説明

ゴムロールおよびその製造方法

【課題】砥石の研削効率を向上させ、研削加工後のゴムロールの表面性が優れて外径形状異常がないゴムロールを得る。
【解決手段】a)芯金軸と芯金軸の外周面に円筒状に設けられた加硫ゴムからなる弾性層とを有するゴムロールを用意する工程、b)芯金軸の両端の外周面をチャック機構によって把持固定しながらゴムロールを回転させる工程、c)工程dにおける研削加工時に発生する押し撓みを抑制するバックアップ装置を、砥石と対向する側から弾性層に押し当てる工程、d)弾性層の長さよりも幅の広い砥石を用い工程fより速い前進速度で砥石を弾性層に押し当てて弾性層を研削する工程、e)バックアップ装置を弾性層から離す工程、f)工程dより遅い前進速度で砥石を弾性層に押し当てて弾性層を研削する工程をこの順に有することを特徴とするゴムロールの製造方法。この方法で製造された電子写真用のゴムロール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザービームプリンタおよびファクシミリ等の電子写真装置に用いられる帯電ロール、現像ロール、その他の各種ロール等のゴムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子写真はカラー化が進み、より高精細で画像の均一性(ハーフトーンの一様性)等の高度なものが求められてきている。このため、電子写真に用いられるゴムロールには、外周面の表面性や外径形状が全域にわたって、均一に優れていることが要求されている。
【0003】
例えば、帯電ロールではゴムロールの表面粗さにムラがある場合や、ゴムロールの外径形状に微小な形状異常がある場合では、帯電ロールが一回転する中で感光ドラムを帯電させる能力にバラツキを発生させてしまう。その結果、プリントした画像上に帯電ロールの回転ピッチで、濃淡ムラの画像不良を発生させてしまうことになる。
【0004】
電子写真に用いられるゴムロールを製造する技術の一つに研削加工がある。研削加工とはゴムロールを回転させた状態にし、そこに高速に回転した砥石を接触させてゴムロールの外周面を所定の形状・寸法に仕上げるものである。ゴムロールの研削装置には、30mm〜50mm程度の幅の狭いタイプの砥石でゴムロール表面を左右にトラバースさせて研削する機構のものがある。また、ゴムロールの全長よりも幅の広いタイプの砥石をゴムロール表面に押し当てて(プランジさせて)一括で研削する機構のものがある。後者のプランジ研削の方が単位時間当たりの砥石とゴムロールの接触加工時間が断然に多くなることから、研削加工時間の大幅な短縮が図れる。そのため、最近では特にゴムロールの研削加工には、プランジ研削の装置が一般的に使用される傾向にある。
【0005】
研削加工は砥石でゴムを削り取ることから、ゴムロール研削面の表面性は金型で成型加工したゴムロールの表面性と比べると劣る傾向にある。そのため、これまで研削加工は主にスポンジタイプのゴムロールや、表面性がそれほど要求されないゴムロールの加工に使用される技術であった。
【0006】
上述のプランジ研削加工を行う場合、ゴムロール幅の全域を一括で研削するため、砥石にかかる研削抵抗が大きくなる傾向ある。また、砥石をゴムロールに押し当てる速度を速めていくと、研削抵抗が更に大きくなっていく。研削抵抗が大きくなると、研削時に砥石がゴムロールを研削する力よりも、砥石がゴムロールを押し込んでいく力の方が強くなってしまうことがある。この場合、ゴムロールは砥石と反対側に撓まされて良好に研削されなくなり、研削後のゴムロールの表面性が低下してしまい、研削効率が低下することがある。
【0007】
一方、電子写真は画質の向上を図るため、ゴムロールにより高機能が求められていることから、ゴムロールに用いられるゴム材料も多様化してきている。特に、カラーの高画質タイプの電子写真にはスポンジタイプのゴムロールよりも、ソリッドタイプのゴムロールの方が多く使用される傾向にある。ソリッドタイプのゴムロールには、シリコーンゴムやウレタンゴム等の、研削時に砥石との摩擦で熱が発生する、研削性の低いゴム材料が多い。また、ゴムロールの弾性層であるゴムの硬度が高くなる場合には、更に研削性が低下してしまう。これらのゴム材料をプランジ研削する場合には、更に研削効率が低下する傾向が顕著になってしまう。
【0008】
従来のプランジ研削でゴムロールの加工を行う際、研削効率を向上させるための製造方法が特許文献1に開示される。この文献には、砥石と対向する側から押圧ローラを研削開始から研削終了まで押し当てて研削加工を行う製造方法や、押圧ローラを研削の途中の段階から研削終了まで押し当てて研削加工を行う製造方法が記載される。
【0009】
しかしながら、押圧ローラを研削終了まで押し当てながら研削加工を行う場合、ゴムロールに押圧ローラの離れ際の跡や押圧による応力が残ってしまい、研削加工後のゴムロール表面に表面粗さのムラや微小な外径形状異常となってしまうことがある。そのようにして研削加工されたゴムロールを例えば帯電ロールに用いる場合には、その表面粗さのムラや微小な形状異常がある位置に、画像不良が発生することがある。
【0010】
特に、研削性の低いゴム材が用いられているゴムロールをプランジ研削するゴムロールの製造方法においては次のような点が大きな課題となっていた。すなわち、砥石の研削効率を向上させて研削加工時間を短くしながら、研削加工後のゴムロールの表面が全周にわたって均一で優れていて、微小な外径形状の異常等がないゴムロールを製造することが困難であった。
【特許文献1】特開平11−099451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、砥石の研削効率を向上させて研削加工時間を短くしながら、研削加工後のゴムロールの表面性が全周にわたって均一で優れていて微小な外径形状異常がないゴムロールを得ることのできるゴムロールの製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、このように優れた電子写真用のゴムロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明により、a)芯金軸と該芯金軸の外周面に円筒状に設けられた加硫ゴムからなる弾性層とを有するゴムロールを用意する工程、
b)該芯金軸の両端の外周面を、チャック機構によって把持固定しながら該ゴムロールを回転させる工程、
c)工程dにおける研削加工時に発生する押し撓みを抑制するバックアップ装置を、該砥石と対向する側から該弾性層に押し当てる工程、
d)該弾性層の長さよりも幅の広い砥石を用い、工程fにおける前進速度より速い前進速度で該砥石を該弾性層に押し当てて該弾性層を研削する工程、
e)該バックアップ装置を該弾性層から離す工程、および、
f)工程dにおける前進速度より遅い前進速度で該砥石を該弾性層に押し当てて該弾性層を研削する工程
をこの順に有することを特徴とするゴムロールの製造方法が提供される。
【0014】
本発明により、上記ゴムロールの製造方法によって製造された、電子写真用のゴムロールが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、砥石の研削効率を向上させて研削加工時間を短くしながら、研削加工後のゴムロールの表面性が全周にわたって均一で優れていて微小な外径形状異常がないゴムロールを得ることのできるゴムロールの製造方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、このように優れた電子写真用のゴムロールが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照にしながら詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0018】
図1は、本実施形態のゴムロールの製造方法において、ゴムロールを研削装置で研削加工する状態を説明する模式図である。
【0019】
ゴムロール3においては、芯金軸5の軸回り(外周面)に加硫ゴムからなる円筒状の弾性層4が固定されて設けられている。芯金軸の両端部は、ゴムロールの軸方向の両端において弾性層からそれぞれ突出している。
【0020】
本実施形態で用いられる研削装置では、芯金軸の両端の外周面を把持固定するチャック機構を、ダイヤフラム式チャックとして説明をしている。しかし、芯金軸の把持機構にはダイヤフラム式チャック以外にも、コレットチャック等の採用も可能であり、チャック機構は特に制限されるものではない。
【0021】
図1に示すように、研削装置1は、弾性層4の長さ(軸方向長さ)よりも幅の広い砥石6を、回転させながら、ゴムロール3の外周面のゴム部(弾性層)4に押圧するための砥石駆動機構2を有する。また研削装置は、ゴムロール3の芯金軸5の両端部をそれぞれ把持固定する一組のヘッドストック側ダイヤフラム式チャック13およびテールストック側ダイヤフラム式チャック14を備える。ダイヤフラムチャックはアクチュエータ部分のヌース10、ワークを把持するチャック爪を取り付けるチャックアダプタ11及びチャック爪12により構成されている。さらに、これらヘッドストック側ダイヤフラム式チャック13およびテールストック側ダイヤフラム式チャック14を同期させて回転駆動させるヘッドストック側モータ7およびテールストック側モータ15を備えている。ヘッドストック台8とテールストック台9は、研削装置1のテーブル22の長手方向に互いに対向して配置される。
【0022】
砥石駆動機構2は、回転駆動される砥石6の軸方向と、テーブル22の長手方向、すなわちゴムロール3の長手方向を直交させて配置させている。この砥石駆動機構2は、図示しないが、円筒状の砥石6を回転駆動させるモータと、砥石6の周面をゴム部4の周面に押圧する移動機構とを有している。
【0023】
ゴムロール3の芯金軸5の一端(図1において左端)側の外周面が、研削装置1のヘッドストック側ダイヤフラム式チャック13で把持固定される。また、ゴムロール3の芯金軸5の他端(図1において右端)側の外周面も同様に、研削装置1のテールストック側ダイヤフラム式チャック14で把持固定される。互いに対向するヘッドストック側ダイヤフラム式チャック13とテールストック側ダイヤフラム式チャック14は、軸芯を一致させた同軸芯上で、芯金軸5の両端部を把持固定できるように配置されている。
【0024】
この把持状態で、ヘッドストック側ダイヤフラム式チャック13は、ヘッドストック側モータ7によって所定の回転数で回転駆動されるように構成されている。また、テールストック側ダイヤフラム式チャック14も同様に、テールストック側モータ15によって所定の回転数で回転されるように構成されている。ヘッドストック側モータ7とテールストック側モータ15は、互いに同期を取りながら回転駆動するように、制御回路部(不図示)によって制御されているため、芯金軸5の軸回りにネジレの力が作用することはない。そして、ゴムロール3を回転させた状態で、ゴムロール3のゴム部4の全長よりも幅が広い砥石6を高速回転させて、この砥石6をゴムロール3の外周面のゴム部4に押圧して研削加工を行う。
【0025】
本実施形態における研削装置1では、ゴムロール3をセットする機構として、ダイヤフラム式チャック13および14が、芯金軸5の両端のどちらにおいても、芯金軸5の外周面を軸方向に対して、それぞれ同じ掴み量ずつ把持固定している。そして、把持固定している各ダイヤフラム式チャック13および14の内径が芯金軸5の両端部で同じであることから、芯金軸5が保持されたセット状態での剛性を高めている。
【0026】
バックアップ装置16は、研削加工時に発生するゴムロールの押し撓みを抑制する。図1に示すように、バックアップ装置16は、ゴムロール3を挟んで砥石6と対向する側に、ゴムロール3の長手方向と直交させる方向に配置させている。砥石6がゴムロール3を研削加工する際にゴムロールにかかる力に対向させて、バックアップ装置によってゴムロールに押圧力をかける。つまり、バックアップ装置を、砥石と対向する側から弾性層4に押し当てる。これにより、ゴムロール3をバックアップする機構となっている。
【0027】
実際に弾性層4に当接するのは、バックアップ部17である。バックアップ部17としては、ロール形状の部材を用いることができる。バックアップ部17は、後に図2を用いて詳述するように、ゴムロール3(弾性層部)よりも外径が大きいロール形状の部材(ロール)を1個のみ配置させ、ゴムロール3の上下方向1点でバックアップさせる機構が用いられる。それ以外にも、バックアップ部17には、ゴムロール3(弾性層部)よりも外径が小さいロール2個をゴムロール3の周方向に異なる位置に配置させて、ゴムロール3を上下方向2点でバックアップさせる機構を用いることも可能である。そのどちらの機構においても、バックアップ部17(弾性層4に当接する部分)の幅は特に制限はないが、ゴムロール3の押圧される部位に応力を集中させることを抑制する観点から、弾性層4の長さの1/3から1/2程度が好ましい。
【0028】
バックアップ装置16のバックアップ部17は、回転可能な状態となってアダプタ18に取り付けられる。回転駆動されているゴムロール3にバックアップ部17を押し当てると、ゴムロール3の回転駆動の力が接触摩擦によって伝達され、バックアップ部17が従動回転させられる機構となっている。
【0029】
バックアップ部17の材質としては、金属、樹脂およびゴム等が適宜用いられ、特に制限ははい。アダプタ18はシリンダーロッド19の先端に取り付けられた状態で、前進後退させられる。なお、前進はゴムロールに近づく方向に移動すること、後退はゴムロールから離れる方向に移動することを意味する。図1では、シリンダーロッド19はガイド付のツインロッドタイプとしているが、所定の押圧力を発生させることが可能であれば、シングルロッドタイプでも特に制限はない。シリンダー本体20に圧送エアを供給させて、空圧でシリンダーロッド19を前進後退させられる機構となっている。
【0030】
本実施形態のバックアップ装置16では、空圧式のシリンダーを用いてゴムロールを押圧させる機構を説明している。しかし、押圧機構は特に限定されることはなく、油圧式のシリンダーを用いても良い。また、ボールネジにサーボモータを接続させて、回転駆動力による電動ロボシリンダーを用いることも可能である。
【0031】
なお、土台21は、研削装置の各部材を支持するものである。
【0032】
図2は、本実施形態のゴムロールの製造方法において、ゴムロールをバックアップ装置で押圧する状態を説明するための、部分的側面図である。図2に示すように、バックアップ装置では、ゴムロール3の弾性層4よりも外径が大きいロール形状のバックアップ部を配置させて、ゴムロールの上下方向1点でゴムロールをバックアップさせる機構となっている。
【0033】
図2に示すように、砥石6がゴムロール3を研削加工する際に、砥石6の径の中心とゴムロール3の径の中心は、同一の高さの位置関係となるように、研削装置1の砥石6とヘッドストック台8とテールストック台9を配置させている。つまり、砥石6の中心軸と、ゴムロール3の中心軸は同一の水平面内に存在する。
【0034】
一方、砥石6がゴムロール3を研削加工する際は、砥石6が前進する(図2において紙面左方に移動する)力によって、ゴムロール3には砥石6の反対側の方向(図2において紙面左方)に大きい力がかかっている。また、砥石6がゴムロール3に対して上から下に回転(矢印A方向に回転)していることから、砥石6が回転する力によって、ゴムロール3には下方向にも小さい力がかかっていることになる。砥石の研削抵抗によって、ゴムロール3はこの2つの力が合成された方向に、すなわち、ゴムロール3は砥石6の反対側斜め下の方向(矢印B方向)に押された状態となって研削加工されている。この反対側斜め下の角度θは、砥石6の前進速度やゴムロール3の回転数、又はゴムロール3のゴム硬度や研削性能等の影響によって決まる。なお、ゴムロール3の芯金軸5が砥石6の軸に比べ剛性が小さいことから、バックアップ装置(特にはバックアップ部17)を砥石と対向する側から弾性層に押し当てないと、ゴムロールが撓んでしまう。
【0035】
このように、砥石からゴムロールにかかる研削抵抗力に対向する角度に水平から傾斜させた方向から、バックアップ装置16(特にはバックアップ部17)をゴムロール3(特には弾性層4)に押しあてる。これにより、ゴムロール3が砥石6に押し撓まされることをより効率的に抑制することが可能となる。図2に示すバックアップ装置では、砥石6がゴムロール3を研削加工する位置に対して、バックアップ部17がゴムロール3をバックアップして力を受ける中心位置を、対抗する側に向けて水平方向より僅かに仰角に傾斜させている。砥石から受ける押し力と切削抵抗から受ける押し力のベクトル和の方向が最も好ましいθとなるが、どちらの力も切削の経過により随時変化しうる。この場合、各々の力を随時測定、演算させてその情報をバックアップ装置内の角度自動制御手段に取り込み最も好ましいθに自動調整することも可能である。
【0036】
本実施形態のゴムロールの製造方法における工程を以下に説明する。
【0037】
工程a)芯金軸と該芯金軸の外周面に円筒状に設けられた加硫ゴムからなる弾性層とを有するゴムロールを用意しておく。
【0038】
工程b)研削装置のチャック機構で、ゴムロールの芯金軸の両端外周面を把持固定する。次に、芯金軸を把持固定した状態で、ゴムロールを回転駆動させる。工程c、d、eおよびfを行う際にも、芯金軸の把持固定とゴムロールの回転が行われる。
【0039】
工程c)工程dにおける研削加工時に発生する押し撓みを抑制するバックアップ装置を、砥石と対向する側から弾性層に押し当てる。つまり、バックアップ装置のバックアップ部を砥石と対向する側から、ゴムロール(弾性層)の表面に押圧させる。この時、バックアップ部はゴムロールにより従動回転させられる。
【0040】
工程d)弾性層の長さよりも幅の広い砥石を用い、工程fにおける前進速度より速い前進速度で砥石を弾性層に押し当てて弾性層を研削する。このとき、工程cは継続している。つまり、バックアップ部をゴムロールに押圧させたまま、砥石を前進させてゴムロールの外周面のゴム部を研削開始させる。
【0041】
工程e)バックアップ装置を弾性層から離す。つまり、工程f(砥石がゴムロールを研削する最終段階の前進速度の条件である仕上げ研削段階)に入る前に、ゴムロールの外周面のゴム部からバックアップ部を離す。
【0042】
工程f)工程dにおける前進速度より遅い前進速度で砥石を弾性層に押し当てて弾性層を研削する。つまり、バックアップ部の押圧を解除させた後に、砥石が仕上げ研削段階を行う。
【0043】
仕上げ研削段階が終了したら、砥石をゴムロールの外周面のゴム部から離し、研削加工を終了させる。
【0044】
ゴムロールの弾性層の両端から突出している芯金軸の外周面を、チャック機構で把持固定することによって、芯金軸を支持回転させる剛性を高めることができる。芯金軸の両端を把持固定したままゴムロールを回転させた後、バックアップ装置のバックアップ部を、砥石と対向する側からゴムロールの表面に押圧させる。その後、砥石を前進させて研削加工を開始させ、取りしろが最も大きく砥石の研削負荷が大きい研削段階(工程d)の間中、バックアップを行うことで研削効率を大幅に向上させることができる。研削の最終段階で砥石の前進速度を最も遅くする仕上げ研削段階(工程f)に入る前に、バックアップ部をゴムロールから離す。その後、仕上げ研削段階を行うことによって、バックアップ部の押圧によるゴムロールの表面に残った応力の影響を、取りしろが小さい仕上げ研削段階で削り取ることができる。
【0045】
上述のように、本発明では、砥石を前進させる速度を少なくとも2段階(工程dと工程f)に切り替えて、ゴムロール表面の研削加工を行う。速度の切り替えを3段階や4段階、もしくはそれ以上に細かく切り替えを行った場合においても、最終の仕上げ研削段階の前にゴムロールからバックアップ部を離すことで、本発明の効果が得られる。
【0046】
また、上述した動作順は、研削装置とバックアップ装置の間で信号のやりとりをさせ、研削装置のプログラム上で連続的に行わせている。
【0047】
本発明に係るゴムロールの製造方法においては、芯金軸の軸回りに加硫ゴムからなる弾性層が設けられたゴムロールとして、特にニトリルゴム(NBR)、ヒドリンゴム、シリコーンゴム、エチレン‐プロピレン三量体(EPDM)、およびウレタンゴム等からなる弾性層を有する、いわゆるソリッドタイプのゴムロールを研削して製造する際に、上述した効果が顕著に得られる。また、本発明に係るゴムロールの製造方法は、その他、特に表面性が平滑なゴムロールや表面にコーティング処理を行って表面層が設けられた電子写真用のゴムロール(例えば帯電ロールや現像ロールなど)を研削する際に、本発明の効果が顕著に得られる。
【0048】
本発明のゴムロールの製造方法によれば、ゴムロールの仕上げ研削段階に入る前まで、バックアップ装置を砥石と対向する側から弾性層に押圧させることで、ゴムロールが砥石に押し撓まされる影響を抑制して、研削効率を大幅に向上させる効果が得られる。また、バックアップ装置を解除してから仕上げ研削段階を行うことで、研削加工後のゴムロールの表面に微小な形状異常がなく、表面性が全周にわたって均一で優れているゴムロールが得られる。更に、砥石の研削抵抗に対向する方向からバックアップ装置をゴムロールの弾性層に押圧していることで、ゴムロールが砥石に押し撓まされる影響をより効率的に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の具体的な例を挙げて説明するが、本発明はこれによって限定される物ではない。
【0050】
〔研削前のゴムロールの製造方法〕
次に示す材料を配合したゴム材料を、密閉型混練機およびロール機を用いて混練を行って、未加硫のゴム組成物を得た。
・アクリロニトリルブタジエンゴム(日本ゼオン社製。商品名:Nipol1042)100質量部。
・酸化亜鉛(ハクスイテック社製。商品名:酸化亜鉛2種)5質量部。
・ステアリン酸(日本油脂社製。商品名:ステアリン酸)1質量部。
・ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製。商品名:EC600JD)50質量部。
・カーボンブラック(旭カーボン社製。商品名:旭♯15)5質量部。
・硫黄(鶴見化学社製。商品名:サルファックス200S)1質量部。
・加硫促進剤(大内新興化学社製。商品名:ノクセラーDM)1質量部。
・加硫促進剤(大内新興化学社製。商品名:ノクセラーTS)1質量部。
【0051】
上記未加硫のゴム組成物を、押出し機で押出し加工すると同時に、連続的に芯金軸を押出し機のクロスヘッドダイに通過させて、芯金軸上に円筒状に未加硫のゴム組成物を配置させてロール形状にした。その後、これを160℃で60分間熱風炉に投入して加硫を行って、芯金軸上に加硫ゴム層を形成させ、両端部のゴムを除去して芯金軸を突出させて、研削前のゴムロールを得た。
【0052】
〔ゴムロールの形状および研削加工条件〕
・芯金軸:全長250mm、外径φ6.0mm。なお、本明細書においてφは直径を意味する。
・ゴムロール:ゴム面長(弾性層の長手方向長さ)230mm、外径(研削前の弾性層部外径)φ9.0mm、芯金軸突出量左右10mm、ゴムロール仕上げ外径(研削後の弾性層部外径):φ8.5mm。ただし、後述する逆クラウン形状の砥石を用いて研削するため、研削後の弾性層の形状は長手方向中央部外径に対し中央から左右それぞれ90mmの位置の外径がともに0.1mm程度小さい中高のクラウン状となる。
・研削加工条件:
プランジ研削、両側ダイヤフラム式チャック機構による把持固定。
砥石:砥石幅長232mm、外径φ300mm。ただし、長手方向中央部外径に対し中央から左右それぞれ90mmの位置の外径がともに0.1mm大きい中凹の逆クラウン形状。
砥石回転数:2000rpm。
ゴムロール回転数:330rpm。
研削加工時間:8秒。
荒削り工程 砥石前進速度:5m/min、削り代:2mm以下 工程d
仕上げ削り工程 砥石前進速度:0m/min、時間:3〜6sec 工程f
〔実施例1〕
図1に示す構造を有する研削装置を用い、上記研削前のゴムロールを研削してゴムロールを製造した。
【0053】
まず、研削装置のチャック機構で、ゴムロールの芯金軸の両端外周面を把持固定させる。次に、芯金軸を把持固定した状態で、ゴムロールを回転駆動させる。その状態で、バックアップ装置のバックアップ部を、砥石と対向する側からゴムロール(弾性層)の表面に押圧させる。バックアップ部を押圧させたまま、砥石を前進させてゴムロールの外周面のゴム部を研削開始させる。砥石がゴムロールを研削する最終段階の前進速度の条件である仕上げ研削段階に入る前に、ゴムロールの外周面のゴム部からバックアップ部を離す。バックアップ部の押圧を解除させた後に、砥石が仕上げ研削段階を行う。仕上げ研削段階が終了して砥石をゴムロールの外周面のゴム部から離し、研削加工を終了させてゴムロールを得た。
【0054】
ただし、バックアップ部17を弾性層に押し当てる際に、砥石6の中心軸およびゴムロール3の中心軸を含む水平面に、バックアップ部17の中心軸を配置した。
【0055】
この実施例では、工程c〜fを、c、d、e、fの順に行っている。
【0056】
〔実施例2〕
バックアップ装置のバックアップ部をゴムロールの表面に押圧させる中心位置が、砥石がゴムロールを研削加工する位置に対して、対抗する側に向けて水平方向より1°仰角に傾斜していること以外は、実施例1と同じ研削加工でゴムロールを得た。
【0057】
実施例2は、砥石による研削抵抗力に対向する方向からバックアップ装置を弾性層に押し当てる実施例(図2においてθが1°のケース)である。実施例1では、砥石による研削抵抗力に対向する方向からバックアップ装置を弾性層に押し当ててはいない。
【0058】
この実施例でも、工程c〜fを、c、d、e、fの順に行っている。
【0059】
なお、この実施例は、故意に砥石の軸心高さを1°の角度となるような高さまで変位させて行った。
【0060】
〔比較例1〕
バックアップ部をゴムロールの弾性層に押し当てたまま仕上げ研削段階を行い、仕上げ研削段階終了時に、バックアップ部と砥石を同時に弾性層から離し、研削加工を終了させてゴムロールを得た。
【0061】
上記以外は実施例1と同様にしてゴムロールを製造した。
【0062】
この例では、工程c〜fを、c、d、f、eの順に行っている。
【0063】
〔比較例2〕
バックアップ部を弾性層に押し当てる前に、砥石を前進させてゴムロールの外周面のゴム部を研削開始させる。仕上げ研削段階に入る前に、バックアップ部を、砥石と対向する側からゴムロールの表面に押圧させる。バックアップ部を押圧させたまま仕上げ研削段階を行う。仕上げ研削段階終了時に、バックアップ部と砥石を同時にゴムロールの外周面のゴム部から離す。
【0064】
上記以外は実施例1と同様にしてゴムロールを製造した。
【0065】
この例では、工程c〜fを、d、c、f、eの順に行っている。
【0066】
表1に、上記の実施例1〜2と比較例1〜2で得られたゴムロールにおいて、砥石形状との転写率の値、および研削加工後の表面性のムラ判定の結果を示した。ここでの砥石形状との転写率とは、研削加工を行う逆クラウン形状の砥石の逆クラウン量(両端部と中央の外径の差)Aと、研削加工されたクラウン形状のゴムロールのクラウン量(両端と中央の外径の差)Bの比率B/Aを表したものである。この転写率が大きくて1.0に近いほど、研削効率が高いと判断される。表面性のムラ判定では、ゴムローラーの長手方向での表面の光学的ムラを目視で判定している。
【0067】
実施例1では、転写率が0.96と非常に高く、且つ、研削加工されたゴム表面にムラ等の異常は確認されなかった。実施例2では、更に転写率が0.98と向上し、且つ、研削加工されたゴム表面にムラ等の異常は確認されなかった。
【0068】
それに対して、比較例1では、転写率は実施例と同等以上の0.97と非常に高い結果となったが、研削加工されたゴム表面にバックアップの押圧による跡が、ムラとなって確認された。また、比較例2では、転写率は0.70と小さくなり、更に研削加工されたゴム表面にバックアップの押圧による跡が、ムラとなって確認された。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例のゴムロールはすべて電子写真用ゴムロールとして好適であり、特に、転写率最高、且つムラ判定異常無しの実施例2のゴムロールが電子写真用ゴムロールとして好ましい。ムラ判定異常ありの比較例1および2のゴムロールは電子写真用としては不適である。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のゴムロールの製造方法は、芯金軸上に円筒状に設けられた加硫ゴムの弾性層を有するゴムロール、特にソリッドタイプのゴムロールを研削して製造する場合に好適に用いることができる。本発明のゴムロールの製造方法は、特に電子写真用のゴムロールを製造するに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のゴムロールの製造方法において、ゴムロールを研削装置で研削加工する状態を説明するための模式的平面図である。
【図2】本発明のゴムロールの製造方法において、ゴムロールをバックアップ装置で押圧する状態を説明するための模式的部分側面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 研削装置
2 砥石駆動機構
3 ゴムロール
4 ゴム部(弾性層)
5 芯金軸
6 砥石
7 ヘッドストック側モータ
8 ヘッドストック台
9 テールストック台
10 ヌース
11 チャックアダプタ
12 チャック爪
13 ヘッドストック側ダイヤフラム式チャック
14 テールストック側ダイヤフラム式チャック
15 ヘッドストック側モータ
16 バックアップ装置
17 バックアップ部
18 アダプタ
19 シリンダーロッド
20 シリンダー本体
21 土台
22 テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)芯金軸と該芯金軸の外周面に円筒状に設けられた加硫ゴムからなる弾性層とを有するゴムロールを用意する工程、
b)該芯金軸の両端の外周面を、チャック機構によって把持固定しながら該ゴムロールを回転させる工程、
c)工程dにおける研削加工時に発生する押し撓みを抑制するバックアップ装置を、該砥石と対向する側から該弾性層に押し当てる工程、
d)該弾性層の長さよりも幅の広い砥石を用い、工程fにおける前進速度より速い前進速度で該砥石を該弾性層に押し当てて該弾性層を研削する工程、
e)該バックアップ装置を該弾性層から離す工程、および、
f)工程dにおける前進速度より遅い前進速度で該砥石を該弾性層に押し当てて該弾性層を研削する工程
をこの順に有することを特徴とするゴムロールの製造方法。
【請求項2】
該バックアップ装置を該弾性層に押し当てる際に、工程dにおける該砥石による研削抵抗力に対向する方向から該バックアップ装置を該弾性層に押し当てることを特徴とする請求項1記載のゴムロールの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のゴムロールの製造方法によって製造された、電子写真用のゴムロール。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−72877(P2009−72877A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245685(P2007−245685)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】