説明

サブマージアーク溶接用複合ワイヤ

【課題】 構造物の高強度化に伴い要求される溶接金属の高靭性化を可能とし、高速溶接及び高溶接作業性の溶接を可能とするサブマージアーク溶接用複合ワイヤを提供する。
【解決手段】 鋼製外皮と充填フラックスからなるサブマージアーク溶接用複合ワイヤは、前記フラックス中に、フラックス全質量あたり、90質量%以上の金属粉を含有し、フラックスの比表面積が0.02乃至0.10m/gであると共に、前記フラックスが、ワイヤ全質量に対して10乃至30質量%充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブマージアーク溶接用複合ワイヤに関し、特に高張力鋼の高速溶接に好適なサブマージアーク溶接用複合ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高張力鋼は、圧力容器及び水圧鉄管等に広く使用されているが、近時、溶接構造物の大型化に伴って、板厚を薄くすることによる使用鋼材量の低減を図るために、更に一層の高張力鋼溶接構造物の高強度化が進められている。また、溶接の高能率化を目的に、溶接速度の高速化も進められている。溶接構造物の高強度化のためには、溶接金属部の高強度化が重要である。
【0003】
そこで、従来の高張力鋼用サブマージアーク溶接ワイヤとしては、溶接金属部の高強度化を目的に、Mn,Ni,Mo等の合金成分を含有し、更に、ワイヤ形態としては、主にソリッドワイヤが使用されている。しかし、溶接構造物の更に一層の高強度化のために、ソリッドワイヤの合金成分量が増大し、ワイヤ強度自体が高強度となっている。このため、溶接ワイヤ製造時のワイヤの伸線加工の際に、焼鈍等の熱処理によりワイヤ強度の低減を図ってはいるものの、このような方法も工業生産的には限界に近づきつつある。このような高強度のソリッドワイヤを使用して高速溶接を行おうとすると、ワイヤ送給が不安定となり、安定した溶接ビードが得られないという問題が生じる。このように、高強度のソリッドワイヤは生産性及び溶接性が低下し、これらを容易に解決することはできない。そこで、これらの問題点を改善するために、複合ワイヤを使用することが有効であると考えられる。
【0004】
このサブマージアーク溶接用ワイヤとして、複合ワイヤを使用した従来技術が、例えば、特許文献1(特開昭48−85443号公報)、特許文献2(特開昭49−103858号公報)及び特許文献3(特開昭61−242791号公報)に開示されている。これらの特許文献に記載されたサブマージアーク溶接用複合ワイヤは、いずれもソリッドワイヤに比べてワイヤそのものの強度の低減が図られており、ワイヤが硬いことによる製造困難性及びワイヤ送給性低下に関しては、改善が認められる。
【0005】
特許文献1に記載された複合ワイヤは、充填するフラックスとして、強塩基性スラグ形成成分を大量に含有したものであり、特許文献1には、これと組み合わせて中性フラックス又は弱塩基性フラックスを使用することにより、溶接作業性を悪化させることなく、高速溶接と高靭性を満足できると記載されている。
【0006】
特許文献2には、充填するフラックスとしてCaFを主体として含み、CaCOを更に含有することにより、溶接作業性が改善されると記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、シームレスフラックス入りワイヤとすることで、溶接時にワイヤ先端が溶接線から外れることと、ワイヤのねじれ及び充填するフラックスの突き出しが改善されたと記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭48−85443号公報
【特許文献2】特開昭49−103858号公報
【特許文献3】特開昭61−242791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の従来技術においては、これらの複合ワイヤを使用したときの溶接品質及び溶接作業性については、近年のより一層の高能率化及び高靭性化の要求に対しては、不十分のままである。即ち、特許文献1に開示されている従来技術においては、溶接金属中の酸素量は、組合せフラックスの影響が大きく、中性フラックス又は弱塩基性フラックスを使用した場合、酸素量の大幅な低減には限界があった。即ち、高靭性化の要求に対し、上述の特許文献1に記載の方法では、高速溶接及び高靭性を満足できるものではない。また、特許文献2に開示されている従来の技術においては、溶接作業性に及ぼす充填フラックス特性の影響が解明されておらず、溶接品質及び溶接作業性が不十分である。また、特許文献3に開示されている従来技術は、鋼製帯板上にフラックスを供給し、その後、帯板をその幅方向に丸めていき、フラックスを内部に閉じこめた状態で、帯板をパイプ状にした複合ワイヤの場合(シームを有する複合ワイヤの場合)に上記問題点が生じるという根拠のもとに、これをシームレスワイヤにすることにより改善したものであるから、シームを有するワイヤの場合は、適用できない。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、構造物の高強度化に伴い要求される溶接金属の高靭性化を可能とし、高速溶接及び高溶接作業性の溶接を可能とするサブマージアーク溶接用複合ワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るサブマージアーク溶接用複合ワイヤは、鋼製外皮とこの外皮内に充填されたフラックスとからなるサブマージアーク溶接用複合ワイヤにおいて、前記フラックスは、フラックス全質量あたり、90質量%以上の金属粉を含有し、前記フラックスの比表面積が0.02乃至0.10m/gであると共に、前記フラックスが、ワイヤ全質量に対して10乃至30質量%充填されていることを特徴とする。
【0012】
このサブマージアーク溶接用複合ワイヤにおいて、水分量の合計がワイヤ全質量に対して0.04質量%以下であることが好ましい。また、複合ワイヤの引張り強度が300乃至750N/mmであることが好ましい。更に、前記フラックスは、フラックス全質量あたり、2質量%以上のSiC粉を含有することが好ましい。更にまた、前記フラックスは、フラックス全質量あたり、0.1質量%以上のポリテトラフルオロエチレンを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充填フラックスの比表面積を0.02乃至0.10m/gと小さくすることにより、アークの集中性が向上し、溶け込み形状が深くなり、十分な溶け込みが得られてアンダカット等の溶接不良が防止される。また、本発明においては、金属粉がフラックス全質量あたり90質量%以上含有されているので、ガス発生量が過剰にならず、ポックマークの発生が防止される。よって、本発明によれば、高速溶接しても、高靭性で高品質の溶接金属を得ることができ、また溶接作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るサブマージアーク溶接用複合ワイヤについて具体的に説明する。本発明者らが、ガスシールドアーク溶接用複合ワイヤ用の充填フラックスを使用して複合ワイヤを製造し、高張力鋼を溶接したところ、同じ化学成分のソリッドワイヤを使用して高張力鋼を溶接した場合と比較して、溶接ビード幅が広がり、溶込みが浅くなり、更にアンダカットが認められた。従って、同じ板厚の高張力鋼を溶接する場合、ソリッドワイヤと比較して溶込みを得るために入熱を高くしなければならず、靭性の劣化及び余盛が過大となる虞がある。そこで、本発明者等は、入熱を過剰に高くすることなく、溶け込みを深くする方法について、鋭意実験研究した結果、充填フラックスの比表面積を小さくすればよいことを見いだした。本発明はこのような知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
即ち、ガスシールドアーク溶接用複合ワイヤで使用されているような充填フラックスの比表面積は、0.5乃至5m/g程度であり、本発明の0.02乃至0.10m/gよりもはるかに大きい値である。しかし、サブマージアーク溶接に複合ワイヤを使用する場合、フラックスの比表面積が大きいと、アーク熱が充填フラックスの溶融に奪われやすくなり、アーク集中性が悪くなるため溶込みが浅くなる。これに対し、充填フラックスの比表面積が小さいと、アーク集中性がよくなり、溶込み形状が深くなる。
【0016】
そこで、本発明においては、フラックスとして、比表面積が0.02乃至0.10m/gであるものを使用する。また、フラックスの成分として、フラックス全質量あたり、90質量%以上の金属粉を含有するものを使用し、フラックス率(フラックスの充填割合)はワイヤ全質量に対して10乃至30質量%とする。この場合に、水分量の合計がワイヤ全質量に対して0.04質量%以下であることが好ましい。また、複合ワイヤの引張り強度は、300乃至750N/mmであることが好ましい。更に、充填フラックスは、フラックス全質量あたり、2質量%以上のSiC粉を含有することが好ましい。更にまた、前記フラックスは、フラックス全質量あたり、0.1質量%以上のポリテトラフルオロエチレンを含有することが好ましい。次に、上記各構成の数値限定理由について説明する。
【0017】
「充填フラックス比表面積:0.02乃至0.10m/g」
前述の通り、充填フラックスの比表面積は、溶込み形状に大きく影響を及ぼす。充填フラックスの比表面積が0.10m/gを超えると溶込み形状が浅くなる。一方、比表面積が0.02m/g未満であると、製造時にフラックスの偏析が起こりやすくなり、フラックス率の変動が大きくなる等、品質が安定しなくなる。従って、充填フラックスの比表面積は0.02乃至0.10m/gとする。比表面積は一般的には粒径が細かいほど大きい。また、比表面積は粒形状によっても影響を受ける。即ち、同じ原料でも、製造方法により粒径及び粒形状が異なり、比表面積が異なってくる。そこで、種々の製造方法により製造された比表面積が異なる種々の原料粉の中から、配合割合を調整して原料粉を選択すれば、充填フラックスの比表面積を所望のものに調整することができる。
【0018】
「フラックス率:ワイヤ全質量に対して10乃至30質量%」
充填フラックスの割合が、ワイヤ全質量に対して10質量%未満であると、目的の構造物の高強度化に対して必要な合金成分が不足する。一方、充填フラックスの割合が、ワイヤ全質量に対して30質量%を超えると、シーム有りワイヤの場合に成形が難しくなる。このため、本発明は充填フラックスの割合を、ワイヤ全質量に対して10乃至30質量%の範囲として、複合ワイヤを製造する。
【0019】
「充填フラックス中の金属粉の割合:フラックス全質量あたり90質量%以上」
充填フラックスとしては、金属粉、スラグ形成剤及びガス発生剤等がある。このうち、金属粉は溶接金属の強度及び靭性を確保するために添加され、また、金属粉は脱酸作用を有するため、本発明の充填フラックスとしてその主体となるものである。なお、この金属粉とは、純金属、鉄合金、金属の合金及び金属の炭化物を含むものである。スラグ形成剤は、各種の酸化物であり、サブマージアーク溶接に適用する場合、組み合わせフラックスで調整することが可能であるうえ、大気中の水分を吸着しやすい成分も多い。従って、スラグ形成剤は添加しないことが望ましい。また、ガス発生剤としては、フッ化物及び炭酸塩がある。これらは、アーク熱により分解し、ガスを発生するため、大気中の窒素ガス及び水素の侵入を防ぐ効果がある反面、大気中の水分と水和物を作りやすい成分でもあり、ワイヤ中の水分そのものを高くしてしまう虞もある。そして、ガス発生剤は、過剰に添加するとガス発生量が過大となり、ポックマークが発生する。従って、本発明においては、充填フラックスとして金属粉を90質量%以上を含み、スラグ形成剤及びガス発生剤の合計量は10質量%未満とする。
【0020】
「水分量:ワイヤ全質量の0.04質量%以下」
前述の如く、ガスシールドアーク溶接用複合ワイヤ用を使用してサブマージアーク溶接した場合に、アンダカットが生じたが、これは、アークが不安定であることと、高速溶接のために溶融池が不安定になったことに起因する。そこで、前述の如く、充填フラックスの比表面積を本発明の範囲に規定することにより、アークの集中性がよくなり、アンダカットもある程度抑制される。しかし、本発明者等が更に検討した結果、ワイヤ水分量を管理することで、アンダカットの発生を更に一層抑制できることを見出した。アンダカットの原因は、溶接時に、ワイヤ中の充填フラックスの水分が気化し、気化した水分によりアークの安定性が損ねられ、これにより溶融池が不安定となった結果、アンダカットが発生したものと考えられる。従って、アンダカットの抑制には、充填フラックスの水分量を低減することが好ましい。本発明者等が種々実験研究した結果、充填フラックスの水分量をワイヤ全質量の0.04質量%以下とすることにより、アンダカットの低減効果が得られることを見いだした。なお、ワイヤ水分量の測定方法は、ワイヤから充填フラックスを取り出し、110℃に1時間加熱して乾燥したときの加熱前後の質量変化と、そのワイヤのフラックス率とから算出することができる。又は、ワイヤ水分量の値は、フラックスの各原料毎の水分を上述のように加熱前後の質量変化から測定し、下記数式1に基づいて算出することができる。
【0021】
【数1】

【0022】
「ワイヤの引張り強度:300乃至750N/mm
複合ワイヤとすることで、同じ化学成分のソリッドワイヤと比較して大幅なワイヤ強度の低下が可能となった。しかし、帯鋼の強度が低いものを使用するとワイヤ強度が低くなりすぎるため、高速溶接時にビートが蛇行する傾向が認められた。ワイヤ強度を300N/mm以上にするとワイヤのねじれも抑えられ、ワイヤ先端が溶接ねらい位置からずれる所謂センターずれは認められず、ビード蛇行も抑制される。一方、帯鋼の強度が高すぎると、ワイヤ製造時に帯鋼を幅方向に丸めていく成形工程が困難となり、またワイヤ断線が発生するため、ワイヤの引張り強度は750N/mmを超えないようにする。よって、ワイヤの引張り強度は300乃至750N/mmとすることが好ましい。なお、生産性を考慮すると、ワイヤ強度は、600N/mm以下がより好ましい。このようなワイヤの引張強度の調節は、帯鋼の鋼種を変更する他、フラックス率を変更することによっても行うことができる。フラックス率が小さくなると、ワイヤ断面積に対して帯鋼断面積の割合が大きくなるので、ワイヤ強度は大きくなる。
【0023】
「充填フラックス中のSiCの割合:フラックス全質量あたり2質量%以上」
前述の如く、充填フラックスの比表面積を本発明の範囲に規定することにより、溶け込み形状の改善が認められ、実用上は問題ない溶け込み形状が得られる。しかし、ソリッドワイヤと比較した場合、溶け込み形状が若干浅くなる傾向が認められており、本発明者等が更に検討を行った結果、充填フラックスとしてSiC粉を添加すると、より溶け込み形状が深くなることが明らかとなった。SiC粉を充填フラックス全量に対して2質量%以上含有すると、ソリッドワイヤと同等レベルの溶け込みが得られる。従って、充填フラックス全質量に対してSiC粉を2質量%以上含有することが好ましい。
【0024】
「充填フラックス中のポリテトラフルオロエチレン:フラックス全質量あたり0.1質量%以上」
溶込み形状を改善するためには、上述のごとくSiC粉を添加することが有効であるが、SiC粉は、溶接金属中にC及びSiとしてある程度含まれてしまう。従って、フラックスへのSiCの添加は、場合によっては、溶接金属の成分設計に制約を与えてしまうことが考えられる。そこで、本発明者らが更に検討を重ねた結果、ポリテトラフルオロエチレンを添加することで、溶込み形状の改善が可能となることを見出した。ポリテトラフルオロエチレンはCであり、アーク熱により分解したCがアークの集中性を高め、深い溶込み形状が得られると考えられる。また、ポリテトラフルオロエチレンのC及びFは、アーク熱により分解してガスとなるため、溶接金属中に含まれることは殆どないと考えられる。このため、溶接金属の成分設計に制約を与えることなく、ポリテトラフルオロエチレンの添加が可能である。溶込み形状改善の効果を得るためには、フラックス全質量あたりポリテトラフルオロエチレンを0.1質量%以上含有することが好ましいが、アーク熱によりガスを発生させるため、前述の如く、フラックス中の金属粉は90質量%以上とし、金属粉でないポリテトラフルオロエチレンについては、10質量%以下となる。ポリテトラフルオロエチレンが10%を超えると、発生ガスが過剰となり、ポックマークが発生する。なお、ポリテトラフルオロエチレンは安定した成分であり、大気中の水分と反応して水和物をつくることもほとんどなく、水分量は極めて少ない。
【0025】
SiC粉は、溶接金属のC及びSiの成分調整と溶込み形状の改善を同時に行うことができるメリットがある。一方で、ポリテトラフルオロエチレンは、溶接金属成分への影響を与えることなく、溶込み形状の改善が可能である。従って、溶接金属の成分設計及び原料コスト等を考慮し、適宜、SiC粉及びポリテトラフルオロエチレンの添加を選択可能であり、また、SiC粉及びポリテトラフルオロエチレンを共添してもよい。
【0026】
本発明は、ソリッドワイヤではワイヤ生産性が低下するような合金系、特に、その成分を含むと製造が困難になるような合金成分を多く含む成分系のワイヤの実用化に有益である。つまり、本発明は、ワイヤ組成として、例えば、C:0.07乃至0.40質量%、Si:≦2.0質量%及びMn:1.0乃至8.0質量%を含有し、Cu:3.5質量%以下、Ni:10.0質量%以下、Cr:10.0質量%以下、Mo:10.0質量%以下、V:1.0質量%以下、Ti:1.0質量%以下、B:1.0質量%以下、Mg:1.0質量%以下、Al:1.0質量%以下、Nb:1.0質量%以下、Zr:1.0質量%以下、Ca:1.0質量%以下のうち少なくとも1種又は2種以上を0.5質量%以上含み、かつ下記数式で表されるPCMが0.30%以上であり、更に、P:0.04質量%以下、S:0.04質量%以下に抑制し、残部は10質量%未満の非金属粉と、Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する複合ワイヤとして構成することができる。
PCM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5×B(%)
【0027】
なお、本発明は、複合ワイヤの構造は限定されず、バット型、ラップ型、シームレス型、溶接シーム型のいずれのタイプにも適用することができる。
【実施例】
【0028】
次に、本発明の効果を実証するために、本発明の範囲に入る実施例と、本発明の範囲から外れる比較例とについて、その特性を比較して説明する。図1はビード蛇行の判断基準を示す模式図、図2は開先形状及び電極配置を示す模式図である。
【0029】
表1及び表2は、使用した複合ワイヤの充填フラックスの配合割合を示す。また、表3は、複合ワイヤの製造に使用した帯鋼の組成を示し、表4は、使用した複合ワイヤの構成及び特性を示す。この表4に示す複合ワイヤの直径は4.0mmである。また、表4において、フラックス率は、ワイヤ全質量に対する充填フラックスの割合であり、水分量はワイヤ全質量に対する充填フラックスの水分量である。なお、複合ワイヤを製造するために使用した帯鋼は、厚さが0.9mm、幅が13mmであり、フラックス率は表4に記載されているとおりであるが、比較例16以外はフラックス率の変動幅を3%以内で管理した。また、フラックス率はワイヤ全質量に対する充填フラックスの割合であり、水分量はワイヤ全質量に対する充填フラックスの水分の割合である。なお、フェロマンガンA、フェロマンガンB及びフェロマンガンCは夫々水分量が異なる。また、鉄粉A、鉄粉B、鉄粉C及び鉄粉Dも水分量が相互に異なるものである。更に、フェロチタンA及びフェロチタンBも水分量が異なるものである。表1及び表2において、金属粉でないものは、フッ化カルシウム及び炭酸カルシウムである。よって、金属粉の割合は、合計量100%から、このフッ化カルシウム、炭酸カルシウム及びポリテトラフルオロエチレンの量を差し引けば求まる。表4にこの金属粉の割合を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
図2(a)は、継手形状を示す。溶接母材3の突き合わせ端部に、V字状の開先3を形成し、図2(b)に示すように、先行ワイヤ6に5°の後退角度をもたせ、後行ワイヤ5に10°の前進角度をもたせて、2電極溶接を実施した。溶接母材3の板厚は16mm、開先深さは6mm、試験溶接長は1.5mであった。また、2電極の極間距離は20mmである。なお、溶接ワイヤの引張り強度を下記表5に示す。
【0035】
下記表6は供試鋼板の組成を示し、表7は供試フラックスの配合割合を示し、表8は溶接条件を示す。このような条件でサブマージアーク溶接した結果、溶込み及びアンダカットの有無を前記表4に併せて示す。また、溶接ワイヤ製品としての品質(フラックス率の変動)も表4に示す。溶込み深さの判断基準は、ソリッドワイヤと同等となる9mm以上の場合を○とし、7mm以上9mm未満の場合を△とし、7mm未満を×とした。アンダカットの基準は、アンダカットが認められない場合を○、アンダカットの深さが0.3mm以下の場合を△、アンダカットの深さが0.3mmを超えるものを×とした。
【0036】
製品品質については、フラックス率の変動幅が3%以下(管理範囲内)のものを○、3%を超えるものを×とした。原料粉の水分量は、110℃に1時間加熱して乾燥させたときの乾燥前後の質量変化から前述の如くして算出した。比表面積はユアサアイオニックス社製 NOVA2200 ガス吸着装置により、JIS R 1626に準拠して測定した。
【0037】
また、下記表5に示すように、ワイヤ強度が異なる複合ワイヤについて、溶接試験を行い、ビート蛇行程度を試験した。その評価基準は、図1に示すように、試験溶接長1.5mについて、溶接ビード2の振れ幅1が3mm以下の場合を○、振れ幅1が3mmを超える場合を×とした。また、生産性は他のワイヤに比して10%低い場合を△、伸線時に断線が発生した場合を×とした。
【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
【表8】

【0042】
表1、2、4中の実施例1乃至15及び実施例20乃至25が本発明の請求項1の範囲に入る例であり、比較例16乃至19及び比較例26が本発明の請求項1の範囲から外れる例である。但し、実施例14及び15は本発明の請求項2から外れ、実施例12及び13は請求項4から外れ、実施例1乃至15は請求項5から外れる。また、実施例24及び25は請求項1のみを満足する。実施例1乃至15及び20乃至25においては、溶接作業性が良好であり、製品品質(フラックス率の変動幅)も良好であった。一方、比較例16においては、充填フラックスの比表面積が0.02m/g未満であるため、フラックス率の変動幅が3%を超えて、製品品質が安定しなかった。比較例17及び18においては、充填フラックスの比表面積が0.10m/gを超えているため、溶込みが浅いうえ、アンダカットが発生した。比較例19及び26では、充填フラックス中の金属粉の割合が90%未満であるため、ポックマークが発生した。なお、実施例14,15は、水分量が0.041%と多いため、浅いアンダカット(深さが0.3mm以下)が発生した。また、実施例12及び13は、SiCが2質量%以上ではないので、溶け込みが若干不足した。更に、実施例24及び25は、水分量が多く、SiC及びポリテトラフルオロエチレンを含まないため、溶け込みが若干不足し、浅いアンダカットが発生した。これに対し、実施例1乃至11及び20乃至23は、溶接作業性及び製品品質の他、アンダカット及び溶け込みの全てが良好であった。
【0043】
また、表5中の実施例A乃至Eがワイヤ強度が本発明の請求項3の範囲に入る例、比較例F,Gが本発明の請求項3の範囲から外れる例である。なお、フラックス組成は、表1及び2の実施例1のものである。実施例A乃至Eは、製造時の生産性が問題となるレベルではなく、溶接ビードの蛇行も認められなかった。一方、比較例Fでは、ワイヤ強度が300N/mm未満であるため、溶接ビードの蛇行が生じた。比較例Gでは、ワイヤ強度が750N/mmを超えているため、伸線時に断線が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の複合ワイヤは、高張力鋼の高速サブマージアーク溶接に適用することができ、る。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】ビート蛇行の評価基準を示す模式図である。
【図2】(a)は開先形状を示し、(b)は電極配置を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1:溶接ビード
2:振れ幅
3:供試鋼板
4:開先
5:電極T
6:電極L

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製外皮とこの外皮内に充填されたフラックスとからなるサブマージアーク溶接用複合ワイヤにおいて、前記フラックスは、フラックス全質量あたり、90質量%以上の金属粉を含有し、前記フラックスの比表面積が0.02乃至0.10m/gであると共に、前記フラックスが、ワイヤ全質量に対して10乃至30質量%充填されていることを特徴とするサブマージアーク溶接用複合ワイヤ。
【請求項2】
水分量の合計がワイヤ全質量に対して0.04質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のサブマージアーク溶接用複合ワイヤ。
【請求項3】
引張り強度が300乃至750N/mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のサブマージアーク溶接用複合ワイヤ。
【請求項4】
前記フラックスは、フラックス全質量あたり、2質量%以上のSiC粉を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接用複合ワイヤ。
【請求項5】
前記フラックスは、フラックス全質量あたり、0.1質量%以上のポリテトラフルオロエチレンを含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のサブマージアーク溶接用複合ワイヤ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−142377(P2006−142377A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72380(P2005−72380)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】