説明

サーボプレス設備とその制御方法

【課題】搬送中のワークを落とすおそれが少なく、金型と搬送装置の機械的干渉を防ぐことができ、搬送装置がプレス機械との追従状態からはずれた位置で停止した場合でも、ワークを損傷することなく復帰動作が容易にできるサーボプレス設備とその制御方法を提供する。
【解決手段】サーボモータでスライドを駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置10と、プレス装置にワークを搬入・搬出する搬送装置20と、搬送装置の動作軌跡上での位置を検出し、プレス装置を搬送装置と機械的に干渉しないように制御する制御装置40とを備える。制御装置40は、取り付けられた金型104及びスライドが搬送装置と機械的に干渉しないスライドの位置範囲を計算するスライド位置計算手段41を有し、このスライド位置計算手段により、機械的に干渉しないスライドの目標範囲を計算し、スライドの実際の位置が、目標範囲内に入るようにプレス装置を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボモータでスライドを駆動するプレス装置とこのプレス装置にワークを搬入及び/又は搬出する搬送装置とを備えたサーボプレス設備とその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成型による生産を能率よく行うためにプレス装置にワークを搬入・搬出する搬送装置を付設する場合、ワークを成形加工する金型と搬送装置が衝突(干渉)しないように、プレス機械と搬送装置の互いの動きを制御する必要がある。
【0003】
従来の制御手段では、主として機械プレス(クランクプレス、ナックルプレス、クランクレスプレス、リンクプレス、等)を対象としており、プレス自体の動作をマスターとしている。すなわち、例えば、クランクプレスの場合、スライドを駆動するクランク軸(主駆動軸)の回転に同期して、搬送装置が動作するという構成が取られている。なお、かかる制御手段の一例が特許文献1、2に開示されている。
【0004】
一方、近年、サーボモータでスライドを駆動する種々のサーボプレス装置が、開発されている(例えば、特許文献3〜5)。
【0005】
特許文献1の「プレス機械とロボットの同期装置」は、プレスが動作するエリアへの搬送装置の進入の許可・不許可を、スライドを駆動するクランク軸の角度に基づいて決めるものである。
【0006】
特許文献2の「プレス用自動搬送制御方法および装置」は、スライドを駆動するクランク軸の回転角度に応じて時々刻々の搬送装置の目標位置が計算され、それに追従するように搬送装置が制御されるものである。
【0007】
特許文献3の「サーボプレスの製造方法及びサーボプレス」は、クランクレス方式のサーボプレス装置を開示している。
特許文献4の「サーボモータ駆動式リンクプレス」は、リンクプレス方式のサーボプレス装置を開示している。
特許文献5の「プレス機械」は、スクリュー方式のサーボプレス装置を開示している。
【0008】
【特許文献1】特許第3640316号明細書、「プレス機械とロボットの同期装置」
【特許文献2】特許第3340095号明細書、「プレス用自動搬送制御方法および装置」
【特許文献3】特開2006−263806号公報、「サーボプレスの製造方法及びサーボプレス」
【特許文献4】特開2003−320489号公報、「サーボモータ駆動式リンクプレス」
【特許文献5】特開平11−197897号公報、「プレス機械」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した特許文献3〜5のように、サーボモータでスライドを駆動するサーボプレス装置として、リンクプレスに限られず、他の形式(クランクプレス、ナックルプレス、クランクレスプレス、スクリュープレス、等)のサーボプレス装置の開発も進められている。
【0010】
しかし、これらのサーボプレス装置にワークを搬入・搬出する搬送装置を付設する場合、特許文献1、2のように主駆動軸(例えばクランク軸)の回転をマスターとして、それに同期させて、搬送装置(搬入装置と搬出装置)を動作させると、以下の問題点があった。
【0011】
(1)サーボプレス装置は、主駆動軸(例えばクランク軸)の回転速度を自在に変化させることができる特徴がある。従って、工程の中途で一時的に逆転することさえもできる。
しかし、搬送のスループットを向上させようとするときに、従来技術では、プレス機械の動作が決まっているため、搬送装置の動作を速くする必要がある。そのため、搬送装置の駆動機構が大型化したり、搬送中のワークの速度・加減速度が大きくなるため、大きな空気抵抗や慣性力が搬送装置及びワークに加わり、搬送中のワーク保持が不安定になりワークを落とす可能性が大きくなる。
(2)また、金型と搬送装置との間のクリアランスを小さくし、スライドの動作と搬送装置の動作との間の待ち時間及び無駄時間を減らすことも行われるが、搬送装置に異常が発生して意図した動きをしなくなった場合に、プレス機械は継続して動作しようとするので、金型と搬送装置が機械的に干渉して破損する可能性が高くなる。
(3)また、何らかの異常が発生して搬送装置がプレス機械との追従状態から外れた位置で停止した場合、再び搬送装置がプレス機械に追従して運転再開できるようにするため、プレス機械の位置を基準として、追従可能な位置まで搬送装置を動かす必要がある(この動作を「復帰動作」と呼ぶ)。
復帰動作を行うときには正常運転中と異なる軌跡、異なる速度、異なる加速度で搬送装置が動くので、搬送装置がワークを把持している場合、ワークを取り落としたり、ワークに異常な力を加えてワークを損傷する可能性がある。
(4)特に特許文献2の場合、クランク軸の回転には微小なふらつきが生じていることが多く、搬送装置がそれに忠実に追従しようとして搬送装置の動作が滑らかでなくなるため、搬送中のワークを落としてしまう可能性が高くなる。
【0012】
本発明は上述した種々の問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、サーボプレス装置にワークを搬入・搬出する搬送装置を付設する場合において、(1)搬送装置の動作を速くした場合でも、或いはクランク軸の回転に微小なふらつきが生じても、搬送中のワーク保持を安定にできワークを落とすおそれが少なく、(2)搬送装置に異常が発生して意図した動きをしなくなった場合でも、金型と搬送装置の機械的干渉を防ぐことができ、(3)何らかの異常が発生して搬送装置がプレス機械との追従状態からはずれた位置で停止した場合でも、ワークを取り落としたりワークに異常な力を加えてワークを損傷することなく、再び搬送装置がプレス機械に追従して運転再開できるようにする復帰動作が容易にできるサーボプレス設備とその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、サーボモータでスライドを駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置と、該プレス装置にワークを搬入及び/又は搬出する搬送装置と、該搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出し、該プレス装置を搬送装置と機械的に干渉しないように制御する制御装置とを備える、ことを特徴とするサーボプレス設備が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記制御装置は、搬送装置の検出された位置に対して、取り付けられた金型及び付属物を含むスライドが搬送装置と機械的に干渉しないスライドの位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算手段を有し、
該スライド位置計算手段により、検出された搬送装置の位置に対しスライドの前記干渉しない位置又は位置範囲を計算し、これを目標位置又は目標範囲として、スライドの実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置を制御する。
【0015】
また本発明によれば、サーボモータでスライドを駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置と、該プレス装置にワークを搬入及び/又は搬出する搬送装置とを備えたサーボプレス設備の制御方法であって、
搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出しプレス装置を搬送装置と機械的に干渉しないように制御する、ことを特徴とするサーボプレス設備の制御方法が提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出する搬送位置検出ステップと、
搬送装置の検出された位置に対して、取り付けられた金型及び付属物を含むスライドが搬送装置と機械的に干渉しないスライドの位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算ステップと、
計算されたスライドの前記干渉しない位置又は位置範囲を目標位置又は目標範囲として、スライドの実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置を制御するサーボプレス制御ステップとを有する。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の装置及び方法によれば、搬送装置の動作軌跡は、速度や加速度が大きくなく搬送に適した軌跡とすることができるので、ワーク把持を安定化でき、搬送装置の駆動機構や駆動モータをむやみに大きくする必要性を回避できる。
【0018】
また、搬送装置に異常が発生した場合、搬送装置との干渉を避けるようにスライドが動作するので、機械的干渉による搬送装置及びプレス機械の破損可能性を低減することができる。
【0019】
また、異常停止からの復帰動作を行うとき、搬送装置の位置を基準としてプレス機械を動かして追従可能な位置へ移動させるので、復帰動作中にワークを把持している搬送装置は動く必要が無く、ワークを取り落としたり、ワークを損傷する可能性を低減できる。
【0020】
さらに、搬送装置は制御装置の内部で生成する搬送装置固有の滑らかな動作軌跡で動作できるので、搬送装置がふらついたりすることがなく、搬送が安定して行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0022】
図1は、本発明によるサーボプレス設備の第1実施形態図であり、搬送装置として多軸ロボットを使用する例を示す。この図において、本発明のサーボプレス設備は、プレス装置10、搬送装置20及び制御装置40を備える。
【0023】
プレス装置10は、サーボモータ(メインモータ101)でスライド103を駆動し、その位置をリアルタイムに制御可能なサーボプレス装置である。
搬送装置20は、プレス装置10にワーク1を搬入及び搬出する装置である。
制御装置40は、搬送装置20を制御し、搬送装置20の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出し、プレス装置10を制御する制御装置である。
制御装置40は、搬送装置20の検出された位置に対して、取り付けられた金型(上金型104)及び付属物を含むスライド103が搬送装置20と機械的に干渉しないスライド103の位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算手段41を有する。
このスライド位置計算手段41により、検出された搬送装置20の位置に対しスライド103の干渉しない位置又は位置範囲を計算し、これを目標位置又は目標範囲として、スライド103の実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置10を制御する。
【0024】
図2は、本発明によるサーボプレス設備の制御方法を示すフロー図である。本発明の制御方法は、サーボモータ(メインモータ101)でスライド103を駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置10と、プレス装置10にワーク1を搬入及び搬出する搬送装置20とを備えたサーボプレス設備の制御方法である。
本発明の制御方法では、搬送装置20の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出し、プレス装置10を搬送装置20と機械的に干渉しないように制御する。
【0025】
すなわちこの図において、本発明の制御方法は、搬送位置検出ステップS1、スライド位置計算ステップS2、及びサーボプレス制御ステップS3の各ステップを有する。
搬送位置検出ステップS1では、搬送装置20の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出する。
スライド位置計算ステップS2では、搬送装置20の検出された位置に対して、取り付けられた金型(上金型104)及び付属物を含むスライド103が搬送装置20と機械的に干渉しないスライド103の位置又は位置範囲を計算する。なお、付属物とは、ダイクランパや配管などスライドに取り付けられていてスライドと一緒に動くもののことである。
サーボプレス制御ステップS3では、計算されたスライド103の干渉しない位置又は位置範囲を目標位置又は目標範囲として、スライドの実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置10を制御する。
【0026】
図1においてサーボプレス装置10は、メインモータ101、スライド駆動機構102、スライド103、ボルスタ106、フレーム107及びエンコーダ121からなる。
【0027】
メインモータ101の回転がスライド駆動機構102で直線動に変換されスライド103を上下動させる。スライド103には上金型104が取り付けられており、スライド103と共に上下動する。上金型104に対向して下金型105がボルスタ106に取り付けられている。上金型104に加わる荷重はスライド103とスライド駆動機構102を経由してフレーム107の上部で支持され、下金型105に加わる荷重はボルスタ106を経由してフレーム107の下部で支持される。
【0028】
プレス成型の対象となるワーク1は上金型104と下金型105の間に挿入され、スライド103が下降して上金型104とワーク1と下金型105が接触すると、上金型104及び下金型105からワーク1に対してプレス成型力が発生する。
スライド駆動機構102としては、クランク方式、クランクレス方式、ナックル方式、リンク方式、スクリュー方式などがあり、例えば、特許文献3〜5に開示されている。
メインモータ101としては、誘導モータ、同期モータ、直流モータ等が使用可能である。また本発明では、制御性の優れたサーボモータを使用する。スライド103の位置を検出するために、メインモータ101の回転角を検出するエンコーダ121が設けられている。
【0029】
図1において、制御装置40は、メインモータ制御器122、メインモータアンプ123、スライド位置指令生成器141、及びロボットコントローラ221を備える。
【0030】
メインモータ制御器122は、エンコーダ121が検出したメインモータ101の回転角をスライド駆動機構102の寸法及び構造に基づいて変換して得られるスライド103の現在位置と、スライド位置指令生成器141から与えられるスライド位置指令値とに基づいて、メインモータ101に対するトルク指令値を生成する。
【0031】
メインモータアンプ123は、メインモータ101がトルク指令値に従ってトルクを発生するように、メインモータ101へ供給される電流、電圧、又は電力を変化させる。
【0032】
以上の構成により、スライド位置指令生成器141からスライド位置指令値が時々刻々与えられると、それに追従してスライド103の位置が時々刻々変化するクローズドループ制御が行われる。
【0033】
エンコーダ121としては、光学式エンコーダやレゾルバが使用可能である。メインモータアンプ123には、直流モータを使用する場合にはサイリスタレオナードやIGBTを使用したチョッパ方式、交流モータを使用する場合にはパワーMOSFETやIGBTを使用したPWM方式のインバータ、等が使用できる。メインモータ制御器122の制御手段としては、PI、PID、IPDなどのフィードバック制御やフィードフォワード制御の組み合わせ等が使用できる。
【0034】
図1において、搬送装置20は、ワーク把持ツール201、多軸ロボット202、及びアーム先端部203からなる。
ワーク1を把持するためのワーク把持ツール201は、多軸ロボット202のアーム先端部203に取り付けられている。多軸ロボット202の各動作軸はモータ(図示せず)により駆動されており、ロボットコントローラ221から指令が与えられると、各動作軸のモータが適切に回転して、アーム先端部203の位置・姿勢を任意に動かすことができる。
【0035】
ワーク把持ツール201はアーム先端部203に取り付けられているので、アーム先端部203の位置・姿勢を適切に動かすことにより、ワーク把持ツール201の位置・姿勢も任意に動かすことができ、ワーク把持ツール201でワーク1を把持して、プレス装置10に搬入・搬出することができる。
ワーク把持ツール201としては、ワーク1を真空吸着する吸盤を取り付けたクロスバーや、ワーク1をはさみこむフィンガーなどが使用される。
【0036】
ロボットコントローラ221からの指令に従ってロボットのアーム先端部203を任意の位置及び姿勢に動かす仕組みは、産業用ロボットで広く実用されている方式を使用可能である。
例えば、モータをIGBTやパワートランジスタを使用したPWM方式のアンプでモータを速度及びトルク可変に駆動し、モータの回転角を光学式エンコーダやパルスジェネレータで測定し、位置偏差を打ち消すようにフィードバック制御を行うクローズドループ方式を用いる。
【0037】
この例において、搬送装置20の動作軌跡上での位置の間欠的又は連続的検出は、ロボットコントローラ221による。
上述したスライド位置計算手段41は、スライド位置指令生成器141に内蔵されており、このスライド位置計算手段41により、検出された搬送装置20の位置に対しスライド103の干渉しない位置又は位置範囲を計算する。
さらにロボットコントローラ221からスライド位置指令生成器141へ、多軸ロボット202が動作軌跡上のどの目標点(詳細は以下で説明)に到達したかを示す目標点到達信号241を送るようになっている。
【0038】
図3は、搬送装置20の動作軌跡の模式図である。動作軌跡に従った搬送装置20の動作は以下のように実現される。
図3に示すように、動作軌跡は分割して目標点の列としてロボットコントローラ221に記憶されており、ロボットコントローラ221は、目標点1→目標点2→目標点3→…と順々にたどっていくように多軸ロボット202のモータを制御する。
【0039】
すなわち、まず、多軸ロボット202を目標点1へ移動させるように制御し、多軸ロボット202が目標点1へ到達すると、今度は多軸ロボット202を目標点2へ移動させるように制御し、多軸ロボット202が目標点2へ到達すると、今度は多軸ロボット202を目標点3へ移動させるように制御し、というように順々に制御を行う。多軸ロボット202が目標点Nに到達したら、目標点1へ移動させるように制御して、以上の過程を繰り返すことにより、同一の動作軌跡上を繰り返し移動させることができる。
多軸ロボット202の動きと、アーム先端部203の位置及び姿勢と、ワーク把持ツール201の位置及び姿勢は、一定の関係を保っているので、以上のように多軸ロボット202が動作軌跡上を目標点1→目標点2→目標点3→と順々に移動させることにより、ワーク把持ツール201もある軌跡(動作軌跡から一意に決まる)上を移動する。
【0040】
目標点のデータを生成する手段としては、それぞれの目標点ごとに、アーム先端部203の位置を人間が操作して教示し、そのときの多軸ロボット202の各動作軸のモータ回転角を光学式エンコーダやパルスジェネレータで測定して記憶しておくティーチングプレイバック方式や、それぞれの目標点ごとに、アーム先端部203の所望の位置に対応する各動作軸のモータ回転角を、多軸ロボット202のアーム長さや機構の寸法に基づきオフラインで計算により求める方式がある。
【0041】
図4は、搬送装置の動作軌跡とスライドの目標位置軌跡との関係図である。
搬送装置20の動作を基準として、プレス装置10を以下のように追従動作させる。
【0042】
スライド位置指令生成器141は、搬送装置の動作軌跡に対応するスライド103の目標位置軌跡を記憶している。具体的には、図4に示すように、多軸ロボット202の目標点1,2,3,…,Nに対応して、スライド103の目標位置1,2,3,…Nを記憶している。
ロボットコントローラ221からスライド位置指令生成器141へ、多軸ロボット202が目標点1に到達したことを示す目標点到達信号241が送られてくると、スライド位置指令生成器141は目標位置1をメインモータ制御器122へ出力する。
次に、多軸ロボット202が目標点2に到達したことを示す目標点到達信号241が送られてくると、目標位置2をメインモータ制御器122へ出力する。さらに、多軸ロボット202が目標点3に到達したことを示す目標点到達信号241が送られてくると、目標位置3をメインモータ制御器122へ出力する。
【0043】
以下これを繰り返し、ロボットコントローラ221からスライド位置指令生成器141へ、多軸ロボット202が目標点Xに到達したことを示す目標点到達信号241が送られてくると、スライド位置指令生成器141は目標位置Xをメインモータ制御器122へ出力する。
【0044】
メインモータ制御器122は、スライド103がスライド位置指令生成器141から与えられるスライド位置指令値に従って動くようにメインモータ101に対するトルク指令値を生成し、それに従ってメインモータアンプ123はメインモータ101へ供給される電流・電圧・電力を変化させるので、以上の手段により、搬送装置20が動作軌跡に従って移動し、多軸ロボット202が目標点1,2,3,…,Nを通過するのに追従して、スライド103の位置が目標位置1,2,3,…,Nと変化していくような制御が行われる。
【0045】
もし何らかの異常が発生して、プレス装置10が搬送装置20に追従する位置からずれた状態でプレス装置10、搬送装置20が停止した場合の復帰処理は以下のように行う。
スライド位置指令生成器141に多軸ロボット202が到達した最新の目標点(目標点Yと記述する)を記憶する機能を設けておき、スライド位置指令生成器141は目標点Yに対応する目標位置Yをメインモータ制御器122へ出力する。搬送装置20(多軸ロボット202)を停止させたまま、プレス装置10のスライド103を目標位置Yへ動かす。スライド103が目標位置Yへ移動したら、搬送装置20を再起動させることにより、再びプレス装置10が搬送装置20に追従動作する。
【0046】
以上で説明した手段の場合、搬送装置20の動作に対しプレス装置10の動作が若干遅れる可能性があるが、多軸ロボット202が目標点Xに到達したときに、プレス装置10は目標位置Xと目標位置X+1の間の適当な点(もしくは目標位置X+1)を目標位置とすることにより遅れを補正することが可能である。
同様に、復帰動作においても、目標位置Yのかわりに目標位置Yと目標位置Y+1の間の適当な点(もしくは目標位置Y+1)を目標位置とすることが可能である。
【0047】
また、以上で説明した手段では、プレス装置10の動作が常に搬送装置20の動作に追従しているが、プレス装置10と搬送装置20の動作サイクルの一部分、特に、スライド103が下降して上金型104と下金型105がワーク1を成型加工している時間帯では、搬送装置20はプレス装置10から離れており、機械的に干渉する可能性がない。このような時間帯には、プレス装置10が搬送装置20に追従する必要はなく、プレス装置10のスライド103が搬送装置20と無関係に適当な速度(例えば、ワーク1の成型加工に適した速度)で動作するように、スライド位置指令生成器141がスライド位置指令を生成してよい。
【0048】
プレス装置10に対し、ワーク搬入用とワーク搬出用にそれぞれ独立した搬送装置20が設置されるときは、以下のようにすればよい。
ワーク搬入用搬送装置がワークをプレスに搬入している時間帯にはプレス装置10は搬入用搬送装置の動作に追従し、搬入用搬送装置の動作軌跡上の目標点に対応してスライド目標位置を決める。ワーク搬出用搬送装置がワークをプレスから搬出している時間帯にはプレス装置10は搬出用搬送装置の動作に追従し、搬出用搬送装置の動作軌跡上の目標点に対応してスライド目標位置を決める。
【0049】
搬送装置20の動作軌跡、及びスライド103の目標位置移動軌跡は、多軸ロボット202やワーク把持ツール201の性能(例えばモータの回転数、駆動トルク、発熱の制限や機構の強度)、及びプレス装置10の性能の範囲内で、プレス機械と搬送装置が機械的に干渉しないように決定する。干渉チェック機能を有する3次元CADを使ってオフラインで決定する手段や、実際に搬送装置とプレス機械を動作させてみてオンラインで決定していく手段などがある。
【0050】
上述した実施形態では、搬送装置がロボットで構成されている例を示したが、図3に示すように目標点の列を順次たどっていく手段で制御される搬送装置であれば、ロボットに限らず任意の搬送装置に上述した実施形態を適用可能である。
【0051】
図5は、本発明によるサーボプレス設備の第2実施形態図であり、搬送装置として、搬送マスター信号に同期して搬送装置の各モーション軸が動作する例を示す。
この図に示すように、本発明のサーボプレス設備は、プレス装置10、搬送装置30、及び制御装置40を備える。
【0052】
プレス装置10は、サーボモータ(メインモータ101)でスライド103を駆動し、その位置をリアルタイムに制御可能なプレス機械である。
搬送装置30は、プレス装置10にワーク1を搬入及び搬出する装置である。
制御装置40は、搬送装置30を制御し、搬送装置30の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出しプレス装置10を制御する制御装置である。
制御装置40は、搬送装置30の検出された位置に対して、取り付けられた金型(上金型104)及び付属物を含むスライド103が搬送装置30と機械的に干渉しないスライド103の位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算手段41を有する。
このスライド位置計算手段41により、検出された搬送装置30の位置に対しスライド103の干渉しない位置又は位置範囲を計算し、これを目標位置又は目標範囲として、スライド103の実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置10を制御する。
【0053】
プレス装置10の構成は、制御装置40にスライド位置許容範囲計算器131(説明は後述する)が追加された以外は第1実施形態と同じであるので説明を略す。各構成要素に付した番号も第1実施形態と同じである。
上述したスライド位置計算手段41は、スライド位置許容範囲計算器131に内蔵されている。
【0054】
図5において、搬送装置30は、ワーク把持ツール301、キャリッジ302、フィード機構303、フィードモータ304、リフト機構305、リフトモータ306、フィードエンコーダ321、及びリフトエンコーダ324からなる。
【0055】
ワーク1を把持するためのワーク把持ツール301は、キャリッジ302から支持されている。キャリッジ302をフィード方向(図中の左右方向)に動かすためのフィード機構303がフィードモータ304により駆動され、キャリッジ302をリフト方向(図中の上下方向)に動かすためのリフト機構305がリフトモータ306により駆動される。
【0056】
フィード機構やリフト機構としては、モータの回転をボールスクリューで直線動に変える手段や、モータの回転をギアで減速し、ピニオンラック方式により直線動に変える手段などがある。
【0057】
図5において、制御装置40は、上述したメインモータ制御器122、メインモータアンプ123、及びスライド位置指令生成器141の他に、スライド位置許容範囲計算131、フィードモータ制御器322、フィードモータアンプ323、リフトモータ制御器325、リフトモータアンプ326、搬送マスター信号発生器341、搬送装置位置指令生成器343、及び、搬送装置位置計算器351を備える。
【0058】
搬送装置30が希望する動作状態(正転、逆転、サイクルタイム変化など)に応じて動作軌跡に従って移動できるようにするため、搬送マスター信号発生器341が設けられており、希望する動作状態に応じて、時間変化する搬送マスター信号342を発生し、搬送装置位置指令生成器343へ出力する。
【0059】
搬送装置位置指令生成器343は、動作軌跡を示す情報、すなわち、搬送マスター信号342と搬送装置位置指令値(本例では、フィードとリフトの位置指令値)との関係、すなわちモーションカーブを記憶しており、入力された搬送マスター信号342の値に対応するフィードとリフトの位置指令値を、それぞれフィードモータ制御器322とリフトモータ制御器325へ出力する。
【0060】
図6は、搬送マスター信号と搬送装置の関係図である。この図において、(A)は経過時間と搬送マスター信号の関係、(B)は搬送マスター信号とフィード位置指令値及びフィード位置との関係、(C)は搬送マスター信号とリフト位置指令値及びリフト位置との関係を示す。
【0061】
例えば、搬送装置30を一定のサイクルタイムで動作軌跡に沿って正転させたい場合、図6に示すように、搬送マスター信号発生器341は搬送装置30のサイクルタイムTを周期とし、周期内では一定レートで増加する搬送マスター信号342を発生する。
搬送装置位置指令生成器343は、フィードのモーションカーブに基づき、搬送マスター信号342に対応するフィード位置指令値を計算し、フィードモータ制御器322へ出力する。また、リフトのモーションカーブに基づき、搬送マスター信号342に対応するリフト位置指令値を計算し、リフトモータ制御器325へ出力する。
【0062】
搬送装置位置指令生成器343にモーションカーブを保持させる手段としては、適当な間隔でサンプルした値をテーブルで記憶しその間を多項式やスプラインで補間する手段、カーブの全体もしくは適当に分割した区間ごとに関数で表現する手段などがある。
【0063】
図7は、搬送装置の作動状態と搬送マスター信号の関係を示す図である。この図において、(A)(B)(C)(D)はそれぞれ搬送装置の異なる作動状態における搬送マスター信号の時間に対する変化パターンを示す。
搬送装置30を異なる動作状態で動かしたいときは、搬送マスター信号発生器341が発生する搬送マスター信号342の時間に対する変化パターンを変える。
例えば、搬送装置のサイクルタイムを変化させたい場合には、図7(A)に示すように毎周期ごとに1周期の時間を変化させたり、図7(B)に示すように搬送マスター信号342の変化レートを連続的に変化させることにより実現できる。搬送装置30を一時的に停止させたい場合には、図7(C)に示すように、搬送マスター信号342の変化レートをゼロにすれば、フィード方向位置指令値・リフト方向位置指令値は変化しなくなり、搬送装置30は停止する。
搬送装置30を動作軌跡に沿って逆転したい場合には、図7(D)に示すように、搬送マスター信号342を減少させればよい。
【0064】
以上で説明したように生成されたフィード位置指令値・リフト位置指令値に対し、搬送装置30の実際のフィード位置・リフト位置が一致するように、以下のように制御が行われる。
【0065】
キャリッジ302のフィード(図中の左右方向)の位置を検出するために、フィードモータ304の回転角を検出するフィードエンコーダ321が設けられている。フィードモータ制御器322は、フィードエンコーダ321が検出したフィードモータ304の回転角をフィード機構303の寸法・構造に基づいて変換して得られるキャリッジ302のフィード位置と、搬送装置位置指令生成器343から与えられるフィード位置指令値とに基づいて、フィードモータ304に対するトルク指令値を生成する。フィードモータアンプ323は、フィードモータ304がトルク指令値に従ってトルクを発生するように、フィードモータ304へ供給される電流・電圧・電力を変化させる。リフト(図中の上下方向)に対しても、同様の構成と作用を有するリフトエンコーダ324、リフトモータ制御器325、リフトモータアンプ326が設けられている。
【0066】
以上の構成により、搬送装置位置指令生成器343から搬送装置位置指令値(この例では、フィードとリフトの位置指令値)が時々刻々与えられると、それに追従してキャリッジ302の位置(本例では、フィードとリフトの位置)が時々刻々変化するクローズドループ制御が行われる。ワーク把持ツール301はキャリッジ302と一定の位置関係を保つように保持されているので、把持ツール301の位置も搬送装置位置指令生成器343から与えられる搬送装置位置指令値に追従し、搬送装置位置指令生成器343に記憶された搬送マスター信号342と搬送装置位置指令値との関係に従って、動作軌跡上を動く。
【0067】
上述したスライド位置計算手段41は、スライド位置許容範囲計算器131に内蔵されている。
フィードエンコーダ321とリフトエンコーダ324で測定されたフィードとリフトの位置は搬送装置位置計算器351に入力される。搬送装置位置計算器351は、搬送装置の機構的寸法(キャリッジ302の駆動機構やワーク把持ツール301の機構的寸法や相互の位置関係)に基づいて、時々刻々の搬送装置位置を計算し、搬送装置位置信号352としてスライド位置許容範囲計算器131へ出力する。
搬送装置位置としては、搬送装置上の適当なポイント、例えばキャリッジ位置やワーク把持ツール位置を使用することができる。搬送装置上の複数のポイントを複合して、例えばキャリッジ位置とワーク把持ツール位置をペアにして搬送装置位置としてもよい。
【0068】
スライド位置許容範囲計算器131は、内蔵するスライド位置計算手段41により、検出された搬送装置30の位置に対しスライド103の位置又は位置範囲を計算し、これを目標位置又は目標範囲として、スライド103の実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置10を制御する。
すなわちスライド位置許容範囲計算器131は、搬送装置位置信号352で示される搬送装置位置に対し、スライド103及びそれに固定されている上金型104(もしスライド103といっしょに動く他の付属物があればそれも含め)が機械的に干渉しないスライド103の位置の範囲を計算し、スライド位置許容範囲信号132としてスライド位置指令生成器141へ出力する。
【0069】
スライド位置指令生成器141は、スライド位置許容範囲132の範囲内でスライド103の位置指令値を生成しメインモータ制御器122へ出力する。
【0070】
以上説明したように生成されたスライド位置指令値に対し、プレス装置10のスライド103の実際の位置が一致するように、第1実施形態と同様に、エンコーダ121、メインモータ制御器122、メインモータアンプ123、及びメインモータ101によるクローズドループ制御が行われる。
【0071】
プレス装置10、搬送装置30のいずれにおいても、エンコーダ121,321,324としては、光学式エンコーダやレゾルバが使用可能である。モータアンプ123,323,326には、直流モータを使用する場合にはサイリスタレオナードやIGBTを使用したチョッパ方式、交流モータを使用する場合にはパワートランジスタやパワーMOSFETやIGBTを使用したPWM方式のインバータ、等が使用できる。モータ制御器122,322,325の制御方法としては、PI、PID、IPDなどのフィードバック制御やフィードフォワード制御の組み合わせ等が使用できる。
ワーク把持ツール301としては、ワーク1を真空吸着する吸盤を取り付けたクロスバーや、ワーク1をはさみこむフィンガーなどが使用できる。
【0072】
図8は、フィード位置・リフト位置とスライド位置許容範囲の関係図である。この図において、A1はフィード位置がF1、リフト位置がL1のときに、搬送装置とプレス機械(プレス装置10)が干渉しないスライド位置許容範囲を示す。同様にA2,A3はそれぞれフィード位置がF2,F3、リフト位置がL2,L3のときに、搬送装置30とプレス装置10が干渉しないスライド位置許容範囲を示す。
【0073】
搬送装置30の動作を基準としてプレス装置10が追従動作するように、以下のようにスライド位置指令値を生成する。
搬送装置30が動作するにつれ、搬送装置位置計算器351から搬送装置位置信号352がスライド位置許容範囲計算器131へ入力される。例えば、搬送装置位置信号352としてキャリッジ302のフィード位置・リフト位置を用いるものとすると、スライド位置許容範囲計算器131は、図8に示すように、時々刻々のキャリッジ302のフィード位置・リフト位置に対して、搬送装置30とプレス装置10が機械的に干渉しないようなスライド103の位置を計算しスライド位置許容範囲信号132として出力する。
【0074】
スライド位置許容範囲の計算手段としては、例えば、あらかじめプレス装置10(金型及び付属物を含む)と搬送装置の寸法形状を3D−CADに入力して計算したり、搬送装置30とプレス装置10を手動でゆっくり動作させて現物あわせで測定することにより、さまざまな搬送装置位置に対し機械的干渉が生じないスライド103の高さ範囲をあらかじめ求めてテーブルに格納しておき、テーブルを参照して(必要があれば補間を行って)スライド位置許容範囲を求める手段や、プレス装置10(金型及び付属物を含む)・搬送装置の寸法形状のデータがスライド位置許容範囲計算器131に格納されており、スライド位置許容範囲をリアルタイムに計算する手段がある。
【0075】
さらに異なる手段として、ワーク把持ツール301やキャリッジ302に光学式距離計や短距離用レーザやスポット光方式のレーザ距離計を取り付けて、スライド103や上金型104までの距離を時々刻々測定することにより、搬送装置30とプレス装置10が機械的に干渉しない余裕距離を計算してスライド位置許容範囲に換算する手段もある。
【0076】
図9は、スライド位置許容範囲とスライド位置指令値の関係図である。この図において、Hはスライド位置許容範囲の上限の時間変化、Lはスライド位置許容範囲の下限の時間、Aは変化時刻tにおけるスライド位置許容範囲、B1〜B5はスライド位置指令値の変化を示している。
【0077】
スライド位置指令生成器141は、スライド位置許容範囲信号132が示すスライド位置許容範囲A内で、適切なスライド位置指令値B(B1〜B5)を生成する。
例えば、ワーク1をプレス成型するためにスライド103が下降中であるが上金型104がワーク1にまだ接触していない間は、できるだけ高速で下降することが望ましいので、図9(A)に示すように、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲内であればメインモータ101の性能が許す限りできるだけ高速にスライド103を下降させるようなスライド位置指令値B1とし、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲の下限に引っかかるのであれば、スライド位置許容範囲の下限をスライド位置指令値B2とすればよい。スライド103の位置がスライド位置許容範囲の上限に引っかかる場合は、異常と考えられ、搬送装置30をすぐに停止する異常処理を行えばよい。
【0078】
上金型104がワーク1と接触しプレス成型加工を行っている間は、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲信号132の示すスライド位置許容範囲内であれば、図9(B)に示すように、プレス成型加工に適した速度でスライド103が動くようなスライド位置指令値B3とすればよい。
また図9(A)又は図9(C)と同様、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲の下限もしくは上限に引っかかるのであれば、スライド位置許容範囲の下限もしくは上限をスライド位置指令値とすればよいが、プレス成型加工中には搬送装置30はプレス装置10と干渉しない位置にいることが普通であり、普通はスライド103の位置がスライド位置許容範囲の下限もしくは上限に引っかかることはない。
【0079】
プレス成型加工が終了した後は、できるだけ高速でスライド103を上昇させることが望ましいので、図9(C)に示すように、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲信号132の示すスライド位置許容範囲内であればメインモータ101の性能が許す限りできるだけ高速にスライド103を上昇させるようなスライド位置指令値B4とし、もしスライド103の位置がスライド位置許容範囲の上限に引っかかるのであれば、スライド位置許容範囲の上限をスライド位置指令値B5とすればよい。スライド103の位置がスライド位置許容範囲の下限に引っかかる場合は、異常と考えられ、搬送装置30をすぐに停止する異常処理を行えばよい。
【0080】
もし何らかの異常が発生して、プレス装置10が搬送装置30に追従する位置からずれた状態でプレス装置10、搬送装置30が停止した場合の復帰処理は以下のように行う。停止位置におけるフィードエンコーダ321,リフトエンコーダ324の測定値に基づいて、搬送装置位置計算器351は搬送装置位置を計算して搬送装置位置信号352として出力するので、それに対応したスライド位置許容範囲をスライド位置許容範囲計算器131で計算し、スライド103の位置が計算されたスライド位置許容範囲内に入るまでプレス装置10のみ動かす。スライド103がスライド位置許容範囲内に入ったら、搬送装置30を再起動させることにより、再びプレス装置10が搬送装置30に追従動作する。
【0081】
プレス装置10に対し、ワーク搬入用とワーク搬出用に独立した搬送装置が設置されるときは、以下のようにすればよい。搬入用ワーク搬送装置と搬出用ワーク搬送装置のそれぞれに対し、図5に示す301〜306、321〜326、341〜343、351、352に相当する要素を独立に設ける。
搬入用搬送装置がワークをプレスに搬入している時間帯は、スライド位置許容範囲計算器131への入力として、搬入用搬送装置からの搬送装置位置信号を用い、搬出用搬送装置がワークをプレスから搬出している時間帯は、スライド位置許容範囲計算器131への入力として、搬出用搬送装置からの搬送装置位置信号を用いる。
【0082】
搬送装置30の動作軌跡は、ワーク把持ツール301を含む搬送装置30の性能(例えばモータの回転数・駆動トルク・発熱の制限や機構の強度)の範囲内で、ワークを取り落としたりすることがなく、かつプレス機械もメインモータの性能の範囲内で動くことが可能であり機械的な干渉が生じないように決定する。干渉チェック機能を有する3次元CADを使ってオフラインで決定する手段や、実際に搬送装置とプレス機械を動作させてみてオンラインで決定していく手段などがある。
【0083】
この第2実施形態では、搬送装置がフィードとリフトの2動作軸を有する場合の例を示したが、図6に示すように搬送マスター信号に基づいてモーションカーブに追従するように制御される搬送装置であれば、任意の構成、構造、動作軸数の搬送装置にこの第2実施形態を適用可能である。例えば、フィードとリフトとクランプを有する3次元トランスファー機構や、ドッピン式と称されるようなリンク式のローダー、各種の産業用ロボットの機構、などが使用可能である。搬入側と搬出側で機構が異なっていてもよい。
【0084】
(第1実施形態、第2実施形態に共通)
第1、第2実施形態ではプレス機械と搬送装置が1台ずつの場合を示したが、以下のようにすることにより、複数のプレス機械と搬送装置で生産ラインを構成する場合にも本発明を適用可能である。
【0085】
第1実施形態の場合、各プレス機械ごとにスライド位置指令生成器、各搬送装置ごとにロボットコントローラを設け、各プレス機械は、ワーク搬入が行われている間はワークを搬入している搬送装置の動作軌跡に追従するようにスライド目標位置を生成し、ワーク搬出が行われている間はワークを搬出している搬送装置の動作軌跡に追従するようにスライド目標位置を生成するようにすればよい。
【0086】
第2実施形態の場合、各プレス機械ごとにスライド位置許容範囲計算器・スライド位置指令生成器、各搬送装置ごとに搬送マスター信号発生器・搬送装置位置指令生成器・搬送装置位置計算器を設け、各プレス機械は、ワーク搬入が行われている間はワークを搬入している搬送装置からの搬送装置位置信号に基づいてスライド位置許容範囲を決定し、ワーク搬出が行われている間はワークを搬出している搬送装置からの搬送装置位置信号に基づいてスライド位置許容範囲を決定するようにすればよい。
いずれの場合にも、各搬送装置、各プレス機械は、一台ずつ異なる動作軌跡・スライド移動軌跡で動かすことが可能である。
【0087】
上述した実施形態では、モータの回転を機構的にスライドの直線動に変換するサーボプレスを示したが、リニアモータを使用してスライドを駆動するサーボプレスにも適用可能である。
【0088】
上述した実施形態では、スライドやフィード・リフトの位置検出手段として、モータの回転角をエンコーダで検出し、スライドやフィード・リフト駆動機構の寸法に基づいてスライドやフィード・リフトの位置に変換する例を示したが、スライドやフィード・リフトの位置を光学式リニアスケールや磁歪式リニアエンコーダで直接検出する手段も可能である。
【0089】
上述した実施形態では、エンコーダをモータ軸に取り付ける例を示したが、モータで駆動される機構の側にロータリーエンコーダないしリニアエンコーダを設けて位置を検出する手段も可能である。
【0090】
上述した本発明の装置及び方法によれば、搬送装置20,30の動作軌跡は、速度や加速度が大きくなく搬送に適した軌跡とすることができるので、ワーク把持を安定化でき、搬送装置20,30の駆動機構や駆動モータをむやみに大きくする必要性を回避できる。
【0091】
また、搬送装置20,30に異常が発生した場合、搬送装置20,30との干渉を避けるようにスライド103が動作するので、機械的干渉による搬送装置及びプレス機械の破損可能性を低減することができる。
【0092】
また、異常停止からの復帰動作を行うとき、搬送装置20,30の位置を基準としてプレス機械10を動かして追従可能な位置へ移動させるので、復帰動作中にワークを把持している搬送装置は動く必要が無く、ワークを取り落としたりワークを損傷する可能性を低減できる。
【0093】
さらに、搬送装置20,30は制御装置の内部で生成する搬送装置固有の滑らかな動作軌跡で動作できるので、搬送装置がふらついたりすることがなく、搬送が安定して行える。
【0094】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明によるサーボプレス設備の第1実施形態図である。
【図2】本発明によるサーボプレス設備の制御方法を示すフロー図である。
【図3】搬送装置20の動作軌跡の模式図である。
【図4】搬送装置の動作軌跡とスライドの目標位置軌跡との関係図である。
【図5】本発明によるサーボプレス設備の第2実施形態図である。
【図6】搬送マスター信号と搬送装置の関係図である。
【図7】搬送装置の作動状態と搬送マスター信号の関係を示す図である。
【図8】フィード位置・リフト位置とスライド位置許容範囲の関係図である。
【図9】スライド位置許容範囲とスライド位置指令値の関係図である。
【符号の説明】
【0096】
1 ワーク、
10 プレス装置(サーボプレス装置)、
20,30 搬送装置、
40 制御装置、
41 スライド位置計算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーボモータでスライドを駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置と、該プレス装置にワークを搬入及び/又は搬出する搬送装置と、該搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出し、該プレス装置を搬送装置と機械的に干渉しないように制御する制御装置とを備える、ことを特徴とするサーボプレス設備。
【請求項2】
前記制御装置は、搬送装置の検出された位置に対して、取り付けられた金型及び付属物を含むスライドが搬送装置と機械的に干渉しないスライドの位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算手段を有し、
該スライド位置計算手段により、検出された搬送装置の位置に対しスライドの前記干渉しない位置又は位置範囲を計算し、これを目標位置又は目標範囲として、スライドの実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置を制御する、ことを特徴とする請求項1に記載のサーボプレス設備。
【請求項3】
サーボモータでスライドを駆動しその位置をリアルタイムに制御可能なプレス装置と、該プレス装置にワークを搬入及び/又は搬出する搬送装置とを備えたサーボプレス設備の制御方法であって、
搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出しプレス装置を搬送装置と機械的に干渉しないように制御する、ことを特徴とするサーボプレス設備の制御方法。
【請求項4】
搬送装置の動作軌跡上での位置を間欠的又は連続的に検出する搬送位置検出ステップと、
搬送装置の検出された位置に対して、取り付けられた金型及び付属物を含むスライドが搬送装置と機械的に干渉しないスライドの位置又は位置範囲を計算するスライド位置計算ステップと、
計算されたスライドの前記干渉しない位置又は位置範囲を目標位置又は目標範囲として、スライドの実際の位置が、目標位置に一致する、もしくは目標範囲内に入るようにプレス装置を制御するサーボプレス制御ステップとを有する、ことを特徴とする請求項3に記載のサーボプレス設備の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−173642(P2008−173642A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6571(P2007−6571)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】