説明

コンロッドの製造方法及びコンロッド

【課題】コンロッドの製造において処理温度を低温化バリの発生を抑制することである。
【解決手段】円板状の素材30の側面の両側に、回転軸方向を素材30の厚み方向に平行にしてそれぞれ配置されたローラ40,42を、素材30の側面に押付圧44,45を加えながらそれぞれ回転(46,47)させ、さらに、上下軸方向、すなわち素材30の側面に垂直な方向にそれぞれ移動(48,49)させ、これにより素材を塑性変形させて中間形状体32を逐次成形し、コンロッドな外形を有する予備成形品34を得る。予備成形品34に穴明け、仕上げ矯正工程を加えて、支持穴18を有する大端部12と、支持穴20を有する小端部14と、大端部12と小端部14との間をつなぐ棹部16を備えるコンロッド10が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンロッドの製造方法及びコンロッドに係り、特に、大端部と、小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドを製造する方法及びその方法によって製造されたコンロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストン・クランク機構には、ピストンの往復運動をクランク軸の回転運動に変換するために、ピストンとクランク軸とを接続するコンロッドが用いられる。このコンロッドは、ピストン側のピストンピンを支持するための支持穴を有する小端部と、クランク軸側を支持するための支持穴を有する大端部と、小端部と大端部との間を接続する棹部とから構成される部材である。棹部はコラム部とも呼ばれる。このコンロッドを製造するには、通常1200℃以上の処理温度の下での熱間鍛造を用いてコンロッドの外形を有する予備成形品をまず製造する。そして、予備成形品に穴明け等の機械加工を行い、鍛造時のバリを除去するための仕上げ矯正を行い、最終製品のコンロッドを得る。なお予備成形品はプリフォーム等とも呼ばれる。
【0003】
特許文献1には、コンロッドの製造方法等が開示され、そこでは大端部、小端部及びこの間をつなぐロッド部からなるコンロッドについて、クランク軸を取り付けるための大端部の破断分割を考慮した鍛造成形過程が述べられている。最初に素材丸棒を用意し、これをレデュースロールにより肉配分を行い、これを潰した平形形態とし、ついでコンロッドの形態に近い荒打ち鍛造をし、さらに別プレスでバリを除去する。この荒打ち鍛造段階において、大端部の破断分割予定部位に、V形またはU形の溝を形成し、バリ取り鍛造においてこの溝を両側から鍛造力の付加により肉寄せ鍛造し、ノッチとして残す。そして、後にこのノッチのところで破断する。
【0004】
特許文献2には、コンロッド用プリフォームの製造方法が開示され、プリフォームは、丸棒状のビレットから次の手順で製造される。すなわち、ビレットの軸方向に軸部と小端用塊部を合わせた体積に相当する分だけ延びる延長部を押し出し成形する。このとき非押し出し部が据え込み成形され根元に大端用塊部が成形される。そしてこの延長部を軸方向に数回に分けて押し潰して、軸部の先端に小端用塊部が成形される。このようにして得られたプリフォームからのコンロッド成形は、冷間の閉塞鍛造で行われる。それは、プリフォームを下ダイ上に、中間ダイの成形穴に収まるようにセットし、上ダイを下降させて型締めする第1段階鍛造、次にパンチを用いてコンロッドの大端部、小端部の穴明け部分を鍛圧し、コンロッドの輪郭を形成する第2段階鍛造を経て、大端部、小端部の穴明けが行われる過程で進められる。
【0005】
【特許文献1】特許第3008186号公報
【特許文献2】特開2001−150088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の熱間鍛造においては、その処理温度が1200℃以上に上ることがあり、一般的に金型寿命が短く、設備が大掛かりとなる。また、酸化スケールやバリ等が生じ、これを後工程で除去する必要がある。そのために素材の元々の体積から見ると、完成したコンロッドの材料体積は、60%程度で、約40%もの材料が失われる。
【0007】
本発明の目的は、コンロッドの製造過程における処理温度を低温化できるコンロッドの製造方法及びそれにより製造されたコンロッドを提供することである。他の目的は、コンロッドの製造過程においてバリの発生を抑制するコンロッドの製造方法及びそれにより製造されたコンロッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコンロッドの製造方法は、大端部と、小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドを製造する方法であって、平板状の素材の側面の両側に、回転軸方向を素材の厚み方向に平行にしてそれぞれ配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させる押付回転工程と、ローラ対を、素材側面に押付回転させながらさらに、素材側面に垂直な方向にそれぞれ移動させ、素材の外形を逐次成形する移動工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るコンロッドの製造方法は、大端部穴を有する大端部と、小端部穴を有する小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドを製造する方法であって、大端部穴と小端部穴に対応する貫通穴が設けられる平板状の素材の各貫通穴にそれぞれ取付軸が配置される軸取付工程と、素材の側面の両側に、回転軸方向を素材の厚み方向に平行にしてそれぞれ配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させる押付回転工程と、ローラ対を、素材側面に押付回転させながらさらに、両取付軸の間に、素材側面に垂直な方向に引張力を与え、素材の外形を逐次成形する引張工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るコンロッドの製造方法において、素材は、800℃以上1100℃以下に加熱されることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るコンロッドの製造方法において、平板状素材は、逐次加工後に棹部となる部分において、軽量化のための穴を有していることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係るコンロッドは、大端部と、小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドであって、平板状素材の側面に押付けて配置されるローラ対を回転させて素材を逐次加工する方法によって所望の形状に成形され、側面にバリを有しないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記構成の少なくとも1つにより、コンロッドの製造方法は、平板状の素材の側面の両側に配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させ、さらに素材側面に垂直な方向にそれぞれ移動させて素材の外形を逐次成形する。つまり、ローラの押付回転移動によって所望の形状を得る。したがって、鍛造成形のような1200℃にも上る高温の処理温度を要せず、より低温の処理温度で成形できる。そして、型成形でないので、それによるバリを生じることがない。
【0014】
また、上記構成の少なくとも1つにより、予め大端部穴と小端部穴に対応する貫通穴が設けられる平板状の素材を用い、その各貫通穴にそれぞれ取付軸を取り付ける。そして平板状の素材の側面の両側に配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させ、さらに取付軸を素材側面に垂直な方向に引張り、素材の外形を逐次成形する。したがって、鍛造成形のような1200℃にも上る高温の処理温度を要せず、より低温の処理温度で成形できる。そして、型成形でないので、それによるバリを生じることがない。
【0015】
また、素材は、800℃以上1100℃以下に加熱されることとするので、鍛造成形に比べ、低温の処理温度で済む。
【0016】
また、平板状素材は、逐次加工後に棹部となる部分において、軽量化のための穴を有しているので、当初の穴が円形であっても、逐次加工により例えば所望の長円形穴となり、仕上げ矯正工程での複雑な軽量化加工が不要となる。
【0017】
また、上記構成のコンロッドにより、平板状素材の側面に押付けて配置されるローラ対を回転させて素材を逐次加工する方法によって所望の形状に成形され、側面にバリを有しないものを得ることができる。
【0018】
以上のように、本発明に係るコンロッドの製造方法及びそれにより製造されたコンロッドによれば、コンロッドの製造過程における処理温度を低温化できる。また、コンロッドの製造過程においてバリの発生を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。なお、以下における形状、寸法等は説明のためのものであり、コンロッドに適したそれ以外の形状、寸法等であってもよい。例えば素材の形状は円板状としたが、それ以外の外形を有する平板状素材であってもよい。
【実施例1】
【0020】
図1は、コンロッド10の全体図である。コンロッド10は、例えばピストン・クランク機構において、ピストンの往復運動をクランク軸の回転運動に変換するために、ピストンとクランク軸とを接続する部材である。コンロッド10は、大端部12と小端部14との間を接続する棹部16とから構成され、大端部12には支持穴18が設けられ、ここにおいて例えばクランク軸側を支持する。また、小端部14にも支持穴20が設けられ、ここにおいて例えばピストン側のピストンピンが支持される。棹部16には、その部分の断面面積当りの剛性を高め、軽量化を図るため、凹部22が設けられる。コンロッド10の寸法の一例を上げると、棹部16の長手方向を軸方向として、軸方向に沿って大端部12の先から小端部14の先までの全長が約150mm、大端部12の支持穴18の直径が約40mm、小端部14の支持穴20の直径が約20mm、支持穴18,20の軸方向に平行な棹部16の厚みが約15mmである。
【0021】
コンロッド10の製造方法を次に説明する。図2は、コンロッド製造方法の手順を示すフローチャート、図3は各製造手順の内容を説明する図である。コンロッド製造の最初は、素材を準備する(S10)。素材は円板状の金属材料である。金属材料としては、例えばバナジウム鋼を用いることができる。円板の厚みは、コンロッド10の仕上がり厚さとほぼ同じものとできる。円板の体積は、支持穴18,20、凹部22の部分が埋まっているとしたときのコンロッド全体積とほぼ同じとでき、これから円板の直径を定めることができる。上記の例では、円板の厚み15mm、直径約65mm程度の素材を用いることができる。
【0022】
素材が準備できると、ローラ逐次成形機に素材をセットする。ローラ逐次成形機とは、互いに平行な回転軸を有するローラ対を備える成形機で、素材はその側面がローラ対の間に挟み込まれるようにセットされる。つまり、素材の厚み方向とローラ対の回転軸の方向とは平行である。ローラ逐次成形は、素材の両側面に配置されたローラ対を素材に押し付けながら、回転軸周りに回転させ、また、ローラ対を素材表面に垂直な方向に上下動させ、いわば素材の側面を押し延べながら塑性変形させて任意の形状に成形する加工機である。ローラ対は超硬工具材料で構成することができる。なお、塑性加工は温間で行われる。ここで温間とは、熱間鍛造の一般的温度である1100℃から1200℃より低温で素材を加熱することをいい、例えば800℃から1000℃を含む。加工条件によるが、900℃程度で素材を加熱するものとできる。
【0023】
図3(a)は、素材30をローラ逐次成形機にセットした様子を示す図である。円板状の素材30は、その厚み方向をローラ40,42の回転軸の軸方向と平行に配置される。具体的には、ローラ40,42の回転軸の軸方向に垂直な素材載せ台の上にセットされる。このときローラ40,42は、素材30の両側面を挟み込むようにし、素材30の両側面に適当な押付圧を負荷させる。また、図示されていないが、素材30の以後の成形に応じて適当に移動する緩い案内機構を素材30の周囲に設けてもよい。
【0024】
このようにして素材がローラ逐次成形機にセットされると、図示されていないヒータにより素材30が加熱される。そして、素材30が適当な処理温度に至ると、ローラ40,42は、押付回転(S12)を始める。すなわち、ローラ40,42は、塑性加工に適した押付圧44,45で素材30の側面を押し付けながら、回転軸周りに回転(46,47)する。そして、この押付回転を行いながら、さらにローラ40,42は上下軸方向、すなわち、素材30の厚み方向に垂直な方向で、かつローラ40,42が向かい合う方向と垂直方向に、移動運動をする。この移動運動方向は、後に完成するコンロッド10の棹部16の軸方向に相当する。この押付回転移動により、素材30は、ローラ40,42によって順次押し延べられて塑性変形し、逐次成形される(S14)。
【0025】
図3(b)は、押付回転移動によって、円板状の素材が次第に中間形状体42となる様子を示す図である。ここで、ローラ40,42は、ローラ40,42が向き合う方向への押付圧44,45、各ローラ40,42の軸方向の回転46,47、上下軸方向の移動48,49を行う。これらの6つの駆動は、図示されていない駆動部により、ローラ逐次成形機に備えられる制御部の制御の下で行われる。制御部の制御は、ソフトウェアで実現でき、より具体的には対応するローラ逐次成形プログラムを実行することで実現できる。制御の一部をハードウェアで構成してもよい。
【0026】
押付回転移動は、ローラ逐次成形が効率よく行われる押付圧、ローラ40,42の回転方向及び回転速度、ローラ40,42の移動の方向と移動速度を組み合わせて制御される。ローラ40,42の各押付圧44,45は基本的に負荷方向が逆方向で同じ大きさである。ローラ40,42の回転46,47は、基本的に同じ回転数で、回転方向は相互に逆回転でもあるいは同方向回転でもよい。移動48,49は、同じ移動方向で、移動速度も同じが好ましい。回転46,47の回転方向は、あるタイミングで回転方向を反転させながらそれを繰り返すいわゆる正転逆転の繰り返しを行ってもよい。移動48,49の移動方向も、あるタイミングで移動方向を反転させながらそれを繰り返す、いわゆる上下動の繰り返しを行ってもよい。
【0027】
また、押付圧44,45の大きさ、回転46,47の回転速度の速さ、移動48,49の移動速度の速さは、素材30を中間形状体32に加工する各段階で、塑性加工性を考慮して変更される。例えば、円板状形状を大きく変形させるときは変形負荷が大きいので、押付圧44,45を高くし、回転46,47の速度、及び移動48,49の速度を遅くし、変形の程度が小さくて変形負荷が小さい部分では、回転46,47の速度、及び移動48,49の速度を速くできる。
【0028】
ローラ逐次成形プログラムを実行して、素材30から中間形状体32を経て所望の形状の予備成形品が得られる(S16)。図3(c)は予備成形品34の様子を示す図である。得られた予備成形品34は、上記のように、温間でローラの押付回転移動によって素材の側面に沿って押し延べされて成形されるので、熱間鍛造工程により製造された予備成形品と次のような点で相違する。
【0029】
第1に、金型を用いないので、金型合わせ目等に生じるバリが原理的にない。第2に、特に側面は、ローラ対によって押付回転されて成形されるので、表面が滑らかである。第3に温間加工であるので、熱間加工に比べいわゆる黒皮と呼ばれる酸化スケールが少ない。
【0030】
予備成形品34は、その後、大端部12の支持穴18、小端部14の支持穴20の穴明けが行われ、ついで、仕上げ矯正が行われる(S18)。穴明け工程は、旋盤等の機械加工で行うことができる。また、仕上げ矯正は、棹部16の凹部22を形成し、全体の形状を整える工程で、コイニングマシン等によって行うことができる。上記のように、この予備成形品34は熱間鍛造品に比べ、バリがほとんどなく、酸化スケールも少ないので、これらの除去工程は、機械加工及びコイニングにおいても簡単に処理される。このようにして、コンロッド10が完成する。完成されたコンロッド10もまた、予備成形品34の特徴を引き継ぎ、バリがなく、あるいはバリ除去のための機械加工等の跡がない。特に側面は滑らかである。
【0031】
このように、コンロッドの製造方法、とくにその予備成形品の製造方法においては、ローラによる回転逐次成形を用いるので、成形荷重が比較的小さい。例えばコンロッド製造用の熱間鍛造の一般的な負荷は3000トンであるが、ローラ対の押付圧負荷は200トン程度ですむ。また、素材の加熱温度を一般的な熱間鍛造素材の温度である1100℃から1200℃よりも低減でき、不良率が低減出来る。またローラ寿命も比較的向上しやすくなる。
【0032】
さらに、型を用いる熱間鍛造の場合のバリ除去、黒皮除去のための体積減少に比較し、素材から完成コンロッドとの間の材料損失を少なくすることができる。例えば、素材の元々の体積を100として、熱間鍛造によって得られる完成コンロッドの体積はおよそ60で、約40%の材料が失われるが、ローラ逐次成形法によって得られる体積は95程度まで向上させることができ、素材を有効に使用できる。
【実施例2】
【0033】
ローラ逐次成形法において、押付回転移動の3要素のうち、移動は、ローラ対と素材との間の相対移動であればよいので、ローラ対の押付回転と適当な同期関係で素材を引っ張ることでもよい。図4は、そのようなコンロッドの製造方法の手順を示すフローチャート、図5は各製造手順の内容を説明する図である。図5において、図3と同様な要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0034】
コンロッド製造の最初は、素材を準備する(S20)ところは図2と同様であるが、素材50は図5に示すように、コンロッド10が完成したときの大端部12における支持穴18に対応する貫通穴52と、小端部14における支持穴20に対応する貫通穴54が予め設けられている。これらの貫通穴52,54には、素材50をローラ40,42に対し相対的に上下方向に引っ張るための取付軸が取り付けられる(S22)。取付軸は、ローラ対と同様に超硬工具材料で構成できる。
【0035】
押付回転工程(S24)は、図2、図3で説明した内容と同じである。図5(a)は、取付軸の図示を省略して図3(a)に対応する様子を示す。押付回転の内容は、素材50に貫通穴52,54が設けられているところが異なるだけで、実質的には図3(a)と同じである。なお、処理が温間で行われることは図2、図3の場合と同様である。
【0036】
図5(b)は、貫通穴52,54にそれぞれ取付軸56,58が取り付けられ、ローラ40,42の押付圧44,45、回転46,47とともに、取付軸56,58による引張り60が素材に加えられる様子を示す図である。ここで、一方の取付軸56は固定され、他方の取付軸58は図示されていない駆動機構により駆動され、素材を上下軸方向に引張る。これにより、素材は、ローラ40,42によって側面が押付け回転されながら、さらに取付軸56,58の作用で上下軸方向に引っ張られ、塑性変形し、中間形状体62が逐次成型される。つまり、この工程は、押付回転引張逐次成形(S26)の工程である。
【0037】
ローラ40,42の動作は、図2の押付回転移動逐次成形工程(S14)で説明した押し付け及び回転の内容と同じである。引張り60は、S14の移動に相当するが、図5(b)の例では、上下往復動ではなく、単に中間形状体62を上下軸方向に引っ張り上げるだけである。これに代えて、一方の取付軸56を固定とせず、下方に引っ張るものとしてもよい。すなわち、他方の取付軸58と共に一方の取付軸56も引っ張るものとしてもよく、一方の取付軸56が引っ張るときは他方の取付軸58を固定するものとしてもよい。また、取付軸56,58の引張りに加えて、ローラ40,42が図3に示すような上下動をするようにしてもよい。なお、引張り60の制御は、ローラ40,42の押付圧44,45、回転46,47とともに、ローラ逐次成形機の制御部によって全体的協働的に行われる。
【0038】
ローラ逐次成形プログラムを実行して、素材50から中間形状体62を経て所望の形状の予備成形品が得られる(S28)。図5(c)は、取付軸56,58を取り外す前の予備成形品64の様子を示す図である。得られた予備成形品64は、上記のS16に関連して説明したように、金型を用いないので、金型合わせ目等に生じるバリが原理的になく、特に側面は、ローラ対によって押付回転されて成形されるので、表面が滑らかであり、処理が温間加工であるので、熱間加工に比べいわゆる黒皮と呼ばれる酸化スケールが少ない特徴を有する。
【0039】
予備成形品34は、仕上げ矯正が行われる(S18)。穴明けは、すでに素材50において明けられているので、全体の形状を整える程度で、特別な穴明け機械加工は不要である。上記のように、この予備成形品34は熱間鍛造品に比べ、バリがほとんどなく、酸化スケールも少ないので、これらの除去工程は、機械加工及びコイニングにおいても簡単に処理される。このようにして、コンロッド10が完成する。
【実施例3】
【0040】
図5における素材50に、さらに、あらかじめ軽量化のための穴を設けておき、完成したときのコンロッドのより軽量化を図ることができる。図6は、そのような軽量化コンロッド製造方法の過程を説明する図である。この軽量化コンロッドの製造方法の手順は、最初の素材が異なるのみで、基本的には図2または図4に説明した手順と同じである。なお、図6は図4と同じ手順で軽量化コンロッドを製造する過程を示してある。
【0041】
図6(a)は図4(a)に対応する図である。素材70は、コンロッドが完成したときに棹部のところに軽量化のための長円穴が設けられるように設計された穴72が予め設けられる。その他は、図4(a)で説明した素材50と同じである。
【0042】
この素材70は、図6(a)で示されるようにローラ40,42により押付圧44,45が負荷され、回転46,47が与えられる。そして、図6(b)に示されるように、ローラ40,42の押付回転とともに、取付軸56,58の作用で引張り60が与えられて、中間形状体62のローラ逐次成形が行われる。この押付回転引張工程において、素材70の状態における穴72も変形穴73となる。
【0043】
図6(c)は、ローラ逐次成形後の予備成形品76において取付軸56,58を取り外す前の状態を示す図である。予備成形品76は、棹部に相当するところに長円穴77が形成され、軽量化が図られる。この軽量化予備成形品76もまた、上記の予備成形品34,64と同様に、バリが基本的になく、側面が滑らかで、黒皮が少ない等の特徴を有する。図6(d)に仕上げ矯正工程後の、軽量化コンロッド11の様子を示す。軽量化コンロッド11は、棹部16のところに、幅細の長円穴78を有し、これにより軽量化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係る実施の形態におけるコンロッドの全体図である。
【図2】本発明に係る実施の形態におけるコンロッド製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係る実施の形態におけるコンロッド製造方法の各製造手順の内容を説明する図である。
【図4】他の実施の形態におけるコンロッド製造方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】他の実施の形態におけるコンロッド製造方法の各製造手順の内容を説明する図である。
【図6】他の実施の形態において軽量化コンロッド製造方法の各製造手順の内容を説明する図である。
【符号の説明】
【0045】
10 コンロッド、11 軽量化コンロッド、12 大端部、14 小端部、16 棹部、18,20 支持穴、22 凹部、30,50,70 素材、34,64,76 予備成形品、40,42 ローラ、32,62 中間形状体、44,45 押付圧、46,47 回転、48,49 移動、52,54 貫通穴、56,58 取付軸、72 穴、73 変形穴、77,78 長円穴。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大端部と、小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドを製造する方法であって、
平板状の素材の側面の両側に、回転軸方向を素材の厚み方向に平行にしてそれぞれ配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させる押付回転工程と、
ローラ対を、素材側面に押付回転させながらさらに、素材側面に垂直な方向にそれぞれ移動させ、素材の外形を逐次成形する移動工程と、
を含むことを特徴とするコンロッドの製造方法。
【請求項2】
大端部穴を有する大端部と、小端部穴を有する小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドを製造する方法であって、
大端部穴と小端部穴に対応する貫通穴が設けられる平板状の素材の各貫通穴にそれぞれ取付軸が配置される軸取付工程と、
素材の側面の両側に、回転軸方向を素材の厚み方向に平行にしてそれぞれ配置されたローラ対を、素材の側面に押圧を加えながらそれぞれ回転させる押付回転工程と、
ローラ対を、素材側面に押付回転させながらさらに、両取付軸の間に、素材側面に垂直な方向に引張力を与え、素材の外形を逐次成形する引張工程と、
を含むことを特徴とするコンロッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のコンロッドの製造方法において、
素材は、800℃以上1100℃以下に加熱されることを特徴とするコンロッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれか1に記載のコンロッドの製造方法において、
平板状素材は、逐次加工後に棹部となる部分において、軽量化のための穴を有していることを特徴とするコンロッドの製造方法。
【請求項5】
大端部と、小端部と、大端部と小端部との間をつなぐ棹部とを含んで構成されるコンロッドであって、
平板状素材の側面に押付けて配置されるローラ対を回転させて素材を逐次加工する方法によって所望の形状に成形され、側面にバリを有しないことを特徴とするコンロッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−336800(P2006−336800A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−164087(P2005−164087)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】