説明

コークス炉の内部形状測定方法及び測定冶具

【課題】生産停止の必要がなく、コークス炉の内部形状を簡便にしかも正確に測定することができるコークス炉の内部形状測定方法及び測定冶具を提供する。
【解決手段】本発明のコークス炉の内部形状測定方法は、筒状体11の下方部に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能な可動部を収納した測定冶具10を、コークス炉の燃焼室内部に挿入したうえ可動部を操作して位置固定し、この測定冶具10の炉頂から露出した部位の座標を測量機で測定し、コークス炉の内部形状を把握する。測定冶具10は、筒状体11の下方部側面に開口部14を形成し、この開口部に臨む位置に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能なレバー状の可動部を、開口部から出没可能に収納した構造である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の劣化状況を判断するために実施されるコークス炉の内部形状測定方法及びこの方法に用いられる測定冶具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄工場等に設置されているコークス炉は、耐火煉瓦により炭化室と燃焼室とを交互に形成し、その両外側にバックステーを建ててタイロッドにより締付けた構造の大型炉である。コークス炉では石炭の装炭、加熱、コークスの窯出しが繰り返されるため、永年にわたり使用すると耐火煉瓦が膨張したり、クラックが入ったりすることが避けられない。もし炉体が膨張して煉瓦相互間のダボが外れると炉体が倒壊する危険性があるため、炉体の変形状態を観察して危険部分は事前に補修する必要がある。わが国で稼動中のコークス炉の大半が築炉から40年前後を経過しているため、その寿命予測手段が強く求められている。
【0003】
そこで従来から様々な測定方法が提案され、また実施されている。その代表的な方法は、特許文献1に示すように測量器を用いてバックステー間の距離を測定し、炉体の外面形状を測定する方法である。しかし、この方法では炉全体の変形度は測定することができるが、局部的な変形度は測定できないため、全体の煉瓦積み替えが必要であるのか、部分補修で寿命延長を図ることができるのかを判断することができない。
【0004】
そこで特許文献2に示すように、炭化室の内部に装入される押出し機のラムに測定装置を取り付け、炭化室の内部形状を測定する方法が提案されている。この方法によれば、理論上、煉瓦1個1個の位置を定量的に把握することができる。しかし実際には、測定可能な時間は押出しタイミングの短時間(数分間)であり、その短時間内に一窯あたりの測定を行わねばならず、測定に長時間を要する場合には、コークス押出しを停止しなければならず、コークス生産が停止してしまうこととなる。加えて、押出しラムに取り付けた測定装置は故障しても次回の定期修理まで取り外すことができず、修理が困難であることや、押出し時のラムの振れにより測定誤差が発生するという問題がある。
【0005】
このほか、特許文献3に示されるように、独立した測定装置を炭化室の内部に装入して測定する方法も提案されている。しかしこの場合にも一窯あたりの測定には10〜30分を要するので一時的にコークス生産が停止させる必要がある。また炭化室の壁面にはカーボンが部分的もしくは全面的に付着しているため、煉瓦自体の位置を正確に測定することができない。正確な測定を行うには予めカーボンを焼却して除去する必要があるが、焼却に長時間を要するうえに、焼却時に煉瓦を傷めてしまう懸念がある。
【0006】
上記したように、炭化室の壁面位置を測定する従来法はコークス生産を停止させたり、付着カーボンによる誤差を生じたりする問題があるため、特許文献4に示されるように、燃焼室の内部にカメラ付きのランスを挿入し、燃焼室の内壁を測定する方法も提案されている。しかし燃焼室の内部は非燃焼時にも1200℃程度の高温であるから、その内部にカメラを挿入するには冷却構造や電源確保のために非常に大掛かりな装置が必要となり、測定は容易でないと想定される。
【特許文献1】特開2003−90708号公報
【特許文献2】特開2006−258593号公報
【特許文献3】特開2004−354241号公報
【特許文献4】特開平6−174646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、生産停止の必要がなく、コークス炉の内部形状を簡便にしかも正確に測定することができるコークス炉の内部形状測定方法及び測定冶具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のコークス炉の内部形状測定方法は、筒状体の下方部に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能な可動部を収納した測定冶具を、コークス炉の燃焼室内部に挿入したうえ可動部を操作して位置固定し、この測定冶具の炉頂から露出した部位の座標を測定することを特徴とするものである。なお、測定冶具の傾き角度を測定し、測定された座標を補正することが好ましく、測定冶具を燃焼室上部の点検孔から挿入して炉幅方向の多点で測定することにより、炉幅方向の変形度を把握することができる。
【0009】
また本発明のコークス炉の内部形状測定冶具は、内部が冷却される筒状体の上部外周に炉頂部への設置用フランジを形成するとともに、筒状体の下方部側面に開口部を形成し、この開口部に臨む位置に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能なレバー状の可動部を、開口部から出没可能に収納したことを特徴とするものである。なお、レバー状の可動部が、開口部の下部の回転軸に枢着されて回転する下部レバーと、下部レバーの上端に枢着された中間レバーとから構成され、筒状体の内部には下端部が中間レバーの上端に枢着された昇降ロッドを収納した構造であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコークス炉の内部形状測定方法は、測定冶具をコークス炉の燃焼室内部に挿入したうえ可動部を操作して位置固定し、この測定冶具の炉頂から露出した部位の座標を測定する方法であるから、電気的な測定機器を炉内に挿入する必要がなく、簡易組み上げ式のやぐら等があれば、簡便に測定が可能である。燃焼室内壁を測定するので押出しタイミングの短時間内に測定を行う必要がなく、付着カーボンによる誤差の問題もない。
【0011】
また本発明の測定冶具は、昇降ロッドを操作することにより、レバー状の可動部を開口部から出没させ、燃焼室の内壁両面に接触して位置を容易に固定できるものであり、構造が簡単であるため高温の燃焼室内部に挿入して測定を行うに適したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
当業者には周知のように、コークス炉は炭化室と燃焼室とを炉長方向に交互に形成したもので、本願発明では燃焼室の内部に測定冶具を挿入してコークス炉の内部形状測定を行う。図1は燃焼室1の炉幅方向の断面図であり、2は炉底、3は水平煙道、4は炉頂である。水平煙道3に沿って縦長のフリュー5が多数形成されており、各フリュー5の上方には炉頂4に達する点検孔6が形成されている。なおこの実施形態においては、水平煙道3から炉頂4までの距離は約2m、水平煙道3から炉底2までの距離は約5m、炉底2よりも下側は蓄熱室7でその高さは約4mである。
【0013】
図2は説明のために炉幅方向を拡大して示した炉幅方向の断面図であり、測定冶具10を点検孔6から燃焼室1のフリュー5の内部に挿入して位置固定した状態を示している。そこで先ず、図3、4、5により測定冶具10の構造を説明する。
【0014】
これらの図において、11は点検孔6内に挿入できる筒状体であり、この実施形態では中段部の位置測定を行うため筒状体11の全長は約4mであるが、希望する測定高さに応じて設定すればよい。前記したように約1200℃の燃焼室1の内部に挿入されるため、測定冶具10の全体は耐熱性に優れたステンレス製とするとともに、上部の冷却空気供給口12から筒状体11の内部に冷却空気を吹き込み、変形を防止している。筒状体11の上部外周には炉頂部への設置用フランジ13を設けてあり、この設置用フランジ13を炉頂4上に載せることによって、測定冶具10を一定高さに支持できるようになっている。
【0015】
図3、図4に示すように、筒状体11の下方部側面には縦長スリット状の開口部14が形成されている。そしてこの開口部14に臨む筒状体11の内部に、レバー状の可動部が収納されている。このレバー状の可動部は、下部レバー15と中間レバー16と昇降ロッド17とから構成されている。
【0016】
下部レバー15は、その中央を開口部14の下部に固定された回転軸18に枢着されたレバーであり、その下端部は筒状体11の下端から突出している。筒状体11の内部にはその上端に達する昇降ロッド17が昇降可能に設けられており、この昇降ロッド17の下端と下部レバー15の上端の間は、中間レバー16により連結されている。すなわち、中間レバー16の上端と昇降ロッド17の下端とは移動軸20を介して回転可能に連結されており、中間レバー16の下端と下部レバー15の上端とは、連結軸21によって回転可能に連結されている。なお図3の状態では、連結軸21は開口部14のほぼ中央高さにあり、移動軸20は開口部14のやや上方位置にある。
【0017】
このように構成された測定冶具10を用いてコークス炉の内部形状測定を行うには、先ず図3、図4に示すように昇降ロッド17を引き上げ、各レバーが直線状になって筒状体11の内部に収納された状態で、測定冶具10を点検孔6から燃焼室1のフリュー5の内部に所定深さまで挿入する。ただしこのままの状態では測定冶具10の下部は燃焼室1の内壁に接触していない。
【0018】
そこで筒状体11に対して昇降ロッド17を押し下げると、図5に示すように移動軸20が下降するため、中間レバー16と下部レバー15とはくの字状に折れ曲がり、開口部14から連結軸21の部分が突出するとともに、下部レバー15の下端部18は反対側に突出する。その結果、図1に示したように、燃焼室の内壁両面に下部レバー15の上下両端が接触し、測定冶具10の下部の位置が燃焼室のセンターに固定される。このとき、煉瓦表面を傷付けないように、下部レバー15の上下両端は半円形としておくことが好ましい。この昇降ロッド17の押し下げ量によって、フリュー5の内部形状を測定することができる。
【0019】
このようにして測定冶具10の位置を固定したうえで、測定冶具10の炉頂から露出した部位の座標を測量器30により測定し、その座標を求める。この測定を容易にするために、昇降ロッド17の上端付近の側面にターゲット31を設けておくことが好ましい。また図1では測定冶具10は垂直に図示されているが、炉体の膨張に伴いフリュー5が傾斜することがあるため、角度計32によって水平面に対する測定冶具10の傾斜角度を測定し、測定冶具10の上下間における水平方向の誤差を補正することが好ましい。
【0020】
上記測定を水平煙道3に沿って炉幅方向に形成された各フリュー5につき順番に行えば、炉芯から各フリュー5の内部中心までの距離を正確に測定することができ、炉幅方向の膨張がどの部分で生じているかを把握することができる。また炉長方向に多数形成されている燃焼室毎に行えば、炉長方向の局部的膨張を把握することもできる。このように、本発明によればコークス炉の膨張がどの位置でどのように起こっているかを正確かつ簡便に把握することができ、局部的な膨張が生じている部分を補修することによって、コークス炉の寿命延長が可能となる。例えば、炉芯からの膨張率が4%を越えている部分はダボはずれの危険性があるものとして、早期に補修することが好ましい。
【0021】
以上に説明したように、本発明によれば、燃焼室の内部に測定冶具10を挿入して測定を行うので、炭化室の内部を測定する従来法とは異なり、生産停止の必要がなく、装炭車の往来のない長い時間の間に、コークス炉の内部形状を正確に測定することができる。また測定冶具10の傾斜角度や昇降ロッド17の押し下げ量によって、フリュー5の傾斜や内部幅の測定が可能である。この測定冶具10はカメラ等の測定機器を搭載していないので高温の燃焼室内に挿入可能であり、取り扱いも簡便である等の多くの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】コークス炉の燃焼室の炉幅方向の断面図である。
【図2】本発明の測定方法を説明する炉幅方向に拡大した断面図である。
【図3】測定冶具の正面図である。
【図4】測定冶具の側面図である。
【図5】使用状態を示す要部の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 燃焼室
2 炉底
3 水平煙道
4 炉頂
5 フリュー
6 点検孔
10 測定冶具
11 筒状体
12 冷却空気供給口
13 設置用フランジ
14 開口部
15 下部レバー
16 中間レバー
17 昇降ロッド
18 回転軸
20 移動軸
21 連結軸
30 測量器
31 ターゲット
32 角度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状体の下方部に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能な可動部を収納した測定冶具を、コークス炉の燃焼室内部に挿入したうえ可動部を操作して位置固定し、この測定冶具の炉頂から露出した部位の座標を測定することを特徴とするコークス炉の内部形状測定方法。
【請求項2】
測定冶具の傾き角度を測定し、測定された座標を補正することを特徴とする請求項1記載のコークス炉の内部形状測定方法。
【請求項3】
測定冶具を燃焼室上部の点検孔から挿入して炉幅方向の多点で測定することにより、炉幅方向の変形度を把握することを特徴とする請求項1記載のコークス炉の内部形状測定方法。
【請求項4】
内部が冷却される筒状体の上部外周に炉頂部への設置用フランジを形成するとともに、筒状体の下方部側面に開口部を形成し、この開口部に臨む位置に燃焼室の内壁両面に接触して位置固定可能なレバー状の可動部を、開口部から出没可能に収納したことを特徴とするコークス炉の内部形状測定冶具。
【請求項5】
レバー状の可動部が、開口部の下部の回転軸に枢着されて回転する下部レバーと、下部レバーの上端に枢着された中間レバーとから構成され、筒状体の内部には下端部が中間レバーの上端に枢着された昇降ロッドを収納したことを特徴とする請求項4記載のコークス炉の内部形状測定冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−151552(P2008−151552A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337715(P2006−337715)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】