説明

シクロデキストリン含有アクリル系重合体の製造方法

【課題】 シクロデキストリン又はその誘導体が結合したアクリル系重合体を容易に得ることができる製造方法、および該製造方法から得られるシクロデキストリン含有アクリル系重合体を提供する。
【解決手段】 水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させることにより、シクロデキストリン含有アクリル系重合体を製造する。これにより、シクロデキストリン含有アクリル系重合体を容易に得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロデキストリン含有アクリル系重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは種々の物質(例えば、香料、薬品、殺虫剤など)を包接し、これらの物質を固定化、あるいは安定化させることができることは良く知られている。さらにシクロデキストリンをポリマーに固定化する試みもある。例えば、アクリル系重合体にシクロデキストリンを固定化する試みとしては、非特許文献1に記載されているような、ラジカル重合可能なアクリロイル基を有するシクロデキストリンを合成し、単独であるいは他のモノマーと共重合する方法がある。一般にシクロデキストリンの水酸基に置換基を導入する反応は選択性が低く、未反応のシクロデキストリンや異なる数の水酸基が置換されたシクロデキストリン、あるいは同じ数の水酸基が置換されたものでもそれぞれの置換位置が異なるシクロデキストリンの混合物として得られる。従って、カラムクロマトグラフィー等の方法によって所望の数・位置の水酸基だけが置換されたシクロデキストリン誘導体を単離しなければならない。実際、非特許文献1の方法では、アクリロイル化シクロデキストリンの転化率が40%、収率が20%と満足できるものではなかった。
【0003】
一方、アクリル系重合体にシクロデキストリン誘導体を反応させる試みもある。例えば、特許文献1及び非特許文献2には、反応性基(酸無水物基、イソシアネート基、オキシラン基)を有するポリマーに対して、脱プロトン化したシクロデキストリンを反応させる方法が記載されている。この方法は特別な反応性基を必要とするため、アクリル系重合体の種類が制限を受けたり、商業的に生産されていない場合には、所望の反応性基を有するアクリル系重合体をあらかじめ重合しておく必要があるなどの問題があった。
【0004】
【特許文献1】特表2000−508010号公報
【非特許文献1】Macromolecules、9巻、701〜704ページ、1976年発行
【非特許文献2】Macromolecular Rapid Communications、17巻、731〜736ページ、1996年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来技術の実情と問題点に鑑みて、本発明の目的は、シクロデキストリン又はその誘導体が結合したアクリル系重合体を容易に得ることができる製造方法、および該製造方法から得られるシクロデキストリン含有アクリル系重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させることにより、シクロデキストリン含有アクリル系重合体を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法は、アクリル系重合体が特別な反応性基を有する必要はなく、商業的に生産されているアクリル系重合体をそのまま使用して、シクロデキストリンが結合したアクリル系重合体を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の製造方法は、水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させることを特徴とする。
【0009】
本発明で使用されるシクロデキストリン又はその誘導体としては、1分子当たり少なくとも1つの水酸基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、又はシクロデキストリンの水酸基のうち一部の水素原子が直鎖又は分岐のアルキル基、直鎖又は分岐のアルケニル基、直鎖又は分岐のヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基、アシル基、グリコシル基、マルトシル基、イミダゾリル基などで置換された誘導体、分岐シクロデキストリン、シクロデキストリンの2量体あるいは多量体、などを使用することができる。またグルコース単位が5以下又は9以上のシクロデキストリン類縁体も同様に使用可能である。これらは単独又は2種以上を組み合わせて使用可能である。これらの中でもα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンがコストなどの観点から好ましく使用される。本発明の製造方法によって、シクロデキストリン含有アクリル系重合体を得た後に、アクリル系重合体に結合したシクロデキストリンの水酸基のうち一部の水素原子を上記基などにより置換することも可能である。
【0010】
本発明においては、上記シクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体と反応させる際には、シクロデキストリン又はその誘導体の水酸基の一部を脱プロトン化する。脱プロトン化する水酸基は、シクロデキストリンに直接結合している水酸基でも良く、あるいはシクロデキストリンに結合した置換基に存在する水酸基でも良い。脱プロトン化されたシクロデキストリン又はその誘導体は、脱プロトン化されていないものと比較して反応性が高くなる。
【0011】
シクロデキストリン又はその誘導体の水酸基を脱プロトン化するためには、塩基性化合物を使用することが好ましい。塩基性化合物としては、特に制限はないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、カリウムメトキシド、ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属化合物、又はこれらの水和物などを使用することができる。これらの塩基性化合物はそのまま使用しても良いが、溶媒などに希釈した溶液として使用しても良い。
【0012】
塩基性化合物の使用量としては、特に制限はないが、通常シクロデキストリン又はその誘導体1モルに対して0.01モル当量〜10モル当量である。塩基性化合物の使用量が少なすぎると未反応のシクロデキストリン又はその誘導体が残る可能性があり、使用量が多すぎると架橋反応が起こる恐れがあり、好ましくない。従って好ましい塩基性化合物の使用量としては、シクロデキストリン又はその誘導体1モルに対して0.05モル当量から5モル当量程度である。
【0013】
前記シクロデキストリン又はその誘導体の脱プロトン化は、シクロデキストリン又はその誘導体とアクリル系重合体とを接触させる前に、接触させると同時に、あるいは接触させた後に実施可能であるが、アクリル系重合体と接触させる前にあらかじめ脱プロトン化しておくことが望ましい。
【0014】
本発明で使用されるシクロデキストリン又はその誘導体の量は、特に限定されるものではなく、固定したいシクロデキストリン又はその誘導体の量、反応温度・時間などの条件によって、適宜選択されるものであるが、通常は反応させようとする側鎖エステル結合1モルに対してシクロデキストリン又はその誘導体を1モル当量から100モル当量を使用する。
【0015】
本発明で使用されるアクリル系重合体は反応性基を有している必要はない。本発明の製造方法では、脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体の水酸基がアクリル系重合体の側鎖エステル結合に反応し、シクロデキストリン又はその誘導体が結合したアクリル系重合体が生じることに特徴があるので、酸無水基あるいはイソシアネート基などを必要とはしないが、あったとしても特段の問題はない。
【0016】
本発明で使用されるアクリル系重合体は、特に限定されるものではなく、商業的に生産されているアクリル系重合体をそのまま使用することができる。また所望のモノマー種、モノマー組成比、分子量などの特性を有するアクリル系重合体を合成して使用することも可能である。具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアクリレート類;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリレート類を主たる構成成分として重合したアクリル系重合体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。コスト等の観点から、好ましいアクリル系重合体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレートおよびブチルメタクリレートからなる群から選ばれる1種以上を主たる構成成分として重合したアクリル系重合体である。さらに好ましくは、メチルメタクリレートを主たる構成成分として重合したアクリル系重合体である。またアクリレート類及び/又はメタクリレート類に加えてスチレン系誘導体を共重合したものも好ましく使用される。スチレン系誘導体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレンなどを使用することができる。本発明のアクリル系重合体は、さらに上記以外の共重合可能なモノマーを共重合することができる。
【0017】
水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させるには、溶媒の存在下又は非存在下で実施可能である。溶媒の存在下で反応させる場合は、均一に反応が進行することが期待される。使用される溶媒としては、特に限定されないが、均一に反応させるためには、水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体、あるいはアクリル系重合体が反応温度・圧力において溶解していることが好ましい。具体的な溶媒としては、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどのカーボネート類;スルホラン、メチルスルホランなどのスルホラン類;ジオキサン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチルブチルエーテルなどのエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル類;ニトロメタンなどのニトロ化合物;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化合物;アセトン、メチルブチルケトンなどのケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族化合物類;ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
溶媒の非存在下で反応させる場合は、溶媒の除去・回収などの操作が不要になり、低コストで製造できることが期待される。この場合、アクリル系重合体を溶融状態で反応させることが好ましい。
【0019】
水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させる際の温度及び時間は特に限定されるものではなく、アクリル系重合体の種類、使用する各成分の量や比率、反応装置の種類などの要因によって、適宜選択されるものであるが、通常は0℃〜350℃、1秒〜48時間の範囲である。
【0020】
本発明のシクロデキストリン含有アクリル系重合体は単独で、あるいは他の有機材料や無機材料とともに用いることができる。上記他の有機材料又は無機材料としては、例えば、各種熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、難燃剤、薬効作用を有する薬剤、光学機能を有する有機又は無機化合物、染料、顔料、金属や半導体微粒子、有機又は無機フィラー、充填剤、安定剤、無機塩等を挙げることができる。
【0021】
本発明のシクロデキストリン含有アクリル系重合体は、幅広い製品へ応用することができる。例えば、生体適合性材料、ドラッグデリバリーシステム用基材、医療用材料、各種コーティング剤、機能性フィルム・シート、分離機能膜、塗料、各種樹脂製品への添加剤などを挙げることができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例で更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
ガラス製容器にβ−シクロデキストリン572mg(0.50mmol)、水酸化リチウム11.8mg(0.49mmol)を入れ、ジメチルホルムアミド60mLを加えて、窒素雰囲気下で1時間加熱した。ここへにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、スミペックスLG)6gを加えて、3時間加熱した。得られた溶液を室温まで放冷した後、少量の酢酸を添加し、この溶液を大量の水に滴下して固体を析出させた。なお、β−シクロデキストリン自体は水に可溶なので、得られた固体には未反応のβ−シクロデキストリンは混入していない。
【0024】
上記固体を重水素化ジメチルスルホキサイドに溶解して、1H−NMRスペクトルを測定したところ、β−シクロデキストリンに由来するシグナルとポリメチルメタクリレートに由来するシグナルが観測されたので、シクロデキストリンが結合したポリメチルメタクリレートが生成していることが確認された。
【0025】
(実施例2)
ガラス製容器にβ−シクロデキストリン457mg(0.40mmol)、水酸化リチウム9.4mg(0.39mmol)を入れ、ジメチルホルムアミド60mLを加えて、窒素雰囲気下で1時間加熱した。ここへにメチルメタクリレート/スチレン共重合体(新日鉄化学社製、エスチレンMS−600)6gを加えて、3時間加熱した。得られた溶液を室温まで放冷した後、少量の酢酸を添加し、この溶液を大量の水に滴下して固体を析出させた。β−シクロデキストリン自体は水に可溶なので、得られた固体には未反応のβ−シクロデキストリンは混入していない。
【0026】
上記固体を重水素化ジメチルスルホキサイドに溶解して、1H−NMRスペクトルを測定したところ、β−シクロデキストリンに由来するシグナルとメチルメタクリレート/スチレン共重合体に由来するシグナルが観測されたので、シクロデキストリンが結合したポリメチルメタクリレートが生成していることが確認された。
【0027】
実施例1〜実施例2に示したように、本発明の製造方法によれば、商業的に生産されているアクリル系重合体をそのまま使用して、シクロデキストリンが結合したアクリル系重合体を容易に得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基の一部が脱プロトン化されているシクロデキストリン又はその誘導体をアクリル系重合体に反応させることを特徴とするシクロデキストリン含有アクリル系重合体の製造方法。
【請求項2】
シクロデキストリンが、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、あるいはこれらの混合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アクリル系重合体が、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、およびブチルメタクリレートからなる群から選ばれる1種以上を主たる構成成分とする請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
アクリル系重合体が、メチルメタクリレートを主たる構成成分とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
アクリル系重合体が、スチレン系誘導体を構成成分の1つとする請求項3または4に記載の製造方法。
【請求項6】
アクリル系重合体が、実質的にエステル基以外の反応性基を含有しない請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたシクロデキストリン含有アクリル系重合体。


【公開番号】特開2006−299170(P2006−299170A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−125870(P2005−125870)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】