説明

ゴム補強用スチールコード

【課題】 楕円オープンコードの低荷重域での引っ張りによるコード長手方向の伸びを抑制し、良好なゴム浸入性を維持する。
【解決手段】 素線径0.20〜0.45mmの1×3(1×4、1×5、1×6でもよい)の楕円オープン構造のスチールコード10の素線1,2,3の撚り込み長さ(供給長さ)を不均一とし、各素線1,2,3のコード横断面における長径側の螺旋幅D1,D2,D3をそれぞれ異ならせ(少なくとも1本の素線について他と異ならせてもよい)、D1,D2,D3の平均値Daveに対する、最大の螺旋幅Dmaxと最小の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveを0.01〜0.07とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤやベルト等のゴム製品の埋設補強材として使用するゴム補強用スチールコード、特に単層構造のオープン撚りで素線の螺旋形状が偏平な断面楕円のゴム補強用スチールコード(楕円オープンコード)に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤやベルト等のゴム製品に埋設するゴム補強用スチールコードとして、例えば3〜6本の素線(スチールフィラメント)を単層構造に撚り合わせた所謂1×n(n=3〜6)のスチールコードが従来から使用されている。この単層構造のスチールコードは、中心部がコード長手方向にストロー状の空隙となり、特に、素線同士を密着するよう稠密に撚り合わせたクローズ撚りの場合、コード中心部の空隙は閉ざされたものとなる。この場合、例えばタイヤ成形工程でスチールコードがゴムとの複合体となるときにそのコード中心部の空隙までゴムが浸透せず、コード中心部が中空部となって残ってしまうと、タイヤ表面の外傷からコード内部へ浸入した水分等が、中空部となったコード中心部の空隙に浸入して、それが毛細管現象によりコード内部を長手方向に浸透し、その結果、コード内部より腐食が進行し、スチールコードの耐疲労性を悪化させ、タイヤ寿命を縮めてしまう。そこで、単層構造のスチールコードにおいて、ゴム浸入性を確保するため、円形螺旋状に形付けした素線を素線同士が密着しないよう甘く撚り合わせたオープン撚り構造とすることが行われている。
【0003】
しかし、円形螺旋状に素線を形付けしたオープン撚りコードは、低荷重域での引っ張りによっても素線間の隙間が消えやすいため、例えばゴムシートにコードを挟み込むカレンダー工程やゴム製品の加硫工程でコードに張力が加わったときに、素線間の隙間が閉じてしまって、ゴム浸透性が損なわれる恐れがある。
【0004】
そこで、ゴム浸透性をより良好に維持できるコードとして、単層のオープン撚り構造で、素線の螺旋形状が偏平でコード横断面が略楕円形状のゴム補強用スチールコードが考えられた(例えば、特許文献1等参照)。この単層のオープン撚り構造で素線の螺旋形状が偏平なコード(楕円オープンコード)は、引張荷重がかかったときに素線同士が短径側で先に接触し、それが拘束となってコードの伸び変形が抑制されるために、長径側にゴムの浸入を許容する隙間が維持されやすく、そのため、断面円形のコードに比べて良好なゴム浸入性を維持できる。
【0005】
また、それとは別に、単層構造のスチールコードのゴム浸透性を確保する手段として、コード横断面が略楕円形で素線同士が互いに全く接触しない部分と、少なくとも2本の素線同士が接触する部分とがコード長手方向に交互に配列された構成のスチールコード(例えば、特許文献2、3等参照。)も知られているが、この場合、コードの形状安定性は良好になるものの、撚りの締まった部分が多すぎて十分なゴム浸入性は得られない。
【特許文献1】実開平1−62396号公報
【特許文献2】特開平2−91291号公報
【特許文献3】特開平10−266083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
単層構造のオープン撚りで、素線の螺旋形状を偏平としコード横断面が略楕円形状としたゴム補強用スチールコード(楕円オープンコード)は、素線の短径部が拘束となることによってコードの伸び変形が抑制されて長径部での隙間が維持されやすいため、断面円形のコードに比べてゴム浸入性が良いが、それでも、タイヤ製造時の例えばゴムシートにコードを挟み込むカレンダー工程でクリールスタンドにセットされたリールからコードを引き出す時の張力によっては、やはり素線間の隙間が小さくなり、ゴムが浸入できない状態になってしまう。
【0007】
したがって、単層構造のオープン撚りで素線の螺旋形状が偏平な断面楕円のゴム補強用スチールコード(楕円オープンコード)の低荷重域での引っ張りによるコード長手方向の伸びを抑制し、良好なゴム浸入性を維持できるようにすることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、単層構造のオープン撚りで素線の螺旋形状が偏平な断面楕円のゴム補強用スチールコード(楕円オープンコード)における各素線の撚り込み長さ(供給長さ)とゴム浸入性との関係に着目し、鋭意研究を重ねた結果、各素線の撚り込み長さ(供給長さ)にある程度の差を設けることで、素線によって螺旋幅に差ができ、低荷重が付加されてコード長手方向に伸びるときに、伸び量は同じでも螺旋幅の小さい素線は螺旋幅の大きい素線より伸びきった状態に近づいて伸びにくくなり(同じ量を伸ばすのに、より大きな引っ張り力が必要となる)、それによりコードの伸びが抑制され、螺旋幅の大きい素線は伸びきらないで素線間の隙間の減少が抑制されることを見出し、請求項1記載のゴム補強用スチールコードの発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明のゴム補強用スチールコードは、例えばタイヤやベルト等のゴム製品の埋設補強材として好適な、素線径が0.20〜0.45mmのスチールコードであって、n本(n=3〜6)の素線を各々螺旋状に形付けし単層で素線間に隙間ができるように撚り合わせた1×nのオープン撚り構造で、各素線の螺旋形状が偏平でコード横断面が略楕円形状のゴム補強用スチールコードにおいて、少なくとも1本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅が、他の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅と異なり、n本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅の平均値Daveに対する、コード横断面における長径側の螺旋幅が最大である素線の該長径側の螺旋幅Dmaxとコード横断面における長径側の螺旋幅が最小である素線の該長径側の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveが、0.01〜0.07であることを特徴とする。
【0010】
単層のオープン撚り構造で、各素線の螺旋形状が偏平でコード横断面が略楕円形状のスチールコード(楕円オープンコード)は、従来、各素線の撚り込み長さ(供給長さ)がほぼ均一で、その場合、低荷重域での張力付加時に各素線が同じように伸びていって、素線間の隙間が均等に減少するため、伸び変形が容易で、タイヤ製造時の例えばゴムシートにコードを挟み込むカレンダー工程でクリールスタンドにセットされたリールからコードを引き出す時の張力によっては、素線間の隙間が小さくなり、ゴムが浸入できない状態になってしまう。それに対し、本発明のスチールコードは、少なくとも1本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅が、他の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅と異なり、n本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅の平均値に対する、コード横断面における長径側の螺旋幅が最大である素線の該長径側の螺旋幅Dmaxとコード横断面における長径側の螺旋幅が最小である素線の該長径側の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveが、0.01〜0.07であって、この場合、少なくとも1本の素線と他の素線との間には撚り込み長さ(供給長さ)に所要の差があって、素線によって螺旋幅に差ができ、低荷重が付加されてコード長手方向に伸びるときに、伸び量は同じでも螺旋幅の小さい素線は螺旋幅の大きい素線より伸びきった状態に近づいて伸びにくくなり(同じ量を伸ばすのに、より大きな引っ張り力が必要となる)、それによりコードの伸びが抑制され、螺旋幅の大きい素線は伸びきらないで素線間の隙間の減少が抑制される。
【0011】
Dmax−Dminが0.01未満では、各素線の撚り込み長さ(供給長さ)がほぼ均一で、低荷重域での張力付加時に各素線が同じように伸びていって、素線間の隙間が均等に減少し、十分なゴム侵入性が得られない。また、Dmax−Dminが0.07よりも大きくなると、各素線の撚り込み長さ(供給長さ)のばらつきが大きくなりすぎて、コードの形状が均一に保たれなくなり(撚り形状が悪くなる)、また、耐疲労性が悪化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のスチールコードは、低荷重が付加されたとき、螺旋幅の小さい素線が螺旋幅の大きい素線より伸びにくいことによりコードの伸びが抑制され、そのため素線間の隙間の減少が抑制され、ゴムが浸入できる隙間が確保されて、良好なゴム浸入性を維持でき、水分等の浸入による腐食を防止できて耐疲労性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のスチールコードは、素線径が0.20〜0.45mmのn本(n=3〜6)の素線を各々螺旋状に形付けし単層で素線間に隙間ができるように撚り合わせた1×nのオープン撚り構造で、各素線の螺旋形状が偏平でコード横断面が略楕円形状のゴム補強用スチールコード(楕円オープンコード)である。このスチールコードは、例えばタイヤやベルトその他のゴム製品の埋設補強材として使用される。図1は、その一例としての、素線径が0.20〜0.45mmの3本の素線1,2,3を撚り合わせた所謂1×3構造のスチールコード10を模式的に示している。また、図2は、スチールコードをほぐした状態の素線を示している。
【0014】
このスチールコード10は、3本の素線1,2,3の撚り込み長さ(供給長さ)が不均一で、図2に示すように、各素線1,2,3のコード横断面における長径側の螺旋幅D1,D2,D3が、それぞれ互いに異なり(少なくとも1本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅が、他の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅と異なるものであってもよい。)、3本の素線1,2,3のコード横断面における長径側の螺旋幅D1,D2,D3の平均値Daveに対する、コード横断面における長径側の螺旋幅が最大である素線の該長径側の螺旋幅Dmaxとコード横断面における長径側の螺旋幅が最小である素線の該長径側の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveが、0.01〜0.07である。
【0015】
このスチールコード10は、各素線1,2,3のコード横断面における長径側の螺旋幅D1,D2,D3が、それぞれ互いに異なることにより、あるいは、少なくとも1本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅が、他の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅と異なることにより、低荷重が付加されたとき、螺旋幅の小さい素線が螺旋幅の大きい素線より伸びにくくなって、コードの伸びが抑制され、そのため素線間の隙間の減少が抑制される。そして、特に、3本の素線1,2,3のコード横断面における長径側の螺旋幅D1,D2,D3の平均値Daveに対する、コード横断面における長径側の螺旋幅が最大である素線の該長径側の螺旋幅Dmaxとコード横断面における長径側の螺旋幅が最小である素線の該長径側の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveが、0.01〜0.07であることにより、低張力付加時にも良好なゴム浸入性を維持でき、水分等の浸入による腐食を防止できて耐疲労性が向上する。
【0016】
図3は、1×3構造の楕円オープンコード(素線径が0.20〜0.45mm、短径に対し長径の平均値が1.15〜2.0)の素線撚り込み長さのバラツキと低荷重(5kg)付加時のゴム侵入性との関係を示している。低荷重付加時のゴム侵入性は、図3に示すように、(Dmax−Dmin)/Daveが0.01未満に相当する程度のバラツキでは良くなくて(ゴム浸入低)、(Dmax−Dmin)/Daveが0.01以上に相当するバラツキがあると顕著に向上する。ただし、(Dmax−Dmin)/Daveが0.07を越えると、コードの撚りが不安定となり、耐疲労性が悪化する。この低荷重付加時の素線撚り込み長さのバラツキとゴム侵入性との関係は、1×3に限らず、1×4、1×5、1×6の楕円オープンコードでもほぼ同様である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一例のスチールコードの模式側面図である。
【図2】本発明の一例のスチールコードをほぐした状態の素線の拡大図である。
【図3】楕円オープンコードの素線撚り込み長さのバラツキとゴム侵入性との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
1,2,3 素線
10 スチールコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n本(n=3〜6)の素線を各々螺旋状に形付けし単層で素線間に隙間ができるように撚り合わせた1×nのオープン撚り構造で、各素線の螺旋形状が偏平でコード横断面が略楕円形状のゴム補強用スチールコードにおいて、少なくとも1本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅が、他の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅と異なり、n本の素線のコード横断面における長径側の螺旋幅の平均値Daveに対する、コード横断面における長径側の螺旋幅が最大である素線の該長径側の螺旋幅Dmaxとコード横断面における長径側の螺旋幅が最小である素線の該長径側の螺旋幅Dminとの差の比:(Dmax−Dmin)/Daveが、0.01〜0.07であることを特徴とするゴム補強用スチールコード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−16705(P2006−16705A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192848(P2004−192848)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】