説明

サーマルプリントヘッドサブシステムを用いる、可変データリソグラフ印刷装置

【課題】可変データリソグラフ印刷のシステムにおいて任意に画像再作成可能な面の上に配置する湿し水の層を選択的に取り除くためのプリントヘッドサブシステムを提供する。
【解決手段】任意に画像再作成可能な面に近接して配置されるサーマルプリントヘッド素子と、サーマルプリントヘッドに通信可能に接続してサーマルプリントヘッドを選択して一時的に昇温まで加熱するドライブ回路35とを含む。サーマルプリントヘッドに近接した湿し水層32の一部は、サーマルプリントヘッドが昇温に達したとき、サーマルプリントヘッドにより気化され、任意に画像再作成可能12な面から削除され、これにより湿し水の層32の中に間隙が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マーキングシステムおよび印刷システムに関し、より具体的にはエッジ書込み(edge−writing)型サーマルプリントヘッドを用いる可変データリソグラフ印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、オフセットによるリソグラフ印刷が印刷の一般的な方法である(本明細書の説明では、用語「印刷する」および用語「マークする」のどちらも同じ意味で使用可能である)。一般的なリソグラフ印刷の過程では、疎水性および親油性の材料から成る「画像領域」と、親水性の材料から成る「非画像領域」とを有する刷版を作成する。この刷版は平坦なプレート、シリンダ、またはベルトの面等でよい。画像領域は、最終印刷物(即ち、対象の下地)の上でインク等の印刷材料またはマーキング材料によって満たされる部分に対応する領域であり、非画像領域は、最終印刷物の上で前記マーキング材料によって満たされていない部分に対応する領域である。親水性の領域は、水ベースの液体を受け入れ、それにより湿り易い。この水ベースの液体は一般に湿し水(一般に水と少量のアルコール、およびその他の添加剤および/または表面張力を減らすための界面活性剤から成る)と呼ばれる。疎水性の領域は、湿し水とは混じり合わずにインクを受け入れる。一方で親水性領域の上に形成された湿し水は、液体の「剥離層」を形成してインクを拒絶する。したがって、刷版の親水性領域は、最終印刷物の印刷されない場所、即ち「非画像領域」に対応する。
【0003】
直接インクを紙等の下地に転写することができ、またはオフセット印刷システム内のオフセット(またはブランケット)シリンダ等の中間面に塗布することもできる。オフセットシリンダは、下地の組織に適合する表面を有する形状適合性被覆材またはスリーブに覆われており、画像形成する刷版の面の山から谷までの深さより若干深い山から谷まで深さの表面を有することができる。また、オフセットのブランケットシリンダの表面の凹凸により斑点等の不具合がなく印刷材料のより均一な層を下地に塗布することができる。オフセットシリンダから下地に画像を転写するために十分な圧力をかける。この圧力は、オフセットシリンダと圧シリンダとの間に下地を挟むことで作り出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的なリソグラフ印刷およびオフセット印刷の技術は、恒久的に図柄が形成される刷版を用い、したがって、雑誌、新聞等の多くの同じ画像のコピー(長い印刷作業)を印刷するときに限って実用性がある。しかし、これらの技術では、印刷シリンダおよび/または刷版を取り除き交換しないで、ページとページの間で新しい図柄を作成し印刷することはできない(即ち、この技術では、例えば、デジタル印刷システムのように刷と刷の間で画像を変更する可変データ印刷を行って、本当に高速な印刷を実現することはできない)。さらに、恒久的な図柄を作成する刷版、またはシリンダのコストは多数の印刷物を印刷することで償却できる。したがって、デジタル印刷システムによる印刷とは対照的に、同じ画像の少量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストは、同一の画像のより大量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストより高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、可変データリソグラフ印刷と呼ばれるリソグラフ印刷の技術が開発され、この技術では湿し水で被覆される図柄の無い画像再作成可能面(reimageable
surface)を用いる。この湿し水の領域は、焦点照射源(例えば、レーザ光源)にさらされて取り除かれる。これにより、湿し水内の一時的な図柄が図柄の無い画像再作成可能面の上に形成される。その上に塗布されたインクが、この面の中の湿し水を取り除かれた場所の上に保持される。次いで湿し水を取り除き、新しい湿し水の均一な層を画像再作成可能面に塗布することができ、この処理が繰り返される。
【0006】
既知のシステムに従えば、可変データリソグラフ印刷において画像再作成可能面の上に湿し水の図柄を作るには、レーザを用いて選択した場所の湿し水を選択的に気化させて取り除く、即ち除去する。水を気化させるには大量の潜熱が必要なため、この処理ではエネルギを大量に消費することがあり得る。同時に、高速の印刷作業では、レーザ源の変調を高速で行うことが余儀なくされ、これには高出力のレーザが必要となるためコストがかかることが十分に考えられる。さらに、気化した湿し水により「かすみ」が発生し、このかすみによりレーザのエネルギが吸収される、あるいはレーザの図柄作成処理を妨げる。そしてさらに、レーザベースの光学システムは、比較的大きく、それに伴い印刷システムも比較的大型なものとなる。レーザ書き込みシステムでは、走査光学機構および焦点調整光学機構が必要とされるが、これらの機構は、精密機器で調整誤差に敏感で、その誤差は湿し水の書き込みに影響を及ぼし、最終的に印刷物の品質に影響を及ぼす。
【0007】
したがって、本開示は可変データリソグラフ印刷とオフセットリソグラフ印刷とを提供するシステムおよび方法に関し、このシステムおよび方法により、上記で認識された短所、および本開示により下記に明らかとなるその他の短所を克服することができる。本開示は、湿し水の図柄を可変にすることに基づく可変画像リソグラフ印刷のマーキングシステム、および上記に議論された方法に関する。
【0008】
本開示の第1の態様に従えば、画像作成部に画像再作成可能な層が提供され、この画像作成部はドラム、プレート、ベルト等でよい。ある実施形態では、画像再作成可能な層は画像再作成可能な外周面を含み、これは、例えば一般的にシリコン(例えば、ポリジメチルシロキサン)と呼ばれる材料の類から成る。画像再作成可能な層に湿し水を塗布するサブシステムに続いて、サーマルプリントヘッドが、この画像再作成可能な層に近接して配置される(画像再作成可能な層が移動する方向に)。ある実施形態では、サーマルプリントヘッドは、削除が望まれる箇所以外の領域の湿し水への影響を最小限にするために近接したエッジから書き込むよう構成されている。
【0009】
ある実施形態では、可変データリソグラフ印刷のシステムにおいて、任意に画像の再作成可能な面の上の湿し水の層を選択的に削除するプリントヘッドサブシステムが開示され、このシステムは、任意に画像の再作成可能な面に近接して配置されたサーマルプリントヘッド素子と、サーマルプリントヘッドと通信可能に接続し、サーマルプリントヘッドを選択して一時的に昇温まで加熱するドライブ回路とを含む。サーマルプリントヘッドが昇温に達すると、サーマルプリントヘッドのエッジに近接する湿し水の層の一部は、サーマルプリントヘッドによって気化され、任意に画像再作成可能な面から削除される。これにより、画像再作成可能面の上に、湿し水の層に覆われていない領域が形成される。
【0010】
別の実施形態では、可変データリソグラフ印刷システムは、任意に画像再作成可能な面の層を含む画像作成部と、湿し水の層を任意に画像再作成可能な面の層に塗布する湿し水サブシステムと、任意に画像再作成可能な面の層に近接して配置されたサーマルプリントヘッド素子と、一時的に昇温まで加熱するためにサーマルプリントヘッドを選択してサーマルプリントヘッドと通信可能に接続するドライブ回路とを含む図柄作成サブシステムであって、これにより、サーマルプリントヘッドが昇温に達すると、このサーマルプリントヘッドによってサーマルプリントヘッドに近接した湿し水の層の一部が気化し、任意に画像再作成可能な面の層から削除され、湿し水の層の中に間隙を有する領域を形成する図柄作成サブシステムと、任意に画像再作成可能な面の層の上にインクを塗布するインク塗布サブシステムであって、これにより画像再作成可能面の上の湿し水の剥離層の無い領域にインクが選択的に付着し、インクの付着した潜像を作り出すインク塗布サブシステムと、インクの付着した潜像を下地に転写する画像転写サブシステムと、該湿し水の層および該インクを取り除くクリーニングサブシステムと、を含む。クリーニングサブシステムによって任意に画像再作成可能な面の層がクリーニングされ、湿し水サブシステムによりその上に新しい湿し水層が塗布されるよう、これら画像作成部と、図柄作成サブシステム、インク塗布サブシステム、画像転写サブシステム、およびクリーニングサブシステムは互いに移動する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本開示による、サーマルプリントヘッドサブシステムを含む可変リソグラフ印刷に関するシステムの第1の実施形態の側面図である。
【図2A】図2Aは、それぞれ本開示による、画像再作成可能面の層を含む画像作成部の一部の断面図と拡大図である。
【図2B】図2Bは、それぞれ本開示による、画像再作成可能面の層を含む画像作成部の一部の断面図と拡大図である。
【図3】図3は、本開示による、サーマルプリントヘッドサブシステムの側面図である。
【図4】図4は、本開示による、湿し水の層に近接して配置されたサーマルプリントヘッドサブシステムの切り欠き斜視図である。
【図5】図5は、本開示による、画像再作成可能面の層の上に形成された湿し水の層と、湿し水の層の一部を選択的に気化させるサーマルプリントヘッドと、含む画像再作成可能面の層の上面図である。
【図6】図6は、本開示による、従来のオフセット印刷システムのオフセットシリンダにサーマルプリントヘッドサブシステムが組み込まれた実施形態の説明図である。
【図7】図7は、本開示による、単一な画像再作成可能面の上に画像作成するよう構成された複数のサーマルプリントヘッドの説明図である。
【図8】図8は、本開示による可変データリソグラフ印刷システム内で用いる、湿し水形成ローラの面の上に配置されて湿し水の図柄の上の転写物を画像再作成可能面に移すタイプのサーマルプリントヘッドの側面図である。
【図9】図9は、本開示による可変データリソグラフ印刷システム内で用い湿し水形成ローラの面の上に配置されて湿し水の図柄の上の転写物を画像再作成可能面に移すサーマルプリントヘッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1を参照すると、本開示による可変リソグラフ印刷に関するシステム10の第1の実施形態が示されている。システム10は、複数のサブシステムに囲まれた画像作成部12、(この実施形態ではドラムであるが、プレート、ベルト等も同様に用いることができる)を含む。画像作成部12は画像転写サブシステム内のニップ16で図柄作成部12と、圧力ローラ18との間に下地14を挟んで、インク画像を下地14に塗布する。紙、プラスティックまたは複合膜フィルム、セラミック、ガラス等の様々な種類の下地を使用することができる。説明を明瞭かつ簡潔にするために、この下地は紙と仮定するが、理解の通り、本開示はこれら下地の形態には限定されない。例えば、その他の下地には、厚紙、波を打った梱包材料、木材、セラミックのタイル、生地(例えば、布、カーテン、衣類等)、透明シートまたはプラスティックフィルム、金属箔等が含まれ得る。重量による顔料密度が10%より高い幅広いマーキング材料を使用することができ、それらには梱包に便利な金属インクまたは白インクも含まれるがこれに限定はしない。本開示のこの点を明瞭で簡潔にするために、インクという用語には、本明細書で開示したシステムおよび方法により適用することが可能な限り、インク、顔料、およびその他の材料等およびのマーキング材料も含まれることは理解されよう。
【0013】
画像作成部12からのインク画像は、本開示の趣旨から逸脱しない限り、小さなものから大きなものまで多種多様な形態の下地に塗布することができる。ある実施形態では、標準的な4シートシグニチャのページ(4−sheet
signature page)またはそれより大きな媒体の形態にも対応するために画像作成部12は、少なくとも29インチの幅を有する。画像作成部12の直径は、種々のサブシステムをその外周面の周りに収容するために十分に大きくなければならない。ある実施形態では、画像作成部12は10インチの直径を有するが、本開示の用途によっては、それよりも大きな直径、またはそれより小さな直径も適当である。
【0014】
図2Aおよび図2Bを参照すると、画像作成部12の一部の断面が示されている。ある実施形態では、画像作成部12は、中間層22(例えば金属、セラミック、プラスティック等)とその上に形成された薄い画像再作成可能面層20を含み、これらが共に再書込可能な印刷ブランケットを形成する画像再作成可能部24を形成する。中間層22は電気絶縁(または導電)性、熱絶縁(または導熱)性でよく、可変圧縮率および可変デュロメータ等を有することができる。続く議論のため、画像再作成可能部24はシリンダの芯26により搬送されると仮定するが、上記で議論した通り本開示により多くの異なる構成も予期できることは言うまでもない。
【0015】
均一な(ピンホール、ビーズまたはその他の不都合の無い)画像再作成可能面へのインクの付着と、それに続いて浮き上がったインクの下地への転写を促すために、画像再作成可能面の層20は、接触点でインクに対する粘着力を弱めなければならないが、なおもインクに対して良好な親油性の湿り特性を有する。このような特性を有する一つの材料としてシリコンがある。湿し水(水ベースのファウンテン液等の)による好適な湿りの提供に関して、シリコン面は親水性である必要はなく、実際には疎水性でもよい。というのもシリコングリコール共重合体等の湿った界面活性剤を湿し水に加えることができ、これにより湿し水がシリコン面を湿らすことができるためである。
【0016】
したがって、水ベースの溶剤が本開示の実施形態で用いることができる湿し水の一実施形態である一方で、疎油性で、気化しやすく、分解可能な、あるいは選択的に取り除ける等の特徴を有する、小さな表面張力を有するその他の非水の湿し水を用いることができることは言うまでもない。このような類の液体の一つには、ミネソタ州セントポール所在の3M社により製造されるノベックエンジニアードフルード(商標)等のヒドロフルオロエーテル類(HFE)がある。これらの液体には、様々な好都合な特性があり、その中には下記の通り、本開示に関連するものもある。:(1)気化熱が水よりも著しく低い、これにより必要とされる局所的な気化力を低くすることができる。(2)より小さい熱容量、これによっても必要とされる局所的な気化力を低くすることができる。(3)蒸気圧および沸点を操作することができ、これにより必要とされる気化力を低くすることに加えて、空間を選択して行う強制的気化処理の安定性を向上させることができる。
【0017】
図1に戻ると、湿し水サブシステム30が画像作成部12の周りの最初の位置に配置されている。一般に、湿し水サブシステム30は、一つ以上のローラ、噴霧装置、計量ブレード、液体タンク等(湿しユニットと称する)を含み、画像作成部12の上に均一な湿し水層32を形成する。様々な種類および構成の湿しユニットが存在して均一で制御可能な厚みを有する湿し水の層32を提供していることは周知である。ある実施形態では、層32の厚みは0.2μmから1.0μmの範囲であり、ピンホールが無く非常に均一である。
【0018】
画像作成部12の上に層32が形成された後、サーマルプリントヘッドサブシステム34を用いて、層32の領域を選択的に気化することにより、潜像の印刷図柄が層32上に形成される。サーマルプリントヘッドサブシステム34を制御するドライブ回路35に関する詳細は、本開示の趣旨の範囲でないが、このようなドライブ回路に対する実施形態は当業者には利用可能であることは言うまでもない。
【0019】
次いで図3を参照すると、サーマルプリントヘッドサブシステム34の実施形態の側面図が示されている。サーマルプリントヘッドサブシステムの種々の実施形態により、本明細で開示する機能が提供されるが、サブシステム34の供述は、説明を目的とするものであり、本明細書に付随する請求項の範囲でのみ制限をされることは理解されよう。プリントヘッド34は、発熱素子40と通信可能に接続するドライブ回路38を載せた基板36を含む。随意的に、ドライブ回路を、基板36から離れて形成し運搬してもよい。一般に基板36は高い熱伝統率を有するセラミック材料で作られ、40で示すヘッドヒータから金属ヒートシンク39へ効率的に非常に高温の熱を伝える。その他の回路41等の機械構成部品、および取付け部品も、基板36の上に載せることができる。
【0020】
図1および図3に示された実施形態では、サーマルプリントヘッド34は、画像再作成可能な部分24の上に弱い圧力で形成された湿し水層32とワイパーブレード構成により浅い角度θで接触するように、画像再作成可能な部分24に近接して設置される。この構成で、摩耗を抑えることで、湿し水がサーマルプリントヘッドと画像再作成可能面の寿命を著しく延ばす潤滑層として機能することができる。ほとんどの従来のサーマルプリントヘッドでは、写真仕上げの用途に関して125から256までの数の電流パルスを用いて単一のグレースケールの画素を生成するが、図3(図4でも図示する)の構成では、気化および/または切除によりシングルドットの湿し水を除去するためにはたった一つのシングルパルスしか必用としない。このような削除される湿し水のドットは、600dpiまたは1200dpiドットのサイズに対応することができる。熱エネルギはこの湿し水の下流で転送されるため、サーマルプリントヘッド34は潤滑された画像再作成可能面の上流に接触させる。サーマルプリントヘッドが、ヘッドと湿し水との間の約1μm以下の間隔の狭い空隙で、効率的に動作することも可能である。これは容易に実行できるが、画像を再作成可能部24に対するサーマルプリントヘッド34の位置を維持する制御が必要である。
【0021】
次いで図4を参照すると、湿し水の層32に近接した発熱素子40の一部の斜視図が示されている。このタイプの発熱素子40をエッジ書込み部と称する。これらの構成部品内ではサーマルプリントヘッドサブシステム34に近接する端に、またはその近くに配置された電気抵抗素子42を通して電流が流れる。この抵抗により、抵抗素子42により局所的に温度が上昇する。温度上昇は層32の領域を気化させて、インクまたはその他のマーキング材料を受けるための、乾燥した下流領域を形成するのに十分である。一つ例を挙げると、この発熱素子40は、米国のKanematsu社(http://www.printhead.com/products/)のモデルG5067等の市販の1200dpiのサーマルプリントヘッドシステムの部品を形成する。完全なプリントヘッドに関する設計では、大判等に関してコモン電圧の負荷を除去するための幅広のコモン接地電極(図示せず)を基板36の裏側に設けることができる。あるいは、大判および湿し水の高速気化に関し最適化された、好適なOEM設計でプリントヘッド34を作成することも可能である。
【0022】
湿し水の間隙に単一のストライプを作成するのに十分な発熱素子40の一部だけが図4には示されており、完全なサーマルプリントヘッドでは、図5に示す通り、潜像を作り出すために複数の抵抗素子を、サーマルプリントヘッド全般に渡って横方向に配列して複数の平行な列を作成することは言うまでもない。各発熱素子40は、画像再作成可能面上に湿し水が残っていない状態で、より大きな水平領域45を形成するために、互いに隣接する湿し水の間隙44どうしが少し重なるような間隔で、隣接する発熱素子に近接して配置されなければならない。
【0023】
この実施形態で使用されるサーマルプリントヘッドの性質上、ほとんどのサーマルプリントヘッドの設計に用いる外側の層の厚みを最小にして湿し水の層への熱伝導率を最大にすることができる。さらに、冷却率を最大にし、それに伴ってサーマルプリントヘッドの熱応答時間を最小にするために、サーマルプリントヘッドを載せるセラミックの基板をほとんど平坦にするために用いるグレーズ層を最小にすることができる(即ち、薄いガラスの種類のようにする)。いくらかの実施形態では、抵抗発熱素子の周囲の温度は100〜130°Cに達するだけである。したがって、ほぼ1m/sの高速印刷のときでさえ、湿し水の薄い層を完全に除去するためには、画素ごとに100mWの電力レベルで充分である。
【0024】
図1に戻って、続く湿し水の層32に図柄を付ける過程では、インクローラサブシステム46を用いて湿し水の層32の上に、乾燥領域44を優先して、インクを塗布する。湿し水は疎油性で、インクの構成要素は疎水性であるため、湿し水に覆われた場所は自然にインクを寄せ付けない。間隙44をよく満たし、画像再作成可能面層20によく付着するために、使用されるインクは比較的弱い粘着性を有するほうがよい。これにより、画像再作成可能面層20の上にインクの潜像が形成される。次いで、このインクの潜像は、ニップ16で下地14に転写される。
【0025】
大半のインクが下地14に転写された後、全ての残留インクおよび全ての残留湿し水は、画像再作成可能面の層20から、好ましくはその面を削るまたは擦り減らすことなしに、取り除かれる。上記に供述した通り、湿し水サブシステム30で湿し水を再度塗布し、湿し水層32の新しい潜像を作る前に、クリーニングサブシステム68、またはその他の方法およびシステムを用いて、画像再作成可能面の層を清掃することができる。
【0026】
オフセットシリンダまたはブランケットシリンダを用いない、単一の画像作成シリンダを含むシステムを本明細で示し説明される。画像再作成可能面の層は、高圧の圧力シリンダを経由する印刷媒体の凸凹に対して適合する材料から作られ、一方で大ボリュームの印刷を行うために必要な良好な引張強度を維持する。慣例上、これは、オフセット印刷システム内のオフセットシリンダまたはブランケットシリンダの役割である。しかし、オフセットローラを用いるということは、付加的な保守および修理/部品交換の問題、生産コストの増加、ドラム(あるいはベルト、プレート等)の回転運動を維持するための付加的なエネルギ消費を伴うより大型のシステムが暗に連想される。
【0027】
しかし、いくつかのケースでは、好都合にもこのような従来のオフセットシステムのブランケットシリンダの周りにはめ込むことができる可変データリソグラフ印刷システムに、既存のオフセットの設備を組み込むことができる。このような組み込み装置の一実施形態60を図6に示す。上段の従来のオフセット印刷装置の画像作成刷版のシリンダ62は、均一な背景のインク画像を塗布するインクローラシステムとして機能することができる。従来のシステムのオフセットブランケットシリンダが、図1に示しそれに関して説明したのと同様な方法で、画像再作成可能面、およびシリンダの外周に設けられるサーマルプリントヘッド34、湿し水サブシステム30、クリーニングサブシステム68等にうまく組み込まれている。次いで、実施形態60の動作は、図1に示す実施形態10の動作と調和する。
【0028】
ある実施形態では、上記に説明したサーマルプリントヘッドを用いる可変データリソグラフ印刷システム、および普通なら周知である従来のオフセットのリソグラフ印刷システムの両方の要素を提供することが望まれる。このようなケースでは、例えば、可変データは小さな領域でしか必要がなく、その他の領域では次から次へと印刷を繰り返す。このようなケースでは、サーマル書込み型ヘッドおよびそれに付随するサブシステムの幅を、可変データの印刷を必要とする領域だけをカバーして、印刷システム全体の幅よりも狭くすることができる。その中に印刷画像を形成する非画像再作成可能面を、上段の刷版シリンダ62の面に配置して、インクを受け取り、インクの画像を画像作成部12の面に転写し、次に画像作成部12の面がこの画像を、湿し水の層32内の乾燥領域で形成されたインクの潜像と共に、下地14に転写することができる。この構成で、既に購入した設備の完全償却が可能となると共に、下地への転写の前に可変データを静止画像に刷り込むという随意的で付加的なメリットを提供できる。当業者には明らかなように、フレキソプリントまたはその他の類似する印刷システムを組み込むことで、類似する構成を用いて可変データを提供することができることは言うまでもない。
【0029】
ある実施形態では、湿り層のほとんど全体の上に連続する一体型のプリントヘッドを形成するために上記に開示したサーマルプリントヘッドを配列する。しかし、本開示によってその他の実施形態では別の構成が考えられる。例えば、図7を参照すると、実施形態70が示され、そこでは複数の細いサーマルプリントヘッド72a、72b、72c等が横方向に距離x分だけずれて、y分の僅かな量だけ重なって配列されており、これにより広い帯状の領域の上に連続画像を形成することができる。
【0030】
あるケースでは、湿し水形成ローラの上にサーマルプリントヘッドを配置することで、画像再作成可能面に転写する前の予備画像を湿し水内に生成ことが望まれる。これを実現するためのプリントヘッド74の実施形態を図8に示し、湿し水形成ローラ82と関連して動作するプリントヘッド74と、画像作成部84とを含む実施形態80を図9に示す。動作中、湿し水86の層が湿し水形成ローラ82の面に塗布される。湿し水形成ローラ82は、ローラ88等の他の構成要素と連動して動作して、その面に塗布された湿し水の層が均一で所望の厚みになることを保証する。上記に説明した通り、サーマルプリントヘッド74によりこの湿し水の層に図柄を付けることができる。気化した湿し水を、真空源90等により、その周囲から取り除くことができる(これを再濃縮して再使用することができる)。湿し水の図柄は、ローラ82の面に残る。ローラ82から画像作成部84へ湿し水の図柄が転写されるように、これらの構成要素を互いに近接して配置する。湿し水の層を比較的厚く形成することで、膜がニップで裂けることを防止することができる。この構成により、サーマル書き込みヘッドを小さな直径のローラに適用でき、サーマルプリントヘッドの配列の設計を容易にすることができる。この構成により、湿し水形成ローラの面をさらに最適化して、湿し水形成ローラとサーマルプリントヘッドの両方の摩耗を抑える利点がある。
【0031】
本開示によって完全な印刷システム内でオフセットシリンダを使用できることが予想されるが、そのような場合に限らない。その代りむしろ、画像再作成可能面の層を直接下地に接触させて画像再作成可能面の層から下地へのインク画像の転写に作用させる。これにより、部品コスト、修理/部品交換のコスト、および必用な運転エネルギを全て抑えることができる。
【0032】
第1の層が第2の層または下地の「上に」または「上方に」あると言うときは、直接第2の層または下地の上であるか、あるいは第1の層と、第2の層または下地との間に設置することができる1つまたは複数の仲介層の上であることを意味することは言うまでもない。さらに、第1の層が第2の層または下地の「上に」または「上方に」あると言うときは、第1の層は第2の層または下地の全体、もしくは第2の層または下地の一部を覆うことができる。
【0033】
本明細で説明した方法に従って動作するとき、本明細に記載した発明によって、高いインク転写効率の基準に一致する、画像作成シリンダから下地へのインク転写効率は、例えば95%よりも高く、場合によっては99%まで達する可能性もある。また本開示では、印刷シリンダのオフセットシリンダとの機能の組合せを教示してきた。その中では、高圧の圧力シリンダを経由する印刷媒体の凸凹に対して適合する材料から再書込み可能な画像作成面を作ることができ、その画像作成面は、大ボリュームの印刷のために良好な引張強度を維持する。したがって、ここで開示したシステムおよび方法には、典型的なオフセット印刷システムと比較して高慣性ドラム(high
inertia drum)の構成要素の数を減らすことができるという付加的な長所がある。あらゆる数のオフセットインクの種類を用いて、開示されたシステムおよび方法を実行することができるが、特にUVリソグラフ印刷インクに関して実用性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変データリソグラフ印刷のシステム内の任意に画像再作成可能な面の上に配置される湿し水の層の一部を選択的に取り除くプリントヘッドサブシステムであって、
前記任意に画像再作成可能な面に近接して配置されるサーマルプリントヘッド素子と、
前記サーマルプリントヘッドと通信可能に接続し、前記サーマルプリントヘッドを選択して一時的に昇温まで加熱するドライブ回路とを含み、
これにより、前記サーマルプリントヘッドが前記昇温に達したとき、前記サーマルプリントヘッドによって、前記サーマルプリントヘッドに近接する前記湿し水の層の一部が気化し前記任意の画像再作成可能な面から削除され、それにより前記湿し水層内に間隙を形成する、プリントヘッドサブシステム。
【請求項2】
前記任意に画像再作成可能な面が第1の幅を有し、前記サーマルプリントヘッドが、少なくとも前記第1の幅と等しい第2の幅を有する、請求項1に記載のプリントヘッドサブシステム。
【請求項3】
前記サーマルプリントヘッド素子が、複数のサーマルプリントヘッドサブ素子を含み、さらに前記任意に画像再作成可能な面が第1の幅を有し、またさらに各前記サブ素子が前記第1の幅より小さなサブ素子の幅を有し、第1の幅全体が前記複数のサーマルプリントヘッドサブ素子により覆われるように、前記サブ素子が前記第1の幅の方向に配列され、前記サブ素子は交互に配列され、前記サブ素子はそれぞれ相互に、隣接するサブ素子の位置に対して前記第1の幅とほとんど垂直な方向にオフセット距離だけずれる、請求項1に記載のプリントヘッドサブシステム。
【請求項4】
前記サーマルプリントヘッドが、
基端および先端を有する基板と、
前記先端で前記基板に載せられるサーマル素子と、を含み、
これにより、前記基端より前記基板の前記先端が前記任意に画像再作成可能な面が近くなるよう前記プリントヘッドサブシステムが前記可変データリソグラフ印刷のシステム内に配置される、請求項1に記載のプリントヘッドサブシステム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35280(P2013−35280A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160156(P2012−160156)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】