説明

コーティングの放射硬化

本発明は、a)ポリオール、b)ポリイソシアネート架橋剤、c)ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、d)金属系触媒を少なくとも部分的に不活性化するチオール官能性化合物、およびe)化学線放射によって活性化でき、活性化の前に、8未満のpKa値を有する光潜在性塩基を含み、全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%がヒドロキシル基である、非水性コーティング組成物により:i)前記コーティング組成物を基材に塗布するステップ、およびii)前記コーティング組成物を硬化させるステップを含む、基材をコーティングする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオールバインダー、ポリイソシアネート架橋剤、ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、およびチオール官能性化合物を含む非水性コーティング組成物により基材をコーティングする方法に関する。本発明は、さらに、前記コーティング組成物、および前記コーティング組成物を調製するための部材のキットに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のタイプのコーティング組成物は、US 4788083により知られている。この文献は、金属系触媒がチオール官能性化合物によって不活性化されて、混合後の組成物のポットライフが長くなることを記載する。硬化のためのコーティングの活性化は、塗布されたコーティングを硬化チャンバ内でアミン蒸気に曝露することによって実行される。
【0003】
この公知の方法および組成物の欠点は、硬化が、アミン蒸気を含む硬化チャンバを必要とすることである。このような硬化チャンバの使用は、経済的観点から、特に、大きな基材、例えば、自動車を硬化する必要がある場合には、魅力的ではない。さらに、アミン蒸気は、毒性の故に、大気に放出されるべきではないので、硬化チャンバの排気はアミン蒸気の除去を必要とする。
【0004】
触媒として光潜在性(photolatent)アミンを用いる、ポリオール−ポリイソシアネート2成分コーティングの硬化が、論文:Dietlikerら、Farbe und Lack 109(2003)、34〜41頁により知られている。しかし、この文献に記載されている光潜在性塩基は、本発明の着想による組成物に用いられた場合に十分なポットライフをもたらさず、それらは、ポリオール−イソシアネート系に用いられた場合に、照射後、十分な触媒活性をもたらさない。
【0005】
WO2001/092362は、チオールとポリイソシアネートとの付加反応によって、ポリチオウレタン網状構造を生成して硬化するコーティングを記載する。硬化は、光潜在性塩基の照射直後の塩基性触媒の放出によって活性化される。一実施形態において、ヒドロキシル基もまた、コーティング組成物中に存在し得る。この文献に記載されている組成物のポットライフと乾燥との都合の良いバランスは、光潜在性塩基の活性化直後のチオール基とイソシアネート基との速い反応から生じる。本質的にヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応によって硬化し、また、WO2001/092362により知られる組成物と同じ様に魅力的なポットライフと乾燥のバランスを有するコーティング組成物およびコーティング方法が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の欠点をもたない、基材のコーティング方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、
a)ポリオール、
b)ポリイソシアネート架橋剤、
c)ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、
d)金属系触媒を少なくとも部分的に不活性化するチオール官能性化合物、および
e)化学線放射(actinic radiation)によって活性化でき、活性化の前に、8未満のpKa値を有する光潜在性塩基
を含み、全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%がヒドロキシル基である、非水性コーティング組成物により、
i)前記コーティング組成物を基材に塗布するステップ、および
ii前記)コーティング組成物を硬化させるステップ
を含む、基材をコーティングする方法を提供する。
【0008】
本発明の方法において用いられるコーティング組成物は、ポットライフと硬化速度の非常に良好なバランスを有する。硬化は、化学線放射に曝露することによって開始でき、アミン蒸気により満たされた硬化チャンバは必要でない。さらに、コーティングの屋外耐久性が優れている。
【0009】
本発明は、また、
a)ポリオール、
b)ポリイソシアネート架橋剤、
c)ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、
d)チオール官能性化合物、および
e)化学線放射によって活性化でき、活性化の前に、8未満のpKa値を有する光潜在性塩基
を含み、全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%がヒドロキシル基である、非水性コーティング組成物にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
適切なポリオールの例には、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む化合物が含まれる。これらは、モノマー、オリゴマー、ポリマー、およびこれらの混合物であり得る。ヒドロキシ官能性オリゴマーおよびモノマーの例は、ひまし油、トリメチロールプロパン、およびジオールである。特に、国際特許出願WO98/053013に記載されているような分岐状ジオール、例えば、2−ブチル−エチル−1,3−プロパンジオールを挙げることができる。
【0011】
適切なポリマーの例には、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、メラミンポリオール、およびこれらの混合物および混成物(hybrid)が含まれる。このようなポリマーは、当業者に広く知られており、市販されている。適切なポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、およびこれらの混合物は、例えば、国際特許出願WO96/20968、および欧州特許出願EP0688840Aに記載されている。適切なポリウレタンポリオールの例は、国際特許出願WO96/040813に記載されている。
【0012】
さらなる例には、ヒドロキシ官能性エポキシ樹脂、アルキッド、および国際特許出願WO93/17060に記載されているようなデンドリマーポリオールが含まれる。コーティング組成物は、また、二環式オルトエステル、スピロ−オルトエステル、スピロ−オルトシリケート基、または二環式アミドアセタールを含む化合物のような、潜在的ヒドロキシ官能性化合物も含み得る。これらの化合物およびそれらの使用は、国際特許出願WO97/31073、WO2004/031256、およびWO2005/035613にそれぞれ記載されている。
【0013】
酸含有量が少ないポリオールを用いると、照射後の一層速い硬化速度の実現にとって、さらに有益な効果のあることが見出された。通常、最速の硬化は、最小の酸価を有するポリオールにより得られる。有益な酸価は、ポリオールの不揮発分に対して計算して、例えば、10mg KOH/g以下、または5mg KOH/g以下である、あるいはさらに1mg KOH/g未満である。低い酸価を有するポリオールを用いることの有益な効果は、また、チオール官能性化合物としてメルカプトカルボン酸が用いられる実施形態においても見出された。
【0014】
コーティング組成物に用いられる適切なイソシアネート官能性架橋剤は、少なくとも2つのイソシアネート基を含むイソシアネート官能性化合物である。好ましくは、イソシアネート官能性架橋剤は、ポリイソシアネート、例えば、脂肪族、脂環式、または芳香族のジ−、トリ−、またはテトラ−イソシアネートである。ジイソシアネートの例には、1,2−プロピレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ω,ω’−ジプロピルエーテルジイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,2−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4−メチル−1,3−ジイソシアナトシクロヘキサン、トランス−ビニリデンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(Desmodur(登録商標)W)、トルエンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI(登録商標))、1,5−ジメチル−2,4−ビス(2−イソシアナトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリエチル−2,4−ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン、4,4’−ジイソシアナト−ジフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジイソシアナト−ジフェニル、3,3’−ジフェニル−4,4’−ジイソシアナト−ジフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアナト−ジフェニル、4,4’−ジイソシアナト−ジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナト−ジフェニルメタン、およびジイソシアナトナフタレンが含まれる。トリイソシアネートの例には、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、1,8−ジイソシアナト−4−(イソシアナトメチル)オクタン、およびリシントリイソシアネートが含まれる。ポリイソシアネートのアダクトおよびオリゴマー、例えば、ビウレット、イソシアヌレート、アロファネート、ウレトジオン、ウレタンおよびこれらの混合物もまた含まれる。このようなオリゴマーおよびアダクトの例は、2分子のジイソシアネート(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートもしくはイソホロンジイソシアネート)の、ジオール(例えば、エチレングリコール)へのアダクト、3分子のヘキサメチレンジイソシアネートの、1分子の水へのアダクト(Bayerの商標Desmodur Nで入手可能)、1分子のトリメチロールプロパンの、3分子のトルエンジイソシアネートへのアダクト(Bayerの商標Desmodur Lで入手可能)、1分子のトリメチロールプロパンの、3分子のイソホロンジイソシアネートへのアダクト、1分子のペンタエリトリトールの、4分子のトルエンジイソシアネートへのアダクト、3分子のm−α,α,α’,α’−テトラメチルキシレンジイソシアネートの、1分子のトリメチロールプロパンへのアダクト、1,6−ジイソシアナトヘキサンのイソシアヌレート3量体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート3量体、1,6−ジイソシアナトヘキサンのウレトジオン2量体、1,6−ジイソシアナトヘキサンのビウレット、1,6−ジイソシアナトヘキサンのアロファネート、およびこれらの混合物である。さらに、α,α’−ジメチル−m−イソプロペニルベンジルイソシアネートのようなイソシアネート官能性モノマーの(コ)ポリマーが使用に適する。
【0015】
本発明によるコーティング組成物において、イソシアネート官能基とヒドロキシル基の当量比は、適切には、0.5と4.0の間、好ましくは、0.7と3.0の間、より好ましくは、0.8と2.5の間である。通常、コーティング組成物におけるヒドロキシ官能性バインダーとイソシアネート官能性架橋剤の重量比は、不揮発分に基づいて、85:15と15:85の間、好ましくは、70:30と30:70の間である。
【0016】
上記のように、コーティング組成物中に存在する全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%が、ヒドロキシル基である。別の実施形態では、コーティング組成物中に存在する全てのイソシアネート反応性基の少なくとも70mol%、または少なくとも80mol%が、ヒドロキシル基である。通常、イソシアネート反応性基の全数に対する大きなmol%のヒドロキシル基が、硬化したコーティングの屋外耐久性を向上させることが見出された。
【0017】
上記のように、本発明のコーティング組成物は、また、イソシアネート基とヒドロキシル基の付加反応のための金属系触媒も含む。このような触媒は当業者に知られている。この触媒は、通常、コーティング組成物の不揮発物に対して計算して、0.001から10重量%、好ましくは、0.002から5重量%の量で、より好ましくは、0.01から1重量%の量で用いられる。金属系触媒における適切な金属には、亜鉛、コバルト、マンガン、ジルコニウム、ビスマス、およびスズが含まれる。コーティング組成物が、スズ系触媒を含むことが好ましい。スズ系触媒のよく知られた例は、ジメチルスズジラウレート、ジメチルスズジバーサテート(diversatate)、ジメチルスズジオレエート、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、およびスズオクトエートである。
【0018】
適切なチオール官能性化合物には、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、1,3−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、メチルチオグリコレート、2−メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸、およびシステインが含まれる。また適切であるのは、チオール官能性カルボン酸とポリオールのエステル、例えば、2−メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、11−メルカプトウンデカン酸、およびメルカプトコハク酸のエステルである。このようなエステルの例には、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトプロピオネート)、およびトリメチルロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)が含まれる。このような化合物のさらなる例は、スターターポリオール(例えば、トリメチロールプロパンおよびジメチロールプロピオン酸)に基づく超分岐ポリオールコア(hyperbranched polyol core)から構成され、これは、後で、3−メルカプトプロピオン酸およびイソノナン酸によりエステル化されている。これらの化合物は、欧州特許出願EP−A−0 448 224、および国際特許出願WO93/17060に記載されている。
【0019】
エポキシ官能性化合物へのHSの付加生成物もまた、チオール官能性化合物を与える。これらの化合物は、次の式の構造、T[(O−CHR−CH−O)CHCHXHCHYH](Tは、m価の有機基であり、Rは、水素またはメチルであり、nは、0と10の間の整数であり、XおよびYは酸素または硫黄であるが、但し、XおよびYは同じではない)を有し得る。このような化合物の例は、商標Capcure(登録商標)3/800でCognisから市販されている。
【0020】
チオール官能基を含む化合物を調製するための他の合成には、アルキルまたはアリール化合物にそれぞれメルカプトペンダント基を導入するための、ハロゲン化アリールまたはアルキルとNaHSとの反応;構造内にメルカプトペンダント基を導入するための、グリニャール試薬と硫黄との反応;求核反応、求電子反応またはラジカル反応による、ポリメルカプタンとポリオレフィンとの反応;ならびにジスルフィドの反応;が含まれる。
【0021】
好ましいチオール官能性化合物は、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、およびCapcure 3/800である。
【0022】
本発明の別の実施形態において、チオール基は、樹脂に共有結合で結び付いていてもよい。このような樹脂には、チオール官能性ポリウレタン樹脂、チオール官能性ポリエステル樹脂、チオール官能性重付加ポリマー樹脂、チオール官能性ポリエーテル樹脂、チオール官能性ポリアミド樹脂、チオール官能性ポリウレア樹脂、およびこれらの混合物が含まれる。チオール官能性樹脂は、HSとエポキシ基または不飽和炭素−炭素結合含有樹脂との反応、ヒドロキシル官能性樹脂とチオール官能性酸との間の反応によって、また、イソシアネート官能性ポリマーと、チオール官能性アルコールまたはジ−もしくはポリメルカプト化合物のいずれかとの反応によって調製できる。
【0023】
チオール官能性化合物は、通常、コーティング組成物の不揮発物に対して計算して、0.001から10重量%、好ましくは、0.002から5重量%の量で、より好ましくは、0.01から2重量%の量で存在する。チオール官能性化合物の実際の量は、用いられる金属系触媒のタイプと量、チオール官能性化合物のチオール当量、およびコーティング組成物に望まれる特性プロフィールに応じて決まる。ある実施形態では、金属系触媒の金属原子を超えるモル過剰のチオール基を組成物が含むような量でチオール官能性化合物を用いることが有益であり得る。
【0024】
本発明のコーティング組成物は、化学線放射によって活性化できる光潜在性塩基をさらに含む。化学線放射による活性化の前には、光潜在性塩基は、8未満のpKa値を有する。
【0025】
pKa値は、プロトンが付加した塩基の解離定数Kの−logである。
=[HB]/[B][H
解離定数は、通常、水性環境において、20℃の温度で求められる。
【0026】
一実施形態において、光潜在性塩基の活性化は、活性化の前のpKa値より、少なくとも1単位大きいpKa値を有する塩基を放出する。これは、コーティング組成物のポットライフと照射による硬化速度との特に良好なバランスに導く。
【0027】
適切な光潜在性塩基には、アルキルエーテルおよび/またはアルキルエステル基により置換されてもよい、N−置換された4−(o−ニトロフェニル)ジヒドロピリジン、ならびに第4級有機ホウ素光開始剤が含まれる。N−置換された4−(o−ニトロフェニル)ジヒドロピリジンの例は、N−メチルニフェジピン(Macromolecules 1998、31、4798)、N−ブチルニフェジピン、N−ブチル2,6−ジメチル4−(2−ニトロフェニル)1,4−ジヒドロピリジン3,5−ジカルボン酸ジエチルエステル、および次の式に従うニフェジピン、
【0028】
【化1】


すなわち、N−メチル2,6−ジメチル4−(4,5−ジメトキシ−2−ニトロフェニル)1,4−ジヒドロピリジン3,5−ジカルボン酸ジエチルエステルである。第4級有機ホウ素光開始剤の例は、GB−A−2 307 473に開示されており、例えば、
【0029】
【化2】


である。
【0030】
これまでで最適の結果は、α−アミノアセトフェノンのグループに属する光潜在性塩基により得られた。本発明による光活性化可能なコーティング組成物に使用され得るα−アミノアセトフェノンの例は、EP−A−0 898 202に開示されている、4−(メチルチオベンゾイル)−1−メチル−1−モルホリノエタン(Ciba Specialty ChemicalsによるIrgacure(登録商標)907)、および(4−モルホリノベンゾイル)−1−ベンジル−1−ジメチルアミノプロパン(Ciba Specialty ChemicalsによるIrgacure(登録商標)369)である。好ましいのは、次の式に従うα−アミノアセトフェノンである。
【0031】
【化3】

【0032】
光潜在性塩基は、固体硬化性材料の0.01から10wt%、好ましくは、0.05から5wt%、より好ましくは0.05から3wt%の間の量で使用され得る。
【0033】
本コーティング組成物は、特に低分子量バインダー(1種または複数の反応性希釈剤と組み合わせてもよい)が用いられる場合、揮発性希釈剤なしに、用いられ、塗布され得る。あるいは、本コーティング組成物は、揮発性有機溶媒を任意に含んでいてもよい。好ましくは、本コーティング組成物は、全組成物に対して、500g/l未満、より好ましくは、480g/l未満、最も好ましくは、420g/l以下の揮発性有機溶媒を含む。本組成物の不揮発分(通常、固形分含有量と呼ばれる)は、全組成物に対して、好ましくは、50重量%より大きく、より好ましくは、54重量%より大きく、最も好ましくは、60重量%より大きい。
【0034】
適切な揮発性有機希釈剤の例は、炭化水素(例えば、トルエン、キシレン、Solvesso 100)、ケトン類、テルペン類(例えば、ジペンテンもしくはパイン油(pine oil)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン)、エーテル類(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル)、エステル類(例えば、エチルアセテート、エチルプロピオネート、n−ブチルアセテート、またはエーテルエステル類、例えば、メトキシプロピルアセテートもしくはエトキシエチルプロピオネート)である。これらの化合物の混合物もまた使用され得る。
【0035】
所望の場合、本コーティング組成物に、1種または複数のいわゆる「規制対象外溶媒(exempt solvent)」を含めることが可能である。規制対象外溶媒は、スモッグを生成する、大気での光化学反応に関与しない揮発性有機化合物である。それは有機溶媒であり得るが、日光の存在下で窒素酸化物と反応するのに非常に長い時間を要するので、米国環境保護庁は、その反応性が無視できると見なす。塗料およびコーティングに用いることが認められた規制対象外溶媒の例には、アセトン、メチルアセテート、パラクロロベンゾトリフルオリド(Oxsol 100の名称で市販されている)、および揮発性メチルシロキサンが含まれる。tert−ブチルアセテートもまた、規制対象外溶媒と見なされている。
【0036】
上記の成分以外に、本発明のコーティング組成物には、他の化合物が存在し得る。このような化合物は、前記のヒドロキシ官能性化合物および/またはイソシアネート官能性架橋剤で架橋され得る反応性基を任意に含む、バインダーおよび/または反応性希釈剤であり得る。このような他の化合物の例は、ケトン樹脂、ならびにオキサゾリジン類、ケチミン類、アルジミン類、およびジイミン類のような潜在的アミノ官能性化合物である。これらおよび他の化合物は当業者に知られており、特に、US 5214086に挙げられている。
【0037】
コーティング組成物は、コーティング組成物に一般的に用いられる他の成分、添加剤または補助剤、例えば、顔料、染料、界面活性剤、顔料分散助剤、レベリング剤、湿潤剤、クレーター(crater)生成防止剤、消泡剤、たれ防止剤、熱安定剤、光安定剤、UV吸収剤、酸化防止剤、およびフィラーをさらに含み得る。
【0038】
ヒドロキシ官能性バインダーおよびイソシアネート官能性架橋剤を含むコーティング組成物にはよくあることであるが、本発明による組成物は、限られたポットライフを有する。その結果、本組成物は、マルチコンポーネント組成物、例えば、2コンポーネント組成物または3コンポーネント組成物として適切に提供される。したがって、本発明はまた、
a)ポリオールバインダー、およびヒドロキシル基とイソシアネート基の付加反応のための金属系触媒を含むバインダーモジュール、
b)ポリイソシアネート架橋剤を含む架橋剤モジュール、および任意に
c)液体希釈剤を含む希釈剤モジュール
を含み、
チオール官能性化合物および光潜在性塩基が、別々に、または組合わせて、モジュールa)およびc)(存在する場合)の1つまたは複数に存在する、
コーティング組成物の調製のための部材のキットにも関する。
【0039】
本発明のコーティング組成物は、任意の基材に塗布することができる。基材は、例えば、金属(例えば、鉄、スチール、およびアルミニウム)、プラスチック、木材、ガラス、合成材料、紙、革、または別のコーティング層であり得る。別のコーティング層は、本発明のコーティング組成物からなっていてもよく、あるいは、異なるコーティング組成物であってもよい。本発明のコーティング組成物は、クリアコート、ベースコート、着色トップコート、プライマー、およびフィラーとして、特別な有用性を示す。本発明のコーティング組成物がクリアコートである場合、それは、好ましくは、色−および/または効果−付与ベースコート上に塗布される。その場合、クリアコートは、自動車の外面に通常塗布されるような、多層ラッカーコーティングのトップ層を形成する。ベースコートは、水性ベースコートまたは溶剤系ベースコートであり得る。
【0040】
本コーティング組成物は、橋、パイプライン、産業プラントまたは建築物、オイルおよびガス設備、または船舶のようなものをコーティングするのに適している。組成物は、自動車および大型輸送手段(例えば、列車、トラック、バス、および航空機)の仕上げ塗装に、また再仕上げ塗装に特に適している。
【0041】
本発明のコーティング組成物は、同様に、接着剤としても使用できる。したがって、本明細書で用いられる場合、表現「コーティング組成物」は、また、接着剤組成物も包含する。
【0042】
本発明によるコーティング組成物は、照射硬化性である。コーティングの硬化は、コーティング組成物を、基材に塗布する前に、その間に、またはその後で、紫外線に曝露することによって開始できる。基材に塗布する前の紫外線への曝露は、例えば、すぐにスプレーできる(ready−to−spray)コーティング組成物を紫外線に曝露することによって実施できる。一実施形態において、紫外ランプを、液体コーティング組成物中に浸してもよい。あるいは、容器内のコーティング組成物が、UVキャビネットのような外部光源から、紫外線に曝される。紫外光による活性化の後、活性化されたコーティング組成物の粘度は、増加し始める。しかし、最終のコーティング特性を低下させないで、活性化されたコーティング組成物を塗布できる比較的長い時間(例えば、1時間)が存在する。塗布する前の照射により、3次元形状の基材によって引き起こされる問題が避けられる。コーティングを基材に塗布した後で照射を施されなければならない場合に、このような基材に伴う公知の問題は、UV硬化過程における光の当たらない部分(shadow area)の存在である。塗布する前の照射のさらなる利点は、人が有害な紫外線に曝露される危険なしに、閉ざされたUV光キャビネットにおいて安全に、コーティング組成物を含む容器を照射できるということである。高エネルギーのUVB放射またはUVC放射さえ安全に使用できる。
【0043】
塗布する前の本コーティング組成物の照射は、クリアコート組成物に特に適している。
【0044】
塗布している間の紫外光への曝露では、スプレーしている間にスプレーミストの紫外線での照射が可能な特殊なスプレーガンが使用され得る。このようなプロセスに適するスプレーガンは、国際特許出願WO2004/69427Aに記載されている。塗布した後での紫外線への曝露では、公知の紫外硬化デバイス、例えば、手で持てるランプが使用され得る。紫外線への曝露は、塗布した後、直ちに、すなわち中間のフラッシュオフ(flash−off)または蒸発段階なしに、行ってもよい。あるいは、照射は、中間のフラッシュオフまたは蒸発段階の後に、実施され得る。紫外線放射を2段階以上で、例えば、
・基材へ塗布する前、およびその間、
・基材へ塗布する前、およびその後、
・基材へ塗布する前、その間、およびその後、また
・基材へ塗布する間、およびその後、
実施することもまた可能である。
【0045】
全ての実施形態において、使用され得る紫外線源は、UVでは普通のもの、例えば、高−および中−圧水銀ランプである。非常に短い波長(UVBおよび/またはUVC光)のUV光を取り扱うことに含まれる如何なる危険も回避するために、特に自動車の再仕上げ塗装店で使用される場合、害の少ないUVA光を生じる蛍光ランプが好ましい。UV発光ダイオード(UV−LED)も同様に使用できる。紫外線への通常の曝露時間は、5から400秒、または20から100秒、または30から80秒である。
【0046】
紫外線への曝露の後、基材に塗布されたコーティングは、熱的に硬化させる熱硬化ステップに適切に供される。熱硬化ステップは、10℃と80℃の間の温度で適切に実施される。好ましい温度は、20℃と60℃の間、例えば25℃、または40℃である。一実施形態において、熱硬化ステップは、能動的な熱供給なしに、周囲温度で実施される。あるいは、熱硬化ステップは、熱が高温空気または対流によって供給される熱チャンバにおいて、少なくとも部分的に実施され得る。さらなる実施形態において、熱硬化ステップは、赤外線による照射によって支援される。どのような市販の赤外照射デバイス(例えば、短波長または中波長赤外線を放射するデバイス)も使用できる。
【0047】
本コーティング組成物を紫外線に曝露することにより、光潜在性塩基が非潜在形に、すなわち、活性塩基に変換されると考えられる。さらに、本コーティング組成物に存在する金属系硬化触媒はチオール官能性化合物によって少なくとも部分的に不活性化されていて、不活性化が塩基の存在で逆転されると考えられる。
【実施例】
【0048】
【化4】

【0049】
ポリエステルポリオール(PEPO)の調製
撹拌機、加熱システム、熱電対、充填カラム、冷却器、および水分離装置を装備した反応容器に、440重量部のトリメチロールプロパン、170重量部のヘキサヒドロフタル酸無水物、および390重量部のEdenor V85を入れた。さらに、ビルディングブロックに対して計算して、1重量%の量のリン酸水溶液(85重量%)を触媒として加えた。不活性ガスの下で、温度を徐々に240℃に上げた。カラムの頂部の温度が102℃を超えないような速度で反応水を留去した。306mg KOH/gの水酸基価を有するポリエステルが得られるまで、反応を続けた。酸価は3mg KOH/gであった。
【0050】
比較コーティング組成物A
チオール官能性化合物を含まず、また光潜在性塩基を含まないクリアコート組成物を次の成分(これらの量は、重量部(pbw)によって与えられている)を混合することによって調製した。
成分 pbw
PEPO 50.27
DBTL溶液 5.10
BYK 331溶液 1.00
n−ブチルアセテート 13.00
Tolonate HDL LV 49.73
n−ブチルアセテート 28.10
【0051】
比較コーティング組成物B
光潜在性塩基を含まないクリアコート組成物を比較コーティング組成物Aに対する上と同じ成分に加えて、3.40pbwのPTMPを混合することによって調製した。
【0052】
本発明によるコーティング組成物1
本発明によるクリアコート組成物を次の成分(これらの量は、重量部(pbw)によって与えられている)を混合することによって調製した。
成分 pbw
PEPO 50.27
DBTL溶液 5.10
BYK 331溶液 1.00
n−ブチルアセテート 13.00
Tolonate HDT LV 49.73
n−ブチルアセテート 13.00
PTMP 3.40
2−ベンジル−1−(3,4−ジメトキシ−フェニル)−2−ジメチルアミノ−1−オン(光潜在性塩基) 1.50
キシレン 15.10
【0053】
成分を混合した後、クリアコートA、B、および1をコイルコート(coil−coat)Alパネル(7×25cm)上に塗布した。間に2分間のフラッシュオフを入れて、2層のクリアコートをDeVilbiss GTI 1.3ガン(圧力=2.5〜2.7bar)でスプレーした。
【0054】
クリアコートの粘度の推移をDIN−カップ4(DC4)により測定し秒で表す。測定前には試料から光を遮断し、測定は22℃で行った。ポットライフは、混合後の初期粘度が2倍になるまでの時間であると見なした。粘度測定の結果を下の表に要約する。
【0055】
【表1】

【0056】
表から、比較クリアコートAは、たった5分の非常に短いポットライフを有することが推定できる。比較実施例B(これは、チオール官能性化合物をさらに含む)は、2時間後でさえ、ほとんど粘度増加を示さない。同様に、実施例1のクリアコート組成物は、2時間後にほとんど粘度増加を示さない。
【0057】
次の様々な条件下で、比較組成物Bおよび組成物1によるコーティングのタッチドライ(touch dry)時間を手作業で求めた:
・室温(RT)で、
・UV−Aランプによる1分間の照射、その後、室温、
・UV−LEDランプによる1分間の照射、その後、室温、
・UV−Aランプの下での連続照射、
・40℃、50℃、および60℃のオーブン中。
【0058】
UV−AランプおよびUV−LEDランプ(距離=パネルから48cm;光の強さ=5.6mW/cm)の下でのパネル上の光の強さをSolameter(デジタル紫外放射計UVA+B)により測定した。
【0059】
【表2】

【0060】
これらの結果から、本発明による組成物1がUV光の下で活性化され、室温または僅かに高い温度で乾燥速度の増加を生じることが明らかである。
【0061】
実施例2から4のコーティング組成物を下に要約した成分を混合することによって調製した。それらの量は重量部で与えられている。
【0062】
【表3】

【0063】
混合後の組成物の粘度は、15.3と15.8s(DC4)の間であった。実施例2から4の組成物を上記のようにスプレー塗布した。
再び、以下の条件の下で、タッチドライ時間を手作業で求めた:
・室温でUV−Aランプによる連続照射(UV)、
・UV−Aランプによる1分間の照射、その後、60℃のオーブンで処理(UV60)、
・UV−Aランプによる1分間の照射、その後、40℃のオーブンで処理(UV40)、
・UV−Aランプによる1分間の照射、その後、室温で硬化(UV RT)。
【0064】
様々な硬化条件の下での乾燥時間(タッチドライ)(分)を下に要約する。
【0065】
【表4】

【0066】
乾燥時間から、酸含有量の少ないポリオールの使用は、照射後の速い硬化速度を実現するのに、さらなる有益な効果を有することが推定できる。最も早い硬化は実施例4で得られ、これは、酸価が最も小さいポリオールに基づいている。硬化後の全てのコーティングは、非常に良好な光沢および硬さを有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリオール、
b)ポリイソシアネート架橋剤、
c)ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、
d)金属系触媒を少なくとも部分的に不活性化するチオール官能性化合物、および
e)化学線放射によって活性化でき、活性化の前に、8未満のpKa値を有する光潜在性塩基
を含み、全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%がヒドロキシル基である、非水性コーティング組成物により
i)前記コーティング組成物を基材に塗布するステップ、および
ii)前記コーティング組成物を硬化させるステップ
を含む、基材をコーティングする方法。
【請求項2】
前記コーティング組成物を、基材に塗布する前に、その間に、またはその後で、紫外線に曝露することによって、前記コーティングの硬化が開始される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クリアコート組成物を、基材に塗布する前に、UV光キャビネットで紫外線に曝露することによって、前記コーティングの硬化が開始される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
紫外線への曝露の後、基材に塗布された前記コーティングが、10℃と80℃の間の温度で熱的に硬化される熱硬化ステップにかけられる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱硬化ステップが、高温空気または対流によって熱が供給される加熱チャンバにおいて少なくとも部分的に実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記熱硬化ステップが、赤外線による照射によって支援される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
a)ポリオール、
b)ポリイソシアネート架橋剤、
c)ヒドロキシル基とイソシアネート基との付加反応のための金属系触媒、
d)チオール官能性化合物、および
e)化学線放射によって活性化され、活性化の前に、8未満のpKa値を有する光潜在性塩基
を含み、全てのイソシアネート反応性基の少なくとも60mol%がヒドロキシル基である、非水性コーティング組成物。
【請求項8】
前記ヒドロキシル基とイソシアネート基の付加反応のための金属系触媒の金属が、スズ、ジルコニウム、ビスマス、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項7に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記金属系触媒の量が、前記組成物の不揮発物に対して計算して、0.001から10重量%の範囲にある、請求項7または8に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
前記チオール官能性化合物の量が、組成物の不揮発物に対して計算して、0.001から10重量%の範囲にある、請求項7から9のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
膳基礎生物が、揮発性有機溶媒を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
前記ポリオールの酸価が10mg KOH/gを超えない、請求項7から11のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
【請求項13】
a.ポリオールバインダー、およびヒドロキシル基とイソシアネート基の付加反応のための金属系触媒を含むバインダーモジュール、
b.ポリイソシアネート架橋剤を含む架橋剤モジュール、および任意に
c.液体希釈剤を含む希釈剤モジュール
を含み、チオール官能性化合物および光潜在性塩基が、別々に、または組合わせて、モジュールa)およびc)の1つまたは複数に存在する、請求項7から12のいずれか一項に記載のコーティング組成物の調製のための部材のキット。
【請求項14】
接着剤としての、請求項7から12のいずれか一項に記載の組成物の使用。

【公表番号】特表2012−521877(P2012−521877A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502609(P2012−502609)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054057
【国際公開番号】WO2010/112441
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(500286643)アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ (67)
【Fターム(参考)】