ゴム組成物の混合方法及び混合装置
【課題】ゴム組成物の混合において、粘度、モジュラス等の物性及び品質の安定したゴム組成物が得られ、性能の安定したゴム製品を提供できるゴム組成物の混合方法及び混合装置の提供。
【解決手段】密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、カーボン取り込み工程で、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量Sが、設定された目標積算電力量S1に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、均一分散工程で、前記電力の積算量Sが、設定された目標積算電力量S4に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整する。
【解決手段】密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、カーボン取り込み工程で、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量Sが、設定された目標積算電力量S1に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、均一分散工程で、前記電力の積算量Sが、設定された目標積算電力量S4に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の混合方法及び混合装置に関し、更に詳しくは、製品の粘度、モジュラス等の物性及び品質を安定化させることができるゴム組成物の混合方法及び混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
NBR系等のゴム組成物における粘度やモジュラス等の物性及び品質の安定性は、ゴム製品の性能の安定性に関わる重要な問題であり、この製品の特性及び品質はゴム組成物の混合状態によって大きく左右されることが知られている。
【0003】
これらのゴム組成物の混合は、一般的にはバンバリーミキサー等のバッチ方式の密閉式混合機を用いて行われており、これらの密閉式混合機における混合品質の安定化に関する検討は数多くなされている。そして、所定の時間で混合を終了する方法や、温度が所定の温度を超えた時に混合を終了する方法や、回転数を変化させる制御を行う方法や、ラム圧力を変化させる制御を行う方法等の、各種の混合方法が提案されている。
【0004】
また、混練機(混合機)のロータにかかる負荷を電流値又は電力値で検出し、この電流値又は電力値が所定設定値に達した場合に素練り工程を終了し、その後、直ちに、混練機にカーボンブラック(以降、単にカーボンという)等の添加物を投入して、素練り後の原料ゴムと添加物を混練するベース練り工程を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、このゴム組成物の混合方法の一つに、図6に示すように、ゴム素練り、カーボン取り込み、均一分散等の各工程を設け、ゴムと油を投入してゴム素練りをした後、カーボンを投入してカーボン取り込みを行い、ラム反転をしてから均一分散して混合し、この混合で粘度が落ち着いてきたら混合を終了し、できた生成物を放出する方法がある。
【0006】
この混合方法においては、従来技術では、図6に示すように、パターン制御を採用し、回転数Rとラム圧力Pを操作し、各工程(過程)で、それぞれの回転数Rとラム圧力Pを一定にし、時間と温度Tを制御している。また、温度Tを基準にした制御をしており、予め設定したそれぞれの所定の温度になった時に油投入やカーボン投入を行っている。
【0007】
しかしながら、この従来技術の混合方法においては、未だ、生成物の特性及び品質の安定化に関して十分に満足できる状態には至っていないという間題がある。
【0008】
一方、本発明者らは、数多くの混合実験を行い、この各工程における混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量(積算電力量)と、生成物の特性及び品質を代表する値としての100%モジュラス(M100)や粘度(Vm)との相関関係を実験的に求めた。
【0009】
100%モジュラスと積算電力量との関係を図9、図10、図11に示す。図9はカーボン取り込み工程における両者の関係を、図10は均一分散工程における両者の関係を、図11は全体工程を通じての両者の関係を示す。これらから、100%モジュラスに関しては、カーボン取り込み工程における相関が大きく、積算電力量の影響が大きいことが分かった。なお、図中のR2 は相関係数Rを二乗した重相関係数である。
【0010】
また、粘度(Vm)と積算電力量との関係を図12、図13、図14に示す。図12はカーボン取り込み工程における関係で、図13は均一分散工程における関係で、図14は全体工程を通じての関係である。これらから、粘度(Vm)に関しては、均一分散工程における相関が大きく、積算電力量の影響が大きいことが分かった。
【0011】
すなわち、各混合過程で混合状態が、それぞれ異なる特性に寄与することを知見し、全混合過程の積算電力量を制御するのでは不十分であり、各混合過程、各々の積算電力量(ステップ積算電力量)を制御、管理する必要があるという考えに至った。
【0012】
更に、ゴム組成物の混合工程において、積算電力量以外のパラメータに関しても、原料ゴムの素練り、原料ゴムとカーボンの混合、カーボンの均一分散の工程毎に、発現する物性や品質への影響の大きさが異なることを見出した。特に、原料ゴムとカーボンの混合(カーボン取り込み)工程では、原料ゴムに適した混練温度範囲で混練度を高める必要があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−144321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ゴム組成物の混合において、粘度、モジュラス等の物性及び品質の安定したゴム組成物が得られ、性能の安定したゴム製品を提供できるゴム組成物の混合方法及び混合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明のゴム組成物の混合方法は、密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、
前記カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、
前記均一分散工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整することを特徴とするゴム組成物の混合方法である。
【0016】
そして、本発明のゴム組成物の混合装置は、上記のゴム組成物の混合方法を用いるゴムの組成物の混合装置として構成される。
【0017】
すなわち、本発明のゴム組成物の混合装置は、混合過程を複数のステップに分け、カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップにおいて、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量と、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量との比較演算を行い、前記積算量が目標積算電力量に到達した時に次のステップに移行する制御機能を有する。
【0018】
更に、均一分散工程の少なくとも1つのステップにおいて、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量の増加速度から予測される、このステップにおける混合時間の予測値と、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間から定まる目標混合時間との偏差を演算し、その偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整する制御機能を有する。
【0019】
そして、これらの制御機能は、全てのステップに適用可能であり、またさらに、制御機能を適用するか否かを、適宜設定できる機構を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のゴム組成物の混合方法及び混合装置によれば、粘度、モジュラス等の物性及び品質の安定したゴム組成物が得られ、性能の安定したゴム製品を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法における制御及び諸量の変化を 模式的に示す図である。
【図4】実施例における温度等を示す図である。
【図5】実施例における瞬時電力/回転数等を示す図である。
【図6】従来技術のゴム組成物の混合方法における制御及び諸量の変化を模式的に示 す図である。
【図7】従来例における温度等を示す図である。
【図8】従来例における瞬時電力/回転数等を示す図である。
【図9】カーボン取り込み工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関 係を示す図である。
【図10】均一分散工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関係を示 す図である。
【図11】全体工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関係を示す図 である。
【図12】カーボン取り込み工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を 示す図である。
【図13】均一分散工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を示す図で ある。
【図14】全体工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を示す図である 。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法及び混合装置について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
この実施の形態の混合装置は、混合用ロータを備えたバンバリーミキサー等を使用した混合機と、混合用ロータの回転数、混合用ロータの回転駆動用のモータの電流値、電流値の時間変化量、電力量、電力量の積算値である積算電力量、混合機内の温度、ラム圧力等を計測及び算出するセンサや演算手段と、この混合用ロータの回転数やラム圧力等を制御する制御手段を備えた制御装置を有して構成される。
【0024】
図1に示すように、この混合機1は、混練室3とラム室4とを備えており、この混練室3には一対の混合用ロータ2、2と油投入部5が設けられている。また、ラム室4は、混練室3と連通し、上下動により混練室3内の圧力(ラム圧力)を調整制御するラム8と、原料ゴムを投入するゴム投入部6とカーボンをホッパー7から投入するカーボン投入部9とが設けられている。
【0025】
また、混合用ロータ2にかかる負荷を電流値及び電力値として検出する検出器が設けられ、その検出値は制御装置の演算手段に入力され、この演算手段により、電流値の時間変化量(時間微分値)、積算電力量等が算出されるように構成される。
【0026】
そして、制御装置は制御用コンピュータと制御盤(シーケンサー)で構成され、制御用コンピュータでは、配合仕様、混合仕様、配合実績、混合実績、設備実績等が記憶され、プリセット・コンピュータ(PC)によりデータ入力、更新等を行うことができる。また、制御盤(シーケンサー)では、時々刻々(リアルタイムに)、時刻(総混合時間、ステップ混合時間)、ドロップドアに取り付けられたゴム温度センサーで検出した温度、瞬時電力、総積算電力量、ステップ積算電力量、回転数、ラム圧力、ラム位置がモニターされ、プログラムされた演算条件が成立すると制御信号を出力する。また、モニターされたデータは設定/出力用コンピュータを介して、これらの現在値や時系列が表示され、ミキサー混合状態がリアルタイムでモニタリングでき、混合条件出しや異常監視を素早く行うことができる。更に、制御盤(シーケンサー)では、バルク計量、油計量、自動配合計量、ゴム計量、投入コンベア、ホッパー等のモニター及び制御(計量、開閉、投入等の動作制御)も行うことができるように構成される。
【0027】
そして、この混合装置における混合方法は、図2に示すように、ゴム組成物を複数のステップ、即ち、ゴム・油を投入してゴム素練りを行うゴム素練り工程と、カーボンを投入してカーボン取り込みを行うカーボン取り込み工程と、ラム反転して均一分散を行う均一分散工程で混合を行い、その後、生成したゴム組成物を放出する方法として構成される。
【0028】
このゴム素練り工程では、冷却性能を良くするために、冷却を行って、バッチ処理毎のゴム組成物の特性及び品質の変動を低減する。カーボン取り込み工程では、初期では取り込みを早くし、後期では発熱を抑制して練りを向上するために、低温混合し、これによりバウンドラバーを形成し、モジュラスの向上を図る。また、均一分散工程では、発熱を抑制し練りを向上させるために、混合用ロータ2の電力値が一定になるように制御して粘度の安定化を図る。また、均一分散工程の後半では温度・トルク制御を行う。
【0029】
一般に、ゴムにカーボン等の補強剤等を配合して混合すると、補強剤等がゴム中に十分に取り込まれ、ゴムと補強剤等とが結合した状態のゴム組成物が得られる。この状態においては、補強剤等は、その表面活性のために、ゴムと化学的にまたは物理的に結合して、溶剤に対して膨潤するが完全には溶解しない結合体を形成している。この結合体をバウンドラバーまたはカーボンゲルという。
【0030】
そして、更に、この混合方法では、混合のステップ中においても、回転数とラム圧力を可変にし、各混合工程(混合過程)で温度制御を行い、発熱を抑制する。また、ステップ毎の積算電力量による終了判断の導入を行い、所定の積算電力量に到達した時に次のステップに移行する。特に、NBR系ゴム組成物の混合では、カーボンの取り込み工程の混合初期(70℃以下の初期混合段階および70℃〜120℃のバウンドラバー形成領域)の積算電力量による制御を行い、モジュラスの向上及び安定を図る。また、均一分散工程では電力混合を行い、所定の積算電力量に到達した時に生成したゴム組成物の放出を行うようにして、粘度の安定化を図る。また、より好ましくは、特に、夏冬等の季節による外気温の影響を受ける場合には、時間、温度、電力量、ステップ電力量と電力(電流)を監視し、ラム圧力と混練度、回転数と混合時間等をフィードバック制御する混合方法が有効である。
【0031】
この混合方法を、混合パターンの実例(カーボン高充填配合NBRゴム組成物の例)を挙げて、より具体的に説明する。混合過程をゴム素練り工程、カーボン取り込み工程、均一分散工程で構成し、各工程を前半と後半のステップで構成する。
【0032】
<ゴム素練り工程>
そして、ゴム素練り工程においては、ラム8を上昇させて、原料ゴムGをコンベア13で移送してゴム投入部6から投入した後、ラム8を下ろして、油を油投入部5から投入しながら混合用ロータ2を回転してゴムと油の混合物を混練りする。
【0033】
このゴム素練り工程は、図3に示すように、前半の第1ステップと後半の第2ステップとからなり、第1ステップにおいては、混合用ロータ2の回転数Rを一定(例えば、20rpm)に、また、ラム圧力Pも一定(例えば、0.5MPa)にし、第2ステップでは、ラム圧力Pを前半と同じ値に維持したまま、混合用ロータ2の回転数Rを低くする(例えば、15rpm)にする。
【0034】
なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第1ステップの初期には大きくなるがその後は低い値のままとなる。また、混合機1の混練室3の温度Tは冷却により低下する。この素練り工程の第1ステップは、この温度Tが予め設定した所定の第1温度T1以下になると、または、一定時間経過すると、終了し、第2ステップはこの温度Tが予め設定した所定の第2温度T2以下になると、または、一定時間経過すると、終了するように制御される。
【0035】
<カーボン取り込み工程>
このゴム素練り工程が終了すると、次のカーボン取り込み工程に移行し、カーボンをホッパー7からカーボン投入部9経由で混練室3に供給して混合する。
【0036】
このカーボン取り込み工程は、図3に示すように、前半の第3ステップと後半の第4ステップとからなり、第3ステップでは混合用ロータ2の回転数Rを低下して一定(例えば、15rpm)にし、ラム圧力Pも低下させて一定(例えば、0.3MPa)にする。つまり、ここでは、ゴム素練り工程で混合したゴムの上に載ったカーボンを、大きくかき混ぜて、徐々に、カーボンで表面を覆われた小さなゴムの固まりを形成させる。この過程の後半では、表面のカーボンが徐々にゴムの中に取り込まれていく。
【0037】
また、第4ステップでは混合用ロータ2の回転数Rを徐々に上昇して高い回転数(例えば、25rpm)に固定する。また、ラム圧力Pも徐々に上昇して元の圧力(例えば、0.5MPa)に固定する。ここでは、表面のカーボンがゴムの中に取り込まれるに従い、小さなゴムの固まりが、徐々に大きくなり、最後にはひとかたまりになる。その過程で、ゴムとカーボンの結合(バウンドラバー)が形成され、ロータにかかるトルクも上昇する。この過程を、より効果的に行うため、回転数を高め、ラム圧力を上げる。なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第3ステップでは大きくなるが、第4ステップの回転数R及びラム圧力Pの上昇期には一旦低くなり、その後は略第3ステップの値と等しくなる。
【0038】
この第3ステップの制御により、混合機内の温度Tは、図3に示すように、温度勾配△Taが従来技術(図6)の温度勾配△Tbよりも小さくなり、発熱を抑制でき、低温混合ができる。その結果、モジュラスが向上し、また、安定化も促進される。
【0039】
このカーボン取り込み工程の第3ステップは、積算電力量Sが所定の第1目標積算電力量S1になった時に終了し、第4ステップに移行する。また、この第4ステップも積算電力量Sが所定の第2目標積算電力量S2になった時に終了するように制御される。
【0040】
<均一分散工程>
カーボン取り込み工程が終了すると、均一分散工程に移行する。この均一分散工程は、図3に示すように、前半の第5ステップと後半の第6ステップとからなり、この第5ステップでは、混合用ロータ2の回転数Rを低下して一定(例えば、15rpm)にし、ラム圧力Pは第4ステップの値を維持して一定のままとする。この過程では、ゴム中のカーボンを、さらに細かく、均一に分散させる。回転数を高くし、ラム圧力も高くして混合するが、この段階のゴムは非常に粘度が高くなり、電力消費が大きく、加えたエネルギーの多くは熱に変わるため、発熱が大きくなる。
【0041】
また、第6ステップでは、混合用ロータ2の回転数Rを更に低下させた後(例えば、10rpm)、徐々に上昇して元の回転数(例えば、15rpm)に戻す。また、ラム圧力Pは第5ステップの値を維持して一定のままとする。なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第5ステップでは徐々に大きくなるが、第6ステップでは略同じ大きさの値となる。この過程では、混合の最終段階で練りあがってきたゴムの粘度を調整する。そして、発熱を抑えるため、回転数を低くするが、温度の上昇が抑えられる範囲で徐々に回転数を上げることも出来る。また、必要により(温度が上昇する場合には)、ラム圧力を下げることにより、温度の上昇を抑えることも出来る。
【0042】
この第5ステップは、積算電力量Sが所定の第3目標積算電力量S3になった時に終了し、第6ステップも、積算電力量Sが所定の第4目標積算電力量S4になった時に終了するように制御される。
【0043】
また、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、ラム圧力Pを混合機内の温度Tの計測値と、予めこの第6ステップ用に設定された目標値である目標温度T3との偏差を減少させるように調整制御すると、ゴム組成物の物性及び品質をより均一化できる。
【0044】
または、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のためのモータの電流値の時間変化量の計測値と、予めこの第6ステップ用に設定された目標値である目標時間変化量との偏差を減少させるように、ラム圧力Pを調整制御する。これによってもゴム組成物の物性及び品質をより均一化できる。なお、混合機内の温度Tと電流値の時間変化量の計測値の両方を用いて制御してもよい。
あるいは、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予めこのステップ用に設定された第4目標積算電力量S4に達した時に、第6ステップを終了するが、この時の目標混合時間tcsを定めておき、この目標混合時間tcsと、このステップにおける混合時間の予測値tceとの偏差△tcを減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整制御、即ち、フィードバック制御するのが好ましい。
【0045】
この目標混合時間tcsは、予め行った混合実験の結果から値を求めて設定しておき、このステップにおける混合時間の予測値tceは、その予測時点teまでの積算電力量Sと予測時点における電力量Eとから、例えば、tce=te+(S4−S)/E等の計算式で算出できる。そして、(tcs−tce)が正の時は、回転数Rを降下させて電力量Eを減少し、負の時は、回転数Rを上昇させて電力量Eを増加させる。これにより、(tcs−tce)の絶対値である偏差△tcを減少させることができる。
そして、この第6ステップの終了により混合を終了し、生成物であるゴム組成物を放出する。
【0046】
この混合方法においては、第3ステップ〜第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予め、このステップ用に設定された目標積算電力量S1〜S4に達した後に、次のステップに移るように構成されている。
【0047】
また、第6ステップにおいて、混合機内の温度T又は混合用ロータ2の回転駆動のためのモータの電流値の時間変化量の少なくとも一方の計測値と、予めこのステップ用に設定された目標値との偏差を減少させるように、ラム圧力を調整制御するように構成して、ゴム組成物の物性及び品質、特に粘度を均一化することができる。
【0048】
そして、第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予めこのステップ用に設定された第4目標積算電力量S4に達する目標混合時間tcsを定め、この目標混合時間tcsと、混合過程における混合時間の予測値tceとの偏差△tcを減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整制御するように構成して、ゴム組成物の物性及び品質、特に粘度を均一化することができる。
【実施例】
【0049】
本発明の効果を評価するために、図3〜図5に示すような本発明に関わる混合方法に基づく混合を行い実施例とした。また、比較のために、図6〜図7に示すような従来技術の混合方法に基づく混合を行い従来例とした。
【0050】
図3〜図7において、Tは温度(℃)、Ssはステップ積算電力量(kWh)、Sは積算電力量(kWh)、Rは混合用ロータの回転数(rpm)、Pはラム圧力×100(MPa)、Rpはラム位置/2(mm)、Eは瞬時電力(kW)、Uは瞬時電力/回転数(kW/rpm)を示す。
【0051】
表1に実施例と従来例の各工程における時間と電力量を示し、表2に、実施例と従来例の粘度(Vm)と100%モジュラス(M100)を示す。なお、表2のCV%とCpは、それぞれ変動係数と工程能力指数を示す。また、実施例の全体は、実施例の各工程の数値を合計した値である。
【0052】
この表2の結果より、実施例のゴム組成物の混合方法及び混合装置によれば、従来例に比較して、粘度、モジュラス等の物性品質の安定したゴム組成物が得られることが分かる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【符号の説明】
【0055】
1 混合機
2 混合用ロータ
3 混練室
4 ラム室
8 ラム
E 電力量
P ラム圧力
R 混合用ロータの回転数
S 積算電力量
T 温度
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物の混合方法及び混合装置に関し、更に詳しくは、製品の粘度、モジュラス等の物性及び品質を安定化させることができるゴム組成物の混合方法及び混合装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
NBR系等のゴム組成物における粘度やモジュラス等の物性及び品質の安定性は、ゴム製品の性能の安定性に関わる重要な問題であり、この製品の特性及び品質はゴム組成物の混合状態によって大きく左右されることが知られている。
【0003】
これらのゴム組成物の混合は、一般的にはバンバリーミキサー等のバッチ方式の密閉式混合機を用いて行われており、これらの密閉式混合機における混合品質の安定化に関する検討は数多くなされている。そして、所定の時間で混合を終了する方法や、温度が所定の温度を超えた時に混合を終了する方法や、回転数を変化させる制御を行う方法や、ラム圧力を変化させる制御を行う方法等の、各種の混合方法が提案されている。
【0004】
また、混練機(混合機)のロータにかかる負荷を電流値又は電力値で検出し、この電流値又は電力値が所定設定値に達した場合に素練り工程を終了し、その後、直ちに、混練機にカーボンブラック(以降、単にカーボンという)等の添加物を投入して、素練り後の原料ゴムと添加物を混練するベース練り工程を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、このゴム組成物の混合方法の一つに、図6に示すように、ゴム素練り、カーボン取り込み、均一分散等の各工程を設け、ゴムと油を投入してゴム素練りをした後、カーボンを投入してカーボン取り込みを行い、ラム反転をしてから均一分散して混合し、この混合で粘度が落ち着いてきたら混合を終了し、できた生成物を放出する方法がある。
【0006】
この混合方法においては、従来技術では、図6に示すように、パターン制御を採用し、回転数Rとラム圧力Pを操作し、各工程(過程)で、それぞれの回転数Rとラム圧力Pを一定にし、時間と温度Tを制御している。また、温度Tを基準にした制御をしており、予め設定したそれぞれの所定の温度になった時に油投入やカーボン投入を行っている。
【0007】
しかしながら、この従来技術の混合方法においては、未だ、生成物の特性及び品質の安定化に関して十分に満足できる状態には至っていないという間題がある。
【0008】
一方、本発明者らは、数多くの混合実験を行い、この各工程における混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量(積算電力量)と、生成物の特性及び品質を代表する値としての100%モジュラス(M100)や粘度(Vm)との相関関係を実験的に求めた。
【0009】
100%モジュラスと積算電力量との関係を図9、図10、図11に示す。図9はカーボン取り込み工程における両者の関係を、図10は均一分散工程における両者の関係を、図11は全体工程を通じての両者の関係を示す。これらから、100%モジュラスに関しては、カーボン取り込み工程における相関が大きく、積算電力量の影響が大きいことが分かった。なお、図中のR2 は相関係数Rを二乗した重相関係数である。
【0010】
また、粘度(Vm)と積算電力量との関係を図12、図13、図14に示す。図12はカーボン取り込み工程における関係で、図13は均一分散工程における関係で、図14は全体工程を通じての関係である。これらから、粘度(Vm)に関しては、均一分散工程における相関が大きく、積算電力量の影響が大きいことが分かった。
【0011】
すなわち、各混合過程で混合状態が、それぞれ異なる特性に寄与することを知見し、全混合過程の積算電力量を制御するのでは不十分であり、各混合過程、各々の積算電力量(ステップ積算電力量)を制御、管理する必要があるという考えに至った。
【0012】
更に、ゴム組成物の混合工程において、積算電力量以外のパラメータに関しても、原料ゴムの素練り、原料ゴムとカーボンの混合、カーボンの均一分散の工程毎に、発現する物性や品質への影響の大きさが異なることを見出した。特に、原料ゴムとカーボンの混合(カーボン取り込み)工程では、原料ゴムに適した混練温度範囲で混練度を高める必要があることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−144321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ゴム組成物の混合において、粘度、モジュラス等の物性及び品質の安定したゴム組成物が得られ、性能の安定したゴム製品を提供できるゴム組成物の混合方法及び混合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するための本発明のゴム組成物の混合方法は、密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、
前記カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、
前記均一分散工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整することを特徴とするゴム組成物の混合方法である。
【0016】
そして、本発明のゴム組成物の混合装置は、上記のゴム組成物の混合方法を用いるゴムの組成物の混合装置として構成される。
【0017】
すなわち、本発明のゴム組成物の混合装置は、混合過程を複数のステップに分け、カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップにおいて、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量と、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量との比較演算を行い、前記積算量が目標積算電力量に到達した時に次のステップに移行する制御機能を有する。
【0018】
更に、均一分散工程の少なくとも1つのステップにおいて、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量の増加速度から予測される、このステップにおける混合時間の予測値と、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間から定まる目標混合時間との偏差を演算し、その偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整する制御機能を有する。
【0019】
そして、これらの制御機能は、全てのステップに適用可能であり、またさらに、制御機能を適用するか否かを、適宜設定できる機構を有するのが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のゴム組成物の混合方法及び混合装置によれば、粘度、モジュラス等の物性及び品質の安定したゴム組成物が得られ、性能の安定したゴム製品を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法における制御及び諸量の変化を 模式的に示す図である。
【図4】実施例における温度等を示す図である。
【図5】実施例における瞬時電力/回転数等を示す図である。
【図6】従来技術のゴム組成物の混合方法における制御及び諸量の変化を模式的に示 す図である。
【図7】従来例における温度等を示す図である。
【図8】従来例における瞬時電力/回転数等を示す図である。
【図9】カーボン取り込み工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関 係を示す図である。
【図10】均一分散工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関係を示 す図である。
【図11】全体工程における積算電力量と100%モジュラスとの相関関係を示す図 である。
【図12】カーボン取り込み工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を 示す図である。
【図13】均一分散工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を示す図で ある。
【図14】全体工程における積算電力量と粘度(Vm)との相関関係を示す図である 。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態のゴム組成物の混合方法及び混合装置について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
この実施の形態の混合装置は、混合用ロータを備えたバンバリーミキサー等を使用した混合機と、混合用ロータの回転数、混合用ロータの回転駆動用のモータの電流値、電流値の時間変化量、電力量、電力量の積算値である積算電力量、混合機内の温度、ラム圧力等を計測及び算出するセンサや演算手段と、この混合用ロータの回転数やラム圧力等を制御する制御手段を備えた制御装置を有して構成される。
【0024】
図1に示すように、この混合機1は、混練室3とラム室4とを備えており、この混練室3には一対の混合用ロータ2、2と油投入部5が設けられている。また、ラム室4は、混練室3と連通し、上下動により混練室3内の圧力(ラム圧力)を調整制御するラム8と、原料ゴムを投入するゴム投入部6とカーボンをホッパー7から投入するカーボン投入部9とが設けられている。
【0025】
また、混合用ロータ2にかかる負荷を電流値及び電力値として検出する検出器が設けられ、その検出値は制御装置の演算手段に入力され、この演算手段により、電流値の時間変化量(時間微分値)、積算電力量等が算出されるように構成される。
【0026】
そして、制御装置は制御用コンピュータと制御盤(シーケンサー)で構成され、制御用コンピュータでは、配合仕様、混合仕様、配合実績、混合実績、設備実績等が記憶され、プリセット・コンピュータ(PC)によりデータ入力、更新等を行うことができる。また、制御盤(シーケンサー)では、時々刻々(リアルタイムに)、時刻(総混合時間、ステップ混合時間)、ドロップドアに取り付けられたゴム温度センサーで検出した温度、瞬時電力、総積算電力量、ステップ積算電力量、回転数、ラム圧力、ラム位置がモニターされ、プログラムされた演算条件が成立すると制御信号を出力する。また、モニターされたデータは設定/出力用コンピュータを介して、これらの現在値や時系列が表示され、ミキサー混合状態がリアルタイムでモニタリングでき、混合条件出しや異常監視を素早く行うことができる。更に、制御盤(シーケンサー)では、バルク計量、油計量、自動配合計量、ゴム計量、投入コンベア、ホッパー等のモニター及び制御(計量、開閉、投入等の動作制御)も行うことができるように構成される。
【0027】
そして、この混合装置における混合方法は、図2に示すように、ゴム組成物を複数のステップ、即ち、ゴム・油を投入してゴム素練りを行うゴム素練り工程と、カーボンを投入してカーボン取り込みを行うカーボン取り込み工程と、ラム反転して均一分散を行う均一分散工程で混合を行い、その後、生成したゴム組成物を放出する方法として構成される。
【0028】
このゴム素練り工程では、冷却性能を良くするために、冷却を行って、バッチ処理毎のゴム組成物の特性及び品質の変動を低減する。カーボン取り込み工程では、初期では取り込みを早くし、後期では発熱を抑制して練りを向上するために、低温混合し、これによりバウンドラバーを形成し、モジュラスの向上を図る。また、均一分散工程では、発熱を抑制し練りを向上させるために、混合用ロータ2の電力値が一定になるように制御して粘度の安定化を図る。また、均一分散工程の後半では温度・トルク制御を行う。
【0029】
一般に、ゴムにカーボン等の補強剤等を配合して混合すると、補強剤等がゴム中に十分に取り込まれ、ゴムと補強剤等とが結合した状態のゴム組成物が得られる。この状態においては、補強剤等は、その表面活性のために、ゴムと化学的にまたは物理的に結合して、溶剤に対して膨潤するが完全には溶解しない結合体を形成している。この結合体をバウンドラバーまたはカーボンゲルという。
【0030】
そして、更に、この混合方法では、混合のステップ中においても、回転数とラム圧力を可変にし、各混合工程(混合過程)で温度制御を行い、発熱を抑制する。また、ステップ毎の積算電力量による終了判断の導入を行い、所定の積算電力量に到達した時に次のステップに移行する。特に、NBR系ゴム組成物の混合では、カーボンの取り込み工程の混合初期(70℃以下の初期混合段階および70℃〜120℃のバウンドラバー形成領域)の積算電力量による制御を行い、モジュラスの向上及び安定を図る。また、均一分散工程では電力混合を行い、所定の積算電力量に到達した時に生成したゴム組成物の放出を行うようにして、粘度の安定化を図る。また、より好ましくは、特に、夏冬等の季節による外気温の影響を受ける場合には、時間、温度、電力量、ステップ電力量と電力(電流)を監視し、ラム圧力と混練度、回転数と混合時間等をフィードバック制御する混合方法が有効である。
【0031】
この混合方法を、混合パターンの実例(カーボン高充填配合NBRゴム組成物の例)を挙げて、より具体的に説明する。混合過程をゴム素練り工程、カーボン取り込み工程、均一分散工程で構成し、各工程を前半と後半のステップで構成する。
【0032】
<ゴム素練り工程>
そして、ゴム素練り工程においては、ラム8を上昇させて、原料ゴムGをコンベア13で移送してゴム投入部6から投入した後、ラム8を下ろして、油を油投入部5から投入しながら混合用ロータ2を回転してゴムと油の混合物を混練りする。
【0033】
このゴム素練り工程は、図3に示すように、前半の第1ステップと後半の第2ステップとからなり、第1ステップにおいては、混合用ロータ2の回転数Rを一定(例えば、20rpm)に、また、ラム圧力Pも一定(例えば、0.5MPa)にし、第2ステップでは、ラム圧力Pを前半と同じ値に維持したまま、混合用ロータ2の回転数Rを低くする(例えば、15rpm)にする。
【0034】
なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第1ステップの初期には大きくなるがその後は低い値のままとなる。また、混合機1の混練室3の温度Tは冷却により低下する。この素練り工程の第1ステップは、この温度Tが予め設定した所定の第1温度T1以下になると、または、一定時間経過すると、終了し、第2ステップはこの温度Tが予め設定した所定の第2温度T2以下になると、または、一定時間経過すると、終了するように制御される。
【0035】
<カーボン取り込み工程>
このゴム素練り工程が終了すると、次のカーボン取り込み工程に移行し、カーボンをホッパー7からカーボン投入部9経由で混練室3に供給して混合する。
【0036】
このカーボン取り込み工程は、図3に示すように、前半の第3ステップと後半の第4ステップとからなり、第3ステップでは混合用ロータ2の回転数Rを低下して一定(例えば、15rpm)にし、ラム圧力Pも低下させて一定(例えば、0.3MPa)にする。つまり、ここでは、ゴム素練り工程で混合したゴムの上に載ったカーボンを、大きくかき混ぜて、徐々に、カーボンで表面を覆われた小さなゴムの固まりを形成させる。この過程の後半では、表面のカーボンが徐々にゴムの中に取り込まれていく。
【0037】
また、第4ステップでは混合用ロータ2の回転数Rを徐々に上昇して高い回転数(例えば、25rpm)に固定する。また、ラム圧力Pも徐々に上昇して元の圧力(例えば、0.5MPa)に固定する。ここでは、表面のカーボンがゴムの中に取り込まれるに従い、小さなゴムの固まりが、徐々に大きくなり、最後にはひとかたまりになる。その過程で、ゴムとカーボンの結合(バウンドラバー)が形成され、ロータにかかるトルクも上昇する。この過程を、より効果的に行うため、回転数を高め、ラム圧力を上げる。なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第3ステップでは大きくなるが、第4ステップの回転数R及びラム圧力Pの上昇期には一旦低くなり、その後は略第3ステップの値と等しくなる。
【0038】
この第3ステップの制御により、混合機内の温度Tは、図3に示すように、温度勾配△Taが従来技術(図6)の温度勾配△Tbよりも小さくなり、発熱を抑制でき、低温混合ができる。その結果、モジュラスが向上し、また、安定化も促進される。
【0039】
このカーボン取り込み工程の第3ステップは、積算電力量Sが所定の第1目標積算電力量S1になった時に終了し、第4ステップに移行する。また、この第4ステップも積算電力量Sが所定の第2目標積算電力量S2になった時に終了するように制御される。
【0040】
<均一分散工程>
カーボン取り込み工程が終了すると、均一分散工程に移行する。この均一分散工程は、図3に示すように、前半の第5ステップと後半の第6ステップとからなり、この第5ステップでは、混合用ロータ2の回転数Rを低下して一定(例えば、15rpm)にし、ラム圧力Pは第4ステップの値を維持して一定のままとする。この過程では、ゴム中のカーボンを、さらに細かく、均一に分散させる。回転数を高くし、ラム圧力も高くして混合するが、この段階のゴムは非常に粘度が高くなり、電力消費が大きく、加えたエネルギーの多くは熱に変わるため、発熱が大きくなる。
【0041】
また、第6ステップでは、混合用ロータ2の回転数Rを更に低下させた後(例えば、10rpm)、徐々に上昇して元の回転数(例えば、15rpm)に戻す。また、ラム圧力Pは第5ステップの値を維持して一定のままとする。なお、混合用ロータ2の負荷を示す電力Eは第5ステップでは徐々に大きくなるが、第6ステップでは略同じ大きさの値となる。この過程では、混合の最終段階で練りあがってきたゴムの粘度を調整する。そして、発熱を抑えるため、回転数を低くするが、温度の上昇が抑えられる範囲で徐々に回転数を上げることも出来る。また、必要により(温度が上昇する場合には)、ラム圧力を下げることにより、温度の上昇を抑えることも出来る。
【0042】
この第5ステップは、積算電力量Sが所定の第3目標積算電力量S3になった時に終了し、第6ステップも、積算電力量Sが所定の第4目標積算電力量S4になった時に終了するように制御される。
【0043】
また、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、ラム圧力Pを混合機内の温度Tの計測値と、予めこの第6ステップ用に設定された目標値である目標温度T3との偏差を減少させるように調整制御すると、ゴム組成物の物性及び品質をより均一化できる。
【0044】
または、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のためのモータの電流値の時間変化量の計測値と、予めこの第6ステップ用に設定された目標値である目標時間変化量との偏差を減少させるように、ラム圧力Pを調整制御する。これによってもゴム組成物の物性及び品質をより均一化できる。なお、混合機内の温度Tと電流値の時間変化量の計測値の両方を用いて制御してもよい。
あるいは、このカーボンの均一分散工程の第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予めこのステップ用に設定された第4目標積算電力量S4に達した時に、第6ステップを終了するが、この時の目標混合時間tcsを定めておき、この目標混合時間tcsと、このステップにおける混合時間の予測値tceとの偏差△tcを減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整制御、即ち、フィードバック制御するのが好ましい。
【0045】
この目標混合時間tcsは、予め行った混合実験の結果から値を求めて設定しておき、このステップにおける混合時間の予測値tceは、その予測時点teまでの積算電力量Sと予測時点における電力量Eとから、例えば、tce=te+(S4−S)/E等の計算式で算出できる。そして、(tcs−tce)が正の時は、回転数Rを降下させて電力量Eを減少し、負の時は、回転数Rを上昇させて電力量Eを増加させる。これにより、(tcs−tce)の絶対値である偏差△tcを減少させることができる。
そして、この第6ステップの終了により混合を終了し、生成物であるゴム組成物を放出する。
【0046】
この混合方法においては、第3ステップ〜第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予め、このステップ用に設定された目標積算電力量S1〜S4に達した後に、次のステップに移るように構成されている。
【0047】
また、第6ステップにおいて、混合機内の温度T又は混合用ロータ2の回転駆動のためのモータの電流値の時間変化量の少なくとも一方の計測値と、予めこのステップ用に設定された目標値との偏差を減少させるように、ラム圧力を調整制御するように構成して、ゴム組成物の物性及び品質、特に粘度を均一化することができる。
【0048】
そして、第6ステップにおいて、混合用ロータ2の回転駆動のための電力の積算量である積算電力量Sが、予めこのステップ用に設定された第4目標積算電力量S4に達する目標混合時間tcsを定め、この目標混合時間tcsと、混合過程における混合時間の予測値tceとの偏差△tcを減少させるように、混合用ロータ2の回転数Rを調整制御するように構成して、ゴム組成物の物性及び品質、特に粘度を均一化することができる。
【実施例】
【0049】
本発明の効果を評価するために、図3〜図5に示すような本発明に関わる混合方法に基づく混合を行い実施例とした。また、比較のために、図6〜図7に示すような従来技術の混合方法に基づく混合を行い従来例とした。
【0050】
図3〜図7において、Tは温度(℃)、Ssはステップ積算電力量(kWh)、Sは積算電力量(kWh)、Rは混合用ロータの回転数(rpm)、Pはラム圧力×100(MPa)、Rpはラム位置/2(mm)、Eは瞬時電力(kW)、Uは瞬時電力/回転数(kW/rpm)を示す。
【0051】
表1に実施例と従来例の各工程における時間と電力量を示し、表2に、実施例と従来例の粘度(Vm)と100%モジュラス(M100)を示す。なお、表2のCV%とCpは、それぞれ変動係数と工程能力指数を示す。また、実施例の全体は、実施例の各工程の数値を合計した値である。
【0052】
この表2の結果より、実施例のゴム組成物の混合方法及び混合装置によれば、従来例に比較して、粘度、モジュラス等の物性品質の安定したゴム組成物が得られることが分かる。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【符号の説明】
【0055】
1 混合機
2 混合用ロータ
3 混練室
4 ラム室
8 ラム
E 電力量
P ラム圧力
R 混合用ロータの回転数
S 積算電力量
T 温度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、
前記カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、
前記均一分散工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整することを特徴とするゴム組成物の混合方法。
【請求項2】
前記ゴム組成物がNBR系ゴム組成物であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の混合方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のゴム組成物の混合方法を用いるゴムの組成物の混合装置。
【請求項1】
密閉式混合機を用いてゴム組成物を混合するにあたって、混合機内にゴムとカーボンを投入してゴム中への取り込みを行うカーボン取り込み工程と、カーボンの均一分散を行う均一分散工程とを複数のステップで行うようにしたゴム組成物の混合方法において、
前記カーボン取り込み工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達した後に、次のステップに移るようにすると共に、
前記均一分散工程の少なくとも1つのステップで、混合用ロータの回転駆動のための電力の積算量が、予めこのステップ用に設定された目標積算電力量に達する目標混合時間を定め、この目標混合時間と、このステップにおける混合時間の予測値との偏差を減少させるように、混合用ロータの回転数を調整することを特徴とするゴム組成物の混合方法。
【請求項2】
前記ゴム組成物がNBR系ゴム組成物であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物の混合方法。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか1項に記載のゴム組成物の混合方法を用いるゴムの組成物の混合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−102038(P2011−102038A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3179(P2011−3179)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2005−138145(P2005−138145)の分割
【原出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【分割の表示】特願2005−138145(P2005−138145)の分割
【原出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
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