説明

サンゴ由来の炎症、アレルギー性疾患治療薬

【課題】本発明の目的は一酸化窒素(NO)の過剰産生を阻害する薬物、および、NOの過剰産生あるいは発現が関与する疾患(炎症、アレルギー性疾患等)の治療薬を提供することである。
【解決手段】サンゴから単離された式(A)で表されるセンブランジテルペンは、細胞による一酸化炭素産生を抑制することができ、炎症およびアレルギー性疾患の予防または治療薬として有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症、アレルギー性疾患治療薬に関し、特に、海洋生物由来のジテルペノイドを有効成分とする新規な炎症、アレルギー性疾患治療薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1986年に一酸化窒素(NO)が生体内において内皮由来弛緩因子(endothelium derived relaxing factor: EDRF)として発見され、NOは循環調節上重要な役割を担っていると考えられた。R.M.J. Palmer等 [Nature, 327, 524 (1986)]、L.J. Ignarro等 [Pro. Natl. Acad.Sci., 84, 96254 (1987)]。その後NOが多岐にわたり生理学的または、病理学的に動脈硬化、虚血後再灌流時の障害、敗血症やエンドトキシンショック、サイトカイン誘導NO過剰産生に伴う血圧低下、関節炎を含む炎症性組織障害などに関与している事が知られ、さらに近年の研究においてNO過剰産生が癌の血管新生、増殖速度や無酸素血症の悪化に深く関与している事も報告されているT.M. Dawson等 [Ann. Neurol., 32, 297 (1992)]、P.L. Feldman等 [Chem. Eng. News, 20, 26 (1993)]、J.F. Kerwin等 [J. Med. Chem., 38, 4342 (1995)]、S. Moncada等 [Pharmacol Rev., 43, 109 (1991)]、J.B. Hibbs等 [J. Immunol., 138, 550 (1987)]、A.K. Nussler等 [J. Leukocyte. Biol., 54, 171 (1993)]、L. Salerno等 [Curr. Pharm. Des., 8, 1774 (2002)]。そのため、NOが関与する疾患の治療や病態改善のために様々なNO阻害剤の開発が盛んに行われてきた。NOは、L-アルギニンと酸素分子から一酸化窒素合成酵素(NOS)が触媒として働き、反応中間体としてNω-ヒドロキシ-L-アルギニンを経てL-シトルリンと共に生成される。NOSは電子供与体としてNADPH(還元型nicotinamide adenine dinucleotide phospate)を必要とする。NOSには、NOS-1:神経型(nNOS)、NOS-2:誘導型(iNOS)、NOS-3:内皮型(eNOS)から構成される三種のアイソフォームが存在していることが知られ、さらにNOS-1とNOS-3はそれぞれ神経細胞、血管内皮細胞、血小板などの細胞中に常在し、Ca+/カルモジュリンによって活性化されてNOを構成的(constitutive)に発現していることから、cNOSとしても認知されている。またiNOSはマクロファージ、好中球、肝実質細胞においてCa+/カルモジュリンに非依存的に種々のサイトカイン(IFN-γ、IL-1、TNF-α) や細菌性毒素のリポポリサッカライド(LPS)などのエンドトキシンによりNF-κBを活性化しiNOSの転写を促進して誘導的に産生される事が知られている。
【0003】
NOの過剰産生により細胞障害が生じる場合、NOS阻害剤は障害抑制的に作用し臨床的に有用な可能性が示唆される。特にiNOSはエンドトキシンショック時に誘導され、NOを大量に産生し細胞障害性に機能することが知られ、一方eNOSは血流の維持に関与し、細胞保護的に作用することが知られている。従ってeNOSよりiNOSに選択的に作用するNOS阻害剤が期待されるなど、その阻害剤の選択性が重要であると考えられる。以上のことから、iNOSの特異的阻害剤は、炎症などに起因する種々の病態に対する改善効果が期待できる Y. Hirata等 [季刊化学総説;NO 化学と生物, 30, 161 (1996)、学会出版センター]。
【0004】
近年、増加の一途をたどるアトピー性皮膚炎、喘息、花粉症発症などのアレルギー疾患が大きな社会問題となっている。アレルギー反応には、関与する免疫担当細胞や免疫グロブリンによりI型からIV型までに分類されている。アレルギー性接触皮膚炎などの疾患はIV型アレルギーに属し、T細胞が関与する遅延型の反応で、ランゲルハンス細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞を介して抗原情報が伝達された感作T細胞が、種々のサイトカインを放出し、これによって好酸球やマクロファージの集積により遅延型の炎症反応が起こる。IV型アレルギー性疾患には、ステロイド剤をも用いた外用療法などが用いられ、T細胞やマクロファージに働き、サイトカインの産生を抑制する作用を有し、湿疹の治療に特効的な効果を発揮している。しかしながら、ステロイド剤は大量または長期間使用する場合、全身的には副腎皮質機能低下、局所的には皮膚萎縮、潮紅、毛細血管拡張等の重篤な副作用を引き起こす可能性が高く、安全性に問題がある。従って、これらのステロイド剤などに変わる副作用の少ない、安全な新規薬剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R.M.J. Palmer等 [Nature, 327, 524 (1986)]
【非特許文献2】L.J. Ignarro等 [Pro. Natl. Acad.Sci., 84, 96254 (1987)]
【非特許文献3】T.M. Dawson等 [Ann. Neurol., 32, 297 (1992)]
【非特許文献4】P.L. Feldman等 [Chem. Eng. News, 20, 26 (1993)]
【非特許文献5】J.F. Kerwin等 [J. Med. Chem., 38, 4342 (1995)]
【非特許文献6】S. Moncada等 [Pharmacol Rev., 43, 109 (1991)]
【非特許文献7】J.B. Hibbs等 [J. Immunol., 138, 550 (1987)]
【非特許文献8】A.K. Nussler等 [J. Leukocyte. Biol., 54, 171 (1993)]
【非特許文献9】L. Salerno等 [Curr. Pharm. Des., 8, 1774 (2002)]
【非特許文献10】Y. Hirata等 [季刊化学総説;NO 化学と生物, 30, 161 (1996)、学会出版センター]
【非特許文献11】S. Cheng等 [Tetrahedron, 64, 9698-9704 (2008)]
【非特許文献12】B.F. Bowden等 [Aust.J.Chem. 31, 1303 (1978)]
【非特許文献13】Y. Yamada等 [Chem.Pharm.Bull. 27, 2394 (1979)]
【非特許文献14】Y. Yamada等 [Tetrahedron Lett. 21, 3911 (1980)]
【非特許文献15】K. Iguchi等 [Chem.Lett., 319 (1991)]
【非特許文献16】B.F. Bowden等 [Aust.J.Chem. 31, 1303 (1978)]
【非特許文献17】M. Kobayashi等 [Chem.Pharm.Bull. 35, 2314 (1987)]
【非特許文献18】T. Kusumi等 [Tetrahedron Lett. 29, 4731 (1988)]
【非特許文献19】Y. Uchio等 [Tetrahedron Lett. 26, 4487 (1985)]
【非特許文献20】T. Kusumi等 [Tetrahedron Lett. 29, 4731 (1988)]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、一酸化窒素(NO)の過剰産生を阻害する薬物、および、NOの過剰産生あるいは発現が関与する疾患(炎症、アレルギー性疾患等)の治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、リポポリサッカライド(LPS)刺激により惹起されるマクロファージ様細胞株(RAW264.7)でのNO産生を抑制する活性を指標として用い、日本近海に生息する海洋生物を対象に化合物の探索と評価を行なった。その結果、沖縄近海に生息するソフトコーラル(Lobophytum crassum)から3種のセンブラン型ジテルペノイドを単離し、その化学構造を解明し、かつこれら3種の化合物及びその誘導体が優れたNO産生抑制活性およびオキサゾロン誘発耳介浮腫抑制活性を有することを見出した。
【0008】
本発明に従えば、下記の式(A)で表されるセンブランジテルペンまたはその薬理学上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする、炎症の予防または治療薬、アレルギー性疾患の予防または治療薬、および一酸化窒素産生抑制剤が提供される。
【0009】
【化1】

[式中、Aは
【化2】

であり;
#1および#2はそれぞれ、式(A)における#1で指示される炭素との結合位置および#2で指示される炭素との結合位置を示し;
X1およびX2は互いに独立に、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20のアルキル基である]
【0010】
式(A)で表される化合物には、
ロボフィトールアセテート (X1=アセチル基):
【化3】

【0011】
センブラノイドC:
【化4】

【0012】
デンティクラトライド (X2=アセチル基):
【化5】

として知られる公知化合物が包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、天然物に由来する化合物を有効成分とする、炎症の予防または治療薬、アレルギー性疾患の予防または治療薬、および一酸化窒素(NO)の細胞による産生の抑制剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1−1】ロボフィトールアセテートを作用させた場合の、コントロールと比較したNO産生率を示す。
【図1−2】センブラノイドCを作用させた場合の、コントロールと比較したNO産生率を示す。
【図1−3】デンティクラトライドを作用させた場合の、コントロールと比較したNO産生率を示す。
【図1−4】ノルマルヘキサン抽出エキスを作用させた場合の、コントロールと比較したNO産生率を示す。
【図2−1】ロボフィトールアセテート存在条件での細胞生存率を示す。
【図2−2】センブラノイドC存在条件での細胞生存率を示す。
【図2−3】デンティクラトライド存在条件での細胞生存率を示す。
【図2−4】ノルマルヘキサン抽出エキス存在条件での細胞生存率を示す。
【図3】各薬物のiNOSタンパク質発現抑制活性を示す。
【図4】LPS 投与によるGCSF、IL-12、MCP-1の増加に対する、各薬物による抑制効果を示す。
【図5】各薬物を投与したときのGCSF、IL-12、MCP-1の量を、薬物を投与しない場合と比較した割合を示す
【図6−1】各薬物を皮膚に塗布した場合の、耳介重量に基づき算出された耳介浮腫率を示す。
【図6−2】各薬物を皮膚に塗布した場合の、耳介厚さに基づき算出された耳介浮腫率を示す。
【図7−1】各薬物を腹腔内投与した場合の、耳介重量に基づき算出された耳介浮腫率を示す。
【図7−2】各薬物を腹腔内投与した場合の、耳介厚さに基づき算出された耳介浮腫率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1. 活性成分
ロボフィトールアセテート(lobophytol acetate: 式1)はB.F. Bowden等 [Aust.J.Chem. 31, 1303 (1978)]、Y. Yamada等 [Chem.Pharm.Bull. 27, 2394 (1979)]、Y. Yamada等 [Tetrahedron Lett. 21, 3911 (1980)]、K. Iguchi等 [Chem.Lett., 319 (1991)]により報告例があるが、現在までに本発明の物質がNO産生抑制作用を有するという報告はない。また、センブラノイドC(cembranoid C: 式2)はB.F. Bowden等 [Aust.J.Chem. 31, 1303 (1978)]、M. Kobayashi等 [Chem.Pharm.Bull. 35, 2314 (1987)]、T. Kusumi等 [Tetrahedron Lett. 29, 4731 (1988)]により報告例があるが、現在までに本発明の物質がNO産生抑制作用を有するという報告はない。また、デンティクラトライド(denticulatolide: 式3)はY. Uchio等 [Tetrahedron Lett. 26, 4487 (1985)]、T. Kusumi等 [Tetrahedron Lett. 29, 4731 (1988)]により報告例があるが、現在までに本発明の物質がNO産生抑制作用を有するという報告はない。
【0016】
一方、S. Cheng等 [Tetrahedron, 64, 9698-9704 (2008)]には、ソフトコーラル(Lobophytum drum)抽出物に含まれる複数の化合物が抗炎症作用を有していることが記載されている。しかしながら当該文献では、上記式(A)で表される骨格を有する三種類の化合物がNO産生抑制作用、抗炎症作用、アレルギー症状抑制作用を有することは一切示唆されていない。
【0017】
本発明で用いられるロボフィトールアセテート、センブラノイドC、およびデンティクラトライドはソフトコーラル(Lobophytum carssum, Lobophytum pauciflorum, Lobophytum denticulatum, Sinularia mayi)より高収量で得られるため、タキソールをはじめとする多くの天然物由来の医薬品開発にとって障壁となる原料供給に関する問題も克服できる。
【0018】
抽出方法は特に限定されないが、例えば、Lobophytum carssum等のソフトコーラルを一辺が10〜20cm程度の大きさになるように切断し、断片を有機溶媒により抽出して抽出液を得る。得られた抽出液をカラムクロマトグラフィーに供し、ロボフィトールアセテート、センブラノイドC、およびデンティクラトライドを精製物として得ることができる。抽出用の有機溶媒としては、ノルマルヘキサン等の非極性有機溶媒が特に好ましいが、ジエチルエーテル、エタノール、メタノール、アセトン等の極性有機溶媒を使用することもできる。非極性有機溶媒による抽出物は後述するカラムクロマトグラフィーによる精製が容易である。カラムクロマトグラフィーとしては、シリカゲルカラムクロマトグラフィーが特に好ましいが、高分解能有機溶媒系ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)も使用することができる。カラムクロマトグラフィーによる精製を行っていない、Lobophytum carssum等のソフトコーラルの上記有機溶媒による抽出物自体も本発明が目的とする活性を有する。
【0019】
更に、ロボフィトールアセテート(式(1))を誘導体化して、式(A)のAが
【化6】

[X1は、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である]
である化合物を製造することができる。誘導体化の方法としては、ロボフィトールアセテートをK2CO3/EtOHもしくは0.1M NaOMe/MeOHで室温下で攪拌することにより脱アセチル化してX1が水素原子の脱アセチル化体を得て、更に必要に応じて、該脱アセチル化体の水酸基を脂肪族カルボン酸(R-C(=O)-OH)によりエステル化することにより、X1が-(C=O)-Rであるエステル化体を製造する方法が挙げられる。
【0020】
また、デンティクラトライド(式(3))を誘導体化して、式(A)のAが
【化7】

[X2は、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である]
である化合物を製造することができる。誘導体化の方法はロボフィトールアセテートの誘導体化と同様の方法が挙げられる。
【0021】
ロボフィトールアセテートもしくは上記ロボフィトールアセテート誘導体、センブラノイドC、またはデンティクラトライドもしくは上記デンティクラトライド誘導体は薬理学上許容される塩の形態で使用されてもよい。適用可能な塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等の金属との塩が挙げられる。
【0022】
ロボフィトールアセテート、上記ロボフィトールアセテート誘導体、センブラノイドC、デンティクラトライド、および上記デンティクラトライド誘導体は、それぞれ単独で本発明の用途に使用することもできるし、2種以上組み合わせて本発明の用途に使用することもできる。
【0023】
2.用途
ロボフィトールアセテートもしくは上記ロボフィトールアセテート誘導体、センブラノイドC、またはデンティクラトライドもしくは上記デンティクラトライド誘導体は、細胞においてリポ多糖(LPS)により惹起される一酸化窒素(NO)の産生を抑制することができる。従って、本発明のNO産生抑制剤は、NOの過剰産生が関与する各種疾患の治療または予防の用途に使用することができる。このような疾患としては、例えば、アレルギー性疾患、炎症、敗血症性ショック、SLE(全身性エリテマトーデス)、RA(慢性関節リウマチ)などの膠原病、動脈硬化、インスリン抵抗性糖尿病などの代謝性疾患や多発性硬化症、移植、ウィルス性肝炎、HIV感染などの各種感染症が挙げられる。以下に示す実施例では特に、ロボフィトールアセテート、センブラノイドC、およびデンティクラトライドが、炎症およびアレルギー性疾患の予防または治療に使用できることが確認されている。
【0024】
本発明の用途では、ロボフィトールアセテートもしくは上記ロボフィトールアセテート誘導体、センブラノイドC、またはデンティクラトライドもしくは上記デンティクラトライド誘導体はそれぞれ、粗精製物または精製物の形態でそのまま使用されてもよいし、薬学的に許容される担体、賦形剤などと組み合わせた医薬組成物として使用されてもよい。医薬組成物に含まれる担体、賦形剤は公知のものを使用することができる。医薬組成物の形態としては特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、液剤等の経口投与用製剤であってもよいし、注射剤、坐剤、皮膚外用剤(例えば経皮吸収剤、貼付剤、軟膏剤)等の非経口投与用製剤であってもよい。
【0025】
投与方法は、経口投与であっても非経口投与であってもよいが、特に経口投与、経皮投与、静脈内投与が好ましく、経口投与及び経皮投与が最も好ましい。
投与対象は、ヒト等の哺乳動物であることが好ましい。
【0026】
投与量は投与対象、投与経路、症状などによっても異なるが、例えば、成人には1日あたり通常0.1mg/kg〜40mg/kg体重程度、好ましくは0.5mg/kg〜20mg/kg体重程度である。
【0027】
本発明のNO産生抑制剤はまた、細胞によるNOの産生を試験管内(in vitro)において抑制するための試薬として用いることもできる。この場合に本発明のNO産生抑制剤が与えられる細胞は特に限定されず、試験の目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明に従う炎症、アレルギー性疾患治療薬の特徴を更に具体的に明らかにするため実施例を示す。
製造例1:センブランジテルペンの調製
沖縄県本部町瀬底島、水深1〜2mで採取したソフトコーラル(Lobophytum crassum)15kgを10〜20センチ角に切断しそのままノルマルヘキサン15Lで、12時間、室温で抽出し、ろ過後、残査をさらにノルマルヘキサン15Lで2回抽出し、ろ過後、ろ液を併せ、減圧下溶媒留去し、ノルマルヘキサン抽出エキス90.38gを得た。このノルマルヘキサン抽出エキス1.47gをシリカゲル(Silica gel 60、メルク社、2.5×55cm,150g)を用いてカラムクロマトグラフィーに付し、ノルマルヘキサン/酢酸エチル(4:1→0:1)で溶出し得られた分画(各10mL)を薄層クロマトグラフィー(シリカゲ60 F254、メルク社)により検討し、10個のフラクションFr.1(200.3mg)、Fr.2(61.5mg)、Fr.3(234.0mg)、Fr.4(89.8mg)、Fr.5(72.1mg)、Fr.6(78.2mg)、Fr.7(422.9mg)、Fr.8(43.7mg)、Fr.9(23.5mg)、Fr.10(148.6mg)に分画した。このうちFr.7をロボフィトールアセテート式(1)と同定した。また、Fr.3(170.0 mg)をクロロホルムに溶解し、高分解能有機溶媒系GPCカラム(JAIGEL-1H+JAIGEL-2H, 内径20mm、長さ600mm,日本分析工業)を用いたリサイクル分取HPLC(LC-9201、日本分析工業)でクロロホルムを溶媒に用い10回リサイクルを行い、Fr.3-1(28.8mg)とFr.3-2(112.6mg)に分離した。Fr.3-2はセンブラノイドC式(2)、Fr.3-1はデンティクラトライド式(3)と同定した。同定データは以下のとおりである。
【0029】
ロボフィトールアセテート 式(1)
比旋光度:[α]D28、-82.0°(CHCl3, c=0.9)、マススペクトル(EI-MS);m/z=374(M)+,赤外吸収スペクトル(IR,CHCl3, cm-1);1760, 1730,1695,1660; 紫外吸収スペクトル(UV,EtOH,λmax)207 nm; 13C-NMR (150MHz, CDCl3)δ(ppm): 15.0(q), 15.4(q), 21.0(q), 23.4(t), 24.8(t), 29.1(q), 34.4(t), 37.9(d), 38.9(t), 39.9(t), 57.5(d), 70.3(d), 76.1(d), 118.9(d), 121.5(t), 126.2(q), 133.5(s), 139.0(s), 145.7(s), 169.8(s),170.9(s), 209.0(s)。
【0030】
センブラノイドC 式(2)
比旋光度:[α]D28、-5.0°(CHCl3, c=0.9)、マススペクトル(EI-MS);m/z=330(M)+,赤外吸収スペクトル(IR,CHCl3, cm-1);1755, 1705, 1660; 13C-NMR (100MHz, CDCl3)δ(ppm): 12.2(q), 14.7(q), 15.2(q), 23.8(t), 24.2(t), 35.5(t), 36.4(t), 36.8(d), 39.9(t), 60.7(d), 63.5(s), 77.0(s), 118.8(d), 120.8(t), 125.9(d), 133.2(s), 138.0(s), 145.3(s), 170.0(s), 207.0(s)。
【0031】
デンティクラトライド 式(3)
比旋光度:[α]D28、-20.0°(CHCl3, c=0.9)、マススペクトル(EI-MS);m/z=390(M)+13C-NMR (125MHz, CDCl3)δ(ppm): 16.4(q), 19.6(q), 21.0(q), 24.4(q), 24.8(t), 26.0(t), 28.1(t), 31.0(t), 35.5(t), 44.5(d), 70.2(d), 79.3(d), 80.0(s), 84.3(d), 121.4(t), 123.2(d), 125.4(d), 135.3(s), 138.4(s), 140.1(s), 170.4(s), 170.5(s)。
【0032】
試験例1:NO産生抑制試験
RAW264.7 (RCB0535, 理研細胞バンク)は、10 % FBS (IWAKI)、2 % penicillin-streptomycine (GibcoBRL)および1 % NEAA (非必須アミノ酸)(GibcoBRL.)を添加したDMEM (GibcoBRL)培地で5 % CO2 中37℃のインキュベーター (Thermo Bio Analysis)において継代培養した。
【0033】
96穴マイクロプレート (NALGE NUNC)の各ウェルにRAW264.7 cell (1.0×106 cell/well)を160 μlずつ加え、24時間培養した。その後、培地を取り除き、フェノールレッドを含まないDMEM (GibcoBRL)で調製した培地160 μlに入れ替え、1 μg/ml LPS (リポ多糖) (Wako) 20 μlを添加して刺激を与えた。3時間培養後、各濃度に希釈した薬物又は各濃度に希釈した製造例1のノルマルヘキサン抽出エキス(20 μl)で処理し、さらに20時間培養後、上清100 μlを新しい96穴マイクロプレートに移し、Griess試薬 (Wako) 1 %水溶液(100 μl)を加え10分静観後、プレートリーダー(Immuno Mini NJ-2300、Nunc)を用いて540 nmの吸光度を測定した。
【0034】
図1-1〜図1-4には、各薬物又はノルマルヘキサン抽出エキスを所定濃度で添加した場合の、LPS刺激に対するRAW264.7からのNO産生量を薬物無添加時と比較した割合(NO産生率)を示す。各薬物のサンプルについてn=6で試験した。図1-1〜1-4において、それぞれ標準偏差を算出しエラーバーとして表示した。また、NO産生率は以下の式により算出した。各薬物の50%NO産生抑制濃度(NO産生率が50%となるときの薬物濃度)を表1に示す。
NO産生率 (%) =[OD540](LPS + 薬物)/[OD540]LPSx 100
【0035】
【表1】

【0036】
試験例2:細胞毒性試験
細胞毒性試験は試験例1の上澄みを除去した後の細胞含有培地(100 μl)に10μlのMTS試薬(CellTiter 96, Promega)を添加し、更に2時間培養後プレートリーダーを用い490nmの吸光度を測定した。各薬物又はノルマルヘキサン抽出エキスで処理したRAW264.7の細胞生存率を図2-1〜2-4に示す。
【0037】
試験例3:iNOSタンパク質の発現抑制試験
10 cm シャーレ (NALGE NUNC, NY, U.S.A.)にRAW264.7 cell (1.0×106 cell/well)を4 mlずつ加え、24時間培養する。その後、培地を取り除き、フェノールレッドを含まないDMEM (GibcoBRL, GrandIsland, NY, U.S.A.)で調製した培地4 mlに入れ替え、0.4 mg/ml LPS (リポ多糖) (Wako, Osaka, Japan) 10 μlを添加して刺激を与えた。LPS添加3時間後にDMSOで各濃度に希釈した薬物(10μl)で処理し、さらに9時間培養後、細胞を回収し100μlの M-PER Mammalian Protein Extraction Reagent (PIERCE, Rockford, U.S.A.)でタンパク質の抽出を行った。Laemmli Sample Buffer (BIO-RAD, CA, U.S.A.)にβ-メルカプトエタノール19:1の割合で調製したsample bufferにタンパク質抽出溶液を1:2の割合で混合調製した。調整後、95℃、5分間の熱処理によりジスルフィド結合の解裂を行い、その後5-20 % gradient gel (ATTO, Tokyo, Japan)に薬物を15μl/laneアプライ後、250 V、20 mA/gel、75分の条件で泳動した。電気泳動槽にはAE-6530P (ATTO, Tokyo, Japan)、電源装置にはAE-8130 (ATTO, Tokyo, Japan)、泳動buffer (Tris: 3.0 g, Glycine: 14.4 g, SDS: 1.0 g in 1 L dH2O)、分子量マーカーにはプレシジョンplusブルースタンダード(BIO-RAD, CA, U.S.A.)を用いた。PVDF: AE-6665クリアブロットP膜8.5×9 cm (ATTO, Tokyo, Japan)をMeOHに20秒浸した後、B液 (Tris: 0.6 g, MeOH: 40 ml, dH2O: 160 ml)に30分浸す。同時に、アブソーベントペーパー: CB09A8.5×9 cm (ATTO, Tokyo, Japan) をA液 (Tris: 3.64 g, MeOH: 20 ml, dH2O: 80 ml)に2枚、B液に1枚、C液 (Tris: 0.6 g, MeOH: 40 ml, dH2O: 160 ml, H3BO3でpH 9.5に調製)に3枚浸す。SDS-PAGE終了後、gelをプレートから剥がしC液に浸す、その後電極をA液で浸し陽極(下側)からアブソーベントペーパー(A液)2枚、アブソーベントペーパー(B液)1枚、PVDF膜、gel、アブソーベントペーパー(C液)3枚の順に重ねる。気泡が入らないように陰極(上側)の電極をおろす。ブロッティング装置にはAE-6677S (ATTO, Tokyo, Japan)を用い、電源装置には(AE-8130 ATTO, Tokyo, Japan)を用い、150 mA、25 V、45分の条件で行った。Blotting終了後のPVDF膜を1 mLのTPBS [TWEEN 20 (ICN, Ohio, U.S.A.)を加えた PBS (NaCl: 137 mM, Na2HPO4anhydrous: 8.1 mM, KCl: 2.68 mM, KH2PO4: 1.47 mM, dH2O: 1L)]中で室温で5分間浸盪を3回繰り返す。その後、PVDF膜を5 % Skim Milk Powder (WAKO, Osaka, Japan)にて1時間室温浸盪によりブロッキングを行う。ブロッキング後、TPBS (5 mins×3)によりブロッキング液の洗い流しを行う。さらに、1次抗体による結合反応を2時間室温浸盪により行い、TPBS (5 mins×3)に洗い流しを行う。その後、Anti-Mouse IgG, HRP linked whole antibody (Amersham)による2次抗体反応を行い、TPBS (5 mins×3)により洗浄後、ECL Plus Western Blotting Detection System (Amercham)による発色反応を行う。iNOSタンパクの1次抗体にはpurified Mouse anti-iNOS/NOS typeII Mab (BD transduction laboratories, U.S.A)を用いた。PVDF膜は、発色基質添加後Hyper filmTMECL (Amersham) をHyper cassette (Amersham)内にて露光し、developer and replenisher (Kodak)、glacial acetic acid (Kishida chemical, Osaka, Japan)、 fixer and replenisher (Kodak)の順に浸し現像を行った。各薬物で処理した時のRAW264.7におけるiNOSタンパク質発現抑制効果を図3に示す。また、各薬物の50%iNOS発現抑制濃度(iNOS発現率が50%となるときの薬物濃度)を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
試験例4:抗体アレイによる血中サイトカインの変動解析
生後5週齢のマウス(CH3/HeNJcl,♀、クレア)を6週齢まで飼育し、25μg/kg LPSを腹腔内投与し、1時間後にロボフィトールアセテート(式1)及びセンブラノイドC(式2)を0.5%カルボキシメチルセルロース溶液に溶解し50mg/kg及び100mg/kg腹腔内及び経口投与した。投与2時間後、眼窩静脈叢より約0.1mLの採血を行い、RayBio社製のMouse Cytokine Antibody Array付属の取り扱い説明書に従い操作を行った。抗体アレイの解析には、ImageJ 1.33u (National Institute of Health, U.S.A)を用いて解析を行った。LPS 投与により血中濃度の増加したGCSF(顆粒球コロニー刺激因子)、IL-12(インターロイキン12)、MCP-1(単球走化性因子)に対する各薬物による抑制効果を図4に示す。また、各薬物を投与したときの上記サイトカイン類の量を、薬物を投与しない場合と比較した割合を図5に示す。
【0040】
試験例5:オキサゾロン誘発耳介浮腫抑制活性(皮膚塗布)
生後5週齢のマウス(ICR系、♂、クレア)1群8匹を6週齢まで飼育し、0.5%オシサゾロンのエタノール溶液(100μL)を腹腔内投与し感作した。感作5日後にマウスの右耳の皮膚に種々濃度で調製したロボフィトールアセテート(式1)のアセトン溶液10μL と0.5%オシサゾロンのアセトン溶液10μLを混合し、耳介皮膚全体に広がるように塗布した。また、左耳にはアセトン溶液10μLのみ塗布した。また、ポジティブコントロールとして既存のステロイド剤であるデキサメタゾンを比較対象とした。1日後耳介の厚みと切除した耳介の重量を測定した。
【0041】
浮腫率は以下の式により算出した。
耳介浮腫率=[右耳(重量・厚み)−左耳(重量・厚み)]/左耳(重量・厚み)x100
【0042】
なお、オキサゾロン誘発耳介浮腫モデルはハプテン抗原の一つであるオキサゾロンをマウスの腹部皮膚に塗布して感作し、その一定時間後にオキサゾロンを耳介皮膚に塗布(チャレンジ)して耳介浮腫を誘発する持続性のアレルギー性炎症モデルである。この耳介浮腫は塗布したオキサゾロンが皮膚のタンパク質と結合して抗原となり、その抗原情報をT-リンパ球が獲得し、そこに再塗布されたオキサゾロンとタンパク質との結合物が接触することにより、ロイコトリエン類、プロスタグランジン類、ヒスタミン、サイトカイン類などのケミカルメディエーターが遊離・産生され惹起される。
各薬物を適用した場合の耳介浮腫抑制活性(浮腫率の低下)を図6-1及び6-2に示す。
【0043】
試験例6:オキサゾロン誘発耳介浮腫抑制活性(腹腔内投与)
生後5週齢のマウス(ICR系、♂、クレア)1群2匹を6週齢まで飼育し、0.5%オシサゾロンのエタノール溶液(100μL)を腹腔内投与し感作した。感作5日後にマウスの両耳介の内側及び外側の皮膚に0.5%オシサゾロンのアセトン溶液10 μLを混合し、耳介皮膚全体に広がるように塗布した。塗布1時間前にロボフィトールアセテート(式1)及びセンブラノイドC(式2)を各100mg/kg腹腔内投与した。また、また、比較対象としてフレキシビリド[宮本智文等、特願2003-55172]を用いた。1日後耳介の厚みと切除した耳介の重量を測定した。各薬物を投与した場合の耳介浮腫率を図7-1及び7-2に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(A)で表されるセンブランジテルペンまたはその薬理学上許容される塩を有効成分として含有する炎症の予防または治療薬。
【化1】

[式中、Aは
【化2】

であり;
#1および#2はそれぞれ、式(A)における#1で指示される炭素との結合位置および#2で指示される炭素との結合位置を示し;
X1およびX2は互いに独立に、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20のアルキル基である]
【請求項2】
式(A)で表されるセンブランジテルペンまたはその薬理学上許容される塩を有効成分として含有するアレルギー性疾患の予防または治療薬。
【化3】

[式中、Aは
【化4】

であり;
#1および#2はそれぞれ、式(A)における#1で指示される炭素との結合位置および#2で指示される炭素との結合位置を示し;
X1およびX2は互いに独立に、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20のアルキル基である]
【請求項3】
式(A)で表されるセンブランジテルペンまたはその薬理学上許容される塩を有効成分として含有する一酸化窒素産生抑制剤。
【化5】

[式中、Aは
【化6】

であり;
#1および#2はそれぞれ、式(A)における#1で指示される炭素との結合位置および#2で指示される炭素との結合位置を示し;
X1およびX2は互いに独立に、水素原子または-(C=O)-Rで表される基であり、-Rは炭素数1〜20のアルキル基である]
【請求項4】
Lobophytum carssum、Lobophytum pauciflorum、Lobophytum denticulatum、又はSinularia mayiであるソフトコーラルの有機溶媒による抽出物を有効成分として含有する炎症の予防または治療薬。
【請求項5】
Lobophytum carssum、Lobophytum pauciflorum、Lobophytum denticulatum、又はSinularia mayiであるソフトコーラルの有機溶媒による抽出物を有効成分として含有するアレルギー性疾患の予防または治療薬。
【請求項6】
Lobophytum carssum、Lobophytum pauciflorum、Lobophytum denticulatum、又はSinularia mayiであるソフトコーラルの有機溶媒による抽出物を有効成分として含有する一酸化窒素産生抑制剤。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【公開番号】特開2010−222307(P2010−222307A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−72548(P2009−72548)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電子通信回線での要旨発表 学会名:日本薬学会 第129年会(京都) 講演番号:28G−pm05 電子通信回線掲載日:2009年2月2日 掲載アドレス:http://nenkai.pharm.or.jp/129/web/
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】