。
【0016】
前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードが選択されるように構成すれば、旋回走行時において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保できる。
【0017】
小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成すれば、小容積制御モードにおいて走行側HSTの作動圧が不当に上昇することを防止でき、これにより、前記走行側HSTの作動油リークを有効に防ぎ、走行伝動効率の悪化を防止すると共に、前記走行側HSTの耐久性を向上させることができる。
【0018】
前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが作業状態にあると判断するように構成すれば、小容積制御モードの作動期間を必要最小限に止めることができ、これにより、走行側HSTの耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、添付図面を参照しつつ説明する。
図3〜図5は、それぞれ、本発明の一実施形態に係るコンバイン1の側面図,正面図及び伝動模式図である。
【0020】
図3〜図5に示すように、前記コンバイン1は、本機フレーム2と、前記本機フレーム2に支持されたエンジン9と、前記本機フレーム2に連結された左右一対の走行装置(本実施の形態においては、クローラ式走行装置)10と、前記エンジン9からの回転動力を変速して前記一対の走行装置10へ出力する走行系トランスミッション100と、前記本機フレーム2の前方において該本機フレーム2に昇降可能に支持された刈取装置30と、前記刈取装置30によって刈り取られた穀稈を前記本機フレーム2の左側方において後方へ搬送するフィードチェーン装置20と、前記フィードチェーン装置20によって搬送される穀稈に対して脱穀処理を行うように、前記本機フレーム2の左部分に配設された脱穀装置40と、前記脱穀装置40の下方に配設された揺動選別装置50と、前記エンジン9から作動的に定速動力を入力し且つ前記走行系トランスミッション100の下記走行側HST120から作動的に車速同調動力を入力して、前記刈取装置30,前記フィードチェーン装置20,前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50を含む作業機に向けて回転動力を出力する作業機系トランスミッション200と、前記本機フレーム2の右前方部分に配設された運転席5と、前記揺動選別装置50によって選別された穀粒を収容するグレンタンク6であって、前記運転席5の後方に配設されたグレンタンク6と、前記フィードチェーン装置20から脱穀済の排藁を受け継ぎ、該排藁を後方へ搬送する排藁搬送装置60とを備えている。
【0021】
まず、前記コンバイン1における伝動構造について説明する。
前記コンバイン1の伝動構造は、前記エンジン9から前記走行装置10へ至る走行系伝動経路に介挿された前記走行系トランスミッション100と、前記エンジン9から前記作業機へ至る作業機系伝動経路に介挿された前記作業機系トランスミッション200とを備えている。
【0022】
図6に、前記走行系トランスミッション100の伝動模式図を示す。
図5及び図6に示すように、前記走行系トランスミッション100は、前記エンジン9に作動連結された走行側HST120及び旋回側HST130と、前記両HST120,130の出力を合成して一対の走行系出力軸55a,bに伝達する走行系伝動機構140と、前記走行系伝動機構140を収容すると共に、前記走行側HST120及び前記旋回側HST130を支持するミッションケース110とを備えている。
【0023】
図7に、前記コンバイン1の油圧回路図を示す。
前記走行側HST120は、図5〜図7に示すように、前記エンジン9に作動連結された可変容積型の走行ポンプ120Pと、前記走行ポンプ120Pによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータ120Mとを備えている。
【0024】
詳しくは、前記可変容積型の走行ポンプ120Pは、前記エンジン9に作動連結された走行側ポンプ軸121と、前記走行側ポンプ軸121に相対回転不能に支持された走行側油圧ポンプ本体122と、前記走行側油圧ポンプ本体122の容積量を変更させる走行ポンプ側容積調整手段123とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行ポンプ側容積調整手段123は、走行ポンプ側可動斜板と、前記走行ポンプ側可動斜板を傾転させる走行ポンプ側制御軸とを有している。
【0025】
前記可変容積型の走行モータ120Mは、前記走行側油圧ポンプ本体122と一対の第1及び第2走行側HSTライン129a,129b(図7参照)を介して流体接続された走行側油圧モータ本体127と、前記走行側油圧モータ本体127を相対回転不能に支持する走行側モータ軸126と、前記走行側油圧モータ本体127の容積量を変更させる走行モータ側容積調整手段128とを備えている。
本実施の形態においては、前記走行モータ側容積調整手段128は、走行モータ側可動斜板と、前記走行モータ側可動斜板を傾転させる走行モータ側制御軸とを有している。
【0026】
なお、本実施の形態においては、前記走行モータ側容積調整手段128は、前記走行側油圧モータ本体127の容積量を小とし、これにより前記走行モータ120Mを高速回転可能な小容積状態とする小容積位置と、前記走行側油圧ポンプ本体127の容積量を大とし、これにより前記走行モータ120Mを大容積状態とする大容積位置との2位置を取り得るように構成されている。
即ち、前記走行ポンプ120Pから送られているくる作動油量が一定であるとすると、前記走行モータ120Mは小容積状態の際に高速回転し、且つ、大容積状態の際に低速回転する。
【0027】
前記走行側HST120は、変速操作装置によって操作される。
詳しくは、前記変速操作装置は、図7に示すように、HSTレバー310等の人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプ120Pの容積量を変更させる走行側ポンプ用作動装置320と、前記走行モータ120Mの容積量を変更させる走行側モータ用作動装置330とを備えており、前記走行側ポンプ用作動装置320及び前記走行側モータ用作動装置330は前記コンバイン1に備えられる制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0028】
前記走行側ポンプ用作動装置320は、走行側ポンプ用油圧ピストン装置321と、前記走行側ポンプ用油圧ピストン装置321への作動油の給排を切り換える走行側ポンプ用電磁切換弁322とを有している。
【0029】
前記制御装置400は、前記変速操作部材310の操作位置を検出する操作位置検出センサ410(図5参照)からの信号に基づき、前記走行側ポンプ用電磁切換弁322の位置制御を行い、これにより、前記走行ポンプ側可動斜板が傾転して前記走行ポンプ120Pの容積量が変更されるようになっている。
なお、前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記HSTレバー310の中立位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記HSTレバー310が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記HSTレバー310の操作位置を認識し得るようになっている。
【0030】
前記走行側モータ用作動装置330は、走行側モータ用油圧ピストン装置331と、前記走行側モータ用油圧ピストン装置331への作動油の給排を切り換える走行側モータ用電磁切換弁332とを有している。
前記制御装置400は、例えば、前記走行モータ120Mが大容積状態における最高速出力状態となると、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行するように前記走行側モータ用作動装置330を作動制御する。
【0031】
好ましくは、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが大容積状態及び小容積状態の間で変更される際に車速が急激に変化することを防止する為に、前記走行モータ120Mの容積状態変更前後において前記走行モータ120Mの出力回転数が変化しないように前記走行側ポンプ用作動装置330の作動制御を行うことができる。
詳しくは、前記制御装置400には、走行側ポンプ用作動装置320の作動位置(即ち、前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置)と前記走行モータ120Mの出力との関係(以下、ポンプ−モータ出力関係という)が、前記走行モータ120Mが小容積状態及び大容積状態のそれぞれの場合について予め記憶されている。
前記制御装置400は、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの容積状態変更前後において該走行モータ120Mの出力が実質的に一定となるような該走行モータ120Mの容積状態変更後での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(目標傾転位置)を算出し、該目標傾転位置と容積状態移行前の前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置との差異量に応じた制御信号を前記走行側ポンプ用作動装置320に出力する。
【0032】
前記旋回側HST130は、図5〜図7に示すように、前記エンジン9に作動連結された旋回ポンプ130Pと、前記旋回ポンプ130Pによって流体的に駆動される旋回モータ130Mとを備えている。
【0033】
前記旋回ポンプ130P及び前記旋回モータ130Mは少なくとも一方が可変容積型とされている。
本実施の形態においては、図5に示すように、前記旋回ポンプ130Pが可変容積型とされ、且つ、前記旋回モータ130Mは固定容積型とされている。
【0034】
詳しくは、前記可変容積型の旋回ポンプ130Pは、前記エンジン9に作動連結された旋回側ポンプ軸131と、前記旋回側ポンプ軸131に相対回転不能に支持された旋回側油圧ポンプ本体132と、前記旋回側油圧ポンプ本体132の容積量を変更させる旋回ポンプ側容積調整手段133とを備えている。
本実施の形態においては、前記旋回ポンプ側容積調整手段133は、旋回ポンプ側可動斜板と、前記旋回ポンプ側可動斜板を傾転させる旋回ポンプ側制御軸とを有している。
【0035】
前記固定容積型の旋回モータ130Mは、前記旋回側油圧ポンプ本体132と一対の旋回側第1及び第2HSTライン139a,139bを介して流体接続された旋回側油圧モータ本体137と、前記旋回側油圧モータ本体137を相対回転不能に支持する旋回側モータ軸136と、前記旋回側油圧モータ本体の容積量を固定する固定斜板(図示せず)とを有している。
【0036】
前記旋回側HST130は、旋回操作装置によって操作される。
詳しくは、前記旋回操作装置は、図7に示すように、ステアリングハンドル350等の人為操作可能な旋回操作部材と、前記旋回ポンプ130Pの容積量を変更させる旋回側ポンプ用作動装置360とを備えており、前記旋回側ポンプ用作動装置360は前記制御装置400によって作動制御されるようになっている。
【0037】
詳しくは、前記旋回側ポンプ用作動装置360は、旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361と、前記旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361への作動油の給排を切り換える旋回側ポンプ用電磁切換弁362とを有しており、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362が前記制御装置400によって位置制御されるようになっている。
【0038】
前記制御装置400は、前記ステアリングハンドル350の切れ角を検出する切れ角センサ420(図5参照)からの信号に基づき、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362の位置制御を行い、これにより、前記旋回側ポンプ用油圧ピストン装置361が作動して前記旋回ポンプ側可動斜板が傾転されるようになっている。
なお、前記切れ角センサ420として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は前記ステアリングハンドル350の直進位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記ステアリングハンドル350が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記ステアリングハンドル350の操作位置を認識し得るようになっている。
【0039】
前記走行系伝動機構140は、図6に示すように、一対の第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bと、前記走行側モータ軸126の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bに同一回転方向で伝達する走行側出力伝動機構180と、前記旋回側モータ軸136の回転動力を前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bの一方に正転方向で伝達し且つ他方に逆転方向で伝達する旋回側出力伝動機構190とを備えている。
【0040】
前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a、bは前記走行側出力伝動機構180及び前記旋回側出力伝動機構190からの回転動力を、それぞれ、第1及び第2走行系出力軸55a,bに伝達するように構成されている。
詳しくは、前記第1及び第2遊星ギヤ機構170a,bは、それぞれ、サンギヤ171と、前記サンギヤ171の回りを公転し得るように該サンギヤ171に噛合された遊星ギヤ172と、前記遊星ギヤ172を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ172と共に前記サンギヤ171の回りを公転するキャリア173と、前記遊星ギヤ172と噛合するインターナルギヤ174とを備えている。
本実施の形態においては、前記インターナルギヤ174に前記走行側出力伝動機構180が作動連結され且つ前記サンギヤ171に前記旋回側出力伝動機構190が作動連結されており、前記キャリア173に対応する前記走行系出力軸55a,bが作動連結されている。
【0041】
前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸126に作動連結された走行側出力軸181と、前記走行側出力軸181に作動連結された分岐軸185と、前記分岐軸185の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記インターナルギヤ174に伝達する第1走行側出力ギヤ列186aと、前記分岐軸185の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記インターナルギヤ174に伝達する第2走行側出力ギヤ列186bとを有している。
前記第1及び第2走行側出力ギヤ列186a,bは、伝動方向及び伝動比が互いに同一とされている。
【0042】
なお、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記構成に加えて、前記走行側モータ軸126に作動的に制動力を付加し得る駐車用ブレーキ装置182を備えている。
本実施の形態においては、前記駐車用ブレーキ装置182は、動力伝達方向に関し前記走行側出力軸181及び前記分岐軸185の間に配設されている。
具体的には、前記駐車用ブレーキ装置182は、前記走行側出力軸181から回転動力を受け且つ前記分岐軸185へ出力するブレーキ軸183と、前記ブレーキ軸183に対して選択的に制動力を付加し得るブレーキユニット184とを備えている。
【0043】
さらに、本実施の形態においては、前記走行側出力伝動機構180は、前記走行側モータ軸124の回転動力を多段変速させる副変速機構187を備えている。
本実施の形態においては、前記副変速機構187は、前記走行側出力軸181及び前記走行側ブレーキ軸183の間で多段変速可能に構成されている。
【0044】
前記旋回側出力伝動機構190は、前記旋回側モータ軸136に作動連結された旋回側出力軸191と、前記旋回側出力軸191に作動連結された共通軸192と、前記共通軸192の回転動力を前記第1遊星ギヤ機構170aの前記サンギヤ171に伝達する第1旋回側出力ギヤ列193aと、前記共通軸192の回転動力を前記第2遊星ギヤ機構170bの前記サンギヤ171に伝達する第2旋回側出力ギヤ列193bとを有している。
前記第1及び第2旋回側出力ギヤ列193a,bは、伝動比は同一であるが、伝動方向は互いに対して反対となるように構成されている。
【0045】
なお、図6中の符号194は、前記旋回側モータ軸134に作動的に制動力を付加し得る旋回側ブレーキ装置であり、符号195は、前記旋回側出力軸134から前記共通軸192への動力伝達を係合又は遮断させるクラッチ装置である。
又、図6中の符号155は、前記入力軸140からの動力によって回転駆動される冷却ファンであり、符号501は後述するチャージポンプである。
【0046】
前記作業機系トランスミッション200は、前記エンジン9からの定速回転動力及び前記走行系HST120からの車速同調回転動力を入力し、前記脱穀装置40及び前記揺動選別装置50に対しては定速回転動力を出力し、且つ、前記刈取装置30及び前記フィードチェーン装置20に対しては定速回転動力又は車速同調回転動力を選択的に出力し得るように構成されている。
【0047】
図8に、前記作業機系トランスミッション200の伝動模式図を示す。
詳しくは、図5及び図8に示すように、前記作業機系トランスミッション200は、カウンターケース210と、脱穀クラッチ機構45を介して前記エンジン9に作動連結される定速入力軸220と、前記定速入力軸220に作動連結され、前記脱穀装置40の扱胴駆動軸41へ向けて回転動力を出力する脱穀出力軸221と、前記定速入力軸220に作動連結された定速伝動軸223と、前記走行側モータ軸126に作動連結される車速同調入力軸224と、変速伝動軸225と、前記車速同調入力軸224及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う車速同調側変速機構240と、前記定速伝動軸223及び前記変速伝動軸225の間で変速を行う定速側変速機構250と、前記変速伝動軸225に作動連結され、前記刈取部30へ向けて出力する刈取出力軸226と、前記定速伝動軸223の回転動力及び前記変速伝動軸225の回転動力を合成するFC変速機構280と、前記FC変速機構280の出力部に作動連結され、前記フィードチェーン部20へ向けて回転動力を出力するフィードチェーン出力軸227とを備えている。
【0048】
本実施の形態においては、前記定速入力軸220及び前記脱穀出力軸221は、図8に示すように、単一軸によって一体形成されている。
即ち、前記単一軸は、一端部が前記カウンターケース210から後方へ突出し且つ他端部が前記カウンターケース210から前方へ突出するように、車輌前後方向に沿って前記カウンターケース210に支持されており、前記一端部が前記エンジン9に作動連結される入力端部を形成し且つ前記他端部が前記脱穀装置40へ向けて回転動力を出力する出力端部を形成している。
【0049】
前記定速入力軸220(前記単一軸の前記一端部)には定速入力プーリー201が装着されており、該定速入力プーリー201に巻き回された定速入力ベルト202を介して前記エンジン9から前記定速入力軸220へ定速回転動力が入力されるようになっている。
前記脱穀用出力軸221(前記単一軸の前記他端部)には脱穀出力プーリー203が装着されており、該脱穀出力プーリー203に巻き回された脱穀出力ベルト204を介して前記脱穀部40へ前記エンジン9からの定速回転動力を伝達するようになっている。
【0050】
本実施の形態においては、前記脱穀クラッチ機構45は、前記定速入力ベルト202に対してテンションを付加/解除させることで、前記エンジン9から前記定速入力軸220への動力伝達を係合又は遮断させ得るように構成されている。
【0051】
なお、前記脱穀クラッチ機構45は、前記制御装置400によって制御される脱穀クラッチ作動装置510によって作動される。
前記脱穀クラッチ作動装置510は、図7に示すように、脱穀クラッチ用油圧ピストン機構511と、前記脱穀クラッチ用油圧ピストン機構511に対する作動油の給排制御を行う脱穀クラッチ用電磁切換弁512とを有しており、前記脱穀クラッチ用電磁切換弁512が脱穀スイッチ(図示せず)の入り切り操作に基づいて前記制御装置400によって位置制御されるようになっている。
【0052】
前記定速伝動軸223は、図8に示すように、一端部が前記定速入力軸220に作動連結し且つ他端部が前記カウンターケース210から外方へ突出するように、車輌幅方向に沿って前記カウンターケース210に支持されている。
前記定速伝動軸220の前記他端部は、前記揺動選別装置50へ向けて定速回転動力を出力する揺動選別用出力軸228を形成している。
前記揺動選別用出力軸228(前記定速伝動軸223の前記他端部)には揺動出力プーリー205が装着されている。
【0053】
前記車速同調入力軸224は、一端部が前記カウンターケース210から外方へ突出した状態で、車輌幅方向に沿うように前記カウンターケース210に支持されている。
前記車速同調入力軸224の前記一端部には、車速同調入力プーリー206が装着されている。
前記変速伝動軸225は、前記定速伝動軸223及び前記車速同調入力軸224と略平行となるように前記カウンターケース210に支持されている。
【0054】
さらに、前記作業機系トランスミッション200には、図5及び図8に示すように、前記車速同調入力軸224及び前記車速同調変速機構240の間に介挿された一方向クラッチ35が備えられている。
【0055】
前記車速同調側変速機構240は、前記車速同調入力軸224から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に高速伝動状態、低速伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0056】
詳しくは、前記車速同調側変速機構240は、図8に示すように、前記車速同調入力軸224に作動連結された高速ギヤ列241及び低速ギヤ列242と、前記高速ギヤ列241又は前記定速ギヤ列242の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る車速同調用シフター243とを備えている。
【0057】
前記車速同調用シフター243は、前記高速ギヤ列241を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速位置と、前記低速ギヤ列242を前記変速伝動軸225に作動連結させる低速位置と、前記高速ギヤ列241及び前記低速ギヤ列242の双方を前記変速伝動軸225に対して作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0058】
斯かる車速同調側変速機構240は、前記制御装置400によって制御される刈取クラッチ/変速作動装置520によって作動される。
詳しくは、前記刈取クラッチ/変速作動装置520は、図7に示すように、刈取クラッチ/変速用油圧ピストン機構521と、前記刈取クラッチ/変速用油圧ピストン機構521に対する作動油の給排制御を行う刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522とを有している。
一方、前記運転席5近傍には、刈取スイッチ430(図7参照)及び刈取変速レバー(図示せず)が備えられている。
前記制御装置400は、前記刈取スイッチ430のOFF操作に基づき、前記車速同調用シフター243が中立位置に位置するように前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522の位置制御を行い、前記刈取スイッチ430のON操作に基づき、前記車速同調用シフター243が前記刈取変速レバーの操作位置に対応した高速位置又は低速位置に位置するように前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522の位置制御を行う。
【0059】
前記定速側変速機構250は、前記定速伝動軸223から前記変速伝動軸225への伝動状態を選択的に流し込み伝動状態、高速カット伝動状態又は動力遮断状態に切り替えるように構成されている。
【0060】
詳しくは、前記定速側変速機構250は、図8に示すように、前記定速伝動軸223に作動連結された流し込み用ギヤ列251及び高速カット用ギヤ列252と、前記流し込み用ギヤ列251又は前記高速カット用ギヤ列252の何れか一方を前記変速伝動軸225に作動連結させ得る定速用シフター253とを備えている。
【0061】
前記定速用シフター253は、前記流し込み用ギヤ列251を前記変速伝動軸225に作動連結させる流し込み位置と、前記高速カット用ギヤ列252を前記変速伝動軸225に作動連結させる高速カット位置と、前記流し込み用ギヤ列251及び前記高速カット用ギヤ列252の双方を前記変速伝動軸225に作動連結させない中立位置とをとり得るようになっている。
【0062】
斯かる定速側変速機構250は、前記制御装置400によって制御される流し込み/高速カット用作動装置530によって作動される。
詳しくは、前記流し込み/高速カット用作動装置530は、図7に示すように、流し込み/高速カット用油圧ピストン機構531と、前記流し込み/高速カット用油圧ピストン機構531に対する作動油の給排制御を行う流し込み/高速カット用電磁切換弁532とを有している。
前記制御装置400は、運転席5近傍に備えられる操作部材(図示せず)の操作に基づき、前記流し込み/高速カット用電磁切換弁532の位置制御を行い、これにより、前記定速用シフター253が流し込み位置,高速カット位置又は中立位置のうち前記操作部材の操作に対応した位置に位置するようになっている。
【0063】
前記刈取出力軸226は、一端部が外方へ延在された状態で前記カウンターケース210に支持されている。
前記刈取出力軸226の前記一端部には、刈取出力プーリー207が装着されている。
なお、本実施の形態においては、前記刈取出力軸226は、トルクリミッター229を介して前記変速伝動軸225に作動連結されている。
【0064】
前記FC変速機構280は、図8に示すように、遊星ギヤ機構を有している。
詳しくは、前記FC変速機構280は、サンギヤ281と、前記サンギヤ281の回りを公転し得るように該サンギヤ281に噛合された遊星ギヤ282と、前記遊星ギヤ282を相対回転自在に支持すると共に、前記遊星ギヤ282と共に前記サンギヤ281の回りを公転するキャリア283と、前記遊星ギヤ282と噛合するインターナルギヤ284とを備えており、前記サンギヤ281に前記定速伝動軸223の回転動力が入力され且つ前記インターナルギヤ284に前記変速伝動軸225の回転動力が入力され、前記キャリア283が前記フィードチェーン出力軸227に作動連結されている。
なお、本実施の形態においては、前記キャリア283及び前記フィードチェーン出力軸227の間には、FCクラッチ機構285が介挿されている。
【0065】
ここで、前記コンバイン1の油圧回路について説明する。
図7に示すように、前記コンバイン1は、前記脱穀クラッチ用電磁切換弁512,前記刈取クラッチ/変速用電磁切換弁522及び前記流し込み/高速カット用電磁切換弁532に対して作動油を供給する脱穀・刈取用油圧回路550と、刈取昇降用油圧機構561,左右一対の車体昇降用油圧機構562a,562b及びオーガ作動用油圧機構563に対する作動油給排を司る昇降用油圧回路560と、前記走行側HST120及び前記旋回側HST130を含む走行系油圧機構の油圧制御を司る走行系油圧回路570とを備えている。
【0066】
前記走行系油圧回路570は、図7に示すように、前記走行側油圧ポンプ本体122及び前記走行側油圧モータ本体127が閉回路を形成するように両者を流体接続させる前記第1及び第2走行側HSTライン129a,129bと、前記旋回側油圧ポンプ本体132及び前記旋回側油圧モータ本体137が閉回路を形成するように両者を流体接続させる前記旋回側第1及び第2HSTライン139a,139bと、前記一対の走行側HSTライン129a,129bのそれぞれ及び前記一対の旋回側HSTライン139a,139bのそれぞれに作動油を補給する為のチャージライン575であって、チャージ圧設定用リリーフ弁576によって所定圧に調圧されたチャージライン576と、前記走行側ポンプ用電磁切換弁322に向けて作動油を供給する走行側ポンプ用作動油ライン581と、前記走行側モータ用電磁切換弁332に向けて作動油を供給する走行側モータ用作動油ライン582と、前記旋回側ポンプ用電磁切換弁362に向けて作動油を供給する旋回側ポンプ用作動油ライン583とを備えている。
なお、前記走行側ポンプ用作動油ライン581,前記走行側モータ用作動油ライン582及び前記旋回側ポンプ用作動油ライン583へは、前記チャージライン576を介して作動油が供給されている。
【0067】
本実施の形態に係るコンバイン1は、図7に示すように、前記構成に加えて、前記チャージポンプ501及び補助ポンプ502を備えており、
前記昇降用油圧回路へは前記補助ポンプ502から圧油が供給され、且つ、前記チャージライン575及び前記脱穀・刈取用油圧回路550へは前記チャージポンプ501から圧油が供給されるようにするように構成されている。
【0068】
ここで、前記制御装置400について説明する。
前記制御装置400は、演算処理を実行するCPU及び後述する制御プログラムが格納された記憶手段を有しており、種々の設定手段及びセンサから信号を入力して前記制御プログラムに基づき前記走行側ポンプ用作動装置320及び前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力するように構成されている。
【0069】
図9〜図11に、前記制御装置400に記憶された前記制御プログラムのフローチャートを示す。
前記制御プログラムは、小容積制御モード(図10参照)と、大容積制御モード(図11参照)と、前記小容積制御モード又は前記大容積制御モードの何れを選択するかを判断する選択制御モード(図9参照)とを含んでおり、前記コンバイン1が刈取作業状態の際には前記選択制御モードによって小容積制御モードが選択されるように構成されている。
【0070】
本実施の形態においては、前記制御装置400は、前記刈取装置30が駆動状態で、前記コンバイン1が直進状態で且つ前進状態の場合において、刈取作業状態であると判断するように構成されている。
具体的には、前記選択制御モードは、図9に示すように、前記刈取装置30が駆動状態か否かを判断するステップA−10と、前記コンバイン1が直進状態か否かを判断するステップA−11と、前記コンバイン1が前進状態か否かを判断するステップA−12とを含んでいる。
【0071】
ステップA−10の判断は、例えば、前記刈取スイッチ430(図7参照)からの入力信号に基づき判断される。
ステップA−11の判断は、例えば、前記ステアリングハンドル350の切れ角を検出する切れ角センサ420(図7参照)からの入力信号が所定の閾値範囲(所定の角度範囲内)にあるか否かに基づき判断される。
ステップA−12の判断は、例えば、前記変速操作部材310の操作位置を検出する操作位置検出センサ410(図7参照)からの入力信号に基づき判断される。
【0072】
なお、前記切れ角センサ420として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は、前記ステアリングハンドル350の直進位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記ステアリングハンドル350が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記ステアリングハンドル350の操作位置を認識しており、前記制御装置400は、ステップA−11において、その時点での操作位置が予め記憶されている前記閾値の範囲内にあるか否かを判断する。
【0073】
同様に、前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられる場合には、前記制御装置400は、前記HSTレバー310の中立位置を初期値として記憶し且つ前記初期値を基準にして前記HSTレバー310が操作される毎に操作方向及び操作角を累積的に記憶することで、その時点での前記HSTレバー310の操作位置を認識しており、、前記制御装置400は、ステップA−12において、その時点での操作位置が前進側か後進側かの判断を行う。
【0074】
本実施の形態においては、前記選択制御モードは、図8に示すように、前記ステップに加えて、ステップA−20,ステップA−30及びステップA−31を備えているが、これらについては後述する。
【0075】
前記小容積制御モードは、前記走行モータ120Mが小容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330を制御した状態で、前記走行モータ120Mの出力状態が前記変速操作部材310の操作位置に応じて変化するように前記走行側ポンプ用作動装置320を制御する。
なお、前記走行モータ120Mの小容積状態とは、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置が中立位置に近い小傾斜位置に保持されている状態であり、この状態において前記走行モータ120Mは高速回転可能である。
【0076】
具体的には、前記小容積制御モードは、図10に示すように、前記走行モータ120Mが小容積状態か否かを判断するステップB−10と、ステップB−10においてYESの場合に移行されるステップB−11と、ステップB−10においてNOの場合に移行されるステップB−20と、ステップB−20に後続する移行制御モードとを有している。
【0077】
ステップB−10の判断は、例えば、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置を検出する傾転位置センサ450(図7参照)からの信号に基づいて行われる。
ステップB−20において、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが小容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力する。
【0078】
このように、ステップB−20において前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されると、前記走行ポンプ120Pからの吐出油量が一定である場合には前記走行モータ120Mの出力回転数が増速して前記コンバイン1の走行速度が上昇する。
この点に関し、本実施の形態においては、前述の通り、ステップB−20の後段に前記移行制御モードが備えられており、この移行制御モードによって、前記走行モータ120Mの容積状態変化時にコンバイン1の走行速度が変化することを防止している。
【0079】
即ち、前記移行制御モードは、前記走行モータ120Mが小容積状態及び大容積状態の間で状態変化される際に該走行モータ120Mの出力状態が変化する量だけ前記走行ポンプ120Pの出力状態が変化するように前記ポンプ用作動装置320を制御する。
【0080】
具体的には、前記移行制御モードは、図10に示すように、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されることによって増速される該走行モータ120Mの出力変化量に応じた分量だけ前記走行ポンプ側可動斜板が中立位置に近づくように(即ち、前記走行側油圧ポンプ本体121の吐出量が少なくなるように)、前記走行側ポンプ用作動装置320を制御するステップC−10と、前記走行モータ120Mの出力が前記HSTレバー310の操作位置に合った回転数か否かを判断するステップC−11とを有している。
【0081】
詳しくは、前記制御装置400には、前述の通り、ポンプ−モータ出力関係が前記走行モータの小容積状態及び大容積状態のそれぞれについて予め記憶されている。
前記制御装置400は、前記走行モータ120Mの出力回転数を検出する走行モータ出力検出センサ440(図7参照)からの検出信号に基づき、前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行される前の状態における該走行モータ120Mの出力回転数(以下、移行前モータ回転数という)を記憶しており、さらに、前記移行前モータ回転数及び前記ポンプ−モータ出力関係を用いて算出される前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行される前の状態における前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(以下、移行前ポンプ傾転位置という)を記憶している。
そして、前記制御装置400は、ステップC−10において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの小容積状態への移行後の出力が前記移行前モータ回転数と一致するような、前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行された状態での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(以下、移行後ポンプ側傾転位置という)を算出し、この移行後ポンプ側傾転位置と前記移行前ポンプ側傾転位置との差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0082】
ステップC−11では、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440からの検出信号に基づく実際の車速が、前記HSTレバー310の操作位置を検出する前記操作位置検出センサ410からの検出信号に基づく操作車速に対して所定の閾値範囲内に入っているか否かを判断する。
そして、ステップC−11においてNOの場合には、ステップC−10へ戻り、前記制御装置400は、前記操作車速及び前記実車速の差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0083】
ステップC−11又はステップB−10においてYESの場合には、前記制御装置400は、ステップB−11においてHSTレバー310の操作有無を判断する。
このステップB−11においては、前記制御装置400は、前記HSTレバー310の操作有無の判断に加えて、前記HSTレバー310の操作があった場合には該HSTレバー310の操作方向及び操作量を算出する。
前記操作位置検出センサ410として回転角センサが用いられている場合には、ステップB−11における制御は例えば以下のように行われる。
即ち、前記制御装置400は、前記操作位置検出センサ410からの信号に基づき前記HSTレバー310の操作開始時点及び操作終了時点を判断すると共に、前記操作開始時点から前記操作終了時点までの間において操作された前記HSTレバー310の操作方向及び操作量を前記操作位置検出センサ410からの信号に基づき算出する。
【0084】
ステップB−11においてYESの場合には、前記制御装置400は、ステップB−12において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記操作方向及び操作量に応じた制御信号を前記走行側ポンプ用作動装置に出力する。
【0085】
その後、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440からの検出信号に基づく実際の車速が、前記HSTレバー310の操作位置を検出する前記操作位置検出センサ410からの検出信号に基づく操作車速に対して所定の閾値範囲内に入っているか否かを判断し(ステップB−13)、NOの場合には、ステップB−12へ戻り、前記制御装置400は、前記実車速及び前記操作車速の差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0086】
このように、本実施の形態に係るコンバイン1においては、刈取作業状態になると前記走行モータ120Mが小容積状態へ移行又は小容積状態に保持されるようになっている。
課題を解決するための手段の項に記載した通り、前記走行モータ120Mが小容積状態の際の走行負荷は、前記走行モータ120Mが大容積状態の際の走行負荷よりも小さい(図1及び図2参照)。
つまり、前記走行モータ120Mを小容積状態とすることによって、前記走行モータ120Mが大容積状態の場合に比して走行負荷を低減させつつ同一速度で走行することが可能である。
逆に言うと、前記走行モータ120Mを小容積状態とすることによって、低減される走行負荷を利用して車速を増加させることができ、従って、刈取作業効率を向上させることができる。
【0087】
さらに、本実施の形態においては、前述の通り、前記走行モータ120Mが大容積状態の際に刈取作業が開始され、前記走行モータ120Mが大容積状態から小容積状態へ移行されても、前記移行制御モードによって車速が一定に保持される。従って、走行操作性を良好に維持することができる。
【0088】
好ましくは、前記制御装置400は、小容積制御モード時において、前記走行ポンプ120P及び前記走行モータ120Mを流体接続する一対の第1及び第2走行側HSTライン129a,129bのうち前進時に高圧となる第1走行側HSTライン129aの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成され得る。
斯かる構成を備えることにより、小容積制御モードにおいて走行側HST120の作動油圧が不当に上昇することを防止でき、これにより、走行側HST120の作動油リークを有効に防ぎ、走行伝動効率の悪化防止と共に、走行側HST120の耐久性向上を図ることができる。
【0089】
具体的には、図10に示すように、前記小容積制御モードは、ステップB−11においてNOの場合又はステップB−13においてYESの場合に、前記第1走行側HSTライン129aの油圧が所定値以下か否かを判断し、NOの場合には大容積制御モードへ移行するステップB−14を含み得る。
【0090】
ステップB−14における判断は、例えば、前記第1走行側HSTライン129aの油圧を検出する油圧検出センサ460(図7参照)からの信号と前記制御装置400に予め記憶されている油圧上限値とに基づき行われる。
【0091】
前記大容積制御モードは、前記走行モータ120Mが大容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330を制御し、この状態で前記走行モータ120Mの出力状態が前記変速操作部材310の操作位置に応じて変化するように前記走行側ポンプ用作動装置320を制御する。
なお、前記大容積制御モードを示す図11において、前記小容積制御モードにおけると同一ステップには同一符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0092】
前記大容積制御モードは、図11に示すように、前記走行モータ120Mが大容積状態か否かを判断するステップB’−10と、ステップB’−10においてNOの場合に移行されるステップB’−20と、ステップB’−20に後続する移行制御モードとを有している。
ステップB’−10の判断は、ステップB−10と同様、例えば、前記走行モータ側可動斜板の傾転位置を検出する傾転位置センサ450からの信号に基づいて行われる。
【0093】
ステップB’−20において、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが大容積状態となるように前記走行側モータ用作動装置330へ制御信号を出力する。
【0094】
このように、ステップB’−20において前記走行モータ120Mが小容積状態から大容積状態へ移行されると、前記走行ポンプ120Pからの吐出油量が一定である場合には前記走行モータ120Mの出力回転数が減速して前記コンバイン1の走行速度が下降する。
この点に関し、本実施の形態においては、前述の通り、ステップB’−20の後段に移行制御モードが備えられており、この移行制御モードによって、前記走行モータ120Mの容積状態変化時にコンバイン1の走行速度が変化することを防止している。
【0095】
前記大容積制御モードにおける移行制御モードは、ステップC−10がステップC’−10に変更されている点を除き、前記小容積制御モードにおける前記移行制御モードと同一である。
【0096】
ステップC’−10においては、前記制御装置400は、前記走行モータ120Mが小容積状態から大容積状態へ移行されることによって減速される該走行モータ120Mの出力変化量に応じた分量だけ前記走行ポンプ側可動斜板が中立位置から離間するように(即ち、前記走行側油圧ポンプ本体121の吐出量が多くなるように)、前記走行側ポンプ用作動装置320を制御している。
【0097】
詳しくは、前記制御装置400は、前記走行モータ出力検出センサ440(図7参照)からの検出信号に基づき、前記走行モータ120Mの移行前モータ回転数を記憶しており、さらに、前記移行前モータ回転数及び前記ポンプ−モータ出力関係を用いて算出される前記走行モータ120Mが大容積状態へ移行される前の状態における前記走行ポンプ側可動斜板の移行前ポンプ傾転位置を記憶している。
そして、前記制御装置400は、ステップC’−10において、前記ポンプ−モータ出力関係を用いて、前記走行モータ120Mの大容積状態への移行後の出力が前記移行前モータ回転数と一致するような、前記走行モータ120Mが大容積状態へ移行された状態での前記走行ポンプ側可動斜板の傾転位置(移行後ポンプ側傾転位置)を算出し、この移行後ポンプ側傾転位置と前記移行前ポンプ側傾転位置との差異量に応じて前記走行側ポンプ用作動装置320を作動させる。
【0098】
ここで、前記選択制御モードにおけるステップA−20,ステップA−30及びステップA−31について説明する。
前記選択制御モードは、好ましくは、前記刈取装置30が駆動状態で、前記コンバイン1が直進状態で且つ前進状態であることに加えて、前記刈取装置30内に穀稈が存在する場合においてのみ、刈取作業状態であると判断するように構成され得る。
具体的には、前記選択制御モードは、図9に示すように、前記ステップに加えて、前記刈取装置30内に穀稈が存在するか否かを判断するステップA−20を備え得る。
ステップA−20の判断は、例えば、前記刈取装置30に備えられる穀稈存否検出センサ470(図7参照)からの信号に基づいて行われる。
斯かるステップA−20を備えることにより、小容積制御モードの作動時間を必要最小限に止めることができ、これにより、前記走行側HST120の耐久性を向上させることができる。
【0099】
さらに、前記選択制御モードには、図9に示すように、小容積制御モードを不能とするか否かを判断するステップA−30及び/又は大容積制御モードを不能とするか否かを判断するステップA−31を備えることができる。
ステップA−30の判断は、例えば、人為操作可能な小容積制御モード不能スイッチ480(図7参照)のON/OFF操作に基づき行われる。
ステップA−31の判断は、例えば、人為操作可能な大容積制御モード不能スイッチ490(図7参照)のON/OFF操作に基づき行われる。
【0100】
ステップA−30を備えることにより、湿田時等において走行負荷が大となる場合に、走行トルクを優先的に確保することができる。
又、ステップA−31を備えることにより、路上走行時等において高速走行が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、機体重量約6.5トンの大型コンバインにおいて、走行側HSTにおける可変容積型走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行側HSTにおける可変容積型走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した結果を示すグラフである。
【図2】図2は、機体重量約4トンの中型コンバインにおいて、走行側HSTにおける可変容積型走行ポンプの可動斜板を操作して車速を変化させた際の走行負荷を、前記走行側HSTにおける可変容積型走行モータを小容積状態及び大容積状態にそれぞれ保持した状態で測定した結果を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態に係るコンバインの側面図である。
【図4】図4は、図3に示すコンバインの正面図である。
【図5】図5は、図3及び図4に示すコンバインの伝動模式図である。
【図6】図6は、図3〜図5に示すコンバインにおける走行系トランスミッションの伝動模式図である。
【図7】図7は、図3〜図5に示すコンバインにおける油圧回路図である。
【図8】図8は、図3〜図5及び図7に示すコンバインにおける作業機系トランスミッションの伝動模式図である。
【図9】図9は、図3〜図5及び図7に示すコンバインにおける制御装置に記憶された制御プログラムにおける選択制御モードのフローチャートである。
【図10】図10は、前記制御プログラムにおける小容積制御モードのフローチャートである。
【図11】図11は、前記制御プログラムにおける大容積制御モードのフローチャートである。
【符号の説明】
【0102】
1 コンバイン
9 エンジン
10 走行装置
30 刈取装置
40 脱穀装置
120 走行側HST
120P 走行ポンプ
120M 走行モータ
310 HSTレバー(変速操作部材)
320 ポンプ用作動装置
330 モータ用作動装置
400 制御装置
129a,129b HSTライン
240 刈取クラッチ(車速同調側変速機構)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する走行側HSTと、前記走行側HSTを操作する変速操作装置と、前記走行側HSTによって作動的に駆動される走行装置と、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する刈取装置と、前記刈取装置によって刈り取られた穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置とを備え、前記走行側HSTは、前記エンジンに作動連結された可変容積型の走行ポンプと、前記走行ポンプによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータとを有し、前記変速操作装置は、人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプの容積量を変更するポンプ用作動装置と、前記走行モータの容積量を変更するモータ用作動装置と、前記ポンプ用作動装置及び前記モータ用作動装置の作動制御を司る制御装置とを有するコンバインであって、
前記走行モータは小容積状態及び大容積状態の2段の容積状態を取り得るように構成され、
前記制御装置は、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが刈取作業状態の際には小容積制御モードを選択することを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御装置は、人為信号に基づき小容積制御モード又は大容積制御モードの少なくとも一方を不能とするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードを選択するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンバイン。
【請求項4】
前記制御装置は、小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のコンバイン。
【請求項5】
前記制御装置は、前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが刈取作業状態にあると判断するように構成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のコンバイン。
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する走行側HSTと、前記走行側HSTを操作する変速操作装置と、前記走行側HSTによって作動的に駆動される走行装置と、前記エンジンから作動的に回転動力を入力する刈取装置と、前記刈取装置によって刈り取られた穀稈に対して脱穀処理を行う脱穀装置とを備え、前記走行側HSTは、前記エンジンに作動連結された可変容積型の走行ポンプと、前記走行ポンプによって流体的に駆動される可変容積型の走行モータとを有し、前記変速操作装置は、人為操作可能な変速操作部材と、前記走行ポンプの容積量を変更するポンプ用作動装置と、前記走行モータの容積量を変更するモータ用作動装置と、前記ポンプ用作動装置及び前記モータ用作動装置の作動制御を司る制御装置とを有するコンバインであって、
前記走行モータは小容積状態及び大容積状態の2段の容積状態を取り得るように構成され、
前記制御装置は、前記走行モータが小容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する小容積制御モードと、前記走行モータが大容積状態となるように前記モータ用作動装置を制御した状態で前記走行側HSTの出力が前記変速操作部材の操作位置に応じて変化するように前記ポンプ用作動装置を制御する大容積制御モードと、前記走行モータの容積状態変更時に前記走行側HSTの出力が変化しないように前記ポンプ用作動装置を制御して前記走行ポンプの容積状態を変更させる移行制御モードとを含み、前記コンバインが刈取作業状態の際には小容積制御モードを選択することを特徴とするコンバイン。
【請求項2】
前記制御装置は、人為信号に基づき小容積制御モード又は大容積制御モードの少なくとも一方を不能とするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記制御装置は、前記コンバインの旋回走行時には大容積制御モードを選択するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンバイン。
【請求項4】
前記制御装置は、小容積制御モード時において前記走行ポンプ及び前記走行モータを流体接続する一対のHSTラインのうち前進時に高圧となる側のHSTラインの油圧が所定値を越えると、小容積制御モードから大容積制御モードへ移行するように構成されていることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載のコンバイン。
【請求項5】
前記制御装置は、前記コンバインが略直進前進状態で且つ前記刈取装置の刈取クラッチが係合状態であり、さらに、前記刈取装置内に穀稈が存在する際にのみ、前記コンバインが刈取作業状態にあると判断するように構成されていることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載のコンバイン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−223819(P2008−223819A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59836(P2007−59836)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】
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