説明

コールドクルーシブル溶解炉

【課題】炉本体への抜熱量を抑えて、高純度で、かつ、効果的に過昇温状態となった溶湯を生成することが可能なコールドクルーシブル溶解炉を提供する。
【解決手段】コールドクルーシブル溶解炉1は、被溶解金属Wを収容する収容凹部10aを有する炉本体10と、炉本体10を冷却する冷却手段20と、炉本体10の外周側に配置され、炉本体10の収容凹部10aに収容された被溶解金属Wを誘導加熱する誘導加熱コイル30とを備え、収容凹部10aを構成する炉本体10の内面15の少なくとも一部は、被溶解金属Wより融点の高い耐火物によって形成された熱緩衝部材40で覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱により被溶解金属を溶解する溶解炉に関し、特に冷却によってスカルを形成しながら誘導加熱溶解を行うコールドクルーシブル溶解炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被溶解金属を誘導加熱溶解する装置としては、銅などの金属で形成され、内部に冷却水炉を有する炉本体と、炉本体の周囲に配置された誘導加熱コイルとを備えたコールドクルーシブル溶解炉がある。このようなコールドクルーシブル溶解炉で炉本体に収容された被溶解金属を溶解する場合、誘導加熱コイルによって被溶解金属を誘導加熱するとともに、冷却水炉に冷却水を通水することによって炉本体を冷却する。これにより、炉本体に収容された被溶解金属は、外周側において炉本体に抜熱されるため、外周側でスカルが形成され、内部のみが溶融することとなる。このため、内部の溶湯は、スカルによって炉本体と隔離され、これにより炉本体からの汚染防止が図られることとなる。また、炉本体は、上記のように金属で形成されていることから高速溶解したとしても割れなどの損傷が生じる恐れが無い。このため、コールドクルーシブル溶解炉では、高純度の溶湯を高速で生成することが可能となっている。
【0003】
さらに、上記のようなコールドクルーシブル溶解炉においては、炉本体を形成する材質として、純銅の熱伝導率よりも小さな熱伝導率の例えば、クロム銅などを選択したものが提案されている。このようなコールドクルーシブル溶解炉では、被溶解金属から炉本体への抜熱量を低下させることができ、これによりスカルの生成量を、炉本体を純銅で形成した場合よりも低減させることができるとされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−62054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、生成される溶湯は、鋳型への湯流れを良好なものとし、これにより製品品質及び歩留まりの向上を図ることを目的として、被溶解金属の融点に対して、+100℃以上、望ましくは、+150℃以上となるまで過昇温させることが望まれている。しかしながら、特許文献1のコールドクルーシブル溶解炉では、収容された被溶解金属は炉本体を形成する銅などの材質の熱伝導率に応じた抜熱量で炉本体に抜熱されてしまうことで、生成された溶湯としては、被溶解金属の融点に対して+100℃未満の範囲でしか過昇温させることができなかった。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、炉本体への抜熱量を抑えて、高純度で、かつ、効果的に過昇温状態となった溶湯を生成することが可能なコールドクルーシブル溶解炉を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、被溶解金属を収容する収容凹部を有する炉本体と、該炉本体を冷却する冷却手段と、前記炉本体の外周側に配置され、前記炉本体の前記収容凹部に収容された前記被溶解金属を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えたコールドクルーシブル溶解炉であって、 前記収容凹部を構成する前記炉本体の内面の少なくとも一部は、前記被溶解金属より融点の高い耐火物によって形成された熱緩衝部材で覆われていることを特徴としている。
【0007】
この構成によれば、被溶解金属は、誘導加熱コイルによって誘導加熱されるとともに、冷却手段によって冷却された炉本体から抜熱され、これにより外周部でスカルを形成しつつ、内部に溶湯を生成することができる。ここで、炉本体による抜熱は、被溶解金属に面する炉本体の内面から行われるが、耐火物で形成された熱緩衝部材で覆われた一部については、この熱緩衝部材を介して抜熱が行われることとなり、直接抜熱が行われるのと比較して、抜熱量を低減させることができる。このため、スカルを形成して炉本体による汚染を防止しつつ誘導加熱によって生成された溶湯を効果的に過昇温させることができる。
【0008】
また、前記熱緩衝部材は、前記内面の内、底面を覆っていることが好ましい。
この構成によれば、被溶解金属は、炉本体の内面の内、底面及び側面の少なくとも一部に面することとなるが、熱緩衝部材が被溶解金属と全範囲で面することとなる底面を覆っていることで、より効果的に炉本体への抜熱量を低減させて、生成された溶湯を過昇温させることができる。
【0009】
また、前記熱緩衝部材は、前記内面の内、さらに側面の一部を覆っていることが好ましい。
この構成によれば、炉本体の内面の内、側面において、被溶解金属と面する一部もさらに熱緩衝部材によって覆うことで、さらに効果的に炉本体への抜熱量を低減させて、生成された溶湯を過昇温させることができる。
【0010】
また、前記熱緩衝部材を形成する前記耐火物は、酸化物からなることが好ましい。
この構成によれば、熱緩衝部材を、酸化物からなる耐火物によって形成することで、酸化鉄や鋳鉄を被溶解金属として溶解する場合にも、熱緩衝部材から溶湯へ炭素が溶け込んで汚染されてしまうことを確実に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコールドクルーシブル溶解炉によれば、熱緩衝部材を備えることで、炉本体への抜熱量を抑えて、高純度で、かつ、効果的に過昇温状態となった溶湯を生成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1及び図2は、この発明に係る実施形態を示していて、スカルを形成しつつ被溶解金属を誘導加熱溶解して溶湯を製造するコールドクルーシブル溶解炉を示している。図1に示すように、このコールドクルーシブル溶解炉1は、被溶解金属Wを収容する炉本体10と、炉本体10を冷却する冷却手段20と、炉本体10の外周側に配置された誘導加熱コイル30とを備える。被溶解金属Wとしては、様々な金属を適用可能であるが、本実施形態においては、例えば鋳鉄や酸化鉄などを選択して溶解する場合について説明する。なお、本実施形態のコールドクルーシブル溶解炉1は、大気中に設置されて、大気中において被溶解金属Wの溶解を行うものとしても良いし、図示しないが真空槽内部に設置されて真空雰囲気中で被溶解金属Wの溶解を行うものとしても良い。
【0013】
炉本体10は、底面壁を構成するように形成されたベース体11と、側面壁を構成するようにベース体11上に上方視略円形状に配設された複数の導電性セグメント12とを有する。そして、これら互いに固定されたベース体11と導電性セグメント12とによって、上部が開口して被溶解金属Wを収容する収容凹部10aが形成されている。
【0014】
より詳しくは、ベース体11は、略円柱状に形成された柱状部13と、柱状部13の下端部から外周側へ張り出したフランジ部14とを有する。柱状部13の上面は、収容凹部10aを構成する内面15の内、底面15aを形成していて、熱緩衝部材40によって覆われている。なお、熱緩衝部材40の詳細については後述する。また、フランジ部14には、各導電性セグメント12と対応する位置で、それぞれ上下方向に連通して、複数の締結孔11aと、冷却水路11bとが形成されている。
【0015】
また、導電性セグメント12は、上下方向に立設された側壁部16と、側壁部16の下端から曲折された取付部17とによって、断面略L字形に形成されている。導電性セグメント12の材質としては、熱衝撃に強く、必要な機械的強度を有するとともに、冷却手段20による冷却によってスカルを形成するのに必要な高熱伝導率を有するものが選択され、例えば、銅、クロム銅、ベリリウム銅などが選択される。
【0016】
側壁部16は、内側面が下部においてベース体11の柱状部13に当接するとともに、上部が柱状部13から上方へ突出し、収容凹部10aを構成する内面15の内、壁面15bを形成している。また、取付部17には、ベース体11のフランジ部14の締結孔11a及び冷却水路11bとそれぞれ連通するようにして同様に複数の締結孔12a及び冷却水路12bが形成されている。そして、互いに連通するベース体11のフランジ部14及び導電性セグメント12の取付部17の締結孔11a、12aには、固定ボルト18が挿通され、ナット18aによって締め付けられていて、これにより導電性セグメント12とベース体11とは一体となっている。
【0017】
ここで、ベース体11に固定された各導電性セグメント12は、隣接するもの同士、隙間を有して電気的に絶縁状態とされている。また、各導電性セグメント12において、幅方向略中央部には厚さ方向に連通するスリット12cが形成されている。スリット12cは、図示しないが取付部17に形成されているとともに、側壁部16において、下端部から上端部に開放しない位置まで形成されており、側壁部16は、スリット12cによって幅方向に分割されている。そして、側壁部16の内部において、分割した両側には、それぞれ冷却水路12bが形成されていて、側壁部16の上端部に形成された連通孔12dによって互いに接続されている。そして、各冷却水路12bは、それぞれベース体11の冷却水路11bと連通している。
【0018】
これにより、図示しない供給源から冷却水をベース体11の冷却水路11bに供給すれば、供給された冷却水は、ベース体11の冷却水路11b、導電性セグメント12の一方の冷却水路12b、連通孔12d、導電性セグメント12の他方の冷却水路12b、ベース体11の冷却水路11bと流通して外部に排出されることとなる。このため、導電性セグメント12及びベース体11は、流通する冷却水によって冷却されることとなり、すなわち、図示しない供給源、冷却水路11b、12b、連通孔12dによって冷却手段20が構成されている。より具体的には、冷却手段20による冷却能力としては、炉本体10の全体を被溶解金属Wの溶解温度以下とする冷却能力が要求され、これにより後述するようにスカルW1を形成することが可能となっている。
【0019】
また、熱緩衝部材40は、ベース体11の柱状部13の形状と対応した略円板状の部材で、底面15a全体を覆っている。熱緩衝部材40は、被溶解金属Wより融点の高い耐火物によって形成されており、炉本体10を形成する材質よりも熱伝導率が低く、炉本体10と同等の機械的強度を有するとともに、被溶解金属Wを加熱溶解する際に要求される耐熱衝撃性を有するものが選択される。より具体的には、熱緩衝部材40を形成する耐火物は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムなどの酸化物からなるものが好ましく、炭化ケイ素などを含むものとしても良い。
【0020】
また、誘導加熱コイル30は、炉本体10の外周側に巻回されており、図示しない電源装置によって、所定の交流電力を供給することが可能であり、これにより交番磁場を発生させて、収容凹部10aに収容された被溶解金属Wを誘導加熱することが可能となっている。
【0021】
次に、この実施形態のコールドクルーシブル溶解炉1の作用について説明する。図2に示すように、まず、塊状や粉状の被溶解金属Wを炉本体10の収容凹部10a内に投入する。次に、冷却手段20を駆動して炉本体10を冷却しながら、誘導加熱コイル30に交流電力を供給する。これにより誘導加熱コイル30の周囲に交番磁場が発生する。発生した交番磁場は、炉本体10を介して収容凹部10aに透過することで、被溶解金属Wにも透過し、これにより被溶解金属Wは誘導加熱され昇温することとなる。このため、被溶解金属Wは、溶融温度に昇温した表面側から溶解が開始されて、溶湯となり、炉本体10の内面15に触れることとなる。これにより、溶湯は、冷却手段20による冷却によって被溶解金属Wの融点以下となっている炉本体10に抜熱され、外周部において冷却されて凝固し、底面15a側及び壁面15b側の一部を覆うようにスカルW1が形成されることとなる。そして、スカルW1が所定以上の厚みとなって炉本体10による冷却能力よりも誘導加熱による加熱能力が上回ると、スカルW1より内周側で溶湯が滞留することとなる。そして、溶湯の滞留量が増大すると、溶湯は、交番磁場と誘導電流との相互作用と重力の作用を受けることによって、外周部から内周部に向かって盛り上がったドーム形状に形成されつつ攪拌されることとなる。
【0022】
このため、被溶解金属Wは、スカルW1によって炉本体10の不純物が移行してしまうこと無く、溶湯として生成されることとなる。ここで、炉本体10による抜熱は、上記のように被溶解金属Wに面する炉本体10の内面15から行われるが、耐火物で形成された熱緩衝部材40で覆われた底面15aについては、この熱緩衝部材40を介して抜熱が行われることとなり、直接抜熱が行われるのと比較して、抜熱量を低減させることができる。このため、スカルW1を形成して炉本体10による汚染を防止しつつ誘導加熱によって生成された溶湯を、さらに加熱して効果的に過昇温状態にさせることができる。すなわち、生成された溶湯を被溶解金属Wの融点に対して+100℃以上、望ましくは、+150℃以上となるまで昇温させることができ、鋳型への湯流れを良好なものとし、製品品質及び歩留まりの向上を図ることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、熱緩衝部材40は、底面15aを覆っているものとしたが、これに限るものでは無く、底面15aの一部を覆っているものとしても、少なくとも熱緩衝部材40で覆われている範囲で抜熱量を低減させることができる。しかしながら、収容凹部10aを構成する内面15の内、被溶解金属Wと全範囲で面することなる底面15aを覆うように熱緩衝部材40を設けることで、効果的に炉本体10への抜熱量を低減させることができる。また、図3に示す変形例のコールドクルーシブル溶解炉50のように、側面にも熱緩衝部材40を覆うものとしても良い。このようにすることで、壁面15b側から導電性セグメント12への抜熱量も低減させることができる。なお、熱緩衝部材40は、壁面15bの全範囲を覆うように設けても良い。しかしながら、上記のように溶湯はドーム形状に形成されることから、壁面15bの内、被溶解金属Wが接することとなる底面15a近傍の下端側のみ覆うようにすることで、より効率的に抜熱量を低減させることができる。
【0024】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施形態のコールドクルーシブル溶解炉の概要を示す一部を破断した側面図である。
【図2】この発明の実施形態のコールドクルーシブル溶解炉で、被溶解金属を溶解する場合の説明図である。
【図3】この発明の実施形態の変形例のコールドクルーシブル溶解炉の概要を示す一部を破断した側面図である。
【符号の説明】
【0026】
1、50 コールドクルーシブル溶解炉
10 炉本体
15 内面
15a 底面
15b 側面
20 冷却手段
30 誘導加熱コイル
40 熱緩衝部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶解金属を収容する収容凹部を有する炉本体と、該炉本体を冷却する冷却手段と、 前記炉本体の外周側に配置され、前記炉本体の前記収容凹部に収容された前記被溶解金属を誘導加熱する誘導加熱コイルとを備えたコールドクルーシブル溶解炉であって、
前記収容凹部を構成する前記炉本体の内面の少なくとも一部は、前記被溶解金属より融点の高い耐火物によって形成された熱緩衝部材で覆われていることを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉。
【請求項2】
請求項1に記載のコールドクルーシブル溶解炉において、
前記熱緩衝部材は、前記内面の内、底面を覆っていることを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉。
【請求項3】
請求項2に記載のコールドクルーシブル溶解炉において、
前記熱緩衝部材は、前記内面の内、さらに側面の一部を覆っていることを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のコールドクルーシブル溶解炉において、
前記熱緩衝部材を形成する前記耐火物は、酸化物からなることを特徴とするコールドクルーシブル溶解炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−85525(P2009−85525A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257227(P2007−257227)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【出願人】(000002059)神鋼電機株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】