説明

ゴム物品補強用スチールコードおよびタイヤ

【課題】撚ることなく引き揃えた複数本の素線によるコアの周りに、複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置したスチールコードにおいて、コアの素線がシースの素線間からはみ出す撚り乱れの発生を抑制するための新規な構造を与える。
【解決手段】型付けを施した複数本の素線を撚らずに引き揃えたコアの周りに、型付けを施した複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置し、該コアを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率αと、該シースを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率βとの比α/βを0.10以上1.90以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム物品補強用スチールコード、特に撚り乱れのないスチールコードおよびこのスチールコードを適用したタイヤに関するものである。このスチールコードは、タイヤや、ホースまたはコンベアベルト等のゴム物品の補強に供する。
【背景技術】
【0002】
ゴム物品の補強に供するスチールコードとしては、様々な種類があるが、ゴム物品の典型例であるタイヤには、複数本の素線からなるコアの周りに複数本の素線を巻き付けたシースを有する、いわゆる層撚り構造のスチールコードが多用されている。
【0003】
近年、コード自体のコスト削減と、引張り剛性向上等によるタイヤ性能の向上とを所期して、コアを構成する2〜3本の素線を撚らずに真っ直ぐに並べ、このコアの周りに型付けを施した数本の素線を巻き付けたシースを有するコードが開発されている(特許文献1参照)。かようなコードにおいて、シースを構成する素線の本数は、多すぎるとシース素線間の隙間が小さくなり、シースからコアへのゴムの侵入が低下して、タイヤにおける耐カットセパレーション性が阻害されるため、3〜6本が適当とされている。
【特許文献1】特開平9−156314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、図1(a)および(b)に上記の構造を有するコードについて、2本の素線からなるコア1の周りに4本の素線からなるシース2を配置した事例における軸方向に離間した2箇所の断面を示すように、当該コードはシース2の素線相互に大きな間隙Sを介して撚り上げられる結果、シース2の素線がコア1の周上で均等に分散配置されることなく、片寄った配置のままシース2の素線群が一団となって巻き付く形態となるのが特徴である。つまりコアは、コード軸方向においてシースの素線間の大間隙Sを介して常に露出している事を特徴とする構造である。従って、シースの素線間の大間隙Sを介してコアの素線間に確実にゴムを導くことができ、ゴムの侵入性に優れたコード構造が得られる。
【0005】
しかしながら、上記コードの特徴であるシースの素線間に大間隙があることは、図2に示すように、コードを製造する際にシース2の大間隙からコア1の素線10がはみ出しやすく、この現象は、一般的なチューブラー撚線機を用いて製造する場合に顕著に発生する。
【0006】
かくしてシースの素線間からコアの素線がはみ出すコード撚り乱れを発生したコードを用いると、タイヤ工場のカレンダー工程でゴムシートと合体される際に打込み乱れの発生を余儀なくされ、結果としてタイヤの耐久性を低下させてしまうことが問題となる。
【0007】
そこで、本発明は、撚ることなく引き揃えた複数本の素線によるコアの周りに、複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置したスチールコードにおいて、コアの素線がシースの素線間からはみ出す撚り乱れの発生を抑制するための新規な構造を与えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
さて、チューブラー撚線機にて上記構造のコードを製造するには、図3に示すように、コアとなる例えば2本の素線10を真っ直ぐに巻き出し、次いでコア素線10の周りに、プレホーム装置3にて型付けしたシースとなる例えば4本の素線20を配置してコア素線10とともにボイス4に導いて、このボイス4にてコア素線10の周りにシース素線20を巻き付けたのち、矯正ロール5にて撚り性状を調整して製品となる。
【0009】
以上の製造プロセスにおいて、矯正ロール5の入り側の撚り合わせ直後のコードでは、シース素線20間の隙間からコア素線10が大きくはみ出す場合が多いが、このはみ出しは矯正ロール5での矯正を経て最終的にはコア素線10がはみ出さない撚り性状に調整されるのが通例である。
【0010】
しかしながら、工業規模での量産下にあっては、矯正ロールが故障したり、素線表面の矯正ロールに対する滑り方にばらつきがあったりすることにより、必ずしもコードが充分に矯正ロールで矯正されない場合があり、矯正ロールを経てもなお撚り乱れの発生を抑制することが困難であった。
【0011】
かような事情を鑑みると、矯正ロールの入り側において、コードの撚り乱れを抑制する事が肝要であり、そのための手段を鋭意究明したところ、コアを構成する素線にも適度な型付けを施すことによって、コアの素線とシースの素線とのコード軸方向における長さバランスを取ることが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)型付けを施した複数本の素線を撚らずに引き揃えたコアの周りに、型付けを施した複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置したスチールコードであって、該コアを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率αと、該シースを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率βとの比α/βが0.10以上1.90以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【0013】
(2)コアは2本以上3本以下の素線からなり、かつシースは3本以上6本以下の素線からなることを特徴とする上記(1)に記載のゴム物品補強用スチールコード。
【0014】
(3)1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを有し、このカーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルトをそなえるタイヤであって、該ベルトに上記(1)または(2)に記載のスチールコードを適用して成るタイヤ。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、撚ることなく引き揃えた複数本の素線によるコアの周りに、複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置した結果、シースの素線がコアの周上で均等に分散した配置とならずに一箇所に片寄ってしまう撚り構造のコードにおいて、シースの素線間の間隙からコアの素線がはみ出す撚り乱れを確実に抑制できる構造を与えることができる。従って、本発明のコードをタイヤに適用した際、タイヤ内でコードが均一に打込まれる結果、耐久性に優れたタイヤの提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のスチールコードは、先に図1に例示したコードと同様に、撚ることなく引き揃えた複数本の素線によるコアの周りに、複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置した撚り構造を基本とするものであり、かような基本構造を有するコードにおいて、従来はシースの素線に行っていた型付けをさらにコアの素線にも施し、かつシースおよびコアの型付けを所定の範囲に調整するところに特徴がある。
【0017】
すなわち、型付けの指標として、型付け前後における素線軸長の縮み率を用いる。すなわち、縮み率とは、図4に示すように、軸長Lの素線に型付けを施して、その軸長がlまで減少したときに、次式
(縮み率)=1−l/L
で表すことができる。
【0018】
そして、無撚りコアの素線に型付けを施さないか、或いは施しても上記した縮み率についてのコア素線の縮み率αとシース素線の縮み率βとの比α/βが0.10未満では、シース素線とコア素線とのコード軸方向長さ対比でコア素線の長さが長くなり、シース素線間からコア素線がはみ出て撚り乱れが発生してしまう。
【0019】
なぜなら、撚り線機から出てくる素線の長さは同じであるが、コアはくせ付けされず、つまりくせ付けが小さい一方、シースのくせ付けは大きい。この長さの異なるコアと、シースとが同じ長さのコードになっている為、コードに外力が加わると長いコアがシース素線から容易にはみ出してしまうのである。
【0020】
一方、比α/βが1.90を超えと、コアの素線がシースの素線より大きく縮んでいてコア素線への型付け振幅が過剰になっているため、その後矯正ロールでいくら矯正加工しても、コード径を所望の範囲内に維持することができなくなる。このコード径の拡大は、このコードをタイヤのベルト補強に適用した場合、隣り合うコードが接触する事態を招いて耐ベルトエッジセパレーションの低下を引き起こす懸念があり好ましくない。
【0021】
従って、比α/βが0.10以上1.90以下の範囲となるように、コア素線およびシース素線の縮み率を制御すれば、コア素線およびシース素線のコード軸方向長さのバランスが適正化される結果、矯正ロールの入り側においてコア素線がシース素線間からはみ出す撚り乱れの発生は回避される。
【0022】
ここで、シース素線に加えてコア素線にも型付けを施すには、図5(a)に示す従来工程において、図5(b)に示すように、シース素線20を導いていたプレホーム装置3に、新たにコア素線10を導くことで簡便に達成できる。
【0023】
さて、以上のスチールコードは、その複数本を所定の間隔を置いて互いに並行に配列してゴムシートに埋設してなるプライを、タイヤのベルトに適用してカーカスの補強に供するもので、タイヤの構造としては、在来のタイヤに則るものでよい。例えば、図6に示すタイヤ構造が有利に適合する。なお、同図において、符号30がビードコア、31がこのビードコア30にタイヤの内側から外側に巻き回したカーカス、32がこのカーカス31上に配置する少なくとも2層構造のベルトおよび33はカーカス31のクラウン部に配置するトレッドである。
【実施例】
【0024】
図1に示したコードと同様に、撚ることなく引き揃えた複数本の素線によるコアの周りに、複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置した撚り構造を基本として、表1に示す種々の仕様を有するスチールコードを作製した。なお、表1における型付量および型付ピッチは、図7(a)および(b)に示すとおりである。
【0025】
かくして得られた種々のスチールコードについて、(真直)矯正ロール5前のコアのはみ出しと、矯正ロール5後のコードの撚り乱れとを調査した。
すなわち、矯正ロール5前のコアのはみ出しは、コードを直径10cmのループにした際のコアのはみ出し有無を調査した。また、矯正ロール後コードの撚り乱れは、図8に示すように、コードで直径15cmのループを作り、コードの交点を押さえつつ、コードをしごきながらループを直径3cmにした際、コードを構成する素線にすき間があるかないかを調査した。
【0026】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のコードの基本構造を示す図である。
【図2】コードの撚り乱れを示す図である。
【図3】コードの製造工程を示す図である。
【図4】コード素線の縮み率を説明する図である。
【図5】コード素線の型付け方法を示す図である。
【図6】本発明のコードを適用するのに好適のタイヤ構造を示す断面図である。
【図7】型付量および型付ピッチを示す図である。
【図8】コードの撚り乱れの調査手順を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 コア
2 シース
3 プレホーム装置
4 ボイス
5 矯正ロール
10 コア素線
20 シース素線
30 ビードコア
31 カーカス
32 ベルト
33 トレッド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
型付けを施した複数本の素線を撚らずに引き揃えたコアの周りに、型付けを施した複数本の素線を巻き付けてなるシースを配置したスチールコードであって、該コアを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率αと、該シースを構成する素線の型付け前後における軸長の縮み率βとの比α/βが0.10以上1.90以下であることを特徴とするゴム物品補強用スチールコード。
【請求項2】
コアは2本以上3本以下の素線からなり、かつシースは3本以上6本以下の素線からなることを特徴とする請求項1に記載のゴム物品補強用スチールコード。
【請求項3】
1対のビード部間でトロイド状に延びるカーカスを有し、このカーカスのタイヤ径方向外側に、少なくとも1層のベルトをそなえるタイヤであって、該ベルトに請求項1または2に記載のスチールコードを適用して成るタイヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−169692(P2006−169692A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366074(P2004−366074)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】