説明

ゴム支承載荷用治具

【課題】既設柱の免震化を行うに際し、現場での施工時に免震部材に対して荷重を正確に載荷でき、また強度的にも安心感のある耐震改修工事を可能とする。
【解決手段】上面中央にせん断キー用の穴11が設けられたベースプレート10と、その穴11と嵌合するせん断キー21が設けられたピストン20と、下面中央にピストン20を収容するシリンダー穴31が設けられるとともにそのシリンダー穴31の外側に周囲に向かって高くなる傾斜が付いた複数個のテーパー溝32が放射状に設けられた下沓30と、下沓30のテーパー溝32にそれぞれ嵌まる複数個のクサビ40とを備える。下沓30の上にゴム支承1が載った状態でピストン20上部に流体圧をかけ、これが所定圧に達した時に、ベースプレート10上を滑らせるように下沓30のテーパー溝32にクサビ40を打ち込んで固定することにより、ゴム支承1に掛かる荷重をクサビ40で支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震改修の技術分野に属し、詳しくは、ゴム支承を使用して既存建物を免震構造化する際に用いられるゴム支承載荷用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物に施される免震構造は、新築の建物のみならず、既存建物の耐震改修(レトロフィット)に適用されることが多い。これは、免震構造を施すことにより上部構造の地震入力が低減し、建物本体に手を加える必要が少なくなるからである。このような既存建物を免震化する耐震改修工法の一つとして、例えば特許文献1に示されるように、既設の柱に免震部材としてのゴム支承を設置する免震荷重受替え方法が知られている。
【特許文献1】特開平10−246004号公報
【0003】
この文献に記載の方法は、既設建造物の基礎杭の周辺または基礎面の所定位置に複数本の補助杭を打ち込み、該補助杭の上辺に第1のサポートジャッキを取り付けて建造物を支持させ、基礎杭と建造物とを切り離し、前記補助杭を耐圧盤で固定し、該耐圧盤上に第2のサポートジャッキとオイルジャッキとを組み合わせて免震装置を載置し、第2のサポートジャッキとオイルジャッキとを調節して免震装置を建造物に密接せしめオイルジャッキを除去して第2のサポートジャッキを耐圧盤に固着させるようにしたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した免震荷重受替え方法は、多くのジャッキを使用するため、これらを取り扱う現場での作業が煩雑なものになる。また、免震装置であるゴム支承のベースプレートに引抜き防止用のスタッドボルトが配置されていて、しかも載荷後に荷重を載せ替えるサポートジャッキが必要なため、オイルジャッキ除去のための空間を設けることが難しいという問題点がある。さらに、ゴム支承の中央部分にオイルジャッキを複数個配置し、外周部分にサポートジャッキを配置して荷重を支持するようになっているため、オイルジャッキの除去後、内部鋼板及び下部円板がゴム板のバネ力で押されてゴム支承の中央が膨らむ傾向がある。このため、ゴム支承内部の応力分布が均等にならないため、施工後において強度的に不安が残ることになる。
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、既設柱の免震化を行うに際し、現場での取扱いが容易であり、免震部材としてのゴム支承に荷重を均等に載荷でき、また強度的にも安心感のある耐震改修工事を可能としたゴム支承載荷用治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のゴム支承載荷用治具は、上面中央にせん断キー用の穴が設けられたベースプレートと、その穴と嵌合して水平力を拘束するせん断キーが設けられたピストンと、下面中央にピストンを収容するシリンダー穴が設けられるとともにそのシリンダー穴の外側に周囲に向かって高くなる傾斜が付いた複数個のテーパー溝が放射状に設けられた下沓と、下沓のテーパー溝にそれぞれ嵌まる複数個のクサビとを備え、下沓の上にゴム支承が載った状態でピストン上部に流体圧をかけ、これが所定圧に達した時に、ベースプレート上を滑らせるように下沓のテーパー溝にクサビを打ち込んで固定することにより、ゴム支承に掛かる荷重をクサビで支持するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のゴム支承載荷用治具は、ゴム支承の下に用いた際に、ピストン上部に掛かる流体圧が所定の圧力に達した時にテーパー溝にクサビを打ち込んで固定することにより、ゴム支承に掛かる荷重をクサビで支持するようになっているため、現場での圧力管理を正確に行うことができる。また、ジャッキを組み込んだ形になっているためコンパクトであり、ゴム支承に掛かる荷重をクサビで支持するので、ゴム支承の内部鋼板や下部円板に均等に力が掛かることになり、強度的にも安心感のある耐震改修工事を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は本発明に係るゴム支承載荷用治具の一例を設置状態で示す縦方向の断面図、図2は図1のA−B断面図、図3は図1のC方向での一部断面図である。なお、図1〜3ではゴム支承載荷用治具の周りにあるモルタルの部分を一点鎖線で表している。
【0010】
耐震改修工事では、既設の柱を上下に切断し、分離した柱間に免震装置としてのゴム支承を設置するが、本発明のゴム支承載荷用治具は、図1に示すように、ゴム支承1を支持する状態で切断した柱の下部側に設置される。
【0011】
ゴム支承載荷用治具は、図1及び図2に示すように、上面中央にせん断キー用の穴11が設けられた正方形のベースプレート10と、その穴11と嵌合して水平力を拘束するせん断キー21が設けられた円板状のピストン20と、下面中央にピストン20を収容するシリンダー穴31が設けられるとともにそのシリンダー穴31の外側に周囲に向かって高くなる傾斜が付いた6個のテーパー溝32が放射状に設けられた円板状の下沓30と、下沓30のテーパー溝32にそれぞれ嵌まる6個のクサビ40とを備えている。なお、ベースプレート10としては通常は正方形のものが用いられるが、丸型のものを用いても構わない。
【0012】
下沓30のシリンダー穴31には内周に沿って溝33が設けられ、その溝33の中にはOリングとそのはみ出しを防止するバックアップリングが収められており、ピストン20との間でシーリングするようになっている。また、ピストン20は、図4に取り出して示すように、直角方向の4箇所で途切れたリング状の突起部分22を上面に有しており、この突起部分22がシリンダー穴31の底に当接した状態でシリンダー内に空間が形成されるようになっている。そして、下沓30にはその空間に通じる注入孔34と空気抜き孔35とが形成されている。これらの構成によって、下沓30のシリンダー穴31とそれに嵌合するピストン20はジャッキ部を形成している。
【0013】
ベースプレート10の一辺と下沓30の直径は同じサイズである。また、図3に一部を拡大して示すように、下沓30にはその外周を段付きとしてフランジ部分36を設けてある。そして、このフランジ部分36には、ベースプレート10と固定するためのボルト孔を複数設けてあり、ジャッキ部での上向きの力はこれらのボルト孔を通るボルトで支えるようになっている。また、注入孔34と空気抜き孔35はフランジ部分36の横の垂直面から設けてある。
【0014】
上記の構成からなるゴム支承載荷用治具を使用した耐震改修工法の施工手順を説明すると次のようである。
【0015】
まず、ジャッキを用いて建物の上部構造の荷重を支持した後、柱を切断して所定長さ分を撤去することで柱を上部側と下部側に分離する。そして、下部側に対し、ゴム支承載荷用治具を設置する高さh1 までモルタル2を先に打つ。
【0016】
次に、ゴム支承載荷用治具を現地に搬入する。すなわち、ベースプレート10上にピストン20を挟んだ状態で下沓30を組み込み、下沓30をフランジ部分36のボルト孔を通るボルトでベースプレート10に固定した状態で現地に搬入する。そして、そのゴム支承載荷用治具を、先に柱の下部側に打ったモルタル2の上に水平に設置し、該治具のベースプレート10を柱の下部側にモルタルで固定する。この設置時に、下沓30のテーパー溝32にクサビ40を遊嵌状態で挿入しておく。
【0017】
次いで、設置したゴム支承載荷用治具の上にゴム支承1を載せ、ボルトを用いて下沓30と固定する。このゴム支承1には上側にアンカーフレーム1aを取り付けておき、このアンカーフレーム1aを柱の上部側にモルタル3で固定する。
【0018】
続いて、下沓30のフランジ部分36のボルトを緩めてから、ピストン20の上部に油圧又は水圧をかけて所定の圧力まで上げる。この場合、下沓30に設けた注入孔34から油又は水を送り込み、空気抜き孔35から空気を追い出すようにする。ピストン20の上部に掛ける圧力は250〜700kg/cm2 程度である。
【0019】
所定圧に達したら、圧力が減らない程度にクサビ40を打ち込む。すなわち、下沓30の上にゴム支承1が載った状態でピストン20の上部に流体圧をかけ、これが所定圧に達した時に、ベースプレート10の上を滑らせるようにして下沓30のテーパー溝32にクサビ40を打ち込んで固定し、ゴム支承1に掛かる荷重を支持する。クサビ40の固定は溶接で行う(図1において41が溶接部分を示している。)。
【0020】
次いで、下沓30のフランジ部分36のボルトを締めることにより、下沓30をベースプレート10に固定する。この時、図3に示すように、下沓30はベースプレート10に対し、ゴム支承1の撓み分の隙間を生じている。
【0021】
このように、ゴム支承1に掛かる荷重をクサビ40で支持した後、シリンダー孔31内の油又は水を抜き去り、代わりにグラウトを注入して固める。そして、下沓30とベースプレート10の間の隙間にもグラウト又はモルタルを注入し、さらに下沓30が埋まる高さh2 までモルタルを入れる。このように、ゴム支承載荷用治具の周りをモルタルで固めた後、上部構造を支えるジャッキからそれに掛かっている荷重を解放し、そのジャッキを撤去してゴム支承1の設置が完了する。
【0022】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明によるゴム支承載荷用治具は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは当然のことである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るゴム支承載荷用治具の一例を設置状態で示す縦方向の断面図である。
【図2】図1のA−B断面図である。
【図3】図1のC方向での一部断面図である。
【図4】ピストンの平面図とそのX−X断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ゴム支承
1a アンカーフレーム
2,3 モルタル
10 ベースプレート
11 穴
20 ピストン
21 せん断キー
22 突起部分
30 下沓
31 シリンダー穴
32 テーパー溝
33 溝
34 注入孔
35 空気抜き孔
36 フランジ部分
40 クサビ
41 溶接部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面中央にせん断キー用の穴が設けられたベースプレートと、その穴と嵌合して水平力を拘束するせん断キーが設けられたピストンと、下面中央にピストンを収容するシリンダー穴が設けられるとともにそのシリンダー穴の外側に周囲に向かって高くなる傾斜が付いた複数個のテーパー溝が放射状に設けられた下沓と、下沓のテーパー溝にそれぞれ嵌まる複数個のクサビとを備え、下沓の上にゴム支承が載った状態でピストン上部に流体圧をかけ、これが所定圧に達した時に、ベースプレート上を滑らせるように下沓のテーパー溝にクサビを打ち込んで固定することにより、ゴム支承に掛かる荷重をクサビで支持するようになっていることを特徴とするゴム支承載荷用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−257741(P2006−257741A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76594(P2005−76594)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(591037694)川口金属工業株式会社 (36)
【Fターム(参考)】