説明

サスペンション

【課題】従来のエアサスペンションは、底着きを防止するためにガス室内を高圧にしているが、ガス室内が高圧になっていることで、アウターボディとインナーチューブとに、それぞれ摺動するよう設けられたシール部材での摩擦抵抗が増え、滑らかな作動を妨げるという問題がある。一方、ガス室内の圧力を下げ、サスペンションの滑らかな作動を優先する場合は、全ストロークを使いきり、容易に底着きしてしまい、車両の走行の挙動が不安定になってしまうという問題がある。
【解決手段】アウターボディ内にインナーチューブがシール部材を介して摺動自在に挿入され、インナーチューブ内にアウターボディ側に取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッドを介して設けられたピストンバルブが取り付けられたダンパ部を有するサスペンションにおいて、磁石部材をピストンバルブ先端と、インナーチューブ内底部に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として二輪車のサスペンションに関し、サスペンション最圧縮時の底着きを防止または緩衝するための底着き防止機構を備えたサスペンションに関する。
【背景技術】
【0002】
路面から受ける振動を吸収するサスペンションとして、アウターボディ内にインナーチューブが摺動自在に挿入され、空気ばねまたは金属ばねを備え、インナーチューブ内にアウターボディ側に取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッド先端部にピストンバルブが取り付けられた、空気ばねまたは金属ばねの振動を減衰させるダンパを設けたサスペンションが知られている。また、フリーピストンやリザーバタンクを備えたものもある。
【0003】
サスペンションに大きな衝撃力が入力されて最圧縮状態になると底着きという現象が発生し、車両の走行の挙動が不安定になる。さらに、底着きはサスペンションの機構部品に損傷を与える場合がある。これらを避けるため、ストロークの限界部に底着き防止機構を設けることがある。例えば、特許文献1に開示のフロントフォークでは、最圧縮状態において、オイルロックケースとオイルロックピースを設けたオイルロック構造により、過剰な圧縮を阻止して衝撃力を受け止めるような構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−257066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1のようなオイルロック機構を備えたサスペンションは、機能上特に欠陥があるわけではない。しかし、従来のエアサスペンションでは次のような問題の改善が望まれている。
【0006】
従来のエアサスペンションは、アウターボディ内にガスを封入したガス室の容積変化と、それに伴う内部圧力の変化より、空気ばねとしての機能を得ているが、底着きを防止するためにガス室内を高圧にしている。
【0007】
アウターボディ内に設けられているガス室内が高圧になっていることで、アウターボディとインナーチューブとに、それぞれ摺動するよう設けられたシール部材での摩擦抵抗が増え、サスペンションの滑らかな作動を妨げるという問題がある。
【0008】
一方、ガス室内の圧力を下げ、サスペンションの滑らかな作動を優先する場合は、全ストロークを使いきり、容易に底着きしてしまい、車両の走行挙動が不安定になってしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来の構成が有していた問題を解決しようとするものであり、アウターボディ内ガス室が、従来に比べて低圧であっても底着きを防止または緩衝可能な構成を備えたサスペンションを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、本発明は上記目的を達成するために、請求項1の発明は、アウターボディ内にインナーチューブがシール部材を介して摺動自在に挿入され、インナーチューブ内にアウターボディ側に取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッドを介して設けられたピストンバルブが取り付けられたダンパ部を有するサスペンションにおいて、磁石部材をピストンバルブ先端と、インナーチューブ内底部に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とするサスペンションである。
【0011】
請求項2の発明は、磁石部材をアウターボディ挿入側のインナーチューブ端部と、最圧縮時にインナーチューブ端部と近傍となるアウターボディ内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションである。
【0012】
請求項3の発明は、インナーチューブ内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションである。
【0013】
請求項4の発明は、リザーバタンクと、リザーバタンク内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンと、リザーバタンクのコンプレッションアジャスタに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンションである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、アウターボディ内にインナーチューブがシール部材を介して摺動自在に挿入され、インナーチューブ内にアウターボディ側に取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッドを介して設けられたピストンバルブが取り付けられたダンパ部を有するサスペンションにおいて、磁石部材をピストンバルブ先端と、インナーチューブ内底部に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成されている。従って最圧縮時において、サスペンションストロークの最終部に設けられた永久磁石または電磁石からなる磁石部材間の反発力により、アウターボディ内ガス室が低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明に加え、磁石部材をアウターボディ挿入側のインナーチューブ端部と、最圧縮時にインナーチューブ端部と近傍となるアウターボディ内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成している。従って、磁石部材間に発生する反発力は、請求項1よりも大きく、よりアウターボディ内ガス室が低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1の発明に加え、インナーチューブ内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成している。インナーチューブ内のオイル室とガス室はフリーピストンで区画されるので、液面とガスの境界面による設置方向の制限は無い。フリーピストンに設けられた磁石部材と、請求項1におけるピストンバルブ先端と、インナーチューブ内底部に設けられた磁石部材間で発生する反発力により、よりアウターボディ内ガス室が低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0017】
請求項4の発明によれば、請求項1の発明に加え、リザーバタンクと、リザーバタンク内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンと、リザーバタンクのコンプレッションアジャスタに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成している。また、リザーバタンク内に、オイル室とガス室とを区画するフリーピストンを備えているので、液面とガスの境界面によるサスペンションの設置方向の制限は無い。リザーバタンクのコンプレッションアジャスタに設けられた磁石部材と、リザーバタンク内に設けられたフリーピストンの磁石部材との位置を、コンプレッションアジャスタで調整することにより、反発力を任意に変更することができるので、反発力の調整が可能になる。また、請求項1同様、アウターボディ内ガス室が低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0018】
従って、請求項1、2、3、4の発明によれば、アウターボディ内ガス室のガス圧を従来に比べて低く設定することが可能になり、アウターボディとインナーチューブとに、それぞれ摺動するよう設けられたシール部材での摩擦抵抗が軽減し、滑らかな作動が期待できる。
【0019】
また、請求項1、2、3、4の発明によれば、最圧縮状態において、磁石部材間の反発力により、乗り心地とストローク奥での腰感または踏ん張り感の向上が期待できる。
【0020】
さらに、磁石部材を電磁石として設けた場合、電磁石の磁力を電気的に制御することで、ストローク奥での腰感または踏ん張り感の調整が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の請求項1を実施した自転車用リアサスペンションの一部切欠き縦断正面図である。
【図2】本発明の請求項2を実施した自転車用リアサスペンションの一部切欠き縦断正面図である。
【図3】本発明の請求項3を実施したフリーピストンを備えた自転車用リアサスペンションの一部切欠き縦断正面図である。
【図4】本発明の請求項4を実施したフリーピストンとリザーバタンクを備えた自転車用リアサスペンションの一部切欠き縦断正面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る二輪車用フロントフォークの一部切欠き縦断正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明するが、本発明は種々のサスペンションに適用することができ、また主として二輪車のサスペンションに関するものである。よって、自転車に実装されるリアサスペンションに本発明を実施した形態を図1〜3に示し、各図に基づいて説明する。また、二輪車の前輪部に実装されるサスペンションである、フロントフォークに本発明を実施した例を図4に示す。
【0023】
図1は本発明を自転車のリアサスペンションに実施した一実施形態を示す。このリアサスペンションは、従来と同じく、アウターボディ1a内にインナーチューブ2aがシール部材9a、9bを介して摺動自在に挿入され、アウターボディ1a内は高圧のガスが満たされており、インナーチューブ2a内は、オイル室4とガス室5a、5bを備え、オイル室4内にはアウターボディ1a側に取り付けられたピストンロッド6aと、ピストンロッド6aを介して設けられたピストンバルブ8aとが備えられている。
【0024】
ピストンバルブ8aは、インナーチューブ2a内のオイル室4をオイル室上部4aとオイル室下部4bの2室に区画している。そして、ピストンバルブ8aには、図示はしないが、オイルが上記2室間を移動するためのオイル経路が設けられている。また、オイル経路にはオイル通過の際、減衰力を発生する要素を備えており、例えば、オリフィスやリーフバルブやポート等を備えたピストンバルブ8aを採用できる。
【0025】
本発明では、さらに、磁石部材7a、7bをピストンバルブ8a先端と、インナーチューブ2a内底部に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成している。
【0026】
また、図2のように磁石部材7c、7dをアウターボディ1a挿入側のインナーチューブ2a端部と、最圧縮時にインナーチューブ2a端部と近傍となるアウターボディ1a内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成してもよい。
【0027】
さらに、図3のように、インナーチューブ2a内をオイル室4とガス室5cとに区画するフリーピストン3aを備えた構成においては、磁石部材7eをフリーピストン3aに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成してもよい。また、インナーチューブ2a内に備えられたフリーピストン3aは、インナーチューブ2a内に摺動自在に挿入される。
【0028】
加えて、図4のように、リザーバタンク10と、リザーバタンク10内をオイル室4とガス室5dとに区画するフリーピストン3bを備えた構成においては、磁石部材7f、7gをフリーピストン3bと、リザーバタンク10のコンプレッションアジャスタ11に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成してもよい。また、リザーバタンク10内に備えられたフリーピストン3bは、リザーバタンク10内に摺動自在に挿入される。
【0029】
上記した各磁石部材7a、7b、7c、7d、7e、7f、7gの各配置場所への取り付け方法は任意であるが、磁石部材の磁力を弱めないよう、取り付けに関わる部材は磁性体を用いず、また、接着剤を用いて磁石部材を取り付けるのもひとつの方法である。さらに、磁石部材の近傍に磁性体を配置しないのが望ましい。
【0030】
以下、上記構成の共通動作を図1に基づいて説明する。上記サスペンションの圧縮作動時には、アウターボディ1aを固定側として見ると、インナーチューブ2aがアウターボディ1aに進入するとともに、アウターボディ1a内のガス室5aに封入されているガスが圧縮される。同時にピストンバルブ8aがインナーチューブ2a底部に近づく。
【0031】
また、オイル室上部4aのオイルがピストンバルブ8aを介してオイル室下部4bに移動し、圧側減衰力を発生する。また、インナーチューブ2a内のガス室5bは空気ばね部として作用する。
【0032】
圧縮作動後に続く伸長作動時には、アウターボディ1aを固定側として見ると、インナーチューブ2aが上昇し、この時、オイル室下部4bのオイルがピストンバルブ8aを介してオイル室上部4aに流出し、伸側減衰力を発生する。
【0033】
次に、請求項ごとの構成の動作を説明する。まず、請求項1についての動作を図1に基づいて説明する。圧縮動作が最圧縮状態近傍に近づくにつれ、ピストンバルブ8a先端と、インナーチューブ2a内底部に設けられた磁石部材7a、7bの間隔が狭まるので、磁石部材間で反発力が強くはたらき、アウターボディ1a内ガス室5aが低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0034】
また、請求項2についての動作を図2に基づいて説明する。圧縮作動時は請求項1の動作に加えて、請求項2では、磁石部材7c、7dをアウターボディ1a挿入側のインナーチューブ2端部と、最圧縮時にインナーチューブ2a端部と近傍となるアウターボディ1a内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成しているので、磁石部材間に発生する反発力は、請求項1よりも大きく、よりアウターボディ1a内ガス室5aが低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0035】
請求項3についての動作を図3に基づいて説明する。圧縮作動時は請求項1の動作に加えて、請求項3では、ピストンロッド6aがインナーチューブ2a内に進入すると、進入したピストンロッド6aの体積分だけフリーピストン3aが移動し容積を確保する。インナーチューブ2a内のオイル室4とガス室5cはフリーピストン3aで区画されるので、液面とガスの境界面による設置方向の制限は無い。フリーピストン3aに設けられた磁石部材7eと、請求項1におけるピストンバルブ8a先端と、インナーチューブ2a内底部に設けられた磁石部材間で発生する反発力により、よりアウターボディ1a内ガス室5aが低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0036】
請求項4についての動作を図4に基づいて説明する。圧縮作動時は請求項1の動作に加えて、請求項4では、ピストンロッド6aがインナーチューブ2a内に進入すると、進入したピストンロッド6aの体積分だけリザーバタンク10内のフリーピストン3bが移動し容積を確保する。また、リザーバタンク10内に、オイル室4とガス室5dとを区画するフリーピストン3bを備えているので、液面とガスの境界面によるサスペンションの設置方向の制限は無い。リザーバタンク10のコンプレッションアジャスタ11に設けられた磁石部材7gと、リザーバタンク10内に設けられたフリーピストン3bの磁石部材7fとの位置を、コンプレッションアジャスタ11で調整することにより、反発力を任意に変更することができるので、反発力の調整が可能になる。また、請求項1同様、アウターボディ1a内のガス室5aが低圧であっても、過剰な圧縮すなわち底着きを防止あるいは緩衝することが期待できる。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、最圧縮状態近傍において、磁石部材間の反発力により、底着きを防止または緩衝することができるため、アウターボディ1a内のガス室5aのガス圧を従来に比べて低く設定することが可能になり、アウターボディ1aとインナーチューブ2aとに、それぞれ摺動するよう設けられたシール部材9a、9bでの摩擦抵抗が軽減し、滑らかな作動が期待できる。
【0038】
また、磁石部材間の反発力により、乗り心地とストローク奥での腰感または踏ん張り感の向上が期待できる。
【0039】
さらに磁石部材を電磁石として設けた場合、電磁石の磁力を電気的に制御することで、ストローク奥での腰感または踏ん張り感の調整が可能になる。
【実施例】
【0040】
図5は本発明をフロントフォークに実施した例である。磁石部材7h、7kをアウターボディ1b挿入側のインナーチューブ2b端部と、最圧縮時にインナーチューブ2b端部と近傍となるアウターボディ1b内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成している。従って、一サスペンションであるフロントフォークにも本発明の効果を期待できる。
【符号の説明】
【0041】
1a、1b アウターボディ
2a、2b インナーチューブ
3a、3b フリーピストン
4 オイル室
4a オイル室上部
4b オイル室下部
5a、5b、5c ガス室
6a、6b ピストンロッド
7a、7b、7c、7d、7e、7f、7g、7h、7k 磁石部材
8a、8b ピストンバルブ
9a、9b シール部材
10 リザーバタンク
11 コンプレッションアジャスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターボディ内にインナーチューブがシール部材を介して摺動自在に挿入され、インナーチューブ内にアウターボディ側に取り付けられたピストンロッドと、ピストンロッドを介して設けられたピストンバルブが取り付けられたダンパ部を有するサスペンションにおいて、磁石部材をピストンバルブ先端と、インナーチューブ内底部に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とするサスペンション。
【請求項2】
磁石部材をアウターボディ挿入側のインナーチューブ端部と、最圧縮時にインナーチューブ端部と近傍となるアウターボディ内に設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション。
【請求項3】
インナーチューブ内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション。
【請求項4】
リザーバタンクと、リザーバタンク内をオイル室とガス室とに区画するフリーピストンを備え、磁石部材をフリーピストンと、リザーバタンクのコンプレッションアジャスタに設け、磁石部材間に反発力が発生するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のサスペンション。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−163550(P2011−163550A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45845(P2010−45845)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(310001584)
【Fターム(参考)】