説明

コーティング組成物

【課題】プラスチック製光学基材の表面に、密着性、耐擦傷性、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性、耐候性に優れたコート層を形成するコーティング組成物を提供する。
【解決手段】酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)を20.00〜60.00質量部、下記式(1)
【化1】


(式中、Rは、メチル基、エチル基であり、Xは、炭素数2〜3のアルキレン基である。)で示されるジシラン化合物(B1)を含む有機ケイ素化合物(B)を40.00〜80.00質量部含有するコーティング組成物であって、(A)成分と(B)成分との合計量を100質量部として、酸化セリウムを0.25〜15.00質量部、ジシラン化合物(B1)を3.50〜25.00質量部含むコーティング組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズなどのプラスチック製光学基材の表面に、密着性及び耐擦傷性や、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性、耐候性等の耐久性に優れた透明被膜を提供するコーティング組成物に関するものである。中でも、染色レンズ、およびフォトクロミックプラスチックレンズ等の色素を含有する光学基材の表面に最適なハードコート層を形成するためのコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、軽さ、安全性、易加工性、ファッション性などガラスレンズにはない特徴を有し、現在、眼鏡レンズ分野では主流となっている。
【0003】
一方で、プラスチックレンズは、傷が付きやすい欠点があるために、シリコーン系のハードコート層を表面に設けることにより、かかる欠点を改善している。このシリコーン系コート層は、シリカ微粒子、加水分解性基を有する有機ケイ素化合物、硬化触媒、酸水溶液、及び水溶性溶媒を主成分とするコーティング組成物(以下、シリカ微粒子を使用したものを「低屈折率コーティング組成物」とする場合のある)を混合し、プラスチックレンズ表面に塗布した後、加熱して塗布した膜を硬化させると共に、含まれる溶媒を揮発させることにより形成されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、屈折率が1.50を超える高屈折率プラスチックレンズに、上記低屈折率コーティング組成物を用いてコート層を施した場合、プラスチックレンズとコート層の屈折率の差により干渉縞が発生し、外観不良の原因となる。
【0005】
この問題を解決するために、様々な検討が行われている。例えば、コーティング組成物の一成分であるシリカ微粒子を屈折率の高いSb、Ti、Zr、Sn等の複合金属酸化物に置き換えたコーティング組成物が知られている(例えば、特許文献2参照)。このコーティング組成物は、高屈折率プラスチックレンズに好適に使用できる。しかしながら、酸化チタンを含むものは、酸化チタンの光触媒能に起因してコート層自身の劣化が起こるため、耐候性という点で改善の余地があった。
【0006】
この酸化チタンの光触媒能を避けるため、酸化チタンを用いない高屈折率用コーティング組成物が開発されている(例えば、特許文献3参照)。このコーティング組成物は、コート層自身の劣化を防ぐことはできる。しかしながら、酸化チタンによる紫外線吸収能が発揮されなくなったことにより、コート層とプラスチックレンズとの間における光劣化機構を抑制することが出来ず、長期間、光に曝されることによりコート層とプラスチックレンズとの密着性が低下する場合があった(以下、光に曝された後のコート層とプラスチックレンズとの密着性を耐候密着性とする場合がある)。
【0007】
さらに、コート層中に、界面活性剤で表面処理された酸化セリウム微粒子を含ませることにより、該コート層に紫外線吸収能を持たせて、耐候密着性を改善する方法が検討されている(例えば、特許文献4参照)。このコーティング組成物を使用することにより、耐候密着性を改善することができる。しかしながら、特許文献4に記載のコーティング組成物では、高い耐擦傷性を満足するコート層が形成できない点で改善の余地があった。さらに、特許文献4に記載の方法では、コーティング剤を調整する際に、使用する無機酸化物微粒子によっては、着色する場合があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭57−2735号公報
【特許文献2】特開平5−264805号公報
【特許文献3】特開2004−224965号公報
【特許文献4】特開2006−70078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、該コート層に要求される性能は高まっており、上記物性の他、さらに、以下の性能を満足するコーティング組成物が望まれている。具体的には、コーティング組成物より形成されたコート層上には、よりプラスチックレンズの機能を高めるため、反射防止膜を設ける場合があるが、この反射防止膜を設ける前に、アルカリ洗浄を行っても、該コート層が剥離しにくい性能が求められている(以下、この性能を耐薬品性とする場合もある)。
【0010】
また、プラスチックレンズは、その使用用途により温水と接触する場合があるが、この場合においても、該コート層にクラック等が発生しない性能が求められている(以下、この性能を耐熱水性とする場合もある)。
【0011】
さらに、熱によりプラスチックレンズが膨張する際、該コート層がその膨張に追随でき、クラックが発生しない等の性能が求められている(以下、この性能を耐熱性とする場合もある)。特に、この耐熱性については、上記のようなコート層としての性能だけではなく、該コート層を形成する際においても、その性能が求められている。つまり、該コート層を形成する際には加熱を必要とする。この際、該コート層の収縮とプラスチックレンズの膨張により生じるクラックの発生を抑制できる、成形性にも優れたコーティング組成物が求められている。
【0012】
従って、本発明の目的は、初期の着色が少なく、長期間使用してもクラックなどの発生によりハードコート層が剥離することなく、プラスチックレンズ等の光学基材に対する密着性が良好であり、さらに耐薬品性、耐熱水性、耐熱性も高く、且つ、特に、ハードコート層形成時の耐熱性に優れたハードコート層を形成できるコーティング組成物を提供することにある。
【0013】
中でも、染料、またはフォトクロミック化合物を含むプラスチックレンズのハードコート層として、有効に使用できるコーティング組成物を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、上記コーティング組成物を混合して得られるコーティング剤を安定して製造できる方法をも提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を行った。その結果、無機酸化物微粒子(A)、及び加水分解性有機ケイ素化合物(B)を必須成分として含むハードコート層形成用コーティング組成物において、酸化セリウムを特定量配合し、さらに、特定のジシラン化合物を特定量配合させたコーティング組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明は、酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)を20.00質量部乃至60.00質量部、
下記式(1)
【0017】
【化1】

【0018】
(式中、Rは、メチル基、またはエチル基であり、Xは、炭素数2〜5のアルキレン基である。)
で示されるジシラン化合物(B1)を含む加水分解性有機ケイ素化合物(B)を40.00質量部乃至80.00質量部含有するハードコート層形成用コーティング組成物であって、
前記無機酸化物微粒子(A)と前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量を100質量部として、
前記酸化セリウムを0.25質量部乃至15.00質量部、及び
前記ジシラン化合物(B1)を3.50質量部乃至25.00量部
含むことを特徴とするコーティング組成物である。
【0019】
本発明のコーティング組成物においては、
前記加水分解性有機ケイ素化合物が、下記式(2)
【0020】
【化2】

【0021】
{式中、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
は、下記式(3)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基、又は下記式(4)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、各Rは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。}
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)、および
下記式(5)
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、
、およびRは、前記式(2)におけるものと同義である。)
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を含み、前記ジシラン化合物(B1)1モルに対して、
前記式(2)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)を0.30〜3.00モル、
前記式(5)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を2.50〜20.00モル
含むことが好ましい。
【0028】
また、本発明においては、前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化チタンを含まないことが好ましく、前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)と該酸化セリウム微粒子以外の第一無機酸化物微粒子(A2)とからなることが好ましい。
【0029】
さらに、本発明においては、前記無機酸化物微粒子(A)と前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量100質量部100質量部当たり、水(C)を20.00質量部乃至70.00質量部、硬化触媒(D)を0.20質量部乃至5.00質量部、水溶性有機溶媒(E)を60.00質量部乃至180.00質量部含むことが好ましい。
【0030】
また、本発明は、上記コーティング組成物を混合することにより、コーティング剤を製造する方法であって、
前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)と第一無機酸化物微粒子(A2)とからなり、
該酸化セリウム微粒子(A1)として、酸水溶液に分散させた酸化セリウム微粒子を使用し、前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)と酸水溶液中に分散している酸化セリウム微粒子(A1)とを混合して、加水分解性有機ケイ素化合物(B)を加水分解した後、得られた混合物と硬化触媒(D)とを混合し、次いで、前記第一無機酸化物微粒子(A2)とを混合することを特徴とするコーティング剤の製造方法である。この方法によれば、着色することなく、コーティング剤を製造することができる。
【0031】
本発明の光学物品としては、プラスチック製光学基材上に、上記コーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層を有する光学物品が提供される。
【0032】
また、この光学物品は、前記プラスチック製光学基材が、フォトクロミック光学基材である場合に、優れた効果を発揮する。その中でも、前記フォトクロミック光学基材が、プラスチック製光学基材上に、重合性単量体、及びフォトクロミック化合物を含む重合硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層上にハードコート層が形成されてなる光学物品である場合に、特に優れた効果を発揮する。
【0033】
また、同じく、この光学物品は、前記プラスチック製光学基材が、染料を含む光学基材である場合にも、優れた効果を発揮する。
【発明の効果】
【0034】
本発明のコーティング組成物は、酸化セリウム、および前記式(1)で示されるジシラン化合物(B1)を特定量、配合されていることが特徴である。これらの配合により、初期の着色が少なく、長期間使用してもクラックなどの外観不良を生じることなく、プラスチック製の光学基材に対する密着性が良好な耐候性能に優れるハードコート層を形成することが出来る。さらに、耐薬品性、耐熱水性も高いハードコート層を形成することができ、かつ、コート層の形成時等の熱履歴に起因するクラックの発生を抑制することもできる。
【0035】
そのため、本発明のコーティング組成物を使用すれば、ハードコート層の外観不良を生じることがないため、プラスチックレンズ等の光学物品の寿命を飛躍的に延ばすことができる。
【0036】
この効果は、特に、ジシラン化合物(B1)に対して、加水分解性基を2つ有するエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)、加水分解性基を3つ有するエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を特定量使用し、酸化チタンを含まない無機酸化物微粒子を使用する場合に、顕著となる。
【0037】
本発明のコーティング組成物が上記のような優れた効果を発揮する理由は明らかではないが、本発明者らは次のように推定している。
【0038】
即ち、酸化セリウムを含有することにより、紫外線吸収能が発揮され、プラスチック製光学基材に到達する紫外線をカットすることができ、ハードコート層とプラスチック製光学基材との界面部分の光劣化を抑制するものと考えられる。
【0039】
また、上記式(1)で示されるジシラン化合物を使用することにより、シロキサン結合の代わりに炭化水素によりケイ素原子が結合された部分を有するため、耐薬品性、特に、耐アルカリ性に優れると共に、硬度を損なうことなく柔軟性を付与することができ、耐熱水性も高く、優れた耐熱性を有するコート層を形成できるものと考えられる。
【0040】
さらに、該ジシラン化合物を使用することにより、コート層とプラスチック製光学基材との界面における密着性が向上するものと考えられる。そのため、前記酸化セリウムを使用する効果と、コート層とプラスチック製光学基材との界面の密着性の改善効果による相乗効果が発揮され、長期間に亘る光学物品の使用において、コート層とプラスチック製光学基材との間に生じる応力を緩和することができ、優れた効果、特に、耐候密着性を改善できるものと考えられる。
【0041】
この効果は、酸化チタンを含まない無機酸化物微粒子を使用し、および前記エポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)、(B3)を特定量使用することにより、より顕著に発揮されるものと考えられる。
【0042】
また、本発明は、酸水溶液中に分散している酸化セリウム微粒子(A1)を、先ず、前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)と混合し、加水分解性有機ケイ素化合物(B)を加水分解した後、得られた混合物と硬化触媒(D)とを混合し、次いで、前記第一無機酸化物微粒子(A2)とを混合する方法を提供する。この方法によれば、着色することなく、コーティング剤を製造することができる。この理由も明らかではないが、このような混合順とすることにより、酸化セリウムや他の無機酸化物が酸化、または還元されるのを防ぐことができ、着色されないもの考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明のコーティング組成物は、酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)を20.00質量部乃至60.00質量部、前記式(1)で示されるジシラン化合物を含む加水分解性有機ケイ素化合物(B)を40.00質量部乃至80.00質量部含有するハードコート層形成用コーティング組成物である。以下、各成分について説明する。
【0044】
<無機酸化物微粒子(A)>
本発明で使用する無機酸化物微粒子としては、酸化セリウムを含むものであれば、特に制限なく、公知のものを使用することができる。また、一種類のものを使用することもできるし、二種類以上のものを混合して使用することもできる。
【0045】
この無機酸化物微粒子(A)は、ハードコート層中に、無機酸化物微粒子(A)を均一に分散させ得るという観点から、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒を分散媒として、コロイド状に無機酸化物微粒子(A)が分散したゾルの形態で使用される。なお、以下、この無機酸化物微粒子(A)を単に(A)成分とする場合もある。
【0046】
前記分散媒を具体的に例示すると、イソプロパノール、エタノール、メタノール、エチレングリコール等のアルコール溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジメチルアセトアミド、または水、およびこれらの混合溶媒を使用することができる。これらの中でも、アルコール溶媒、または水を使用することが好ましい。
【0047】
また、これら分散媒を使用する場合、無機酸化物微粒子(A)の固形分濃度(ゾル中に含まれる無機酸化物微粒子(A)の濃度)は、操作性を考慮すると、10質量%乃至50質量%であることが好ましい。
【0048】
また、無機酸化物微粒子(A)は、電子顕微鏡(TEM)により観察される1次粒子径が1〜300nm程度のものが好適に使用できる。なお、下記に詳述するが、この無機酸化物微粒子(A)は、例えば、酸化セリウム微粒子、および第一無機酸化物微粒子(A2)のように複数の微粒子を含む場合があるが、この場合においても、全ての粒子が、1次粒子径が1〜300nm程度となることが好ましい。
【0049】
このような無機酸化物微粒子(A)の配合量は、下記に詳述する加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量100質量部として、20.00質量部乃至60.00質量部である。なお、この質量部は、分散媒を除いた固形分(無機酸化物微粒子(A))の配合量である。無機酸化物微粒子(A)が20.00質量部未満の場合には、コート層の硬度低下を引き起こすため好ましくない。一方、60.00質量部を超える場合には、コート層の耐熱性が低下し、さらには柔軟性が低下し、コート層が脆くなるため好ましくない。そのため、コート膜の硬度、耐熱性、柔軟性を考慮すると、無機酸化物微粒子(A)の配合量は、より好ましくは30.00質量部乃至50.00質量部である。
【0050】
なお、一般的には、最終的に形成されるハードコート層に占める無機酸化物微粒子の割合が30質量%乃至70質量%、好ましくは40質量%乃至60質量%となるような量に、他の成分の使用量に合わせて設定するのがよい。なお、当該ハードコート層の質量は、下記の加水分解性有機ケイ素化合物を加水分解させた後、得られたコーティング組成物を120℃で3時間加熱した後に残った固体成分の質量を秤量することにより求めることができる。
【0051】
本発明において、無機酸化物微粒子(A)は、酸化セリウム含むものである。そのため、酸化セリウムを含む複合酸化物微粒子、酸化セリウム微粒子(A1)と該複合酸化物微粒子を含むもの、または、酸化セリウム微粒子(A1)と酸化セリウムを含まない第一無機酸化物微粒子(A2)を含むものであればよい。
【0052】
酸化セリウムを含む複合酸化物微粒子としては、珪素(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、インジウム(In)、ジルコニア(Zr)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、チタン(Ti)及びタングステン(W)から選ばれる少なくとも1種の元素、およびセリウム(Ce)の酸化物からなる複合酸化物微粒子が挙げられる。中でも、特にSi、Zr、Sn、Sb、及びWから選ばれる少なくとも1種の元素、およびCeの酸化物からなる複合酸化物微粒子が好ましい。特に、得られるハードコート層の耐候性を考慮すると、酸化チタンを含まない複合酸化物微粒子を使用することが好ましい。なお、この複合酸化物微粒子も、前記の通り、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒に分散させた状態で使用することが好ましい。固形分濃度、1次粒子径も、前記範囲を満足することが好ましい。
【0053】
該複合酸化物微粒子における酸化セリウムの割合は、下記に詳述する加水分解性有機ケイ素化合物(B)と該複合酸化物微粒子の合計量100質量部としたときに、酸化セリウム成分が0.25質量部乃至15.00質量部となれば、特に制限されるものではない。該複合酸化物微粒子のみの使用で酸化セリウム成分が前記範囲を満足しない場合には、酸化セリウム微粒子(A1)を配合することにより、酸化セリウム成分を調製することもできる。また、該複合酸化物微粒子において、酸化セリウム以外の酸化物の割合は、特に制限されるものではなく、プラスチック製光学基材の屈折率等に応じて、適宜決定してやればよい。
【0054】
本発明においては、下記に詳述するが、酸化セリウムの配合量の調製が容易となるため、様々な屈折率のプラスチック製光学基材に適用するためには、酸化セリウム微粒子(A1)と、酸化セリウムを含まない第一無機酸化物微粒子(A2)とを含む無機酸化物微粒子(A)を使用することが好ましい。先ずは、この第一無機酸化物微粒子(A2)について説明する。
【0055】
<第一無機酸化物微粒子(A2)>
この場合、第一無機酸化物微粒子(A2)は、特に制限されるものではなく、Si、Al、Fe、In、Zr、Sn、Sb、Ti及びWから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物からなる酸化物微粒子が挙げられる。中でも、Si、Zr、Sn、及びSbから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物からなる酸化物微粒子が好ましい。特に、得られるハードコート層の耐候性を考慮すると、酸化チタンを含まない酸化物微粒子を使用することが好ましい。この第一無機酸化物微粒子(A2)は、具体的には、酸化アンチモン微粒子、酸化ケイ素微粒子(シリカ微粒子)、または前記元素の酸化物を複数含む複合無機酸化物微粒子であってもよい。なお、以下、この第一無機酸化物微粒子を単に(A2)成分とする場合もある。
【0056】
これら第一無機酸化物微粒子(A2)は、その使用用途に応じて、含まれる酸化物の配合量を適宜決定してやればよい。
【0057】
例えば、屈折率が1.50以下の低屈折率プラスチック製光学基材に適用する場合には、シリカ微粒子を使用してやればよい。このシリカ微粒子は、特に制限されるものでなはく、公知のものを使用することができる。具体的には、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒に分散した状態のもので、固形分濃度が10.00質量%乃至50.00質量%、1次粒子径が1〜300nmのものを使用することが好ましい。これらシリカ微粒子は、市販のものを使用することができる。このシリカ微粒子としては、日産化学工業(株)より販売されている、スノーテックスOXS、スノーテックスOS、スノーテックスO、スノーテックスO−40等の水を分散媒とするシリカゾル、MA−ST−MS(分散媒;メタノール)、IPA−ST(分散媒;イソプロパノール)等のアルコールを分散媒とするシリカゾルを使用することができる。
【0058】
また、屈折率が1.50を超える高屈折率プラスチック製光学基材に適用する場合には、酸化アンチモン微粒子、または前記元素の酸化物を複数含む複合無機酸化物微粒子を使用してやればよい。中でも、高屈折率プラスチック製光学基材に適用する場合には、Si、Zr、Sn、及びSbの酸化物からなる複合無機酸化物微粒子を使用することが好ましい。この複合無機酸化物微粒子を使用する場合、各成分の配合量は、使用する用途に応じて適宜決定すればよいが、酸化スズを50質量%乃至96質量%、酸化ジルコニウムを3質量%乃至49質量%、酸化アンチモンを1質量%乃至29.9質量%、酸化ケイ素を0.1質量%乃至29質量%を満足することが好ましい。この酸化アンチモン微粒子、複合無機酸化物微粒子ともに、水、アルコール系、もしくは他の有機溶媒に分散させた状態のもので、固形分濃度が10.00質量%乃至50.00質量%、1次粒子径が1〜300nmのものを使用することが好ましい。これら第一無機酸化物微粒子(A2)は、市販のものを使用することができ、具体的には、日産化学工業(株)製 AMT−332S・NV(分散媒;メタノール)等の五酸化アンチモンゾル、酸化ジルコニウムや酸化スズの複合無機酸化物微粒子であるHXシリーズ(分散媒;メタノール)等が好適に使用できる。
【0059】
この第一無機酸化物微粒子(A2)を使用する場合には、必ず、酸化セリウム微粒子(A1)を使用しなければならない。そのため、この第一無機酸化物微粒子(A2)の使用量は、酸化セリウム微粒子の使用量に応じて、本発明の範囲を満足する範囲で適宜決定すればよい。具体的には、無機酸化物微粒子(A)と加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量を100質量部として、無機酸化物微粒子(A)が20.00質量部乃至60.00質量であり、無機酸化物微粒子(A)に含まれる酸化セリウムが0.25質量部乃至15.00質量部であるため、無機酸化物微粒子(A)に含まれる第一無機酸化物微粒子(A2)の使用量は、5.00質量部乃至59.75質量部であればよい。なお、当然のことではあるが、好適な無機酸化物微粒子(A)、および酸化セリウムの範囲が変われば、この第一無機酸化物微粒子(A2)の範囲も、それに応じて変化する。
【0060】
次に、酸化セリウム微粒子(A1)について説明する。
【0061】
<酸化セリウム微粒子(A1)>
本発明において、酸化セリウム微粒子を使用する場合には、特に制限されるものではなく、公知のものを使用することができる。中でも、コーティング組成物の操作性、コート層中に、均一に分散させることを考慮すると、水、またはアルコール系溶媒を分散媒として、コロイド状に酸化セリウム微粒子(A1)が分散しているゾルの状態で使用することが好ましい。この場合、1次粒子径が1〜300nm程度のものが好適に使用できる。また、固形分濃度(ゾル中に含まれる酸化セリウム微粒子(A1)の濃度)は、10質量%乃至50質量%であることが好ましく、特に、10質量%乃至40質量%であることが好ましい。なお、以下、この酸化セリウム微粒子を単に(A1)成分とする場合ある。
【0062】
このような酸化セリウム微粒子の中でも、酸水溶液に分散した酸化セリウム微粒子(ゾル)を使用することが好ましい。酸水溶液に分散した酸化セリウム微粒子を使用することにより、酸化セリウム微粒子自体の分散をより安定化し、コーティング剤自体の保存安定性を向上させることができる。推定ではあるが、酸水溶液に分散させた酸化セリウム微粒子を使用することにより、酸化セリウムの表面に加水分解した有機ケイ素化合物が結合し、その結果、コーティング剤の保存安定性を高めているのではないかと考えられる。
【0063】
酸水溶液とするには、公知の酸性化合物を配合することが好ましく、具体的には、硫酸、塩酸、硝酸、ギ酸、酢酸、フタル酸、リンゴ酸、マレイン酸、シュウ酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、グリコール酸、安息香酸、マロン酸、マンデル酸など使用することができる。その中でも、酢酸を使用することが好ましい。このような酸水溶液は、特に制限されるものではないが、pHが2乃至6であることが好ましく、酢酸を使用した場合には、酸化セリウム微粒子を含む酸水溶液中、1質量%乃至10質量%の範囲で酢酸の濃度を調製してやればよい。
【0064】
このような酸水溶液に分散している酸化セリウム微粒子は、市販のものを使用することができる。具体的には、多木化学工業から販売されているニードラールU−15などを挙げることができる。
【0065】
次に、酸化セリウムの配合量について説明する。
【0066】
<酸化セリウムの配合量>
本発明において、酸化セリウムの配合量は、酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)と下記に詳述する加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量を100質量部として、0.25質量部乃至15.00質量部の範囲でなければならない。酸化セリウムの配合量が、0.25質量部未満の場合には、ハードコート層の紫外線吸収能が低下し、プラスチック製光学基材に紫外線が到達し、その紫外線によりハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性が低下する。また、染料やフォトクロミック化合物などを含む光学基材を用いた場合には、ハードコート層とプラスチック製光学基材との界面に存在する染料やフォトクロミック化合物の光劣化を抑制できない。一方、酸化セリウムの配合量が、15.00質量部を超える場合には、ハードコート層自体が着色するため好ましくない。ハードコート層の初期着色、耐候性、耐候密着性を考慮し、下記に詳述するジシラン化合物を使用することの効果をより発揮させるためには、酸化セリウムの配合量は、好ましくは0.85質量部乃至12.60質量部の範囲であり、より好ましくは0.85質量部乃至5.50質量部の範囲である。
【0067】
なお、使用する無機酸化物微粒子(A)が酸化セリウムを含む複合酸化物微粒子のみからなる場合には、該複合酸化物微粒子の配合量が無機酸化物微粒子(A)の配合量に該当する。そして、前記酸化セリウムの配合量は、該複合酸化物微粒子に含まれる酸化セリウムの量に該当する。
【0068】
また、無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)、および該複合酸化物微粒子からなる場合には、(A1)成分と該複合酸化物微粒子との合計量が、無機酸化物微粒子(A)の配合量に該当する。そして、前記酸化セリウムの配合量は、(A1)成分の配合量と該複合酸化物微粒子に含まれる酸化セリウムの量の合計量に該当する。
【0069】
さらに、無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)、および前記第一無機酸化物微粒子(A2)からなる場合には、(A1)成分と(A2)成分の合計量が、無機酸化物微粒子(A)の配合量に該当する。そして、前記酸化セリウムの配合量は、(A1)成分の配合量に該当する。
【0070】
次に、もう一つの必須成分である加水分解性有機ケイ素化合物(B)について説明する。
【0071】
<(B)加水分解性有機ケイ素化合物>
本発明のコーティング組成物において、加水分解性有機ケイ素化合物(B)は、コーティング剤を硬化してハードコート層を形成したときにマトリックスとなる透明な硬化体を形成する成分であり、前記無機酸化物微粒子(A)のバインダーとしての機能を有するものである。なお、以下、この加水分解有機ケイ素化合物を単に(B)成分とする場合もある。
【0072】
本発明において、加水分解性有機ケイ素化合物(B)の配合量は、前記無機酸化物微粒子(A)との合計量((A)成分と(B)成分との合計量)を100質量部として、40.00質量部乃至80.00質量部である。加水分解性有機ケイ素化合物(B)が40.00質量部未満の場合には、コート層の耐熱性が低下し、さらには柔軟性が低下し、コート層自身が脆くなるとなるため好ましくない。一方、80.00質量部を超える場合には、コート層の硬度低下を引き起こすため好ましくない。コート層の硬度、耐熱性、柔軟性、等を考慮すると、加水分解性有機ケイ素化合物(B)の配合量は、50.00質量部乃至70.00質量部が好ましい。
【0073】
なお、この(B)成分の配合量は、加水分解されていない加水分解性有機ケイ素化合物(B)の量である。
【0074】
また、本発明の特徴は、コーティング組成物が酸化セリウムを特定量含まれることと、下記式(1)
【0075】
【化6】

【0076】
(式中、Rは、メチル基、またはエチル基であり、Xは、炭素数2〜3のアルキレン基である。)
で示されるジシラン化合物(B1)を特定量含むことである。次に、このジシラン化合物について説明する。
【0077】
<前記式(1)で示されるジシラン化合物(B1)>
本発明において、加水分解性有機ケイ素化合物(B)は、前記式(1)で示されるジシラン化合物(B1)を含むことを特徴とする。このジシラン化合物(B1)を含むことにより、得られるハードコート層の耐熱性、耐薬品性、耐熱水性を改善することができる。そして、さらに、ハードコート層とプラスチック製光学基材との界面の密着性を向上できるためと考えられるが、酸化セリウムを使用する効果との相乗効果により、耐候密着性を飛躍的に向上できる。
【0078】
このジシラン化合物(B1)は、基本的には、前記有機ケイ素化合物(B)で説明した役割と同じである。なお、以下、このジシラン化合物を単に(B1)成分とする場合もある。
【0079】
前記式(1)において、Rは、メチル基、またはエチル基である。また、Xは炭素数2〜3のアルキレン基である。炭素数が3を超える場合には、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性に優れるが、ハードコート層の硬度が低下し、耐擦傷性が悪化するため好ましくない。そのため、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性、耐擦傷性、および耐候密着性を満足するためには、Xは、エチレン基であることが好ましい。
【0080】
このジシラン化合物(B1)を具体的に例示すれば、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタンが挙げられ、特に、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタンが好ましい。
【0081】
このジシラン化合物(B1)の配合量は、前記(A)成分、前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)成分との合計量100質量部に対して、3.50質量部乃至25.00質量部でなければならない。ジシラン化合物(B1)の配合量が3.50質量部未満の場合には、十分に耐薬品性、耐候密着性を向上させることができず、また硬化時等の熱履歴に起因するクラックが発生しやすくなる。また、ジシラン化合物(B1)の配合量が25.00質量部を超える場合には、耐擦傷性が低下してしまうため好ましくない。そのため、得られるハードコート層の物性、ハードコート層の成形性を考慮すると、ジシラン化合物(B1)の配合量は、より好ましくは5.00質量部乃至20.00質量部である。
【0082】
なお、この(B1)成分の配合量は、加水分解されていないジシラン化合物の量である。
【0083】
このジシラン化合物(B1)は、前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)に含まれるものである。そのため、例えば、前記(A)成分と前記(B)成分の合計量を100質量部として、(B)成分が40.00質量部乃至80.00質量部であって、前記(B1)が3.50質量部乃至25.00質量部である場合には、(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物を15.00質量部乃至76.50質量部含むものとする。なお、当然のことであるが、(B)成分が上記範囲を満足し、(B1)成分が5.00質量部乃至20.00質量部の場合には、(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物を20.00質量部乃至75.00質量部含むものとする。
【0084】
なお、この(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物の配合量は、加水分解されていない状態の量である。
【0085】
次に、この(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物について説明する。
【0086】
<(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物>
(B1)成分以外の加水分解性有機ケイ素化合物としては、コーティング組成物に使用される公知の加水分解性有機ケイ素化合物を使用することができる。中でも、形成されるハードコート層の密着性を向上し、さらに、耐薬品性、耐熱性、硬度をより向上させるためには、下記式(2)
【0087】
【化7】

【0088】
{式中、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
は、下記式(3)
【0089】
【化8】

【0090】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基、又は下記式(4)
【0091】
【化9】

【0092】
(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、各Rは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。}
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)、および
下記式(5)
【0093】
【化10】

【0094】
(式中、
、およびRは、前記式(2)におけるものと同義である。)
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を使用することが好ましい。
【0095】
以下、前記2つの加水分解性基を有する、前記式(2)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物を単に(B2)成分とし、前記3つの加水分解性基を有する、前記式(5)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物を単に(B3)成分とする場合もある。
【0096】
次に、これら(B2)、(B3)成分について説明する。
【0097】
<エポキシ基含有加水分解性有機ケイ素化合物(B2)、(B3)>
これら(B2)成分、(B3)成分は、基本的には、前記有機ケイ素化合物(B)で説明した役割と同じである。
【0098】
(B2)成分を具体的に例示すれば、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランが挙げられる。中でも、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランを使用することが好ましい。
【0099】
また(B3)成分を具体的に例示すれば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられる。中でも、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを使用することが好ましい。
【0100】
これら(B2)成分、(B3)成分の配合量は、前記の通り、(B)成分、および(B1)成分の配合量によって適宜決定されるが、その中でも、以下の割合で配合されることが特に好ましい。
【0101】
具体的には、(B1)成分1モルに対して、(B2)成分が0.30モル乃至3.00モル、(B3)成分が2.50モル乃至20.00モルとなるように配合されることが好ましい。(B2)成分、(B3)成分の配合量が、上記範囲を満足することにより、コート層の硬度、耐熱性、および耐熱水性を向上することができる。中でも、耐熱性および耐熱水性を維持したまま、コート層の硬度を改善するためには、(B2)成分を好ましくは0.30モル乃至2.50モル、さらに好ましくは0.30モル乃至2.00モルとすることが好ましい。また、コート層の硬度をより高く維持するためには、(B3)成分を好ましくは2.50モル乃至15.00モル、より好ましくは2.50モル乃至10.00モルとすることが好ましい。この配合量は、加水分解されていない(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分の量である。
【0102】
また、密着性のことを考慮すると、(B2)成分、(B3)成分は、上記範囲を満足し、(B1)成分1モルに対して、(B2)成分と(B3)成分の合計量が3.00モル以上となることが好ましく、より好ましくは4.00モル以上であり、さらに好ましくは5.0モル以上となることが好ましく、特に好ましくは6.00モル以上である。なお、(B2)成分と(B3)成分との合計量の上限は、(B2)成分、および(B3)成分が上記範囲を満足する範囲内で適宜決定されればよいが、耐アルカリ性のことを考慮すると、好ましくは20.0モル以下であり、さらに好ましくは15.0モル以下である。
【0103】
なお、これら(B2)成分、(B3)成分の配合量は、当然のことながら、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分の合計量(質量換算)が、(B)成分の配合量と同じか、それ以下になるものとする。
【0104】
前記の通り、(B1)成分、(B2)成分、および(B3)成分の合計量が、(B)成分の配合量未満になる場合には、さらに、(B1)、(B2)、(B3)以外の他の有機ケイ素化合物を配合することができる。
【0105】
次に、この他の有機ケイ素化合物について説明する。
【0106】
<(B1)、(B2)、(B3)以外の加水分解性有機ケイ素化合物>
他の加水分解性有機ケイ素化合物としては、コーティング組成物に使用できる公知の有機ケイ素化合物が使用できる。具体的には、テトラエトキシシラン、ビニルトリメトキシシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
【0107】
これらの他の有機ケイ素化合物の配合量は、(B)成分、(B1)成分、(B2)成分、および(B3)成分の配合量によって適宜決定される。ただし、操作性を改善し、優れたコート層とするためには、(B)成分が、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分からなることが好ましい。
【0108】
次に、本発明のコーティング組成物に配合できるその他の成分、具体的には、水(C)、硬化触媒(D)、水溶性有機溶媒(E)について説明する。先ず、水(C)成分について説明する。
【0109】
<水(C)>
本発明のコーティング組成物では、前記(B)成分が加水分解し、この加水分解物が(A)成分を取り込んだ形で重合硬化(重縮合)してマトリックスとなる硬化体を形成し、(A)成分が緻密にマトリックス中に分散したハードコート層を形成する。このコート層を形成するためには、加水分解性有機ケイ素化合物の加水分解を促進させるために、水を配合することが好ましい。
【0110】
このような水は、(A)成分と(B)成分との合計質量100質量部当り、20.00質量部乃至70.00質量部、好ましくは30.00質量部乃至70.00質量部、さらに好ましくは35.00質量部乃至60.00質量部の量とすることが好ましい。即ち、水の量が少量であると、(B)成分の加水分解が十分に進行せず、得られるハードコート層の耐擦傷性が低下する傾向にあり、また、得られるコーティング剤の保存安定等の特性が低下するおそれがある。また、水の量が多くなりすぎると、均一な厚みのハードコート層の形成が困難となり、光学特性に悪影響を与えるおそれがある。なお、前記水の配合量は、(B)成分が加水分解されていない状態のものを基準とする。
【0111】
尚、既に述べた通り、前記(A)成分は、水に分散させた分散液(ゾル)の形態で使用されることがある。当然、酸化セリウム微粒子が水に分散された状態で使用される場合も含まれる。このような場合には、前記水の配合量は、この分散媒に使用されている水の量を含むものとする。例えば、(A)成分を使用する際に、分散液に含まれる水の量が、前記水の量の範囲を満足している場合には、さらに水をコーティング組成物に混合する必要ない。また、前記水の量の範囲に満たない場合には、さらに水を混合してやればよい。
【0112】
また、ここで使用される水は、(B)成分の加水分解を促進するため、酸水溶液とすることもできる。この場合、酸分は少ないため、配合量は酸水溶液の量とする。酸分を具体的に例示すれば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、または酢酸、プロピオン酸等の有機酸の水溶液を使用できる。これらの中でも、コーティング組成物の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸及び酢酸が好適に使用される。また、酸水溶液の濃度は、0.001〜0.5N、特に0.01〜0.1Nであるのが好適である。当然のことながら、この酸水溶液は、酸化セリウム微粒子(B1)が酸水溶液に分散された分散液を使用する場合には、該酸水溶液を含むものとする。
【0113】
次に、硬化触媒(D)について説明する。
【0114】
<硬化触媒(D)>
硬化触媒(D)は、前記(B)成分の加水分解物の縮合(重合硬化)を促進させるために使用される。具体的には、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩、有機金属塩、各種ルイス酸が使用され、これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。これら硬化触媒を使用することにより、コート層をより硬くすることができる。
【0115】
アセチルアセトナート錯体としては、例えば特開平11−119001号公報に記されているもの、具体的には、アルミニウムアセチルアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、インジウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、ニッケルアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。これらの中では、アルミニウムアセチルアセトナート、チタニウムアセチルアセトナートが好適である。
【0116】
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等を例示することができる。
【0117】
有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛等を例示することができる。
【0118】
ルイス酸としては、塩化第二錫、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等を例示することができる。
【0119】
本発明においては、比較的低温でも短時間で耐擦傷性の高いハードコート層が得られ、コーティング組成物の保存安定性が優れるという観点から、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩を使用することが好適である。中でも、硬化触媒の50質量%以上、特に70質量%以上、最適には硬化触媒の全量が、アセチルアセトナート錯体、または過塩素酸塩であることが好ましい。
【0120】
前記硬化触媒は、硬いコート層を得るという観点から、前記(A)成分、及び(B)の合計量100質量部当たり、0.25質量部乃至5.00質量部、特に2.00質量部乃至4.00質量部の範囲の量で使用されることが好ましい。なお、前記硬化触媒の配合量は、(B)成分が加水分解されていない状態のものを基準とする。
【0121】
次に、水溶性有機溶媒(E)について説明する。
【0122】
<水溶性有機溶媒(E)>
本発明において、水溶性有機溶媒(E)とは、水に対する25℃における溶解度が10質量%以上、好ましくは50質量%以上の有機溶媒を指す。
【0123】
水溶性有機溶媒(E)は、(B)成分の溶剤となり且つ(A)成分の分散媒となるものである。このような水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸メチル等の低級カルボン酸の低級アルコールエステル類;セロソルブ、ジオキサン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類が挙げられる。これら有機溶媒は単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
【0124】
これら水溶性有機溶媒(E)の中でも、コーティング剤を塗布して硬化させる際に、容易に蒸発し、平滑なハードコート層が形成されるという観点から、特にメタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、アセチルアセトンを使用するのが好ましい。また、このような水溶性有機溶媒の一部は、先に述べたように、(A)成分の分散媒として、予め無機酸化物微粒子と混合しておくこともできる。
【0125】
水溶性有機溶媒(E)の使用量は、特に限定されないが、保存安定性と十分な耐擦傷性を得るために、前記(A)成分と(B)成分の合計量100質量部当たり、好ましくは60.00質量部乃至200.00質量部、より好ましくは60.00質量部乃至180.00質量部の範囲とすることが好ましい。なお、前記水溶性有機溶媒(E)の配合量は、加水分解性有機ケイ素化合物(B)が加水分解していない状態のものを基準とするものであり、該加水分解性有機ケイ素化合物が加水分解して生じたアルコールは含まないものとする。
【0126】
次に、前記(A)、(B)、(C)、(D)、および(E)成分以外の添加成分について説明する。
【0127】
<その他の添加成分>
本発明においては、上記成分以外にも、本発明の効果を阻害しない範囲で以下の添加成分を配合することができる。
【0128】
本発明のコーティング組成物には、ハードコート層とプラスチック製光学基材との密着性を向上、安定させる目的で環状ケトン化合物を添加することもできる。具体的には、としては、N−メチルピロリドン、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクトン、1−ビニル−2−ピロリドン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。これら環状ケトン化合物の配合量は、(A)成分、および(B)成分の合計量100質量部当たり、0.10質量部乃至5.00質量部とすることが好ましい。
【0129】
また、本発明の目的を損なわない限り、通常、コーティング組成物に配合される添加剤を使用することができる。このような添加剤の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等を挙げることができる。
【0130】
例えば、界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、プラスチックレンズ基材への濡れ性の観点からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、前述した必須成分の合計量(無機酸化物微粒子(A)と加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量)100質量部当たり、0.001〜1.00質量部の範囲が好ましい。
【0131】
また、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これらの配合剤の添加量は、前述した必須成分の合計量(無機酸化物微粒子(A)と加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量)100質量部当たり、0.10〜20.00質量部の範囲が好ましい。
【0132】
染料、顔料は、着色のために使用されるものであり、ニトロソ染料、ニトロ染料、アゾ染料、スチルベンゾアゾ染料、ケトイミン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料、キノリン染料、メチン染料、ポリメチン染料、チアゾール染料、インダミン染料、インドフェノール染料、アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料、硫化染料、アミノケトン染料、オキシケトン染料、アントラキノン染料、ペリノン系染料、インジゴイド染料、フタロシアニン染料、アゾ系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料、ナフタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、インジゴイド系顔料、トリフェニルメタン系顔料、キサンテン系顔料等を挙げることができる。染料、顔料の使用に当たっては、着色すべき基材の色濃度によって、適宜決定される。
【0133】
次に、上記成分を含むコーティング組成物を混合して、コーティング剤を製造する方法について説明する。
【0134】
<コーティング剤の製造方法>
本発明において、前記コーティング組成物から得られるコーティング剤は、所定量の各成分を秤取り混合することにより製造することができる。各成分の混合順序は、特に限定されず、全ての成分を同時に混合することもできるが、着色の少ないコーティング剤とするためには、以下の方法を採用することが好ましい。特に、酸化セリウム微粒子(A1)を使用する場合には、以下の方法を採用することが好ましい。
【0135】
即ち、先ず、酸化セリウム微粒子(A1)の分散液と(B)成分とを混合し、(B)成分を加水分解した後、得られた混合物と第一無機酸化物微粒子(A2)とを混合することが好ましい。また、前記硬化触媒を使用する場合には、酸化セリウム微粒子(A1)の分散液と(B)成分とを混合し、(B)成分を加水分解した後、得られた混合物と硬化触媒(D)とを混合し、次いで、第一無機酸化物微粒子(A2)とを混合することが好ましい。そのため、(A1)成分は、酸水溶液に分散しているものを使用することが好ましい。理由は明らかではないが、(A1)成分を使用する場合には、前記方法を採用することにより、コーティング剤の着色を極力少なくすることができる。
【0136】
前記方法をより詳細に説明する。先ず、(B)成分と水分散の酸化セリウム微粒子(A1)、特に、酸水溶液に分散されている(A1)成分を混合することにより、(B)成分を加水分解する。この場合、(B)成分の高分子量化を防ぐために、(B)成分に(A1)成分を添加することが好ましい。また、(B)成分の加水分解をより速くするため、塩酸のような酸水溶液を別途、加えることもできる。加水分解は、ハードコート層の物性に悪影響を与えず、且つ得られたコーティング剤の保存安定性を低下させないようにするため、10〜40℃の温度で1〜48時間行うことが好ましい。なお、(B)成分を混合するに際し、(B1)、(B2)、(B3)成分の添加順序は、特に制限されるものではない。
【0137】
(B)成分の加水分解は、全ての(B)成分が加水分解するまで行うものとする。この加水分解の終了については、得られたコーティング剤において、ガスクロマトグラフィーにより有機溶媒の定量を行い、使用した(B)成分から生じる有機溶媒(アルコール溶媒)の量が変化しなくなり、計算上の有機溶媒の量と一致することを確認すればよい。
【0138】
次に、前記方法で得られた混合物((A1)成分と、(B)成分の加水分解物とを含む混合物)と(A2)成分とを混合する。この混合は、10〜40℃の温度で1〜48時間撹拌して行うことが好ましい。また、硬化触媒(D)を用いる場合においては、該混合物と(A2)成分とを混合する前に、該混合物と硬化触媒(D)とを混合することが好ましく、その条件は、10〜40℃の温度範囲で5分〜12時間、攪拌混合することが好ましい。硬化触媒(D)を使用し、特に、酸化アンチモンを含む第一無機酸化物微粒子(A2)を使用した場合、上記混合方法を採用することにより、得られるコーティング剤の着色をより低減することができる。
【0139】
以上のような方法を採用することにより、着色が少なく、酸化セリウム微粒子(A1)が十分に分散され、コーティング剤自体の保存安定性も向上させることができる。これは、(A1)成分と(B)成分とを先に混合することにより、酸化セリウムの表面に加水分解物が結合し、酸化セリウム微粒子(A1)を安定化させるものと推定している。
【0140】
なお、その他の成分を混合する順序は、特に制限されるものではないが、水溶性有機溶媒(E)は、(A2)成分の分散媒として混合することが好ましい。また、その他の添加剤も、特に制限されるものではないが、前記混合物と(A2)成分とを混合している間に、さらに混合することが好ましい。
【0141】
このように混合して得られるコーティング剤は、特に制限されるものではないが、前記(A)成分、および前記(B)成分の加水分解物からなる固形分濃度が、コーティング剤の全質量中、15〜50質量%、好適には20〜40質量%となる量とするのがよい。
【0142】
次に、得られたコーティング剤を塗布するプラスチック製光学基材について説明する。
【0143】
<プラスチック製光学基材>
本発明のコーティング組成物は、眼鏡レンズ、カメラレンズ、液晶ディスプレー、家屋や自動車の窓等のプラスチック製光学基材の表面へのハードコート層の形成に適用されるが、中でも眼鏡レンズの用途に好適に使用される。
【0144】
また、光学基材を形成するプラスチックの種類も制限されず、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂およびチオエポキシ系樹脂等、公知の樹脂からなる光学基材表面へのハードコート膜の形成になんら制限なく適用できる。
【0145】
本発明のコーティング組成物より得られるコーティング剤は、特に、(メタ)アクリル系樹脂との密着性がより高い。そのため、フォトクロミック化合物を含む(メタ)アクリル系樹脂よりなる光学基材上のハードコート層に好適に使用できる。中でも、自由空間が多く存在し、特に、フォトクロミック化合物、及びハードコート層の形成に影響を与えるヒンダードアミン系の耐候剤を含む(メタ)アクリル系樹脂よりなる光学基材(フォトクロミック光学基材)のハードコート層を形成する場合に好適に使用できる。この自由空間を多く有する(メタ)アクリル系樹脂は、特に、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート、及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートとを含む組成物を硬化させた(メタ)アクリル系樹脂であることが好適である。
【0146】
このような3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレートを具体的に例示すれば、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレートが挙げられる。また、繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートとしては、平均分子量536のポリエチレングリコールジメタクリレート、平均分子量736のポリテトラメチレングリコールジメタアクリレート、平均分子量536のポリプロピレングリコールジメタクリレート、平均分子量258のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量308のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量522のポリエチレングリコールジアクリレート、平均分子量272のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、平均分子量536のポリエチレングリコールメタクリレートアクリレート、2,2−ビス[4−メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0147】
さらに、3官能以上の(メタ)アクリレート基を有する多官能アクリレート、及び繰り返し単位が2〜15のアルキレングリコール鎖を有するジ(メタ)アクリレートを含む組成物には、他の重合性単量体を加えてもよく、たとえば、グリシジルメタクリレート、ウレタンアクリレート等の(メタ)アクリレートを加えることもできる。
【0148】
上記のフォトクロミック化合物を含むプラスチック製光学基材(フォトクロミック光学基材)は、フォトクロミック化合物が基材内部に分散され、或いは基材表面にフォトクロミック化合物が分散されたフォトクロミックコート層が形成されたものであってもよい。より具体的には、本発明のコーティング組成物は、上記(メタ)アクレート系モノマーとフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を練り込み法でフォトクロミックレンズとしたもののハードコート層の形成に好適に使用できる。また、プラスチック製光学基材の表面に、上記(メタ)アクレート系モノマーとフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を塗布し、次いで、硬化させてフォトクロミックコート層を形成したもののハードコート層の形成に好適に使用できる。
【0149】
また、前記フォトクロミックコート層上は、通常、多量のフォトクロミック化合物を含むため、該プラスチック製光学基材は耐候性が低下する(長期間の使用で黄変するなど)場合があったが、本発明のコーティング組成物よりなるハードコート層を該フォトクロミックコート層上に形成することにより、耐候性をも改善することができる。
【0150】
さらに、本発明のコーティング組成物が有用な基材として、染色レンズが挙げられる。特に、チオウレタン系樹脂、やチオエポキシ系樹脂といった高屈折率プラスチックレンズの染色レンズに対して好適である。染色レンズには、通常、前述の染料が含まれているが、この染料は紫外線により劣化する。そのため、染色レンズの色調が長期間使用すると変化してしまう。更には、染料の劣化により、ハードコート層とプラスチックレンズ基材界面の密着性が著しく低下しやすいという問題が生じるが、本発明のコーティング組成物からなるコート層を積層し、紫外線吸収能を付与することにより、前述の色調変化や密着性の低下などの問題を抑制することが可能となる。
【0151】
なお、下記の実施例に示すが、上記の理由により、染色レンズやフォトクロミック光学基材は、染料やフォトクロミック化合物が劣化しやすい。そのため、これら光学基材は、特にハードコート層の最も耐候密着性が低下する傾向にある。そのため、該光学基材を使用した場合、本発明のコーティング組成物とそれ以外のコーティング組成物との耐候密着性の差が顕著になる。中でも、特に、染色レンズ(染料を含むレンズ)を対象とする場合に、上記効果が顕著に発揮される。
【0152】
次に、プラスチック製光学基材上に、前記方法で得られたコーティング剤を塗布し、ハードコート層を有する光学物品の製造方法について説明する。
【0153】
<光学物品の製造方法、光学物品>
上記のようにして製造されるコーティング剤は、必要に応じて異物を取り除くための濾過を行った後、プラスチックレンズ等のプラスチック製光学基材の表面に塗布され、乾燥後、硬化することによりハードコート層を形成する。このプラスチック製光学基材は、前記の光学基材が使用される。
【0154】
コーティング剤の塗布は、ディッピング法、スピンコート法、ディップスピンコーティング法、スプレー法、刷毛塗りあるいはローラー塗りなどを採用できる。
【0155】
塗布後の乾燥は、最初に60〜80℃で5〜30分程度の予備硬化を行い、その後、基材によって異なるが、90℃〜120℃の温度で1〜3時間程度の硬化を行うのがよい。特に、本発明のコーティング組成物より得られるコーティング剤は、優れた密着性を発揮するため、予備硬化後の温度を比較的低温にすることもできる。具体的には、予備硬化後の温度を95〜115℃、さらに100〜110℃とすることも可能である。このように比較的低温で硬化させることができるため、プラスチックレンズの黄変や、熱変形を防止することが可能である。
【0156】
上記のようにして形成されるハードコート層は、0.1〜10μm程度の厚みとすればよく、一般に、メガネレンズでは1〜5μmの厚みが好適である。上記方法を採用することにより、プラスチック製光学基材上に、ハードコート層が形成された光学物品を得ることができる。
【0157】
本発明のコーティング組成物によれば、優れた耐擦傷性を有するハードコート層を与えるばかりでなく、長期間使用してもクラックやハードコート層の剥離といった光劣化に起因する外観不良を防止することができる。更には、硬化時等の熱履歴に由来するハードコート層のクラック、具体的には、ハードコート層の収縮とプラスチック製光学基材の膨張により生じるハードコート層のクラックの発生も防止できる。また、耐薬品性、耐熱水性にも優れ、薬品(特にアルカリ水溶液)や温水と接触させても、クラックが発生したり、密着性が低下したりするのを改善することができる。
【実施例】
【0158】
以下、本発明を説明するために、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0159】
本実施例で使用した光学基材(レンズ基材)、各成分について説明する。
【0160】
(1)プラスチック製光学基材(レンズ基材)
CR:アリル樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.50。
MRA:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60。
MRB:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.67。
MRC:視感透過率が約75%の茶色に染色されたチオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.67。
TE:チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.71。
PC1:プラスチックレンズ基材表面にメタクリル系樹脂からなるコーティング層を有するレンズ(フォトクロミック光学基材)。
【0161】
〔PC1の作製方法 コート法によるフォトクロミック光学基材〕
ラジカル重合性単量体である平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート/グリシジルメタクリレートを、それぞれ40質量部/15質量部/25質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合した。次に、このラジカル重合性単量体の混合物100質量部に対して、3重量部のフォトクロミック化合物(1)を加え、70℃で30分間の超音波溶解を実施した。その後、得られた組成物に重合開始剤であるCGI1870:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルーペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:7)を0.35質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5質量部、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、及びレベリング剤である東レ・ダウコーニング株式会社製シリコーン系界面活性剤L−7001を0.1質量部添加し、十分に混合することによりフォトクロミック重合硬化性組成物を調製した。
【0162】
【化11】

【0163】
プラスチック製光学基材として、MRA(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60)を用い、このプラスチック製光学基材をアセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理、4分間の流水洗浄、そして40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、プライマーコート液として、竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールPFR402TP−4』及び酢酸エチルをそれぞれ50質量部となるように調合し、更にこの混合液に対して東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤FZ−2104を0.03質量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌した液を用いた。このプライマー液を、MIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズB表面にスピンコートした。このレンズを室温で15分間放置することにより、膜厚7μmのプライマー層を有するレンズ基材を作成した。
【0164】
次いで、前述のフォトクロミック重合硬化性組成物 約1gを、前記プライマー層を有するレンズ基材の表面にスピンコートした。前記フォトクロミック重合硬化性組成物よりなる塗膜が表面にコートされたレンズに、窒素ガス雰囲気中で、レンズ表面の405nmにおける出力が150mW/cmになるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを用いて、3分間、光照射し、塗膜を硬化させた。その後、さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行うことでフォトクロミックコート層を形成した。得られるフォトクロミックコート層の膜厚はスピンコートの条件によって調整が可能である。該フォトクロミックコート層の膜厚は、40±1μmとなるように調整した。
【0165】
(2)コーティング組成物用成分
〔A成分;酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)〕
A2(1):酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.6質量%、酸化アンチモン7.0質量%、二酸化珪素3.7質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル。固形分濃度(複合金属酸化物微粒子の濃度)40質量%。
A2(2):メタノール分散五酸化アンチモン微粒子(日産化学工業(株)製サンコロイドAMT−332S・NV、固形分濃度(五酸化アンチモン微粒子の濃度);30質量%
A2(3):水分散シリカ微粒子(日産化学工業(株)製スノーテックスO−40、固形分濃度(シリカ微粒子の濃度);40質量%)
A1:水分散酸化セリウム微粒子(多木化学株式会社製ニードラールU−15、固形分濃度(酸化セリウム微粒子の濃度);15質量%、酢酸3質量%含有)
〔B成分;加水分解性基含有有機ケイ素化合物〕
(B1成分):ジシラン化合物
BSE:1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン。
また、(B1)成分の比較として、
BSH:1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン。
を用いた。
(B2成分):エポキシ基含有加水分解性有機ケイ素化合物
GDS:γ―グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン。
(B3成分):エポキシ基含有加水分解性有機ケイ素化合物
GTS:γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
【0166】
〔C成分;水〕
0.001N〜1Nの塩酸水溶液を用いた。
【0167】
〔D成分;硬化触媒〕
アルミニウムを中心金属とする錯体
D1:トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)。
【0168】
〔E成分;水溶性有機溶媒〕
MeOH:メタノール。
TBA:t−ブタノール。
DAA:ジアセトンアルコール。
EGiPrE:エチレングリコールイソプロピルエーテル。
AcAc:アセチルアセトン。
【0169】
〔その他添加剤〕
シリコーン系界面活性剤
L1:シリコーン系界面活性剤 東レ・ダウコーニング株式会社製L7001。
環状ケトン化合物
NMP:N−メチルピロリドン。
【0170】
コーティング剤1の製造
(組成物1から得られるコーティング剤1)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン42.96質量部、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン4.79質量部、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン10.19質量部、シリコーン系界面活性剤(シリコーン系界面活性剤 東レ・ダウコーニング株式会社製L7001)0.28質量部、ジアセトンアルコール55.50質量部、t−ブチルアルコール16.87質量部、N−メチルピロリドン0.82質量部を混合した。この液を十分に撹拌しながら、0.038N塩酸水溶液17.84質量部、水分散酸化セリウム微粒子(多木化学工業製ニードラールU−15、固形分15質量%)27.45質量部の混合液を添加し、添加終了後から15〜30℃で20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)3.01質量部を添加後、20〜25℃で1時間攪拌し、メタノール分散複合金属酸化物微粒子(A1)94.85質量部(複合無機酸化物微粒子37.94質量部、メタノール56.91質量部)を混合し、24時間撹拌してコーティング剤1を得た。なお、 γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタンの加水分解は、ガスクロマトグラフィーにて加水分解が終了したことを確認した。このコーティング剤1とする前の各成分の配合量(組成物1の配合量)を表1に示した。なお、表1における組成物1の配合割合のものを上記方法で混合したものがコーティング剤1に該当する。
【0171】
コーティング剤2〜24、26、比較コーティング剤1〜7の製造
(組成物2〜24、26から得られるコーティング剤2〜24、26、および比較組成物1〜7から得られる比較コーティング剤1〜7)
表1〜5に示すA成分;無機酸化物微粒子、B成分;加水分解性基含有有機ケイ素化合物、C成分;水、D成分;硬化触媒、E成分;水溶性有機溶媒、添加剤;シリコーン系界面活性剤、環状ケトン化合物を用いた以外は、コーティング剤1と同様な方法で製造した。配合の組成を表1〜表5に示した。なお、表1〜表5における組成物2〜24、26の配合割合のものを上記方法で混合したものがコーティング剤2〜24、26に該当する。また比較組成物1〜7のものを上記方法で混合したものが比較コーティング剤1〜7に該当する。
【0172】
コーティング剤25
(組成物25から得られるコーティング剤25)
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン54.20質量部、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン5.39質量部、シリコーン系界面活性剤(シリコーン系界面活性剤 東レ・ダウコーニング株式会社製L7001)0.29質量部、t−ブチルアルコール13.19質量部、N−メチルピロリドン1.17質量部を混合した。この液を十分に撹拌しながら、水分散酸化セリウム微粒子(多木化学工業製ニードラールU−15、固形分15質量%)31.06質量部の混合液を添加し、次いで水分散シリカ微粒子(A2(3),日産化学工業(株)製スノーテックスO−40,固形分濃度;40質量%)52.73質量部の混合液を添加し、添加終了後から15〜20℃で12−24時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)2.46質量部、エチレングリコールイソプロピルエーテル9.97質量部、アセチルアセトン13.19質量部、メタノール44.44質量部の混合液を添加後、20〜25℃で3時間攪拌してコーティング剤25を得た。なお、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタンの加水分解は、ガスクロマトグラフィーにて加水分解が終了したことを確認した。このコーティング剤25とする前の各成分の配合量(組成物25の配合量)を表4に示した。なお、表4における組成物25の配合割合のものを上記方法で混合したものがコーティング剤25に該当する。
【0173】
【表1】

【0174】
【表2】

【0175】
【表3】

【0176】
【表4】

【0177】
【表5】


実施例1
厚さが約2mmの光学基材(レンズ基材)CRを、50℃の10質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、超音波洗浄器を用いて、5分間アルカリエッチングを行った。アルカリエッチング後、水道水、及び50℃の蒸留水で順次洗浄し、残余のアルカリ分を取り除いた後、室温になるまで約10分間放置した。このレンズ基材に、コーティング剤1を25℃で、引き上げ速度15cm/分の速さで、ディップコートした。この後、70℃のオーブンにて15分間予備硬化した後、110℃で2時間の硬化を行い、光学基材(レンズ基材)CRの両面に、それぞれ2.8μmの厚みでハードコート層が形成された光学物品(ハードコートレンズ)を得た。
【0178】
(光学物品の評価結果)
この光学物品(ハードコートレンズ)について、耐アルカリ性試験、耐熱性試験、黄度(YI)、Bayer試験、スチールウール耐擦傷性、耐候密着性について評価を行ったところ、耐アルカリ性試験:アルカリ濃度1.0wt%、熱硬化に伴うクラック発生の温度:140℃以上、耐熱水性:3時間、Bayer値:6.5、スチールウール耐擦傷性:A、耐候密着性:400時間以上であった。この結果を表6に示した。各評価については、下記の方法で行った。
【0179】
(耐アルカリ性試験)
得られた光学物品(ハードコートレンズ)を50℃の0.1質量%(0.1wt%)水酸化ナトリウム水溶液に浸し、超音波洗浄器を用いて5分間超音波をかけた。次に、このアルカリ処理したレンズを50℃のイオン交換水に浸し、超音波洗浄器を用いて5分間超音波をかけた後、ハードコート膜の外観(クラック発生とハードコート膜の剥がれの有無)を目視で評価した。クラックが確認されなければ、水酸化ナトリウムの濃度を0.1質量%増やし、同様のアルカリ処理とイオン交換水処理を行ない、外観不良が起きるまで行った。評価結果は、クラックが確認された際の最後に処理した水酸化ナトリウム水溶液の濃度で示した。例えば、表に0.3wt%と記載されている場合、光学物品(ハードコートレンズ)が0.1wt%水酸化ナトリウム水溶液処理に次いで、0.2wt%水酸化ナトリウム水溶液処理に次いで、さらに0.3wt%水酸化ナトリウム水溶液で処理したあとにクラックの発生もしくは、ハードコート膜の剥がれが初めて確認されたことを意味する。
【0180】
(耐熱性試験)
試験方法は、得られた光学物品(ハードコートレンズ)10枚を強制対流式オーブンにて115℃から5℃毎に140℃までの各温度で1時間加熱した。評価結果は、1枚でも加熱によりクラックが発生した温度を記載し、140℃1時間の加熱試験においてもクラックの発生が確認されなかった場合は、140℃以上と表記した。この温度が高いものが、コート層の収縮とプラスチックレンズの膨張により生じるクラックの発生が少なく、成形性のよいコーティング組成物と判断できる。
【0181】
(耐熱水性試験)
試験方法は、得られた光学物品(ハードコートレンズ)10枚を沸騰させた蒸留水に入れ、1時間毎にハードコートレンズのクラックの有無を目視評価し、試験時間3時間を上限とした。
【0182】
評価結果は、1枚でも熱水によりクラックの発生が確認された試験時間を記載した。例えば、試験時間2時間でクラックの発生が確認された場合は、2時間と表記し、また、試験時間上限の3時間後でもクラックが確認されなかった場合は3時間以上と表記した。
【0183】
(黄度測定)
試験方法は、得られた光学物品(ハードコートレンズ)の黄度(YI)を、スガ試験機(株)製SMカラーコンピューター(SM−T)を用いて求めた。
【0184】
(Bayer試験)
Bayer試験法(ASTM D−4060またはASTM F735−81)に基づいて、ハードコート層が形成されていないレンズ基材(ノンコートレンズ)の表面及びレンズ基材上に形成されたハードコート層表面(ハードコートレンズ表面)に、以下の方法で傷をつけた。
【0185】
即ち、2つのΦ50mmの穴を持つ研磨剤保持体に、ノンコートレンズ及びハードコートレンズを、それぞれ、その凸面を上にして、穴の下方から装着した。次いで市販されている研磨剤((SAINT−GOBAIN CERAMIC MATERIALS CANADA INC.,製のアルミナ−ジルコニアからなる研磨剤)500gを研磨剤保持体に入れ、この状態で装着された2つのレンズを毎分150ストロークの振動数で、合計2分間、4インチのストローク幅で振動させることにより、2つのレンズの表面を研磨することにより、傷をつけた。
【0186】
次いで、これらのレンズについて、分光計(スガ試験機(株)製 Hazeメーター)によりHazeを測定し、傷をつける前と傷をつけた後でのHaze値の差を求め、下記式によりBayer値を算出した。
【0187】
Bayer値=ΔHaze(ノンコート)/ΔHaze(ハードコート)
式中、ΔHaze(ノンコート)は、ノンコートレンズについて、試験後でのHaze値から試験前のHaze値を引いた値であり、ΔHaze(ハードコート)は、ハードコートレンズにおける試験後のHaze値から試験前のHaze値を引いた値である。この値が大きいほど表面硬度が高く耐擦傷性に優れていることを意味し、通常、4以上で硬く、6以上でガラスに匹敵する硬度を有し、著しく耐擦傷性に優れていることを意味する。
【0188】
(スチールウール耐擦傷性)
スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用い、3kgの荷重を加えながら、10往復、光学物品表面(ハードコート膜表面)を擦り、傷ついた程度を目視で評価した。評価基準は次の通りである。
A:傷か付かなかい(目視で傷が確認できなかった場合)。
B:ほとんど傷が付かない(目視で1以上5本未満の擦傷がある場合)。
C:極わずかに傷が付く(目視で5本以上10本未満の擦傷がある場合)。
D:傷が付く(目視で10本以上の擦傷がある場合)。
E:ハードコート膜の剥離が生じている。
また、最表層が脆いことに起因し、ハードコート層表面が濁った状態(すりガラス状)となった場合、スリと併記した。
【0189】
(耐候密着性試験)
得られた光学物品(ハードコートレンズ)を、スガ試験機(株)製キセノンウェザーメーターX25(2.5kWキセノンアークランプ)を用い、放射強度が40W/m、レンズ表面温度が50℃の条件下で最大400時間試験を行った。
【0190】
試験評価は、試験前と試験25時間毎にハードコート膜とレンズの密着性をJISD−0202に準じてクロスカットテープ試験によって行った。即ち、カッターナイフを使い、ハードコート膜表面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向へ一気に引っ張り剥離した後、ハードコート膜が残っているマス目を測定した。
【0191】
評価結果は、残っているマス目が90未満時の試験時間を記載した。例えば、100時間と表記されている場合、促進100時間後のクロスカットテープ試験で残っているマス目が90未満となったことを意味する。また、促進400時間でも残っているマス目が90以上だった場合は、400時間以上と記載した。
【0192】
以上の結果を表6に示した。
【0193】
実施例2〜49
表1〜4に示す組成物から得られたコーティング剤2〜26、および光学基材(レンズ基材)を使用して、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズを作製し、その評価を行った。評価結果を表6〜8に示した。
【0194】
比較例1〜8
表5に示す比較組成物から得られた比較コーティング剤1〜7、および光学基材(レンズ基材)を使用して、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズを作製し、その評価を行った。また、比較例7については、初期の密着性が無かったため、耐熱性試験以外の評価は行わなかった。評価結果を表9に示した。
【0195】
【表6】

【0196】
【表7】

【0197】
【表8】

【0198】
【表9】

【0199】

実施例50
フォトクロミック光学基材PC1を、50℃の20質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、超音波洗浄器を用いて、5分間アルカリエッチングを行った。アルカリエッチング後、水道水、及び50℃の蒸留水で順次洗浄し、残余のアルカリ分を取り除いた後、室温になるまで約10分間放置した。このレンズ基材に、コーティング剤1を25℃で、引き上げ速度15cm/分の速さで、ディップコートした。この後、70℃のオーブンにて15分間予備硬化した後、110℃で2時間の硬化を行い、光学基材(レンズ基材)CRの両面に、それぞれ2.8μmの厚みでハードコート層が形成された光学物品(ハードコートレンズ)を得た。
【0200】
(光学物品の評価結果)
この光学物品(ハードコートレンズ)について、Bayer試験、耐アルカリ性試験、黄変度(ΔYI)、スチールウール耐擦傷性について評価を行ったところ、Bayer値は7.6、耐アルカリ性試験:アルカリ濃度1.0wt%、黄変度(ΔYI):1.5、スチールウール耐擦傷性:A’であった。この結果を表10に示した。
【0201】
(耐候性試験 ΔYIの評価)
フォトクロミックコート層を有する光学基材(レンズ PC1)は、フォトクロミック化合物を該コート層上に多く含むため、耐候性が劣る場合があった。しかし、本発明のコーティング組成物よりなるハードコート層を該フォトクロミックコート層上に形成した場合には、耐候性を改善することもできる。この耐候性の評価を以下の方法により実施した。
【0202】
スガ試験機(株)製キセノンウェザーメーターX25(2.5kWキセノンアークランプ)を用い、放射強度が40W/m、レンズ表面温度が50℃の条件下で、試料のフォトクロミックコート層を有するレンズ(PC1を使用したレンズ)に、100時間光照射を行い、促進劣化させた。
【0203】
次いで、スガ試験機(株)製SMカラーコンピューター(SM−T)を用い、促進劣化前のYI(YI)及び促進劣化後のYI(YI100)を測定し、下記式より黄変度を求め、黄変性の評価を行った。
黄変度(ΔYI)=YI100−YI
この黄変度(ΔYI)が小さいほど、劣化後のレンズの黄変度が少なく、耐候性に優れていることとなる。結果を表9に示した。
【0204】
実施例51〜54
表1、表2に示す組成物から得られたコーティング剤1および6〜9、およびフォトクロミック光学基材PC1を使用して、実施例50と同様の方法でハードコート層を有するプラスチックレンズを作製し、その評価を行った。評価結果を表9に示した。
【0205】
比較例9
比較組成物3から得られた比較コーティング剤3、フォトクロミック光学基材PC1を使用して、実施例50と同様の方法でハードコート層を有するプラスチックレンズを作製し、その評価を行った。評価結果を表10に示した。
【0206】
【表10】

【0207】

前記実施例から明らかなように、前記式(1)に示すジシラン化合物(B1)、および酸化セリウム、さらには(B2)成分、(B3)成分を所望の比率で配合させることにより、耐候密着性、耐アルカリ性、耐熱水性、耐熱性を有す高硬度なハードコート層を形成することができた。それに対し、比較例1〜7においては好適な組成から外れるため、耐候密着性、耐アルカリ性、耐熱水性、耐熱性および硬度の少なくとも1つ以上の物性を満足することが出来なかった。
【0208】
さらに、コート法によるフォトクロミック光学基材を用いた場合には、耐候密着性、耐アルカリ性、耐熱水性、耐熱性を満足し、かつ耐候試験後のレンズの黄変を低減することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを含む無機酸化物微粒子(A)を20.00質量部乃至60.00質量部、
下記式(1)
【化1】

(式中、
は、メチル基、またはエチル基であり、
Xは、炭素数2〜3のアルキレン基である。)
で示されるジシラン化合物(B1)を含む加水分解性有機ケイ素化合物(B)を40.00質量部乃至80.00質量部含有するハードコート層形成用コーティング組成物であって、
前記無機酸化物微粒子(A)と前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量を100質量部として、
前記酸化セリウムを0.25質量部乃至15.00質量部、及び
前記ジシラン化合物(B1)を3.50質量部乃至25.00質量部
含むことを特徴とするコーティング組成物。
【請求項2】
前記加水分解性有機ケイ素化合物が、
下記式(2)
【化2】

{式中、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、
は、下記式(3)
【化3】

(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基、又は下記式(4)
【化4】

(式中、
は、炭素数1〜8のアルキレン基である。)で示される基であり、
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、各Rは、同一の基であっても、異なる基であってもよい。}
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)、および
下記式(5)
【化5】

(式中、
、およびRは、前記式(2)におけるものと同義である。)
で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を含み、前記ジシラン化合物(B1)1モルに対して、
前記式(2)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B2)を0.30〜3.00モル、
前記式(5)で示されるエポキシ基含有有機ケイ素化合物(B3)を2.50〜20.00モル
含むことを特徴とする請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化チタンを含まないことを特徴とする請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)と該酸化セリウム微粒子以外の第一無機酸化物微粒子(A2)とからなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記無機酸化物微粒子(A)と前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)との合計量100質量部100質量部当たり、水(C)を20.00質量部乃至70.00質量部、硬化触媒(D)を0.20質量部乃至5.00質量部、水溶性有機溶媒(E)を60.00質量部乃至180.00質量部含むことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のコーティング組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載のコーティング組成物を混合することにより、コーティング剤を製造する方法であって、
前記無機酸化物微粒子(A)が、酸化セリウム微粒子(A1)と第一無機酸化物微粒子(A2)とからなり、
該酸化セリウム微粒子(A1)として、酸水溶液に分散させた酸化セリウム微粒子を使用し、前記加水分解性有機ケイ素化合物(B)と酸水溶液中に分散している酸化セリウム微粒子(A1)とを混合して、加水分解性有機ケイ素化合物(B)を加水分解した後、得られた混合物と硬化触媒(D)とを混合し、次いで、前記第一無機酸化物微粒子(A2)を混合することを特徴とするコーティング剤の製造方法。
【請求項7】
プラスチック製光学基材上に、請求項1〜5の何れかに記載のコーティング組成物を硬化させて得られるハードコート層を有する光学物品。
【請求項8】
前記プラスチック製光学基材が、フォトクロミック光学基材である請求項7に記載の光学物品。
【請求項9】
前記フォトクロミック光学基材が、プラスチック製光学基材上に、重合性単量体、及びフォトクロミック化合物を含む重合硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層上にハードコート層が形成されてなる請求項8に記載の光学物品。
【請求項10】
前記プラスチック製光学基材が、染料を含む光学基材である請求項7に記載の光学物品。

【公開番号】特開2011−84677(P2011−84677A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239873(P2009−239873)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】