説明

ゴム組成物及びこれを被覆した絶縁電線

【課題】機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えた成形品を与えることができるゴム組成物、及びこのゴム組成物を被覆してなる絶縁電線を提供する。
【解決手段】フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムを、60〜90対40〜10の重量比で含有し、さらに前記ビニル基含有シリコーンゴム100重量部に対して有機過酸化物を0.01〜5重量部の範囲で添加してなる混和物を、加熱しながら高剪断をかけて混練し、前記ビニル基含有シリコーンゴムを、動的架橋するとともに、前記フッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散させて得られることを特徴とするゴム組成物、及びこのゴム組成物を被覆してなる絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器内の配線や自動車用ハーネスの絶縁体等に用いられるゴム組成物、及びこのゴム組成物を被覆してなる絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素ゴムは、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れた材料として知られている。そこで、自動車内や電気機器内の配線、ケーブルの被覆材料、保護チューブの材料等の用途に幅広く使用されている。
【0003】
このようなフッ素ゴムとしては、例えば、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体が知られており、アフラス(旭硝子社製)等の商品名で市販されている。しかし、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体は、柔軟性、耐熱性、耐油性、電気絶縁性に優れるものの、ガラス転移温度が−3〜−13℃と高いため、低温では可とう性が損なわれ脆くなりやすい。そのため、例えば、電線、ケーブルが、低温で小さい曲率で屈曲された際に被覆の破損が生じやすくなり、耐寒性に欠けるとの問題があった。
【0004】
特許文献1には、(A)分子内に不飽和結合を有するテトラフルオロエチレン/プロピレン系フッ素ゴム、(B)分子内に不飽和結合を有するアクリルゴム、(C)有機過酸化物、及び(D)トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート及びトリアリルシアヌレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の架橋助剤を、所定の質量比で含有することを特徴とする過酸化物架橋性フッ素ゴム組成物が開示されている。そして、このフッ素ゴム組成物は、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体が有する成形時の金型離型性に劣るとの問題を解決するとともに、耐熱性、耐油性に優れた成形品(被覆)を与え、安価であると述べられている。
【0005】
特許文献2には、少なくともフッ化ビニリデンを繰り返し単位として含むフッ素樹脂とアクリル系ゴムを所定割合で含有するとともに、前記フッ素樹脂からなる連続相中に、アクリル系ゴムを架橋させた分散相が分散された構造を有する樹脂組成物が開示されており、さらにその樹脂組成物からなりフッ素樹脂が架橋されて形成された被覆を備える電線、ケーブル、チューブが開示されている。さらに又、前記分散相が、未架橋のアクリル系ゴムを動的架橋させて形成される態様も開示されている。そして、この樹脂組成物により、高い耐熱性と耐油性とを満足し、なおかつ、柔軟性と耐摩耗性とを両立することができると述べられている。
【0006】
優れた柔軟性、耐熱性、電気絶縁性を有し、さらに、耐寒性に優れる材料としては、シリコーンゴムが知られている。しかし、シリコーンゴムはポリマー鎖の分子間力が弱いため、機械的強度に欠けるとの問題があった。
【0007】
特許文献3には、フッ素ゴム(フッ化ビニリデン系3元共重合)とシリコーンゴムとの混和物に、シリカ粉末が所定割合配合されている電気絶縁組成物、及び該電気絶縁組成物からなる被覆を備えた電線が開示されている。そして、この電気絶縁組成物は、フッ素ゴムの有する特徴を保持するとともに、耐寒性に優れ、低温で可とう性が低下する問題が抑制されており、その結果、機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えた電気絶縁組成物を与えることが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−327772号公報
【特許文献2】特開2007−126631号公報
【特許文献3】特開2008−266371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載のフッ素ゴム組成物は、(該文献中では耐熱性に優れた被覆を与えると述べられているものの、)実際には、フッ素ゴムの耐熱性とアクリルゴムの耐熱性に、それぞれの配合割合(質量比)を乗じて平均した程度の耐熱性しか得られない。従って、このフッ素ゴム組成物の耐熱性は、フッ素ゴム単独の場合よりも劣る。
【0010】
又、特許文献2に記載の樹脂組成物、すなわち、少なくともフッ化ビニリデンを繰り返し単位として含むフッ素樹脂とアクリル系ゴムを所定割合で含有するとともに、前記フッ素樹脂からなる連続相中に、アクリル系ゴムを架橋させた分散相が分散された構造を有する樹脂組成物は、ポリフッ化ビニリデンが硬質な樹脂であるため、柔軟性が不十分である。従って、この樹脂組成物からなりフッ素樹脂が架橋されてなる被覆を備える電線、ケーブル、チューブには、小さな曲率での屈曲が要求される用途では柔軟性不足により使用しにくいとの問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3に記載の電気絶縁組成物は、(該文献中では、機械的強度やその他の特性をバランス良く兼ね備えた電線を与える、と述べられているものの、)実際には、混和物中のフッ素ゴム(フッ化ビニリデン系3元共重合)とシリコーンゴムの界面接着強度が弱いため、この組成物から得られる被覆は、機械的強度が必ずしも満足できるものではなかった。
【0012】
本発明は、前記のような従来技術の問題を解決し、機械的強度、耐熱性、耐油性、及び耐寒性をバランス良く兼ね備えた成形品を与えることができるゴム組成物(樹脂組成物)を提供することを課題とする。又、本発明は、このゴム組成物を被覆してなる絶縁電線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために検討を行った結果、フッ素ゴム、ビニル基含有シリコーンゴム及び有機過酸化物の混和物を、加熱しながら高剪断をかけて混練することにより、機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えた成形品を与えることができるゴム組成物が得られることを見出し、以下に示す構成からなる本発明を完成した。
【0014】
請求項1に記載の発明は、フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムを、60〜90対40〜10の重量比で含有し、さらに前記ビニル基含有シリコーンゴム100重量部に対して有機過酸化物を0.01〜5重量部の範囲で添加してなる混和物を、加熱しながら高剪断をかけて混練し、前記ビニル基含有シリコーンゴムを、動的架橋するとともに、前記フッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散させて得られることを特徴とするゴム組成物である。
【0015】
すなわち、フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムと有機過酸化物を、加熱しながら高剪断をかけて混練して得られるゴム組成物であること、
フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムと有機過酸化物の配合割合は、前記の所定の範囲内であること、
前記混練の条件、すなわち加熱及び高剪断は、前記ビニル基含有シリコーンゴムを、動的架橋するとともに、前記フッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散できる条件であること、
を特徴とする。この特徴を充足することにより、耐寒性、機械的強度、耐熱性、柔軟性、耐油性が高い次元でバランスがとれたゴム組成物が得られる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記フッ素ゴムが、テトラフルオロエチレン−プロピレン交互共重合体、又はフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物である。
【0017】
フッ素ゴムとしては、後述で例示する種々のものが得られるが、中でも、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、又はフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体を使用すれば特に高い耐熱性が得られ、また電子線で架橋させることが容易である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記ビニル基含有シリコーンゴムが、前記フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムの合計の重量に対し1〜10重量%のフロロシリコーンゴムを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物である。
【0019】
本発明のゴム組成物に使用されるシリコーンゴムとしては、有機過酸化物により動的架橋されるためにビニル基を含有したものが用いられる。中でも、フッ素を含有するシリコーンゴムであるフロロシリコーンゴムを、シリコーンゴム中に、前記フッ素ゴムとシリコーンゴムの合計の重量に対し1〜10重量%含ませると、機械的強度が向上し、特に高い機械的強度が得られるので好ましい。なお、フロロシリコーンゴムの含有量が、前記フッ素ゴムとシリコーンゴムの合計の重量に対し0.01重量%未満の場合は、機械的強度を向上させる効果が十分に得られない。一方、フロロシリコーンゴムの含有量が、前記フッ素ゴムとシリコーンゴムの合計の重量に対し10重量%を超える場合は、機械的強度が低下する。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記ゴム組成物が、電子線、ガンマ線等の電離放射線を照射されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のゴム組成物である。ゴム組成物に電離放射線を照射し、フッ素ゴムを架橋することにより、機械的強度や耐熱性がより向上し、耐寒性と機械的強度、耐熱性、柔軟性、耐油性を、よりバランス良く兼ね備えたゴム組成物を得ることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のゴム組成物により形成された絶縁被覆を有することを特徴とする絶縁電線である。前記本発明のゴム組成物を、電線に塗布し絶縁被覆を形成して絶縁電線を得ることができる。この絶縁電線の絶縁被覆は、本発明のゴム組成物から形成されているので、機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えている。絶縁被覆の形成は、通常の絶縁電線における絶縁被覆の形成と同様にして行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のゴム組成物は、耐寒性、耐熱性、耐油性をバランスよく兼ね備えたものである。本発明の絶縁電線は、このゴム組成物から形成されている絶縁被覆を有するが、この絶縁被覆は、耐寒性と柔軟性、耐熱性、耐油性をバランスよく兼ね備えたものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明の範囲はこの形態に限定されるものではなく本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0024】
本発明のゴム組成物に使用されるフッ素ゴムとしては、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元共重合体等が挙げられる。
【0025】
本発明のゴム組成物に使用されるビニル基含有シリコーンゴムとしては、メチルフェニルビニルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム等が挙げられる。又、シリコーンゴムとしては、シリカ等の充填材を含むようなコンパウンドとして市販されているものを用いることもできる。また、フロロシリコーンゴムとしてはポリアルキルビニルフルオロアルキルシロキサン、ポリアルキルフルオロアルキルシロキサン等が用いられる。
【0026】
本発明のゴム組成物では、フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムの重量比が、60〜90対40〜10の範囲にあることを特徴とする。フッ素ゴムの重量比がフッ素ゴムとシリコーンゴムの合計に対して60重量%未満の場合は、引張伸びが小さくなり機械的強度が不十分になる。又耐熱性、耐油性も低下する。一方、フッ素ゴムの重量比がフッ素ゴムとシリコーンゴムの合計に対して90重量%を超える場合は、耐寒性が不十分となる。
【0027】
本発明のゴム組成物に使用される有機過酸化物としては、加熱等により容易にパーオキシラジカルを発生するものが好ましく用いられ、具体的には、1,3−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロキシペルオキシド、ジtert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルクミルペルオキシド、α’−ビス(tert−ブチルペルオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルオキシマレイン酸、tert−ブチルペルオキシソプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0028】
有機過酸化物の添加量は、前記ビニル基含有シリコーンゴム100重量部に対して0.01〜5重量部の範囲である。有機過酸化物の添加量が、シリコーンゴムの重量に対して0.01重量%未満の場合は、シリコーンゴムが十分に動的架橋されず、機械的強度が低下し耐熱性、耐油性も不十分となり、本発明の目的とする効果は得られない。一方、有機過酸化物の添加量が、シリコーンゴムの重量に対して5重量%を超える場合も、機械的強度が低下し、耐熱性、耐油性も不十分となるとともに、耐寒性も不十分であり、本発明の目的とする効果は得られない。
【0029】
本発明のゴム組成物には、上記の成分以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲内で、充填材、難燃剤、酸化防止剤、滑剤、着色顔料等を添加しても良い。充填剤としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム等の炭酸塩、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム、珪酸アルミニウム等の珪酸塩、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の硫酸塩、カーボンブラック、タルク等を用いることができる。難燃剤としては三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等が挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は併用して含有してもよい。
【0030】
本発明のゴム組成物は、上記の組成からなる混和物を、加熱しながら高剪断をかけて混練し、前記ビニル基含有シリコーンゴムを動的架橋するとともに、前記フッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散させて得られることを特徴とする。この混練工程では、シリコーンゴムの架橋を、高剪断をかけ、混練しながら行う(動的架橋する)ことにより、フッ素ゴムからなる連続相からシリコーンゴムを相分離させ、前記連続相中に、シリコーンゴムの架橋物からなる微細な分散相を、多数、生成させる。
【0031】
ビニル基含有シリコーンゴムが動的架橋されていること、及びフッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散されていることにより、本発明の目的とする効果が達成される。すなわち、混和物の混練は、前記動的架橋及び微分散が達成される加熱温度、剪断条件で行う必要がある。
【0032】
加熱温度は、前記動的架橋及び微分散が達成される限りはその範囲は特に限定されないが、好ましくは、過酸化物架橋剤の分解温度から決定され、例えばジクミルパーオキサイドを使用する場合、樹脂温度160℃で10分間程度の混練が望ましい。加熱温度が低い場合は、ビニル基含有シリコーンゴムの(動的)架橋が不十分になり、本発明の目的する効果が達成されにくくなる。
【0033】
剪断条件も、前記動的架橋及び微分散が達成される限りその具体的範囲は限定されないが、剪断条件が不十分であると、フッ素ゴムにより構成される連続相中に分散されるシリコーンゴムの分散相が大きくなり、又分散相の凝集等を生じる場合もあり、機械的強度が低下する等、本発明の目的が十分達成されなくなる。
【0034】
充分な高剪断を達成するために用いられる混練機としては、オープンロールミキサー、バンバリミキサー、加圧ニーダー、単軸または多軸の押出機型混合機等を挙げることができる。混練の工程は、これらの混練機を使用し、前記の混和物を所定の温度に加熱して溶融させながら混練することにより行うことができる。
【0035】
ゴム組成物が電子線照射される場合、電子線照射量は、100〜500kGy程度が好ましい。電子線照射には、樹脂の架橋等に通常用いられている公知の電子線照射手段を用いることができ、常法により行うことができる。
【0036】
本発明の絶縁電線は、上記のようにして得られたゴム組成物を公知の方法によって導線外周上に押出被覆して得ることができる。又、電線の絶縁被覆の形成のために用いられている他の公知の方法を適用することも可能である。絶縁被覆の形成を容易にするため、ゴム組成物の電子線照射は、ゴム組成物を導線外周上に被覆した後行うことが好ましい。
【実施例】
【0037】
実施例、比較例で用いたフッ素ゴム、ビニル基含有シリコーンゴム、有機過酸化物を以下に示す。
【0038】
[フッ素ゴム]
・テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体(商品名:アフラス150C、旭硝子社製、表中では「TFE−P共重合体」と表す。)
・フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体(商品名:アフラス200P、旭硝子社製、表中では「TFE−P−VdF共重合体」と表す。)
【0039】
[ビニル基含有シリコーンゴム]
・ビニル基含有シリコーンゴム(商品名:TSE2461U、モメンティブ社製、シリカを含有したポリアルキルアルケニルシロキサン)
・フロロシリコーンゴム(商品名:FQE205U、モメンティブ社製、シリカを含有したポリアルキルビニルフルオロアルキルシロキサン)
[有機過酸化物]
・p−メチルベンゾイルパーオキサイド(商品名:TC−12、モメンティブ社製)
【0040】
上記のフッ素ゴム、ビニル基含有シリコーンゴム及び有機過酸化物を、表1に示す配合で、混合容量3Lのバンバリミキサーにて水冷しながら50rpmで混練した。各材料が均一に混ざったところで、蒸気加熱して160℃でさらに10分間、回転数を100rpmに上げてバンバリミキサーにて(すなわち高剪断をかけて)混練した。この際にシリコーンゴムが動的架橋される。
【0041】
その後、60℃で10分間、600MPaの条件にてプレスし、厚さ1mm及び2mmのシート状サンプルを作製した。得られたシート状サンプルに、200kGyの電子線照射を行って架橋体を作製した。この様にして得られたシート状サンプルについて、機械的強度(引張破断強度、引張破断伸び。表中では、それぞれ引張強度、引張伸びと表す。)、耐熱性、耐油性、耐寒性の各評価を行った。結果は表1に併せて示した。それぞれの評価方法は以下の通りである。
【0042】
(機械的強度)
JIS K6251に準拠してシートをダンベル形状に打抜き、引張破断強度と引張破断伸びを測定した。合否の基準としては、引張破断強度が15MPa以上、引張破断伸びが150%以上のものを合格と判定した。
【0043】
(耐熱性)
JIS K7212に準拠して、250℃×4日加熱後の引張破断強度の残率と引張破断伸びの残率を測定した。合否の基準としては、強度及び伸びの残率が50%以上を合格と判定した。
【0044】
(耐油性)
市販されているATフルードに165℃×5日浸漬後、引張破断強度の残率と引張破断伸びの残率を測定した。合否の基準としては、強度及び伸びの残率が50%以上を合格とした。
【0045】
(耐寒性)
JIS K7216に準拠してシートを短冊状に打抜き、低温脆化試験機で評価を行った。ドライアイスで−20℃まで冷却し、5本同時に衝撃を与えて破断がない場合を合格とした。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
表1〜3に示された結果より次のことが明らかである。
1.本発明の構成要件を満足する実施例1〜7のゴム組成物は、規格を満足する引張強度、引張伸びを示し、機械的強度に優れ、又耐熱性、耐油性についても規格を満足しており、耐寒性も合格している。従って、本発明のゴム組成物が、機械的強度、耐熱性、耐油性及び耐寒性をバランス良く兼ね備えたゴム組成物であることが示されている。
2.ビニル基含有シリコーンゴムとして、フロロシリコーンゴムを請求項3に規定されている範囲で含む実施例5及び6のゴム組成物と、フロロシリコーンゴムを含まない実施例1のゴム組成物を比較すると、シリコーンゴムの配合量等の他の条件は同一であるにも関わらず、実施例5及び6のゴム組成物は、より高い引張強度、引張伸びを示し、機械的強度に優れている。すなわちこの結果より、フロロシリコーンゴムを含むことにより機械的強度が向上することが示されている。
3.フッ素ゴムの配合量が本発明の範囲を超える比較例1では、耐寒性が不良であった。一方、フッ素ゴムの配合量が本発明の範囲未満の比較例2では、機械的強度、耐熱性、耐油性が不十分であった。
4.有機過酸化物を添加しなかった(=添加量が本発明の範囲未満である)比較例3では、耐寒性は合格レベルであるものの、機械的強度、耐熱性、耐油性は不十分であった。一方、有機過酸化物の添加量が本発明の範囲を超える比較例4では、機械的強度、耐熱性、耐油性、耐寒性が全て不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムを、60〜90対40〜10の重量比で含有し、さらに前記ビニル基含有シリコーンゴム100重量部に対して有機過酸化物を0.01〜5重量部の範囲で添加してなる混和物を、加熱しながら高剪断をかけて混練し、前記ビニル基含有シリコーンゴムを、動的架橋するとともに、前記フッ素ゴムにより構成される連続相中に微分散させて得られることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記フッ素ゴムが、テトラフルオロエチレン−プロピレン交互共重合体、又はフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記ビニル基含有シリコーンゴムが、前記フッ素ゴムとビニル基含有シリコーンゴムの合計の重量に対し1〜10重量%のフロロシリコーンゴムを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム組成物が、電離放射線照射されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のゴム組成物により形成された絶縁被覆を有することを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2011−144285(P2011−144285A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7012(P2010−7012)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】