コーティングを有する電極、その製造方法および材料の使用
電気化学電池(27)用の電極(23)である要素であって、導電性基材(28)と、導電性基材上に形成されこれを少なくとも部分的に覆う多元素材料を含む導電性耐食コーティング(29)とを備えた要素を開示する。また、このような電極の製造方法と、電気化学電池用の電極の防食のための多元素材料の使用も開示する。多元素材料は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種の組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きな数である。多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
技術分野
本発明は、電気化学電池用の電極、特に燃料電池用のバイポーラプレート(この電極は導電性基材と前記導電性基材上に形成された導電性の耐食コーティングとを備える)、この電極の製造方法、この電極を具備した電気化学電池、および電気化学電池用の電極の防食のための材料の使用に関する。
【0002】
技術的背景
過去、燃料電池は主に利点たとえば燃料(水素および酸素の供給)の入手可能性または特性が費用に優先する場合に使用されてきた。しかし、今日、技術的進歩と環境問題の高い意識のために、燃料電池は(まだそこまでいかなくても、少なくとも間近には)より大規模な商業的ブレークスルーの状態にある。
【0003】
1つの燃料電池のタイプはプロトン交換膜(PEM)燃料電池(または単にPEMFC)であり、これは膜−電極接合体(MEA)を具備し、次に接合体は典型的には2つのガス拡散層(通常は炭素層)の間に挟まれた電解質としてポリマー膜を備え、ガス拡散層は触媒粒子(通常は貴金属たとえば白金)も含有する。今日、最も一般的な膜はナフィオン(登録商標)であるが、他の選択肢もある。
【0004】
PEMFCの作動中、炭素層はそれぞれアノードおよびカソードとして働く。アノード側の燃料(たとえば水素)はアノード側の炭素層を通って拡散し触媒粒子と反応して水素カチオン(プロトン)を生じ、これは膜を通ってカソード側へ拡散する。カソード側の燃料(たとえば空気または酸素を含む任意のガス)はカソード側の炭素層を通って拡散し触媒粒子と反応して酸素アニオンを生じる。カソードにおいて、アニオンはカチオンと反応して反応残留生成物(通常は水)が生じる。また、この反応は熱および、もちろん、電気エネルギーをもたらす。
【0005】
MEAは、典型的には、それぞれアノードおよびカソードに接触している、2つの導電性プレートの間に配置される。これらのプレートは集電体として働き、典型的には表面に流路を表面に備え、表面での燃料の広がりを促進して触媒を促進する。実際、典型的には燃料電池のスタックを配置して電気的な直列接続を形成するので、これらのプレートは典型的にはこのようなスタックの燃料電池要素を接続するように配置され、こうしてプレートの片面は1つの燃料電池のためのアノードとして働き、他の面はスタックにおける次の燃料電池のためのカソードとして働く。したがって、プレートは典型的にはバイポーラプレートと呼ばれ、それとして知られている。ありうる他の名称はフロープレートなどである。
【0006】
多くの望ましい特性はバイポーラプレートに関連しており、これらは低い電気抵抗、軽量、薄さ、耐食性、作動条件下での安定性および、もちろん、低コストを含む。すべてのこれらの特性に合う材料を見つけるのはそれほど簡単なことではないことが分かっている。耐食性は、燃料電池における過酷な環境のため、PEMFCにおける典型的には約2−3のpHおよび約80℃の高温のため、特に問題である。他のタイプの燃料電池では、温度がさらに高く、環境がより腐食性であろう。
【0007】
グラファイトは、バイポーラプレートのための従来の材料選択の1つであり、非腐食性であるが、このようなプレートは比較的高価であり、炭素の不十分な構造安定性のために厚く、流路を加工するのに時間がかかる。他の選択肢はたとえば炭素粒子を含む導電性プラスチック材料を含み、これは低コストで作製することができるが比較的高い電気抵抗を有し、また比較的厚くなるという不都合がある。貴金属プレートは薄くすることができ、良好に導電し、非常に耐食性であり、構造安定性を保持した状態で薄くすることができるが、コストが高いという不都合があり、したがって商業的に成功が見込める選択肢として見られない。
【0008】
他の金属は典型的には、低い耐食性、または高い耐食性を有するが電気抵抗が高い(典型的には酸化膜の形成のため)という損失のいずれかの不都合がある。
【0009】
非貴金属は、耐食性を除いたほぼ全ての点で適しているために、未だにバイポーラプレート用として関心がある。そのため、金属製バイポーラプレートの耐食性を高める試みがなされてきた。これらの解決策に共通するのは、下地の金属コア(すなわち基材)を腐食から保護するように配置したある種の外側導電層の使用である。このような構造体のための組み合わせの可能性は膨大であることが理解される。とりわけ経済的な理由により、アルミニウムまたはステンレス鋼をベースとするバイポーラプレートが多くの注意を引いており、現在おそらく最も有望な選択肢であると考えられている。以下に、従来技術において提案された多くの解決策を挙げる。
【0010】
DE10017058A1は、第2金属からなるメタリックコーティングを有する第1金属から形成されたバイポーラプレートを開示している。プレートのバルク材料(コア)は、St37、アルミニウムまたはアルミニウム合金である。メタリックコーティングは金、錫、鉛−錫合金またはタンタルから形成され、任意に追加のメタリック中間層(たとえば銅またはニッケル)を有する。メタリックコーティングは電着またはスパッタリングにより付着される。
【0011】
US2007287057Aは、チタンまたは酸化チタンの層と、プレートを導電性かつ親水性にする酸化チタン/酸化ルテニウムの層とを含むステンレス鋼流動場プレートを開示している。チタンは、適切なプロセスたとえばPCVまたはCVDを使用して、ステンレス鋼バイポーラプレートの表面上に金属または酸化物として堆積される。塩化ルテニウムのエタノール溶液がチタン層に塗布される。その後、プレートをか焼し、ステンレス鋼上に、燃料電池環境において親水性でありかつ導電性である寸法安定な酸化チタン/酸化ルテニウムを設ける。
【0012】
US2004005502Aは、電気化学電池用、特に燃料電池におけるバイポーラプレートとして使用するための導電性部材を記載している。この導電性部材は、ドープトダイアモンドコーティングおよび/またはドープトダイアモンドライクカーボンコーティングを備えた金属部品からなる。このコーティングは、この部材を、好ましいコストで製造され、にもかかわらず優れた耐食性および高い導電性という2つの要件を満たすことを可能にすると主張されている。このような部材をCVDおよび/またはPVDプロセスによって製造する方法も説明されている。金属部品は、チタン、ステンレス鋼、鋼、錫めっき鋼、アルミニウム、マグネシウムおよび/またはこれらの合金から形成され得る。
【0013】
発明の概要
以上を考慮して、この開示の目的は、従来技術における問題を克服するかまたは少なくとも緩和する解決策を提供することにある。より具体的な目的は、燃料電池たとえばPEMFC用のバイポーラプレートの防食に関して現在の解決策に対する代替的な解決策を提供することにある。
【0014】
本発明は添付の独立形式請求項によって定義されている。好ましい実施形態は従属形式請求項ならびに以下の説明および図面に記載されている。
【0015】
よって、第1の態様によれば、導電性基材と、前記導電性基材上に形成され、これを少なくとも部分的に覆う導電性耐食コーティングとを備えた電気化学電池用の電極であって、前記コーティングが多元素材料を含む電極が提供される。
【0016】
第2の態様によれば、前記電極を具備した電気化学電池が提供される。
【0017】
第3の態様によれば、電気化学電池用の電極の防食のための多元素材料の使用が提供される。
【0018】
第4の態様によれば、電極の製造方法であって、導電性基材を用意する工程と、前記導電性基材上に導電性耐食コーティングを形成して前記導電性基材を前記コーティングによって少なくとも部分的に覆う工程とを含み、前記コーティングが多元素材料を含む方法が提供される。
【0019】
多元素材料は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、この多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジットをさらに含む。典型的にはqおよびyの両方がゼロより大きい数である。
【0020】
「ナノコンポジット」はナノスケールで偏析した2つ以上の相を含む。これらの相は0.1nmよりも大きく1000nmよりも小さな特徴的な長さスケールを持つ結晶、領域および/または構造である。これらの層は結晶質である必要がないことに留意されたい。
【0021】
多元素材料は式Mn+1AXnで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有していてもよく、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、nは1、2、3またはそれ以上であり、この多元素材料は対応するMn+1AXnの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジットをさらに含む。
【0022】
上記のようなコーティングにより、電気化学電池の高度に腐食性のある環境においても、耐食性でありかつ導電性である電極を比較的低コストで実現することができる。
【0023】
このコーティングは対応するMn+1AXnの化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを約0−80重量%、または約0−70重量%、または約0−60重量%、または約0−50重量%の範囲内で含んでいてもよい。
【0024】
ナノコンポジットはM−A、A−X、M−A−X、XおよびM−Xからなる群より選択される少なくとも2つの相を含んでいてもよい。
【0025】
前記コーティングの高い耐食性のために、MはCrまたはNiが好ましい。Aは好ましくはSiであり、Xは好ましくはCである。
【0026】
あるいは、Mはチタンでもよく、Xは炭素でもよく、A族元素は珪素、ゲルマニウムまたは錫の少なくとも1種でもよい。
【0027】
多元素材料はTi3SiC2でもよく、ナノコンポジットはTi−C、Si−C、Ti−Si−C、Ti−SiおよびCからなる群より選択される少なくとも1つの相を含んでいてもよい。
【0028】
コーティングはメタリック層をさらに含んでいてもよい。このメタリック層はAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、In、Sn、Re、Ru、Mo、W、Niのいずれか1種、または上記金属のいずれか少なくとも1種を有する合金でありうる。
【0029】
メタリック層は任意の金属または金属複合材でもよく、この複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる。
【0030】
メタリック層は任意の金属または金属複合材でもよく、この複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料、たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物でありうる。
【0031】
1つの実施形態では、多元素材料はメタリック層と積層されて多層構造をなしている。
【0032】
多元素材料は、コンタクト表面がメタリックになるように、メタリック層のコーティングを有していてもよい。
【0033】
さらに、コーティングは、コーティングの耐食性、機械的性質、熱的性質および電気的性質の少なくとも1つを変更して向上させるために、1種以上の化合物または元素でドープされていてもよい。
【0034】
このコーティングはAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、In、Sn、Ni、Ta、Nb、ZrおよびHfの少なくとも1つでドープされていてもよい。
【0035】
ナノコンポジットは少なくとも部分的にアモルファス状態にあってもよく、および/またはナノコンポジットは少なくとも部分的にナノ結晶状態にあってもよい。
【0036】
ナノコンポジットはナノ結晶領域と混合したアモルファス領域を有していてもよい。
【0037】
導電性基材は典型的にはステンレス鋼、アルミニウムおよびニッケルの少なくとも1種かまたはそれらの合金でありうる金属を含む。
【0038】
上記の方法では、コーティングは好ましくは物理蒸着(PVD)によって、好ましくはスパッタリングによって形成される。コーティングは少なくとも部分的に高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって形成されてもよい。HIPIMSは、コーティングによる電極の幾何構造、たとえば電極内の流路に関する幾何構造への低い影響を可能にし、またコーティング内に弱い所ができるおそれを低減させ、こうして腐食のおそれをさらに少なくする。
【0039】
1つの実施形態では、コーティングは、HIPIMSによって基材上に第1サブレイヤーを形成し、次に他のPVD法によって第1サブレイヤー上に第2サブレイヤーを形成することによって形成される。このようにして、HIPIMSによって与えられる緻密な微細構造の層を、より通常のDC−スパッタリングによって、しかしより速い堆積速度で続けることができる。こうして、緻密なコーティングを比較的高い速度で与えることができる。
【0040】
コーティングは、PVDに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度での外部加熱下でスパッタリングすることによって形成されてもよい。
【0041】
上述した内容、ならびに本発明の他の態様、目的、特徴および利点は、添付の概略図を参照して、以下の例示的でありかつ非制限的な詳細な説明によってより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1a】図1aは、PEMタイプの燃料電池の側面図を概略的に示す。
【図1b】図1bは、図1aの燃料電池のバイポーラプレートの1つの平面図を概略的に示す。
【図1c】図1cは、図1a−bのバイポーラプレートの1つの側面図と、その表面部分の断面側面図とを概略的に示す。
【図2】図2は、被覆されていないステンレス鋼基材および多元素Cr−Si−Cコートしたステンレス鋼基材に関する耐食性測定による測定曲線の例を示す。
【図3a】図3aは、アモルファス領域と混合したナノ結晶を持つナノコンポジットを有する多元素材料層の構造の概略図である。
【図3b】図3bは、アモルファス領域と混合したナノ結晶層およびアモルファス層を持つナノコンポジットを有する多元素材料層の他の構造の概略図である。
【図3c】図3cは、ナノ結晶状態にある領域を持つ多元素材料層の他の構造の概略図である。
【図4】図4は、多元素材料層およびメタリック層の概略図である。
【図5】図5は、メタリック層と積層されて繰り返し構造をなしている多元素材料層の概略図である。
【図6】図6は、メタリック層で被覆された、ナノ結晶状態にある領域を持つ多元素材料を概略的に示す。
【図7】図7は、メタリック層と積層されて繰り返し構造をなしている、ナノ結晶状態にある領域を有する多元素材料を概略的に示す。
【0043】
これらの図面において、類似したまたは対応する要素については、これらが別の例または実施形態における要素である場合であっても、同じ参照番号を使用しているであろう。これらの概略図における寸法および比は主に表示の目的で選択され、典型的には実際の応用における真の寸法および比を反映していない。
【0044】
好ましい実施形態の説明
図1aは燃料電池スタックにおいて使用するためのPEMタイプの燃料電池27の概略側面図を示す。この燃料電池は膜−電極接合体(MEA)を具備しており、次に接合体は触媒粒子を含有する2層のガス拡散層22a、22bの間に挟まれたポリマー膜21を備えている。このMEAは従来のMEAでもよい。ガス拡散層22a、22bはそれぞれのバイポーラプレート23a、23bと電気的に接触している。図1には表示の目的のため示していないが、実際には全ての要素21、22、23は隣接した要素と接触している。図1bはバイポーラプレート23aの1つの平面図を概略的に示す。このバイポーラプレートはガス拡散層22と接触すべき表面上にチャネル25を備え、燃料の広がりを促進する。両面にチャネルを備えたバイポーラプレート23a、23bが示されており、図には示していないが、これは典型的にはバイポーラプレート23a、23bが、各バイポーラプレートの両面のMEAとともにスタックをなして配置される場合にはそうである。1つの燃料電池27のみを有するスタックでは、典型的には片面のみにチャネルがあれば十分である。また、燃料を広がらせるチャネルの機能が、この燃料電池の他の部分、たとえば追加の層によって与えられるといった状況もあり、このような場合にはバイポーラプレートはチャネルが全く設けられていなくてもよい。
【0045】
図1cはバイポーラプレート23の1つの表面部分の断面を概略的に示す。図示したバイポーラプレート23は、導電性基材(すなわちコア)28と、前記基材28上に形成され、これを被覆するコーティング29とを有する。導電性基材28は典型的には金属、好ましくはステンレス鋼であるが、この基材は他の金属、これらの合金、または非金属導電性材料から形成されていてもよい。1つの実施形態では、基材28はニッケルまたはニッケル合金の層によって被覆された内部アルミニウムコアを備えている。コーティング29は導電性耐食コーティングであり、典型的には少なくとも1つの導電相からなり、式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を含む多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、この多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む。典型的には、qおよびyの両方がゼロより大きい数である。
【0046】
このような化合物は、電気コンタクト上の金に対する、導電性、耐磨耗性かつコスト効率の高い代替物として以前に提示されている。たとえばWO2005038985を参照のこと。本出願人は、この化合物が燃料電池のバイポーラプレート上の導電性かつ耐食性の保護コーティングとしても好都合に使用され得ることを見出した。このような多元素材料を含むコーティングは、バイポーラプレートの導電性および機能を損なうことなく、燃料電池の高度に腐食性の環境において、バイポーラプレートをより劣化しにくくさせることを見出した。
【0047】
多元素材料は典型的には一般式Mn+1AXn(nが1、2、3またはそれ以上である)で示される組成物を有するが、異なる元素の割合は、Mn+1およびXnが前記一般式が特定する元素の1/10から2倍まで変わりうる。単なる例として、この組成物はM0.2AX、M0.2AX0.1、M4AX、またはM2AX2でもよく、こうして一般的な式MqAyXzに対応し、ここでq、yおよびzはゼロより大きい数である。
【0048】
A族元素は周期表の13族−15族の元素(CおよびNを除く)であり、たとえばアルミニウム、珪素、リン、硫黄、ガリウム、ゲルマニウム、砒素、カドミウム、インジウム、錫、タリウムおよび鉛を含む。遷移金属は周期表の3族−12族の40種の元素であり、たとえばスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウムおよびタンタルを含む。Mn+1AXn化合物はA族元素層を分離する遷移金属層の数によって特徴づけられる。いわゆる211化合物は2層の遷移金属層を有し、312化合物は3層の遷移金属層を有し、413化合物は4層の遷移金属層を有する。最も一般的である211化合物の例は、Ti2AlC、Ti2AlN、Hf2PbC、Nb2AlC、(NbTi)2AlC、Ti2AlN0.5C0.5、Ti2GeC、Zr2SnC、Ta2GaC、Hf2SnC、Ti2SnC、Nb2SnC、Zr2PbCおよびTi2PbCである。3種類の312化合物のみが知られており、これらはTi3AlC2、Ti3GeC2およびTi3SiC2である。2種類の413化合物が知られ、すなわちTi4AlN3およびTi4SiC3である。
【0049】
Mn+1AXnの化合物は三相、四相または高次相でもよい。三相は3種類の元素を有し、たとえばTi3SiC2であり、四相は4種類の元素を有し、たとえばTi2AlN0.5C0.5などである。高次相は、弾性的、熱的、化学的、電気的に、多くの二相の属性を共有する。
【0050】
ナノコンポジットは、少なくとも1つのM−XおよびM−A−Xのナノ結晶と、1つ以上の相たとえばM−A、A−X、M−A−XまたはXにあるM、AおよびXの元素の少なくとも1種を有するアモルファス領域とを含んでいてもよい。
【0051】
1つの実施形態では、ナノコンポジットは炭化物および窒化物の単元素、二相、三相、四相または高次相の個々の領域を含む。
【0052】
上述した種類のナノコンポジット薄膜が、燃料電池のバイポーラプレート用の防食コーティングとしての使用に関して特性解析および評価を行った。1つのケースでは、多元素材料3Cr:1Si:2Cを使用した。この材料からなるコーティングは、ステンレス鋼SS2348基材プレート上にスパッタリングによってPVD蒸着した。1つのサンプルは、スパッタリングに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度で外部加熱下にスパッタリングし、他のサンプルはこのような外部加熱なしに、すなわちプラズマによって生じる温度でスパッタリングした。
【0053】
サンプルをX線回折(XRD)によって調べ、これらコーティングがX線アモルファスであることがわかった。しかし、5nmよりも小さな構造体はXRDによって検出できないことに留意されたい。接触抵抗は、外部加熱して成膜したサンプルに比べ、加熱なしで成膜したサンプルで約3倍高いことが分かったが、抵抗率は、加熱して成膜したサンプルで僅かに高かった。接触抵抗および抵抗率は、電気コンタクト上のTi−Si−Cについて以前に報告されたものと一致し、同程度であることが分かった。また、接触抵抗と抵抗率との間に相関関係がないことは、コンタクトのためのTi−Si−Cコーティングに関する以前の研究と一致している。以前の研究では、同様の挙動が報告され、表面形態が膜抵抗率よりも接触抵抗に大きく影響を及ぼすということによって説明されている。
【0054】
三電極電池を用いて基材上の膜の腐食挙動を評価した。使用した電極は、評価されるべきサンプルである作用電極(WE)、グラファイトまたは白金からなる対向電極(CE)および銀/塩化銀からなる参照電極(RE)であった。電解質は0.5モル濃度の硫酸(H2SO4)であった。WEとREに電圧を印加し、WEとCEとの間で得られた電流を測定した。2つの測定を1つは動電位で1つは静電位で行い、被覆していないステンレス鋼基材と比較した。動電位測定では、WEとREとの間の電位を−500mVから1500mV(SSC)まで掃引し、WEとCEとの間の電流を測定した。静電圧測定では、WEとREに固定電位を印加し、WEとREとの間で得られた電流を測定した。
【0055】
動電位測定では、Cr−Si−C膜の自由腐食電位は被覆していない基材のものよりも高いことが分かった。従って、1つの結論はCr−Si−C被覆したステンレス鋼の不活性さが被覆していないステンレス鋼のものよりも高いことである。この点に関して、異なる温度で成膜した膜の間に大きな違いはなかった。
【0056】
図2は静電位測定による測定曲線の例を示す。曲線を作るために、+0.8V SHE(標準水素電極)を約24時間印加した。下の曲線33は高温で被覆したサンプルを表し、上の曲線31は被覆していないステンレス鋼を示す。24時間後の電流は、被覆していないサンプルで約20倍高いことがわかり、これはCr−Si−C被覆したステンレス鋼の場合、腐食が著しく少ないことを意味している。腐食性環境に曝した後、サンプルをXPS(X線光電子分光法)によって調べた。被覆していないステンレス鋼基材上には腐食生成物が明らかに見られたが、Cr−Si−C被覆したステンレス鋼基材では見られなかった。
【0057】
1つの実施形態では、多元素材料は図3aに従った構造を有し、アモルファス領域6と混合したナノ結晶5からなるナノコンポジット4を含む。ナノ結晶5は全て同じ相からなっていてもよいし様々な相からなっていてもよい。
【0058】
代わりの実施形態では、多元素材料は図3bに従った構造を有し、ナノ結晶5と混合したアモルファス領域6からなるナノコンポジット4を含み、ナノ結晶5の一部はアモルファス層11またはナノ結晶層12によって囲まれている。
【0059】
さらに他の実施形態では、多元素材料は図3cに従った構造を有し、ナノ結晶領域5からなるナノコンポジット4を含む。
【0060】
コーティングの厚さは典型的には約0.001μmないし約1,000μmの範囲内にあるが、好ましくは約0.001μm−5μmである。
【0061】
他の実施形態では、ナノ結晶は他の相からなる薄膜によって被覆されていてもよい。
【0062】
ナノ結晶領域とアモルファス領域との間の分布は上で例示したものと異なっていてもよい。ナノコンポジットはほぼ全体的に結晶質でもよいしほぼ全体的にアモルファスでもよい。
【0063】
また、多元素材料およびナノコンポジットからなる別の膜を形成することも考えられる。
【0064】
1つの実施形態では、コーティングの多元素材料層13は、図4に図示すように、薄いメタリック層14で被覆されていてもよい。好ましくは、この金属層はコンタクト層の表面がメタリック、好ましくは貴金属またはその合金になるように設けられる。他の実施形態では、図5に図示したように、コーティング29は交互の金属層14と多元素材料層13とを有するサンドイッチ構造でもよく、すなわち多元素材料層13が金属層14と積層されて多層構造、好ましくは図に示したように繰り返し構造をなしている。
【0065】
さらに他の実施形態では、図6に図示したように、コーティング29はナノ結晶状態にある領域5を含む多元素材料層を備えていてもよく、これは薄い金属層14で被覆されていてもよい。
【0066】
さらに他の実施形態では、図7に示すように、コーティング29はナノ結晶状態にある領域5を含む多元素層を備えていてもよく、このような多元素層はメタリック層と積層されて繰り返し構造をなしていてもよい。
【0067】
前記金属は好ましくは金、銀、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニッケルまたはこれら金属の少なくとも1種を有する合金であるが、他の金属も有用でありうる。
【0068】
他の実施形態では、メタリック層、すなわち必ずしも「純」金属でない層が使用されてもよい。興味のあるメタリック層は金属複合材を含み、この複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる。複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物を含んでいてもよい。
【0069】
また、M、AおよびXの元素と、1種以上の金属とを含む多元素材料の合金を使用することも可能である。合金材料は完全に固溶していてもよいし析出物の形態で存在していてもよい。使用される金属は炭化物を形成しない金属である方がよい。好ましくは、0−30%の金属が添加される。
【0070】
上述のタイプ、すなわち金属層を含むメタリック層の厚さは、好ましくは原子層の一部ないし1000μmの範囲内にあるが、好ましくは原子層の一部ないし5μmの範囲内にある。たとえば、この範囲は1mmないし1000μmであろう。
【0071】
上述したメタリック層は多元素材料のグレインまたは領域を覆っていてもよい。メタリック層および多元素材料層の組み合わせの合計厚さは典型的には0.001μmないし10000μmの範囲内にある。
【0072】
多元素材料は、過剰な炭素を、たとえば式Tin+1SiCn+Cmをもつ化合物の形態で含有していてもよい。遊離炭素元素はコーティングの表面へ輸送されて電気コンタクトを向上させ、一方で同時に表面を酸化に対して保護する。
【0073】
耐食性、熱的性質、機械的性質および/または電気的性質などの特性を向上させるためのコンタクト層の類似の種類のドーピングには、以下リストの任意の化合物の1種または組み合わせを含むであろう:単一のA族元素、A族元素の組み合わせ、Xが炭素、Xが窒素、Xが炭素および窒素の両方、M−Xのナノコンポジット、1つもしくはいくつかの相にM、A、X元素をもつナノ結晶および/またはアモルファス領域、たとえばM−A、A−X、M−A−X。
【0074】
コーティングはAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、Sn、Ni、Ta、Nb、ZrおよびHfのいずれか1種またはこれらの組み合わせでドープされていてもよい。特に耐食特性を向上させるには、Au、Ag、Pt、Cu、Cr、Ni、NiおよびNiのいずれか1種がドーピングに含まれるであろう。
【0075】
1つの実施形態では、コンタクト層は対応するMn+1AXn化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを0−50重量%の範囲内で含む。他の実施形態では、この範囲は約0−60重量%、約0−70重量%、さらに約0−80重量%でもよい。
【0076】
上で説明した多元素材料は、たとえば保護コーティング29として、またはこのようなコーティングの一部として設けられることによって、燃料電池27のためのバイポーラプレート23の防食のために有利に用いられるであろう。これは、基材28が多元素材料を含むかまたは多元素材料で構成されているバイポーラプレート23により、基材上にコーティングがあってもなくても、可能であることも理解されたい。
【0077】
コーティング29は好ましくは物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)によって、たとえば出願人の欧州特許EP 1563116に記載された方法を使用することによって、基材28上に堆積される。また、このコーティングは、無電解めっきによってまたはプラズマ溶射によって、電気化学的に堆積されてもよい。
【0078】
堆積中、すなわちPVDのような蒸着法に起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度での堆積中に、外部加熱を使用してもよい。コーティングの堆積中の外部加熱は典型的には約150−400℃での堆積温度を意味する。
【0079】
コーティング29を与えるためのスパッタリング法は有利には高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)でよく、これはこの分野において高衝撃力マグネトロンスパッタリングおよび高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)としても知られている。従来のマグネトロンスパッタリングでは、出力密度はターゲットへの熱負荷によって制限されていた。これは、ターゲットに向けて加速された陽イオンのエネルギーのほとんどが熱に変わるからである。単極性パルスでは、電力供給は低(またはゼロ)出力レベルで作動した後、各々のサイクルで短い時間の間にかなり高いレベルへとパルスする。ピーク出力密度が約1kW/cm2を超える場合、このプロセスは典型的にはHIPIMSと呼ばれる。ピーク出力密度は、300−1500Vのターゲットピーク電圧で、概して1−3kW/cm2の範囲内にある。バイポーラプレートの防食用のコーティング29を与えるためのこのスパッタリング技術による利点は、成膜された膜の膜厚均一性を、たとえば従来のdcマグネトロンスパッタリングと比べて向上させることができること、および流路25などをもつバイポーラプレート23の比較的複雑な幾何構造にかかわらず膜の品質を向上できることである。特に流路25に関するバイポーラプレート23の幾何的なデザインは、多くの場合、燃料電池の効率にとって重要である。望ましいバイポーラプレートの幾何構造は典型的には被覆されていない基材28のデザインおよび形状によって実現するので、コーティングがこの幾何構造にできるだけ影響を及ぼさないことが典型的には望ましい。また、向上した膜厚均一性は、コーティングにおける弱い所のおそれが少なく、したがって腐食のおそれが少ないことを意味する。また、HIPMSは典型的にはより通常のスパッタリング法に比べて付着性を向上させる。1つの実施形態では、コーティング29の第1サブレイヤーがHIPIMSによって基材上に堆積され、次に第2サブレイヤーが通常のDC−スパッタリング、または何らかの他のPVD法によって、HIPIMSで堆積した第1サブレイヤー上に堆積され、2つのサブレイヤーがコーティング29を形成する。これは、HIPIMSによって与えられた緻密な微細構造層を、より通常のDC−スパッタリングによって、しかしより速い成膜速度で、続けることができるという利点を有する。このように、緻密なコーティングを比較的高速で与えることができる。
【0080】
典型的には基材28の全表面がコーティング29によって被覆されるが、腐食性環境に曝され得るまたは曝されるであろう基材の部分を覆っていれば十分であることを理解されたい。また、基材28の腐食曝露表面部分が不完全に被覆されている場合であっても改善があることも理解されたいが、もちろん、このような不完全なコーティング被覆は典型的には望ましくない。
【0081】
上記への入口は燃料電池のバイポーラプレートの防食であったが、その結果はより一般的な例、すなわち電気化学電池における電極用の被覆、すなわち燃料電池におけるのと類似の環境であってその環境が通常の環境下よりも腐食性が高い、すなわちたとえば空気および水分への屋外での曝露よりも腐食性の高い場合にも同様に適用可能であろう。他のタイプの電気化学電池はたとえばバッテリーを含む。より一般化した例では、上記に従ったバイポーラプレートはこうして電極と見なされ、燃料電池は電気化学電池と見なされるであろう。
【0082】
図面および先の説明は、例示的と見なされるべきであり限定的とみなされるべきではない。本発明は開示した実施形態に限定されない。
【0083】
本発明はクレームによって定義され、開示した実施形態に対する変形は、たとえば図面、開示内容およびクレームを検討することによって、クレームされた発明を実施する当業者によって理解され達成される。異なる従属クレームにおける特徴の存在はこれらの特徴の組み合わせを排除しない。
【発明の概要】
【0001】
技術分野
本発明は、電気化学電池用の電極、特に燃料電池用のバイポーラプレート(この電極は導電性基材と前記導電性基材上に形成された導電性の耐食コーティングとを備える)、この電極の製造方法、この電極を具備した電気化学電池、および電気化学電池用の電極の防食のための材料の使用に関する。
【0002】
技術的背景
過去、燃料電池は主に利点たとえば燃料(水素および酸素の供給)の入手可能性または特性が費用に優先する場合に使用されてきた。しかし、今日、技術的進歩と環境問題の高い意識のために、燃料電池は(まだそこまでいかなくても、少なくとも間近には)より大規模な商業的ブレークスルーの状態にある。
【0003】
1つの燃料電池のタイプはプロトン交換膜(PEM)燃料電池(または単にPEMFC)であり、これは膜−電極接合体(MEA)を具備し、次に接合体は典型的には2つのガス拡散層(通常は炭素層)の間に挟まれた電解質としてポリマー膜を備え、ガス拡散層は触媒粒子(通常は貴金属たとえば白金)も含有する。今日、最も一般的な膜はナフィオン(登録商標)であるが、他の選択肢もある。
【0004】
PEMFCの作動中、炭素層はそれぞれアノードおよびカソードとして働く。アノード側の燃料(たとえば水素)はアノード側の炭素層を通って拡散し触媒粒子と反応して水素カチオン(プロトン)を生じ、これは膜を通ってカソード側へ拡散する。カソード側の燃料(たとえば空気または酸素を含む任意のガス)はカソード側の炭素層を通って拡散し触媒粒子と反応して酸素アニオンを生じる。カソードにおいて、アニオンはカチオンと反応して反応残留生成物(通常は水)が生じる。また、この反応は熱および、もちろん、電気エネルギーをもたらす。
【0005】
MEAは、典型的には、それぞれアノードおよびカソードに接触している、2つの導電性プレートの間に配置される。これらのプレートは集電体として働き、典型的には表面に流路を表面に備え、表面での燃料の広がりを促進して触媒を促進する。実際、典型的には燃料電池のスタックを配置して電気的な直列接続を形成するので、これらのプレートは典型的にはこのようなスタックの燃料電池要素を接続するように配置され、こうしてプレートの片面は1つの燃料電池のためのアノードとして働き、他の面はスタックにおける次の燃料電池のためのカソードとして働く。したがって、プレートは典型的にはバイポーラプレートと呼ばれ、それとして知られている。ありうる他の名称はフロープレートなどである。
【0006】
多くの望ましい特性はバイポーラプレートに関連しており、これらは低い電気抵抗、軽量、薄さ、耐食性、作動条件下での安定性および、もちろん、低コストを含む。すべてのこれらの特性に合う材料を見つけるのはそれほど簡単なことではないことが分かっている。耐食性は、燃料電池における過酷な環境のため、PEMFCにおける典型的には約2−3のpHおよび約80℃の高温のため、特に問題である。他のタイプの燃料電池では、温度がさらに高く、環境がより腐食性であろう。
【0007】
グラファイトは、バイポーラプレートのための従来の材料選択の1つであり、非腐食性であるが、このようなプレートは比較的高価であり、炭素の不十分な構造安定性のために厚く、流路を加工するのに時間がかかる。他の選択肢はたとえば炭素粒子を含む導電性プラスチック材料を含み、これは低コストで作製することができるが比較的高い電気抵抗を有し、また比較的厚くなるという不都合がある。貴金属プレートは薄くすることができ、良好に導電し、非常に耐食性であり、構造安定性を保持した状態で薄くすることができるが、コストが高いという不都合があり、したがって商業的に成功が見込める選択肢として見られない。
【0008】
他の金属は典型的には、低い耐食性、または高い耐食性を有するが電気抵抗が高い(典型的には酸化膜の形成のため)という損失のいずれかの不都合がある。
【0009】
非貴金属は、耐食性を除いたほぼ全ての点で適しているために、未だにバイポーラプレート用として関心がある。そのため、金属製バイポーラプレートの耐食性を高める試みがなされてきた。これらの解決策に共通するのは、下地の金属コア(すなわち基材)を腐食から保護するように配置したある種の外側導電層の使用である。このような構造体のための組み合わせの可能性は膨大であることが理解される。とりわけ経済的な理由により、アルミニウムまたはステンレス鋼をベースとするバイポーラプレートが多くの注意を引いており、現在おそらく最も有望な選択肢であると考えられている。以下に、従来技術において提案された多くの解決策を挙げる。
【0010】
DE10017058A1は、第2金属からなるメタリックコーティングを有する第1金属から形成されたバイポーラプレートを開示している。プレートのバルク材料(コア)は、St37、アルミニウムまたはアルミニウム合金である。メタリックコーティングは金、錫、鉛−錫合金またはタンタルから形成され、任意に追加のメタリック中間層(たとえば銅またはニッケル)を有する。メタリックコーティングは電着またはスパッタリングにより付着される。
【0011】
US2007287057Aは、チタンまたは酸化チタンの層と、プレートを導電性かつ親水性にする酸化チタン/酸化ルテニウムの層とを含むステンレス鋼流動場プレートを開示している。チタンは、適切なプロセスたとえばPCVまたはCVDを使用して、ステンレス鋼バイポーラプレートの表面上に金属または酸化物として堆積される。塩化ルテニウムのエタノール溶液がチタン層に塗布される。その後、プレートをか焼し、ステンレス鋼上に、燃料電池環境において親水性でありかつ導電性である寸法安定な酸化チタン/酸化ルテニウムを設ける。
【0012】
US2004005502Aは、電気化学電池用、特に燃料電池におけるバイポーラプレートとして使用するための導電性部材を記載している。この導電性部材は、ドープトダイアモンドコーティングおよび/またはドープトダイアモンドライクカーボンコーティングを備えた金属部品からなる。このコーティングは、この部材を、好ましいコストで製造され、にもかかわらず優れた耐食性および高い導電性という2つの要件を満たすことを可能にすると主張されている。このような部材をCVDおよび/またはPVDプロセスによって製造する方法も説明されている。金属部品は、チタン、ステンレス鋼、鋼、錫めっき鋼、アルミニウム、マグネシウムおよび/またはこれらの合金から形成され得る。
【0013】
発明の概要
以上を考慮して、この開示の目的は、従来技術における問題を克服するかまたは少なくとも緩和する解決策を提供することにある。より具体的な目的は、燃料電池たとえばPEMFC用のバイポーラプレートの防食に関して現在の解決策に対する代替的な解決策を提供することにある。
【0014】
本発明は添付の独立形式請求項によって定義されている。好ましい実施形態は従属形式請求項ならびに以下の説明および図面に記載されている。
【0015】
よって、第1の態様によれば、導電性基材と、前記導電性基材上に形成され、これを少なくとも部分的に覆う導電性耐食コーティングとを備えた電気化学電池用の電極であって、前記コーティングが多元素材料を含む電極が提供される。
【0016】
第2の態様によれば、前記電極を具備した電気化学電池が提供される。
【0017】
第3の態様によれば、電気化学電池用の電極の防食のための多元素材料の使用が提供される。
【0018】
第4の態様によれば、電極の製造方法であって、導電性基材を用意する工程と、前記導電性基材上に導電性耐食コーティングを形成して前記導電性基材を前記コーティングによって少なくとも部分的に覆う工程とを含み、前記コーティングが多元素材料を含む方法が提供される。
【0019】
多元素材料は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、この多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジットをさらに含む。典型的にはqおよびyの両方がゼロより大きい数である。
【0020】
「ナノコンポジット」はナノスケールで偏析した2つ以上の相を含む。これらの相は0.1nmよりも大きく1000nmよりも小さな特徴的な長さスケールを持つ結晶、領域および/または構造である。これらの層は結晶質である必要がないことに留意されたい。
【0021】
多元素材料は式Mn+1AXnで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有していてもよく、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、nは1、2、3またはそれ以上であり、この多元素材料は対応するMn+1AXnの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジットをさらに含む。
【0022】
上記のようなコーティングにより、電気化学電池の高度に腐食性のある環境においても、耐食性でありかつ導電性である電極を比較的低コストで実現することができる。
【0023】
このコーティングは対応するMn+1AXnの化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを約0−80重量%、または約0−70重量%、または約0−60重量%、または約0−50重量%の範囲内で含んでいてもよい。
【0024】
ナノコンポジットはM−A、A−X、M−A−X、XおよびM−Xからなる群より選択される少なくとも2つの相を含んでいてもよい。
【0025】
前記コーティングの高い耐食性のために、MはCrまたはNiが好ましい。Aは好ましくはSiであり、Xは好ましくはCである。
【0026】
あるいは、Mはチタンでもよく、Xは炭素でもよく、A族元素は珪素、ゲルマニウムまたは錫の少なくとも1種でもよい。
【0027】
多元素材料はTi3SiC2でもよく、ナノコンポジットはTi−C、Si−C、Ti−Si−C、Ti−SiおよびCからなる群より選択される少なくとも1つの相を含んでいてもよい。
【0028】
コーティングはメタリック層をさらに含んでいてもよい。このメタリック層はAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、In、Sn、Re、Ru、Mo、W、Niのいずれか1種、または上記金属のいずれか少なくとも1種を有する合金でありうる。
【0029】
メタリック層は任意の金属または金属複合材でもよく、この複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる。
【0030】
メタリック層は任意の金属または金属複合材でもよく、この複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料、たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物でありうる。
【0031】
1つの実施形態では、多元素材料はメタリック層と積層されて多層構造をなしている。
【0032】
多元素材料は、コンタクト表面がメタリックになるように、メタリック層のコーティングを有していてもよい。
【0033】
さらに、コーティングは、コーティングの耐食性、機械的性質、熱的性質および電気的性質の少なくとも1つを変更して向上させるために、1種以上の化合物または元素でドープされていてもよい。
【0034】
このコーティングはAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、In、Sn、Ni、Ta、Nb、ZrおよびHfの少なくとも1つでドープされていてもよい。
【0035】
ナノコンポジットは少なくとも部分的にアモルファス状態にあってもよく、および/またはナノコンポジットは少なくとも部分的にナノ結晶状態にあってもよい。
【0036】
ナノコンポジットはナノ結晶領域と混合したアモルファス領域を有していてもよい。
【0037】
導電性基材は典型的にはステンレス鋼、アルミニウムおよびニッケルの少なくとも1種かまたはそれらの合金でありうる金属を含む。
【0038】
上記の方法では、コーティングは好ましくは物理蒸着(PVD)によって、好ましくはスパッタリングによって形成される。コーティングは少なくとも部分的に高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって形成されてもよい。HIPIMSは、コーティングによる電極の幾何構造、たとえば電極内の流路に関する幾何構造への低い影響を可能にし、またコーティング内に弱い所ができるおそれを低減させ、こうして腐食のおそれをさらに少なくする。
【0039】
1つの実施形態では、コーティングは、HIPIMSによって基材上に第1サブレイヤーを形成し、次に他のPVD法によって第1サブレイヤー上に第2サブレイヤーを形成することによって形成される。このようにして、HIPIMSによって与えられる緻密な微細構造の層を、より通常のDC−スパッタリングによって、しかしより速い堆積速度で続けることができる。こうして、緻密なコーティングを比較的高い速度で与えることができる。
【0040】
コーティングは、PVDに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度での外部加熱下でスパッタリングすることによって形成されてもよい。
【0041】
上述した内容、ならびに本発明の他の態様、目的、特徴および利点は、添付の概略図を参照して、以下の例示的でありかつ非制限的な詳細な説明によってより十分に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1a】図1aは、PEMタイプの燃料電池の側面図を概略的に示す。
【図1b】図1bは、図1aの燃料電池のバイポーラプレートの1つの平面図を概略的に示す。
【図1c】図1cは、図1a−bのバイポーラプレートの1つの側面図と、その表面部分の断面側面図とを概略的に示す。
【図2】図2は、被覆されていないステンレス鋼基材および多元素Cr−Si−Cコートしたステンレス鋼基材に関する耐食性測定による測定曲線の例を示す。
【図3a】図3aは、アモルファス領域と混合したナノ結晶を持つナノコンポジットを有する多元素材料層の構造の概略図である。
【図3b】図3bは、アモルファス領域と混合したナノ結晶層およびアモルファス層を持つナノコンポジットを有する多元素材料層の他の構造の概略図である。
【図3c】図3cは、ナノ結晶状態にある領域を持つ多元素材料層の他の構造の概略図である。
【図4】図4は、多元素材料層およびメタリック層の概略図である。
【図5】図5は、メタリック層と積層されて繰り返し構造をなしている多元素材料層の概略図である。
【図6】図6は、メタリック層で被覆された、ナノ結晶状態にある領域を持つ多元素材料を概略的に示す。
【図7】図7は、メタリック層と積層されて繰り返し構造をなしている、ナノ結晶状態にある領域を有する多元素材料を概略的に示す。
【0043】
これらの図面において、類似したまたは対応する要素については、これらが別の例または実施形態における要素である場合であっても、同じ参照番号を使用しているであろう。これらの概略図における寸法および比は主に表示の目的で選択され、典型的には実際の応用における真の寸法および比を反映していない。
【0044】
好ましい実施形態の説明
図1aは燃料電池スタックにおいて使用するためのPEMタイプの燃料電池27の概略側面図を示す。この燃料電池は膜−電極接合体(MEA)を具備しており、次に接合体は触媒粒子を含有する2層のガス拡散層22a、22bの間に挟まれたポリマー膜21を備えている。このMEAは従来のMEAでもよい。ガス拡散層22a、22bはそれぞれのバイポーラプレート23a、23bと電気的に接触している。図1には表示の目的のため示していないが、実際には全ての要素21、22、23は隣接した要素と接触している。図1bはバイポーラプレート23aの1つの平面図を概略的に示す。このバイポーラプレートはガス拡散層22と接触すべき表面上にチャネル25を備え、燃料の広がりを促進する。両面にチャネルを備えたバイポーラプレート23a、23bが示されており、図には示していないが、これは典型的にはバイポーラプレート23a、23bが、各バイポーラプレートの両面のMEAとともにスタックをなして配置される場合にはそうである。1つの燃料電池27のみを有するスタックでは、典型的には片面のみにチャネルがあれば十分である。また、燃料を広がらせるチャネルの機能が、この燃料電池の他の部分、たとえば追加の層によって与えられるといった状況もあり、このような場合にはバイポーラプレートはチャネルが全く設けられていなくてもよい。
【0045】
図1cはバイポーラプレート23の1つの表面部分の断面を概略的に示す。図示したバイポーラプレート23は、導電性基材(すなわちコア)28と、前記基材28上に形成され、これを被覆するコーティング29とを有する。導電性基材28は典型的には金属、好ましくはステンレス鋼であるが、この基材は他の金属、これらの合金、または非金属導電性材料から形成されていてもよい。1つの実施形態では、基材28はニッケルまたはニッケル合金の層によって被覆された内部アルミニウムコアを備えている。コーティング29は導電性耐食コーティングであり、典型的には少なくとも1つの導電相からなり、式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を含む多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、この多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む。典型的には、qおよびyの両方がゼロより大きい数である。
【0046】
このような化合物は、電気コンタクト上の金に対する、導電性、耐磨耗性かつコスト効率の高い代替物として以前に提示されている。たとえばWO2005038985を参照のこと。本出願人は、この化合物が燃料電池のバイポーラプレート上の導電性かつ耐食性の保護コーティングとしても好都合に使用され得ることを見出した。このような多元素材料を含むコーティングは、バイポーラプレートの導電性および機能を損なうことなく、燃料電池の高度に腐食性の環境において、バイポーラプレートをより劣化しにくくさせることを見出した。
【0047】
多元素材料は典型的には一般式Mn+1AXn(nが1、2、3またはそれ以上である)で示される組成物を有するが、異なる元素の割合は、Mn+1およびXnが前記一般式が特定する元素の1/10から2倍まで変わりうる。単なる例として、この組成物はM0.2AX、M0.2AX0.1、M4AX、またはM2AX2でもよく、こうして一般的な式MqAyXzに対応し、ここでq、yおよびzはゼロより大きい数である。
【0048】
A族元素は周期表の13族−15族の元素(CおよびNを除く)であり、たとえばアルミニウム、珪素、リン、硫黄、ガリウム、ゲルマニウム、砒素、カドミウム、インジウム、錫、タリウムおよび鉛を含む。遷移金属は周期表の3族−12族の40種の元素であり、たとえばスカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウムおよびタンタルを含む。Mn+1AXn化合物はA族元素層を分離する遷移金属層の数によって特徴づけられる。いわゆる211化合物は2層の遷移金属層を有し、312化合物は3層の遷移金属層を有し、413化合物は4層の遷移金属層を有する。最も一般的である211化合物の例は、Ti2AlC、Ti2AlN、Hf2PbC、Nb2AlC、(NbTi)2AlC、Ti2AlN0.5C0.5、Ti2GeC、Zr2SnC、Ta2GaC、Hf2SnC、Ti2SnC、Nb2SnC、Zr2PbCおよびTi2PbCである。3種類の312化合物のみが知られており、これらはTi3AlC2、Ti3GeC2およびTi3SiC2である。2種類の413化合物が知られ、すなわちTi4AlN3およびTi4SiC3である。
【0049】
Mn+1AXnの化合物は三相、四相または高次相でもよい。三相は3種類の元素を有し、たとえばTi3SiC2であり、四相は4種類の元素を有し、たとえばTi2AlN0.5C0.5などである。高次相は、弾性的、熱的、化学的、電気的に、多くの二相の属性を共有する。
【0050】
ナノコンポジットは、少なくとも1つのM−XおよびM−A−Xのナノ結晶と、1つ以上の相たとえばM−A、A−X、M−A−XまたはXにあるM、AおよびXの元素の少なくとも1種を有するアモルファス領域とを含んでいてもよい。
【0051】
1つの実施形態では、ナノコンポジットは炭化物および窒化物の単元素、二相、三相、四相または高次相の個々の領域を含む。
【0052】
上述した種類のナノコンポジット薄膜が、燃料電池のバイポーラプレート用の防食コーティングとしての使用に関して特性解析および評価を行った。1つのケースでは、多元素材料3Cr:1Si:2Cを使用した。この材料からなるコーティングは、ステンレス鋼SS2348基材プレート上にスパッタリングによってPVD蒸着した。1つのサンプルは、スパッタリングに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度で外部加熱下にスパッタリングし、他のサンプルはこのような外部加熱なしに、すなわちプラズマによって生じる温度でスパッタリングした。
【0053】
サンプルをX線回折(XRD)によって調べ、これらコーティングがX線アモルファスであることがわかった。しかし、5nmよりも小さな構造体はXRDによって検出できないことに留意されたい。接触抵抗は、外部加熱して成膜したサンプルに比べ、加熱なしで成膜したサンプルで約3倍高いことが分かったが、抵抗率は、加熱して成膜したサンプルで僅かに高かった。接触抵抗および抵抗率は、電気コンタクト上のTi−Si−Cについて以前に報告されたものと一致し、同程度であることが分かった。また、接触抵抗と抵抗率との間に相関関係がないことは、コンタクトのためのTi−Si−Cコーティングに関する以前の研究と一致している。以前の研究では、同様の挙動が報告され、表面形態が膜抵抗率よりも接触抵抗に大きく影響を及ぼすということによって説明されている。
【0054】
三電極電池を用いて基材上の膜の腐食挙動を評価した。使用した電極は、評価されるべきサンプルである作用電極(WE)、グラファイトまたは白金からなる対向電極(CE)および銀/塩化銀からなる参照電極(RE)であった。電解質は0.5モル濃度の硫酸(H2SO4)であった。WEとREに電圧を印加し、WEとCEとの間で得られた電流を測定した。2つの測定を1つは動電位で1つは静電位で行い、被覆していないステンレス鋼基材と比較した。動電位測定では、WEとREとの間の電位を−500mVから1500mV(SSC)まで掃引し、WEとCEとの間の電流を測定した。静電圧測定では、WEとREに固定電位を印加し、WEとREとの間で得られた電流を測定した。
【0055】
動電位測定では、Cr−Si−C膜の自由腐食電位は被覆していない基材のものよりも高いことが分かった。従って、1つの結論はCr−Si−C被覆したステンレス鋼の不活性さが被覆していないステンレス鋼のものよりも高いことである。この点に関して、異なる温度で成膜した膜の間に大きな違いはなかった。
【0056】
図2は静電位測定による測定曲線の例を示す。曲線を作るために、+0.8V SHE(標準水素電極)を約24時間印加した。下の曲線33は高温で被覆したサンプルを表し、上の曲線31は被覆していないステンレス鋼を示す。24時間後の電流は、被覆していないサンプルで約20倍高いことがわかり、これはCr−Si−C被覆したステンレス鋼の場合、腐食が著しく少ないことを意味している。腐食性環境に曝した後、サンプルをXPS(X線光電子分光法)によって調べた。被覆していないステンレス鋼基材上には腐食生成物が明らかに見られたが、Cr−Si−C被覆したステンレス鋼基材では見られなかった。
【0057】
1つの実施形態では、多元素材料は図3aに従った構造を有し、アモルファス領域6と混合したナノ結晶5からなるナノコンポジット4を含む。ナノ結晶5は全て同じ相からなっていてもよいし様々な相からなっていてもよい。
【0058】
代わりの実施形態では、多元素材料は図3bに従った構造を有し、ナノ結晶5と混合したアモルファス領域6からなるナノコンポジット4を含み、ナノ結晶5の一部はアモルファス層11またはナノ結晶層12によって囲まれている。
【0059】
さらに他の実施形態では、多元素材料は図3cに従った構造を有し、ナノ結晶領域5からなるナノコンポジット4を含む。
【0060】
コーティングの厚さは典型的には約0.001μmないし約1,000μmの範囲内にあるが、好ましくは約0.001μm−5μmである。
【0061】
他の実施形態では、ナノ結晶は他の相からなる薄膜によって被覆されていてもよい。
【0062】
ナノ結晶領域とアモルファス領域との間の分布は上で例示したものと異なっていてもよい。ナノコンポジットはほぼ全体的に結晶質でもよいしほぼ全体的にアモルファスでもよい。
【0063】
また、多元素材料およびナノコンポジットからなる別の膜を形成することも考えられる。
【0064】
1つの実施形態では、コーティングの多元素材料層13は、図4に図示すように、薄いメタリック層14で被覆されていてもよい。好ましくは、この金属層はコンタクト層の表面がメタリック、好ましくは貴金属またはその合金になるように設けられる。他の実施形態では、図5に図示したように、コーティング29は交互の金属層14と多元素材料層13とを有するサンドイッチ構造でもよく、すなわち多元素材料層13が金属層14と積層されて多層構造、好ましくは図に示したように繰り返し構造をなしている。
【0065】
さらに他の実施形態では、図6に図示したように、コーティング29はナノ結晶状態にある領域5を含む多元素材料層を備えていてもよく、これは薄い金属層14で被覆されていてもよい。
【0066】
さらに他の実施形態では、図7に示すように、コーティング29はナノ結晶状態にある領域5を含む多元素層を備えていてもよく、このような多元素層はメタリック層と積層されて繰り返し構造をなしていてもよい。
【0067】
前記金属は好ましくは金、銀、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、ニッケルまたはこれら金属の少なくとも1種を有する合金であるが、他の金属も有用でありうる。
【0068】
他の実施形態では、メタリック層、すなわち必ずしも「純」金属でない層が使用されてもよい。興味のあるメタリック層は金属複合材を含み、この複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる。複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物を含んでいてもよい。
【0069】
また、M、AおよびXの元素と、1種以上の金属とを含む多元素材料の合金を使用することも可能である。合金材料は完全に固溶していてもよいし析出物の形態で存在していてもよい。使用される金属は炭化物を形成しない金属である方がよい。好ましくは、0−30%の金属が添加される。
【0070】
上述のタイプ、すなわち金属層を含むメタリック層の厚さは、好ましくは原子層の一部ないし1000μmの範囲内にあるが、好ましくは原子層の一部ないし5μmの範囲内にある。たとえば、この範囲は1mmないし1000μmであろう。
【0071】
上述したメタリック層は多元素材料のグレインまたは領域を覆っていてもよい。メタリック層および多元素材料層の組み合わせの合計厚さは典型的には0.001μmないし10000μmの範囲内にある。
【0072】
多元素材料は、過剰な炭素を、たとえば式Tin+1SiCn+Cmをもつ化合物の形態で含有していてもよい。遊離炭素元素はコーティングの表面へ輸送されて電気コンタクトを向上させ、一方で同時に表面を酸化に対して保護する。
【0073】
耐食性、熱的性質、機械的性質および/または電気的性質などの特性を向上させるためのコンタクト層の類似の種類のドーピングには、以下リストの任意の化合物の1種または組み合わせを含むであろう:単一のA族元素、A族元素の組み合わせ、Xが炭素、Xが窒素、Xが炭素および窒素の両方、M−Xのナノコンポジット、1つもしくはいくつかの相にM、A、X元素をもつナノ結晶および/またはアモルファス領域、たとえばM−A、A−X、M−A−X。
【0074】
コーティングはAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、Sn、Ni、Ta、Nb、ZrおよびHfのいずれか1種またはこれらの組み合わせでドープされていてもよい。特に耐食特性を向上させるには、Au、Ag、Pt、Cu、Cr、Ni、NiおよびNiのいずれか1種がドーピングに含まれるであろう。
【0075】
1つの実施形態では、コンタクト層は対応するMn+1AXn化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを0−50重量%の範囲内で含む。他の実施形態では、この範囲は約0−60重量%、約0−70重量%、さらに約0−80重量%でもよい。
【0076】
上で説明した多元素材料は、たとえば保護コーティング29として、またはこのようなコーティングの一部として設けられることによって、燃料電池27のためのバイポーラプレート23の防食のために有利に用いられるであろう。これは、基材28が多元素材料を含むかまたは多元素材料で構成されているバイポーラプレート23により、基材上にコーティングがあってもなくても、可能であることも理解されたい。
【0077】
コーティング29は好ましくは物理蒸着(PVD)または化学蒸着(CVD)によって、たとえば出願人の欧州特許EP 1563116に記載された方法を使用することによって、基材28上に堆積される。また、このコーティングは、無電解めっきによってまたはプラズマ溶射によって、電気化学的に堆積されてもよい。
【0078】
堆積中、すなわちPVDのような蒸着法に起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度での堆積中に、外部加熱を使用してもよい。コーティングの堆積中の外部加熱は典型的には約150−400℃での堆積温度を意味する。
【0079】
コーティング29を与えるためのスパッタリング法は有利には高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)でよく、これはこの分野において高衝撃力マグネトロンスパッタリングおよび高出力パルスマグネトロンスパッタリング(HPPMS)としても知られている。従来のマグネトロンスパッタリングでは、出力密度はターゲットへの熱負荷によって制限されていた。これは、ターゲットに向けて加速された陽イオンのエネルギーのほとんどが熱に変わるからである。単極性パルスでは、電力供給は低(またはゼロ)出力レベルで作動した後、各々のサイクルで短い時間の間にかなり高いレベルへとパルスする。ピーク出力密度が約1kW/cm2を超える場合、このプロセスは典型的にはHIPIMSと呼ばれる。ピーク出力密度は、300−1500Vのターゲットピーク電圧で、概して1−3kW/cm2の範囲内にある。バイポーラプレートの防食用のコーティング29を与えるためのこのスパッタリング技術による利点は、成膜された膜の膜厚均一性を、たとえば従来のdcマグネトロンスパッタリングと比べて向上させることができること、および流路25などをもつバイポーラプレート23の比較的複雑な幾何構造にかかわらず膜の品質を向上できることである。特に流路25に関するバイポーラプレート23の幾何的なデザインは、多くの場合、燃料電池の効率にとって重要である。望ましいバイポーラプレートの幾何構造は典型的には被覆されていない基材28のデザインおよび形状によって実現するので、コーティングがこの幾何構造にできるだけ影響を及ぼさないことが典型的には望ましい。また、向上した膜厚均一性は、コーティングにおける弱い所のおそれが少なく、したがって腐食のおそれが少ないことを意味する。また、HIPMSは典型的にはより通常のスパッタリング法に比べて付着性を向上させる。1つの実施形態では、コーティング29の第1サブレイヤーがHIPIMSによって基材上に堆積され、次に第2サブレイヤーが通常のDC−スパッタリング、または何らかの他のPVD法によって、HIPIMSで堆積した第1サブレイヤー上に堆積され、2つのサブレイヤーがコーティング29を形成する。これは、HIPIMSによって与えられた緻密な微細構造層を、より通常のDC−スパッタリングによって、しかしより速い成膜速度で、続けることができるという利点を有する。このように、緻密なコーティングを比較的高速で与えることができる。
【0080】
典型的には基材28の全表面がコーティング29によって被覆されるが、腐食性環境に曝され得るまたは曝されるであろう基材の部分を覆っていれば十分であることを理解されたい。また、基材28の腐食曝露表面部分が不完全に被覆されている場合であっても改善があることも理解されたいが、もちろん、このような不完全なコーティング被覆は典型的には望ましくない。
【0081】
上記への入口は燃料電池のバイポーラプレートの防食であったが、その結果はより一般的な例、すなわち電気化学電池における電極用の被覆、すなわち燃料電池におけるのと類似の環境であってその環境が通常の環境下よりも腐食性が高い、すなわちたとえば空気および水分への屋外での曝露よりも腐食性の高い場合にも同様に適用可能であろう。他のタイプの電気化学電池はたとえばバッテリーを含む。より一般化した例では、上記に従ったバイポーラプレートはこうして電極と見なされ、燃料電池は電気化学電池と見なされるであろう。
【0082】
図面および先の説明は、例示的と見なされるべきであり限定的とみなされるべきではない。本発明は開示した実施形態に限定されない。
【0083】
本発明はクレームによって定義され、開示した実施形態に対する変形は、たとえば図面、開示内容およびクレームを検討することによって、クレームされた発明を実施する当業者によって理解され達成される。異なる従属クレームにおける特徴の存在はこれらの特徴の組み合わせを排除しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学電池(27)用の電極(23)であって、
導電性基材(28)と、
前記導電性基材(28)上に形成され、これを少なくとも部分的に覆う導電性耐食コーティング(29)とを備え、
前記コーティングは式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有する多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含むことを特徴とする電極。
【請求項2】
qおよびyの両方がゼロより大きい数である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記多元素材料は式Mn+1AXnで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、nは1、2、3またはそれ以上であり、前記多元素材料は対応するMn+1AXnの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記コーティング(29)は対応するMn+1AXnの化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを約0−80重量%、または約0−70重量%、または約0−60重量%、または約0−50重量%の範囲内で含む請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記ナノコンポジット(4)はM−A、A−X、M−A−X、XおよびM−Xからなる群より選択される少なくとも2つの相を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
Mがクロムまたはニッケルである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
Aが珪素であり、Xが炭素である請求項5に記載の電極。
【請求項8】
Mがチタンであり、Xが炭素であり、Aが珪素、ゲルマニウムまたは錫の少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
前記多元素材料がTi3SiC2であり、前記ナノコンポジット(4)がTi−C、Si−C、Ti−Si−C、Ti−SiおよびCからなる群より選択される少なくとも1つの相を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
前記コーティングはメタリック層(14)を含む請求項1ないし9のいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
前記メタリック層(14)はAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、Re、Ru、Mo、W、Niのいずれか1種、または上記金属のいずれか少なくとも1種を有する合金である請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記メタリック層(14)は任意の金属または金属複合材であり、前記複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる請求項10または11に記載の電極。
【請求項13】
前記メタリック層(14)は任意の金属または金属複合材であり、前記複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物でありうる請求項10ないし12のいずれか1項に記載の電極。
【請求項14】
前記多元素材料(13)はメタリック層(14)と積層されて多層構造をなしている請求項10ないし13のいずれか1項に記載の電極。
【請求項15】
前記多元素材料(13)は、前記コーティング(29)の表面がメタリックになるように、前記メタリック層(14)によって被覆されている請求項10ないし14のいずれか1項に記載の電極。
【請求項16】
前記コーティング(29)は、コーティングの耐食性、機械的性質、熱的性質および電気的性質の少なくとも1つを変更して向上させるために、1種以上の化合物または元素でドープされている請求項1ないし15のいずれか1項に記載の電極。
【請求項17】
前記コーティング(29)はAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、Sn、Ni、Ta、ZrおよびHfの少なくとも1つでドープされている請求項16に記載の電極。
【請求項18】
前記ナノコンポジット(4)は少なくとも部分的にアモルファス状態にある請求項1ないし17のいずれか1項に記載の電極。
【請求項19】
前記ナノコンポジット(4)は少なくとも部分的にナノ結晶状態にある請求項1ないし18のいずれか1項に記載の電極。
【請求項20】
前記ナノコンポジット(4)はナノ結晶領域(5)と混合したアモルファス領域(6)を有する請求項1ないし18のいずれか1項に記載の電極。
【請求項21】
前記導電性基材(28)は金属を含む請求項1ないし20のいずれか1項に記載の電極。
【請求項22】
前記金属はステンレス鋼、アルミニウムおよびニッケルまたはそれらの合金の少なくとも1種である請求項21に記載の電極。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれか1項に記載の電極を具備した電気化学電池。
【請求項24】
電気化学電池(27)用の電極の防食のための多元素材料の使用であって、前記多元素材料は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む多元素材料の使用。
【請求項25】
請求項1ないし21のいずれか1項に記載の電気化学電池(27)用の電極(23)の製造方法であって、
導電性基材(28)を用意する工程と、
前記導電性基材上に導電性耐食コーティング(29)を形成して前記導電性基材が少なくとも部分的に前記コーティングによって覆われるようにする工程とを含み、
前記コーティング(29)は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有する多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
前記コーティング(29)は物理蒸着(PVD)、好ましくはスパッタリングによって形成される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
コーティング(29)は少なくとも部分的に高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって形成される請求項25ないし26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記コーティング(29)は、HIPIMSによって前記基材上に第1サブレイヤーを形成し、次に他のPVD法によって前記第1サブレイヤー上に第2サブレイヤーを形成することによって形成される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コーティング(29)は、前記PVDに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度で外部加熱下にスパッタリングすることによって形成される請求項26ないし28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項1】
電気化学電池(27)用の電極(23)であって、
導電性基材(28)と、
前記導電性基材(28)上に形成され、これを少なくとも部分的に覆う導電性耐食コーティング(29)とを備え、
前記コーティングは式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有する多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含むことを特徴とする電極。
【請求項2】
qおよびyの両方がゼロより大きい数である請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記多元素材料は式Mn+1AXnで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、nは1、2、3またはそれ以上であり、前記多元素材料は対応するMn+1AXnの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記コーティング(29)は対応するMn+1AXnの化合物の少なくとも1種の単元素M、A、Xを約0−80重量%、または約0−70重量%、または約0−60重量%、または約0−50重量%の範囲内で含む請求項3に記載の電極。
【請求項5】
前記ナノコンポジット(4)はM−A、A−X、M−A−X、XおよびM−Xからなる群より選択される少なくとも2つの相を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項6】
Mがクロムまたはニッケルである請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電極。
【請求項7】
Aが珪素であり、Xが炭素である請求項5に記載の電極。
【請求項8】
Mがチタンであり、Xが炭素であり、Aが珪素、ゲルマニウムまたは錫の少なくとも1種である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項9】
前記多元素材料がTi3SiC2であり、前記ナノコンポジット(4)がTi−C、Si−C、Ti−Si−C、Ti−SiおよびCからなる群より選択される少なくとも1つの相を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電極。
【請求項10】
前記コーティングはメタリック層(14)を含む請求項1ないし9のいずれか1項に記載の電極。
【請求項11】
前記メタリック層(14)はAu、Ag、Pd、Pt、Rh、Ir、Re、Ru、Mo、W、Niのいずれか1種、または上記金属のいずれか少なくとも1種を有する合金である請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記メタリック層(14)は任意の金属または金属複合材であり、前記複合材は酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物でありうる請求項10または11に記載の電極。
【請求項13】
前記メタリック層(14)は任意の金属または金属複合材であり、前記複合材はポリマー、有機金属またはセラミック材料たとえば酸化物、炭化物、窒化物もしくはホウ化物でありうる請求項10ないし12のいずれか1項に記載の電極。
【請求項14】
前記多元素材料(13)はメタリック層(14)と積層されて多層構造をなしている請求項10ないし13のいずれか1項に記載の電極。
【請求項15】
前記多元素材料(13)は、前記コーティング(29)の表面がメタリックになるように、前記メタリック層(14)によって被覆されている請求項10ないし14のいずれか1項に記載の電極。
【請求項16】
前記コーティング(29)は、コーティングの耐食性、機械的性質、熱的性質および電気的性質の少なくとも1つを変更して向上させるために、1種以上の化合物または元素でドープされている請求項1ないし15のいずれか1項に記載の電極。
【請求項17】
前記コーティング(29)はAu、Re、Pd、Rh、Ir、Mo、W、Ag、Pt、Cu、Sn、Ni、Ta、ZrおよびHfの少なくとも1つでドープされている請求項16に記載の電極。
【請求項18】
前記ナノコンポジット(4)は少なくとも部分的にアモルファス状態にある請求項1ないし17のいずれか1項に記載の電極。
【請求項19】
前記ナノコンポジット(4)は少なくとも部分的にナノ結晶状態にある請求項1ないし18のいずれか1項に記載の電極。
【請求項20】
前記ナノコンポジット(4)はナノ結晶領域(5)と混合したアモルファス領域(6)を有する請求項1ないし18のいずれか1項に記載の電極。
【請求項21】
前記導電性基材(28)は金属を含む請求項1ないし20のいずれか1項に記載の電極。
【請求項22】
前記金属はステンレス鋼、アルミニウムおよびニッケルまたはそれらの合金の少なくとも1種である請求項21に記載の電極。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれか1項に記載の電極を具備した電気化学電池。
【請求項24】
電気化学電池(27)用の電極の防食のための多元素材料の使用であって、前記多元素材料は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有し、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含む多元素材料の使用。
【請求項25】
請求項1ないし21のいずれか1項に記載の電気化学電池(27)用の電極(23)の製造方法であって、
導電性基材(28)を用意する工程と、
前記導電性基材上に導電性耐食コーティング(29)を形成して前記導電性基材が少なくとも部分的に前記コーティングによって覆われるようにする工程とを含み、
前記コーティング(29)は式MqAyXzで表される炭化物または窒化物の少なくとも1種からなる組成物を有する多元素材料を含み、ここでMは遷移金属または遷移金属の組み合わせであり、AはA族元素またはA族元素の組み合わせであり、Xは炭素もしくは窒素またはこれら両方であり、zならびにqおよびyの少なくとも一方はゼロより大きい数であり、前記多元素材料は対応するMqAyXzの化合物の原子に基づく単元素、二相、三相、四相または高次相を含む少なくとも1種のナノコンポジット(4)をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
前記コーティング(29)は物理蒸着(PVD)、好ましくはスパッタリングによって形成される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
コーティング(29)は少なくとも部分的に高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)によって形成される請求項25ないし26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記コーティング(29)は、HIPIMSによって前記基材上に第1サブレイヤーを形成し、次に他のPVD法によって前記第1サブレイヤー上に第2サブレイヤーを形成することによって形成される請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コーティング(29)は、前記PVDに起因する加熱によって生じる温度よりも高い温度で外部加熱下にスパッタリングすることによって形成される請求項26ないし28のいずれか1項に記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図3c】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2011−517013(P2011−517013A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−548641(P2010−548641)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000108
【国際公開番号】WO2009/108102
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(508014224)インパクト・コーティングス・エービー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際出願番号】PCT/SE2009/000108
【国際公開番号】WO2009/108102
【国際公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(508014224)インパクト・コーティングス・エービー (2)
【Fターム(参考)】
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