説明

コーティング材組成物及び反射防止基材

【課題】反射防止被膜用のコーティング材組成物及びこれから成る反射防止基材において、主成分として4官能シラン化合物を用い、優れた耐擦傷性及び反射防止性能を実現し、しかも低い硬化温度でも十分な架橋密度が得られるようにする。
【解決手段】本発明のコーティング材組成物は、4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物と、シリカ系金属酸化物微粒子とを含有する。エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランを含有させることにより、硬化被膜の表面側及び基板側の屈折率のバランスが良くなり、優れた耐擦傷性と反射防止性能とを有する硬化被膜が得られる。また、エポキシ基が、基材に含まれる水酸基やカルボニル基といった酸素サイトと結合するので、硬化被膜と基材の密着性を向上し、硬化温度が低くても耐擦傷性を上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止被膜等の形成材料として用いられるコーティング材組成物及びこのコーティング材組成物から成る硬化被膜を有する反射防止基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶表示装置(LCD)等の表面には、外光の写り込みを防止して視認性を向上させるための反射防止被膜が形成されている。一般的な反射防止被膜には、基材側に比較的屈折率が高い材料から成る層が、被膜の表面側に比較的屈折率が低い材料から成る層が積層された積層膜が用いられる。また、反射防止被膜の用途や基材の性質によっては、比較的屈折率が低い材料から成る層のみが用いられることもある。この種の反射防止被膜は、基材又は被膜を構成する層の屈折率差を調整することにより、所定波長領域の光の反射率を制御することができる。
【0003】
反射防止被膜の最表面は、外的要因を受け易いので、傷の発生を防止できるように優れた表面硬度(耐擦傷性)を有していることが必要である。これを実現するものとして、マトリクス形成材料としてシラン化合物を用い、これを強固に結合させた硬化被膜を有する反射防止フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記特許文献1には、マトリクス形成材料のシラン化合物として、4官能シラン化合物を用いた例が記載されている。この4官能シラン化合物は、Si−O−Si結合の架橋密度が高いため、マトリクス形成材料に含有させることにより、優れた耐擦傷性を有する反射防止被膜を得ることができるものと期待される。
【特許文献1】特開2007−133386号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、4官能シラン化合物、例えば、4官能オルガノアルコキシシランを主成分として形成された反射防止被膜は、シロキサン結合していない未反応のアルコキシ基が被膜の最表面に配向することにより、被膜の厚さ方向における屈折率傾斜が生じ、反射防止性能が低下することがある。上記特許文献1に示されている実施例は、いずれもマトリクス形成材料の主成分として3官能シラン化合物を用いており、4官能シラン化合物を主成分としていない。すなわち、マトリクス形成材料の主成分として4官能シラン化合物を用い、優れた耐擦傷性と反射防止性能とを両立し得る反射防止被膜用のコーティング材組成物は実現されていない。
【0006】
また、反射防止被膜用のコーティング材組成物は、低い硬化温度でも十分な架橋密度が得られることが望ましい。例えば、LCDの偏光板保護膜として多用されるセルローストリアセテート(TAC)フィルムは、耐熱温度が低いので、これを基材とするときには、硬化温度が100℃以上であるコーティング材組成物を用いることができない。しかし、上記引用文献1においては、コーティング材組成物を130℃という高い温度で硬化させている。そのため、仮に硬化温度を低く設定したとしても、低い硬化温度では被膜を構成する樹脂の十分な架橋密度が得られず、被膜表面の耐擦傷性が低下する虞がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであり、マトリクス形成材料の主成分として4官能シラン化合物を用い、優れた耐擦傷性と反射防止性能とを実現でき、しかも、低い硬化温度でも十分な架橋密度が得られる反射防止被膜用のコーティング材組成物及びこのコーティング材組成物から形成された硬化被膜を有する反射防止基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する反射防止被膜形成用のコーティング材組成物において、4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物と、シリカ系金属酸化物微粒子とを含有するものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のコーティング材組成物において、前記エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量を、樹脂の全固形分に対して1〜10重量%としたものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のコーティング材組成物において、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物を更に含有するものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコーティング材組成物において、前記加水分解性オルガノシランの加水分解物は、該加水分解性オルガノシランに含まれるアルコキシ基に対する水比が1.0〜3.0で反応させたものである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のコーティング材組成物において、前記加水分解性オルガノシランの加水分解物を、ポリスチレン換算重量平均分子量1000〜2000の化合物としたものである。
【0013】
請求項6の発明は、基材の表面に請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のコーティング材組成物から形成された硬化被膜を有する反射防止基材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、4官能シラン化合物を主成分とするコーティング材組成物において、マトリクス形成材料にエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランを含有させることにより、硬化被膜の表面側及び基板側の屈折率のバランスが良くなり、優れた耐擦傷性と反射防止性能とを有する硬化被膜が得られる。また、このコーティング材組成物は、エポキシ基が、基材に含まれる水酸基やカルボニル基といった酸素サイトと結合するので、硬化被膜と基材の密着性を向上し、硬化温度が低くても耐擦傷性を上げることができる。更に、マトリクス形成材料としてフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランを含有させることにより、形成された硬化被膜の反射防止性能を更に向上させることができ、フッ素成分による撥水、撥油性により、硬化被膜の表面における防汚染性も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係るコーティング材組成物及びこのコーティング材組成物から成る硬化被膜を有する反射防止基材について詳説する。本実施形態のコーティング材組成物は、加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する反射防止被膜形成用のコーティング材組成物であって、マトリクス形成材料の主成分として、少なくとも4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物を含有するものである。また、このコーティング材組成物は、シリカ系金属酸化物微粒子を含有する。
【0016】
4官能加水分解性オルガノシランは、下記の一般式(1)で表される。
【0017】
SiX (Xは加水分解基) …(1)
上記一般式(1)において、加水分解基Xは、アルコキシル基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基等を表す。
【0018】
また、本実施形態で用いられる4官能加水分解性オルガノシランは、好ましくは、4官能加水分解性オルガノアルコキシシランであり、これは下記の一般式(2)で表される。
【0019】
Si(OR …(2)
上記一般式(2)において、Rは1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではなく、好ましくは炭素数1〜8の1価の炭化水素基が用いられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基等のアルキル基等を表す。本実施形態で用いられる4官能加水分解性オルガノシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。
【0020】
エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランは、例えば、下記の一般式(3)又は(4)で表される。
【0021】
Si(OR …(3)
Si(OR …(4)
上記一般式(3)(4)において、Rはエポキシ基、グリシドキシ基及びこれらの置換体から選ばれた基を表す。Rは上記Rと同様に、1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等を表す。Rは水素、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基、アルケニル基、メタクリルオキシ基、エポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基、及びそれらの置換体から選ばれた基を表わす。本実施形態で用いられるエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、又はγ−グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0022】
シリカ系金属酸化物としては、好ましくは中空シリカ微粒子が用いられる。中空シリカ微粒子は、シリカ系金属酸化物の外殻の内部に空洞が形成されたものである。外殻は、細孔を有する多孔質なものが好ましいが、細孔が閉塞されて空洞を密封したものであってもよい。なお、形成された被膜の低屈折率化に寄与するものであれば必ずしも上述した中空シリカに限られない。
【0023】
マトリクス形成材料にエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの共加水分解物を含有させると、これらを含むコーティング材組成物を基材上に塗布して硬化させたとき、共加水分解物のエポキシ基が、基材に含まれる水酸基やカルボニル基といった酸素サイトと結合する。そのため、硬化被膜と基材の密着性を向上させることができ、また、硬化被膜の密着性が向上すると硬化温度が低くても耐擦傷性を上げることができる。
【0024】
また、4官能加水分解性オルガノシランの加水分解物をマトリクス形成材料の主成分として用いた硬化被膜においては、被膜の表面側の屈折率が高くなり、屈折率傾斜が生じて反射防止性能が低下した。しかし、本実施形態のように、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランを含有させることにより、硬化被膜の基材側にエポキシ基が配向するので、基材側の屈折率もやや高くなる。これにより、硬化被膜の表面側及び基板側の屈折率のバランスが良くなり、硬化被膜中の屈折率傾斜が緩和されるので、結果として反射防止性能が向上する。
【0025】
このエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量は、樹脂の全固形分に対し1〜10重量%であることが望ましい。エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量が1重量%以下では、形成された被膜表面の耐擦傷性がほとんど向上しない。また、上記含有量が10重量%以上になると、被膜の屈折率が高くなり、反射防止性能が低下する。すなわち、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量を1〜10重量%とすることにより、優れた耐擦傷性と反射防止性能とを有する硬化被膜が得られる。
【0026】
また、好ましくは、上記マトリクス形成材料として、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物が更に含有される。このフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランは、例えば、下記の一般式(5)又は一般式(6)で表される。
【0027】
Si(OR …(5)
Si(OR …(6)
上記一般式(5)(6)において、Rはフルオロアルキル基、パーフルオロアルキル基又はそれらの置換体から選ばれた基を表す。Rは上述したR,Rと同様に、1価の炭化水素基であれば特に限定されるものではなく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等を表す。Rは上述したRと同様に、水素、アルキル基、フルオロアルキル基、アリール基、アルケニル基、メタクリルオキシ基、エポキシ基、グリシドキシ基、アミノ基、及びそれらの置換体から選ばれた基を表わす。本実施形態で用いられるフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランとしては、例えば、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、パーフルオロプロピルエチルトリメトキシシラン、パーフルオロプロピルエチルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0028】
マトリクス形成材料としてフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランを含有させることにより、形成された硬化被膜の反射防止性能を更に向上させることができ、また、フッ素成分による撥水、撥油性により、硬化被膜の表面における防汚染性も向上させることができる。
【0029】
このフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量は、樹脂の全固形分に対し1〜10重量%であることが望ましい。フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量が1重量%以下では、反射防止性能はほとんど向上しない。また、上記含有量が10重量%以上になると、形成された被膜表面の耐擦傷性が低下する。すなわち、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量を1〜10重量%とすることにより、更に優れた耐擦傷性と反射防止性能とを有する硬化被膜が得られる。
【0030】
また、マトリクス形成材料は、好ましくはシリコーンジオールが添加される。シリコーンジオールの含有量は、コーティング材組成物の全固形分に対して1〜10質量%の範囲が好ましい。このようにマトリクス形成材料にシリコーンジオールを含有させると、硬化被膜の表面摩擦抵抗を小さくすることができる。そのため、硬化被膜の表面への引っ掛かりが低減され、傷が入り難くなり、耐擦傷性を向上させることができる。特に、ジメチル型のシリコーンジオールは、被膜を形成した際に、被膜の透明性を損なわないので好適に用いられる。
【0031】
本実施形態のコーティング材組成物は、加水分解性オルガノシランの加水分解物がアルコキシ基に対する水比(水のモル比)が1.0〜3.0で反応させたものであることが望ましい。ここでいう水比とは、コーティング材組成物に添加される水のモル数と、加水分解性オルガノシランに含まれるアルコキシ基のモル数(例えば、4官能加水分解性オルガノシランであれば、4官能加水分解性オルガノシランのモル数に、アルコキシ基の数「4」を乗じた値)の総和との比を指す。水比が1.0以下、特に0.5以下であると反射防止性能が低下し、3.0以上、特に5.0であると耐擦傷性が低下する。
【0032】
本実施形態における加水分解性オルガノシランの加水分解物は、ポリスチレン換算重量平均分子量1000〜2000の化合物となるよう調整される。平均分子量1000以下であると反射防止性能が低下し、平均分子量2000以上であると耐擦傷性が低下する。
【0033】
次に、本実施形態に係るコーティング材組成物及びこのコーティング材組成物から成る硬化被膜の具体的な実施例について、比較例と対比して説明する。なお、以下の記載において、特に断らない限り、「部」は全て「重量部」を、「%」は、後述する5°最小反射率を除き、全て「重量%」を表す。また、重量分子量は、GPC(ゲルパー ミエーション クロマトグラフィー)により、測定機として東ソー(株)のHLC8120を用い、標準ポリスチレンで検量線を作成し、その換算値を測定したものである。
【0034】
<実施例1>
テトラエトキシシラン204.8部にγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン1.0部、イソプロピルアルコール(IPA)600部を加え、これを水53.2部及び0.1Nの硝酸水溶液17.7部(「HO」/「OR」=1.0(水比))に加えて、混合液を得た。この混合液を60℃恒温槽中で1時間加温し、重量平均分子量を1330に調整されたシリコーン加水分解物がマトリクス形成材料として得られた。次に、中空シリカIPA分散ゾル(製品名:スルーリアCS60−IPA、固形分20重量%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm、触媒化成工業製)を用い、これをシリコーン加水分解物に加え、中空シリカ微粒子/シリコーン混合物(縮合化合物換算)が固形分基準で重量比が40/60となるように配合し、その後、全固形分が1%となるようにIPA/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ混合液(希釈後の溶液の全量中の5%が酢酸ブチル、全量中の2%がブチルセロソルブとなるようにあらかじめ混合された用液)で希釈し、更にジメチルシリコーンオイル(N≒40)を酢酸エチルで5重量%となるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンオイルの固形分が2重量%になるよう添加することによって、実施例1のコーティング材組成物を調整した。
【0035】
<実施例2>
実施例1において、テトラエトキシシラン204.8部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン1.0部としたのを、テトラエトキシシラン201.4部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部に換え、また、水53.2部、0.1Nの硝酸水溶液17.7部としたのを、水52.5部、0.1Nの硝酸水溶液17.5部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1340であった。その他は実施例1と同様の材料及び手法に従い、実施例2のコーティング材組成物を調整した。
【0036】
<実施例3>
実施例1において、テトラエトキシシラン204.8部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン1.0部としたのを、テトラエトキシシラン191.0部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン5.0部に換え、また、水53.2部、0.1Nの硝酸水溶液17.7部としたのを、水50.2部、0.1Nの硝酸水溶液16.7部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1345であった。その他は実施例1と同様の材料及び手法に従い、実施例3のコーティング材組成物を調整した。
【0037】
<実施例4>
実施例1において、テトラエトキシシラン204.8部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン1.0部としたのを、テトラエトキシシラン173.6部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン10.0部に換え、また、水53.2部、0.1Nの硝酸水溶液17.7部としたのを、水46.5部、0.1Nの硝酸水溶液15.5部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1335であった。その他は実施例1と同様の材料及び手法に従い、実施例4のコーティング材組成物を調整した。
【0038】
<実施例5>
テトラエトキシシラン194.4部にγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン1.5部、IPA600部を加え、これを水49.0部及び0.1Nの硝酸水溶液16.3部(「HO」/「OR」=1.0)に加え、混合液を得た。この混合液を60℃恒温槽中で1時間加温し、重量平均分子量を1340に調整したシリコーン加水分解物をマトリクス形成材料として得た。
【0039】
次に、中空シリカIPA分散ゾル(製品名:スルーリアCS60−IPA、固形分20重量%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm、触媒化成工業製)を用い、これをシリコーン加水分解物に加え、中空シリカ微粒子/シリコーン混合物(縮合化合物換算)が固形分基準で重量比が40/60となるように配合し、その後、全固形分が1%となるようにIPA/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ混合液(希釈後の溶液の全量中の5%が酢酸ブチル、全量中の2%がブチルセロソルブとなるようにあらかじめ混合された用液)で希釈し、更にジメチルシリコーンオイル(N≒40)を酢酸エチルで5重量%となるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンオイルの固形分が2重量%になるよう添加することによって、実施例5のコーティング材組成物を調整した。
【0040】
<実施例6>
実施例5において、テトラエトキシシラン194.4部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部としたのを、テトラエトキシシラン184.0部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン5.0部に換え、また、水50.8部、0.1Nの硝酸水溶液16.9部としたのを、水48.5部、0.1Nの硝酸水溶液16.2部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1340であった。その他は実施例5と同様の材料及び手法に従い、実施例6のコーティング材組成物を調整した。
【0041】
<実施例7>
実施例5において、テトラエトキシシラン194.4部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部としたのを、テトラエトキシシラン166.7部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン10.0部に換え、また、水48.5部、0.1Nの硝酸水溶液16.2部としたのを、水44.8部、0.1Nの硝酸水溶液14.9部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1380であった。その他は実施例5と同様の材料及び手法に従い、実施例7のコーティング材組成物を調整した。
【0042】
<実施例8>
実施例5において、テトラエトキシシラン194.4部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン1.5部としたのを、テトラエトキシシラン184.0部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン3.8部に換え、また、水50.8部、0.1Nの硝酸水溶液16.9部としたのを、水48.3部、0.1Nの硝酸水溶液16.1部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1345であった。その他は実施例5と同様の材料及び手法に従い、実施例8のコーティング材組成物を調整した。
【0043】
<実施例9>
実施例8において、テトラエトキシシラン184.0部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部としたのを、テトラエトキシシラン173.6部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン5.0部に換え、また、水48.3部、0.1Nの硝酸水溶液16.1部としたのを、水46.0部、0.1Nの硝酸水溶液15.3部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1325であった。その他は実施例8と同様の材料及び手法に従い、実施例9のコーティング材組成物を調整した。
【0044】
<実施例10>
実施例8において、テトラエトキシシラン184.0部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部としたのを、テトラエトキシシラン156.2部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン10.0部に換え、また、水48.3部、0.1Nの硝酸水溶液16.1部としたのを、水42.3部、0.1Nの硝酸水溶液14.1部に替えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1335であった。その他は実施例8と同様の材料及び手法に従い、実施例10のコーティング材組成物を調整した。
【0045】
<実施例11>
実施例5において、テトラエトキシシラン194.4部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン1.5部としたのを、テトラエトキシシラン166.7部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシラン0.75部に換え、また、水50.8部、0.1Nの硝酸水溶液16.9部としたのを、水44.1部、0.1Nの硝酸水溶液14.7部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1340であった。その他は実施例5と同様の材料及び手法に従い、実施例11のコーティング材組成物を調整した。
【0046】
<実施例12>
実施例11において、テトラエトキシシラン166.7部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部を、テトラエトキシシラン156.2部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン5.0部に変え、水44.1部、0.1Nの硝酸水溶液14.7部を水41.8部、0.1Nの硝酸水溶液13.9部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1350であった。その他は実施例11と同様の材料及び手法に従い、実施例12のコーティング材組成物を調整した。
【0047】
<実施例13>
実施例11において、テトラエトキシシラン166.7部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン2.0部としたのを、テトラエトキシシラン138.9部、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン10.0部に換え、また、水44.1部、0.1Nの硝酸水溶液14.7部としたのを、水38.1部、0.1Nの硝酸水溶液12.7部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1340であった。その他は実施例11と同様の材料及び手法に従い、実施例13のコーティング材組成物を調整した。
【0048】
<実施例14>
実施例2において、水52.5部、0.1Nの硝酸水溶液17.5部としたのを、水26.3部、0.1Nの硝酸水溶液8.8部(「HO」/「OR」=0.5(水比))に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1110であった。その他は実施例2と同様の材料及び手法に従い、実施例14のコーティング材組成物を調整した。
【0049】
<実施例15>
実施例2において、水52.5部、0.1Nの硝酸水溶液17.5部としたのを、水78.8部、0.1Nの硝酸水溶液26.3部(「HO」/「OR」=1.5)に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1460であった。その他は実施例2と同様の材料及び手法に従い、実施例15のコーティング材組成物を調整した。
【0050】
<実施例16>
実施例2において、水52.5部、0.1Nの硝酸水溶液17.5部としたのを、水157.5部、0.1Nの硝酸水溶液52.5部(「HO」/「OR」=3.0)に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1600であった。その他は実施例2と同様の材料及び手法に従い、実施例16のコーティング材組成物を調整した。
【0051】
<実施例17>
実施例2において、水52.5部、0.1Nの硝酸水溶液17.5部としたのを、水262.5部、0.1Nの硝酸水溶液87.5部(「HO」/「OR」=5.0)に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は2000であった。その他は実施例2と同様の材料及び手法に従い、実施例17のコーティング材組成物を調整した。
【0052】
<実施例18>
実施例13において、水38.1部、0.1Nの硝酸水溶液12.7部としたのを、水19.0部、0.1Nの硝酸水溶液6.3部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1200であった。その他は実施例13と同様の材料及び手法に従い、実施例18のコーティング材組成物を調整した。
【0053】
<実施例19>
実施例13において、水38.1部、0.1Nの硝酸水溶液12.7部としたのを、水57.1部、0.1Nの硝酸水溶液19.0部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1520であった。その他は実施例13と同様の材料及び手法に従い、実施例19のコーティング材組成物を調整した。
【0054】
<実施例20>
実施例13において、水38.1部、0.1Nの硝酸水溶液12.7部としたのを、水114.2部、0.1Nの硝酸水溶液38.1部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1650であった。その他は実施例13と同様の材料及び手法に従い、実施例20のコーティング材組成物を調整した。
【0055】
<実施例21>
実施例13において、水38.1部、0.1Nの硝酸水溶液12.7部としたのを、水190.3部、0.1Nの硝酸水溶液63.4部に換えた。得られたマトリクス形成材料の重量平均分子量は1950であった。その他は実施例13と同様の材料及び手法に従い、実施例21のコーティング材組成物を調整した。
【0056】
<比較例1>
テトラエトキシシラン208.3部にIPA600部を加え、更にこれを水54.0部及び0.1Nの硝酸水溶液18.0部(「HO」/「OR」=1.0(水比))に加え、混合液を得た。この混合液を60℃恒温槽中で1時間加温し、重量平均分子量を1350に調整したシリコーン加水分解物をマトリクス形成材料として得た。次に、中空シリカIPA分散ゾル(製品名:スルーリアCS60−IPA、固形分20重量%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm、触媒化成工業製)を用い、これをシリコーン加水分解物に加え、中空シリカ微粒子/シリコーン混合物(縮合化合物換算)が固形分基準で重量比が40/60となるように配合し、その後、全固形分が1%となるようにIPA/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ混合液(希釈後の溶液の全量中の5%が酢酸ブチル、全量中の2%がブチルセロソルブとなるようにあらかじめ混合された用液)で希釈し、更にジメチルシリコーンオイル(N≒40)を酢酸エチルで5重量%となるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンオイルの固形分が2重量%になるよう添加することによって、比較例1のコーティング材組成物を調整した。
【0057】
<比較例2>
テトラエトキシシラン138.9部にγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン20.0部、IPA600部を加え、これを水38.9部及び0.1Nの硝酸水溶液13.0部(「HO」/「OR」=1.0)に加え、混合液を得た。この混合液を60℃恒温槽中で1時間加温し、重量平均分子量を1350に調整したシリコーン加水分解物をマトリクス形成材料として得た。次に、中空シリカIPA分散ゾル(製品名:スルーリアCS60−IPA、固形分20重量%、平均一次粒子径約60nm、外殻厚み約10nm、触媒化成工業製)を用い、これをシリコーン加水分解物に加え、中空シリカ微粒子/シリコーン混合物(縮合化合物換算)が固形分基準で重量比が40/60となるように配合し、その後、全固形分が1%となるようにIPA/酢酸ブチル/ブチルセロソルブ混合液(希釈後の溶液の全量中の5%が酢酸ブチル、全量中の2%がブチルセロソルブとなるようにあらかじめ混合された用液)で希釈し、更にジメチルシリコーンオイル(N≒40)を酢酸エチルで5重量%となるように希釈した溶液を、中空シリカ微粒子とシリコーンレジン(縮合化合物換算)の固形分の和に対して、ジメチルシリコーンオイルの固形分が2重量%になるよう添加することによって、比較例2のコーティング材組成物を調整した。
【0058】
上述のようにして調整されたコーティング材組成物を、1時間放置した後、UV−オゾン洗浄機(エキシマランプ、ウシオ電機製、型式:H0011)で予め表面洗浄したアクリル板(両面ハードコート処理、ハードコート屈折率1.52)のハードコート表面にワイヤーバーコーターによって塗布して、厚さ約100nmの被膜を形成し、これらを80℃で1時間、酸素雰囲気下で熱処理して、上述した実施例及び比較例に対応する硬化被膜が形成された。形成された夫々の硬化被膜について、反射率、及び表面硬度(耐擦傷性)を下記の手法に従って測定し、各硬化被膜の性能を評価した。
【0059】
(最小反射率)
分光光度計(日立製作所製「U−4100」)を使用して、最小反射率(5°相対反射率)を測定した。
【0060】
(耐擦傷性)
磨耗試験機(新東科学製、HEIDEN−14DR、スチールウール♯0000、250G荷重、10往復)で、硬化被膜の表面を擦り、硬化被膜の表面に発生した単位面積あたりの傷の本数を測定した。
【0061】
実施例1〜21及び比較例1,2のコーティング材組成物の材料構成、及び作成された硬化被膜に対して実施された試験の結果を下記の表1に示す。なお、表1において、エポキシシラン含有量(%)又はフルオロシラン含有量(%)とあるのは、樹脂中の全固形成分に対する割合を示す。
【0062】
【表1】

実施例1〜4は、マトリクス形成材料中のエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの含有量を変化させたものである。実施例1〜4と比較例1とを比較した結果、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの含有量が多くなると、形成された硬化被膜において優れた耐擦傷性が得られることが分かった。一方、比較例2に示すように、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの含有量が過剰になると、硬化被膜の反射防止性能が低下した。
【0063】
実施例5〜13は、マトリクス形成材料中のエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの含有量、及びフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの含有量を夫々変化させたものである。上記の結果は、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの含有量が多くなると、形成された硬化被膜において優れた反射防止性能が得られることを示す。特に、マトリクス形成材料中のエポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの含有量を10%、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの含有量を10%とした実施例13は、耐擦傷性と反射防止性能とを両立させたものである。
【0064】
実施例14〜17は、フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランを含有させずに、水比及び平均分子量を夫々変化させたものである。また、実施例18〜21は、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシラン及びフッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランを含有させて、水比及び平均分子量を夫々変化させたものである。これらの結果は、水比又は平均分子量が小さくなると反射防止性能が低下する一方で耐擦傷性が向上することを示す。
【0065】
なお、本発明のコーティング材組成物は、上記実施例に示した構成に限られず、本発明の効果を阻害しない範囲において種々の変様が可能であり、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、シランカップリング剤等の添加剤が適宜に含有され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性オルガノシランの加水分解物を含有する反射防止被膜形成用のコーティング材組成物において、
4官能加水分解性オルガノシランと、エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランとの加水分解物と、シリカ系金属酸化物微粒子とを含有することを特徴とするコーティング材組成物。
【請求項2】
前記エポキシ基及びアルコキシ基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物の含有量が、樹脂の全固形分に対して1〜10重量%であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材組成物。
【請求項3】
フッ素置換アルキル基を有する加水分解性オルガノシランの加水分解物を更に含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコーティング材組成物。
【請求項4】
前記加水分解性オルガノシランの加水分解物は、該加水分解性オルガノシランに含まれるアルコキシ基に対する水比が1.0〜3.0で反応させたものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のコーティング材組成物。
【請求項5】
前記加水分解性オルガノシランの加水分解物は、ポリスチレン換算重量平均分子量1000〜2000の化合物であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のコーティング材組成物。
【請求項6】
基材の表面に請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のコーティング材組成物から形成された硬化被膜を有する反射防止基材。

【公開番号】特開2009−280748(P2009−280748A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−136269(P2008−136269)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】