説明

シミュレーション方法及びシミュレーション装置

【課題】比較的簡単な計算で高精度にLDMOSFETデバイスの特性をシミュレートできるシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】LDMOSFETにおける高耐圧化のためのドリフト領域を抵抗体と見なし、この抵抗を考慮したポテンシャル分布を反復計算で求めてデバイス全体のポテンシャル分布を計算する(STEP4、STEP5)。また、このドリフト領域部分に生じるキャパシタンスは、線形のポテンシャル分布を仮定して解析的に解く。更に、ゲート電極とドリフト領域とのオーバーラップ領域に生じるキャパシタンスは、ポテンシャルをディプリーション領域からアキュミュレーション領域まで考慮することによって計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LDMOSFETのデバイス設計や高精度な回路シミュレーションを行うためのシミュレーション方法及びシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常のMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)では、許容可能な印加電圧が数V程度に限られるのに対して、LDMOSFET(Laterally Diffused Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)では、その印加電圧が数100Vにまで達する。このような高い許容可能な印加電圧、すなわち耐圧を確保するために、LDMOSFETでは、例えば図6に示すようにドレインコンタクト11とチャネル領域15間にドリフト領域13と呼ばれる低濃度n領域(高抵抗部分)を設けている。更に、LDMOSFETではこのドリフト領域13の長さや不純物濃度、あるいはゲート電極12とドリフト領域13とのオーバーラップ領域14の長さなどを調節したり、LOCOS(Local Oxidation of Silicon)をドリフト領域の途中に作成したりすることで異なる耐圧に設定することができる。
【0003】
上記ドリフト領域13は、半導体基板に形成されるチャネル内を流れるキャリアにとっては抵抗となる。更にこの部分に存在する電荷も無視できなくなり、追加のキャパシタンスを誘起する。従って、LDMOSFETデバイスにおける動作シミュレーションモデル(以下単にLDMOSFETデバイスモデルという。)においては、従来のMOSFETデバイスのシミュレーションモデルに加えて、ドリフト領域及びオーバーラップ領域の正確なモデル化によるシミュレーションモデルが必要となる。
【0004】
また、LDMOSFETデバイスの特性を記述するためには、外部電圧に加えてチャネルエンドの内部ポテンシャルの電圧依存性を正しく記述する必要がある。
【0005】
従来、上記LDMOSFETデバイスモデルは、下記の二つのモデルが提案されている。第1のモデルは、オランダのフィリップス社によって開発された『MM20』と『MM31』である(非特許文献1参照)。『MM20』では、チャネル内を流れる電流の他にドリフト領域にも独立な電流式を定義し、これらの電流値が等しくなるように反復計算によってチャネルエンドの電圧を求め、この電圧を用いてLDMOSFETデバイスの特性を記述している。すなわち、LDMOSFETデバイス特性をチャネル領域とドリフト領域に分けて別々に考慮した上で、様々な耐圧に対して、上記『MM20』とLOCOS部分を記述した『MM31』とをマクロモデルで組み合わせることによって、LDMOSデバイスをモデル化している。
【0006】
しかし、当該MOSFETデバイスモデルではLDMOSFETデバイスの特性が二つのトランジスタの組み合わせで表されるので、その結果として計算が複雑となり、またその特性が一義的に決まらないという問題がある。
【0007】
これは、LDMOSFETを高耐圧化するためのドリフト領域を別のトランジスタとして考慮すると、この部分のトランジスタ性能が大きな影響を及ぼすことになり、本来のMOSFETがチャネル部分のキャリア走行によって支配されているというデバイス物理から逸脱することになる。すなわち、MOSFETデバイス特性は本来チャネル領域で特性が決まるという原則が守られていないためである。
【0008】
第2のモデルは、スイスのロザンヌ工科大学によって開発された『HV−EKV』である(非特許文献2参照)。『HV−EKV』では、高耐圧を確保するためのドリフト領域を外付けの抵抗としてマクロモデルで記述し、この部分に抵抗以外に様々な特性を付加している。しかし、当該モデルは単純であるため、モデルの精度が不十分であり、本来のデバイス特性を記述しきれていないという問題がある。
【0009】
すなわち、高耐圧部分のマクロモデルは抵抗やキャパシタンスから成り立っており、本来の複雑なデバイスの電圧特性を記述することは不可能である。そのため、実測過渡応答を再現できないためである。
【0010】
ところで、バルクMOSFETモデルである『HiSIM』(Hiroshima-Univ. STARC IGFET Model)では、トランジスタ(MOSFET)のディプリーションから、弱反転、強反転までの動作を単一式により表面ポテンシャルを算出し、ポアソン方程式を用いて電流を求める手法を採用している(非特許文献3参照)。この手法より得られたMOSFETの電圧−電流特性は、比較的簡単な計算で実測値を極めて良く再現できる。しかしながら、上述したドリフト領域のモデル化やオーバーラップ領域のモデル化は考慮されていない。このため、LDMOSFETには高精度で対応できず、LDMOSFETの構造をカバーできるLDMOSFETモデルへの拡張を行う必要がある。
【非特許文献1】M. B. Willemsen, R. van Langevelde, and D. B. M. Klaassen “High-Voltage LDMOS Compact Modelling,” Proc. NSTI, vol. 3, p. 714, 2006.
【非特許文献2】Y. S. Chauhan, F. Krummenacher, C. Anghel, R. Gillon, B. Bakeroot, M. Declercq, and A. M. lonescu, “Analysis and Mondeling of Lateral Non-Uniform Doping in High-Voltage MOSFETs,” Tech. Digest IEDM, p. 213, 2006.
【非特許文献3】M. Miura-Mattausch, N. Sadachika, D. Navarro, G. Suzuki, Y. Takeda, M. Miyake, T. Warabino, Y. Mizukane, R. Inagaki, T. Ezaki, H. J. Mattausch, T. Ohguro, T. Iizuka, M. Taguchi, S. Kumashiro, and S. Miyamoto, “HiSIM2:Advanced MOSFET Model Valid for RF Circuit Simulation,” IEEE Trans. Electron Devices, vol. 53, p. 1994. 2006.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、比較的簡単な計算で高精度にLDMOSFETデバイスの特性をシミュレートできるシミュレーション方法及びシミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によると、表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、LDMOSFETのドリフト領域を抵抗体と見なし、前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を反復計算によって求めた内部電位をチャネル内ポテンシャルの計算に用いるシミュレーション方法が提供される。
【0013】
また、本発明の一態様によると、表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、LDMOSFETにおけるドリフト領域のキャパシタンスを、チャネルエンドからドレインコンタクトまでポテンシャルが位置の関数で変化するものとして記述したシミュレーション方法が提供される。
【0014】
更に、本発明の一態様によると、表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、LDMOSFETにおけるゲート電極とドリフト領域とのオーバーラップ領域のキャパシタンスを、インバージョンでの表面ポテンシャルと、ディプリーションでの表面ポテンシャルと、アキュミュレーションでの表面ポテンシャルとに基づいてオーバーラップ領域に溜まる電荷をそれぞれ計算することで求めるシミュレーション方法が提供される。
【0015】
更にまた、本発明の一態様によると、表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、LDMOSFETにおけるオーバーラップ領域の電荷を算出し、遅延をかけてスイッチングをシミュレートするシミュレーション方法が提供される。
【0016】
本発明の一態様によると、LDMOSFETのモデルパラメータを入力する第1のステップと、前記LDMOSFETに印加するゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧及びバルク・ソース間電圧を設定する第2のステップと、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値を設定する第3のステップと、前記第1のステップで入力された少なくとも一部のモデルパラメータと前記第2のステップで設定された少なくとも一部の電圧とに基づいて、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する第4のステップと、算出されたドリフト領域の抵抗値に基づいて、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗値による電圧降下を算出する第5のステップと、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、計算された電圧降下を考慮した電圧を用いて、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する第6のステップと、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、計算された電圧降下を考慮した電圧を用いて、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する第7のステップと、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流を算出する第8のステップと、前記第5のステップの計算で用いたドレイン・ソース間電流と、前記第8のステップで算出されたドレイン・ソース間電流との差の絶対値が所定の計算誤差と同等以下か否か判定する第9のステップと、前記第9のステップにおいて、前記絶対値が前記計算誤差未満と判定されたときに、電荷密度及びキャパシタンスを算出する第10のステップと、前記第9のステップにおいて、前記絶対値が前記計算誤差と以上と判定されたときに、前記第5のステップの計算で用いるドレイン・ソース間電流値として、前記第8のステップで算出したドレイン・ソース間電流を代入する第11のステップとを備え、前記第11のステップを実行した後に、前記第5から第9までのステップを繰り返すシミュレーション方法が提供される。
【0017】
また、本発明の一態様によると、LDMOSFETのモデルパラメータ、前記LDMOSFETに印加するゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、及びLDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値の少なくともいずれか一つを入力する入力手段と、前記入力手段から入力されたLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、及びLDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値に基づいて、LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値、前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下、ソース端のポテンシャル、チャネル終端のポテンシャル、及び前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流をそれぞれ算出する演算処理を行う処理手段と、前記入力手段から入力されたLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値、表面ポテンシャルモデルによるドリフト−拡散近似に基づいた式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラム、及び前記処理手段で演算した演算結果を記憶する記憶手段と、前記処理手段で演算した結果を出力する出力手段とを具備し、前記処理手段は、ドリフト領域の抵抗値を計算する際に、前記記憶手段に記憶されたMOSFETのドレイン・ソース間電流を演算する、表面ポテンシャルモデルによるドリフト−拡散近似に基づいた式を記述したプログラムと、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する演算式を記述したプログラムとにしたがって前記ドリフト領域の抵抗値を算出し、算出されたドリフト領域の抵抗値に基づいて、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を計算し、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出し、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出し、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラムにしたがって、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流を計算し、算出されたドレイン・ソース間電流と前記入力手段から入力されたドレイン・ソース間電流の初期値との差の絶対値が所定の計算誤差と同等以下か否か判定し、前記絶対値が前記計算誤差未満と判定されたときに、電荷密度及びキャパシタンスの計算を行い、前記絶対値が前記計算誤差以上と判定されたときに、設定したドレイン・ソース間電流の初期値に算出されたドレイン・ソース間電流を代入するシミュレーション装置が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、比較的簡単な計算で高精度にLDMOSFETデバイスの特性をシミュレートできるシミュレーション方法及びシミュレーション装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
まず、本発明で用いるLDMOSモデルの概要とこのモデルに至る考察の過程について説明し、その後、このLDMOSモデルを用いた本実施形態に係るシミュレーション方法とシミュレーション装置について説明する。
【0020】
本発明の基本的な考え方は次のようなものである。
【0021】
HiSIMは、チャネルエンドのポテンシャルを既に配慮しているので、LDMOSモデルも基本的には従来のMOSモデルと同じモデルで対応できる。そして、LDMOSFETにおける高耐圧化のためのドリフト領域を抵抗体と見なし、このドリフト領域の抵抗を考慮したポテンシャル分布を反復計算で求めてデバイス全体のポテンシャル分布を計算する。上記ドリフト領域の抵抗値を変えることによって、様々の耐圧に対して対応可能である。また、このドリフト領域部分に生じるキャパシタンスは、位置の関数のポテンシャル分布を仮定して解析的に解く。ここで、位置の関数とはドリフト領域の位置に基づく関数である。更に、ゲート電極とドリフト領域とのオーバーラップ領域に生じるキャパシタンスは、ポテンシャルをディプリーションからアキュミュレーションまで考慮することによって計算するようにしている。
【0022】
次に、HiSIMのMOSFETデバイスの特性モデルをLDMOSFETに対して適用し拡張したモデル(以下、「HiSIM−LDMOSモデル」という。)について説明する。
【0023】
<HiSIM−LDMOSモデルの概要>
HiSIMでは表面ポテンシャルに基づいてMOSFETデバイスの特性モデルが構築されている。HiSIM−LDMOSモデルでは、図1に示すように、ソース端のポンンシャルφS0、チャネル終端(ピンチオフポイント)のポテンシャルφSL、更にチャネル/ドレイン接合部のポテンシャルφS(ΔL)を認識しており、これらの関係は下式[数1]で表される。
【数1】

【0024】
ここで、Vds’はソース・チャネル/ドレイン接合エンド間の内部電圧値、CLM1はモデルパラメータである。
【0025】
上式[数1]において、モデルパラメータCLM1を適当にフィッテングすることによって様々なチャネル/ドレイン接合条件を記述することができる。
【0026】
なお、以降の説明において、Vds(プライム無し)はソース/ドレイン間の入力電圧値、Vds’(プライム有り)はソース・チャネル/ドレイン接合エンド間の内部電圧値である。
【0027】
従って、HiSIMにおいては、LDMOSモデルで必要とされるチャネル/ドレイン接合部のポテンシャルφS(ΔL)は既に考慮されている。
【0028】
チャネル/ドレイン接合部のポテンシャルφS(ΔL)は、MOSFETデバイスの特性モデルでは、1>CLM1>0.5の条件で計算しているが、HiSIM−LDMOSモデルでも同じ条件で計算する。
【0029】
ここで、図2(c)、図2(d)は、上式[数1]に基づくHiSIM−LDMOSモデルを使用したシミュレーション装置(以下単に、「HiSIM―LDMOSシミュレータ」という。)での結果を示す。これに対して、図2(a)、図2(b)は、比較例としての一般的な半導体装置設計用の二次元シミュレーション装置(以下単に「2Dデバイスシミュレータ」という。)でのシミュレーション結果を示す。
【0030】
図2(a)と図2(c)は、ソース/ドレイン間の入力電圧値(Vds)が10Vの時のゲート・ソース間の内部電圧(Vgs’)とチャネル/ドレイン接合部のポテンシャルφS(ΔL)との関係を示している。
【0031】
図2(b)と図2(d)は、ゲート・ソース間の入力電圧(Vgs)が3Vの時のソース・チャネル/ドレイン接合エンド間の内部電圧値(Vds’)とチャネル/ドレイン接合部のポテンシャルφS(ΔL)との関係を示している。
【0032】
図2(a)と図2(c)、及び図2(b)と図2(d)を比較すると、HiSIM−LDMOSシミュレータの方が、LDMOSFETに特徴的なドリフト領域での急激なポテンシャルドロップ(電圧降下)をより適切に再現していることが分かる。
【0033】
<ドリフト領域のモデル化>
次に、ドリフト領域の電荷密度(Qdrift)を下式[数2]のように計算する。
【0034】
すなわち、LDMOSFETのドリフト領域は高抵抗なので、この場合はドリフト領域の電場は一定と仮定し、チャネルから流入するキャリア濃度Iddをドリフト領域の電場で割っている。
【数2】

【0035】
なお、上式[数2]では入力と内部の電圧を「’」(プライム記号)の有無で分けており、内部電圧は「’」有り、入力電圧は「’」無しである。以降の式においても同様である。
【0036】
上式[数2]において、tanhはスムーズな電圧依存を得るために加えた関数、Edriftはドリフト領域の電場の値、DLDはゲート電圧によりオーバーラップキャパシタンスが変調を受けることをモデル化した定数パラメータである。また、QDFTMAGは、実測キャパシタンスを再現するために用いるパラメータ(シミュレーションによるキャパシタンスのピークを調整するための定数)、LdLDは中間パラメータである。更に、Vdsはソース/ドレイン間の入力電圧値、Vgsはゲート・ソース間の入力電圧値、Vthは所定の閾値電圧値、Ldriftはドリフト領域の長さを表す定数パラメータ、Weffは単一のチャネル幅の長さを表す定数パラメータであり、他は[数1]に準じる。
【0037】
<オーバーラップ領域の正確なモデル化>
次に、オーバーラップ領域に溜まる電荷密度Qoverのモデル化を行う。
【0038】
HiSIM−LDMOSモデルでは、LDMOSTFETでの、インバージョン、ディプリーションとアキュミュレーションの場合の全てを考える。
【0039】
LDMOSFETのゲート電圧を上げていくと、フラットバンド電圧を超えた時点でディプリーションが起こり、アキュミュレーションへと変わっていく。そこで、それぞれの場合について、オーバーラップ領域に溜まる電荷密度(Qover)を下式[数3]と[数4]を用いてモデル化する。
【数3】

【0040】
【数4】

【0041】
ここで、WEFF_NFは、全チャネルのチャネル幅の長さの合計を表す定数パラメータである。すなわちWEFF_NF=Weff(単一のチャネル幅の長さ)*NF(全フィンガー数)である。LOVERDはオーバーラップ領域の長さ、NOVERはドレイン接合領域における不純物濃度である。また、εsiはシリコンの誘電率、Kはボルツマン定数、Tは絶対温度、Vdsはソース/ドレイン間の入力電圧値、qは素電荷量、COXはゲート酸化膜容量、Vgsはゲート・ソース間の入力電圧値、Vgs’はゲート・ソース間の内部電圧値、Vfboverはドレインにおけるフラットバンド(flat-band)電圧値である。
【0042】
すなわち、インバージョンとディプリーションの場合の電荷密度(Qover)は上式[数3]で、アキュミュレーションの場合の電荷密度(Qover)は上式[数4]で表し、これらモデルの式に基づき、それぞれの場合の、オーバーラップ領域における表面ポテンシャルφS0を計算する。この際、HiSIMモデルはチャネル部分をp型半導体基板に対して計算するようになっているので、ドリフト領域ではn型半導体なのでゲート・ソース間の入力電圧Vgsをマイナスとして取り扱っている。
【0043】
ドリフト領域の電荷密度(Qdrift)とオーバーラップ領域の電荷密度(Qover)によって生じるキャパシタンス(Capacitance)のシミュレーション結果を図3に示す。ここでは、ゲート・ソース間の入力電圧(Vgs)とキャパシタンスとの関係を対比して示している。ここでは、ソース/ドレイン間の入力電圧値(Vds)は10Vに設定している。
【0044】
図3(a)は2Dデバイスシミュレータでのシミュレーション結果であり、図3(b)は上式[数2]を用いた、HiSIM−LDMOSシミュレータでのシミュレーション結果である。
【0045】
すなわち、2Dデバイスシミュレータに比較して、HiSIM−LDMOSシミュレータの方が、図3(b)に示すように、LDMOSFETに特徴的な角形状のピークを再現しており、実測値に近くシミュレートできることが分かる。
【0046】
上記のようにして、HiSIM−LDMOSモデルによるドリフト領域の電荷密度のモデル化と、オーバーラップ領域の電荷密度の、より正確なモデル化ができるが、更に下記(1)〜(3)の特性を考慮したモデルの記述がされている。
【0047】
(1)準飽和(quasi-saturation)特性
LDMOSFETは、高抵抗のドリフト領域にかけた電圧を吸収させることによって高耐圧を確保している。つまり、入力ドレイン電圧が上昇するとほとんどの電圧はドリフト領域のポテンシャルドロップとなる。このような場合、Id−Vd特性(ドレイン電流と入力ドレイン電圧の関係)は、MOSFET特有の飽和状態を示さず、いわゆる準飽和(quasi-saturation)と呼ばれる、電圧的には飽和状態に入っても電流がゆっくりと上昇していく特性を持つ。
【0048】
(2)ポテンシャルドロップによって誘起するキャパシタンス特性
キャパシタンスに、通常のMOSFETに加えて、ドリフト領域に生じるポテンシャルドロップによって誘起するキャパシタンスが加わって複雑な挙動をする特性を持つ。
【0049】
(3)非準静的(Non-Quasi-Static)特性
LDMOSFETは、一般にはスイッチングデバイスとして用いられるので、正確な電流、キャパシタンスモデルに加えて、いわゆる非準静的(Non-Quasi-Static)効果と呼ばれる、チャージングの遅延が生じる特性を持つ。
【0050】
上記3つの要求に対して、上記(1)、(2)の特性は、[1]ドリフト領域における抵抗のモデル化と、[2]ドリフト領域のポテンシャルドロップによって生じるキャパシタンスのモデル化、すなわち、ドリフト領域を抵抗と見なし、モデル記述の基本量の計算にこの抵抗値を反復計算によって考慮する方法で解決している。
【0051】
上記(3)の特性は、[3]での電荷の応答遅延のモデル化と、[4]オーバーラップ領域におけるキャリアの走行時間のモデル化、すなわち、ドリフト領域で生ずる遅延が重要な役割を果たすとして、ドリフト領域の一部であるオーバーラップ領域の電荷に遅延をかける方法で解決している。
【0052】
以下、上述したモデル化[1]〜[4]について詳しく説明する。
【0053】
[1]ドリフト領域における抵抗のモデル化
ドリフト領域における抵抗のモデル化を行うには、まず、ソース/ドレイン間の入力電圧値(Vds)に対して、ドリフト領域の抵抗値(Rdrift)による電圧降下を反復計算により求めて、ソース・チャネル/ドレイン接合エンド間の内部電圧値(Vds’)を得る。
【数5】

【0054】
【数6】

【0055】
【数7】

【0056】
【数8】

【0057】
ここで、RDrift2は中間パラメータ、Rはドリフト領域の抵抗値、Vgsはゲート・ソース間の入力電圧、Vdsはソース/ドレイン間の入力電圧値である。また、RDVDは中間パラメータ、Idsは中間パラメータ(ドレイン・ソース間の電流値)、Rsはソース側オーバーラップ領域の抵抗値である。更に、Ids0は抵抗を無視した場合のドレイン・ソース間電流値、Lgateはゲート長、Wgateはゲート幅、Weffは単一のチャネル幅の長さを表す定数パラメータである。
【0058】
なお、上式[数5]、[数6]では、入力電圧値(Vgs、Vds)を用いているが、内部電圧(Vgs’、Vds’)を用いてもよい。
【0059】
そして、上式[数6]中のドレイン・ソース間電流Idsが上式[数8]で計算されるIdsと同じになるまで反復計算する。
【0060】
ソース/ドレイン間の内部電圧値(Vds’)を用いて算出したIds0を、解析式によって微調整することもできる。
【0061】
上記各式において、RDVD、RDVG11、RDVG12、RD21、RD22、RD23、RD23L、RD23LP、RD23S、RD23SP、RDVDL、RDVDLP、RDVDS、RDVDSPはモデルパラメータである。また、ドリフト領域の抵抗値(Rdrift2)と、ゲート・ソース間の入力電圧値(Vgs)とソース・チャネル/ドレイン接合間の入力電圧値(Vds)依存性の記述は、これらの関数に限定されない。
【0062】
[2]ドリフト領域のポテンシャルドロップによって生じるキャパシタンスのモデル化
ドリフト領域のポテンシャルドロップによって生じるキャパシタンスをモデル化する際には、まず、ドリフト領域の電荷密度(Qdrift)をモデル化する。この時、ドリフト領域では高抵抗なので電界(Edrift)は一定と仮定する。
【数9】

【0063】
NFはフィンガー数、βはkT/q(thermal voltage;熱耐圧の逆数)である。他パラメータは[数2]と同様である。
【数10】

【0064】
【数11】

【0065】
なお、上式[数9]において、IddはHiSIMが計算するチャネル内全キャリアにかかる電界をかけた量を示す。QDFTMAG、VBI、LDRIFT、DLDはモデルパラメータである。また、NFはHiSIMと共通のインスタンスパラメータである。
【0066】
次に、電荷保存則を満たすように電荷を各電極に割り当てた上で、下式[数12]、[数13]、[数14]のようにしてキャパシタンス(ゲート・バルク間容量ΔCgb、ゲート・ドレイン間容量ΔCgd、ゲート容量ΔCgg、その他容量)をそれぞれ計算する。
【数12】

【0067】
ここでVbsはベース・ソース間の入力電圧値である。
【数13】

【0068】
ここでVdsはソース/ドレイン間の入力電圧値である。
【数14】

【0069】
ここでVgsはゲート・ソース間の入力電圧値である。
【0070】
[3]ドリフト領域電荷の応答遅延のモデル化(時間領域での一般式)
次に、過渡解析の所定時刻(t)での電荷の応答遅延のモデル化を行う。
【0071】
電荷の初期値は、下式[数15]で定式化される。
【数15】

【0072】
ここで、qNQSは遅延を考慮した電荷密度、QQSは遅延を考慮した電荷密度である。
【0073】
過渡解析中の各時点(ti)における計算は、
【数16】

【0074】
となる。ここで、tpreviousは、解析されている時刻(ti)の一つ前の時刻であり、
【数17】

【0075】
である。また、上式[数16]における第2項中の分子のΔtは安定したシミュレーションを実現させるために付加したものであり、この有無の選択または変形は可能である。
【0076】
[4]オーバーラップ領域におけるキャリアの走行時間のモデル化
オーバーラップ領域におけるキャリアの走行時間のモデル化は以下の式で行われる。
【数18】

【0077】
ここで、τoverはオーバーラップ電荷を充電するのにかかる時間、DLYOVはモデルパラメータである。
【0078】
[計算機によるシミュレーション方法]
次に、上記HiSIM−LDMOSモデルを用いた、本発明の実施形態に係るシミュレーション方法とシミュレーション装置について図4及び図5により説明する。図4は本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示すブロック図、図5は本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【0079】
図4に示す如く、シミュレーション装置は、キーボードや操作パネルなどの入力装置21、種々の処理を行う中央処理装置22、記憶回路、半導体メモリあるいはハードディスクなどの記憶装置23、及び表示装置やプリンタなどの出力装置24を備えている。上記中央処理装置22は、制御装置22−1と演算装置22−2で構成され、上記制御装置22−1で入力装置21、演算装置22−2、記憶装置23及び出力装置24などの動作が制御される。
【0080】
また、上記記憶装置23には、上述したHiSIM−LDMOSモデルにおける各演算式や関係式などがプログラムとして記述され、記憶されている。例えば表面ポテンシャルモデルによるドリフト−拡散近似に基づいた式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラムなどが記憶されている。また、この記憶装置23には、入力装置21から入力されたデバイスパラメータやパラメータの初期値などが記憶されるとともに(予め記憶されていても良い)、演算装置22−2による演算結果が記憶される。
【0081】
図5のフローチャートに示すように、まず、入力装置21から、シミュレーション対象のLDMOSデバイスの構造を表す固有値であり、上述したモデル化式で用いた各種パラメータを入力する(STEP1)。それらパラメータには、ソース側オーバーラップ領域の抵抗値(RS)、ドリフト領域の抵抗値(R)、ドリフ領域の長さ(Ldrift)、オーバーラップ領域の長さ(LOVERD)などが含まれる。
【0082】
次に、シミュレーションを行うための、ゲート・ソース間電圧Vgs、ソース/ドレイン間の入力電圧Vds、バルク・ソース間の入力電圧VbsなどのLDMOSFETに印加する電圧の設定を行う(STEP2)。
【0083】
その後、ドレイン・ソース間電流の初期値Ids0を設定(Ids0=0)する(STEP3)。
【0084】
上記入力装置21から入力されたLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値のデータは、中央処理装置22中の制御装置22−1の制御により、記憶装置23中に取り込まれて記憶される。
【0085】
上記記憶装置23に記憶されているLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間の入力電圧Vgs、ソース/ドレイン間の入力電圧Vds、及びLDMOSFETのドリフト領域の抵抗値Rを算出する演算式を記述したプログラムは、上記制御装置22−1の制御により演算装置22−2に転送され、前式[数7]及びその関連式をコンピュータプログラムで実行することで、ドリフト領域の抵抗値(R)を求める(STEP4)。この演算結果は、記憶装置23に転送されて保存される。
【0086】
その後、算出した上記ドリフト領域の抵抗値R、上記記憶装置23に記憶されているデバイスパラメータや電圧値の設定データ、及びLDMOSFETのドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラムなどを用いて次式のような演算が行われる。
【0087】
gs’=Vgs−Ids0*RS
ds’=Vds−Ids0*(RS+R
bs’=Vbs−Ids0*RS
これによって、ドリフト領域の抵抗値(R)に基づく、ポテンシャルドロップが算出される(STEP5)。
【0088】
次に、中央処理装置22により、上記記憶装置23に記憶されているLDMOSFETのソース端のポテンシャルφS0を算出する演算式を記述したプログラムに基づいて、ポアソン(Poisson)方程式を反復計算で解くことによりソース端のポテンシャル計算を行う(STEP6)。
【0089】
φS0=f(Vgs’,Vds’,Vbs’)
引き続き、LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルφSLを算出する演算式を記述したプログラムに基づいて、ポアソン方程式を反復計算で解くことによりチャネル終端のポテンシャル計算を行う(STEP7)。
【0090】
φSL=f(Vgs’,Vds’,Vbs’)
それぞれの演算結果は上記記憶装置23に記憶される。
【0091】
次に、中央処理装置22により、上記記憶装置23に予め記憶されているLDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラム、すなわち前式[数8]及びその関連式に基づいてドレイン・ソース間電流Idsの計算を行う(STEP8)。演算結果は上記記憶装置23に記憶される。
【0092】
そして、上記中央処理装置22により、STEP8で算出したドレイン・ソース間電流Idsと上記記憶装置23に記憶されているドレイン・ソース間電流Ids0の初期値との差の絶対値がバルク係数δよりも小さいか否か判定する(STEP9)。ここでバルク係数とは計算誤差を意味している。
【0093】
|Ids−Ids0|<δ
この条件を満たしているときには、電荷密度及びキャパシタンスの計算を行う(STEP10)。ここで、電荷密度及びキャパシタンスの計算では、ドリフト領域部分に生じるキャパシタンスは、線形のポテンシャル分布を仮定して解析的に計算する。また、ゲート電極とドリフト領域とのオーバーラップ領域に生じるキャパシタンスは、ポテンシャルをディプリーション領域からアキュミュレーション領域まで考慮することによって計算する。
【0094】
一方、条件を満たしていない、つまりSTEP8で算出したドレイン・ソース間電流Idsと上記記憶装置23に記憶されているドレイン・ソース間電流Ids0の初期値との差の絶対値(|Ids−Ids0|)がバルク係数δと等しいか大きいときには、Ids0にIdsを代入する(STEP11)。
【0095】
次に、再度STEP5に戻って抵抗値Rによるポテンシャルドロップの計算を行い、|Ids−Ids0|がバルク係数δよりも小さいと判定されるまでSTEP5、STEP6、STEP7、STEP8、STEP9、STEP11の動作を繰り返す。そして、|Ids−Ids0|がバルク係数δよりも小さいと判定された場合、電荷密度及びキャパシタンスの計算(STEP10)を実行する。
【0096】
上述したHiSIM−LDMOSモデルでは、ポアソン方程式を忠実に反復計算によって解くことによって、ドリフト領域の抵抗の複雑な電圧依存性を正確に反映した計算を実現している。これによって高い精度を確保できる。
【0097】
また、抵抗の関与を、外部ノードを作らずにモデル内部で反復計算によって解く。
【0098】
更に、LDMOSFETの特性をドリフト領域の抵抗を用いて記述している。この抵抗によって生ずるポテンシャルドロップをドリフト領域のモデルに用いることで正確なモデル化を実現できる。しかも、このドリフト領域の抵抗値を変えることによって様々の耐圧デバイスに対応可能である。
【0099】
従って、上記のような構成のシミュレーション装置並びにシミュレーション方法では、LDMOSFETの耐圧を決定しているドリフト領域の不純物濃度、長さ、更にチャネル部分の濃度などのデバイス量がモデルに反映されている、換言すればモデルがデバイス物理に基づいて開発されているので、比較的簡単な計算で高精度にLDMOSFETデバイスの特性をシミュレートできる。また、MOSFETの構造パラメータを用いてモデルが開発されているので、構造の違いにも容易に対応できる。
【0100】
よって、このMOSFETモデルやシミュレーション結果を、デバイス設計に反映させてMOSFETにおける種々のデバイスパラメータや設定電圧を調整することにより、LDMOSFETを設計及び製造できる。
【0101】
上述したように、本発明の一つの側面によれば、比較的簡単な計算で高精度にLDMOSFETデバイスの特性をシミュレートできるシミュレーション方法及びシミュレーション装置が得られる。
【0102】
LDMOSFETはデバイス構造に自由度が大きいので、シミュレーションにより構造決定ができ、同時に回路特性評価も可能となり、開発コストを低減できる。また、LDMOSFETの需要は大きく、様々の用途に向けて対応できる。
【0103】
以上実施形態を用いて本発明の説明を行ったが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。例えば、LDMOSモデルのみのシミュレーション方法及びシミュレーション装置を例にとって説明したが、MOSモデルとLDMOSモデルの基本部分は共通であるので、例えばLDMOSFETのみに必要なドリフト領域のキャパシタンスの計算にフラグを設定して切り替えるようにすることで、MOSFETとLDMOSFETの両方に対応できる。MOSFETとLDMOSFETが混在する回路のシミュレーションも可能である。
【0104】
また、上述した種々の計算式は、本発明の技術思想を表現するための一形態に過ぎないことは言うまでもない。一例として、パラメータ要素にバイアスをかけるための係数導入が考えられる。また、同一の技術思想をコンピュータプログラムにて実行するための、本数式を離散的な表現とする場合も、当然に発明を逸脱するものではない。
【0105】
更に、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題の少なくとも一つが解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果の少なくとも一つが得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、LDMOSFETのデバイス設計や、LDMOSFETを用いた回路のシミュレーションなどに適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】HiSIM−MOSモデルについて説明するためのもので、表面ポテンシャルについて説明するための模式図
【図2】ドリフト領域のポテンシャルドロップについて説明するためのもので、(a)図、(b)図は比較例としての一般的な半導体装置設計用の二次元シミュレーション装置でのシミュレーション結果を示す特性図、(c)図、(d)図はHiSIM−LDMOSモデルでのシミュレーション結果を示す特性図
【図3】2DデバイスシミュレータとHiSIM−LDMOSモデルでのゲート電圧とキャパシタンスとの関係を対比して示しており、(a)図は2Dデバイスシミュレータの特性図、(b)図はHiSIM−LDMOSモデルの特性図
【図4】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション装置の概略構成を示すブロック図
【図5】本発明の第1の実施形態に係るシミュレーション方法を示すフローチャート
【図6】LDMOSFETの断面構成図
【符号の説明】
【0108】
11…ドレインコンタクト
12…ゲート電極
13…ドリフト領域
14…オーバーラップ領域
15…チャネル領域
21…入力装置
22…中央処理装置
22−1…制御装置
22−2…演算装置
23…記憶装置
24…出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
LDMOSFETのドリフト領域を抵抗体と見なし、前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を反復計算によって求めた内部電位をチャネル内ポテンシャルの計算に用いることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記チャネル内ポテンシャルの計算を、反復計算で解くことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記内部電位に基づいて計算されたチャネル内ポテンシャルを用いて、電流値を算出し、この電流値が前記反復計算を行う計算式中の電流値と等しくなるまで反復計算することを特徴とする請求項2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
LDMOSFETにおけるドリフト領域のキャパシタンスを、チャネルエンドからドレインコンタクトまでポテンシャルが位置の関数で変化するものとして記述したことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項5】
表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
LDMOSFETにおけるゲート電極とドリフト領域とのオーバーラップ領域のキャパシタンスを、インバージョンでの表面ポテンシャルと、ディプリーションでの表面ポテンシャルと、アキュミュレーションでの表面ポテンシャルとに基づいてオーバーラップ領域に溜まる電荷をそれぞれ計算することで求めることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項6】
表面ポテンシャルを関数としたドリフト・拡散モデルによりMOSFETデバイスの特性をシミュレートするシミュレーション方法において、
LDMOSFETにおけるオーバーラップ領域の電荷を算出し、遅延をかけてスイッチングをシミュレートすることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項7】
LDMOSFETのモデルパラメータを入力する第1のステップと、
前記LDMOSFETに印加するゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧及びバルク・ソース間電圧を設定する第2のステップと、
前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値を設定する第3のステップと、
前記第1のステップで入力された少なくとも一部のモデルパラメータと前記第2のステップで設定された少なくとも一部の電圧とに基づいて、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する第4のステップと、
算出されたドリフト領域の抵抗値に基づいて、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗値による電圧降下を算出する第5のステップと、
ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、計算された電圧降下を考慮した電圧を用いて、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する第6のステップと、
ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、計算された電圧降下を考慮した電圧を用いて、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する第7のステップと、
前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流を算出する第8のステップと、
前記第5のステップの計算で用いたドレイン・ソース間電流と、前記第8のステップで算出されたドレイン・ソース間電流との差の絶対値が所定の計算誤差と同等以下か否か判定する第9のステップと、
前記第9のステップにおいて、前記絶対値が前記計算誤差未満と判定されたときに、電荷密度及びキャパシタンスを算出する第10のステップと、
前記第9のステップにおいて、前記絶対値が前記計算誤差以上と判定されたときに、前記第5のステップの計算で用いるドレイン・ソース間電流値として、前記第8のステップで算出したドレイン・ソース間電流を代入する第11のステップとを備え、
前記第11のステップを実行した後に、前記第5から第9までのステップを繰り返すことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項8】
LDMOSFETのモデルパラメータ、前記LDMOSFETに印加するゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、及びLDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値の少なくともいずれか一つを入力する入力手段と、
前記入力手段から入力されたLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、及びLDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値に基づいて、LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値、前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下、ソース端のポテンシャル、チャネル終端のポテンシャル、及び前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流をそれぞれ算出する演算処理を行う処理手段と、
前記入力手段から入力されたLDMOSFETのモデルパラメータ、LDMOSFETのゲート・ソース間電圧、ソース/ドレイン間電圧、バルク・ソース間電圧、LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の初期値、表面ポテンシャルモデルによるドリフト−拡散近似に基づいた式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラム、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラム、及び前記処理手段で演算した演算結果を記憶する記憶手段と、
前記処理手段で演算した結果を出力する出力手段とを具備し、
前記処理手段は、ドリフト領域の抵抗値を計算する際に、前記記憶手段に記憶されたMOSFETのドレイン・ソース間電流を演算する、表面ポテンシャルモデルによるドリフト−拡散近似に基づいた式を記述したプログラムと、前記LDMOSFETのドリフト領域の抵抗値を算出する演算式を記述したプログラムとにしたがって前記ドリフト領域の抵抗値を算出し、
算出されたドリフト領域の抵抗値に基づいて、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、前記LDMOSFETの前記ドリフト領域の抵抗による電圧降下を計算し、
前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、前記LDMOSFETのソース端のポテンシャルを算出し、
前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出する演算式を記述したプログラムにしたがって、ポアソン方程式を反復計算で解くことにより、前記LDMOSFETのチャネル終端のポテンシャルを算出し、
前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流の演算式を記述したプログラムにしたがって、前記LDMOSFETのドレイン・ソース間電流を計算し、
算出されたドレイン・ソース間電流と前記入力手段から入力されたドレイン・ソース間電流の初期値との差の絶対値が所定の計算誤差と同等以下か否か判定し、
前記絶対値が前記計算誤差未満と判定されたときに、電荷密度及びキャパシタンスの計算を行い、前記絶対値が前記計算誤差以上と判定されたときに、設定したドレイン・ソース間電流の初期値に算出されたドレイン・ソース間電流を代入する
ことを特徴とするシミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−71000(P2009−71000A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237184(P2007−237184)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【Fターム(参考)】