説明

シグレック−9シアル酸結合剤

本発明は、シアル酸免疫グロブリン様レクチン−9(シグレック−9)を結合可能な製剤と、細胞増殖性・細胞分化性障害の治療におけるこれらの使用に関する。さらに、本発明は、関連する薬剤と製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表面マーカであるシグレック−9に結合する試薬と、当該試薬を細胞増殖性障害の治療と検定に使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
シアル酸結合免疫グロブリン様レクチン(以下、これをシグレックと略す)は、造血系細胞を含む多数の細胞によって発現されるI型レクチンである。シグレックは、多数の分子群を含み、個々の分子群には、シアン酸結合を仲介してから免疫グロブリン様領域のC2−セット数を変えるところの、N末端V−セット免疫グロブリン様領域が存在している特徴がある(参考文献4)。
【0003】
CD33シグレックとCD33関連シグレックは、11種のヒトシグレックのうち8種を含む。これらの分子は、高度な配列類似性を共有しているものの、哺乳類種の間では組成の点で有意差がある。これらの受容体をコード化した遺伝子は、染色体19q13.3−13.4上に密集し、造血系及び免疫系で支配的に発現していると思われる。また、前記の遺伝子は、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、好中球、好酸球、好塩基球、マスト細胞、樹状細胞を含む先天性免疫システムの殆どの成熟細胞で、差次的発現パターンを示す(参考文献6−14)。全てのヒトCD33関連シグレックは、細胞質尾部に、保存膜近位の免疫受容抑制性チロシンモチーフ(ITIM)を保持しているだけでなく、保存膜遠位のITIM様モチーフを保持している(参考文献5)。
【0004】
急性骨髄性白血病(AML)は、造血幹細胞(HSC)または前駆細胞の異常増殖及び異常分化に由来する血液悪性腫瘍の一つである(参考文献1)。AMLの場合、細胞が正常で成熟した血液細胞に分化ができなくなり、無制限に増殖する。その結果、未熟な骨髄細胞または芽細胞が蓄積されて急速に骨髄に取って代わり、赤血球、白血球、血小板の産生が減少する。赤血球の減少は、貧血、感染、出血などの合併症を招く虞がある。場合によっては、芽細胞がリンパ系、脾臓、その他の主要臓器に侵入することもある。
【0005】
フランス・アメリカ・イギリス(FAB)(参考文献2)から世界保健機構(参考文献3)に発展した分類システムによって、AMLは形態的特徴と遺伝子的特徴の組合せで分類される。この分類システムは、主な白血病性(芽球)細胞の分化状態を説明する。分化の度合いは、サブタイプM0,M1,M2,M3と共に上昇し、一方、サブタイプM4とM5は大多数が単球系統であり、サブタイプM6とM7は、それぞれ赤血球と巨核球の特徴を有する(参考文献27)。
【0006】
白血病は、正常な造血幹細胞(HSC)と相似するが、器官形成の調節プロセスを妨げ、異常を来たす白血性幹細胞(LSC)の始まりとなる異常造血組織として説明できる。目下、CD34,CD33,CD38,CD71,CD117+/−,CD123,Lin、は正常な造血幹細胞と見なされ、CD34,CD33+/−,CD38,CD71,CD117+/−,CD123,Lin、は白血性幹細胞(LSC)と見なされる。HSCの突然変異または初期の原型がLSCの発育をもたらし、これは、自己再生能力を有する。LSCは、白血性芽細胞の繁殖と分化に携わる分化始原細胞を増殖する。
【0007】
AML細胞におけるCD33の排他的な存在は、AML細胞と抗体療法の標的の検出に有効なマーカを提供する。マイロターグ(Mylotarg?)は、以下の化学療法で再発AMLの治療薬として認可された有効抗生物質カリケアマイシン-γ1(Calicheamicin-γ)と結合させたヒト型抗CD33モノクローナル抗体である。
【0008】
本発明は、CD33関連シグレック、シグレック−9が正常な骨髄原型には存在しないが、AMLで発現するため、細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害の治療の潜在的な新標的を提供する可能性あるという発明者の観察に基づく。具体的には、シグレック−9は、深刻な障害(M4とM5FAB分類)と関連するAML細胞のサブセットで発現することに気づいた。さらに、CD33やシグレック−5とは違い、骨髄血漿におけるシグレック−9のレベルは低いか、検出不能であった。
【0009】
本発明の目的の1つは、例えば、急性骨髄性白血病などの細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害の治療に付加的な手段を提供し、先行技術に伴う課題を軽減または克服することにある。
【発明の開示】
【0010】
本発明の一つは、細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害の治療薬製造におけるシアル酸免疫グロブリン様レクチン−9(シグレック−9)結合剤の使用を提案する。
【0011】
"細胞"なる用語は、シグレック−9を表現またはシグレック−9である細胞または細胞型を意味している。特に、"細胞"なる用語は、例えば、CD8+T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞(CD16++/CD56及びCD16/CD56)、単核細胞、マクロファージ、好中球などの末梢血のような免疫システムの細胞を意味する。さらに、"細胞"なる用語には、例えば、造血幹細胞などの骨髄細胞も含まれる。
【0012】
また、"細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害"なる用語は、癌のような疾病を含む。特に、"細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害"は、単球性、マクロファージ、組織球性の悪性障害などを含む悪性血液に関係し、急性ミエロイド性白血病(AML)もこれに含むことができる。表1は、本発明で使用する"細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害"なる用語が定義すると見なされる疾病を一覧にしたものである。
【0013】

【0014】
本発明の結合剤は、シグレック−9と結合または協働し、例えば、小さな有機分子、ペプチド、炭水化物、抗体などを含んでも構わない。
【0015】
結合剤は、好都合に、特に、シグレック−9と結合するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などの抗体であっても構わない。抗体は、好都合に、補体媒介または抗体依存性細胞障害反応(ADCC)を誘導しない。モノクローナル抗体を生成するのに使用する技術は公知で、典型的なモノクローナル抗体は、1996年刊行のZhang他著の文献に記載されている(J. Biol. Chem 225:22121−22126)。さらに、当業者であれば、例えば、抗体のH鎖やL鎖の除去や、分子の"ヒト化"の場合、分子をコードする核酸の修正などにより、本発明の抗体(またはその他の結合剤)をさらに変更することができる。
【0016】
"結合剤"なる用語が、シグレック−9と結合または協働する能力を保持するその断片(fragments)も含むことは理解されよう。例えば、抗体をペプシンで処理することでF(ab)フラグメントが生成できるように、抗体は容易に断片化できる。Fabフラグメントを生成するために、F(ab)フラグメントを処理してジスルフィド・ブリッジを減少させても構わない。抗体の断片化にその他の技術を利用して、分子の相補性決定領域(CDR)だけを備えるようもできる。当該技術分野では、こうした抗体断片は"領域抗体"または"ナノボディ(nanobodies)"として知られている。
【0017】
本発明の抗体は、任意の種、特に、馬やヒト、またはウサギ、ネズミ、ハツカネズミなどのげっ歯類などの哺乳類に由来する。好都合に、抗体を修正して、"ヒト化"させても構わない。ヒト以外の種に由来する抗体のヒト化技術は当該分野で公知である。さらに、特定の抗体をコードする核酸を分離・操作し、例えば、結合特性の改善、分子の大きさ及び/又は構造の"ヒト化"または調節も可能である。例えば、抗シグレック−9抗体のようなシグレック−9結合剤をコードする核酸を、特定領域を除去することで分離させ、例えば、抗体の可変領域などの特定部位を構成する分子を減少させることもできる。また、分子を構成する残基を変えて、結合特性及び/又は結合構成を調整することもできる。
【0018】
あるいは、シグレック−9の結合剤に、シグレック−9の天然リガンド、または、その断片、アナログ(analogue)、もしくは一部を含んでも構わない。例えば、シグレック−9の結合剤は、シアル酸から成る炭水化物を含んでも構わない。また、例えば、ペプチドファージディスプレイライブラリ、グリコペプチドライブラリまたはFVファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることでその他のペプチドや炭水化物リガンドを容易に識別できる。
【0019】
シグレック−9結合剤は、シグレック−9の活性の調節及び/又は、異常増殖・分化細胞や変異増殖・分化細胞を含む細胞の増殖及び/又は分化状態を調節できる。"異常増殖・分化細胞や変異増殖・分化細胞"が、正常または適切な増殖・分化細胞と比較して、制御レベル外にあることは理解されよう。
【0020】
細胞が示す増殖レベルは、従来技術による手段で試験できる。例えば、[3H]チミジンなどの放射性ヌクレオチドアナログの新しい合成核酸への融合レベルを細胞の増殖状態の指標として使用しても構わない。あるいは、例えば、ブロモデオキシウリジン(BrdU)のような非放射性ヌクレオチドアナログを細胞増殖の指標として使用しても構わない。新しい合成DNAに取り込む放射性アナログの量は、シンチレーション計数またはオートラジオグラフィ手段で決定しても構わない。非放射性ヌクレオチドアナログを使用する場合(例えば、BrdU)、ヌクレオチドアナログと結合する抗体やその他の分子を使って、新しい合成核酸に取り込むアナログレベルを決定しても構わない。培養して細胞の自己保存及び増殖能力を試験したり、増殖細胞の指標である特定の抗原やマーカの存在を検出したりすることで細胞の増殖状態を決定しても構わない。同様に、特定マーカの存在や形態分析で細胞の分化状態を決定しても構わない。さらに、例えば、カルボキシルフルオレセイン・ジアセタート・スクシンイミジル・エステル{(carboxyfluorecein diacetate succinimidyl ester)(CDSE)}のような蛍光色素の添加やフローサイトメトリーを使用して細胞の特定個体群の増殖を監視することもできる。このような場合、細胞が増殖すると、細胞ごとの色素レベルは分裂のたびに減少する。
【0021】
好ましくは、一旦結合したシグレック−9結合剤は内在化し、結合剤は細胞内部、細胞内の区画(compartment)または小胞(vehicle)に送られる。本発明の一実施例においては、シグレック−9結合剤が自身の内在化を開始したり、影響を与えたりしても構わない。もしくは、結合剤はシグレック−9と結合または協働し、内在化しなくても構わない。このように、シグレック−9結合剤は、細胞の増殖及び/又は分化状態を調節する一方、細胞表面に結合または内在化できる。
【0022】
好都合に、シグレック−9結合剤は、シグレック−9と相互作用・結合あるいは協働可能な結合部位と、細胞の増殖及び/又は分化状態を調節可能な活性部位とを備えても構わない。結合剤の活性部位は結合部位と、例えば、融合、連結、結合、接合、一体化、または協働可能で、その後、これらの部位は"連結"していると見なされる。
【0023】
結合剤の活性部位は、付加的または択一的に、シグレック−9結合剤の結合部位と連結する、例えば、小さな有機分子、ペプチド、炭水化物、拡散などの異種分子(a heterologous molecule)を備えても構わない。
【0024】
分子同士の融合、連結、結合、接合、一体化、または協働に使用する技術は、当該分野において公知で、Harlow&Lane("Antibodies: A laboratory Manual")やB.Lo("Antibody Engineering: Methods and Protocols")に記載されている。Sambrook&Russell("Molecular Cloning: A Laboratory Manual")が開示する組換え技術によって、例えば、ペプチドのような分子を抗体と融合、連結、結合、接合、一体化、または協働させても構わない。あるいは、特定の条件下において、結合させる分子に適当な調整を行った後に分子間の共有結合相互作用(covalent interaction)を確立しても構わない。
【0025】
好都合に、シグレック−9結合剤の結合部位と活性部位とを連結させ、特定の条件または作用物質にさらされると、連結分子が分離するようにもできる。この場合、シグレック−9結合剤の結合部位と活性部位を、塩の濃度、pH及び/又は温度等の環境条件における変化や酵素的開裂に敏感な部位を備える連結領域で連結させても構わない。こうした連結部位は当該分野では公知で、例えば、pHの変化に応答してシグレック−9結合剤の結合部位から活性部位の加水分解の発生に影響する成分を含んでも構わない。
【0026】
従って、シグレック−9結合剤が細胞の増殖及び/又は分化状態を調節可能な場合、"活性部位"なる用語は、シグレック−9の結合剤全体を指すと見なすことができる。あるいは、"活性部位"なる用語は、この結合剤の一部を指すと見なしても構わない。さらに、"活性部位"は、本明細書及び先行技術が開示する任意の手段でシグレック−9結合剤と結合する分子や異種を意味しても構わない。
【0027】
ひとたびシグレック−9と結合すると、シグレック−9結合剤の活性部位は、好都合に内在化し、その活動は細胞内部に向けられる。あるいは、シグレック−9結合剤の活性部位は細胞表面またはその近辺に留まり、細胞の増殖及び/又は分化状態を調節しても構わない。
【0028】
活性部位を、例えば、細胞の異常または変異増殖及び/又は分化の静止や消滅に役立てることができる。本発明の一実施例では、活性部位は、例えば、細胞代謝のアスペクトを調節したり、細胞死に至らしめたりできる。例えば、重金属、毒素、類毒素、または、プログラム式細胞死経路(programmed cell death pathways)(細胞自滅)を活性化させて有毒物質や細胞毒に晒した結果として細胞死に至らしめても構わない。また、例えば、細胞溶解や、細胞代謝の1つまたは複数のアスペクトの調節、及び/又は、細胞膜ポンプ・トランスポータなどの細胞システムの調節でも細胞死を引き起こすことができる。
【0029】
シグレック−9結合剤の活性部位は、細胞死を招く細胞毒成分を備えても構わないし、特定の経路、タンパク質、分子や核酸を非活動状態にしたり、抑制または調節したりして、細胞が正しく機能できないようにすることもできる。また、シグレック−9結合剤が特定の代謝経路率を加減しても構わないし、特定のタンパク質、核酸、その他の分子の生成を調節して、細胞が正しく機能できないようしても構わない。
【0030】
本発明のシグレック−9結合剤は、特に、タンパク質及び/又は核酸合成を調節する作用因子を含んでも構わない。例えば、結合剤が特定の酵素やリボソームを調節または相互作用するようにしても構わない。
【0031】
無細胞シグレック−9のレベルはその他の関連シグレックよりかなり低いため、シグレック−9を本発明の結合剤の標的分子として用いると特に有効である。"無細胞シグレック"は、全血血漿分画で検出可能で、かつ、細胞と協働しないシグレック分子を意味する。従って、"無細胞"シグレック−9を、"可溶性"または"血漿" シグレック−9と呼称しても構わない。一例として、血漿内で検出可能なシグレック−5とCD33のレベルは、シグレック−9のレベルより有意に高い。そのため、シグレック−9向きの特性を備える結合剤が、溶解性リガンドに吸収あるいは中和されることはあまりない。従って、シグレック−9結合剤は、その他のシグレック分子に特有の結合剤より効果が高い。
【0032】
シグレック−9が深刻な障害に関係するAML細胞のサブセットで発現することを観察してきた。そのため、シグレック−9を本発明の作用因子の標的分子として使用することで、深刻な障害(M4及びM5分類)の患者の識別や診断に役立てたり、深刻な疾病に有効な治療薬を提供したりできる。
【0033】
本発明の一実施例では、シグレック−9結合剤の活性部位が細胞毒物質カリケアマイシン-γ1(Calicheamicin-γ)を含んでも構わない。
【0034】
本発明の第2実施例は、細胞増殖性及び細胞分化性障害の治療ためのシグレック−9結合剤の使用を提供し、シグレック−9結合剤は、カリケアマイシン-γ1と共役するシグレック−9と特に結合する抗体を備えても構わない。
【0035】
本明細書に開示するシグレック−9結合剤は、好都合に、薬剤として許容される担体、希釈剤または賦形済を備える無菌医薬組成物として調合できる。こうした薬剤として許容される担体、希釈剤または賦形済は、当業者には周知で、例えば、水、食塩水、食塩加リン酸緩衝液、ブドウ糖、グリセロール、エタノール、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清アルブミンなどの血清蛋白、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物(partial glyceride mixtures of saturated vegetable fatty acids)、乳酸、塩水、リン酸塩などの緩衝剤、あるいは、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、三珪酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、硫酸プロタミンなどの電解液、αサイクロデキストリン、βサイクロデキストリン、スルホンブチルエーテル−βサイクロデキストリン(sulfobutylether-βCyclodextrin)及びヒドロキシプロピル−β−メサイクロデキストリンなどのサイクロデキストリン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール(polyethylene glycon)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(sodium carboxymethylcellulose)、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン−ポリエチレン−ブロック重合体、ポリエチレングリコール、羊毛脂などの他、上記の組合せを含んでも構わない。
【0036】
さらに、別の処理と組み合わせて、シグレック−9結合剤を投与しても構わない。例えば、例えば、シグレック−3または5など、他のシグレックを結合可能な薬剤と組み合わせて投与しても構わない。付加的に、または、択一的に、シグレック−9を、抗生物質、抗真菌薬、抗ウイルス薬、化学療法剤、免疫刺激薬または組成物(immunostimulaltory drug or compound)、オリゴヌクレオチド、シトキン、ホルモンなどと組み合わせて投与することもできる。
【0037】
本発明の第2実施例は、細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害を有する被験者を治療する方法を提供し、この方法は、シグレック−9を結合可能な薬剤を被験者に有効量投与することを含む。
【0038】
本明細書に記載する薬剤は、1個または複数の結合剤を含むように調合しても構わない。例えば、1個または複数のシグレック−9結合剤、あるいは、1個のシグレック−9とシグレック−9細胞の別の成分を結合可能なエージェントを薬剤に含んでも構わない。さらに、例えば、CD33あるいはCD33関連のシグレックを結合可能なエージェントを含んでも構わない。
【0039】
本発明の第3実施例は、シグレック−9を結合可能なエージェントを選別するための方法を提供し、この方法は、
a) 試験エージェントを細胞発現シグレック−9と接触させるステップと;
b)試験エージェントとシグレック−9との相互作用を検出するステップと、から成る。
【0040】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE)、エリザ(ELISA)、ウエスタンブロット法、免疫ブロット法などの技術で、分子間の相互作用を検出しても構わない。一実施例として、細胞発現シグレック−9またはシグレック−9分子を、例えば、マイクロタイタプレートの表面に接着または塗布しても構わない。その後、シグレック−9と試験エージェントの相互作用を生む環境下で細胞またはシグレック−9に試験エージェントを塗布しても構わない。適当な洗浄工程の後に、シグレック−9関連または試験エージェント関連の抗体を、そのエピトープとの相互作用を許容する環境下で添加しても構わない。その後、適当な手段で抗体−抗原相互作用を検出できる。例えば、抗体を、比色反応、化学発光反応、または生物発光反応によって抗体の結合レベルを報告可能な組成物と組み合わせても構わない。こうした組成物の例としては、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)とアルカリ性ホスファターゼ(AlkP)があるが、これに限定されることはない。付加的または択一的に、例えば、"バンドシフト"(band shift)分析のような電気泳動技術で、試験エージェントとシグレック−9を決定しても構わない。一例として、シグレック−9と試験エージェントとの相互作用を容認する環境下で、最初に、試験エージェントをシグレック−9と接触させるか、または、培養させても構わない。このような培養期間が、シグレック−9/試験エージェント錯体の形成をもたらし、こうした錯体は、試料を電気泳動にかけることで、容易に検出可能である。具体的には、電気泳動による対照試料の移動と試料の移動とを比較することでシグレック−9/試験エージェント錯体の存在を検出できる。シグレック−9/試験エージェント錯体は、シグレック−9と試験エージェントを別個に電気泳動にかけたときより、移動が少ないと予想される。電気泳動による移動の変化は、"バンドシフト"として証明できる。"対照試料"は、電気泳動に先駆けて、シグレック−9または試験エージェントと接触させたシグレック−9または試験エージェントの試料を意味する。
【0041】
上述した方法を変更して、シグレック−9と結合し、かつ、細胞の増殖及び/又は分化状態を調節可能なエージェントのスクリーニング法を提供できる。この方法は、
a)試験エージェントを細胞発現シグレック−9と接触させるステップと;
b)ステップ(a)による細胞の増殖及び/又は分化を対照細胞のそれと比較するステップと、から成る。
【0042】
ステップ(a)で使用する細胞が異常増殖細胞であっても構わないことは理解されよう。あるいは、この細胞は、正常増殖細胞または正常分化細胞であっても構わない。
【0043】
"対照細胞"は、試験エージェントスクリーニング分析(ステップ2)で使用する細胞と関連し、試験エージェントに晒したり、接触させたりした細胞ではないことは理解されよう。
【0044】
あるいは、この方法は、試験エージェントを既知のシグレック−9結合剤と融合、連結、結合、接合、合体、または協働させて"ハイブリッド"シグレック−9分子を形成し;細胞を"ハイブリッド" シグレック−9結合剤と接触させる付加的なステップを含んでも構わない。この方法では、上述したように、細胞の増殖及び/又は分化を対照細胞のそれと比較することにより、エージェントが細胞の増殖及び/又は分化状態を調節可能かどうかを決定できる。この独特な方法では、試験エージェントに晒されていない対照細胞の使用に加えて、既知のシグレック−9結合剤に晒されていない対照細胞を私用することが望ましい。こうすることで、細胞増殖または分化で観察された影響が試験エージェントによるものかどうかを決定できる。
【0045】
上記に詳細に説明した技術を使って、細胞の増殖状態を決定することができる。すなわち、これは、放射性または非放射性ヌクレオチド類似体及び/又は増殖の特異な状態を指示する特定の抗原やマーカの検出を含んでも構わない。同様に、特定の細胞マーカの存在あるいは形態分析によって、細胞の分化状態を決定しても構わない。
【0046】
本発明の第4実施例は、細胞増殖及び/又は分化障害が疑われる被験者から採取した試料から細胞増殖及び/又は分化障害を検出する方法を提供し、この方法は、
a) 患者から試料を採取するステップと;
b)試料を、シグレック−9を結合可能なエージェントと接触させるステップと;
c)結合エージェントとシグレック−9との相互作用を検出するステップと、から成る。
【0047】
この方法は、被験者の試料から検出したシグレック−9のレベルを、対照試料に存在するシグレック−9のレベルと比較するステップをさらに備える。"対照試料"は、細胞増殖及び/又は分化障害の疑いが無い被験者またはソースの試料で、好ましくは、実施的に同一の組織または体液から採取する。
【0048】
適当な試料は、特定の組織または体液の試料あるいは生体組織を含んで構わない。例えば、細胞を含む、骨髄、リンパ節、もしくは血液や唾液などの体液から採取した組織試料から胞増殖及び/又は分化障害を検出しても構わない。
【0049】
本発明の第5実施例は、異常増殖及び/又は分化細胞を採取する方法を提供し、この方法は、
a) 支持体基質(a support substrate)上にシグレック−9結合剤を固定化するステップと;
b)固定化したシグレック−9結合剤を細胞試料と接触させるステップと、から成る。
【0050】
固体支持体は、例えば、アガロース、セファロース、ポリアクリルアミド、アガロース/ポリアクリルアミド、共重合体、デキストラン、セルロース、ポリプロピレン、ポリカーボネット、ニトロセルロース、ガラスペーパー、あるいは、適当な固体支持体を提供可能なその他の任意の物質であっても構わない。
【0051】
固体支持体は、好都合に、アマーシャムバイオサイエンス(Amersham Biosciences)などで入手可能な、クロマトグラフィーでの使用に適した顆粒、粉末、またはゲルの形式であっても構わない。
【0052】
シグレック−9結合剤は、シグレック−9結合剤を固体支持体と結合させる手段を提供する結合部分(a binding moiety)をさらに含んでも構わない。こうした結合部分は、例えば、ペプチドやその他のビオチン/ステレプトアビジンなどの小さな化学的成分であっても構わない。
【0053】
本発明の別の実施例によれば、結合部分は任意のオリゴペプチドHisを備えることができる。このとき、n=4−20で、好ましくは、n=5−10、より好ましくは、n=6である。こうしたオリゴペプチドは、二価ニッケル(Ni)について高い親和性を有し、シグレック−9結合剤とニッケルキレート樹脂Ni2+−NTA−アガロースとの結合を可能にする。
【0054】
あるいは、本発明のさらに別の実施例によれば、シグレック−9結合剤を固体支持体と化学的に架橋結合させても構わない。例えば、Axen他(1967年)が開示する臭化シアン(CNBr)を付加して固体支持体を活性化させることで、好都合に、シグレック−9結合剤を固体支持体と化学的に架橋結合させても構わない。すなわち、CNBrの付加により、固体支持体は、pH8−9で急速にポリペプチドの遊離アミノ酸グループに反応し、固体支持体と架橋結合する。このとき使用する固体支持体は、例えば、CNBr活性化アガロースなどのアガロースが好ましい。
【0055】
シグレック−9結合剤の一部に反応する抗体またはその断片によって、好都合に、シグレック−9結合剤と固体支持体を結合させても構わない。好ましくは、抗体を適当な固体支持体と結合させる。この場合、有効な抗体またはその断片は、好都合に、シグレック−9結合剤に対して親和性があるモノクローナル抗体または断片であっても構わない。モノクローナル抗体の生成は当業者に公知である。
【0056】
あるいは、細胞集団を含む試料または溶液からシグレック−9発現細胞を除去するのに上記の方法を使用しても構わない。こうして、細胞集団から異常増殖及び/又は異常分化する細胞を除去して、実質的に、正常増殖及び/又は正常分化する細胞から成る細胞集団を獲得することができる。この特定の方法で使用する細胞は、血液及び/又は骨髄から採取しても構わない。従って、患者、または急性骨髄性白血病などの細胞増殖及び/又は分化障害を有する被験者から採取した(あるいは提供された)細胞を含む試料は、異常増殖または異常分化する細胞を実質的に全て枯渇させることができる。細胞試料からこれらの細胞を除去したら、残りの細胞を患者及び/又は被験者に戻しても構わない。
【0057】
細胞集団からシグレック−9発現細胞を除去するための方法は、CD33を発現させる細胞を除去する工程と組み合わせても構わない。例えば、シグレック−9結合剤とCD33結合剤とを適当な基質上で固定化させても構わない。固定化したシグレック−9/CD33結合剤を細胞集団を含む試料と接触させることで、CD33及び/又はシグレック−9発現細胞がこの細胞集団から除去できる。また、細胞増殖及び/又は分化障害を患う人々に包括的な治療戦略を提供するために、こうした方法を化学療法と組み合わせても構わない。
【発明の詳述】
【0058】
図を参照しながら、本発明を実施例の形で説明する。
【0059】
図1はAML細胞のCD33関連シグレックの発現を示す。試料XXI(表2参照)から採取した単核AML骨髄細胞を抗CD33ビオチンmAbと指示FITC標識抗シグレックmAbとで染色し、続いて、ストレプトアビジンAPCに晒し、フローサイメトリで分析した。7AADで標識した生育不能細胞は、分析に含まなかった。左の象限は、イソタイプ対照で標識した細胞の99%以上を含むように設定した。CD33/シグレック細胞の百分率を示す。
【0060】
図2は、AML細胞のシグレック−9陽性部分集合上のシグレック−7とシグレック−5の共発現を示す。試料I(上のパネル)とXXI(下のパネル)(図2参照)の単核AML骨髄細胞を抗シグレック−9−FITCmAbと、抗シグレック−5ビオチンmAb又は抗シグレック−7ビオチンmAbの何れかで染色し、続いて、ストレプトアビジンAPCに晒し、フローサイメトリで分析した。
【0061】
図3は、フローサイメトリによるシグレック−9陽性AML細胞の表現型特性付けを示す。
A) 試料II(図2参照)の単核AML骨髄細胞を、以下のmAbの何れか1つと組み合わせた抗シグレック−9−FITCmAbで染色した:抗CD38ビオチン、抗CD123ビオチン(ストレプトアビジンAPCが続く)、抗CD117−PE、抗CD14−PE。
B) 単核AML骨髄細胞を、抗CD34分類II−ビオチンと組み合わせた抗CD33FITCmAbまたは抗シグレック−9−FITCmAbで染色し、続いて、ストレプトアビジンAPCに晒した。図2に3個のAML試料を示す(上のパネル:試料I、29%CD34;真ん中のパネル:試料II、2.5%CD34;下のパネル:試料XIX、31%CD34)。
それぞれのドット・プロットについて、ダブル陽性細胞の百分率を示す。
【0062】
図4は、AML細胞と正常骨髄細胞のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色を示す。単核AML骨髄細胞(A)と単核正常骨髄細胞(B)を、メイ・グリュンワルド・ギムザを使って染色したシグレック−9陽性および陰性分画に免疫磁気作用的(immunomagnetically)に保存した。シグレック−9陽性分画内の細胞を、単球系統細胞について濃縮した。
【0063】
図5は、正常骨髄細胞上のCD33関連シグレックの発現を示す。単核骨髄細胞を指示FITC標識mAbで染色し、フローサイメトリで分析した。
A) 前方散乱(FSC)と側方散乱(SSC)を比較したプロットが、3個の集団:R2、SSClow;R3、SSCmedium;R4、SSChighの定義を容認する。
B) 灰色のヒストグラムは、上記のように定義した細胞の3個の部分集団上で、指示mAbを使ったCD33関連シグレックの発現を示す。白色のヒストグラムは、イソタイプ対照による染色を示す。
【0064】
図6は、正常骨髄におけるシグレック陽性部分集団の特性付けを示す。
A) 骨髄細胞を、抗シグレック−5ビオチン又は抗シグレック−7ビオチンの何れかと共に抗CD33−APCおよび抗シグレック−9−FITCで標識し、続いて、ストレプトアビジンPEに晒した。2個のシグレック−9陽性集団を以下のように定義する:ゲート1、CD33high、シグレック−9;ゲート2、CD33medium、シグレック−9。ヒストグラムは、各ゲート・サブ集団におけるシグレック−5とシグレック−7の発現を示す。
B) 骨髄細胞を、抗CD38ビオチン又は抗CD123ビオチンの何れかと共に抗シグレック−9−FITCで標識し、続いて、ストレプトアビジンAPCまたは抗CD14−PEに晒した。シングル及びダブル陽性細胞の百分率を示す。
C) 骨髄細胞を、CD33−FITC、抗シグレック−5−FITC、抗シグレック−7−FITC又は抗シグレック−9−FITCの何れかと共に抗CD34ビオチンで標識し、続いて、ストレプトアビジンAPCに晒した。CD34細胞をゲートし(M1、灰色のヒストグラム、左側パネル)、CD33と、シグレック−5、シグレック−7、シグレック−9の発現についてそれぞれ分析した(灰色のヒストグラム、右側パネル)。イソタイプ整合対照(isotype matched control)によるCD34細胞の標識を白色ヒストグラムに示す。
【0065】
図7は、抗シグレック−9mAbの内在化を示す。
A) シグレック−9の野生型(WT)、(Y1F)または(Y2F)変異体(右側パネル)で安定して感染(transfected)させた試料XVI、XIX、及びXXI(左側パネル)またはRBL細胞から採取した単核AML骨髄細胞を氷の上で45分間抗シグレック−9−アレクサ−488mAbで標識し、洗浄後に37℃で40分または240分培養した。やぎ抗マウスAPCを使って、表面の残余抗シグレック−9mAbを検出した。表面に残った抗シグレック−9mAb発現を値Bで始まる百分率でグラフに示す。
(A)で説明したように内在化分析を行い、抗シグレック−9−アレクサ−488関連の全細胞レベルを各時点で評価した。右側パネルに見られる上昇は、FL−1チャンネルで検出したRBL細胞の自動蛍光における時間依存ゲインを表す。残余抗シグレック−9mAb発現を開始値の百分率としてグラフに示す。
【0066】
図8は、感染RBL細胞による抗シグレック−9mAb内在化の共焦点顕微鏡分析を示す。氷の上で、シグレック−9感染RBL細胞のWT(A,B)、Y1F(C)、Y2F(D)変異体を、抗シグレック−9−アレクサ−488mAbで1時間培養し、洗浄後に37℃(B、C、D)で1時間、あるいは氷の上で1時間(A)培養した。氷の上で冷却して、コレラトキシンBサブユニット・アレクサ594で標識した形質膜で内在化を停止させた。洗浄後に、細胞をパラホルムアルデヒド4%で固定し、共焦点顕微鏡で検査した。
【0067】
〔試験材料と方法〕
[AML患者と正常骨髄及び血液ドナー]
AML患者から骨髄を採取し、説明後の承諾をもらって、人工股関節置換手術を行う健康な患者から骨髄試料を採取した。AML試料は、テイサイド癌組織バンク(Tayside Cancer Tissue Bank)に貯蔵した。研究は、貯蔵組織に関する研究の医学研究倫理の面からテイサイド癌組織委員会(Tayside Cancer Tissue Committee)を代表する同委員会によって承認された(承認番号04/S1401/85)。フィコール・パーク・プラスTM(Ficoll−Paque TM Plus)(Amersham Biosciences, Bucks, UK)密度勾配遠心で単核細胞(MNC)を浄化した。AML細胞アリコットを液体窒素に保存し、正常MNCを、直接、実験に用いた。低温保存した試料を解凍し、実験前に、FCS20%、ペニシリン/ストレプトマイシン1%、HEPES緩衝液10mMで補足したRPMI1640(Lグルタミンと共に)培地で90分間、CO5%、37℃で培養した(試薬は全てInvitrogen Gibco, Paisley, UKから入手)。凝固防止措置した全骨髄吸引物を遠心分離して、骨髄血漿を調整し、−80℃で保存した。血清調合用の血液試料は、地域の倫理ガイドラインに沿って研究所の有志から採取した。
【0068】
[抗体]
以下のCD33関連シグレックに特有のモノクローナル抗体(mAbs)を我々の研究所で生成した:CD33(6C5)、シグレック−5(1A5)、シグレック−7(S75a)、シグレック−8(7C9)、シグレック−9(KALLI)11、シグレック−10(5G6)12、とシグレック−11(4C4)13。IgG2cである4C4を除いて、全てマウスIgGlである。プロテインGセファロース(Sigma, dorset, UK)を使って、組織培養上澄み液からIgGsを浄化し、フルオレセイン5イソチオシアネート(異性体1)(FITC)(Invitrogen, Dorset, UK)で標識した。抗シグレック−5と抗シグレック−7IgGsをEZリンクビオチン(Pierce, Rockford)で標識し、抗CD33、抗シグレック−8、抗シグレック−9IgGsをアレクサ・フルオール488(Invitrogen)で標識した。以下の商用Absも使用した:。抗CD33ビオチン(WM53, Serotec, Oxford, UK)、抗CD33APC(WM53, Serotec)、抗シグレック−6(E20-1232, BD Pharmingen, Oxford, UK)、抗CD34ビオチン(QBEND, Serotec)、抗CD14PE(Caltag-Medsystems, Buckingham, UK)、抗CD38ビオチン(HIT2, Caltag-Medsystems)、抗CD123ビオチン(6H6, eBioscience, San Diego, USA)、抗CD117(104D2, Caltag-Medsystems)、抗マウス免疫グロブリンFITC(DAKO, Ely, UK)。
【0069】
[フローサイメトリ]
氷の上で、45分間、3−4×10細胞を指示mAb飽和濃度で染色した。洗浄後、氷の上で、30分間、ストレプトアビジンAPCまたはPEで培養し、さらなる洗浄工程を経て、0.25%ウシ血清アルブミン、10mM窒化ナトリウム、7アミノ・アクチノマイシンD(7−AAD)を含むPBSで再懸濁した。シグレック−6染色について、細胞を飽和レベル浄化シグレック−6mAbで培養し、続いて、抗マウスIgG−FITCで培養した。フローサイメトリ分析は全て、FACSキャリバーまたはLSRフローサイメトリ(BD Biosciences)とCellQuestソフトウエアを使って実行した。全ての例において、イソタイプ対照標識細胞を99%以上含むように負の象限を設定し、生育不可能な7−AAD陽性細胞は全てのFACS分析から規定通りに除外した。
【0070】
[シグレック−9+とシグレック−9−細胞のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色]
AML細胞と正常骨髄細胞を抗シグレック−9IgG−FITCで標識し、続いて、抗FITC結合常磁性マイクロビーズに晒し、AutoMACSシステム(Miltenyi Biotech, Bisley, UK)を使って、製造者の指示に従って、磁気的に陽性断片と陰性断片に分類した。分離した細胞断片の純度は、フローサイメトリによると概ね90%と評価された。サイトプシンを調整し、メイ・グリュンワルド・ギムザで染色した。無作為に選択した領域からの画像を、63×1.25のオイルレンズ(Zeiss, Jena, Germany) とアキシオビジョン(Axiovision)3.0ソフトウエアを使ってアキシオスコップ(Axioskop)(Zeiss)顕微鏡で撮影した。製造者の指示に従って、白黒基準を設定し、露出時間は1273msとした。
【0071】
[コロニー形成アッセイ]
AML細胞と正常骨髄細胞を抗シグレック−9FITCで標識し、FACSVantageSE(FACS Vantage SE)(BD Biosciences)を使って、製造者の指示に従って、陽性断片と陰性断片に分類した。陽性断片の純度は、常時、95%を越えていた。コロニー形成能力における抗シグレック−9mAbの潜在的効果を制御するために、培養または抗シグレック−9FITCで培養していない非分類細胞を全ての実験に含めた。FACS分類細胞と対照Ab培養細胞をメチルセルロース培地(HSC-CFU complete with erythropoietin, Miltenyi Biotech)で14日間、37℃、5%Coで培養し、製造者の指示に従って、CFU−E、BFU−E、CFU−G、CFU−M、CFU−GM、CFU−GEMMの数を調べた。正常な骨髄細胞についても同じ培養条件を使って、記載(参考文献19)通りにCFU−ブラストアッセイを実施した。
【0072】
[抗シグレック−9mAb内在化のフローサイメトリ分析]
細胞を氷の上で、抗シグレック−9−アレクサ−488mAbで45分間標識した。細胞を洗浄し、60分または240分間、氷の上、もしくは、37℃で5%Coの完全培地で培養した。各時点で、チューブを氷に置いて内在化を停止させた。全ての培養が終了した時点で、細胞表面に残留する抗シグレック−9−アレクサ−488mAbのレベルを、やぎ抗マウスIgG−APCを使ってFL−4チャンネルで3通り検出した。細胞関連アレクサ−488標識抗シグレック−9mAb(表面および内在化)の全量をFL−1チャンネルで測定した。抗シグレック−8−アレクサ−488mAbをイソタイプ対照として用いた。抗シグレック−9で獲得したFL−4中央値蛍光度(MFI)を抗シグレック−8で獲得したFL−4MFIから差し引くことで、内在化を定量化した。実験の間中、氷の上に保存した細胞のFL−4MFIの数値を100%とした。対応するFL−1MFI値を使って、同様に、細胞関連抗シグレック−9mAbを計算した。
【0073】
[共焦点顕微鏡検査による内在化の分析]
野生型またはチロシンからフェニルアラニンへの突然変異体のシグレック−9(参考文献15)を発現するラット好塩基球性白血病(RBL)粘着細胞を8−ウエル・チャンバ・スライド(NalgeNunc International, VWR, Leics, UK)で培養し、氷の上で1時間、抗シグレック−9−アレクサ−488mAbで培養した。洗浄後、細胞を氷の上の完全培地または37℃で指示時間、5%Coで培養した。細胞を氷の上に置いて内在化を停止させ、原形質膜を5μg/mlコレラトキシンBサブユニット−アレクサ−594(Invitrogen)で標識した。洗浄後、細胞を室温にて10分間、4%のパラホルムアルデヒドで固定し、ベクタシールド・マウント培地(Vectashield Mounting Medium)DAPI(Vector Laboratories, Peterborough, UK)に乗せた。63×1.4オイルレンズを備えたレイカSP2AOBS焦点顕微鏡(Leica, Heidelberg, Germany)でスライドを検査した。異なる蛍光レベルの励起/放出は以下の通りである:アレクサ−488、励起:488nm/検出放出:503−585nm;アレクサ−594、励起:594nm/検出放出:611−689nm;DAPI励起:405nm/検出放出:410−527nm。全ての画像は、アドフォトショップCS(Adobe Photoshop CS)を使って処理した。
【0074】
[可溶性シグレックの測定]
酵素結合免疫吸着検査(ELISA)キットを使って、製造者(R & D Systems, Abingdon, UK)の指示に従い、可溶性シグレック−5とシグレック−9のレベルを測定した。当研究所内(in house)でELISAを開発して、CD33を測定した。pH9.6の炭酸緩衝液中の4μg/mlの精製6C5抗CD33mAbを、4℃で、一晩イミュロン4ELIZAプレート(Immulon 4 ELIZA plates)(Dynatech, Chantilly, VA)に塗布し、続いて、緑色蛍光タンパクを高めるのに溶融したCD33細胞外領域を備えるCD33スタンダードもしくは検査試料に晒した。室温で1時間後、ウェル(wells)を洗浄し、親和性精製したラビット抗CD33で培養し、ヤギ抗ラビット・ホースラディッシュペルオキシダーゼに晒した。450nmで測定した吸光度とO−フェニルアミン・ジアミンを使って、ELISAを開発した。2つの独立した検定法において2つの異なる希釈度で3回にわたり、全試料を分析した。
【0075】
〔結果〕
[AMIにおけるCD33関連シグレックの発現パターンの特性付け]
21個の低温保存したAML細胞試料についてCD33関連シグレックの発現を検査するのに、当研究所内で生成した抗シグレックmAbをFITCで標識し、正常白血球の着色で決定したように飽和濃度で使用した。抗シグレックmAbの各々について、ストレプトアビジンAPCで検出したビオチン化商業用抗CD33mAb(biotinylated commercial anti-CD33 mAb)を使って2色着色を施し、フローサイメトリで試料の分析を行った(表2)。予想したように、FITC標識1抗CD33mAbによる1ステップ着色は直接標識mAbの全般的な低感度を反映して、2ステップ着色と比べて、低レベルの標識をもたらした(表2)。シグレック陽性細胞の百分率に大きなばらつきが観察されたが、各シグレックは、AML細胞のCD33+部分集合内で一定して発現した(図1)。FITC標識mAbを使って、5%カットオフを行ったところ、21個の試料中、17個がCD33を発現し(中央値%が37;中央値MFIが25)、12個がシグレック−5を発現し(中央値%が13.5;中央値MFIが27.5)、11個がシグレック−9を発現し(中央値%が25;中央値MFIが37)、5個がシグレック−7を発現し(中央値%が28.5;中央値MFIが22.5)、2個がシグレック−10を発現した(中央値%が10.4;中央値MFIが21)。分析した試料の何れでもシグレック−8とシグレック−11は見つからず、僅かなレベルのシグレック−6の発現が1例認められた(表2)。CD33を除いて、CD33関連シグレックでは、陽性細胞の比率と陽性部分集合のMFI数値の両方の観点からシグレック−9の発現が最も顕著であった。分析の結果、7つの事例で、CD33と近い、あるいは、これより高比率のAML細胞の発現が認められた(表2)。AML細胞に複数のCD33関連シグレックが明確に検出された代表例(XXI、表2)を図1に示す。
【0076】
未熟表現型(FAB:M0,M1,M2)のAML細胞と比べると、骨髄ボノブラスティック(myelomonoblastic)(FAB:M4)及びボノブラスティック(monoblastic)(FAB:M5)AML細胞でシグレック−5、7、9、10の発現に増加が見られた(表2)。この結果は、先の研究が開示するAML細胞におけるシグレック−5と7の発現と一致する(参考文献17、18)。細胞のCD33陽性部分集合上のシグレック−5、7、9の発現は、これらの分子が別個の部分集合ではなく、同じAML細胞の部分集合と共発現する可能性を示唆する。この仮説を、複合パラメータフローサイメトリを使って、2個の異なるAML試料で確認した(図2)。
【0077】
[表2]一次骨髄AML細胞(primary bone marrow AML cells)におけるCD33関連シグレックの発現

【0078】
表中、FABはフランス・アメリカ・イギリス分類;MFIは陽性部分集合の蛍光強度中央値;(−)はシグレック陽性細胞の検出無し;−は適用外;NDは決定せず、を意味する。*2ステップは、ビオチン化Abビオチン化で着色を実施した後、続いてストレプトアビジンAPC(CD33)に晒すか、または、無標識Abの後、抗マウスFITC(シグレック−6)で標識したことを意味する。†MFI値は26であった。
【0079】
[シグレック−9+AML細胞の免疫形質特性及びコロニー形成可能性],
複数のAML細胞で比較的高いシグレック−9の発現が見られた。これは、ある種のAMLの亜型では、このシグレックが有効なマーカおよび潜在的な治療標的となり得ることを示唆する。シグレック−9のAML部分集合をさらに特性付けするために、付加的な形質分析を行ったところ、シグレック−9細胞の大部分は、CD38,CD123+/−,CD117,CD14であった(図3A)。さらに、白血性幹細胞(LSC)で発現することが知られる(参考文献20)CD34[分類II]の発現について、CD33とシグレック−9細胞を比較した。その結果によると、分析した10個の試料のうち8個で、ごく僅かなシグレック−9細胞がCD34を発現した。これは、高い確率でCD34細胞を検出したCD33とは相違する(図3B)。これらを組み合わせてみると、シグレック−9細胞の免疫形質が、単球細胞と一致することが分かった。この発見を、分類したシグレック−9とシグレック−9AML細胞のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色によって確認した(図4A)。
【0080】
シグレック−9細胞の大部分でCD34の発現を欠いた(図3B)が、少数のシグレック−9シグレック−9/CD34細胞は、芽コロニー形成可能性を備える白血性細胞を含むことができた(参考文献19)。この可能性を調べるために、シグレック−9とシグレック−9AML細胞をFACS分類で精製し、3個の異なるAML試料について、メチルセルロースでのCFU−ブラスト検査を行った。全ての事例において、シグレック−9断片ではCFU−ブラストは検出されなかったが、シグレック−9断片からは、3人の患者の試料細胞105個につき、2200個と238個のCFU−ブラストコロニー始原細胞を検出した。抗シグレック−9mAbを含有または除外して培養した非分類細胞による比較実験では、CFI−ブラスト形成に対するmAbの影響は皆無であった(データの図示省略)。
【0081】
[正常骨髄細胞におけるCD33関連シグレック発現の特長付け]
CD33とシグレック−5を除いて、正常骨髄細胞でのCD33関連シグレック系統群の発現プロファイルに関する詳細な報告はなかった。これは、細胞障害効果から正常な始原細胞を守るのに望ましいAML細胞のAb媒介性標識の状況において、とても重要である。それぞれ、SSClow(図5、R2)、SSCmedium(図5、R3)、SSChigh(図5、R4)の側方散乱(SSC)特性(参考文献21)に従って、フローサイメトリにより正常な骨髄細胞の3つの系統群を定義した。分析した4個の正常骨髄試料中、CD33関連シグレックの発現は、SSCmediumとSSChigh集団にほぼ限定されていた。代表的な例を図5に示す。SSCmedium細胞の大部分は、CD33とシグレック−9について強い陽性を示し、シグレック−5とシグレック−7について弱い陽性を示した。対照的に、SSChigh細胞は、CD33とシグレック−5について弱い陽性を示し、シグレック−9については、大部分が陰性を示した(図5)。多色標識の結果、SSCmedium、CD33high、シグレック−9系統群(図6A,ゲート1)もシグレック−5とシグレック−7を共発現することが分かった。対照的に、SSChigh、CD33low、シグレック−9(図6A,ゲート2)細胞は、シグレック−5だけ陽性で、シグレック−7については陰性だった。CD38,CD123+/−,CD14,CD34(図6B,6C)についてグレック−9系統群をさらに定義した。精製したグレック−9系統群のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色(図4B)と併せて考慮すると、正常骨髄におけるシグレック−9細胞は、単球系統の未熟細胞が支配的であることを示唆する。CD34細胞の実験結果は、シグレック−9と同様で、シグレック−7はほぼ認められず、シグレック−5は、CD34細胞の5%以下で検出され、CD33は、14%以下で検出された(図6C)。骨髄性始原細胞は、特質的に、CD34とCD33を発現する。正常骨髄におけるシグレック−9細胞の大部分は、CD34とCD33であったが、CD34細胞の小断片(1%以下)は、シグレック−9であった(図6C)。始原細胞の部分集合がシグレック−9を発現したかどうかを調査するために、フローサイメトリによって、正常骨髄細胞をシグレック−9とシグレック−9細胞断片とに分類し、標準メチルセルロースベースのクローン化アッセイ(standard methylcellulose-based clonogenic assay)を使って、コロニー形成能力を計測した。2つの独立した実験の結果、シグレック−9陽性細胞断片は、コロニー化能力を持たなかったが、シグレック−9陰性細胞断片は、予想したレベルのBFU−E,CFU−E,CFU−G,CFU−GMを有していた(表3)。
【0082】

【0083】
表中、BMは正常骨髄、mAbは抗シグレック−9mAbを示す。(*)データは、幹細胞因子,GM−CSF,G−CSF,IL−6,IL−3とエリストポエチンで懸濁したメチルセルロース培地で14日間培養した1×10細胞からウエル当りの複製コロニーの平均を示す。括弧内は、2個の複製の数値をそれぞれ示す。別の2人の提供者から入手した正常骨髄を使った2つの独立した実験からも同様の結果を得た。
【0084】
結論として、正常骨髄の分析によれば、シグレック−5,7,9は、骨髄性系統の文化細胞で発現することが分かった。シグレック−9については、CD33と違って、この受容体は骨髄始原細胞には存在しない。全体として、CD33関連のシグレックを発現するAML細胞の表現型と始原骨髄細胞は類似し、CD33関連シグレックがAMLにおいて異常発現しないことを示唆する。
【0085】
[抗シグレック−9mAbは、AML細胞とシグレック−9感染ラット好塩基球性白血病細胞によって急速に内在化する]
シグレック−9の単球AML細胞における比較的高い発現と骨髄始原細胞での不在は、シグレック−9を、芽細胞の除去及び毒素デリバリによる患者の白血性細胞負荷の軽減を目指すmAbに基づく治療の新たな潜在的候補とする。これを効果的にするために、細胞表面への結合により抗シグレック−9mAbを内在化させることが重要である。mAb内在化を分析するのに、フローサイメトリを開発し、細胞を氷の上でアレクサ488標識抗シグレック−9mAbで標識し、37℃で、時間を変えて培養した。結合したmAbの残余量を、APC標識抗マウスIgと、続いて、フローサイメトリを使って測定した。原始AML試料を使った3つの独立した実験の結果、37℃で40分以内に結合した抗シグレック−9mAbの30〜50%が内在化し、90%が240分以内に内在化した(図7A,左側のパネル)。細胞関連アレクサ488標識抗シグレック−9mAbの量は、実験期間を通じて一定であったため、表面の抗シグレック−9mAbの損失は、落下ではなく内在化によるものであった(図7B,左側パネル)。シグレック−9が抗シグレック−9mAbの内在化を仲介することを直接証明し、2個の細胞質チロシン系信号モチーフ(cytoplasmic tyrosine-based signaling motifs)(Y1とY2)の役割(参考文献15)を調査するために、フローサイメトリと共焦点顕微鏡を使って、シグレック−9安定感染RBL細胞における抗シグレック−9mAbの内在化を調べた。上述したAML細胞のアッセイと同様の検定法を使って、野性型またはY2F(膜遠位エンイチロシンのフェニルアラニンへの変化:membrane distal tyrosine changed to phenylalanine)突然変異シグレック−9を発現するRBL細胞は、似たような割合のエンドサイトーシスを示し、40分で40〜50%のシグレック−9の内在化が確認された(図7A,右側のパネル)。比較するために、シグレック−9Y1F(膜近位チロシンのフェニルアラニンへの変化:membrane proximal tyrosine changed to phenylalanine)変異体をよりゆっくりと内在化させた(図7A,右側のパネル)。実験期間を通じて、自動蛍光(autofluoresence)のゲインにより、細胞関連抗シグレック−9アレクサ488の全体量が若干増加した(図7B,右側パネル)。共焦点顕微鏡を使ってRBLによる内在化を確認した。1時間の培養後、野生型またはY2F型のシグレック−9については高レベルの内在化が見られたが、シグレック−9Y1F変異型は大部分が細胞表面に留まった(データ付加図)。実験結果は、シグレック−9の膜近位ITIMに最適エンドサイトーシスが必要で、CD33に関する過去の研究(参考文献16)と一致することを示す。
【0086】
[可溶シグレック−9はAML骨髄血漿で低レベルまたは検出不能であるが、シグレック−5は高レベルで存在する]
抗シグレック−9mAbがインビボの標的AML細胞で効果的に機能するには、高レベルの抗シグレック−9が血漿中に存在しないことが重要であり、これは、注入されたAbを中和させて、治療効果が下がるのを防ぐためである。実際、血液中のCD33の抗原負荷が高いと、マイロターグ治療に続く臨床的成果に顕著な影響を及ぼす可能性がある(参考文献22)。そこで、我々は、M4/M5FAB状態を呈する数人と高レベルのシグレック−9AML細胞(表2の試料XIII)を有する1人(表4、AP3)を含む8人のAML患者から採取した骨髄血漿中の可溶シグレック−9のレベルを調べた。また、比較できるように可溶CD33とシグレック−5も測定した。6人の患者の血漿中に、検出不可能なレベルの可溶シグレック−9が存在し(検出限界1.25ng/ml)、2人の患者からは、低レベル(−4ng/ml)の可溶シグレック−9を検出した(表4)。一方、低レベルから中程度の(4〜30ng/ml)の可溶CD33を8人の患者全員で確認し、うち7人の患者から、500ng/ml以内のレベルのシグレック−5が容易に検出された(表4)。正常な骨髄血漿または血清試料では、シグレック−9は検出できなかったが、シグレック−5は、1例を除いて全検体から検出された。CD33は、3個の正常骨髄血漿試料のうち1つの試料と、全ての正常血清試料とで検出された。全般的に、AML試料におけるシグレック−5とCD33のレベルは、比較グループのそれより高く、これは、各患者の循環血液の白血球の数とある程度の相関性があった(表4)。
【0087】

【0088】
表4中、WBCは白血球、APはAML骨髄血漿、NPは正常骨髄血漿、NSは正常血清、(−)は検出されず、−は無関係、NDは未決定、をそれぞれ意味する。データは、平均±1標準偏差を示す。FABは、フランス・アメリカ・イギリス分類を意味する。†の付いた試料は、表2のXIIIに対応する。
【0089】
[検討項目]
本明細書は、AMLにおけるCD33関連シグレックの発現を初めて総合的に分析したものである。この検査の目的は、疾病を監視するマーカまたは治療用標的として臨床的に使用可能な付加的なCD33関連シグレックがあるかどうかを決定することにあった。CD33は別として、シグレック−9は興味深い新候補として際立ち、21個のAML検体中7例でCD33と同等のレベルで存在した。CD33関連シグレックについて、正常骨髄細胞における発現プロフィールを比較したところ、シグレック−9はCD33とは対照的に、骨髄性始原細胞には存在しないが、単球系統の未熟細胞ではCD33と等しいレベルで存在した。この実験結果は、抗シグレック−9がAML細胞によって急速に内在化し、血漿中には有意なレベルで存在しないことを証明した。この発見は、抗シグレック−9が単独もしくは抗CD33mAbに基づく療法を含むその他の治療と組み合わせてAMLの治療目的に使用できる可能性を示唆する。
【0090】
CD33関連シグレックの典型的な特長は、その系統制限(lineage-restricted)発現パターンにある。例えば、シグレック−5とシグレック−9は、大部分が単核細胞で見つかり、好中球(参考文献6,11,23,24)シグレック−7は、単球およびNK細胞での発現が優勢で(参考文献7)、シグレック−8は、好酸球に制限され(参考文献9.10)、シグレック−11は、組織マクロファージで発現するが、循環白血球には存在しない(参考文献13)。正常な血液白血球でのこの特異な染色は、FAB分類でM0からM6にわたるAML試料の様々なコレクションを使用してここで観察した発現パターンと一致する。すなわち、シグレック−8と11は、分析した白血病試料では検出されず、シグレック−5と、7と、9は殆どの試料で不定に存在した。全てのCD33関連シグレックを横一列に比較した結果、FAB分類に関係なく、AML試料の大部分で高レベルのCD33が発現し(過去の多数の研究と一致)、その他のCD33関連シグレックは、骨髄単球性分化特長を備えるCD33AML細胞の部分集合でのみ有意なレベルで発現することが明白である。治療的見地から重要な問題は、シグレック−5と、7と、9がAML細胞の同一あるいは分離した部分集合で発現するかどうかである。本明細書で、我々は、これら3つのシグレックが同じ部分集合で共発現することをマルチパラメータ標識によって証明した。これは、これらの分子の発現がAML細胞分化中に、同等に規制されるという概念と一致する。
【0091】
この研究で、我々は、CFU−G,CFU−M,CFU−GMを含むシグレック−9が全ての始原細胞に不在であることを示した。この結果は、シグレック−5と7も骨髄性始原細胞に不在であることを示唆する。従って、成長因子に反応して、ひとたびコロニー形成能力を失うと、シグレック−5と、7と、9が骨髄単球系統のCD33細胞で最初に発現することになる。興味深いことに、未熟骨髄好中球(図5、高い側方散乱で定義)におけるシグレック−9発現が弱小または不在になり、シグレック−9が骨髄から出るとこれらの細胞で上方制御されることを示唆する。一方、CD33は未熟骨髄好中球ですぐに検出され、成熟すると下方制御されることを示唆する。
【0092】
LSCは、目下、AMLの治療の主要標的として認められ(参考文献1、25)、CD34CD38集団内で見つかる(参考文献20,26)。骨髄始原細胞におけるシグレック−9の不在は、これがLSCにも不在である可能性を示す。我々がここに証明した、シグレック−9発現に基づいて分類した細胞はAMLコロニー形成芽細胞を含まなかったという事実は、この可能性と一致するものである。従って、単独で使用した抗シグレック−9mAbが直接LSCを除去する可能性は稀で、これらの希少細胞に対するバイスタンダー毒性として骨髄への放射性同位元素を標的するのに有効であるかもしれない。抗CD33Absまたはその他の療法と組み合わせた抗シグレック−9mAbも、例えば、骨髄増多症のいくつかの症例で、白血性負担を軽減するのに有効であろう。
【0093】
この目的のために、シグレック−5やシグレック−7と比べて、シグレック−9を標的とするのにはいくつかの潜在的な利点がある。第1に、MFI値(表1および図1)が示すように、シグレック−9は最大の発現レベルを有した。これをここに示す結合Abの急速な吸収と組み合わせると、高レベルの貪食Abが白血性細胞と共役し、効率的な細胞死をもたらすことが期待される。第2に、AML患者からの骨髄血漿の可溶シグレック−9の濃度と制御が低いか又は検出不能な一方、シグレック−5は高濃度で存在し、注入したAbの断片を有意に中和可能である。可溶CD33の分析はこの分子が高レベルに存在することを示し、AML試料におけるCD33とシグレック−5両方の上昇は、各患者の循環白血球の数と明らかに相関関係がある。これは、増加した可溶シグレックのプールが白血性細胞に由来することを示唆する。可溶シグレックの分子特性は、目下、未知であるが、過去の文献は、可溶分泌型(a soluble secreted form)をコードするものを含むシグレック−5の複数の接合変異体の存在を開示している(参考文献24)。
【0094】
結論として、我々の発見は、シグレック−9が(骨髄)単芽球白血病で発現し、特に個々の患者用の治療として考えた場合、抗CD33指向戦略を含む新規な薬または従来の細胞毒剤と組み合わせて使用可能な新規な治療用標的を提供することを示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】AML細胞のCD33関連シグレックの発現を示す。
【図2】AML細胞のシグレック−9陽性部分集合上のシグレック−7とシグレック−5の共発現を示す。
【図3】フローサイメトリによるシグレック−9陽性AML細胞の表現型特性付けを示す。
【図4】AML細胞と正常骨髄細胞のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色を示す
【図5】正常骨髄細胞上のCD33関連シグレックの発現を示す。
【図6】正常骨髄におけるシグレック陽性部分集団の特性付けを示す。
【図7】抗シグレック−9mAbの内在化を示す。
【図8】感染RBL細胞による抗シグレック−9mAb内在化の共焦点顕微鏡分析を示す。
【参考文献一覧】
【0096】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害の治療薬剤製造のためのシアル酸結合免疫グロブリン様レクチン−9(シグレック−9)結合剤の使用。
【請求項2】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害が、骨髄の免疫システム及び/又は免疫細胞に影響する請求項1に記載の使用。
【請求項3】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害が、癌である請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
癌が、単球性のマクロファージ系統及び/又は組織球性系統の悪性疾患及び/又は急性骨髄性白血病(AML)である請求項3に記載の使用。
【請求項5】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害が、
(i) inv(16)(p13q22)を伴う急性骨髄性白血病(AML);
(ii) 急性骨髄単球性白血病;
(iii) 急性単芽球性および単球性白血病;
(iV) 慢性骨髄単球性白血病;
(v) 若年性骨髄単球性白血病;
(vi) 組織球性肉腫;
(vii) ランゲルハンス細胞組織球症;及び
(viii)ランゲルハンス組織球性肉腫、
からなる群から選ばれる請求項1又は2に記載の使用。
【請求項6】
シグレック−9結合剤が、
(i) 小さな有機分子;
(ii) ペプチド;
(iii) 炭水化物;及び
(iV) 抗体、
からなる群から選ばれるか、又はシグレック−9結合断片、そのアナログもしくはその一部である先行請求項の何れか1つに記載の使用。
【請求項7】
シグレック−9結合剤が、シグレック−9と特に結合するモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体である請求項6に記載の使用。
【請求項8】
抗体が、補体媒介性細胞傷害活性又は抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)を誘発しない請求項6又は7に記載の使用。
【請求項9】
抗体がヘトロ種から誘導される請求項8に記載の使用。
【請求項10】
抗体がヒト化抗体である請求項9に記載の使用。
【請求項11】
抗体が、
(i) F(ab)フラグメント;
(ii) Fabフラグメント;及び
(iii) 領域抗体(ナノボディ)、
からなる群から選ばれる抗体断片である請求項6から10の何れかに記載の使用。
【請求項12】
シグレック−9結合剤が、シグレック−9向けの天然リガンド、シグレック−9結合断片、そのアナログ、もしくはその一部を含む先行請求項の何れか1つに記載の使用。
【請求項13】
シグレック−9結合剤が、シアル酸含有炭水化物を含む請求項12に記載の使用。
【請求項14】
シグレック−9結合剤が、シグレック−9の活動及び/又は細胞の増殖状態及び/又は分化状態を調節する先行請求項の何れかに記載の使用。
【請求項15】
シグレック−9結合剤が、一旦結合すると細胞の内部に内在化するか、細胞内の区画または小胞に送られて内在化する先行請求項の何れかに記載の使用。
【請求項16】
シグレック−9結合剤が、シグレック−9と結合または会合するものの、内在化しない請求項1‐14に記載の使用。
【請求項17】
二つ以上のシグレック結合剤を含むように薬剤を調製する請求項1‐16に記載の使用。
【請求項18】
二つ以上のシグレック−9結合剤を含むように薬剤を調製する請求項17に記載の使用。
【請求項19】
シグレック−9と相互作用、結合又は会合できる結合部分と、薬剤として使用して細胞の増殖状態及び/又は分化状態を調節できる活性部分とを含むシグレック−9結合剤。
【請求項20】
結合剤の活性部分が、結合部分と、融合、連結、結合、接合、連繋又は会合している請求項19に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項21】
結合剤の活性部分が、シグレック−9結合剤の結合部分に連結した異種分子を含む請求項19又は20に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項22】
シグレック−9結合剤の結合部分と活性部分とが連結し、ある条件の下で又はある薬剤に触れると、その結合剤の結合部分と活性部分とが分離する請求項19‐21に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項23】
シグレック−9結合剤の結合部分と活性部分との連結領域が、環境条件の変化や酵素的切断に敏感な請求項22に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項24】
シグレック−9結合剤の活性部分が、異常に増殖又は分化する細胞を死に至らしめるか、休止状態にする請求項19‐23に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項25】
シグレック−9結合剤の活性部分が、有毒物質又は細胞毒性物質を含むか、プログラム細胞死経路(アポトーシス)を活性化できる分子を含む請求項24に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項26】
シグレック−9結合剤の活性部分が、細胞毒であるカリケアマイシン-γ1を含む請求項25に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項27】
シグレック−9結合剤が、カリケアマイシン-γ1と接合したシグレック−9と特に結合する抗体を含む請求項19‐26に記載のシグレック−9結合剤。
【請求項28】
請求項19‐27に記載のシグレック−9結合剤と、薬剤として許容される担体又は希釈剤とを併せた製剤処方。
【請求項29】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害を持つ患者に、有効量のシグレック−9結合剤を投与することを含む治療方法。
【請求項30】
シグレック−9と結合可能な薬剤のスクリーニング法であって、
c)前記薬剤をシグレック−9発現細胞と接触させる工程;及び
d)前記薬剤とシグレック−9との相互作用を検知する工程
を含む前記のスクリーニング法。
【請求項31】
細胞の分化及び/又は増殖を調節可能な薬剤のスクリーニング法であって、
c)前記薬剤をシグレック−9発現細胞と接触させる工程;及び
d)工程c)での細胞分化及び/又は細胞増殖を対照細胞と比較する工程
を含む前記のスクリーニング法。
【請求項32】
被検薬剤が、既知のシグレック−9結合剤と融合、連結、結合、接合、合体又は会合させる請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害が疑われる被験者から採取した試料にて、細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害を検出する方法であって、
a) 被験者から試料を採取する工程;
b)採取した試料を、シグレック−9と結合可能な薬剤と接触させる工程;及び
c)結合薬剤とシグレック−9との相互作用を検知する工程
を含み、シグレック−9の存在によって細胞増殖性及び/又は細胞分化性障害を知る前記の検出方法。
【請求項34】
被験者から採取した試料で検出されたシグレック−9のレベルを、対照試料に存在するシグレック−9のレベルと比較する工程をさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
細胞集団を含む試料又は溶液から、異常に増殖及び/又は分化した細胞を採取するか、あるいは、シグレック−9を発現する細胞を除去する方法であって、
a)支持基質上にシグレック−9結合剤を固定化する工程;及び
b)固定化したシグレック−9結合剤を細胞試料と接触させる工程
を含む前記した採取法又は除去法。
【請求項36】
シグレック−9結合剤が、自身を固体支持体と結合させる手段をさらに備える請求項35に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−513616(P2009−513616A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−537191(P2008−537191)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003983
【国際公開番号】WO2007/049044
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(501490346)ユニバーシティー・コート・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・ダンディー (3)
【Fターム(参考)】