説明

ゴム組成物、高減衰積層体用ゴム組成物およびタイヤ用ゴム組成物

【課題】減衰性が高く、剛性にも優れる高減衰積層体を実現することができ、また、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるタイヤを実現することができる、ゴム組成物の提供。
【解決手段】2種以上のゴムからなる架橋可能なゴム成分を含有するゴム組成物であって、
前記ゴムの各々は、他のゴムの少なくとも1種と非相溶であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、ポリプロピレンを0.1〜5質量部含有するゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物ならびにそれを用いた高減衰積層体用ゴム組成物および高減衰積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、振動エネルギーの吸収装置として、防振装置、除振装置、免震装置等が急速に普及しつつある。そして、このような装置においては、振動エネルギー減衰性能を有するゴム組成物が使用されている。
例えば、橋梁の支承やビルの免震装置に用いられる免震用積層ゴムには、減衰性(振動をより多くの熱に変換して振動エネルギーを減衰させる)が高いことや、小さい地震の際には容易に変形しない所望のせん断弾性率(剛性)が発現することが要求されている。
このような免震用積層ゴムに用いられるゴム組成物として、本出願人は、特許文献1において「ジエン系ゴム100質量部と、カーボンブラック40〜75質量部と、シリカ5〜35質量部と、無機充填剤5〜55質量部と、石油樹脂5〜50質量部とを含有する高減衰積層体用ゴム組成物。」を提案している。
【0003】
一方、タイヤ用ゴム組成物として、補強性および耐摩耗性の観点から、カーボンブラックおよびシリカを含有させることが知られている(例えば、特許文献2および3参照。)。
また、シリカの分散性を考慮して、更に、シランカップリング剤を含有させることが知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−143849号公報
【特許文献2】特開昭61−218404号公報
【特許文献3】特開平5−51485号公報
【特許文献4】特開平7−48476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者は、上記特許文献1に記載の高減衰積層体用ゴム組成物について、更なる減衰性の向上を達成すべくカーボンブラックやシリカ等の配合量を検討したところ、減衰性を向上させることができても、モジュラスが低くなるため剛性が低下する場合があることを明らかとした。
また、本発明者は、上記特許文献4に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物について検討したところ、シランカップリング剤の添加により、タイヤの転がり抵抗が低下するものの、タイヤの硬度が低下する場合があることを明らかとした。
【0006】
そこで、本発明は、減衰性が高く、剛性にも優れる高減衰積層体を実現することができ、また、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるタイヤを実現することができる、ゴム組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、互いに非相溶のゴムを含有するゴム成分に対して、ポリプロピレンを特定少量配合したゴム組成物を用いることにより、減衰性が高く、剛性にも優れる高減衰積層体や、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるタイヤが得られることを知見し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の(1)〜(12)を提供する。
【0008】
(1)2種以上のゴムからなる架橋可能なゴム成分を含有するゴム組成物であって、
上記ゴムの各々は、他のゴムの少なくとも1種と非相溶であり、
上記ゴム成分100質量部に対して、ポリプロピレンを0.1〜5質量部含有するゴム組成物。
【0009】
(2)上記ゴム成分が、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムと、ブタジエンゴムまたはスチレン−ブタジエン共重合体ゴムとを含有する上記(1)に記載のゴム組成物。
【0010】
(3)上記ゴム成分が、上記天然ゴムおよび/または上記イソプレンゴムを70〜30質量%含有し、上記ブタジエンゴムまたは上記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを30〜70質量%含有する上記(2)に記載のゴム組成物。
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゴム組成物からなる高減衰積層体用ゴム組成物。
【0012】
(5)上記ゴム成分100質量部に対して、更に、シラノール基を有する無機充填剤を10〜60質量部含有する上記(4)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0013】
(6)上記ゴム成分100質量部に対して、更に、石油樹脂を5〜50質量部含有する上記(4)または(5)に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0014】
(7)上記ゴム成分100質量部に対して、更に、カーボンブラックを40〜75質量部含有する上記(4)〜(6)のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【0015】
(8)上記(4)〜(7)のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。
【0016】
(9)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物。
【0017】
(10)上記ゴム成分100質量部に対して、更に、シリカを1〜100質量部含有する上記(9)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0018】
(11)上記シリカ100質量部に対して、更に、シランカップリング剤を0.1〜10質量部含有する上記(10)に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【0019】
(12)上記(9)〜(11)のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物から構成されるトレッド部を有するタイヤ。
【発明の効果】
【0020】
以下に説明するように、本発明によれば、減衰性が高く、剛性にも優れる高減衰積層体を実現することができ、また、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるタイヤを実現することができる、ゴム組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の高減衰積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図である。
【図2】図2は、本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの断面概略図である。
【図3】オートグラフ引張試験時の応力−歪み曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明について詳細に説明する。
〔ゴム組成物〕
本発明のゴム組成物は、2種以上のゴムからなる架橋可能なゴム成分を含有するゴム組成物であって、上記ゴムの各々は他のゴムの少なくとも1種と非相溶であり、上記ゴム成分100質量部に対してポリプロピレンを0.1〜5質量部含有するゴム組成物である。
次に、本発明のゴム組成物に含有する架橋可能なゴム成分およびポリプロピレンならびに所望により含有することができる他の添加剤等について詳述する。
【0023】
<架橋可能なゴム成分>
本発明のゴム組成物に含有するゴム成分は、硫黄化合物や過酸化物による架橋が可能なゴム成分であれば特に限定されず、その具体例としては、ジエン系ゴム、二重結合を有する熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0024】
上記ジエン系ゴムとしては、具体的には、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ビニル−シスブタジエンゴム(VCR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(Br−IIR、Cl−IIR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
また、上記二重結合を有する熱可塑性エラストマーとしては、具体的には、例えば、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、その水素化(水添)物(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソブチレン−スチレンブロック共重合体(SIBS)等が挙げられる。
【0025】
本発明においては、このような架橋可能なゴム成分として、2種以上のゴムを用い、かつ、各々のゴムが他のゴムの少なくとも1種と非相溶となるものを用いる。
例えば、2種のゴムAおよびゴムBを用いる場合は、ゴムAおよびゴムBが互いに非相溶となるものを選択して用い、3種のゴムA、ゴムBおよびゴムCを用いる場合は、各々のゴム(例えば、ゴムA)が他のゴム(例えば、ゴムBおよびゴムC)のいずれか一方または両方と非相溶となるように選択して用いる。
【0026】
このように非相溶となる2種のゴムの組み合わせとしては、具体的には、例えば、天然ゴムまたはイソプレンゴム(以下、本段落において「天然ゴム等」という。)とブタジエンゴムとの組み合わせ、天然ゴム等とスチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの組み合わせ、天然ゴム等とブチルゴムまたはハロゲン化ブチルゴム(以下、本段落において「ブチルゴム等」という)との組み合わせ、ブタジエンゴムとブチルゴム等との組み合わせ、天然ゴム等とエチレン−プロピレン−ジエンゴムとの組み合わせ、ブタジエンゴムとエチレン−プロピレン−ジエンゴムとの組み合わせ、天然ゴム等とクロロプレンゴムとの組み合わせ等が挙げられる。
これらのうち、後述するポリプロピレンのSP値(溶解度パラメータ)が2つのゴムの中間にあり、ポリプロピレンが2つのゴムの界面に配置されやすい理由から、天然ゴム等とブタジエンゴムとの組み合わせ、天然ゴム等とスチレン−ブタジエン共重合体ゴムとの組み合わせが好ましい。
本発明においては、架橋可能なゴム成分として2種のゴムを用いる場合、後述するポリプロピレンの添加による応力の向上効果が高くなる理由から、各々のゴムの含有量は、ゴム成分の総質量に対していずれも30〜70質量%であるのが好ましく、40〜60質量%であるのがより好ましく、45〜55質量%であるのが更に好ましい。
【0027】
一方、このように非相溶となる3種のゴムの組み合わせとしては、具体的には、例えば、天然ゴム、イソプレンゴムおよびブタジエンゴムの組み合わせ;天然ゴム、イソプレンゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムの組み合わせ;天然ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムおよびハロゲン化ブチルゴム等が挙げられる。
これらのうち、後述するポリプロピレンのSP値(溶解度パラメータ)が2つのゴムの中間にあり、ポリプロピレンが2つのゴムの界面に配置されやすい理由から、天然ゴム、イソプレンゴムおよびスチレン−ブタジエン共重合体ゴムの組み合わせが好ましい。
本発明においては、架橋可能なゴム成分として3種のゴムを用いる場合、後述するポリプロピレンの添加による応力の向上効果が高くなる理由から、各々のゴムの含有量は、ゴム成分の総質量に対していずれも20〜40質量%であるのが好ましく、25〜35質量%であるのがより好ましい。
【0028】
<ポリプロピレン>
本発明のゴム組成物に含有するポリプロピレンは特に限定されず、シンジオタクチック構造を有するポリプロピレンでも、アイソタクチック構造を有するポリプロピレンでもよい。
上記ポリプロピレンとしては、加硫後の弾性率や硬度が高くなり、力学的強度が向上する理由から、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)が好適に例示される。
【0029】
本発明においては、上記ポリプロピレンの含有量は、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜5質量部であり、1〜4質量部であるのが好ましく、2〜3質量部であるのがより好ましい。
上記ポリプロピレンの含有量がこの範囲であると、本発明のゴム組成物を用いることにより、減衰性が高く、剛性にも優れる高減衰積層体や、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるタイヤを実現することができる。
これは、他のゴムと非相溶(例えば、海島構造)に存在するゴムの1種(例えば、島状のゴム)の周囲、すなわち、これらのゴムの界面にポリプロピレンが偏在することにより、少量のポリプロピレンであってもネットワークを形成することができ、その結果、他の物性に悪影響を及ぼすことなくゴムの応力を向上させることができるためと考えられる。
【0030】
<その他の添加剤>
本発明のゴム組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、その他の添加剤を含有することができる。
上記添加剤としては、例えば、加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、可塑剤、軟化剤、加硫助剤、難燃剤、耐候剤、耐熱剤等が挙げられる。
加硫剤としては、具体的には、例えば、硫黄;TMTDなどの有機含硫黄化合物;ジクミルペルオキシドなどの有機過酸化物;等が挙げられる。
加硫促進剤としては、具体的には、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)などのスルフェンアミド類;メルカプトベンゾチアゾールなどのチアゾール類;テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラム類;ステアリン酸;等が挙げられる。
老化防止剤としては、具体的には、例えば、TMDQなどのケトン・アミン縮合物;DNPDなどのアミン類;スチレン化フェノールなどのモノフェノール類;等が挙げられる。
可塑剤としては、具体的には、例えば、フタル酸誘導体(例えば、DBP、DOP等)、セバシン酸誘導体(例えば、DBS等)のモノエステル類等が挙げられる。
軟化剤としては、具体的には、例えば、パラフィン系オイル(プロセスオイル)等が挙げられる。
【0031】
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分を配合した未加硫ゴム組成物を、公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)を用いて、混練等により調製できる。
【0032】
〔高減衰積層体用ゴム組成物〕
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、上述した本発明のゴム組成物からなる高減衰積層体用のゴム組成物である。
次に、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物に含有する成分について詳述するが、架橋可能なゴム成分およびポリプロピレンについては上述した本発明のゴム組成物において説明した通りであるため省略する。
【0033】
<シラノール基を有する無機充填剤>
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、減衰性をより高くする観点から、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、シラノール基を有する無機充填剤を10〜60質量部含有するのが好ましく、15〜50質量部含有するのがより好ましく、20〜40質量部含有するのが更に好ましい。
ここで、シラノール基を有する無機充填剤は、表面の少なくとも一部にシラノール基(Si−OH)を有する無機充填剤であれば特に限定されない。
シラノール基を有する無機充填剤としては、例えば、シリカ、クレー、タルク等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
シリカとしては、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、シリカは、平均凝集粒径が、5〜50μmのものが好ましく、5〜30μmのものがより好ましい。
【0035】
クレーとしては、具体的には、例えば、T−クレー、カオリンクレー、ろう石クレー、セリサイトクレー、焼成クレー、シラン改質クレー等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<石油樹脂>
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性を良好とし、また、本発明の積層体の減衰性をより高くする観点から、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、石油樹脂を5〜50質量部含有するのが好ましく、10〜45質量部含有するのがより好ましい。
石油樹脂としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体等を使用することができる。
【0037】
C5系の脂肪族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC5留分中に含まれる、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテンのようなオレフィン系炭化水素;2−メチル−1,3−ブタジエン、1,2−ペンタジエン、1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエンのようなジオレフィン系炭化水素;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C5系の脂肪族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC5系の脂肪族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0038】
C9系の芳香族不飽和炭化水素としては、具体的には、例えば、ナフサの熱分解により得られるC9留分中に含まれる、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエンのようなビニル置換芳香族炭化水素等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらは、適当な触媒の存在下で、重合または共重合されることが可能である。ここで、C9系の芳香族不飽和炭化水素の重合体とは、一種のC9系の芳香族不飽和炭化水素の単独重合体と、二種以上のC9系の芳香族不飽和炭化水素の共重合体のいずれをもいう。
【0039】
また、C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、該共重合体の軟化点が高くなる点で、C9系の芳香族不飽和炭化水素ユニットが60モル%以上であるものが好ましく、90モル%以上であるものがより好ましい。
C5系の脂肪族不飽和炭化水素とC9系の芳香族不飽和炭化水素との共重合体は、適当な触媒の存在下で、共重合可能である。
【0040】
上記石油樹脂は、上述した架橋可能なゴム成分(特に、ジエン系ゴム)の物性に対し、その分子量および二重結合の反応性が影響を与えるので、軟化点(JIS K2207)が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。
【0041】
<カーボンブラック>
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、加硫後の引張強さや切断時伸び等の物性を良好とし、本発明の積層体の減衰性をより高く、剛性をより良好とする観点から、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを40〜75質量部含有するのが好ましく、50〜75質量部含有するのがより好ましい。
【0042】
本発明においては、CTAB吸着比表面積が100m2/g以上のカーボンブラックを用いるのが好ましく、110〜370m2/gのカーボンブラックを用いるのがより好ましい。
CTAB吸着比表面積が100m2/g以上の範囲であると、得られる本発明の積層体の減衰性をより高く維持することができる。
ここで、CTAB吸着比表面積は、カーボンブラックがゴム分子との吸着に利用できる表面積を、CTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)の吸着により測定した値である。
このようなカーボンブラックとしては、例えば、SAF、ISAF、HAFを挙げることができる。なお、CATB吸着比表面積は、ASTM D3765−80に記載の方法により測定することができる。
【0043】
<無機充填剤>
本発明の高減衰積層体用ゴム組成物は、本発明の積層体の減衰性をより高く、剛性をより良好とする観点から、上述したシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤を含有するのが好ましい。
このような無機充填剤としては、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、石英とカオリナイトとの凝集体、けいそう土等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
本発明においては、これらの無機充填剤のうち、減衰性、および、長期せん断変形に対する安定性を特に高く保つことができるという理由から、石英とカオリナイトとの凝集体であるのが好ましい。
【0045】
本発明においては、所望により無機充填剤を含有する場合の含有量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、5〜55質量部であるのが好ましく、10〜50質量部であるのがより好ましく、15〜40質量部であるのが更に好ましい。
【0046】
また、本発明においては、シラノール基を有する無機充填剤とシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤との合計量は、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、20〜75質量部であるのが好ましく、30〜65質量部がより好ましい。合計量がこのような範囲である場合、減衰性がより高くなり、長期の繰り返しせん断変形に対する減衰性および剛性がより安定なものとなり、バランスの優れた高減衰積層体用ゴム組成物が得られる。
【0047】
そして、シラノール基を有する無機充填剤とシラノール基を有する無機充填剤以外の無機充填剤との質量比は、1/1〜1/2.5であるのが好ましく、1/1〜1/2.0であるのがより好ましい。質量比がこの範囲の場合、良好な加工性が得られる。
【0048】
〔高減衰積層体〕
本発明の積層体は、上述した本発明の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体であり、橋梁の支承やビルの基礎免震等に用いられる構造体である。
【0049】
図1に、本発明の積層体の実施態様の一例を表す高減衰積層体の断面概略図を示す。図1において、符号1は高減衰積層体(免震積層体)を表し、符号2は硬質板を表し、符号3は本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を表す。
【0050】
図1に一例として示すように、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2(例えば、一般構造用鋼板、冷間圧延鋼板等)とが交互に積層されて構成される。
また、この高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との間に接着層を設けて構成してもよく、また、接着層を設けずに直接加硫して構成してもよい。
【0051】
図1においては、本発明の高減衰積層体1は、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と、硬質板2とを交互に積層させた状態が図示されているが、高減衰積層体用ゴム組成物3は2層以上を積層させた構造としてもよい。
また、図1においては、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3について6層、硬質板2について7層の合計13層の例を示してあるが、本発明の高減衰積層体1の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3と硬質板2との積層数はこれに限定されず、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
更に、本発明の高減衰構造体1の大きさ、全体の厚さ、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物3の層の厚さ、硬質板の厚さ等についても、用いられる用途、要求される特性等に応じて、任意に設定できる。
【0052】
本発明の積層体を製造するには、本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形した後に加硫して、シート状のゴム組成物を得た後、接着剤を含む層を設けて硬質板と交互に積層させてもよいし、また、あらかじめ未加硫の本発明の高減衰積層体用ゴム組成物をシート状に成形し、硬質板と交互に積層した後、加熱して加硫・接着を同時に行ってもよい。
【0053】
本発明の積層体は、上述した本発明の高減衰積層体用ゴム組成物を用いているため、減衰性が高く、剛性にも優れるという効果を有する。
また、本発明の積層体は、振動エネルギーの吸収装置として用いられればその用途、適用条件等は、特に限定されない。中でも、上述の優れた特性を有するため、建築用の振動エネルギーの吸収装置として用いられるのが好ましく、例えば、各種の免震、除振、防振等の振動エネルギーの吸収装置(より具体的には、例えば、道路橋の支承や、橋梁、ビルの基礎免震、戸建免震用途)に好適に用いられる。
【0054】
〔タイヤ用ゴム組成物〕
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述した本発明のゴム組成物からなるタイヤ用、特にトレッド用のゴム組成物である。
次に、本発明のタイヤ用ゴム組成物に含有する成分について詳述するが、架橋可能なゴム成分およびポリプロピレンについては上述した本発明のゴム組成物において説明した通りであるため省略する。
【0055】
<シリカ>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、補強性および耐摩耗性を高くする観点から、上述した架橋可能なゴム成分100質量部に対して、シリカを10〜100質量部含有するのが好ましく、20〜100質量部含有するのがより好ましい。
シリカとしては、具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、シラノール基の数が多く、後述するシランカップリング剤と反応性が高い理由から、沈降シリカ、コロイダルシリカが好ましい。
また、シリカは、平均凝集粒径が、5〜50μmのものが好ましく、5〜30μmのものがより好ましい。
【0056】
<シランカップリング剤>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述したシリカを分散させ、加硫後の引張強さ、切断時伸び等の物性を向上させる観点から、上述したシリカ100質量部に対して、シランカップリング剤を0.1〜10質量部含有するのが好ましく、1〜10質量部含有するのがより好ましい。
上記シランカップリング剤としては、具体的には、例えば、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、ビス−[3−(トリメトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]ジスルフィド、メルカプトプロピル−トリメトキシシラン、メルカプトプロピル−トリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
〔タイヤ〕
本発明のタイヤは、上述した本発明のタイヤ用ゴム組成物から構成されるトレッド部を有するタイヤである。
図2に、本発明のタイヤの実施態様の一例を表すタイヤの断面概略図を示すが、本発明のタイヤは図2に示す態様に限定されるものではない。
【0058】
図2において、符号10はタイヤを表し、符号11は本発明のタイヤ用ゴム組成物から構成されるトレッド部を表し、符号12はサイドウォール部を表し、符号13はビード部を表す。
また、図2においては、左右一対のビード部13間にはカーカス層14が装架されており、このカーカス層14の端部はビードコア15の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。
更に、図2においては、ビード部13において、ビードコア15の外周側にはビードフィラー16が配置され、これらビードコア15およびビードフィラー16を包み込むようにカーカス層14に沿って補強層17が配置されている。
一方、図2においては、トレッド部11におけるカーカス層14の外周側には、複数層のベルト層18が埋設されており、トレッド部11には、タイヤ周方向に延びる複数本の主溝19が形成されている。これら主溝19はタイヤ周方向に沿って直線状であってもよく、ジグザグ状であってもよい。
【0059】
本発明のタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物に用いられたゴム成分、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫し、タイヤのトレッド部を形成することにより製造することができる。
また、本発明のタイヤは、上述した本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いているため、転がり抵抗が低く、硬度にも優れるという効果を有する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例に従ってより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0061】
(実施例1〜12、比較例1〜8)
まず、下記第1表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0062】
<減衰性>
得られた未加硫ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製し、10mm幅、2mm厚の短冊状の試験片を作製した。
作製した試験片をオートグラフ引張試験機によってクロスヘッドスピード500mm/分で5回150%伸張させた際の、5回目のヒステリシスロス[%]を算出した。ヒステリシスロスは、図3に示す応力−歪み曲線図におけるABCDAに相当する面積とABCEAに相当する面積との比(ABCDA/ABCEA)に100を乗じることによって算出した。ヒステリシスロスからエネルギーの減衰性を評価した。結果を第1表に示す。
【0063】
<引張物性>
得られた未加硫ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で45分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。このシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜き、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251-2004に準拠して行い、切断時伸び(EB)[%]および100%モジュラス(M100)[MPa]を室温にて測定した。結果を第1表に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・天然ゴム:STR20、SIAM INDO RUBBER社製
・ブタジエンゴム:Nipol BR1220、日本ゼオン社製
・スチレン−ブタジエン共重合体ゴム:Nipol 1502、日本ゼオン社製
・カーボンブラック1:ダイヤブラックI、三菱化学社製
・カーボンブラック2:ショウブラックN339、キャボットジャパン社製
・クレー:SUPREX CLAY、ケンタッキーテネシークレイカンパニー社製
・石油樹脂:ハイレジン#120S(軟化点120℃、東邦化学社製)
・酸化亜鉛:亜鉛華3号、正同化学工業社製
・ステアリン酸:ビーズステアリン酸、日油社製
・ポリプロピレン:E−333GV、プライムポリマー社製
・ポリエチレン:YF−30、日本ポリエチレン社製
・硫黄:粉末イオウ、細井化学工業社製
・加硫促進剤1:ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製
【0067】
第1表から明らかなように、比較例1で調製したゴム組成物に対してポリプロピレンを特定少量よりも少なく配合して調製したゴム組成物(比較例2)は、比較例1と同様の減衰性を有するものの応力の向上効果は見られなかった。
また、ポリプロピレンを特定少量よりも多く配合して調製したゴム組成物(比較例3)は、比較例1よりも応力が向上するが、減衰性が若干低下し、切断時伸びも低くなり、高減衰積層体用途には使用できないことが分かった。
また、ポリプロピレンに代えてポリエチレンを特定少量配合して調製したゴム組成物(比較例4)は、比較例1と同様の減衰性を有するものの応力の向上効果は見られず、切断時伸びが却って低くなることが分かった。
これに対し、ポリプロピレンを特定少量配合して調製したゴム組成物(実施例1〜7)は、いずれも比較例1と同等程度の優れた減衰性と切断時伸びを保持し、応力が向上することが分かった。
同様に、ポリプロピレンを特定少量配合して調製したゴム組成物(実施例8〜12)は、それぞれ同様のゴム成分を用いた比較例5〜8と同等程度の優れた減衰性と切断時伸びを保持し、応力が向上することが分かった。
【0068】
(実施例13および14、比較例9および10)
まず、下記第2表に示す組成(単位は質量部)になるように、各化合物を配合してB型バンバリーミキサーにて5分間混練し、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0069】
<JIS硬度>
得られた未加硫ゴム組成物を160℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で25分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。このシートからJIS3号ダンベル状の試験片を打ち抜いた。
この試験片について、JIS K6253−1997に準じて、各組成物の加硫ゴムのJIS−A硬度を23℃で測定した。
【0070】
<転がり抵抗>
転がり抵抗の指標として、粘弾性のエネルギーロスを表す損失係数tanδを測定した。
具体的には、JIS硬度と同様の方法で作製した加硫シートから短冊状(長さ20mm×幅5mm×厚み2mm)の試験片を切り抜いた。
この試験片について、粘弾性スペクトロメータ(東洋精機製作所製)を用いてtanδを測定した。なお、測定は、50℃の測定温度下で、10%伸張させ、振幅±2%の振動を振動数10Hzで与えて行った。
【0071】
【表3】

【0072】
第2表中の各成分は、以下のもの以外は、第1表中の各成分と同様である。
・シリカ:ニップシールVN3、東ソー・シリカ社製
・オイル:エキストラクト 4号S、昭和シェル石油社製
・加硫促進剤2:ソクシノール D−G、住友化学社製
【0073】
第2表から明らかなように、比較例9と比較例10との対比から、シランカップリング剤を添加することにより、転がり抵抗は低下するもののJIS硬度が低下することが分かる。
これに対し、シランカップリング剤のみならず、ポリプロピレンを特定量配合して調製したゴム組成物(実施例13および14)は、いずれも比較例9と同等以上の優れた硬度を有し、かつ、比較例1よりも転がり抵抗が低下することが分かった。
【符号の説明】
【0074】
1 高減衰積層体(免震積層体)
2 硬質板
3 本発明の高減衰積層体用ゴム組成物
10 タイヤ
11 トレッド部
12 サイドウォール部
13 ビード部
14 カーカス層
15 ビードコア
16 ビードフィラー
17 補強層
18 ベルト層
19 主溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のゴムからなる架橋可能なゴム成分を含有するゴム組成物であって、
前記ゴムの各々は、他のゴムの少なくとも1種と非相溶であり、
前記ゴム成分100質量部に対して、ポリプロピレンを0.1〜5質量部含有するゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム成分が、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムと、ブタジエンゴムまたはスチレン−ブタジエン共重合体ゴムとを含有する請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ゴム成分が、前記天然ゴムおよび/または前記イソプレンゴムを70〜30質量%含有し、前記ブタジエンゴムまたは前記スチレン−ブタジエン共重合体ゴムを30〜70質量%含有する請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物からなる高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、シラノール基を有する無機充填剤を10〜60質量部含有する請求項4に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、石油樹脂を5〜50質量部含有する請求項4または5に記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項7】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、カーボンブラックを40〜75質量部含有する請求項4〜6のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかに記載の高減衰積層体用ゴム組成物と硬質板とを交互に積層して得られる高減衰積層体。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物からなるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
前記ゴム成分100質量部に対して、更に、シリカを1〜100質量部含有する請求項9に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項11】
前記シリカ100質量部に対して、更に、シランカップリング剤を0.1〜10質量部含有する請求項10に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物から構成されるトレッド部を有するタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−168740(P2011−168740A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35900(P2010−35900)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】