説明

ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】破断強度を維持しながら高硬度のゴムが得られるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】少なくとも、ジエン系ゴムと、下記式1で表されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂と、硫黄とを配合してなることを特徴とするゴム組成物と、該ゴム組成物をビードフィラーに使用した空気入りタイヤ。操縦安定性および耐久性を高めることができる。


(式1中、Rは炭化水素基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、破断強度を維持しながら高硬度のゴムが得られるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム組成物に高強度を付与する場合は、ゴム組成物に樹脂を配合することが試みられている。しかし、ゴム組成物に樹脂を配合すると、ゴム成分との相溶性や非架橋性が問題となり、破断強度が低下するという問題点があった。この現象は、例えばゴム組成物を空気入りタイヤ、とくにビードフィラーに使用する際、耐久性の確保の点から改善しなければならない問題点である。
なお、下記特許文献1〜2はジチオカルバモイル基で変性された樹脂を開示しているが、該樹脂をゴム成分と配合すること、さらに該樹脂をタイヤ用ゴム組成物に利用することについては、開示も示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2006/93050号パンフレット
【特許文献2】特開2008−214394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、破断強度を維持しながら高硬度のゴムが得られるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、ジエン系ゴムにジチオカルバモイル基で変性された樹脂および硫黄を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.少なくとも、ジエン系ゴムと、下記式1で表されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂と、硫黄とを配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【0006】
【化1】

【0007】
(式1中、Rは炭化水素基を表す。)
【0008】
2.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記ジチオカルバモイル基で変性された樹脂を0.3〜10質量部配合してなることを特徴とする前記1に記載のゴム組成物。
3.前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記硫黄を2〜8質量部配合してなることを特徴とする前記1または2に記載のゴム組成物。
4.前記ジチオカルバモイル基で変性された樹脂が、下記式2で表されるポリ(4−ジエチルジチオカルバモイルメチル−スチレン)であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【0009】
【化2】

【0010】
(式2中、nは繰り返し単位数を表す。)
【0011】
5.前記ゴム組成物の加硫ゴムの23℃における硬度が70〜95であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
6.前記1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
7.前記1〜5のいずれかに記載のゴム組成物をビードフィラーに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジエン系ゴムにジチオカルバモイル基で変性された樹脂および硫黄を配合することにより、破断強度を維持しながら高硬度のゴムが得られるゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。本発明のゴム組成物を、例えば空気入りタイヤのとくにビードフィラーに使用することにより、操縦安定性および耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0015】
図1は、乗用車用の空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間に繊維コードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。また、トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。
以下に説明する本発明のゴム組成物は、上記のようなタイヤ用の各種部材に有用であり、とくにビードフィラー6に有用である。
【0016】
ビードフィラー6は、ビードコア5および上記カーカス層4の巻き上げ部の動きやセパレーションを抑制するために高剛性とする必要がある。またタイヤ軽量化、操縦安定性向上等の要求からも高い破断特性を有することが望ましい。
【0017】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴム成分は、ゴム組成物に配合することができる任意のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ジエン系ゴム成分はその分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル基等で末端変性されていてもよい。
これらのジエン系ゴムの中でも、本発明の効果の点からNR、SBRが好ましい。
【0018】
(ジチオカルバモイル基で変性された樹脂)
本発明で使用されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂(以下、単に樹脂ということがある)は、下記式1で表されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂である。
【0019】
【化3】

(式1中、Rは炭化水素基を表す。)
【0020】
式1におけるRは炭化水素基を表し、基中に不飽和結合や芳香環を有していてもよい。また、本発明の効果の点から、Rは、好ましくは炭素数1〜30、さらに好ましくは炭素数4〜15のアルキル基がよい。また、上記ジチオカルバモイル基で変性する場所は、樹脂の主鎖末端でも側鎖でも構わない。
【0021】
本発明で使用される樹脂の骨格はとくに制限されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアミドイミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリウレタン等が挙げられる。本発明で使用される樹脂は、公知の技術により製造することができ、例えば特許文献1に開示された製造方法に従って合成することができる。
【0022】
中でも本発明で好ましく使用される樹脂は、下記式2で表されるポリ(4−ジエチルジチオカルバモイルメチル−スチレン)である。
【0023】
【化4】

【0024】
(式2中、nは繰り返し単位数を表す。)
【0025】
本発明で使用される樹脂の質量平均分子量(GPC法)は、本発明の効果の点から、5,000〜350,000が好ましく、10,000〜30,000がさらに好ましい。
【0026】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、タイヤの適用部位により適宜選択すればよいが、例えばカーボンブラック、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。中でもカーボンブラック、シリカが好ましい。
充填剤は、例えばジエン系ゴム100質量部に対し、例えば20〜100質量部、好ましくは30〜80質量部配合することができる。
【0027】
(その他の樹脂)
本発明のゴム組成物は、その他の樹脂を併用してもよい。例えば、ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。
ノボラック型フェノール樹脂を配合することにより、高い硬度が得られるという効果が奏される。
ノボラック型フェノール樹脂は、ロジン油、トール油、カシュー油、リノール酸、オレイン酸、リノレイン酸等のオイルで変性されていてもよい。硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメチルメチロールメラミン、ペンタメチルメチロールメラミン等が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の配合割合は、ジエン系ゴム100質量部に対し5〜30質量部、好ましくは15〜25質量部である。硬化剤の配合割合は、ノボラック型フェノール樹脂に対し3〜20質量%が好ましい。
【0028】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、前記ジチオカルバモイル基で変性された樹脂を0.3〜10質量部配合することが好ましい。該樹脂が0.3質量部未満では、ゴム組成物の硬度および破断強度が低下する恐れがある。10質量部を超えると、破断強度が低下する傾向にある。
また本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、硫黄を2〜8質量部配合してなることが好ましい。硫黄が2質量部未満であると、ゴム成分と樹脂との架橋性が低下する。なお硫黄の配合割合は多いほうが架橋性の向上につながるが、8質量部を超えると耐老化性が悪化するため好ましくない。なお、本発明でいう硫黄には、加硫促進剤や樹脂に含まれる硫黄分は含まれないものとする。
【0029】
本発明のゴム組成物において、ジチオカルバモイル基で変性された樹脂のさらに好ましい上記配合割合は、2〜8質量部である。
硫黄のさらに好ましい上記配合割合は、5〜8質量部である。
【0030】
本発明のゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0031】
本発明のゴム組成物の用途としては、ベルトコンベアー、ホース、タイヤ等が挙げられるが、とくにタイヤ用途が好ましい。タイヤに使用される部材の中でも、アンダートレッド、キャップトレッド、ベルト層、サイドウォール、リムクッション、ビードフィラーに有用であり、とくにビードフィラーに有用である。本発明のゴム組成物をビードフィラーに使用することにより、操縦安定性を高めることができ、さらに耐久性も向上できる。
【0032】
また本発明のゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【0033】
本発明のゴム組成物の加硫ゴムの23℃における硬度は、上記用途を考慮すると、例えば70〜95が好ましく、85〜95がさらに好ましい。
なお本発明でいう硬度とは、JIS K6253に準拠して23℃で測定された値を意味する。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0035】
従来例、実施例1〜9および比較例1〜4
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.5リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、ミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物を同バンバリーミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で180℃で10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で物性を測定した。
【0036】
硬度:JIS K6253に準拠して23℃で測定した。
【0037】
破断強度:上記のようにして作成した厚さ2mmのシート状の試験片から3号ダンベル状のサンプル片を打ち抜き、JIS K6251に準拠して引張応力を測定した。
結果を表1に併せて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
*1:NR(RSS#3)
*2:SBR(日本ゼオン(株)製、商品名Nipol 1502)
*3:CB(カーボンブラック(東海カーボン(株)製、シーストKH)
*4:ZnO(正同化学工業(株)製、酸化亜鉛3種)
*5:ステアリン酸(日油(株)製、ビーズステアリン酸NY)
*6:アロマオイル(昭和シェル(株)製、エキストラクト4号S)
*7:硫黄(鶴見化学工業(株)製、金華印微粉硫黄150メッシュ)
*8:NS(大内新興化学工業(株)製、加硫促進剤ノクセラーNS−P)
*9:未変性樹脂(Nonokawa Daigo, DIC Technical Review, 2004, No. 10, 19に準拠し合成した、上記式2と同じ骨格を有するが末端が変性されていない樹脂)
*10:フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、カシュー油変性ノボラック型フェノール樹脂、商品名スミライトレジンPR−YR−170)
*11:硬化剤(三新化学工業(株)製、ヘキサメチレンテトラミン、商品名サンセラーHT−PO)
*12:変性樹脂(上記式2で表される、ポリ(4−ジエチルジチオカルバモイルメチル−スチレン、質量平均分子量(GPC法)=約23,000、日産化学工業(株)製HPS−200)
【0040】
上記の表から明らかなように、実施例1〜9で調製されたゴム組成物は、ジエン系ゴムに上記式1で表されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂と、硫黄とを配合してなるので、代表的な従来例に対し、硬度および破断強度が改善されている。
これに対し、比較例1は、本発明における樹脂を配合せず、未変性樹脂を配合しているので、破断強度が悪化した。比較例2〜4は本発明における樹脂を配合していないので、破断強度が悪化した。
【符号の説明】
【0041】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ジエン系ゴムと、下記式1で表されるジチオカルバモイル基で変性された樹脂と、硫黄とを配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【化1】

(式1中、Rは炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記ジチオカルバモイル基で変性された樹脂を0.3〜10質量部配合してなることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記硫黄を2〜8質量部配合してなることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ジチオカルバモイル基で変性された樹脂が、下記式2で表されるポリ(4−ジエチルジチオカルバモイルメチル−スチレン)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物。
【化2】

(式2中、nは繰り返し単位数を表す。)
【請求項5】
前記ゴム組成物の加硫ゴムの23℃における硬度が70〜95であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を使用した空気入りタイヤ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物をビードフィラーに使用した空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−52092(P2011−52092A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201346(P2009−201346)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】