説明

コンベヤベルト

【課題】 直接加硫接着法によって磁石を埋設する場合も、加硫時の磁気環境に左右されずに、S/N比の大きな磁気信号を発し、異常を容易に検出しうるコンベヤベルトを提供する。
【解決手段】 ゴム中に磁気信号源として永久磁石2を埋設し、この永久磁石から発する磁気をベルト外に設けた磁気感応器により検出することによって、ベルトの正常異常を判別するようにした異常検知システムを備えるベルトコンベヤ装置に用いるコンベヤベルト1において、永久磁石を、20℃における磁束密度を基準としたときの180℃における熱減磁後の保持率が80%以上である耐熱磁石とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンベヤベルトに埋設した磁石からの磁気信号を利用して、コンベヤベルトの縦裂き等の異常を判別するようにしたコンベヤ装置に用いられるコンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
コンベヤベルトの縦裂き等の異常を検出するシステムとして、磁力線を利用するものが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなシステムにおいて、磁力線源として永久磁石を埋設した場合には、例えばコンベヤベルトの縦裂きによって永久磁石が落下し、コンベヤベルト下方の所定の位置に固設した磁気感応器が、上方を通過する永久磁石からの磁力線を検知しえなくなったときに、コンベヤベルトに異常が生じたと判断するようになっている。
【0004】
コンベヤベルトに永久磁石を埋設する方法として、コンベヤベルトを構成するゴムと、金属からなる永久磁石とを重ね合わせ、プレス加硫を行う際に、両者を直接接着させる方法(直接加硫接着法)がある。この方法は、接着強度に優れ、後加工も不要であるため、生産性が高い。
【特許文献1】特公昭52−35431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、永久磁石として、種々の分野で広く使用されているフェライト磁石を用いた場合、加硫時の約150〜160℃という温度環境では、20℃を基準としたときの磁束密度が、熱減磁により、約65%にまで低下する。また、磁束密度がこのように低下すると、加硫時に周辺の環境に磁気が存在する場合、磁石の磁力線に対する錯交磁束の影響が大きくなり、磁気感応器におけるS/N比が低下して、磁力線の検出が困難になる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、直接加硫接着法によって磁石を埋設する場合に、加硫時の磁気環境に左右されずに、S/N比の大きな磁気信号を発し、異常を容易に検出しうるコンベヤベルトを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1) ゴム中に磁気信号源として永久磁石を埋設し、前記永久磁石から発する磁気をベルト外に設けた磁気感応器により検出することによって、ベルトの正常異常を判別するようにした異常検知システムを備えるベルトコンベヤ装置に用いるコンベヤベルトであって、前記永久磁石を、20℃における磁束密度を基準としたときの180℃における熱減磁後の保持率が80%以上である耐熱磁石とする。
【0008】
(2) 上記(1)項において、永久磁石を、最大エネルギー積が8MGOe以上のものとする。
【0009】
(3) 上記(1)または(2)項において、永久磁石を、サマリウム・コバルト磁石(SmCo磁石)とする。
【0010】
(4) 上記(1)または(2)項において、永久磁石を、ネオジム磁石(NdFeB磁石)とする。
【0011】
(5) 上記(1)または(2)項において、永久磁石を、アルニコ磁石(Alnico磁石)とする。
【0012】
(6) 上記(1)または(2)項において、永久磁石を、窒素磁石(SmFeN磁石)とする。
【発明の効果】
【0013】
(1) 請求項1記載の発明によると、20℃における磁束密度を基準としたときの180℃における熱減磁後の保持率が80%以上である耐熱磁石を用いるため、加硫時の150〜160℃の温度下においても残留磁束密度を失わず、検出の容易なS/N比の磁気信号を発することができる。
【0014】
(2) 請求項2記載の発明によると、残留磁束密度と保磁力の積である最大エネルギー積が、10MGOe以上の磁石を用いるため、検出の容易なS/N比を実現しうる磁束密度を保つことができる。
【0015】
(3) 請求項3〜6記載の発明によると、サマリウム・コバルト磁石、ネオジム磁石、アルニコ磁石、および窒素磁石は、いずれも、上記熱減磁後の保持率が80%以上で、かつ最大エネルギー積が、8MGOe以上であるため、本発明の目的とする検出の容易な磁気信号を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1と図2に示すように、コンベヤベルト(1)の幅方向において、本発明に従って、永久磁石(以下単に磁石という)(2)が5個並べて埋設され、磁石列(3)を形成している。磁石列(3)は、矢印(A)で示すコンベヤベルト(1)の進行方向に、所定の間隔(B)を開けて複数個設けられている。なお、各図において、同一または類似の要素には同一の符号を付してある。
【0017】
コンベヤベルト(1)の外部における所定の位置には、磁石列(3)に対応して、磁気感応器としてのガウスメータ(4)が、合計5個設けられている。各ガウスメータ(4)は、各磁石(2)の埋設位置に、縦裂き、蛇行、ツイスト等による変化がないとした場合に、その直下に相当する箇所に設置されている。各ガウスメータ(4)は、データ処理装置(5)に接続されている。
【0018】
ガウスメータ(4)は、磁石(2)が、図1と図2に示すように、コンベヤベルト(1)の縦裂き(6)によって落下したときには、磁力線(矢印(C)によって模式的に示す)を検知することができない。
【0019】
データ処理装置(5)は、ガウスメータ(4)が、磁石(2)の数に相当する磁力線を検知しないときには、コンベヤベルト(1)に損傷による異常が生じたものとして、制御機構(図示せず)へ信号を送り、コンベヤベルト(1)の稼動を停止させる。
【0020】
一方、図3に示すような蛇行や捩れは、コンベヤベルト(1)の走行中には頻繁に生ずるものであるから、ガウスメータ(4)の真上を、磁石(2)が通過しないからといって、直ちに異常と判断してコンベヤベルト(1)を停止させるのは、作業の能率を低下させる。磁石(2)の磁束密度が十分に大きいものであれば、所定の範囲内のずれ(オフセット)が生じても、ガウスメータ(4)は、磁力線を検知することができる。したがって、この観点からも、磁石(2)は、高温での加硫接着を経ても、十分な磁束密度を保持することが求められる。
【0021】
〔実施例1〕
本発明に係るコンベヤベルトで用いる磁石の耐熱性、特に磁石の加硫接着時に周囲に磁気が存在しても、この影響を無視できるほどの十分な磁束密度を有することを証明するため、図4に示すような実験を行った。
【0022】
埋め込み用の磁石(2)として、ネオジム磁石(NdFeB磁石)、サマリウム・コバルト磁石(SmCo磁石)、アルニコ磁石(Alnico磁石)、およびフェライト磁石(比較例)からなる円板形の焼結磁石(直径15mm,厚さ2mm)と、耐熱FeB磁石およびフェライト磁石(比較例)からなる方形板状のボンド磁石(幅50mm,奥行き50mm,高さ2mm;磁性体の含有量30重量%)とを用意した。磁石(2)は、図4に示すように、上面側がN極、下面側がS極となっている。
【0023】
なお、ネオジム磁石、サマリウム・コバルト磁石、アルニコ磁石、および耐熱FeB磁石の20℃における磁束密度を100とした場合の180℃における熱減磁後の保持率は、それぞれ85%、90%、96%、および89%である。また、これら磁石の最大エネルギー積は、それぞれ40MGOe、26MGOe、5.5MGOe、および32MGOeである。
【0024】
直接加硫接着を行う際には、150〜160℃の温度下で、磁石(2)を埋め込んだコンベヤベルト(1)を、上下からプレス板(6)(6)によって押圧するが、このとき、上方のプレス板(6)の上面と、下方のプレス板(6)の下面に、それぞれ磁束密度0.001Tの磁石(7)(7)を配置した。
【0025】
図4に示すように、磁石(7)(7)は、磁石(2)と同様に、上面側がN極、下面側がS極となっている。したがって、下方の磁石(7)のN極から、上方の磁石(7)のS極へ向かう磁力線(M)が生じ、磁石(2)に対して錯交磁束として働く。
【0026】
磁石(2)について、加硫接着の前後において、図5に示す方法で、磁束密度を計測した。ガウスメータ(8)は、磁石(2)の真上に、距離(D)(=40mm)だけ離間して配置した。結果を、下記表1に示す。
【表1】

【0027】
この表によれば、比較例としてのフェライト磁石は、熱減磁が大きいために、S/N比が低下し、錯交磁束の影響により磁束密度の計測ができなくなっている。他方、本発明の特徴を充足するネオジム磁石、サマリウム・コバルト磁石、アルニコ磁石、および耐熱FeB磁石は、加硫前の大きな磁束密度が、熱によって低下することはなく、錯交磁束による検出の支障は見られない。
【0028】
〔実施例2〕
ベルトの蛇行により、ガウスメータのプローブと埋込センサとしての磁石の中心とがオフセットすることにより、ガウスメータにより読みとられる磁束密度の値が小さくなる。その影響を、図6に示す実験により確認した。
すなわち、図6に示すように、ガウスメータ(8)を磁石(2)の真上から右方向に距離(L) (=75mm)だけずらす前と後において、磁石(2)の磁束密度を計測した。ガウスメータ(8)と磁石(2)との垂直方向距離(D)は、前実施例と同様に40mmである。
【0029】
本実施例においても、焼結磁石とボンド磁石の2つの形態の磁石を試験したが、各磁石の大きさと、ボンド磁石の磁性体含有量は、前実施例と同じである。本実施例においては、焼結磁石の磁性材料として、ネオジム磁石(NdFeB磁石)およびサマリウム・コバルト磁石(SmCo磁石)、ならびにボンド磁石の磁性材料として、ネオジム磁石、窒素磁石(SmFeN磁石)、およびフェライト磁石(比較例)を用いた。なお、窒素磁石の実施例1で定義した熱減磁後の保持率は82%、最大エネルギー積は12MGOeである。計測の結果を、下記表2に示す。
【表2】

【0030】
この表によれば、比較例としてのフェライト磁石は、オフセットの後においては、磁束密度の計測ができなくなっている。他方、本発明の特徴を充足するネオジム磁石、サマリウム・コバルト磁石、および窒素磁石は、加硫接着後でも十分な磁束密度を有するため、オフセットによって一定の磁束密度の低下が見られるものの、検出は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】縦裂きが生じた本発明に係るコンベヤベルトの一部を示す平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】本発明に係る磁石が埋設され、かつ蛇行が生じたコンベヤベルトの一部を示す平面図である。
【図4】本発明に係る磁石の耐熱性、特に加硫時の磁気の影響を試験するための方法を示す横断方向の断面図である。
【図5】図4に示す方法の下で加硫接着した磁石の磁束密度を計測する方法を示す横断方向の断面図である。
【図6】コンベヤベルトに蛇行が生じた場合を想定して磁石の磁束密度を計測する方法を示す横断方向の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
(1) コンベヤベルト
(2) 永久磁石(磁石)
(3) 磁石列
(4) ガウスメータ
(5) データ処理装置
(6) 縦裂き
(7) 磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム中に磁気信号源として永久磁石を埋設し、前記永久磁石から発する磁気をベルト外に設けた磁気感応器により検出することによって、ベルトの正常異常を判別するようにした異常検知システムを備えるベルトコンベヤ装置に用いるコンベヤベルトであって、
前記永久磁石を、20℃における磁束密度を基準としたときの180℃における熱減磁後の保持率が80%以上である耐熱磁石としたことを特徴とするコンベアベルト。
【請求項2】
永久磁石を、最大エネルギー積が8MGOe以上のものとしたことを特徴とする請求項1記載のコンベヤベルト。
【請求項3】
永久磁石を、サマリウム・コバルト磁石(SmCo磁石)としたことを特徴とする請求項1または2記載のコンベヤベルト。
【請求項4】
永久磁石を、ネオジム磁石(NdFeB磁石)としたことを特徴とする請求項1または2記載のコンベヤベルト。
【請求項5】
永久磁石を、アルニコ磁石(Alnico磁石)としたことを特徴とする請求項1または2記載のコンベヤベルト。
【請求項6】
永久磁石を、窒素磁石(SmFeN磁石)としたことを特徴とする請求項1または2記載のコンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−82925(P2006−82925A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269155(P2004−269155)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】