説明

シボを有する樹脂成形品の製造方法

【課題】成形金型の手直しや成形後の塗装を必要とせず、簡単に白ボケの発生しないシボを有する樹脂成形品を製造する。
【解決手段】本発明に係る樹脂成形品の製造方法は、所定表面にシボ2を設けた樹脂成形品1を射出成形で製造するに際し、シボ2を構成する凸部3の凹部4底面からの立ち上がり角度θ、および、シボ2の凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比と、シボ2に現れる白ボケの程度との相関をそれぞれ取得する相関取得工程と、相関取得工程で求めた相関に基づき、凸部3の凹部4底面からの立ち上がり角度θ、および、シボ2の凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比を、シボ2に白ボケが見られない範囲に設定する最適値設定工程と、最適値設定工程で設定したθ,R(=r/d)の値に基づきシボ2を設計するシボ設計工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シボを有する樹脂成形品の製造方法に関し、特にシボに白ボケと呼ばれる外観上の不具合が発生することのない樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、インパネやガーニッシュなどの自動車内装部品を樹脂で成形する場合には、意匠面から見た品質の向上やヒケ等の外観不良の発生を防止する目的で、シボ加工と呼ばれる表面加工を成形金型の成形面に施し、当該金型で成形される成形品の表面にシボと呼ばれる微小な凹凸模様を設けるようにしているものが多い。
【0003】
シボの模様や形状は、上記樹脂成形品に要求される特性(触感、光沢など)によって適宜設定されるが、各要求特性とシボの仕様との相関については、未だ明確になっていない部分も多く、実際には、経験や勘でシボの仕様を決定しているのが現状である。また、その一方で、上記各要求特性とシボの仕様との相関を明らかにして、所定の特性を得るための設計に反映させようとする試みがなされている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、成形する樹脂材料の硬度に応じて変化するシボ粗さと良好な触感との関係から、最も好ましい触感が得られるシボ粗さを設定する方法が記載されている。あるいは、下記特許文献2には、光沢感ないし高級感を有すると共に、ウェルドやフローマーク、ヒケ、ムラ等の外観不良を目立たないようにすることのできるシボが得られるように、シボの凹凸の間隔や段差、およびシボ加工となる成形金型へのブラスト処理条件を適正な範囲に設定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−229356号公報
【特許文献2】特開平11−320627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、シボを設けた一部の樹脂成形品(インパネなどの内装部品)においては、上述した外観上の不具合の他に、シボを設けた表面をある特定の方向から見ると白くぼやけて見える、いわゆる「白ボケ」と呼ばれる外観不良が現れる場合があることが分かってきた。ここでいう「白ボケ」とは、射出成形時に成形品に生じた構造上の欠陥が原因となって現れるものを意味しており、樹脂成形品の成形後、例えば他部品との組立て時や完成状態での使用時に、何らかの衝撃や外力等を受けて表面に生じた白化部分とは異なる。
【0007】
この種の外観不良(白ボケ)を改善するための手段としては、成形金型の手直しや、あるいは成形後の塗装処理が考えられるが、前者については、そもそも白ボケの発生メカニズムや、シボの仕様と白ボケ発生との相関が何ら明らかになっていないことから、適正なシボの仕様を見出すために相当の工数を要する可能性が高い。また、後者については、無塗装で樹脂成形面に光沢感や高級感を付与する、とのシボを設ける本来の目的に反し、また、工数もその分増加することから採用し難い。
【0008】
以上の事情に鑑み、成形金型の手直しや成形後の塗装を必要とせず、簡単に白ボケの発生しないシボを有する樹脂成形品を製造することのできる方法を提供することを、本発明により解決すべき技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係るシボを有する樹脂成形品の製造方法により達成される。すなわち、この樹脂成形品の製造方法は、所定表面にシボを設けた樹脂成形品を射出成形で製造するに際し、シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比と、シボに現れる白ボケの程度との相関をそれぞれ取得する相関取得工程と、相関取得工程で求めた相関に基づき、凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比を、シボに白ボケが見られない範囲に設定する最適値設定工程と、最適値設定工程で設定した値に基づきシボを設計するシボ設計工程とを備える点をもって特徴付けられる。
【0010】
本発明者らが、シボの仕様と白ボケ発生との因果関係を評価及び検討したところ、ある特定のシボ形状に関するパラメータと白ボケの発生との間に所定の相関が認められることが判明した。すなわち、シボ形状及びシボ特性に関する数種類のパラメータ、具体的には、シボの深さ(シボを構成する凹凸の最大高さ)、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比、凸部と凹部との面積比、凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、グロス値を変えた場合における白ボケの発生の有無、ないし発生した際の白ボケの程度を官能評価試験により評価し、これらの相関を調べたところ、シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比と、白ボケとの間にそれぞれ一定の相関が認められた(後述する図5、図6を参照)。一方で、シボの深さなど、他のシボ形状に関するパラメータや、グロス値などのシボ特性に関するパラメータについては、白ボケとの間に相関が認められなかった(例えば後述する図8を参照)。
【0011】
また、白ボケが視認される方向と、射出成形条件との関係について検証したところ、白ボケが視認される方向は、射出成形時の溶融樹脂のキャビティ内における流れ方向(充填方向)と反対向きであることが分かった。
【0012】
以上の検証結果より、白ボケは、以下のメカニズムに基づき発生するものと推察される。すなわち、図4に示すように、射出成形時においては、先ず、成形金型11のシボ成形面12上で固化が生じ、スキン層と呼ばれる表面固化層13が形成される。そして、引き続き溶融樹脂が所定の保圧力で充填されることで、シボ成形面12上に形成された表面固化層13が、図4中矢印で示すキャビティ14内の溶融樹脂の流動方向(充填方向)に沿った向きに押圧される。この際、表面固化層13がシボ成形面12上を引きずられるように移動することで、当該引きずられた表面固化層13がシボ成形面12の充填方向前方側の側壁部15ないしその角部16に押し付けられ、傷が付く。よって、成形後、この傷付いた部分を正面から見た場合(図4中、右側に相当する向きから成形品を見た場合)に、白くぼやけた部分(白ボケ)が現れるものと考えられる。
【0013】
従い、上述のメカニズムに基づき白ボケが発生しているとすれば、シボ成形面12上で固化した表面固化層13が溶融樹脂の保圧力によって引きずられ難い(シボ成形面12に表面固化層13が引っ掛かり易い)形状を有するシボが、白ボケ発生の防止に有効である、との推論が成り立つ。すなわち、上記検証結果から、シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度が大きいほど、また、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比が大きいほど、表面固化層が保圧力等により動かされ難く、結果として、白ボケの発生が抑制されるものと考えられる。
【0014】
本発明は、以上の知見に基づき成されたもので、上述のようにして得た相関に基づき、シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比を、シボに白ボケが見られない範囲に設定し、当該設定した値に基づきシボを設計するようにしたので、白ボケの発生を成形段階で未然に防止することができる。これにより、成形品ごとに成形金型を手直しする手間や、シボに現れる白ボケを隠すための塗装工程を省略して、工数削減ひいては低コスト化を図ることができる。また、今後、樹脂成形品の薄肉化(軽量化)が進むにつれて、射出速度や保圧力を今まで以上に高める必要が生じることにより表面固化が促進され、さらに白ボケなどの外観上の不具合が目立つ可能性が高いが、上記2種類のシボ形状に関するパラメータを、白ボケが見られない範囲に設定することで(シボ形状を決定することで)、薄肉化を図りつつも、白ボケが発生しないシボを有する樹脂成形品を成形することが可能となる。
【0015】
この場合、具体的には、シボ設計工程において、凸部の凹部底面からの立ち上がり角度を30°以上とし、かつシボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比を0.6以上とするのがよい。
【0016】
これは、後述する実験結果に基づき設定したもので、成形品のシボ形状が上記数値範囲に含まれるようにシボを設計することで、より具体的には、対応する成形金型のシボ成形面を設計し、これを用いて射出成形することで、上記相関を取得した種類の樹脂成形品については、シボに白ボケが確実に発生しない樹脂成形品を成形することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明に係る樹脂成形品の製造方法によれば、成形金型の手直しや成形後の塗装を必要とせず、簡単に白ボケの発生しないシボを有する樹脂成形品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る樹脂成形品の要部拡大断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る製造方法でシボを有する樹脂成形品を射出成形した際のキャビティ内の挙動を概念的に説明するための成形金型の要部拡大断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る製造方法でシボを有する樹脂成形品を射出成形した際のキャビティ内の挙動を概念的に説明するための成形金型の要部拡大断面図である。
【図4】従来の製造方法でシボを有する樹脂成形品を射出成形した際のキャビティ内の挙動を概念的に説明するための成形金型の要部拡大斜視図である。
【図5】本発明に係るシボ形状に関する一のパラメータと、白ボケの発生の有無ないしその程度との相関を示す実験結果としてのグラフである。
【図6】本発明に係るシボ形状に関する他のパラメータと、白ボケの発生の有無ないしその程度との相関を示す実験結果としてのグラフである。
【図7】本発明に係るシボ形状に関する2種類のパラメータについて、白ボケが発生しない範囲を明示するグラフである。
【図8】シボ形状に関する他のパラメータと、白ボケの発生の有無ないしその程度との相関を示す実験結果としてのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る樹脂成形品の製造方法の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る製造方法により得られる樹脂成形品1の要部拡大断面図を示している。この樹脂成形品1は、例えば自動車のインパネであって、少なくともその上面部(フロントガラス側から視認される部分)にシボ2を一体に設けたものである。ここで、シボ2は微小な凹凸模様を構成しており、図1に示すように、複数の凸部3と凹部4とを交互に形成してなる。また、凸部3は、凹部4の底面から所定の角度θで凸部3の頂面へと立ち上がる側面部5により凹部4と区画される。
【0021】
上記形状をなすシボ2は、樹脂成形品1の射出成形と同時に成形されるが、この際、シボ2の形状によっては、シボ2を形成した領域を樹脂成形品1の所定方向(ここでは、例えばインパネのフロントガラス側)から見た場合に白ボケが現れることがある。ここで、白ボケの発生に関連するシボ2の形状パラメータとして、シボ2を構成する凸部3の凹部4底面からの立ち上がり角度θ、及びシボ2の凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比R(=r/d)とが挙げられる。ここで、上記凸部3の立ち上がり角度θは、図1に示すように、凹部4の底面に対する側面部5の立ち上がり部分の傾斜角度を示している。また、上記シボ2の凹凸最大高さdは、実質的なシボ2の深さに等しく、図1に示すように、凹部4の底面から凸部3の頂面までの最短距離を示していると共に、凹凸平均高さrは、図1に示す断面中、一点鎖線で示す凹部4の底面を通る仮想線と凸部3の輪郭とで囲まれる部分(クロスハッチングで示す部分)の面積を、上記面積を取得した数の凸部3及び凹部4の幅方向(図1中左右方向)の距離で除した値を示している。なお、実際の樹脂成形品1の厚み寸法はmm単位であるのに対して、シボ2の厚み寸法(シボ2を構成する凸部3および凹部4の高さ寸法)はμm単位と微小であるが、理解の容易化のため、図1では、シボ2の厚み方向寸法を樹脂成形品1の厚み寸法に比べて大きく描いている。図2〜図4についても同様である。
【0022】
これらの上記形状パラメータは何れも大きいほど、結果として白ボケが現れ難い、あるいは白ボケの程度が軽いことが後述する実験結果から分かっている。これは、以下に述べる理由によるものと推察される。すなわち、図2に示すように、成形金型11のシボ成形面12のうち側面部5に対応する部分の立ち上がり角度θ’は、樹脂成形品1の上記立ち上がり角度θに準じた大きさとなる。そのため、射出開始後、成形金型11のシボ成形面12上で固化する表面固化層13が、引き続きキャビティ14内に充填される溶融樹脂の流れ方向(図2中矢印で示す方向)に沿って引きずられる向きの力を溶融樹脂から受けた際、樹脂成形品1の上記立ち上がり角度θが大きいほど、表面固化層13が凹部4の底面から立ち上がる側面部5に引っ掛かり易くなる。この結果として、図4に示すような表面固化層13のずれ(引きずり)が抑制もしくは防止されるものと考えられる。また、樹脂成形品1における上記凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比Rが大きいほど、図3に示すように、成形金型11のシボ成形面12における凹凸最大高さd’に対する凹凸平均高さr’の比R’も大きくなる。そのため、表面固化層13が側面部5に引っ掛かる面積が大きくなり、この場合も、結果として、図4に示すような表面固化層13の引きずりが抑制もしくは防止されるものと考えられる。表面固化層13が引きずられなければ、表面固化層13がシボ成形面12の側面部5や凹部4の底面部との角部に押し付けられて傷付くこともないからである。
【0023】
従って、まず、シボ2を構成する凸部3の凹部4底面からの立ち上がり角度θ、および、シボ2の凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比Rと、シボ2に現れる白ボケの程度との相関をそれぞれ取得しておき(相関取得工程)、取得した相関に基づいて、凸部3の凹部4底面からの立ち上がり角度θと、凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比Rを、シボ2に白ボケが見られない範囲に設定する(最適値設定工程)。そして、このようにして設定したθ,Rの値に基づき、シボ2を設計することで(シボ設計工程)、何れの方向から見ても白ボケが発生しないシボ2を有する樹脂成形品1を射出成形で製造することができる。より具体的には、上述のように設定したθ,Rの値に基づき、成形金型11のシボ成形面12に対するθ’,R’を定め、これらθ’,R’の値に基づきシボ加工条件(例えば、マスキング模様や、エッチング時間、濃度など)を設定してシボ成形面12を形成する。そして、このシボ成形面12を備えた成形金型11で射出成形を行うことにより、白ボケが発生しないシボ2を有する樹脂成形品1を得ることができる。この方法によれば、白ボケの発生を成形段階で未然に防止することができるので、樹脂成形品1の形状が少し変わる度に成形金型11の手直しを行う手間や、シボ2に現れる白ボケを隠すための塗装工程を省略して、工数削減ひいては低コスト化を図ることができる。また、この際の上記立ち上がり角度θと凹凸平均高さの比Rの最適範囲としては、後述する実験結果(例えば図7を参照)より、θ≧30°かつR≧0.6を挙げることができる。このように、成形品の種類に応じて相関を求め、この相関に基づいて上記2種類の形状パラメータの最適値(最適範囲内の値)を定めるようにすることで、同種の全ての樹脂成形品(例えばインパネなど)について、本発明を適用することが可能となる。
【0024】
なお、上記実施形態では、凸部3の立ち上がり角度θと、凹凸最大高さdに対する凹凸平均高さrの比Rの2種類のシボ形状に関するパラメータを、シボ2に白ボケが見られない適正な範囲に設定し、この設定した値に基づいて、成形金型11のシボ成形面12を形成する場合を説明したが、この他にも、例えば凹部4の底面形状をより平坦化することによっても、白ボケの発生を抑制ないし防止することが可能であることが分かっている。そのため、例えば凹部4の底面が粗い(凹凸が大きい)形状のシボ2の場合には、上記θ,Rに加えて、凹部4の底面の表面粗さRaを小さくして、シボ2に白ボケが見られない範囲に設定することで、白ボケの発生を成形段階で防止することができる。
【0025】
また、以上の説明では、強制脱型の対象となる樹脂成形品1をインパネとした場合に本発明を適用した場合を例示したが、特にこの部品には限定されない。例えばドアトリムなどインパネ以外の大型の樹脂成形品や、ガーニッシュなどの小型樹脂成形品などの樹脂製の車両内装部品にも本発明を適用することもできる。また、車両内装部品以外の樹脂成形品についても、およそシボ2が設けられる射出成形品である限りにおいて、本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の有用性を実証するため本発明者らが行った実験について記述する。今回の実験では、シボ形状及びシボ特性に関する5種類のパラメータ、具体的には、シボの深さd(=シボを構成する凹凸の最大高さd)、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比R、(シボ形成領域を平面視した場合の)凸部と凹部との面積比、凸部の凹部底面からの立ち上がり角度θ、グロス値をそれぞれ変化させた場合の、白ボケの発生の有無ないしその程度を官能評価試験により評価し、各パラメータと白ボケとの相関の有無を調べた。
【0027】
具体的には、複数種類のシボの上記各パラメータを計測した後、各シボを成形する成形面を設けた成形金型を用いて射出成形を行い、得られた樹脂成形品のシボ形成領域に現れる白ボケの程度について官能評価を行った。樹脂成形品のシボが形成された部分の板厚は1.5mmである。また、射出成形条件については、インパネを射出成形する際の設定に基づいており、保圧時間を三段階(1s、2s、3s)に変化させた以外は、下記のように設定した。
射出速度 :15mm/s
射出時間 :4.28s
射出保圧切替位置:66mm
保圧力 :500kg/cm2
冷却時間 :10s
【0028】
実験結果を図5〜図8に示す。このうち、図5、図6、図8は、何れも保圧時間3sの場合の結果を示している。また、これらの図における縦軸は、成形品の表面に設けたシボを所定の方向から見た場合に現れる白ボケの程度(見え易さ)を官能評価により順位付けしたものをさらに数値化したもので、点数が高いほど白ボケの程度が高く(見え易く)、点数が低いほど白ボケの程度が低い(見え難い)ことを意味している。まず、図5、図6に示すように、シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度θ、及びシボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比Rと、白ボケの発生の有無ないしその程度との間にそれぞれ一定の相関が認められた。すなわち、立ち上がり角度θが大きくなるほど、また、シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比Rが大きくなるほど、白ボケが見え難く(現れ難く)なることが分かった。一方で、シボの深さdや、グロス値、凸部と凹部の面積比については、白ボケの程度との間に特段の相関は認められなかった。一例として、シボの深さdと、白ボケの程度との関係を示すグラフを図8に示す。また、この場合、官能評価により得られた、白ボケが気にならない(通常の状態では、実質的に視認できない)と認められる立ち上がり角度θは30°以上、凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比Rは0.6以上であった。このことから、最適なθ,Rは、図7中斜線部分で示す範囲で設定され得ることが分かった。
【符号の説明】
【0029】
1 樹脂成形品
2 シボ
3 凸部
4 凹部
5 側面部
11 成形金型
12 シボ成形面
13 表面固化層
14 キャビティ
d シボの深さ(凹凸最大高さ)
r 凹凸平均高さ
θ 凸部の凹部底面からの立ち上がり角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定表面にシボを設けた樹脂成形品を射出成形で製造するに際し、
前記シボを構成する凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、前記シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比と、前記シボに現れる白ボケの程度との相関をそれぞれ取得する相関取得工程と、
前記相関取得工程で求めた相関に基づき、前記凸部の凹部底面からの立ち上がり角度、および、前記シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比を、前記シボに白ボケが見られない範囲に設定する最適値設定工程と、
前記最適値設定工程で設定した値に基づき前記シボを設計するシボ設計工程とを備える、シボを有する樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記シボ設計工程において、前記凸部の凹部底面からの立ち上がり角度を30°以上とし、かつ前記シボの凹凸最大高さに対する凹凸平均高さの比を0.6以上とする請求項1に記載のシボを有する樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−76281(P2012−76281A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221638(P2010−221638)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】