説明

サンドイッチ構造の緑化パネルおよび建造物の壁面緑化装置

【課題】建造物の壁面緑化装置において、メンテナンス性を良好とする。
【解決手段】建造物の壁面緑化装置において、複数の貫通孔が形成された一対の板状部材と、保水性を有する材料により形成され、上記一対の板状部材の間にて挟持された、植物定着用の定着部材とを備えるサンドイッチ構造の緑化パネルと、建造物の壁面沿いに設置され、上記緑化パネルを移動案内可能に支持するガイド部材と、建造物の壁面に対する緑化位置と、上記緑化パネルのメンテナンスを行うメンテナンス位置との間で、上記ガイド部材により案内しながら上記緑化パネルを進退移動させるパネル移動装置とを備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の壁面緑化を行う壁面緑化装置、およびこの壁面緑化装置に用いられる緑化パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護や建造物のデザイン性を考慮して、建造物の壁面緑化が注目されている。特に、都市部を中心として、ヒートアイランド現象の緩和等のために、建造物の緑化が推奨されている。従来、建造物の壁面の緑化システムとしては、建造物の壁面に設置されたガイド部材に移動可能に緑化パネルを支持させて、緑化パネルをガイド部材に沿って移動させることで、季節や天候、あるいはデザイン等に応じて、ビル等の建造物の壁面の緑化部分を簡単に変えることができる壁面緑化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−22573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、壁面緑化装置においては、緑化パネルに植え込まれた植物への灌水や緑化パネルの交換作業などメンテナンス性が良好であることが望まれる。従来において提案されているような緑化パネルを移動可能とする壁面緑化装置において、そのメンテナンス性が良好でなければ、建造物の壁面緑化に実質的に適用することが困難となる。
【0005】
したがって、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、移動可能な緑化パネルを備える建造物の壁面緑化装置において、メンテナンス性が良好となる壁面緑化装置およびこの壁面緑化装置にて用いられる緑化パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0007】
本発明の第1態様によれば、複数の貫通孔が形成された一対の板状部材と、上記一対の板状部材の間にて挟持され、保水性を有する材料により形成された植物定着用の定着部材とを備えるサンドイッチ構造の緑化パネルと、建造物の壁面沿いに設置され、上記緑化パネルを移動案内可能に支持するガイド部材と、建造物の壁面沿いの緑化位置と、上記緑化パネルのメンテナンスを行うメンテナンス位置との間で、上記ガイド部材により案内しながら上記緑化パネルを進退移動させるパネル移動装置とを備えることを特徴とする、建造物の壁面緑化装置を提供する。本発明の建造物の種類は、特に制限されず、例えば、ビルディング、道路建造物、橋、堤防、塀、タワーなどを含む。
【0008】
本発明の第2態様によれば、上記パネル移動装置は、上記ガイド部材により案内しながら上記緑化パネルを灌水位置に移動可能であって、灌水位置において上記ガイド部材に支持された状態の上記緑化パネルに対して、灌水を行う灌水装置をさらに備える、第1態様に記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0009】
本発明の第3態様によれば、上記緑化パネルにおいて、一方の上記板状部材が配置されている面を緑化面とし、他方の上記板状部材が配置されている面を灌水が行われる灌水面として、植物の花または葉部分が緑化面側に配置され、上記植物の根部分が灌水面側に配置されるように、植物が定着部材に定着されており、上記灌水装置は、灌水位置に配置された緑化パネルの灌水面に対して、水の供給を行う水供給ユニットと、上記水供給ユニットに対して水供給源より給水を行う給水ラインとを備える、第2態様に記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0010】
本発明の第4態様によれば、上記水供給ユニットは、灌水位置に配置された上記緑化パネルの灌水面に対して、水噴霧により水の供給を行う水噴霧ユニットである、第3態様に記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0011】
本発明の第5態様によれば、上記ガイド部材が建造物の壁面に沿って鉛直方向に配置され、複数の上記緑化パネルを鉛直方向に移動案内可能であって、上記複数の緑化パネルは、鉛直方向に隣接する緑化パネルと解除可能に連結された状態にて、上記ガイド部材に支持され、上記パネル移動装置は、上記複数の緑化パネルのうちの最上部に配置される緑化パネルを鉛直方向に進退移動させることで、上記最上部の緑化パネルとともに連結された他の緑化パネルを上記ガイド部材に沿って一体的に進退移動させる、第1〜第4態様のいずれか1つに記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0012】
本発明の第6態様によれば、上記ガイド部材が建造物の壁面に沿って鉛直方向に配置され、上記パネル移動装置は、上方に位置される緑化位置と下方に位置されるメンテナンス位置との間で上記緑化パネルを鉛直方向に移動案内可能であって、灌水装置は、メンテナンス位置において、上記ガイド部材に支持された上記緑化パネルの下方に配置されて、上方より落下する水を集水する集水受け部材と、上記集水受け部材により集水された水を貯留する貯水タンクと、上記貯水タンクに貯留された水を、上記給水ラインに供給する給水ポンプとを備える、第3態様または第4態様に記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0013】
本発明の第7態様によれば、上記緑化パネルにおいて、上記板状部材は網状部材であり、上記定着部材は不織布である、第1〜第6態様のいずれか1つに記載の建造物の壁面緑化装置を提供する。
【0014】
本発明の第8態様によれば、複数の貫通孔が形成された一対の板状部材と、上記一対の板状部材の間にて挟持され、保水性を有する材料により形成された植物定着用の定着部材とを備えることを特徴とする、サンドイッチ構造の緑化パネルを提供する。
【0015】
本発明の第9態様によれば、一方の上記板状部材が配置されている面を緑化面とし、他方の上記板状部材が配置されている面を灌水が行われる灌水面として、植物の花または葉部分が緑化面側に配置され、上記植物の根部分が灌水面側に配置されるように、植物が定着部材に定着される、第8態様に記載のサンドイッチ構造の緑化パネルを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の壁面緑化装置によれば、緑化位置に位置されている緑化パネルをパネル移動装置によりガイド部材に沿ってメンテナンス位置に移動させることで、緑化パネルの交換作業等のメンテナンス性が良好となる。また、緑化パネルが交換可能とされているため、普段日光が当たらない北側の壁面等の緑化が可能となり、建造物の壁面において緑化が可能な範囲を拡張することができる。さらに緑化パネルの交換性が良好となることから、比較的期間が短い花類などを緑化パネルの定着植物として用いることも可能となり、多様な仕様の壁面緑化に対応することができる。
【0017】
さらに、灌水位置あるいは緑化位置に位置された緑化パネルの灌水面に対して、灌水を行う灌水装置が、緑化パネルとは分離して備えられることで、緑化パネルを移動・交換可能な構成としながら、定着植物への灌水を行うことができ、壁面緑化装置におけるメンテナンス性が良好となる。
【0018】
また、複数の貫通孔を有する一対の板状部材の間に定着部材が挟持されたサンドイッチ構造を有する緑化パネルでは、土を用いることなく、定着部材に直接的に植物を定着させることができ、緑化パネルを垂直な姿勢にて用いることができる。したがって、従来の土を用いたパネルで用いられていたツタ類などの植物の他に、地被類植物を定着させることが可能となり、定着させる植物の種類を多様化することができる。また、土を用いなくても植物を定着させることができるため、緑化パネルの取り扱い性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一の実施形態にかかる緑化システムの模式図
【図2】緑化システムにて用いられる緑化パネルの組立状態の模式図
【図3】緑化システムにて用いられる緑化パネルの分解状態の模式図
【図4】(A)は緑化システムの正面図、(B)は緑化システムの側面図
【図5】緑化システムの灌水装置の模式図
【図6A】緑化システムにおいて緑化パネルの交換手順を説明する模式図
【図6B】緑化システムにおいて緑化パネルの交換手順を説明する模式図
【図6C】緑化システムにおいて緑化パネルの交換手順を説明する模式図
【図6D】緑化システムにおいて緑化パネルの交換手順を説明する模式図
【図6E】緑化システムにおいて緑化パネルの交換手順を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
本発明の一の実施形態にかかる建造物の壁面緑化装置の一例である緑化システム10を用いて、建造物(例えば、ビルディング)1の壁面の一面を緑化した状態を図1に示す。図1に示すように、本実施形態の緑化システム10は、建造物1の壁面に沿って上下方向に固定された複数本のガイド部材11と、これらのガイド部材11に支持された状態で、壁面沿いに配列された複数枚の緑化パネル2とを備えている。それぞれの緑化パネル2は、ガイド部材11に沿って上下方向に移動可能とされており、図示しないパネル移動装置により緑化パネル2を所望の位置に移動させることが可能となっている。
【0022】
(緑化パネルの構成)
この緑化システム10が備える緑化パネル2の模式斜視図を図2および図3に示す。なお、図2は緑化パネル2の組立状態を示す図であり、図3は緑化パネル2の分解状態を示す図である。図2および図3に示すように、緑化パネル2は、複数の貫通孔が形成された板状部材の一例である一対の網状部材3と、この網状部材3の間にて挟持される植物定着用の定着部材の一例である緑化マット4とを備えたサンドイッチ構造を有している。
【0023】
網状部材3は、壁面緑化に用いられる植物を定着させた緑化マット4を、その両面から挟んで保持するとともに、緑化マット4に定着された植物の花や葉の部分が網状部材3の多数の開口部3aを通過できるように形成されている。具体的には、網状部材3は、例えば、アルミニウム製の金網3b(例えば、アンプリシェイプ)と、金網3bを保持する枠体3cとにより構成されている。また、一対の網状部材3は、互いに解除可能に固定することが可能となっており、両者が固定されることで、間に配置された緑化マット4が確実に保持される。また、網状部材の金網3bを通して植物を観賞できる、あるいは、金網3bの開口部3aを植物が通過できるようにするという観点からは、金網3bの開口率(開口面積/全体面積)は大きく設定されることが好ましく、緑化マット4を保持可能な剛性を確保できる範囲にて、金網3bの開口率を大きく設定すればよい。本実施形態では、複数の貫通孔が形成された一対の板状部材として、網状部材3を例として説明するが、その他、プレート板に多数の開口部を形成した部材(パンチングプレート等)を用いることもでき、また、ワイヤ部材等を格子状に配置した部材を用いることもできる。また、耐候性および軽量性の観点から網状部材3の形成材料を選定することが望ましい。
【0024】
緑化マット4は、植物の定着性と保水性とを有した材料により形成されており、例えば、不織布により形成されている。このような不織布は、軽量性および耐候性も有する点で緑化マット4として適切な材料である。その他、スポンジ等の多孔質材料や椰子ガラ等の天然素材を用いて緑化マット4を形成することもできる。また、本実施形態の緑化パネル2では、緑化マット4を構成する不織布の中に土は含まれておらず、直接的に植物が不織布に定着されるようになっている。
【0025】
また、緑化パネル2は、作業者による交換作業等の作業性と、建築物のモジュールとの関係を考慮して、例えば、幅1200mm×高900mmの寸法にて形成されている。上述したように、軽量性を考慮した材質にて形成されているため、上記寸法にて形成された緑化パネル2は、作業者による良好な搬送性を有している。また、緑化パネル2の一方の面が、緑化マット4に定着された植物の花や葉の部分が配置される緑化面5となっており、他方の面が、植物の根の部分が配置されて植物に対する灌水が主に行われる灌水面6となっている。
【0026】
(緑化システムの構成)
次に、このような構成を有する複数枚の緑化パネル2を用いた緑化システム10の詳細な構成について、図4に示す構成図を用いて説明する。なお、図4は、本実施形態の緑化システム10の全体構成を示す図であり、(A)が正面図、(B)が側面図となっている。
【0027】
まず、緑化システム10におけるガイド部材11の構成について説明する。図4(A)および(B)に示すように、長尺の鋼材にて形成された一対のガイド部材11が2組、建造物1の壁面に沿って、上下方向に配置されている。ガイド部材11は、建造物1の基礎部分に固定されているとともに、壁面に図示しない固定部材により固定されている。一対のガイド部材11の上記所定の間隔は、緑化パネル2の長手方向の寸法とほぼ等しく設定されている。また、ガイド部材11は、例えば、対となって対向している面が溝部分として形成されており、この溝部分に緑化パネル2の長手方向のそれぞれの端部が嵌り合うことで、緑化パネル2の上下方向の移動が一対のガイド部材11により案内される。なお、それぞれの一つのガイド部材11同士は、後述する複数の緑化パネル2を確実に支持できる剛性を確保するために、補強部材あるいは支持部材等により互いに連結されている。なお、ガイド部材11によるそれぞれの緑化パネル2を移動可能に案内する方式としては、上述した構成の他にも様々な方式を採用することができる。
【0028】
図4(A)および(B)に示す状態の緑化システム10では、各一対のガイド部材11により、5枚の緑化パネル2が上下方向に配列された状態にて支持されている。すなわち、緑化システム10において、合計10枚の緑化パネル2が配置されている。具体的には、一つのガイド部材11において、最上部に支持されている緑化パネル2がワイヤ13で吊り下げられており、このワイヤ13を巻き取りウィンチ14により巻き取るまたは巻き戻すことにより、最上部の緑化パネル2をガイド部材11に沿って上下方向に進退移動させることができる。巻き取りウィンチ14は、その操作性を考慮して、一対のガイド部材11の下部位置に設置されており、この巻き取りウィンチ14を手動または電動モータ等により駆動することにより、複数の滑車15を通してワイヤ13により吊り下げられた状態の最上部の緑化パネル2を、ガイド部材11に沿って所望の高さ位置に移動させることができる。なお、本実施形態の緑化システム10では、ワイヤ13、巻き取りウィンチ14、および複数の滑車15が、パネル移動装置の一例となっている。
【0029】
また、図4(A)に示すように、最上部の緑化パネル2の下方に配置される緑化パネル2は、上下方向に互いに隣接される緑化パネル2と連結部材16により容易に解除可能に連結されている。したがって、巻き取りウィンチ14により最上部の緑化パネル2が上下方向に進退移動されることで、最上部の緑化パネル2とともに、連結されている他の緑化パネル2を一体的に上下方向に進退移動させることができる。なお、図4(A)および(B)の緑化システム10では、一組のガイド部材11毎に、1台の巻き取りウィンチ14が備えられている場合を例として示すが、このような場合に代えて、複数組のガイド部材11に支持されている緑化パネル2に対して、1台の巻き取りウィンチ14が備えられるような場合であってもよい。
【0030】
また、図4(A)および(B)に示すように、ガイド部材11により支持されて、ワイヤ13により吊り下げられた状態の緑化パネル2と、建造物1の壁面との間には、緑化パネル2に対して灌水を行う、すなわち水の供給を行う灌水装置20が備えられている。ここで、この灌水装置20の主要な構成を示す模式図を図5に示し、図4(A)、(B)および図5を参照して、灌水装置20の構成について説明する。
【0031】
まず、それぞれの緑化パネル2は、建造物1の外側方向に緑化面5が配置され、壁面側に灌水面6が配置されるように、それぞれのガイド部材11に支持された状態にて配置されている。灌水装置20は、それぞれの緑化パネル2の灌水面6に対して、水噴霧により水の供給を行う複数の水噴霧ユニット(例えば、加圧式スプレーユニット)21と、それぞれの水噴霧ユニット21と連通されて水の供給を行う給水ラインである給水配管22と、給水配管22に対して加圧水の供給を行うポンプ23と、ポンプ23に供給される水を貯留する貯水タンク(水供給源の一例である)24とを備えている。
【0032】
ポンプ23とそれぞれの水噴霧ユニット21とを連通する給水配管22は、主として上下方向に配置され、複数の固定部材25を介して、ガイド部材11に固定されている。水噴霧ユニット21は、ガイド部材11に支持された状態の緑化パネル2の灌水面6から所定の距離だけ離間されて配置されている。緑化パネル2の灌水面6に対して広範囲に水噴霧が行えるように、水噴霧ユニット21のスプレーノズルの仕様(噴霧角度、範囲)および離間された所定の距離が設定されている。
【0033】
図4(B)に示すように、最上部に配置される緑化パネル2に対しては、複数台の水噴霧ユニット21により水噴霧が行われ、その下方に配置される各緑化パネル2に対しては、例えば1台の水噴霧ユニット21により水噴霧が行われるように、それぞれの水噴霧ユニット21の配置および個数が設定されている。これは、上方側にて水噴霧ユニット21より噴霧された水の一部が重力により下方に流れ、この流れた水により下方の緑化パネル2に対する補助的な灌水が行われることを考慮したものである。また、このように下方に流れた水を受けて集水する集水受け部材の一例である集水パン26が、緑化パネル2の列の下方に配置されている。この集水パン26は、その下方に配置されている貯水タンク24に配管にて接続されており、集水パン26にて集められて回収された水が貯水タンク24に流れ込むようになっている。このような構成を採用することにより、水噴霧ユニット21により水噴霧され、かつ緑化パネル2の緑化マット4等により吸水(保水)されなかった水を集水パン26にて回収して再利用することが可能となり、灌水のための水を有効に利用することができる。また、図示しないが、緑化パネル2の網状部材3の枠体3cの下部に貫通孔を形成しておくことで、緑化マット4にて保水されなかった水を、この貫通孔を通して、下方に落下させることができ、他の緑化パネル2にて再利用されるか、あるいは集水パン26にて回収させることができる。
【0034】
また、貯水タンク24とポンプ23とを接続する配管の途中には、フィルタ27が設置されており、ポンプ23あるいはポンプ23以降の給水ラインに異物が流れ込むことが防止されている。また、集水パン26の面積を大きくすることにより、例えば、雨水を集水パン26にて集めて貯水タンク24に貯留して、緑化パネル2に対する灌水用として雨水を利用することもできる。また、灌水に雨水を用いる場合には、上述した集水パン26を用いるような場合の他にも様々な構成を採用することができる。例えば、建造物などに設けられた雨どいから雨水を集水して貯水タンクに貯留する方法や、建造物内に雨水を貯留する貯留槽を設置して、この貯留槽から雨水を供給する方法などを採用することもできる。なお、灌水に用いられる水に、必要に応じて液肥などを混ぜるようにすることもできる。
【0035】
また、図5に示すように、灌水装置20には、水噴霧ユニット21より緑化パネル2への水噴霧のタイミングを制御する制御ユニット29が備えられている。制御ユニット29は、予め設定されたタイミングおよび噴霧時間にて、それぞれの水噴霧ユニット21より水噴霧を行うように、ポンプ23の運転/停止の制御を行う。このような灌水装置20の制御方法としては、その他様々な方法を適用することができる。例えば、給水配管22上に制御弁(例えば電磁弁)を設けて、制御弁の開閉動作を制御することにより、水噴霧の実施/停止を制御することもできる。また、制御弁の開度を制御することで、水噴霧量を制御することも可能である。さらに、温湿度センサ、風や光センサなどを設けて、周囲環境の気象状態に応じて、灌水装置20からそれぞれの緑化パネル2への灌水のタイミングや水の供給量を制御することもできる。
【0036】
なお、図4(A)および(B)に示すように、巻き取りウィンチ14、ポンプ23、貯水タンク24、フィルタ27、および制御ユニット29のように、作業者による操作やメンテナンスが必要とされる機器は、ガイド部材11により支持されたそれぞれの緑化パネル2の下方に設置され、作業者のアクセス性が考慮されている。
【0037】
(緑化パネルの交換方法)
このような構成を有する緑化システム10において、緑化パネル2の交換を行う方法について、図6A〜図6Eの模式図を用いて説明する。なお、図6A〜図6Eに示す緑化システム10では、一対のガイド部材11に5枚の緑化パネル2が移動可能に支持されている。
【0038】
図6Aに示すように、一つのガイド部材11に支持され、ワイヤ13により吊り下げられた状態の5枚の緑化パネル2は、図示しない連結部材16により互いに連結されて、一体的な状態とされている。さらに、図6Aに示す状態では、5枚の緑化パネル2は、建造物の壁面の緑化が行われる緑化位置P1に位置されている。このような状態にて、それぞれの緑化パネル2の交換やメンテナンスを行う場合には、まず、巻き取りウィンチ14を手動または電動機により駆動して、最上部の緑化パネル2を吊り下げているワイヤ13を巻き戻す。これにより、最上部の緑化パネル2がガイド部材11により案内されながら下方に向けて移動されるとともに、最上部の緑化パネル2と連結されている他の4枚の緑化パネル2もガイド部材11により案内されながら一体的に下方へと移動される。その結果、図6Bに示すように、緑化位置P1の下方に位置されるメンテナンス位置P2に、最下部の緑化パネル2が位置される。
【0039】
このメンテナンス位置P1は、作業者が容易にアクセスできる位置に配置されており、図6Cに示すように、メンテナンス位置P2に位置された緑化パネル2と他の緑化パネル2とを連結する連結部材16(図示せず)が取り外されて、緑化システム10から1枚の緑化パネル2が取り外される。その後、さらに巻き取りウィンチ14を駆動させることで、ワイヤ13を巻き戻し、その他の緑化パネル2を順次、メンテナンス位置P2に位置させて、図6Dに示すように緑化パネル2の取り外しを行う。
【0040】
緑化システム10から全ての緑化パネル2の取り外し作業が完了すると、交換すべき別の緑化パネル2’をメンテナンス位置P2に配置するとともにワイヤ13に固定する。その後、巻き取りウィンチ14を駆動させて、ワイヤ13を巻き取ることで、緑化パネル2’をメンテナンス位置P2から緑化位置P1へとガイド部材11により案内させながら移動(上昇)させる。さらに、図6Eに示すように、次の緑化パネル2’をメンテナンス位置P2に配置させるとともに、連結部材16(図示せず)により先に供給された緑化パネル2’と連結し、新たに連結された緑化パネル2’をメンテナンス位置P2から緑化位置P1に移動させる。その後、このような作業を順次行うことで、緑化システム10において、5枚全ての緑化パネル2’を緑化位置P1に位置させることができる。
【0041】
このように本実施形態の緑化システム10では、緑化位置P1に位置されているそれぞれの緑化パネル2を、作業者による作業性が考慮された位置であるメンテナンス位置P2に順次移動させることで、緑化パネル2の交換等のメンテナンスを容易に行うことが可能となる。このように、それぞれの緑化パネル2を容易に交換可能な構成が実現できることにより、例えば、季節によって壁面緑化を行う植物の種類を交換するなど、建造物の緑化デザインを容易に変更することが可能となる。また、定着させた植物が十分に生育した状態の緑化パネル2を、緑化システム10に供給することで、常に良好な壁面緑化の状態を保つことができるとともに、日光が当たらない北側の壁面についても緑化を行うことが可能となる。
【0042】
また、緑化パネル2は、従来のように土を用いるのではなく、不織布等の保水性を有する材料により形成された緑化マット4を、一対の網状部材3により挟持して、緑化マット4に植物を定着させるという構成を有している。そのため、緑化パネル2自体を軽量化することができ、作業者により持ち運びできる大きさに緑化パネル2を形成することで、作業者によるメンテナンス性(交換等の作業性)を向上させることができる。また、従来の緑化システムのように、土を入れたポットに植物を植えたものを用いるのではなく、緑化パネル2では緑化マット4に直接的に植物を定着させる構造を有しているため、緑化パネル2を垂直に配置することができる。したがって、従来の壁面緑化にて一般的に用いられているツタ類などの植物の他に、地被類植物(例えば、芝、イワダレソウ、セダム、タイム、ワイヤープランツなど)を定着させて、壁面緑化を行うことができる。さらに、比較的観賞できる期間が短いという特徴を有する花類(例えば、ビオラ、マツバギク、ポーチェラカなど)などを緑化パネル2の定着植物として用いることも可能となり、多様な仕様の壁面緑化に対応することができる。
【0043】
また、緑化パネル2の一方の面を植物の花や葉部分が配置される緑化面5とし、他方の面を根部分が配置される灌水面6とすることができる。また、不織布等により形成された緑化マット4が用いられているため、灌水面6には、定着植物の根部分を露出させることができる。したがって、灌水面6において、これにより、緑化パネル2の灌水面6に対して水噴霧等による水の供給を行うことで、効果的な灌水を行うことができる。特に、ガイド部材11により移動案内される緑化パネル2の移動経路には干渉しないように、水噴霧ユニット21を備えた灌水装置20が、それぞれの緑化パネル2とは分離して設けられていることにより、ガイド部材11に沿った緑化パネル2の自由な移動を可能としながら、緑化パネル2に対する灌水を行うことができる構成を実現できる。
【0044】
また、灌水装置20では、集水パン26を用いるなど、灌水に使用された水の再利用や雨水利用などを行うことができるため、資源を有効利用した環境に優しい緑化システムを実現することができる。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。
【0046】
例えば、上記実施形態では、それぞれの緑化パネル2がガイド部材11により案内されながら上下方向に進退移動される場合を例として説明したが、緑化パネル2を水平方向など他の方向に移動させても良い。上下方向(鉛直方向)および水平方向にそれぞれの緑化パネル2を移動させる手段としては、巻き取りウィンチ14およびワイヤ13を用いた構成の他に、ベルトやチェーンなどを用いた駆動手段など、様々な移動手段を適用することができる。鉛直方向および水平方向に個々の緑化パネルを自由に移動させるために、1枚の緑化パネルと他の緑化パネルとを互いに連結せず、個別に移動させるような構成を採用することもできる。
【0047】
灌水装置20によるそれぞれの緑化パネル2への灌水が、緑化位置P1にて行われるような場合を例として説明したが、緑化位置P1およびメンテナンス位置P2とは別に灌水位置を設けて、灌水位置に移動させた緑化パネル2に対して、灌水装置20による灌水を行うような構成を採用することもできる。このような構成によれば、灌水装置の構成を簡単なものにすることができる。
【0048】
また、灌水装置20における水噴霧ユニット21による灌水としては、通常の水噴霧の他に、水を微細な粒子とする噴霧方式(いわゆるドライミストを用いた方式)を採用することもできる。このような噴霧方式は、噴霧により周辺の部材などが濡れにくいという特徴を有している点で有効な方式である。また、灌水方式としては、水噴霧方式の他に、点滴方式を採用することもできる。点滴方式では、緑化パネル2の緑化マット4に対して、水を点滴により供給することができ、灌水に使用する水の節約を実現できる。なお、ドライミストを用いた方式以外の水噴霧方式(例えば、水噴霧ユニット21を用いた方式)が採用される場合、水噴霧ユニット21から緑化パネル2に対して水噴霧される空間を囲むように板状のパネルを配置(例えば、上方側に配置あるいは側方側に配置)することで、噴霧により水が周囲に飛散すること防止することができる。また、灌水装置20が、貯水タンク24およびポンプ23を用いたタンク式給水が用いられる場合について説明したが、このような方式に代えて、タンク等を用いない直結給水方式を採用することもできる。
【0049】
また、上記実施形態の緑化システム10では、緑化パネル2を移動可能に用いる構成を採用しているが、緑化パネル2に代えて、デザイン等の装飾が施されたパネルを用いて、建造物の壁面広告やデザインを目的として、緑化システムを用いることもできる。
【0050】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 建造物
2、2’ 緑化パネル
3 網状部材
3a 開口部
3b 金網
3c 枠体
4 緑化マット
5 緑化面
6 灌水面
10 緑化システム
11 ガイド部材
13 ワイヤ
14 巻き取りウィンチ
15 滑車
16 連結部材
20 灌水装置
21 水噴霧ユニット
22 給水配管
23 ポンプ
24 貯水タンク
25 固定部材
26 集水パン
27 フィルタ
29 制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の貫通孔が形成された一対の板状部材と、上記一対の板状部材の間にて挟持され、保水性を有する材料により形成された植物定着用の定着部材とを備えるサンドイッチ構造の緑化パネルと、
建造物の壁面沿いに設置され、上記緑化パネルを移動案内可能に支持するガイド部材と、
建造物の壁面沿いの緑化位置と、上記緑化パネルのメンテナンスを行うメンテナンス位置との間で、上記ガイド部材により案内しながら上記緑化パネルを進退移動させるパネル移動装置とを備えることを特徴とする、建造物の壁面緑化装置。
【請求項2】
上記パネル移動装置は、上記ガイド部材により案内しながら上記緑化パネルを灌水位置に移動可能であって、
灌水位置において上記ガイド部材に支持された状態の上記緑化パネルに対して、灌水を行う灌水装置をさらに備える、請求項1に記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項3】
上記緑化パネルにおいて、一方の上記板状部材が配置されている面を緑化面とし、他方の上記板状部材が配置されている面を灌水が行われる灌水面として、植物の花または葉部分が緑化面側に配置され、上記植物の根部分が灌水面側に配置されるように、植物が定着部材に定着されており、
上記灌水装置は、
灌水位置に配置された緑化パネルの灌水面に対して、水の供給を行う水供給ユニットと、
上記水供給ユニットに対して水供給源より給水を行う給水ラインとを備える、請求項2に記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項4】
上記水供給ユニットは、灌水位置に配置された上記緑化パネルの灌水面に対して、水噴霧により水の供給を行う水噴霧ユニットである、請求項3に記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項5】
上記ガイド部材が建造物の壁面に沿って鉛直方向に配置され、複数の上記緑化パネルを鉛直方向に移動案内可能であって、
上記複数の緑化パネルは、鉛直方向に隣接する緑化パネルと解除可能に連結された状態にて、上記ガイド部材に支持され、
上記パネル移動装置は、上記複数の緑化パネルのうちの最上部に配置される緑化パネルを鉛直方向に進退移動させることで、上記最上部の緑化パネルとともに連結された他の緑化パネルを上記ガイド部材に沿って一体的に進退移動させる、請求項1〜4のいずれか1つに記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項6】
上記ガイド部材が建造物の壁面に沿って鉛直方向に配置され、上記パネル移動装置は、上方に位置される緑化位置と下方に位置されるメンテナンス位置との間で上記緑化パネルを鉛直方向に移動案内可能であって、
灌水装置は、
メンテナンス位置において、上記ガイド部材に支持された上記緑化パネルの下方に配置されて、上方より落下する水を集水する集水受け部材と、
上記集水受け部材により集水された水を貯留する貯水タンクと、
上記貯水タンクに貯留された水を、上記給水ラインに供給する給水ポンプとを備える、請求項3または4に記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項7】
上記緑化パネルにおいて、上記板状部材は網状部材であり、上記定着部材は不織布である、請求項1〜6のいずれか1つに記載の建造物の壁面緑化装置。
【請求項8】
複数の貫通孔が形成された一対の板状部材と、
上記一対の板状部材の間にて挟持され、保水性を有する材料により形成された植物定着用の定着部材とを備えることを特徴とする、サンドイッチ構造の緑化パネル。
【請求項9】
一方の上記板状部材が配置されている面を緑化面とし、他方の上記板状部材が配置されている面を灌水が行われる灌水面として、
植物の花または葉部分が緑化面側に配置され、上記植物の根部分が灌水面側に配置されるように、植物が定着部材に定着される、請求項8に記載のサンドイッチ構造の緑化パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【公開番号】特開2010−193845(P2010−193845A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45233(P2009−45233)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(591261336)パナソニック環境エンジニアリング株式会社 (29)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【出願人】(000134604)株式会社ドコー (9)
【Fターム(参考)】