説明

コーティング用ポリイミド樹脂溶液、これを用いた積層体、光学補償部材及び液晶表示装置

【課題】
低コストに製造可能であって、高い有機溶媒可溶性を有するポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有するコーティング用ポリイミド樹脂溶液を提供し、該溶液を支持体上に塗工して形成される積層体を用いた十分な光学補償能(例えば複屈折発現性)を有する光学補償部材、及び該部材を用いた液晶表示装置を提供すること。
【解決手段】
脂環式構造を有するMCTCを含む二種以上の酸二無水物と、ベンジジン構造を有するジアミンより調製される、低コストに製造可能であって、高い有機溶媒可溶性を有するポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有することを特徴とするコーティング用ポリイミド樹脂溶液、更にはこれ用いた光学補償能(例えば複屈折発現性)に優れた光学補償部材、該部材を用いた液晶表示装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドを含有するコーティング用ポリイミド樹脂溶液、及びこれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、光学補償を目的とした位相差フィルムを使用するのが一般的であるが、例えば特許文献1には、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)と2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)等からなる可溶性ポリイミドを有機溶媒に溶解して得られたポリイミド樹脂溶液を支持体上にキャスト後、溶媒を乾燥させて得られるポリイミド層を用いた光学補償部材が記載されている。しかしフッ素を含んだ酸二無水物を用いたポリイミドは一般に高価であり、コストの面で十分満足とは言えなかった。
【0003】
また例えば特許文献2には、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物(MCTC)とTFMBからなる有機溶媒可溶性ポリイミドが挙げられているが、このポリイミドの用途として挙げられているものは、半導体素子の層間絶縁膜、パッシベーション膜、バッファーコート膜、多層プリント基板用絶縁膜、液晶表示素子の薄膜トランジスターの保護膜、有機EL素子の電極保護膜のみであった。
【0004】
また例えば特許文献3には、少なくとも1種の脂環式テトラカルボン酸二無水物を含有する酸二無水物とジアミンを溶媒中で反応させて得られるポリアミド酸を含有する熱硬化性樹脂溶液組成物が挙げられている。しかしこの組成物は熱硬化性であり、塗布後に煩雑な硬化処理が必要である。更には、カラーフィルター用であるため、実施例に記載されている複屈折の値は0.01以下と低いものであった。
【0005】
更に、特許文献4にはポリイミド樹脂からなる位相差膜が開示されている。しかしながら、実施例にはポリアミド酸を加熱し、硬化させてポリイミドを得る方法のみが開示されているだけであり、ポリイミドを含有する樹脂溶液についての具体的な開示はなかった。
【特許文献1】WO2005/118686
【特許文献2】WO2003/02899
【特許文献3】特開2002−114907
【特許文献4】特開2007−122037
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、低コストに製造可能であって、高い有機溶媒可溶性を有するポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有するコーティング用ポリイミド樹脂溶液を提供し、該溶液を支持体上に塗工して形成される積層体を用いた十分な光学補償能を有する光学補償部材、及び該部材を用いた液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、特定の酸二無水物及びジアミンより調製されるポリイミド樹脂が、低コストに製造可能であって、高い有機溶媒可溶性有することを見出し、該樹脂と少なくとも1種の有機溶媒を含有するポリイミド樹脂溶液を用いて、支持体上にコーティングすることにより、光学補償能(例えば複屈折発現性)に優れた光学補償部材を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は
(I)下記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有することを特徴とするコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【0009】
【化1】

【0010】
(Rは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、Rは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、Rは4価の有機基であり、mとnはm:n=95:5〜60:40を満たす。)
(II)一般式(1)のRが−CFであり、Rが−Hであることを特徴とする(I)に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【0011】
(III)一般式(1)のRが下記構造式群(2)より選択される、少なくとも1つの4価の有機基であることを特徴とする(I)または(II)のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【0012】
【化2】

【0013】
(IV)一般式(1)のRが下記構造式(3)で示される、少なくとも1つの4価の有機基であることを特徴とする(I)から(III)のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【0014】
【化3】

【0015】
(V)上記有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジオキソラン、酢酸エチル、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンよりなる群から、少なくとも1つを選択してなることを特徴とする(I)から(IV)のいずれか1項に記載の製造方法。
【0016】
(VI)(I)から(V)のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液を、支持体上に塗工して形成することを特徴とする積層体。
【0017】
(VII)(VI)に記載の積層体を用いてなることを特徴とする光学補償部材。
【0018】
(VIII)(VII)に記載の光学補償部材を有する液晶表示装置。
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、低コストに製造可能であって、高い有機溶媒可溶性を有するポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有するコーティング用ポリイミド樹脂溶液を得ることができる。また該溶液を用いた十分な光学補償能を有する光学補償部材、及び部材を用いた液晶表示装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の要旨とするところは、下記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒とを含有することを特徴とするコーティング用ポリイミド樹脂溶液である。ここで本願発明におけるコーティング用ポリイミド樹脂溶液とは、支持体に塗布して、溶媒を乾燥させることで積層体を形成することができるものである。該溶液は支持体に塗布して乾燥するだけで光学補償能を有する積層体を形成することができ、塗布後に硬化などの煩雑な操作が必要ないため、製造工程を簡便にすることができる。
【0021】
【化4】

【0022】
(mとnはm:n=95:5〜60:40を満たす。)
は同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、特に−CFが樹脂の有機溶媒溶解性や透明性の点から好ましい。
【0023】
は同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、特に−Hが好ましい。
は4価の有機基であり、特に制限されないが、下記構造式群(2)より選択される、少なくとも1つの4価の有機基であることが好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
更に好ましくは、Rは下記構造式群(3)より選択される少なくとも1つの4価の有機基である。
【0026】
【化6】

【0027】
またmとnはm:n=95:5〜60:40を満たし、90:10〜60:40を満たすことが好ましく、85:15〜65:35を満たすことがより好ましい。
【0028】
前記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂の製造方法には、特に制限されず、前駆体として対応するポリアミド酸を種々のイミド化方法によりイミド化するなど、既知の方法を用いることができる。
【0029】
ポリアミド酸の製造方法について一例を記載する。ポリアミド酸の製造方法は下記方法に制限されるものではなく、種々の方法を用いることが可能である。
【0030】
ポリアミド酸は、特に制限されないが、例えば酸二無水物とジアミンの共重合により調製することができる。前記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸は、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物(MCTC)を含む少なくとも二種の酸二無水物とベンジジン構造を有するジアミンより調製される。
【0031】
ベンジジン構造を有するジアミン類を溶解した有機溶媒中に、MCTCを含む少なくとも二種の酸二無水物類を分散し、撹拌することで完全に溶解させ重合反応を行う。少なくとも二種の酸二無水物は、二種以上を同時に添加されてもよく、一種ずつ個別に添加されてもよい。完全に溶解した後に、1時間から60時間反応させることが好ましい。
【0032】
反応装置には、反応温度を制御するための温度調整装置を備えていることが好ましい。反応溶液温度は40℃以下が好ましく、更に30℃以下が、反応が効率良く進行してポリアミド酸の粘度が上昇しやすいことから好ましい。
【0033】
ポリアミド酸の重合に使用される有機溶媒としては、テトラメチル尿素、N,N−ジメチルエチルウレアのようなウレア類、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホンのようなスルホキシドあるいはスルホン類、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ―ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、またはホスホリルアミド類の非プロトン性溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、フェノール、クレゾールなどのフェノール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテルなどのエーテル類が挙げられることができる。通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて二種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。これらのうちDMF、DMAc、NMPなどのアミド類が好ましく使用される。
【0034】
ポリアミド酸溶液中のポリアミド酸の重量%は、有機溶媒中にポリアミド酸が5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることが更に好ましく、15〜30重量%溶解されているのが取り扱い面から特に好ましい。
【0035】
上記方法で調製したポリアミド酸の分子量を、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。DMFを展開溶媒としポリエチレングリコールを換算標準試料として用いたGPC法により測定した際のポリアミド酸の重量平均分子量は、10,000以上であることが、ポリアミド酸をポリイミド樹脂成形体に成形した際の強度の点から好ましく、500,000以下であることが加工の容易さの点から好ましい。
【0036】
本発明において用いられる酸二無水物は、MCTCを含む少なくとも二種の酸二無水物である。MCTCは、全酸二無水物中で95〜60モル%の割合で使用することが好ましく、90〜60モル%の割合で使用することが更に好ましく、85〜65モル%の割合で使用することが特に好ましい。上記範囲で用いると、得られるポリイミド樹脂の有機溶媒への溶解性が向上するので、取り扱いの面で好ましい。
【0037】
MCTC以外の酸二無水物としては、特に制限されないが、例えばピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(6FDA)、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMHQ)、 ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、2,2−ビス(4−トリメリット酸モノエステル酸フェニル)プロパン酸二無水物(ESDA)、3,3,4,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族酸二無水物が好ましく、PMDA、BTDA、TMHQが更に好ましく、BTDAが、複屈折発現性と得られるポリイミド樹脂の有機溶媒溶解性の点から特に好ましく用いられる。MCTC以外の酸二無水物を二種以上用いる場合は、その混合比は特に制限されない。
【0038】
本発明において用いられるジアミン類は、一般式(4)で表される。
【0039】
【化7】

【0040】
(式中のRは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、Rは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示す。)
具体的には、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリクロロメチル)ベンジジン、2,2’−ジ−tert−ブチルベンジジン、2,2’−ジフルオロベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジン、2,2’−ジブロモベンジジン、2,2’−ジエチルベンジジン、2,2’−ジヒドロキシベンジジン、2,2’−ジスルホン酸ベンジジン等を用いることが好ましい。特に透明性・溶解性の面から、TFMB、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジクロロベンジジンを用いることが好ましい。とりわけTFMBを用いることが好ましい。
【0041】
ポリアミド酸溶液の製造反応に用いられる酸二無水物類とジアミン類の使用モル比率は、全酸二無水物類の使用モル数を全ジアミン類の使用モル数で除した値が、0.9以上1.5以下であることが好ましく、0.95以上1.3以下であることが更に好ましく、とりわけ0.98以上1.2以下であることが、ポリアミド酸溶液から得られるポリイミド樹脂中の未反応の酸二無水物やジアミンを減少させる上で好ましい。
【0042】
次に、ポリアミド酸のイミド化方法について記載する。ポリアミド酸溶液をイミド化する方法には、熱的に脱水閉環する熱イミド化法、脱水剤及び触媒を用いる化学的イミド化法、及び上記2方法を併用する方法がある。
【0043】
このうち熱イミド化法と化学的イミド化法を併用する方法が、着色量が少なく、高いイミド化率を有するポリイミド樹脂を調製できるので好ましい。
【0044】
化学的イミド化法に用いられる脱水剤としては、無水酢酸などの脂肪族酸無水物や芳香族酸無水物などが挙げられる。中でも無水酢酸を用いることが、ポリイミド樹脂の抽出工程の点から好ましい。触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第三級アミン類、ジメチルアニリンなどの芳香族第三級アミン類、ピリジン、イソキノリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、ルチジンなどの複素環式第三級アミン類などが挙げられる。しかし、用いる触媒によっては着色することがあるので、ポリイミド樹脂に好適な触媒を適宜選定することが好ましい。特に、本願発明に好適に用いることのできる触媒は、ピリジン、イソキノリン、β−ピコリンである。
【0045】
ポリアミド酸に対する脱水剤及び触媒の添加量は、ポリアミド酸を構成する化学構造式に依存するが、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.001が好ましく、触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=10〜0.001が好ましい。更に好ましくは、脱水剤モル数/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.01が好ましく、触媒/ポリアミド酸中アミド基モル数=5〜0.01が好ましい。
【0046】
化学的イミド化法と併用する、熱的イミド化法では、ポリアミド酸溶液に脱水剤と触媒を添加して撹拌している溶液を、150℃以下で加熱することが好ましく、120℃以下で加熱することが更に好ましく、100℃以下で加熱することが、分子量低下と着色を抑えるので、特に好ましい。また加熱時間は1時間以上10時間以下が好ましく、1時間以上5時間以下であることが、イミド化反応を進めて、分子量低下と着色を抑えるために、更に好ましい。
【0047】
イミド化反応後のポリイミド樹脂溶液は、そのままコーティング用樹脂溶液として、積層体形成に用いても良いが、抽出によりポリイミド樹脂を一旦取り出すことが可能である。ポリイミド樹脂を抽出する好適な方法として、イミド化反応後のポリイミド樹脂溶液を貧溶媒中に投入する方法が挙げられる。本発明で用いられるポリイミド樹脂の貧溶媒は、例えば水、1−プロパノール、2−プロパノール、メタノール、エタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコールなど、該当するポリイミドの貧溶媒であって、ポリアミド酸及びポリイミド樹脂の溶解溶媒として使用した有機溶媒と混和するものが用いられ、特にアルコール類が好ましく用いられる。
【0048】
アルコール類を用いたポリイミド樹脂の抽出方法の一例を以下に記載する。ポリイミド樹脂溶液を貧溶媒中に注入する際には、ポリイミド溶液の固形分濃度が15重量%以下、好ましくは10重量%以下の状態になるように反応溶媒で希釈し、ポリイミド樹脂溶液が糸状になるように投入して注入する。貧溶媒量はポリイミド樹脂溶液重量の3倍以上の量を用いることが好ましい。
【0049】
抽出したポリイミド樹脂を、洗浄により精製することが好ましい。洗浄に用いる溶媒は、抽出に用いた溶媒と同一であっても異なっていてもよい。例えば水、1−プロパノール、2−プロパノール、メタノール、エタノール、エチレングリコール、トリエチレングリコールなど、該当するポリイミドの貧溶媒で、ポリアミド酸及びポリイミド樹脂の溶解溶媒として使用した有機溶媒と混和するものが用いられ、特にアルコール類が好ましく用いられる。
【0050】
洗浄により精製したポリイミド樹脂を、乾燥により更に精製することが好ましい。乾燥を酸素存在下で行う場合の乾燥温度は200℃以下とすることが、樹脂の着色を抑制する観点から、好ましい。真空中や不活性ガス雰囲気下で乾燥を行う際も、150℃以下で行うことが好ましい。
【0051】
上記方法で調製したポリイミド樹脂の分子量を、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。DMFを展開溶媒としポリエチレングリコールを換算標準試料として用いたGPC法により測定した際の該樹脂の重量平均分子量は、10000以上であることが、ポリイミド樹脂成形体に成形した際の強度の点から好ましく、500,000以下であることが加工の容易さの点から好ましい。
【0052】
得られた前記一般式(1)で示される樹脂は、再度有機溶媒に溶解してコーティング用ポリイミド樹脂溶液として用いることができる。溶解して用いる場合は、支持体上に塗工した後、有機溶媒を乾燥除去することにより積層体を形成する。積層体は支持体を取り除く等加工してから用いてもよいし、支持体ごとそのまま用いてもよい。
【0053】
再度有機溶媒に溶解する場合には、テトラメチル尿素、N,N−ジメチルエチルウレアのようなウレア類、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホンのようなスルホキシドあるいはスルホン類、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、γ―ブチルラクトン、ヘキサメチルリン酸トリアミドのようなアミド類、またはホスホリルアミド類の非プロトン性溶媒、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル類、ベンゼン、トルエン、p−キシレン、m−キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチルのようなエステル類、フェノール、クレゾールなどのフェノール類、ジオキソラン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p−クレゾールメチルエーテルなどのエーテル類、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、ジエチルケトンなどのケトン類を用いることができる。通常これらの溶媒を単独で用いるが、必要に応じて2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。ポリイミド樹脂溶液調製に用いられる溶媒は、使用形態、支持体種により適宜選定される。DMF、DMAc、ジオキソラン、酢酸エチル、トルエン、アセトン、MEK、MIBK、シクロヘキサノン、シクロペンタノンが各種支持体に適用可能であり好ましく、MIBK、MEK、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどの溶媒が特に好ましく、MIBK、MEKが、揮発性が高く積層体形成が簡便に行えるため、とりわけ好ましく使用される。
【0054】
コーティング用ポリイミド樹脂溶液は、有機溶媒への溶解性が高ければ高い程、溶液中の固形分濃度を高めることができ、再度有機溶媒に溶解して積層体を形成する際に、有機溶媒を揮発させやすく、積層体に残留する有機溶媒の量を減少させることができるために好ましい。積層体形成(光学補償能を有する塗膜形成)に用いるコーティング用ポリイミド樹脂溶液の固形分濃度は、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることが更に好ましく、15重量%以上であることが特に好ましい。
【0055】
支持体としては、各種のものが使用可能であり、ガラス板または金属板などを用いることもできるが、軽量化などの観点から高分子からなる支持体、更には光学用途で使用される有機高分子からなる支持体などが好適に使用できる。支持体を構成する具体的な材料としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアシレート、セルロースエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステル、脂環構造の環状オレフィン、ポリサルフォン、ポリアリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。特に、PMMA、TAC等のセルロース類、PET、脂環構造の環状オレフィンが好ましく、TAC等のセルロース類、PET,脂環構造の環状オレフィンが特に好ましく使用できる。なお、軽量化などの観点から支持体はフィルム状であることが好ましい。また支持体はアニールしたものを用いてもよい。
【0056】
上記方法で調製したコーティング用ポリイミド樹脂溶液は、VA(バーティカル・アラインメント)方式の液晶ディスプレイ用の光学補償部材として使用される場合がある。VA方式のディスプレイでは、黒表示時の斜め方向の光漏れが問題となる。この光漏れを改善するために、厚み方向の複屈折(△n)発現性が大きな光学補償部材が用いられる。△nとは、面内の屈折率のうち、最大のものをnx、最小のものをnyとし、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、△n=(nx+ny)/2−nzより与えられる値を言う。具体的にはVA方式のディスプレイ中の液晶により生じるレターデーションを補償する光学補償部材に、本発明のコーティング用ポリイミド樹脂溶液を用いることができる。
【0057】
前記レターデーション(Re)は光学補償部材の膜厚をdとして、Re=△n×dの式で表される。△nは,0.020≦△n≦0.150であることが好ましく、0.025≦△n≦0.100の範囲であることが更に好ましい。△n<0.020の場合は、光学補償に必要なレターデーションを発現するために、膜厚を厚くする必要がある。このため揮発させる有機溶媒の量も多くなり、乾燥時間が長期化し、生産性が悪くなる場合がある。また膜厚を厚くするため、使用する樹脂量が多くなり、コスト面でも好ましくない。△n>0.150より大きい場合には、わずかな厚みばらつきが、レターデーションのばらつきの原因となるため、品質上好ましくない。また薄膜の厚さは、1〜30μmの範囲であることが好ましく、1〜20μmの範囲であることが更に好ましく、2〜20μmの範囲であることが、生産性及びコストの観点から、特に好ましい。厚さが30μm以上となると、揮発させる有機溶媒の量も多くなり、乾燥時間が長期化し、生産性が悪くなる場合がある。また膜厚を厚くするため、使用する樹脂量が多くなり、コスト面でも好ましくない。厚さが1μm以下となると、厚み制御が困難となり、わずかな厚みムラがレターデーションのばらつきの原因となるため、品質上好ましくない。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
[評価方法]
実施例に記載の数値等は以下の評価方法によるものである。
【0060】
(分子量)
合成により得られたポリイミド樹脂の重量平均分子量(Mw)をゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。測定の条件は表1の通りである。
【0061】
【表1】

【0062】
(溶解性)
合成により得られたポリイミド樹脂0.1gとメチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルエチルケトン(MEK)、またはシクロヘキサノン(CPN)1.9gとをサンプル管瓶に入れ、室温で半日間静置し、溶け残りが無く均一な溶液となっていれば可溶、溶け残りがあれば不溶とした。
【0063】
(ポリイミド樹脂層の作製)
合成により得られたポリイミド樹脂をMIBK、またはCPNに溶解して得られたポリイミド樹脂溶液を、ガラス板(松浪硝子工業製カバーガラス(35mm×50mm))上に、バーコーターで、膜厚が50μmから150μmとなるように塗布し、熱風オーブンで、90℃で10分間乾燥し、引き続いて160℃(溶媒がMIBKの場合)または200℃(溶媒がCPNの場合)で20分間乾燥させ、ガラス上にポリイミド樹脂層を形成した。
【0064】
(膜厚の測定)
上記で作製したポリイミド樹脂層の膜厚を、日本分光製FT/IR−4100にて測定した。屈折率は1.55を用いた。
【0065】
(複屈折の測定)
上記で作製し膜厚を測定したポリイミド樹脂層の厚み方向の複屈折(△n)を、王子計測機器製KOBRA−WRにて測定した。測定波長を590nm、Naveを1.55として、面内のレターデーションと、ポリイミド樹脂層の遅相軸を回転軸として40°傾けた際のレターデーションを測定し、装置付属のプログラムにより、△n(=(nx+ny)/2−nz)を算出した。
【0066】
[樹脂の合成]
(実施例1)
窒素導入管と、ポリテトラフルオロエチレン製のバキュームシールと、ステンレス製4枚プロペラ翼(翼径50mmと60mm各1枚)を具備したステンレス製撹拌棒を最高300rpmで撹拌可能な撹拌機と、筒型丸底ガラス製セパラブルフラスコ(容量500ml)とからなる反応容器に、窒素流通下で2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)16.0gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを入れてよく撹拌した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止して5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物(MCTC)9.2gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから2時間後、一旦撹拌を停止して3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)4.8gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。3時間撹拌を続けた後水浴を除去し、代わりに60℃の湯浴を設置して、フラスコ内を加熱しポリアミド酸の重合を促進した。湯浴加温開始から15時間後、フラスコにDMF31.2gを入れて溶液を希釈し、DMF投入の3分後にピリジン7.4gを投入し、更にピリジン投入の7分後に無水酢酸11.5gを投入した。無水酢酸投入後、湯浴の温度を100℃に設定し、ポリアミド酸のイミド化反応を開始した。湯浴を100℃に設定してから4時間後に湯浴を除去し、氷浴で急冷してイミド化反応を終了させた。こうして得られたポリイミド樹脂溶液を十分に冷却した後、フラスコにDMF21.5gを入れて溶液の粘度を低下させ、引き続き2−プロパノール(IPA)51.3gを入れた。この溶液を、別に準備したIPA377.1g中に滴下漏斗を用いて投入し、樹脂を析出させた。析出した樹脂をデキャンテーションにより分取し、得られた樹脂をIPA300.0g中で20分間撹拌して樹脂の洗浄を行い、洗浄後は減圧濾過により樹脂を濾取した。洗浄と濾取を更に2回繰り返して得られた樹脂を、100℃で一晩真空乾燥し、ポリイミド樹脂27.4gを得た。
【0067】
得られたポリイミド樹脂はMw=27,000、Mw/Mn=1.7であり、MIBK、MEK、CPNのいずれにも可溶であった。30重量%CPN溶液を調製して、上記の方法で膜厚10.3μmのポリイミド樹脂層を作製し、△nを測定したところ0.029であった。同様に20重量%MIBK溶液を調製して作製したポリイミド層は、膜厚12.3μm、△nは0.030であった。
【0068】
(実施例2)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB16.4gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを入れてよく撹拌した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してMCTC12.8gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから25時間後、一旦撹拌を停止してBTDA0.8gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。BTDAを投入してから3時間後、フラスコにDMF29.4gを入れて溶液を希釈し、DMF投入の3分後にピリジン8.1gを投入し、更にピリジン投入の7分後に無水酢酸12.6gを投入した。無水酢酸投入後ほどなくして、反応溶液はゲル化した。無水酢酸投入後、100℃の湯浴を設置し、ポリアミド酸のイミド化反応を開始した。ゲル化は10分以内に解消した。湯浴の温度を100℃に設定してから4時間後に湯浴を除去し、氷浴で急冷してイミド化反応を終了させた。こうして得られたポリイミド樹脂溶液を十分に冷却した後、フラスコにDMF21.5gを入れて溶液の粘度を低下させ、引き続きIPA102.8gを入れた。この溶液を、別に準備したIPA350.0g中に滴下漏斗を用いて投入し、樹脂を析出させた。以降実施例1と同様に樹脂を洗浄し、乾燥して、ポリイミド樹脂26.1gを得た。
【0069】
得られたポリイミド樹脂はMw=23,000、Mw/Mn=1.6であり、MIBK、MEK、CPNのいずれにも可溶であった。30重量%MIBK溶液を調製して、上記の方法で膜厚9.5μmのポリイミド樹脂層を作製し、△nを測定したところ0.021であった。
【0070】
(実施例3)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB15.0gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを入れてよく撹拌した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してMCTC8.6gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから2時間後、一旦撹拌を停止してp−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TMHQ)6.4gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。3時間撹拌を続けた後水浴を除去し、代わりに60℃の湯浴を設置して、フラスコ内を加熱しポリアミド酸の重合を促進した。TMHQを投入してから19時間後、実施例1と同様にイミド化反応を行い、樹脂を析出させ、樹脂を洗浄し、乾燥して、ポリイミド樹脂27.7gを得た。
【0071】
得られたポリイミド樹脂はMw=28,000、Mw/Mn=1.8であり、MEK、CPNには可溶であったが、MIBK溶液には不溶であった。30重量%CPN溶液を調製して、上記の方法で膜厚12.3μmのポリイミド樹脂層を作製し、△nを測定したところ0.037であった。
【0072】
(実施例4)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB16.9gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを入れてよく撹拌した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してMCTC9.7gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから2時間後、一旦撹拌を停止してピロメリット酸二無水物(PMDA)3.4gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。5時間撹拌を続けた後水浴を除去し、代わりに60℃の湯浴を設置して、フラスコ内を加熱しポリアミド酸の重合を促進した。湯浴加温開始から15時間後、フラスコにDMF28.8gを入れて溶液を希釈し、DMF投入の3分後にピリジン8.3gを投入し、更にピリジン投入の7分後に無水酢酸18.9gを投入した。無水酢酸投入後、湯浴の温度を100℃に設定し、ポリアミド酸のイミド化反応を開始した。湯浴を100℃に設定してから4時間後に湯浴を除去し、氷浴で急冷してイミド化反応を終了させた。こうして得られたポリイミド樹脂溶液を十分に冷却した後、フラスコにDMF21.5gを入れて溶液の粘度を低下させ、引き続きIPA120.0gを入れた。この溶液を、別に準備したIPA325.7g中に滴下漏斗を用いて投入し、樹脂を析出させた。以降実施例1と同様に樹脂を洗浄し、乾燥して、ポリイミド樹脂27.0gを得た。
【0073】
得られたポリイミド樹脂はMw=27,000、Mw/Mn=1.8であり、MIBK、MEK、CPNのいずれにも可溶であった。30重量%CPN溶液を調製して、上記の方法で膜厚9.1μmのポリイミド樹脂層を作製し、△nを測定したところ0.037であった。
【0074】
(比較例1)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB16.4gとN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)70.0gを入れてよく撹拌した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してMCTC13.6gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから20時間後、60℃の湯浴を設置して、フラスコ内を加熱しポリアミド酸の重合を促進した。湯浴加温開始から5時間後、フラスコにDMF29.3gを入れて溶液を希釈し、DMF投入の3分後にピリジン8.1gを投入し、更にピリジン投入の7分後に無水酢酸12.6gを投入した。無水酢酸投入後ほどなくして、反応溶液のゲル化が見られたが、5分以内に解消した。無水酢酸投入後、湯浴の温度を100℃に設定し、ポリアミド酸のイミド化反応を開始した。湯浴を100℃に設定してから4時間後に湯浴を除去し、氷浴で急冷してイミド化反応を終了させた。こうして得られたポリイミド樹脂溶液を十分に冷却した後、フラスコにDMF50.0gを入れて溶液の粘度を低下させ、引き続きIPA51.3gを入れた。この溶液を、別に準備したIPA377.1g中に滴下漏斗を用いて投入し、樹脂を析出させた。析出した樹脂は溶液中で沈降しなかったため、減圧濾過により樹脂を濾取した。得られた樹脂をIPA300.0g中で20分間撹拌して樹脂の洗浄を行い、洗浄後は減圧濾過により樹脂を濾取した。洗浄と濾取を更に2回繰り返して得られた樹脂を100℃で一晩真空乾燥し、ポリイミド樹脂25.8gを得た。
【0075】
得られたポリイミド樹脂はMw=22,000、Mw/Mn=1.5であり、MIBK、MEK、CPNのいずれにも可溶であった。30重量%CPN溶液を調製して、上記の方法で膜厚13.0μmのポリイミド樹脂層を作製し、△nを測定したところ0.017であった。
【0076】
(比較例2)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB15.7gとDMF70.0gを入れてよく撹拌した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。TFMBがDMFに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してMCTC6.5gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。MCTCを投入してから2時間後、一旦撹拌を停止してBTDA7.9gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。5時間撹拌を続けた後水浴を除去し、代わりに60℃湯浴を設置して、フラスコ内を加熱しポリアミド酸の重合を促進した。湯浴加温開始から17時間後、フラスコにDMF30.3gを入れて溶液を希釈し、DMF投入の3分後にピリジン7.7gを投入し、更にピリジン投入の7分後に無水酢酸12.0gを投入した。無水酢酸投入後、湯浴の温度を100℃に設定し、ポリアミド酸のイミド化反応を開始した。以降実施例1と同様にイミド化反応を終了させ、樹脂を析出させ、樹脂を洗浄し、乾燥して、ポリイミド樹脂27.6gを得た。
【0077】
得られたポリイミド樹脂はMw=30,000、Mw/Mn=1.8であり、MIBK、MEK、CPNのいずれにも不溶であった。
【0078】
(比較例3)
実施例1と同様の反応容器に、窒素流通下でTFMB12.4gとN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)113.3gを入れてよく撹拌した。TFMBがDMAcに完全に溶解したことを確認した後、一旦撹拌を停止してシクロブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物(CBDA)7.6gをフラスコに入れ、再び撹拌を開始した。撹拌開始後は20℃の水浴を設置し、フラスコを浸して保温した。CBDA投入してから54時間後、フラスコにピリジン12.3g、無水酢酸9.6g、DMAc44.9gをこの順に一気に投入した。2分後反応溶液はゲル化した。ゲル化は16時間経過後も解消せず、ポリイミド樹脂を取得することができなかった。
【0079】
実施例1から4と比較例1から3の評価結果を表2に示す。実施例1から4では厚み方向の複屈折値が0.020以上と高い値を示した。また、MIBK、MEK及びCPNから選ばれる溶媒のうち少なくとも2種に高い可溶性を示した。
【0080】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるポリイミド樹脂、及び少なくとも1種の有機溶媒を含有することを特徴とするコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【化1】

(Rは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、Rは同一または異なっていてもよく、−H、―F、−Cl、−I、−OH、−CH、−CF、−SO、−C(CH、−COOH、−CO−NHからなる群より選択される1つの基を示し、Rは4価の有機基であり、mとnはm:n=95:5〜60:40を満たす。)
【請求項2】
一般式(1)のRが−CFであり、Rが−Hであることを特徴とする請求項1に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【請求項3】
一般式(1)のRが下記構造式群(2)より選択される、少なくとも1つの4価の有機基であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【化2】

【請求項4】
一般式(1)のRが下記構造式(3)で示される、少なくとも1つの4価の有機基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【化3】

【請求項5】
上記有機溶媒がN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジオキソラン、酢酸エチル、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンよりなる群から、少なくとも1つを選択してなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のコーティング用ポリイミド樹脂溶液を、支持体上に塗工して形成することを特徴とする積層体。
【請求項7】
請求項6に記載の積層体を用いてなることを特徴とする光学補償部材。
【請求項8】
請求項7に記載の光学補償部材を有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2010−24350(P2010−24350A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187320(P2008−187320)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】