説明

シアニン化合物の光学異性体を用いた光学記録材料

【課題】高速の光学記録用途に好適な熱分解挙動を示し、溶解性の高いシアニン系化合物を用いた光学記録材料の提供。
【解決手段】(イ)下記一般式(I)で表されるシアニン化合物であって、該一般式(I)における*で示される不斉原子をキラル中心とする光学異性体の少なくとも一つ以上を除く異性体の単体あるいは混合物及び(ロ)溶媒からなることを特徴とする光学記録材料。


式中、環A及び環Bは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいベンゼン環又はナフタレン環を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として情報をレーザ等による情報パターンとして付与することにより記録する光学記録媒体に使用される光学記録材料に関し、詳しくは、紫外及び可視領域の波長を有し、且つ低エネルギーのレーザ等による高密度の光学記録及び再生が可能な光学記録媒体に使用される光学記録材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光学記録媒体は、一般に、記録容量が大きく、記録又は再生が非接触で行なわれること等の優れた特徴を有することから、広く普及している。WORM、CD−R、DVD±R等の追記型の光ディスクでは、記録層の微小面積にレーザを集光させ、光学記録層の性状を変えて記録し、記録部分と未記録部分との反射光量の違いによって再生を行なっている。
【0003】
光ディスクに代表される光学記録媒体の光学記録層には、光学記録層を形成するのが容易なので、有機系の色素が使用されており、特にシアニン系化合物が感度が高く、高速化に対応できることから検討されている。
【0004】
高速記録には熱干渉が小さいことが必要であり、光学記録材料としては、分解温度が低いもの及び熱分解が急峻であるものが適合する。例えば、特許文献1〜3には、高速記録に適した熱分解挙動を示すシアニン系化合物を用いた光学記録材料が開示されている。
【0005】
しかし、上記報告の各シアニン系化合物は、溶解性マージンが十分に取れず、膜の作成工程において安定したプロセスを与えることができないという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−132055号公報
【特許文献2】特許3659922号公報
【特許文献3】特許3698708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、高速の光学記録用途に好適な熱分解挙動を示し、溶解性の高いシアニン系化合物を用いた光学記録材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、検討を重ねた結果、シアニン系化合物の特定の光学異性体が上記課題を解決し得ることを知見し、本発明に到達した。
【0009】
即ち、本発明は、(イ)上記一般式(I)で表されるシアニン化合物であって、該一般式(I)における*で示される不斉原子をキラル中心とする光学異性体の少なくとも一つ以上を除く異性体の単体あるいは混合物及び(ロ)溶媒からなることを特徴とする光学記録材料を提供することで、上記目的を達成したものである。
【0010】
【化1】

(式中、環A及び環Bは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいベンゼン環又はナフタレン環を表し、R1は、下記一般式(II)又は(II’)で表される基を表し、R2は、下記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基を表す。但し、R1とR2は同一の基を表さない。R3及びR4は、それぞれ独立に、下記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基、炭素原子数1〜30の有機基又は連結して3〜6員環を形成する基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜30の有機基又は下記一般式(III)で表される基を表し、Lは、鎖中に環構造を含んでもよいポリメチン鎖を表し、該ポリメチン鎖中の水素原子は、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよく、該アルキル基、該アルコキシ基及び該アリール基はさらに置換されていてもよい。Anm-は、m価のアニオンを表し、mは、1又は2であり、pは、電荷を中性に保つ係数を表す。)
【0011】
【化2】

(上記一般式(II)において、GとTの間の結合は二重結合、共役二重結合又は三重結合であり、Gは炭素原子を表し、Tは炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、wは0〜4の数を表し、x、y及びzは0又は1を表し(ただし、Tが酸素原子である場合はyとzは0であり、Tが窒素原子である場合はy+zは0又は1である。)、R01、R02、R03及びR04は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、R01とR04は、結合してシクロアルケン環又は複素環を形成してもよい。上記一般式(II’)において、G’とT’の間の結合は二重結合又は共役二重結合であり、G’は炭素原子を表し、T’は炭素原子又は窒素原子を表し、w’は0〜4の数を表し、R01'は、水素原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、G’及びT’を含む環は、ヘテロ原子を含んでもよい5員環、ヘテロ原子を含んでもよい6員環、ナフタレン環、キノリン環、イソキノリン環、アントラセン環又はアントラキノン環を表し、これらG’及びT’を含む環は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【0012】
【化3】

(式中、Ra〜Riは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、Qは、直接結合又は置換基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキレン基を表し、該アルキレン基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−CONH−、−NHCO−、−N=CH−又は−CH=CH−で置換されていてもよく、Mは、Fe、Co、Ni、Ti、Cu、Zn、Zr、Cr、Mo、Os、Mn、Ru、Sn、Pd、Rh、Pt又はIrを表す。)
【0013】
また、本発明は、基体上に、上記光学記録材料から形成された光学記録層を有することを特徴とする光学記録媒体を提供することで、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学記録媒体の光学記録層の形成に適した光学記録材料を提供することができる。本発明に係る特定のシアニン化合物は、分解点が低いため蓄熱性が低く熱干渉が抑えられ、また溶解性が高いため作業性が高く、高濃度で使用することができるため溶媒の使用量が少なくて済み、光学記録媒体の光学記録層の形成に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の光学記録材料について好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
先ず、上記一般式(I)で表されるシアニン化合物について説明する。
【0016】
上記一般式(I)におけるR2、R3、R4、Y1及びY2で表される一般式(II)、(II’)又は(III)以外の炭素原子数1〜30の有機基としては特に制限を受けず、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、t−アミル、ヘキシル、シクロヘキシル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル、ヘプチル、イソヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ペプタデシル、オクタデシル等のアルキル基;ビニル、1−メチルエテニル、2−メチルエテニル、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ぺンタデセニル、1−フェニルプロペン−3−イル等のアルケニル基;フェニル、ナフチル、2−メチルフェニル、3−メチルフェニル、4−メチルフェニル、4−ビニルフェニル、3−イソプロピルフェニル、4−イソプロピルフェニル、4−ブチルフェニル、4−イソブチルフェニル、4−t−ブチルフェニル、4−ヘキシルフェニル、4−シクロヘキシルフェニル、4−オクチルフェニル、4−(2−エチルヘキシル)フェニル、4−ステアリルフェニル、2,3−ジメチルフェニル、2,4−ジメチルフェニル、2,5−ジメチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、3,4−ジメチルフェニル、3,5−ジメチルフェニル、2,4−ジ−t−ブチルフェニル、シクロヘキシルフェニル等のアルキルアリール基;ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロパン−2−イル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等のアリールアルキル基及びこれらの炭化水素基がエーテル結合又はチオエーテル結合で中断されたもの、例えば、2−メトキシエチル、3−メトキシプロピル、4−メトキシブチル、2−ブトキシエチル、メトキシエトキシエチル、メトキシエトキシエトキシエチル、3−メトキシブチル、2−フェノキシエチル、2−メチルチオエチル、2−フェニルチオエチルが挙げられ、更にこれらの基は、アルコキシ基、アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子等で置換されていてもよい。
また、R3とR4が連結して3〜6員環を形成する環構造としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(I)におけるLで表される鎖中に環構造を含んでもよいポリメチン鎖としては、下記一般式(1)〜(10)で表される基が好ましく、下記一般式(1)、(4)及び(7)で表される基がより好ましい。
【0018】
【化4】

(式中、R7、R8、R9、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数6〜30のアリール基、ジフェニルアミノ基、炭素原子数1〜8のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルコキシ基を表し、Eは、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基を表し、該アルキル基、該アルコキシ基及び該アリール基は置換基を有していてもよい。)
【0019】
上記一般式(I)における環A又は環Bで表されるベンゼン環及びナフタレン環の置換基としては、以下のものが挙げられる。
上記置換基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、t−アミル、シクロペンチル、ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、シクロヘキシル、ビシクロヘキシル、1−メチルシクロヘキシル、ヘプチル、2−ヘプチル、3−ヘプチル、イソヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、t−オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル等のアルキル基;メチルオキシ、エチルオキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、ブチルオキシ、s−ブチルオキシ、t−ブチルオキシ、イソブチルオキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、t−アミルオキシ、ヘキシルオキシ、シクロヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、イソヘプチルオキシ、t−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、t−オクチルオキシ、2−エチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ等のアルコキシ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、s−ブチルチオ、t−ブチルチオ、イソブチルチオ、アミルチオ、イソアミルチオ、t−アミルチオ、ヘキシルチオ、シクロヘキシルチオ、ヘプチルチオ、イソヘプチルチオ、t−ヘプチルチオ、n−オクチルチオ、イソオクチルチオ、t−オクチルチオ、2−エチルヘキシルチオ等のアルキルチオ基;ビニル、1−メチルエテニル、2−メチルエテニル、2−プロペニル、1−メチル−3−プロペニル、3−ブテニル、1−メチル−3−ブテニル、イソブテニル、3−ペンテニル、4−ヘキセニル、シクロヘキセニル、ビシクロヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ぺンタデセニル、エイコセニル、トリコセニル等のアルケニル基;ベンジル、フェネチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、スチリル、シンナミル等のアリールアルキル基;フェニル、ナフチル等のアリール基;フェノキシ、ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;フェニルチオ、ナフチルチオ等のアリールチオ基;ピリジル、ピリミジル、ピリダジル、ピペリジル、ピラニル、ピラゾリル、トリアジル、ピロリル、キノリル、イソキノリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、トリアゾリル、フリル、フラニル、ベンゾフラニル、チエニル、チオフェニル、ベンゾチオフェニル、チアジアゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、インドリル、2−ピロリジノン−1−イル、2−ピペリドン−1−イル、2,4−ジオキシイミダゾリジン−3−イル、2,4−ジオキシオキサゾリジン−3−イル等の複素環基;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;アセチル、2−クロロアセチル、プロピオニル、オクタノイル、アクリロイル、メタクリロイル、フェニルカルボニル(ベンゾイル)、フタロイル、4−トリフルオロメチルベンゾイル、ピバロイル、サリチロイル、オキザロイル、ステアロイル、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル、カルバモイル等のアシル基;アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等のアシルオキシ基;アミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、2−エチルヘキシルアミノ、ドデシルアミノ、アニリノ、クロロフェニルアミノ、トルイジノ、アニシジノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ,ナフチルアミノ、2−ピリジルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ、ホルミルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチル−メトキシカルボニルアミノ、フェノキシカルボニルアミノ、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ等の置換アミノ基;スルホンアミド基、スルホニル基、カルボキシル基、シアノ基、スルホ基、水酸基、ニトロ基、メルカプト基、トリアルキルシリル基、イミド基、カルバモイル基、スルホンアミド基等が挙げられ、これらの基は更に置換されていてもよい。また、カルボキシル基及びスルホ基は無機塩基又は有機塩基と塩、錯体又は複合体を形成していてもよい。
【0020】
上記一般式(I)において、Anm-で表されるアニオンとしては、例えば、1価のものとして、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化物イオン等のハロゲンアニオン;過塩素酸イオン、塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等の無機系アニオン;ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン、2−アミノ−4−メチル−5−クロロベンゼンスルホン酸イオン、2−アミノ−5−ニトロベンゼンスルホン酸イオン、N−アルキル(またはアリール)ジフェニルアミン−4−スルホン酸イオン等の有機スルホン酸系アニオン;オクチルリン酸イオン、ドデシルリン酸イオン、オクタデシルリン酸イオン、フェニルリン酸イオン、ノニルフェニルリン酸イオン、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)ホスホン酸イオン等の有機リン酸系アニオン、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドイオン、ビスパーフルオロブタンスルホニルイミドイオン、パーフルオロ−4−エチルシクロヘキサンスルホン酸イオン、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(フルオロアルキルスルホニル)カルボアニオン等が挙げられ、二価のものとしては、例えば、ベンゼンジスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン等が挙げられる。また、励起状態にある活性分子を脱励起させる(クエンチングさせる)機能を有するクエンチャーアニオンやシクロペンタジエニル環にカルボキシル基やホスホン酸基、スルホン酸基等のアニオン性基を有するフェロセン、ルテノセン等のメタロセン化合物アニオン等も、必要に応じて用いることができる。また、pは、分子全体で電荷が中性となるように選択される。
【0021】
上記のクエンチャーアニオンとしては、例えば、下記一般式(A)又は(B)や下記化学式(C)又は(D)で表されるもの、特開昭60−234892号公報、特開平5−43814号公報、特開平5−305770号公報、特開平6−239028号公報、特開平9−309886号公報、特開平9−323478号公報、特開平10−45767号公報、特開平11−208118号公報、特開2000−168237号公報、特開2002−201373号公報、特開2002−206061号公報、特開2005−297407号公報、特公平7−96334号公報、国際公開98/29257号公報等に記載されたようなアニオンが挙げられる。
【0022】
【化5】

(式中、Mは、上記一般式(III)と同じであり、R13及びR14は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数6〜30のアリール基又は−SO2−J基を表し、Jは、アルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいアリール基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、ピペリジノ基又はモルフォリノ基を表し、a及びbは、各々独立に、0〜4の数を表す。また、R15、R16、R17及びR18は、それぞれ独立に、アルキル基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基又はハロゲン化フェニル基を表す。)
【0023】
【化6】

【0024】
上記一般式(II)におけるR01、R02、R03、R04及び上記一般式(II’)におけるR01'で表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、上記一般式(II)におけるR01、R02、R03、R04及び上記一般式(II’)におけるR01'で表される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル等が挙げられ、該アルキル基中のメチレン基が−O−で置換された基としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル、2−メトキシエチル等が挙げられ、該アルキル基中のメチレン基が−CO−で置換された基としては、アセチル、1−カルボニルエチル、アセチルメチル、1−カルボニルプロピル、2−オキソブチル、2−アセチルエチル、1−カルボニルイソプロピル等が挙げられ、これらはいずれも、置換基を有していてもよい。R01とR04とが結合して形成するシクロアルケン環としては、例えば、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘキサジエン環等が挙げられ、R01とR04とが結合して形成する複素環としては、例えば、ジヒドロピラン環、ピロリン環、ピラゾリン環、インドリン環、ピロール環、チオフェン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、オキサゾール環、イミダゾリジン環、ピラゾリジン環、イソオキサゾリジン環、イソチアゾリジン環等が挙げられ、これらの環は他の環と縮合されていたり、置換されていたりしてもよい。上記一般式(II)におけるR01、R02、R03、R04及び上記一般式(II’)におけるR01'で表される炭素原子数1〜4のアルキル基、上記一般式(II)におけるR01とR04とが連結して形成する環構造の置換基としては、上記一般式(I)の説明で例示したものが挙げられる。尚、R01、R02、R03、R04及びR01'が上記の炭素原子数1〜4のアルキル基等であり、且つ以下の置換基の中でも、炭素原子を含有する置換基を有する場合は、該置換基を含めたR01等の全体の炭素原子数が、規定された範囲を満たすものとする。
【0025】
上記一般式(II’)において、ヘテロ原子を含んでもよい5員環としては、例えば、シクロペンテン環、シクロペンタジエン環、イミダゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環等が挙げられ、ヘテロ原子を含んでもよい6員環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、ピペラジン環、ピペリジン環、モルフォリン環、ピラジン環、ピロン環、ピロリジン環等が挙げられる。
【0026】
上記一般式(III)におけるRa〜Riで表される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、上記一般式(II)の説明で例示したものが挙げられ、該アルキル基中のメチレン基が−O−で置換された基としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、イソプロピルオキシ、メトキシメチル、エトキシメチル、2−メトキシエチル等が挙げられ、該アルキル基中のメチレン基が−CO−で置換された基としては、アセチル、1−カルボニルエチル、アセチルメチル、1−カルボニルプロピル、2−オキソブチル、2−アセチルエチル、1−カルボニルイソプロピル等が挙げられる。
【0027】
上記一般式(III)におけるQで表される置換基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキレン基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、メチルエチレン、ブチレン、1−メチルプロピレン、2−メチルプロピレン、1,2−ジメチルプロピレン、1,3−ジメチルプロピレン、1−メチルブチレン、2−メチルブチレン、3−メチルブチレン、4−メチルブチレン、2,4−ジメチルブチレン、1,3−ジメチルブチレン、ペンチレン、へキシレン、ヘプチレン、オクチレン、エタン−1,1−ジイル、プロパン−2,2−ジイル等が挙げられ、該アルキレン基中のメチレン基が−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−CONH−、−NHCO−、−N=CH−又は−CH=CH−で置換された基としては、メチレンオキシ、エチレンオキシ、オキシメチレン、チオメチレン、カルボニルメチレン、カルボニルオキシメチレン、メチレンカルボニルオキシ、スルホニルメチレン、アミノメチレン、アセチルアミノ、エチレンカルボキシアミド、エタンイミドイル、エテニレン、プロペニレン等が挙げられる。
上記一般式(III)におけるQで表される炭素原子数1〜8のアルキレン基の置換基としては、上記一般式の説明で例示したものが挙げられる。
【0028】
本発明に係るシアニン化合物としては、製造コストが低く、光学記録材料として塗布溶剤への溶解性が高いので、下記一般式(IV)で表される化合物が好ましく、該一般式(IV)で表される化合物の中でも、特に熱分解挙動に優れ、高精細な記録媒体として利用できるため、下記一般式(V)又は(VII)で表される化合物が好ましい。
【0029】
【化7】

(式中、環A、R1、R2、Y1、L、Anm-、m、pは、上記一般式(I)と同じである。)
【0030】
【化8】

(式中、環A、Y1、Anm-、m、pは、上記一般式(I)と同じであり、R51は下記一般式(VI)で表される基であり、R52はR51とは異なる上記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基である。)
【0031】
【化9】

(式中、R01、R02、R03及びR04は、上記一般式(II)と同じである。)
【0032】
【化10】

(式中、環A、Y1、Anm-、m、pは、上記一般式(I)と同じであり、R71は下記一般式(VIII)で表される基であり、R72は、R71とは異なる上記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基である。)
【0033】
【化11】

(式中、環A、R2、Y1、Anm-及びpは、上記一般式(I)と同じであり、Zは、炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、nは、0〜5の数である。)
【0034】
上記一般式(VII)におけるZで表される炭素原子数1〜4のアルキル基としては、上記一般式(II)の説明で例示したものが挙げられる。
【0035】
上記一般式(I)で表される化合物の好ましい具体例としては、下記化合物No.1〜34が挙げられる。尚、以下の例示では、アニオンを省いたシアニンカチオンで示しており、光学異性体の区別はしていない。本発明に係るシアニン化合物において、ポリメチン鎖は共鳴構造をとっていてもよい。
【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
本発明の光学記録材料は、(イ)上記一般式(I)で表されるシアニン化合物であって、該一般式(I)における*で示される不斉原子をキラル中心とする光学異性体の少なくとも一つ以上を除く異性体の単体あるいは混合物及び(ロ)溶媒からなる。
【0042】
光学異性体を分割することにより生じる、特定のエナンチオマー又はジアステレオマーは、エナンチオマーの全混合物あるいはもう一方の異性体よりも熱干渉が抑えられるという効果があり、高速記録が可能な光学記録材料としての性能を優位に発揮することができる。
【0043】
「エナンチオマー」とは、鏡像の関係にある組み合わせの化合物のことであり、「ジアステレオマー」とは、鏡像ではない組み合わせの異性体である化合物のことである。例えば、上記一般式(I)で表される環Aと環Bの2つの複素環の3位が不斉炭素である場合、不斉炭素がともにR−配置であるものを(R,R)−体、複素環の3位の不斉炭素がともにS−配置であるものを(S,S)−体、R−配置とS−配置であるものを(R,S)−体、S−配置とR−配置であるものを(S,R)−体と呼び、(R,R)−体と(S,S)−体、(R,S)−体と(S,R)−体のそれぞれがエナンチオマーであり、(R,R)−体と(S,R)−体のような鏡像関係にない組み合わせがジアステレオマーである。上記一般式(IV)のように、左右対称の化合物である場合、(R,S)−体と(S,R)−体は同一の化合物であり、これを「メソ体」と呼び、(R,R)−体と(S,S)−体に対するジアステレオマーである。
【0044】
除かれる異性体としては、例えば、上記一般式(IV)のように左右対称の化合物である場合、(R,S)−体(メソ体)あるいは(R,R)−体及び(S,S)−体を除くことが好ましく、特に、上記一般式(V)で表される化合物(例えば、化合物No.1)の場合は、(R,R)−体及び(S,S)−体を除いて(R,S)−体(メソ体)を用いると熱干渉が少ないため好ましく、また、上記一般式(VII)で表される化合物(例えば、化合物No.2)の場合は、(R,S)−体(メソ体)を除いて(R,R)−体と(S,S)−体との混合物を用いると熱干渉が少ないため好ましい。
【0045】
上記一般式(I)で表わされるシアニン化合物の光学異性体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、化合物No.1について説明すると、下記〔化17〕に示すように、原料となるインドレニン四級塩及びインドレニン四級塩とジフェニルホルムアミジンとを反応させて得られる中間体を従来公知の方法で光学分割し、従来公知の方法で色素化反応することによって得られる。
【0046】
【化17】

【0047】
本発明の光学記録材料に用いられる溶媒(ロ)としては、特に制限されないが、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ化アルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類;メチレンジクロライド、ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類等が挙げられる。上記溶媒(ロ)の含有量は、本発明の光学記録材料中、10〜99.99質量%が好ましく、90〜99質量%がより好ましい。
【0048】
本発明の光学記録媒体は、基体上に、該光学記録材料からなる光学記録層を形成して得られるものである。
本発明の光学記録材料の調製、及び本発明の基体上に、該光学記録材料からなる光学記録層を形成したことを特徴とする光学記録媒体を製造する方法については、特に制限を受けない。一般には、上記溶媒に、本発明のシアニン化合物及び必要に応じて後述の各種化合物を溶解して溶液状の光学記録材料を作製し、該光学記録材料を基体上にスピンコート、スプレー、ディッピング等で塗布する湿式塗布法等が用いられる。
【0049】
上記光学記録層は薄膜として形成され、その厚さは、通常、0.001〜10μmが適当であり、好ましくは0.01〜5μmの範囲である。
【0050】
また、本発明の光学記録材料中において、本発明に係るシアニン化合物の含有量は、本発明の光学記録材料に含まれる固形分中、10〜100質量%が好ましい。上記光学記録層は、光学記録層中に上記シアニン化合物を50〜100質量%含有するように形成されることが好ましく、このようなシアニン化合物含有量の光学記録層を形成するために、本発明の光学記録材料は、上記シアニン化合物を、本発明の光学記録材料に含まれる固形分基準で50〜100質量%含有するのがさらに好ましい。
【0051】
本発明の光学記録材料に含まれる上記固形分は、該光学記録材料から有機溶媒等の固形分以外の成分を除いた成分のことであり、該固形分の含有量は、上記光学記録材料中、0.01〜90質量%が好ましく、1.0〜10質量%がより好ましい。
【0052】
本発明の光学記録材料は、本発明のシアニン化合物の他に、必要に応じて、アゾ系化合物、フタロシアニン系化合物、オキソノール系化合物、スクアリリウム系化合物、インドール化合物、スチリル系化合物、ポルフィン系化合物、アズレニウム系化合物、クロコニックメチン系化合物、ピリリウム系化合物、チオピリリウム系化合物、トリアリールメタン系化合物、ジフェニルメタン系化合物、テトラヒドロコリン系化合物、インドフェノール系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、キサンテン系化合物、チアジン系化合物、アクリジン系化合物、オキサジン系化合物、スピロピラン系化合物、フルオレン系化合物、ローダミン系化合物等の、通常光学記録層に用いられる化合物;ポリエチレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート等の樹脂類;界面活性剤;帯電防止剤;滑剤;難燃剤;ヒンダードアミン等のラジカル捕捉剤;フェロセン誘導体等のピット形成促進剤;分散剤;酸化防止剤;架橋剤;耐光性付与剤等を含有してもよい。さらに、本発明の光学記録材料は、一重項酸素等のクエンチャーとして芳香族ニトロソ化合物、アミニウム化合物、イミニウム化合物、ビスイミニウム化合物、遷移金属キレート化合物等を含有してもよい。本発明の光学記録材料において、これらの各種化合物は、本発明の光学記録材料に含まれる固形分中、0〜50質量%の範囲となる量で使用される。
【0053】
本発明の光学記録材料には、ジイモニウム化合物を含有させてもよい。該ジイモニウム化合物を含有させることにより、本発明の光学記録媒体の経時的な吸光度残存率の低下をより効果的に防ぐことができる。また該イモニウム化合物を含有させる場合の含有量は、本発明の光学記録材料に含まれる固形分中、0〜90質量%の範囲となる量が好ましく、より好ましくは、0〜50質量%である。
【0054】
このような光学記録層を設層する上記基体の材質は、書き込み(記録)光および読み出し(再生)光に対して実質的に透明なものであれば特に制限はなく、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどの樹脂、ガラスなどが用いられる。また、その形状は、用途に応じ、テープ、ドラム、ベルト、ディスク等の任意の形状のものを使用できる。
【0055】
また、上記光学記録層上には、金、銀、アルミニウム、銅等を用いて蒸着法あるいはスパッタリング法により反射膜を形成することもできるし、アクリル樹脂、紫外線硬化性樹脂等により保護層を形成することもできる。
【0056】
本発明の光学記録材料は、記録、再生に半導体レーザを用いる光学記録媒体に好適であり、特に高速記録タイプのCD−R、DVD±R等の光ディスクに好適である。
【実施例】
【0057】
以下、実施例、比較例及び評価例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
下記製造例1〜6は、化合物No.1の(R,R)−体、(S,S)−体及び(R,S)−体並びに化合物No.2の(R,R)−体、(S,S)−体及び(R,S)−体の製造例を示し、下記実施例1〜4は、化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)−体と(S,S)−体の等量混合物(以下、(R,R)(S,S)−体と称する)、並びに化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体を含有する光学記録材料の調製及び該光学記録材料を用いた光学記録媒体No.1〜No.4の製造例を示す。
【0058】
下記比較例1は、上記一般式(I)で表されるシアニン化合物とは異なる構造を持つシアニン化合物を用いた比較光学記録材料の調製及び該比較光学記録材料を用いた比較光学記録媒体No.1の製造例を示す。
【0059】
下記評価例1−1〜1−4及び比較評価例1−1〜1−3では、化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体、化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体並びに比較例1の比較化合物No.1、化合物No.1の異性体の全混合物及び化合物No.2の異性体の全混合物についての熱分解挙動を、窒素気流中、10℃/分の昇温速度における示差熱分析測定により評価を行った。それらの結果を下記〔表1〕に示す。
【0060】
下記評価例2−1〜2−4及び比較評価例2−1では、化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体、化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体並びに比較例1の比較化合物No.1についての溶解性評価を行った。それらの結果を下記〔表2〕に示す。
【0061】
〔製造例1〕化合物No.1の(R,R)−体の製造
<ステップ1>R−体四級塩(PF6塩)の合成
水酸化ナトリウム10g、水121g及びトルエン121gを仕込み、撹拌しながら3−アリル−1,2,3−トリメチルベンゾインドレニンの四級塩(臭素アニオン)66.1gを徐々に加えた。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残さに、酢酸エチル121gに(−)−ジベンゾイル酒石酸75.3gを溶解させたものを滴下し、80℃で1時間撹拌した。室温に冷却後、ろ過し、得られた固体をエタノールから再結晶してR−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15.5gを得た。
得られたR−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15g、水酸化ナトリウム1.25g、水19.8g及びトルエン19.8gを仕込み、室温で30分間撹拌した。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、油層に塩酸2.6gを加えて1時間撹拌した。KPF6の9.20gを水19.8gに溶解したもの及び酢酸エチル19.8gを加えると固体が析出した。析出した固体をろ別し、乾燥を経て、目的物であるR−体四級塩(PF6塩)の8g(収率21%)を得た。
【0062】
<ステップ2>化合物No.1の(R,R)−体の合成
ステップ1で得られたR−体四級塩(PF6塩)1.19g、ジフェニルホルムアミジ
ン0.32g及びピリジン1.19gを仕込み、50℃で2時間加熱した。無水酢酸1.96gを滴下後、50℃で4時間加熱した。室温に冷却し、溶媒を留去した。残さをアセトン/メタノール混合溶媒から再結晶し、目的物である化合物No.1の(R,R)−体の0.4g(収率40%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、−の旋光が見られ、目的物であることが確認できた。
【0063】
〔製造例2〕化合物No.1の(S,S)−体の製造
<ステップ1>S−体四級塩(PF6塩)の合成
水酸化ナトリウム10g、水121g及びトルエン121gを仕込み、撹拌しながら3−アリル−1,2,3−トリメチルベンゾインドレニンの四級塩(臭素アニオン)66.1gを徐々に加えた。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残さに、酢酸エチル121gに(+)−ジベンゾイル酒石酸75.3gを溶解させたものを滴下し、80℃で1時間撹拌した。室温に冷却後、ろ過し、得られた固体をエタノールから再結晶してS−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15.5gを得た。
得られたS−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15g、水酸化ナトリウム1.25g、水19.8g及びトルエン19.8gを仕込み、室温で30分間撹拌した。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、油層に塩酸2.6gを加えて1時間撹拌した。KPF6の9.20gを水19.8gに溶解したもの及び酢酸エチル19.8gを加えると固体が析出した。析出した固体をろ別し、乾燥を経て、目的物であるS−体四級塩(PF6塩)の8g(収率21%)を得た。
【0064】
<ステップ2>化合物No.1の(S,S)−体の合成
ステップ1で得られたS−体四級塩(PF6塩)3.95g、ジフェニルホルムアミジン1.08g及びピリジン3.96gを仕込み、50℃で2時間加熱した。無水酢酸6.55gを滴下後、50℃で4時間加熱した。室温に冷却し、溶媒を留去した。残さをアセトン/メタノール混合溶媒から再結晶し、目的物である化合物No.1の(S,S)−体の1.4g(収率43%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、+の旋光が見られ、目的物であることが確認できた。
【0065】
〔製造例3〕化合物No.1の(R,S)−体の製造
<ステップ1>S−体四級塩(PF6塩)中間体の合成
製造例2のステップ1で得られたS−体四級塩(PF6塩)の15g、ジフェニルホルムアミジン7.85g及びブタノール9.15gを仕込み、100℃で9時間加熱した。65℃まで冷却してメタノール36.6gを加え、65℃で30分保持した後、室温に冷却して得られた固体をろ別した。水及びメタノールで洗浄後、乾燥して、目的物であるS−体四級塩(PF6塩)中間体の9.08g(収率49%)を得た。
【0066】
<ステップ2>化合物No.1の(R,S)−体の合成
ステップ1で得られたS−体四級塩(PF6塩)中間体の1.0g、製造例1のステップ1で得られたR−体四級塩(PF6塩)の0.79g及びピリジン1.58gを仕込み、無水酢酸0.25gを滴下して室温で2時間、50℃で2時間撹拌した。室温に冷却後、溶媒を留去し、残さをメタノールから再結晶して目的物である化合物No.1の(R,S)−体の350mg(収率27%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、旋光は見られず、目的物であることが確認できた。
【0067】
〔製造例4〕化合物No.2の(R,R)−体の製造
<ステップ1>R−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン塩)の合成
水酸化ナトリウム5.0g、水95g及びトルエン87gを仕込み、撹拌しながら3−ベンジル−1,2,3−トリメチルベンゾインドレニンの四級塩(臭素アニオン)37.3gを徐々に加えた。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残さに、酢酸エチル66gに(−)−ジベンゾイル酒石酸37.6gを溶解させたものを滴下し、80℃で1時間撹拌した。室温に冷却後、ろ過し、得られた固体をエタノールから再結晶してR−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の11.3g(収率17%)を得た。
【0068】
<ステップ2>化合物No.2の(R,R)−体の合成
ステップ1で得られたR−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン塩)5.35g、ジフェニルホルムアミジン0.79g及びピリジン6.33gを仕込み、60℃で無水酢酸1.14gを滴下後、60℃で30分間加熱した。室温に冷却し、酢酸エチル6.3g、水12.6g及びKPF6の0.88gを加えて30分間撹拌した。析出した固体をろ別し、目的物である化合物No.2の(R,R)−体の0.18g(収率5.9%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、−の旋光が見られ、目的物であることが確認できた。
【0069】
〔製造例5〕化合物No.2の(S,S)−体の製造
<ステップ1>S−体四級塩(PF6塩)の合成
水酸化ナトリウム5.0g、水45g及びトルエン87gを仕込み、撹拌しながら3−ベンジル−1,2,3−トリメチルベンゾインドレニンの四級塩(臭素アニオン)37.3gを徐々に加えた。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、溶媒を留去した。残さに、酢酸エチル75gに(+)−ジベンゾイル酒石酸37.6gを溶解させたものを滴下し、80℃で1時間撹拌した。室温に冷却後、ろ過し、得られた固体をエタノールから再結晶してS−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15.5gを得た。
得られたS−体四級塩(ジベンゾイル酒石酸アニオン)の15g、水酸化ナトリウム1.25g、水19.8g及びトルエン19.8gを仕込み、室温で30分間撹拌した。油水分離を行い、水層が中性になるまで洗浄を行なった後、油層に塩酸2.6gを加えて1時間撹拌した。KPF6の9.20gを水19.8gに溶解したもの及び酢酸エチル19.8gを加えると固体が析出した。析出した固体をろ別し、乾燥を経て、目的物であるS−体四級塩(PF6塩)の3.8g(収率8.5%)を得た。
【0070】
<ステップ2>化合物No.2の(S,S)−体の合成
ステップ1で得られたS−体四級塩(PF6塩)3.12g、ジフェニルホルムアミジン2.06g及びピリジン0.55gを仕込み、60℃で2時間加熱した。無水酢酸5.1gを滴下後、60℃で10分間加熱した。室温に冷却し、溶媒を留去した。残さをアセトン/メタノール混合溶媒から再結晶し、目的物である化合物No.2の(S,S)−体の0.14g(収率4.6%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、+の旋光が見られ、目的物であることが確認できた。
【0071】
〔製造例6〕化合物No.2の(R,S)−体の製造
製造例4のステップ1で得られたR−体四級塩(PF6塩)の3.12g、ジフェニルホルムアミジン2.06g、ピリジン0.55g及びブタノール5.28gを仕込み、70℃で7時間加熱した。室温まで冷却して溶媒を留去し、ピリジン10.9g及び無水酢酸5.1gを加えて10分間撹拌した。製造例5のステップ1で得られたS−体四級塩(PF6塩)の3.12gを加えて60℃で2時間加熱し、メタノール15gを加え、65℃で30分保持した後、室温に冷却して得られた固体をろ別した。メタノールで洗浄後、乾燥して、目的物である化合物No.2の(R,S)−体の2.3g(収率44%)を得た。得られた化合物について、円偏光二色分散計を用いてCDスペクトルを測定したところ、旋光は見られず、目的物であることが確認できた。
【0072】
〔実施例1〜4〕
化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体、並びに化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体を、それぞれシアニン化合物濃度が濃度1.0質量%となるように2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに溶解して、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール溶液として光学記録材料を得た。チタンキレート化合物(T−50:日本曹達社製)を塗布、加水分解して下地層(0.01μm)を設けた直径12cmのポリカーボネートディスク基板上に、上記の光学記録材料をスピンコーティング法にて塗布して、厚さ100nmの光学記録層を形成し光学記録媒体No.1〜No.4をそれぞれ得た。
【0073】
〔比較例1〕
本発明に係るシアニン化合物に代えて下記比較化合物No.1を用いた以外は、上記実施例1〜4と同様にして比較光学記録材料を作製し、該光学記録材料を用いて比較光学記録媒体No.1を得た。
【0074】
【化18】

【0075】
〔評価例1−1〜1−4及び比較評価例1−1〜1−3〕
化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体、化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体並びに比較例1の比較化合物No.1、化合物No.1の異性体の全混合物及び化合物No.2の異性体の全混合物について、熱分解挙動の評価を行なった。評価は、窒素気流中及び空気中、10℃/分の昇温速度における示差熱分析測定により行い、熱分解温度を、DTAの発熱のピークトップ温度で比較評価した。評価結果を以下の〔表1〕に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
〔表1〕から明らかなように、本発明に係るシアニン化合物は、発熱量が少なく、熱干渉がおさえられるため、高速記録に適することが確認できた。一方、比較化合物No.1は、分解点が高く、発熱量が大きく、また、異性体の全混合物も、対応する化合物の異性体と比較して発熱量が大きく、良好な熱分解挙動を示さなかった。
【0078】
〔評価例2−1〜2−4及び比較評価例2−1〕
化合物No.1の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体、化合物No.2の(R,S)−体及び(R,R)(S,S)−体並びに比較例1の比較化合物No.1について、30℃での2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールへの溶解性を評価した。評価は、シアニン化合物を0.5質量%〜10.0質量%の範囲において0.5質量%刻みで2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールに加え、溶解、不溶を観察して行った。結果を〔表2〕に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
〔表2〕から明らかなように、本発明の光学記録材料により形成された光学記録層を有する光学記録媒体は、溶解性が高いため、膜の安定性が高く、光学記録媒体として好適に使用できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)下記一般式(I)で表されるシアニン化合物であって、該一般式(I)における*で示される不斉原子をキラル中心とする光学異性体の少なくとも一つ以上を除く異性体の単体あるいは混合物及び(ロ)溶媒からなることを特徴とする光学記録材料。
【化1】

(式中、環A及び環Bは、それぞれ独立に、置換基を有してもよいベンゼン環又はナフタレン環を表し、R1は、下記一般式(II)又は(II’)で表される基を表し、R2は、下記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基を表す。但し、R1とR2は同一の基を表さない。R3及びR4は、それぞれ独立に、下記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基、炭素原子数1〜30の有機基又は連結して3〜6員環を形成する基を表し、Y1及びY2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜30の有機基又は下記一般式(III)で表される基を表し、Lは、鎖中に環構造を含んでもよいポリメチン鎖を表し、該ポリメチン鎖中の水素原子は、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、アルキル基、アルコキシ基又はアリール基で置換されていてもよく、該アルキル基、該アルコキシ基及び該アリール基はさらに置換されていてもよい。Anm-は、m価のアニオンを表し、mは、1又は2であり、pは、電荷を中性に保つ係数を表す。)
【化2】

(上記一般式(II)において、GとTの間の結合は二重結合、共役二重結合又は三重結合であり、Gは炭素原子を表し、Tは炭素原子、酸素原子又は窒素原子を表し、wは0〜4の数を表し、x、y及びzは0又は1を表し(ただし、Tが酸素原子である場合はyとzは0であり、Tが窒素原子である場合はy+zは0又は1である。)、R01、R02、R03及びR04は、それぞれ独立に、水素原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、R01とR04は、結合してシクロアルケン環又は複素環を形成してもよい。上記一般式(II’)において、G’とT’の間の結合は二重結合又は共役二重結合であり、G’は炭素原子を表し、T’は炭素原子又は窒素原子を表し、w’は0〜4の数を表し、R01'は、水素原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子又は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、G’及びT’を含む環は、ヘテロ原子を含んでもよい5員環、ヘテロ原子を含んでもよい6員環、ナフタレン環、キノリン環、イソキノリン環、アントラセン環又はアントラキノン環を表し、これらG’及びT’を含む環は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよい。)
【化3】

(式中、Ra〜Riは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、該アルキル基中のメチレン基は、−O−又は−CO−で置換されていてもよく、Qは、直接結合又は置換基を有してもよい炭素原子数1〜8のアルキレン基を表し、該アルキレン基中のメチレン基は、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−OCO−、−SO2−、−NH−、−CONH−、−NHCO−、−N=CH−又は−CH=CH−で置換されていてもよく、Mは、Fe、Co、Ni、Ti、Cu、Zn、Zr、Cr、Mo、Os、Mn、Ru、Sn、Pd、Rh、Pt又はIrを表す。)
【請求項2】
上記一般式(I)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(IV)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載の光学記録材料。
【化4】

(式中、環A、R1、R2、Y1、L、Anm-、m及びpは、上記一般式(I)と同じである。)
【請求項3】
上記一般式(IV)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(V)で表される化合物であることを特徴とする請求項2記載の光学記録材料。
【化5】

(式中、環A、Y1、Anm-、m及びpは、上記一般式(I)と同じであり、R51は下記一般式(VI)で表される基であり、R52はR51とは異なる上記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基である。)
【化6】

(式中、R01、R02、R03及びR04は、上記一般式(II)と同じである。)
【請求項4】
上記一般式(IV)で表されるシアニン化合物が、下記一般式(VII)で表される化合物であることを特徴とする請求項2記載の光学記録材料。
【化7】

(式中、環A、Y1、Anm-、m及びpは、上記一般式(I)と同じであり、R71は下記一般式(VIII)で表される基であり、R72はR71とは異なる上記一般式(II)、(II’)、(III)で表される基又は炭素原子数1〜30の有機基である。)
【化8】

(式中、環A、R2、Y1、Anm-及びpは、上記一般式(I)と同じであり、Zは、炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、nは、0〜5の数である。)
【請求項5】
基体上に、請求項1〜4のいずれかに記載の光学記録材料から形成された光学記録層を有することを特徴とする光学記録媒体。

【公開番号】特開2008−120074(P2008−120074A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266054(P2007−266054)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】