説明

ゴム補強用コードおよびその製造方法ならびにそれを用いたゴム製品

ゴム補強用コードを製造するための本発明の方法は、(i)補強用繊維としてガラスフィラメントを含む複数の第1のストランドを第1の方向に撚り合わせることによって第2のストランドを形成することと、(ii)第1の方向と同じ方向に撚り合わせられた複数の第2のストランドと第2のストランドに塗布された処理剤とを含むコードを形成することと、(iii)ガラスフィラメントの断面積1mmあたり40〜800Nの引っ張り荷重をコードに加えながら処理剤を固化させることによって、第2のストランド同士を接着することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムを補強するための補強用コード、およびその製造方法、ならびにそれを用いたゴム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムベルトやタイヤ等のゴム製品の補強材として、ガラス繊維やアラミド繊維といった補強用繊維を用いた補強用コードが用いられている。ゴム補強用コードには、耐屈曲疲労性(曲げに対する柔軟性)、高強力および寸法安定性などが要求される。特に、ゴムベルト等のゴム製品は屈曲応力を繰り返し受けるため、屈曲疲労によって性能が低下しやすい。そのような性能低下は、補強材とゴムマトリックスとの間の剥離を生じさせたり、補強用繊維の摩耗による強度低下を生じさせたりしやすい。したがって、ゴム補強用コードでは、耐屈曲疲労性が重要となる。
【0003】
耐屈曲疲労性を高めるには、通常、ストランドに撚りを加えることが不可欠になる。ストランドの下撚りおよび上撚りの方法については、従来から様々な方法が提案されている。
【0004】
ストランドに下撚りと上撚りを加える方法には、モロ撚りとラング撚りの2種類の撚り方がある。モロ撚りでは、下撚りの方向と上撚りの方向とが異なる。ラング撚りでは、下撚りの方向と上撚りの方向とが同じである。ラング撚りは、モロ撚りと比較して曲げに対する抵抗が小さく柔軟性が高いため、コードの耐屈曲疲労性が向上するという長所を有する。そのため、有機繊維などを用いた撚りコードにはラング撚りがよく使われている。
【0005】
また、ガラス繊維のストランドを複数本集めて下撚りし、これを複数本集めて下撚りと同方向に上撚りしたラング撚りガラス繊維ロープを使用した歯付きベルトが開示されている(実公昭59−15780号公報)。
【0006】
ガラス繊維コードにラング撚りを施した場合、原理的には耐屈曲疲労性は大きく向上するが、下撚りと上撚りの撚り方向が同方向であるため、コードの撚り戻りおよび自発的なコードの絡み合いが起こりやすい。コードの撚り戻りとは、例えばコードをエンドレスベルト形状のゴム中にコイル状に埋設したときにコードがその両端付近で撚りが戻り、ストランドの集束状態が緩むことである。また、コードの自発的な絡み合いとは、1本のコード内でコードが撚り合わされるように絡んで節を形成することである。撚り戻りや自発的なコードの絡み合いは、ストランド間に隙間を生じさせたり、各ストランドが存在すべき適切な位置からストランドをずらしたりする。ストランドがずれると、製品の使用中に負荷がその部分に集中して局部的な磨耗を生じさせ、フィラメント、ストランドおよびコードの破壊を引き起こす。
【0007】
このように、ラング撚りされたガラス繊維コードは、実際には高い耐屈曲疲労性を示さず、強い屈曲応力を受けるゴムベルト等のゴム製品に使用することは適切ではないと考えられていた。
【発明の開示】
【0008】
このような状況を考慮し、本発明の目的の1つは、コードの撚り戻りおよび自発的な絡み合いが少なく、引っ張り強度および耐屈曲疲労性に優れた、ラング撚りされたゴム補強用コードおよびその製造方法を提供することである。また、本発明の目的の1つは、本発明のゴム補強用コードを用いたゴム製品を提供することである。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のゴム補強用コードの製造方法は、
(i)補強用繊維としてガラスフィラメントを含む複数の第1のストランドを第1の方向に撚り合わせることによって第2のストランドを形成することと、
(ii)前記第1の方向と同じ方向に撚り合わせられた複数の前記第2のストランドと前記第2のストランドに塗布された処理剤とを含むコードを形成することと、
(iii)前記ガラスフィラメントの断面積1mmあたり40〜800Nの引っ張り荷重を前記コードに加えながら前記処理剤を固化させることによって、前記第2のストランド同士を接着することとを含む。
【0010】
また、本発明のゴム補強用コードは、本発明の製造方法で製造されたコードである。
【0011】
また、本発明のゴム製品は、本発明のゴム補強用コードで補強されたゴム製品である。
【0012】
本発明によれば、ラング撚りされたガラス繊維コードに特有の、撚り戻りや自発的な絡み合いを防止することができ、引っ張り強度および耐屈曲疲労性に優れたゴム補強用コードが得られる。また、本発明のゴム製品は、本発明のゴム補強用コードを用いているため、引っ張り強度および耐屈曲疲労性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明のゴム製品の一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2は、実施例で作製したゴム補強用コードを模式的に示す断面図である。
【図3】図3は、実施例で行われた屈曲試験の方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の製造方法では、まず、複数の第1のストランドを第1の方向に撚り合わせることによって第2のストランドを形成する。すなわち、複数の第1のストランドを所定の方向に下撚りすることによって、第2のストランドを形成する。第1のストランドは、補強用繊維としてガラスフィラメントを含む。第1の方向は、S方向またはZ方向である。
【0015】
次に、第1の方向と同じ方向に撚り合わせられた複数の第2のストランドと第2のストランドに塗布された未固化の処理剤とを含むコードを形成する。すなわち、複数の第2のストランドは、下撚りと同じ方向に上撚りされる。このコードは、複数の第2のストランドを第1の方向と同じ方向に撚り合わせたのち未固化の処理剤を塗布することによって形成してもよい。また、このコードは、未固化の処理剤を塗布した複数の第2のストランドを第1の方向と同じ方向に撚り合わせることによって形成してもよい。
【0016】
次に、ガラスフィラメントの断面積1mmあたり40〜800Nの引っ張り荷重をコードに加えながら処理剤を固化させることによって、第2のストランド同士を接着する。
【0017】
第1のストランドとしてはガラス繊維ストランドが用いられる。第1のストランドに含まれる補強用繊維は、典型的にはガラス繊維によって構成されるが、本発明の効果が得られる限り、他の材料からなる繊維を含んでもよい。また、本発明の補強用コードは、第1のストランド(ガラス繊維ストランド)に加えて、ガラス繊維以外の材料の繊維ストランドを併用してもよい。例えば、本発明の補強用コードは、芯部分にアラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維または炭素繊維のストランドを配置し、その周りに複数のガラス繊維ストランドを配置したハイブリッドコードであってもよい。この場合、複数のガラス繊維ストランドの部分に本発明が適用される。
【0018】
ガラス繊維ストランドに使用されるガラス繊維としては、例えば、Eガラスフィラメントや高強度ガラスフィラメントが挙げられる。ガラスフィラメントの直径、およびガラス繊維を構成するガラスフィラメントの本数に特に限定はない。直径が5〜11μmのガラスフィラメントを100〜2,400本束ねて下撚りすることによって形成された、番手が5〜640g/1000mのガラス繊維ストランドを用いることによって、屈曲性が特に高い補強用コードが得られる。
【0019】
本発明の製造方法は、第1のストランドのガラスフィラメントを前処理剤で被覆する工程を含んでもよい。この場合、前処理剤の固形分重量が、ガラスフィラメントの重量と前処理剤の固形分重量との合計に対して5.0〜35.0%の範囲にあることが好ましい。
【0020】
第1のストランドを構成するガラスフィラメントには、通常、耐熱性、耐水性、および接着性などの向上や、ほつれの防止のために、前処理剤(接着剤)が塗布される。けれども、前処理剤による処理は省略してもよい。前処理剤(接着剤)は特に限定されないが、レゾルシン−ホルマリン−ゴムラテックス混合物(以下、「RFL処理液」という場合がある)や、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などが使用できる。RFL処理液に用いられるゴムラテックスとしては、アクリルゴム系ラテックス、ウレタン系ラテックス、スチレン・ブタジエンゴム系ラテックス、ニトリルゴム系ラテックス、クロロスルホン化ポリエチレン系ラテックス、それらの変性ラテックス、またはその混合物などが例示される。好ましい前処理剤の一例は、レゾルシン−ホルムアルデヒド水溶性縮合物、カルボキシル化ビニルピリジン−ブタジエン−スチレン共重合体ラテックス、ジカルボキシル化ブタジエン−スチレン共重合体ラテックス、およびクロロスルホン化ポリエチレンラテックスを含み、且つこれらの割合が固形分比率で各々2〜15重量%、15〜80重量%、7〜50重量%、10〜60重量%である。
【0021】
第1のストランドに付与される下撚りの撚り数を大きくすると、一般的に、寸法安定性は悪くなるが耐屈曲疲労性が向上する。撚り数を小さくすると、寸法安定性は良くなるが耐屈曲疲労性が悪くなる。第1のストランドの下撚り数は、0.5〜9.0回/25mm(25mmあたり0.5〜9.0回)が好ましく、1.0〜4.0回/25mmがより好ましい。複数(好ましくは2〜24本)の第1のストランドを束ねて下撚りすることによって第2のストランドが形成される。第2のストランドの番手(テックス)は、通常、5〜640g/1000mの範囲である。
【0022】
第2のストランドは、複数本束ねられて、下撚りと同じ方向の上撚りが付与される。すなわち、下撚りの方向がS方向である場合には上撚りの方向もS方向であり、下撚りの方向がZ方向である場合には上撚りの方向もZ方向である。
【0023】
上撚りの撚り数は、下撚りについて述べた理由と同じ理由で0.5〜9.0回/25mmが好ましく、1.0〜4.0回/25mmがより好ましい。すなわち、複数の第1のストランドを0.5〜9.0回/25mmの割合で撚り合わせ、複数の第2のストランドを0.5〜9.0回/25mmの割合で撚り合わせることが好ましい。
【0024】
複数(好ましくは3〜30本)の第2のストランドを上撚りすることによって、コードが形成される。得られる撚りコードの番手(テックス)は、通常、15〜6000g/1000mの範囲である。
【0025】
繊維ストランドの合糸装置および撚糸装置に特に限定はないが、リング撚糸機やフライヤー撚糸機、撚り線機等が使用できる。
【0026】
本発明において、第2のストランドには、第2のストランド同士を互いに固着するための処理剤が塗布される。処理剤が塗布され上撚りされた複数の第2のストランドからなるコードには、その長さ方向に引っ張り荷重を与えておく。このコードに対して、その長さ方向に引っ張り荷重を与えると、コードを構成する各ストランド、およびそれを構成する各フィラメントは整列して配置されるので、コードの撚り戻りや自発的なコードの絡み合いは解除された状態となる。このような状態で処理剤が固化されると、その整列状態が固定され、その後は引っ張り荷重を解除してもフィラメントやストランドの移動は抑制される。その結果、フィラメントやストランドの整列が乱れることはなく、コードの撚り戻りや自発的なコードの絡み合いは生じない。第2のストランドを、下撚りと同じ方向に上撚りしたままの状態では、コードの撚り戻りや絡み合いが起こりやすい。しかし、本発明では、ラング撚りされて未固化の処理剤が塗布されたコードに所定の引っ張り荷重を与えた状態で処理剤を固化させる。このように、撚りの状態を保持したまま処理剤を固化させることによって、撚り戻りや、絡み合いを防ぐことができる。
【0027】
引っ張り荷重は、繊維コードに塗布した処理剤を固化するときだけでなく、その前の工程で加えてもよい。例えば、第2のストランドを複数本そろえて上撚りする工程や、上撚りした第2のストランドに処理剤を塗布する工程から、引っ張り荷重を加え続けてもよい。
【0028】
本発明のゴム補強用コードは、ゴムベルトのようなゴム製品を製造するためにゴム組成物の中に埋め込んで加熱・圧縮したときでも、フィラメントやストランドの動きは生じず、コードの撚り戻りや自発的なコードの絡み合いが発生することはない。
【0029】
一方、引っ張り荷重を与えずに、または40N/mm未満の引っ張り荷重を与えた状態で、処理剤をコードに塗布し固化させた場合には、コードを構成する各ストランド、およびそれを構成する各フィラメントの整列状態が不十分となる。その結果、コードの撚り戻りや自発的なコードの絡み合いが生じた状態で固定されることになる。
【0030】
繊維コードに付与する引っ張り荷重は、処理剤の塗布前や塗布中に付与していても処理剤が固化するときに付与していなければ、本発明の効果は得られない。また、処理剤が固化した後にのみ引っ張り荷重を付与しても、各ストランドおよびそれを構成する各フィラメントが整列しようとする動きが処理剤によって妨げられるので、本発明の効果は得られない。なお、上撚りをかける前に複数の第2のストランドを引き揃える段階で引っ張り荷重を付与した場合、および引き揃えた後に上撚りをかける段階で引っ張り荷重を付与した場合も若干の効果が得られる。
【0031】
コードに加える引っ張り荷重、すなわちコード1本あたりの外部引っ張り応力は、コードの引っ張り強度よりも小さい範囲で選択される。この引っ張り荷重が大きいほど、コードを構成する各ストランドの配置が均一になり、耐屈曲疲労性や引っ張り強度などの特性が良くなる。従って、コードに加える引っ張り荷重(外部引っ張り応力)の値は、コードの断面におけるガラスフィラメントの単位断面積(1mm)あたり、40〜800Nである。なお、この明細書では、ガラスフィラメントの断面積1mmあたりの引っ張り荷重を、[N/mm]の単位で表す。
【0032】
引っ張り荷重が40N/mm未満である場合には、十分な効果が得られない。また、引っ張り荷重が800N/mmより大きい場合には、製造設備への負担が大きくなるという問題がある。引っ張り荷重は、より好ましくは50〜500N/mmの範囲である。具体的には、Eガラス組成のフィラメントを用いたコードでは50〜300N/mmが好ましく、高強度ガラス組成のフィラメントを用いたコードでは50〜500N/mmが好ましい。コードの断面におけるガラスフィラメントの断面積は、コードを構成するガラスフィラメントの直径と本数から計算される。
【0033】
第2のストランドに処理剤を塗布し、引っ張り荷重を加えながら処理剤を固化させる方法としては、たとえば次の2つの方法が挙げられる。
【0034】
(1)まず、複数の第2のストランドを上撚りしてコードを作製し、ボビンに巻き取る。次に、そのコードをボビンから連続的に引き出して槽の中の処理剤に浸漬するように槽を通過させて、処理剤を塗布する。次に、そのコードを乾燥炉の中を通過させて処理剤を乾燥・固化させてボビンに巻き取る。このとき、乾燥炉の前後に一対の駆動ロールを配置し、乾燥炉を通過するコードに所定の引っ張り荷重がかかるように一方の駆動ロールの回転数を制御する。なお、塗布〜乾燥・固化の工程、またはコードの引き出し〜巻き取りの工程を通じて繊維コードに所定の引っ張り荷重を加えてもよい。
【0035】
(2)まず、上撚り機によって第2のストランドを上撚りすることによって連続的にコードを形成し、このコードを、上記(1)と同様に、槽の中の処理剤に浸漬するように槽を通過させる。次に、そのコードを、乾燥炉の中を通過させて処理剤を乾燥・固化させてボビンに巻き取る。このとき、上記(1)と同様の方法で、乾燥炉を通過するコードに所定の引っ張り荷重を加える。
【0036】
第2のストランドに塗布される処理剤としては、コードを強固に固めるものがよい。処理剤としては、RFL処理液、エポキシ化合物、イソシアネート化合物などの公知の接着剤を用いることができる。この処理剤は、補強用コードが埋め込まれるゴム製品のマトリックスゴムの種類に応じて選択することが好ましい。これらの処理剤の中でも、ハロゲン含有ポリマー系接着剤を含む処理剤は、水素化ニトリルゴム系のゴムとの接着性が高いという点で好ましい。ハロゲン含有ポリマー系接着剤としては、有機ジイソシアネート、クロロスルホン化ポリエチレンおよび芳香族ニトロソ化合物を含有するものが好ましく用いられる。この接着剤の好ましい一例は、固形分重量で表して、有機ジイソシアネートを10〜50重量%、クロロスルホン化ポリエチレンを10〜60重量%、および芳香族ニトロソ化合物を1〜20重量%含有する。ハロゲン含有ポリマー系接着剤としては、市販品、例えばロードコーポレーション社製「ケムロック402」(商品名)を用いてもよい。
【0037】
第2のストランドに塗布される処理剤の固形分重量は、第2のストランドの重量と処理剤の固形分重量との合計に対し、1.0〜15.0%の範囲にあることが好ましい。
【0038】
処理剤の固化の方法は、用いる処理剤の種類に応じて選択される。通常、乾燥による溶媒の除去や、熱処理によって処理剤を固化する。
【0039】
本発明のゴム製品は、ゴムを主要構成材料とする製品であり、本発明のゴム補強用コードによって補強されている。本発明のゴム製品に特に限定はないが、たとえば、ゴムベルトやゴムタイヤが挙げられる。歯付きベルトの一例の斜視図を、図1に模式的に示す。歯付きベルト10は、本体11と、本体11に埋め込まれた複数のコード12とを備える。本体11は、ゴム、またはゴムと他の材料とによって構成される。コード12は、本発明の補強用コードである。コード12を除く部分については、公知の部材を適用できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0041】
[実施例1]
まず、Eガラス組成のガラスフィラメント(直径9μm)を200本束ねて第1のストランドを作製した。次に、3本の第1のストランドを束ねて外径約0.15mmのストランドを形成し、これをRFL処理液に浸漬したのち、乾燥炉で乾燥することによって、約130texのストランド(引っ張り強度:80N/ストランド)を形成した。このとき、RFL処理液の付着量は、固形分重量で20重量%とした。RFL処理液は、レゾルシン−ホルムアルデヒド水溶性縮合物(レゾルシン/ホルムアルデヒド=1/1.5、固形分含量8重量%)30重量部と、ビニルピリジン−ブタジエン−スチレンターポリマーラテックス(日本ゼオン株式会社製、Nipol2518FS、固形分含量40重量%)30重量部と、ニトリル基含有高飽和重合体ゴムラテックス(日本ゼオン株式会社製、ゼットポールラテックス2020、ヨウ素価28、固形分含量40重量%)35重量部と、25%アンモニア水1重量部と、水4重量部との混合物を用いた。
【0042】
次に、上記ストランドをZ方向に2.0回/25mmの割合で下撚りすることによって、第2のストランドを得た。
【0043】
次に、11本の第2のストランドを引き揃え、2.0回/25mmの割合でZ方向に上撚りすることによってコードを作製した。次に、コードに50N/mmの引っ張り荷重を加えながら、ハロゲン含有ポリマー系処理剤を含む処理剤を塗布したのち、上記引っ張り荷重を加えながら乾燥炉で乾燥し、実施例1の補強用コード(番手:1440g/1000m)を得た。処理剤には、「ケムロック402」(商品名、ロードコーポレーション社製、固形分含量14.5重量%)をトルエンで希釈したものを用いた。コードに対する処理剤の付着量は3.5重量%(固形分)であった。また、乾燥は、80〜150℃で約1分間行った。引っ張り荷重は、送り出し側のロールと巻き取り側のロールとによって加えた。
【0044】
得られた補強用コードの断面図を図2に模式的に示す。補強用コード20は、撚り合わされた11本の第2のストランド21と、固化した処理剤22とによって構成される。それぞれの第2のストランド21は、撚り合わせされ前処理剤23で接着された3本の第1のストランド24によって構成される。実施例1の補強用コードの引っ張り強度を測定したところ、コード1本あたりの引っ張り強度は880Nであった。
【0045】
実施例1の補強用コードについて、コードを切断して撚り戻りの程度を評価した。具体的には、コード切断前とコード切断後5分の時点でのコード断面の直径(長径)を測定した。その結果、切断前も切断後もコードの直径は1.02mmであり、撚り戻りはほとんど生じなかった。
【0046】
次に、以下の方法でゴム補強用コードの特性を調べた。まず、表1に示す成分で形成されたマトリックスゴムのシート(幅10mm、長さ300mm、厚さ1mm)の上に、長さ300mmのゴム補強用コードを一本並べ、ついでその上に同じマトリックスゴムシートを重ねた。そして、この積層物の上下から150℃で20分間プレス加硫し、帯状の試験片を作製した。
【0047】
【表1】

【0048】
次に、この試験片(試験片33)を、図3に示すように、直径25mmの1個の平プーリ31と、モータ(図示せず)と、4個のガイドプーリ32とを備える屈曲試験機30にセットした。そして、試験片33の一端33aに錘をつけて試験片33に9.8Nの初期張力を与えた状態で、試験片33の他端33bをモータによって図の矢印の方向に10cmの距離を往復運動させた。このようにして、平プーリ31の部分で試験片33を繰り返し屈曲させた。
【0049】
試験片33を室温中で10,000回往復運動させたのち、耐屈曲疲労性を評価するために、屈曲試験後の引っ張り強度を測定した。そして、屈曲試験前の引っ張り強度(コード1本あたり)に対する屈曲試験後の引っ張り強度(コード1本あたり)の比率を、引っ張り強度保持率(%)として算出した。この引っ張り強度保持率の値が高いほど耐屈曲疲労性が優れていることを示す。実施例1の補強用コードでは、屈曲試験後の引っ張り強度保持率は97%であった。
【0050】
[実施例2]
第2のストランドに処理剤を塗布・乾燥させる時の引っ張り荷重を250N/mmに変更したことを除き、実施例1と同様にしてゴム補強用コードを作製した。そして、得られた補強用コードについて、実施例1と同様の方法で、引っ張り強度の測定、帯状試験片の作製および引っ張り強度保持率の測定を行った。
【0051】
また、実施例2の補強用コードについて、実施例1と同様に切断面の直径(長径)を測定して撚り戻りの程度を評価した。その結果、切断前も切断後もコードの直径は0.98mmであり、撚り戻りはほとんど生じなかった。
【0052】
[比較例1]
第2のストランドへ処理剤を塗布しなかったことを除き、実施例1と同様にしてゴム補強用コードを作製した。そして、得られた補強用コードについて、実施例1と同様の方法で、引っ張り強度の測定、帯状試験片の作製および引っ張り強度保持率の測定を行った。
【0053】
また、比較例1の補強用コードについて、実施例1と同様に切断面の直径(長径)を測定して撚り戻りの程度を評価した。その結果、コードの直径は、切断前は1.00mmで、切断後は1.56mmであった。このように、比較例1の補強用コードでは、撚り戻りが大きく生じた。
【0054】
[比較例2]
3本の第1のストランドの下撚りの方向をS方向に変更したことを除き、実施例1と同様にしてゴム補強用コードを作製した。そして、得られた補強用コードについて、実施例1と同様の方法で、引っ張り強度の測定、帯状試験片の作製および引っ張り強度保持率の測定を行った。
【0055】
また、比較例2の補強用コードについて、実施例1と同様に切断面の直径(長径)を測定して撚り戻りの程度を評価した。その結果、切断前も切断後もコードの直径は1.05mmであり、撚り戻りはほとんど生じなかった。
【0056】
[比較例3]
3本の第1のストランドの下撚りの方向をS方向とし、第2のストランドに処理剤を塗布しなかったことを除き、実施例1と同様にしてゴム補強用コードを作製した。そして、得られた補強用コードについて、実施例1と同様の方法で、引っ張り強度の測定、帯状試験片の作製および引っ張り強度保持率の測定を行った。
【0057】
また、比較例3の補強用コードについて、実施例1と同様に切断面の直径(長径)を測定して撚り戻りの程度を評価した。その結果、コードの直径は、切断前は0.98mmで、切断後は1.00mmであった。このように、比較例3の補強用コードでは、撚り戻りがわずかに生じた。
【0058】
[比較例4]
第2のストランドに処理剤を塗布・乾燥させる時の引っ張り荷重を30N/mmに変更したことを除き、実施例1と同様にしてゴム補強用コードを作製した。そして、得られた補強用コードについて、実施例1と同様の方法で、引っ張り強度の測定、帯状試験片の作製および引っ張り強度保持率の測定を行った。
【0059】
また、比較例4の補強用コードについて、実施例1と同様に切断面の直径(長径)を測定して撚り戻りの程度を評価した。その結果、切断前も切断後もコードの直径は1.05mmであり、撚り戻りはほとんど生じなかった。
【0060】
実施例1〜2および比較例1〜4の補強用コードについて、構成および評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例1〜2の補強用コードは、初期の引っ張り強度が880〜930N/コードと高く、屈曲試験後の引っ張り強度保持率も97〜99.5%と高かった。それに対して、下撚りと上撚りの方向が異なる比較例2および3の補強用コードは、初期の引っ張り強度は880〜890N/コードと高いものの、屈曲試験後の引っ張り強度保持率は48〜51%と低かった。また、処理剤の塗布・乾燥時の引っ張り荷重を30N/mmとして作製した比較例4の補強用コードは、屈曲試験後の引っ張り強度保持率は95%と高いものの、初期の引っ張り強度は850N/コードと低かった。また、処理剤を塗布しなかった比較例1の補強用コードは、初期の引っ張り強度は870N/コードと高かったが、屈曲試験後の引っ張り強度保持率は実施例1および2のコードに比べて低かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、ゴム補強用コードおよびその製造方法、ならびにそれを用いたゴム製品に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)補強用繊維としてガラスフィラメントを含む複数の第1のストランドを第1の方向に撚り合わせることによって第2のストランドを形成することと、
(ii)前記第1の方向と同じ方向に撚り合わせられた複数の前記第2のストランドと前記第2のストランドに塗布された処理剤とを含むコードを形成することと、
(iii)前記ガラスフィラメントの断面積1mmあたり40〜800Nの引っ張り荷重を前記コードに加えながら前記処理剤を固化させることによって、前記第2のストランド同士を接着することとを含むゴム補強用コードの製造方法。
【請求項2】
複数の前記第2のストランドを前記第1の方向と同じ方向に撚り合わせたのち前記処理剤を塗布することによって前記コードを形成する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記処理剤の固形分重量が、前記第2のストランドの重量と前記処理剤の固形分重量との合計に対して1.0〜15.0%の範囲にある請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1のストランドの前記ガラスフィラメントを前処理剤で被覆する工程を含み、
前記前処理剤の固形分重量が、前記ガラスフィラメントの重量と前記前処理剤の固形分重量との合計に対して5.0〜35.0%の範囲にある請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
複数の前記第1のストランドを0.5〜9.0回/25mmの割合で撚り合わせ、複数の前記第2のストランドを0.5〜9.0回/25mmの割合で撚り合わせる請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法で製造されたゴム補強用コード。
【請求項7】
請求項6に記載のゴム補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項8】
ゴムベルトである請求項7に記載のゴム製品。
【請求項9】
ゴムタイヤである請求項7に記載のゴム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【国際公開番号】WO2005/031063
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514193(P2005−514193)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013795
【国際出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】