説明

コーティング方法及び処理物

【課題】 本発明は、顆粒、錠剤などの可食性コーティング剤のコーティング技術において、使用上安全であり、水溶性内包物質の安定性を損なうことのない最適なコーティング方法及びコーティング処理物に関する。
【解決手段】 酵母細胞壁をある一定質量比の水/エタノール混液に調製して用いることによって、使用上安全で、水溶性内包物質の安定性を損なうことのない最適なコーティング方法及びコーティング処理物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顆粒、錠剤等の可食性コーティング剤のコーティング技術において、使用上安全であり、水溶性内包物質の安定性を損なうことのない最適なコーティング方法及びコーティング処理物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、機能性食品や医薬品の製剤に用いられる顆粒や錠剤等の可食性コーティング方法として、シェラックなどの樹脂類を用いる方法、糖衣を用いる方法、酵母細胞壁を用いる方法がよく知られている。
【0003】
シェラックは、ラック貝殻虫が分泌する樹脂を用いる方法で、溶媒に水を使わずエタノールなどの揮発溶媒が使われるので、コーティング処理が早いという長所がある反面、臭いのマスキング効果に劣る。
【0004】
糖衣は、白糖を基剤としてゼラチンなどの結合剤を加えたシロップに、粉末原料(タルク、沈降炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、硫酸カルシウム、粉糖など)を散布もしくは懸濁した組成物で下掛け・中掛け・上掛け・艶出しを行って製造される方法で、高級感があり、味と臭いのマスキング効果に優れることから広く一般的に用いられている。しかしながら、手間とコストがかかること、条件によっては、ひびが入ったり、割れたりなど技術的に難しい部分もある。
【0005】
酵母細胞壁を用いた方法も、食品用コーティング剤として一般的な方法で、ビール酵母を用いたものが主に利用される。ビール酵母の自己消化等により細胞内成分(タンパク質、糖質、アミノ酸、有機酸等)を取り除き、残った菌体残渣としての細胞壁画分を酸で処理し、その不溶性の細胞壁画分をさらに水洗した酸処理酵母細胞壁を用いる方法である。この方法は、食品としての安全性を有しているだけでなく、コーティング力や臭いのマスキング効果にも優れるという特性がある。特に他の食品用コーティング剤に比べ、酸素バリア性、水蒸気バリア性に優れ、酸素透過を抑制し、防湿性にも優れる。また、溶出開始時間の遅延効果を有することから、摂取後に胃あるいは腸内で確実に内容物を放出することも可能である。このような特性から、広く一般的に使われるコーティング方法である。
【0006】
しかしながら、コーティング時の溶媒に水が用いられることから、内包物質が水溶性で、水と接触することで著しく安定性を損なうものや、水と接触することで臭気が発生するものに対しては使用しづらいといった問題があった。
【0007】
水に著しく不安定であり、水の存在による臭気の発生が、コーティング工程において問題となる物質として、α−リポ酸がある。α−リポ酸(チオクト酸)は、水溶性・脂溶性の両方の性質を有し、抗酸化力に極めて優れることから、最近ではサプリメント等に配合されている機能性食品素材として知られている。α−リポ酸は、従来医薬品として糖尿病患者の末梢疼痛緩和剤に用いられてきた医薬成分であるが、平成16年から食品へ添加物としての使用が可能となった成分である。α−リポ酸には、自己重合性があることが知られており、加熱乾燥や精製工程においてα−リポ酸重合物を生成してしまうことが問題となることがあった。この場合、α−リポ酸重合物はいわゆる不純物であることから、結果的に純度低下を生じる。特に、水や湿気があると重合が促進される傾向にある。重合により構造中のジスルフィド結合が切れて開還するため、臭いの問題が生じるものと考えられる。
【0008】
食品用コーティング剤として酵母細胞壁を用いる方法は、安全性やコーティング力、臭いのマスキング効果があることから好ましいコーティング方法ではあるが、酵母細胞壁が水懸濁液であることから、内包物質にα−リポ酸が用いられる場合、コーティング時にα−リポ酸の不安定化を招き、使用しづらいという欠点があった。
【0009】
本発明は、可食性コーティング剤として酵母細胞壁を用いる方法に着目したもので、特に水の介入により安定性や臭気の問題が生じる可能性の高い内包物質を含む顆粒や錠剤等に対し、コーティングする場合において、内包物質の安定性を損なうことのない最適なコーティング方法と、コーティング処理物を提供するものである。
【0010】
この課題に関する文献として、α−リポ酸の粉末及び/又は粒子の外表面を脂質類で被覆した後、さらにその外表面を多糖類、酵母細胞壁、シェラック、ゼラチン、大豆たん白、ゼイン、マンナン及び澱粉からなる群から選ばれる親水系物質で被覆してなる安定化α−リポ酸組成物(特許文献1参照)が開示されている。この発明は、α−リポ酸組成物を脂質類等で被覆することによって熱安定性が向上するもので、さらにその上を酵母細胞壁などの親水系物質で被覆し、二重被覆構造とすることで、水性の原料や成分との親和性が高まりリポ酸との均質な組成物を調製することが容易となる。また、カルニチン含有固形物をシェラック膜でコーティングした後、酵母細胞壁で更にコーティングしてなることを特徴とするカルニチン含有製品(特許文献2参照)の開示がある。吸湿性の高いカルニチンの欠点を解消するのに、コーティング膜を二重被覆構造とすることで解決したものである。
【0011】
【特許文献1】特開2006−306825公報
【特許文献2】特開2006−111550公報
【0012】
しかしながら、簡易な方法で、この課題を解決する有効な手段についての報告はなく、二重コーティングもしくはコーティング剤に親水系物質を用いないなどの方法がとられる。二重コーティングは、最初のコーティング工程でも、乾燥処理を必要とすることから、生産性において欠点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、可食性コーティング剤の一種である酵母細胞壁を用いて顆粒、錠剤等にコーティングすることにおいて、使用上安全であり、水溶性内包物質の安定性を損なうことのない最適なコーティング方法及びコーティング処理物を得る方法について鋭意検討した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記課題を解決するために研究を行った結果、酵母細胞壁をある一定質量比の水/エタノール混液に調製して用いることによって、これらの課題を解消できることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、使用上安全で、水溶性内包物質を安定に保つことができ、しかも臭いをマスキングする効果に優れた最適なコーティング方法を実現でき、それにより安定に水溶性内包物質を含有した酵母細胞壁コーティング処理物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
本発明に用いる酵母細胞壁としては、ビール酵母細胞壁を用いたコーティング剤が好ましく、ビール酵母の細胞内成分を取り除いて残った細胞壁画分を酸で処理し、さらに不溶性細胞壁画分を水洗したものが用いられる。市販品としては、イーストラップ(麒麟麦酒株式会社製)がある。
【0018】
本発明では、コーティング剤として、酵母細胞壁をある一定比率の水/エチルアルコール混液にて分散した酵母細胞壁分散液を用いることによって、水溶性内包物質を安定に保つことに成功した。水/エチルアルコールの比が質量比で(50/50)〜(80/20)である分散媒を用いた場合が、内包物質を最も安定に保つことから好ましく、特に質量比で(65/35)〜(75/25)である分散媒を用いた場合が最も好ましい。
【0019】
水溶性内包物質としては、特に限定されないが、水や湿気に対して安定であるものに関しては対象とならない。カルニチンは吸湿性が高いが、物質そのものの安定性には大きく影響しない。本発明において、特に問題が生じる可能性が高い内包物質としては、α−リポ酸が挙げられる。先に述べたように、α−リポ酸には、自己重合性があり、この性質は水の存在下でさらに促進される。コーティング工程においては、乾燥処理時は、80℃近くの高温環境におかれ、表面温度は40℃以上にもなる。この時生成したα−リポ酸重合物が不純物となるだけではなく、ジスルフィド結合が切れることで臭いの問題が生じる。本発明は、α−リポ酸を内包物質とする場合に特に有用な手段である。
【実施例】
【0020】
次に、以下に本発明の実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明の技術的範囲はこれらによりなんら限定されるものでではない。
【0021】
コーティング剤として、最適な酵母細胞壁分散液のコーティング方法を探るために、安定性評価試料として、α−リポ酸を用い、酵母細胞壁分散液で分散媒として用いられる水/エチルアルコール分散媒の違いによるα−リポ酸の残存率への影響を測定した。
[α−リポ酸残存率測定]
(a)試験方法
まず、α−リポ酸160mgを、エチルアルコール800μLに溶解し、それぞれ100μLずつ試験管に分注した後、これに10質量%酵母細胞壁水分散液900μLをそれぞれ添加する。これに、水/エチルアルコール1.0mLを加え、最終的な水/エチルアルコール質量比が表1に記載された割合になるように希釈溶媒を調整し添加する。このようにして調製したA〜Hの試料を、50℃、12時間保管後、残存するα−リポ酸の量を測定した。
(b)試験結果
試験結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1の結果より、水/エチルアルコール質量比が(65/35)〜(75/25)である分散媒を用いた場合が、最もα−リポ酸の残存率が高いことがわかった。水/エチルアルコール質量比が75/25より高くなると、急激にα−リポ酸が不安定化することがわかった。また、水/エチルアルコール質量比が65/35より低くなる場合も、α−リポ酸は不安定化に傾く傾向がみられた。
実際にこの割合で、酵母細胞壁分散液を調製し、実際の工程を経てコーティング処理を行ったが、同様の傾向が確認された。
【0024】
次に本発明のコーティング方法およびその処理物を実施例により説明する。
【0025】
本発明において、錠剤又は顆粒剤の製造方法は通常の方法を用いることができ、例えば顆粒剤の場合は、薬剤に乳糖などの賦形剤を加えて混合し、エタノール水溶液を適量加えて練和して、押出し造粒機にかけ、乾燥して得られる。または、薬剤に賦形剤を加えて混合した後、ヒドロキシプロピルセルロース等の溶液を加えて造粒、乾燥、篩過しても製造できる。また、錠剤の場合は更に結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を混合後、打錠機にかけて製造することができる。このようにして得られた顆粒剤又は錠剤にコーティングを施す方法としては通常用いられる方法をとることができ、流動層装置を用いてコーティング剤を、顆粒剤又は錠剤にスプレーすることで製造できる。
【0026】
[実施例1]α−リポ酸含有顆粒剤
α−リポ酸30g、d−α−トコフェロール粉末製剤90g、乳糖700g、セルロース180gを均一に混合した後、70%エタノールを適量加え、練和した後押出し造粒機にて造粒し、乾燥して顆粒剤を得る。これに酵母細胞壁分散液を水/エチルアルコール分散媒の質量比が75/25になるよう調製したコーティング液を用いてコーティングを行った。
【0027】
[実施例2]α−リポ酸含有錠剤
α−リポ酸100g、還元麦芽糖水飴720g、結晶セルロース100gを均一に混合した後、これにステアリン酸カルシウム60gを加え、さらに二酸化ケイ素20gを加えて、混合均一化した後、打錠をおこない、一粒250mgの錠剤を調製した。次に、酵母細胞壁分散液を水/エチルアルコール分散媒の質量比が70/30になるよう調製し、コーティング液とした。これを用いてコーティングを行い、80℃で乾燥処理(表面温度は約40℃)した。
【0028】
以上のようにして本発明によるコーティング方法により調製した顆粒剤や錠剤中のα−リポ酸の残存率はほぼ100%であり、このことから、実際の条件下でもα−リポ酸の安定性を損なうことがなく、臭気の発生も見られないことが確認された。また、一層のコーティング処理だけで充分なコーティング膜が得られ、最適なコーティング方法であることがわかった。この方法により、最良のコーティング処理物を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性内包物質を含む錠剤及び/または顆粒剤の表面を、水/エチルアルコールの比が質量比で(50/50)〜(80/20)である分散媒を用いた酵母細胞壁分散液を使ってコーティングすることを特徴とするコーティング方法。
【請求項2】
水溶性内包物質がα−リポ酸であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のコーティング方法を用いたコーティング処理物。

【公開番号】特開2009−46436(P2009−46436A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214612(P2007−214612)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】