シミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラム
【課題】 柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても簡単に柔軟媒体を定義してシミュレーションを開始することができるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】 柔軟媒体を直線や円弧を含む任意の形状で作成し(S111)、次に剛体要素への分割を行う(S12)。このとき、作成した柔軟媒体の剛体要素同士が成す角度が算出される(S13)。直線で作成した部分は角度0°が算出され、曲線で作成した部分は曲率と分割数から角度φが計算される。運動計算をスタートする(S14)。このときS13により算出された角度が0°でない場合は、運動計算の第1ステップ目から角度を0°に戻す復元力が各質点に働く(S15)。
【解決手段】 柔軟媒体を直線や円弧を含む任意の形状で作成し(S111)、次に剛体要素への分割を行う(S12)。このとき、作成した柔軟媒体の剛体要素同士が成す角度が算出される(S13)。直線で作成した部分は角度0°が算出され、曲線で作成した部分は曲率と分割数から角度φが計算される。運動計算をスタートする(S14)。このときS13により算出された角度が0°でない場合は、運動計算の第1ステップ目から角度を0°に戻す復元力が各質点に働く(S15)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙やフィルムなどのシート状の柔軟媒体を搬送するための搬送経路の設計に利用可能なシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタなどの装置に設置され、紙などのシート状の柔軟媒体を搬送する搬送経路を設計する際には、開発期間の短縮化や費用の低減化を目的として、搬送経路内を移動する柔軟媒体の挙動を計算機シミュレーションにより解析して画面上に描画することが行われている。
【0003】
このようなシミュレーションの技術としては、柔軟媒体を有限要素法による有限要素で表現し、搬送経路内の搬送ガイドやローラとの接触判断を行い、運動方程式を数値的に解くことにより、柔軟媒体のガイドとの搬送抵抗や当接角を評価する設計支援プログラムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0004】
また、柔軟媒体をより簡易的に質量とバネにより表現することで、計算速度を向上させる手法も知られている。
【0005】
柔軟媒体の運動を解析するにあたっては、上述のように、有限要素或いは質量−バネ系で離散的に表現された柔軟媒体の運動方程式を立て、解析対象時間を有限の幅をもつ時間ステップに分割し、時間0から時間ステップ毎に未知数である加速度、速度、変位を順次求める(数値時間積分)ことにより解析する、ニューマークのβ法、ウイルソンのθ法、オイラー法及びKutta−merson法などが広く知られている。
【0006】
ここで、柔軟媒体は剛体要素に分割され、その分割された各剛体要素間をバネで連結した柔軟媒体モデルを作成し、このモデルを用いて、元の形状からの変位に比例した力を発生させる。すなわち、元の形状は初期形状として描画した形状であって、外力により変形すると、この形状に戻そうとする復元力が働くことになる。
【0007】
通常、柔軟媒体は、複写機などの装置にセットするときは直線である。そのため、柔軟媒体の初期形状は直線で定義し、復元力が0の状態から挙動計算をスタートさせる。
【特許文献1】特開平11−195052号公報
【特許文献2】特開平11−116133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のシミュレーション技術では、次のような問題点があった。
【0009】
一機種につき給紙から排紙まで全搬送経路を一度にシミュレーションすると、計算の負荷や計算モデルの規模が膨大なものとなってしまうため、必要に応じて、全搬送経路の内、評価したい部分だけを切り出し、搬送経路の途中からシミュレーションを行うと効率的である。しかし、従来では柔軟媒体を直線で定義するため、搬送経路の途中から計算するには、(1)適当な直線部分に柔軟媒体を配置するか、(2)直線の柔軟媒体を配置できる形に搬送経路を変更する(例えば、柔軟媒体のスタート位置に直線の搬送ガイドと搬送ローラを設ける等)、といったことが必要となる。
【0010】
ところが、搬送径路内には所望の長さの柔軟媒体を配置できる直線部分はほとんど存在しないため、全搬送経路のうち所望の評価したい部分だけを切り出してシミュレーションを行うことは困難である(上記(1))。また、設計図面と異なる搬送ガイドや搬送ローラの追加を行うと(上記(2))、設計者に誤解を招き易いだけでなく、CADなどで作成した設計図面上の搬送経路を読み込み、そのまま挙動のシミュレーションを行いたい場合などにおいても、ユーザに対して、上記追加部分に関連した修正作業を強いる結果になるといった問題があった。
【0011】
本発明は上記従来の問題点に鑑み、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても簡単に柔軟媒体を定義してシミュレーションを開始することができるシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するため、搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置は、予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定手段と、前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション手段とを有し、前記シミュレーション手段は、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とする。
【0013】
また、搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置のシミュレーション方法は、予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定ステップと、前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーションステップとを有し、前記シミュレーションステップにおいて、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても柔軟媒体を簡単に定義してシミュレーションを開始することが可能になる。これにより、計算モデルの規模や計算負荷の増大化を抑制することができ、且つ計算モデルの作成が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
このシミュレーション装置は、コンピュータで構成されており、ビデオRAM(VRAM)201、キーボード204、ポインティングデバイス(PD)205、CPU206、ROM208、RAM209、ハードディスクドライブ(HDD)210、及びフロッピー(登録商標)ディスクドライブ(FDD)211等の各デバイスが、I/Oバス(アドレスバス、データバス及び制御バスから成る)207を介して接続されている。
【0018】
CPU206は、ROM208に記憶された制御プログラム(搬送経路の設計を支援するための、本発明に関連した設計支援プログラム等)に基づいて本装置の各ユニットを制御する。RAM209は、設計支援プログラム等をCPU206が実行するときのワークエリアやエラー処理時の一時退避エリアとして用いられる。ハードディスクドライブ210及びフロッピー(登録商標)ディスクドライブ211は、搬送経路設計支援用のデータベースやアプリケーションプログラムなどの保存用に用いられる。
【0019】
ビデオRAM201は、ディスプレイ装置202の画面に表示される文字やイメージを展開記憶するメモリであり、キーボード204は、入力に関する各種キーを備え、ポインティングデバイス205は、画面上でアイコンなどを指し示すためのマウス等である。
【0020】
上記構成のシミュレーション装置に電源を投入すると、CPU206はROM208のブートプログラムに従って装置を初期化し、HDD210からOS(オペレーティング・システム)のロードを行い、その後に、以下で詳述する本実施の形態の処理を実現するために、設計支援プログラム等を動作させることになる。
【0021】
なお、本発明に関連した設計支援プログラムは、ROM208に記憶されているものとしたが、もちろんハードディスク210等に記憶させるようにしても良いし、記憶媒体によって本発明が限定されるものでもない。
【0022】
[本実施の形態の処理]
柔軟媒体の搬送経路内における挙動シミュレーションについて、以下、本実施の形態に係る一連の処理を説明する。なお、この一連の処理は、図1に示したシミュレーション装置の例えばROM208に、本実施の形態に係る設計支援プログラムをCPU206で実行することにより実現される。
【0023】
すなわち、本実施の形態の設計支援プログラムは、紙やフィルムを含むシート状の柔軟媒体が搬送ガイドや搬送ローラで構成される搬送経路内を搬送されていく挙動をシミュレーションすることで、搬送経路の設計を支援するプログラムである。そして、この設計支援プログラムにより実行される上記シミュレーション装置は、搬送ガイドや搬送ローラを含む搬送経路の機構部品を定義する処理と、本来直線である柔軟媒体を搬送径路の途中に屈曲した状態で配置する処理と、配置された柔軟媒体を質量をもった複数の剛体要素に分割し、各剛体要素間の初期角度を算出する処理と、各剛体要素間をバネで連結することで引張りと回転の復元力を発生させる処理と、搬送条件となるローラ駆動の方法、並びにローラ及び搬送ガイドと柔軟媒体との摩擦係数を設定する処理とを実行し、その後、これらのすべての処理に基づいて、柔軟媒体の挙動を数値シミュレーションによって時系列的に求め、これによって得られた柔軟媒体の挙動をディスプレイ装置202に表示する。以下、このような本実施の形態に係るシミュレーション装置の処理について、詳細に説明する。
【0024】
<搬送機構の定義>
図2は、搬送機構を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0025】
同図に示すように、本画面は、主な処理の切り替えを行うメニューバー1と、各処理のサブ構成メニュー2と、定義した搬送経路や処理結果が表示されるグラフィカル画面3と、プログラムメッセージの出力や必要に応じて数値入力を行うためのコマンド欄4とで構成される。
【0026】
まず、搬送経路を定義する。搬送経路の定義を行うため、メニューバー1中の「搬送経路」ボタン1aを押すと、搬送経路の定義処理のサブ構成メニュー2が図2に示すように画面の左側に所望の範囲領域をもって表示される。サブ構成メニュー2には、2つローラで一対の搬送ローラを定義するローラ対定義ボタン2Aと、1つのローラを単独で定義するローラ定義ボタン2Bと、直線の搬送ガイドを定義する直線ガイド定義ボタン2Cと、円弧の搬送ガイドを定義する円弧ガイド定義ボタン2Dと、スプライン曲線で搬送ガイドを定義するスプラインガイド定義ボタン2Eと、柔軟媒体が搬送される経路の分岐を行うフラッパー(ポイント)を定義するフラッパー定義ボタン2Fと、柔軟媒体が搬送経路内の所定の位置にあるか否かを検出するセンサを定義するセンサ定義ボタン2G等を表示することができる。
【0027】
これらの各ボタン2A〜2Gは、実際の複写機やプリンタの搬送経路を構成する部品である。したがって、紙などの柔軟媒体の搬送経路を構成するために必要な部品の全てが揃っていることが望ましい。各構成部品の定義をサブ構成メニューにより実施すると、グラフィック画面3上にその位置形状が反映される。
【0028】
<柔軟媒体の定義>
次に、柔軟媒体を定義する。図2のメニューバー1中に設けられた「媒体定義」ボタン1bを選択することで、柔軟媒体のモデル定義へ移行することができる。
【0029】
図3は、柔軟媒体を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。この画面では、予め上述のとおり定義された搬送経路内の構成部品が表示されている。
【0030】
メニューバー1の「媒体定義」ボタン1bが選択されたことを検出することによって、図3に示すように、サブ構成メニュー2には、描画形状選択画面2I、媒体種選択画面2J、及び分割法選択画面2Kが表示される。
【0031】
ここで、搬送経路内での柔軟媒体が初期位置として位置及び形状を決定するために、描画図形選択画面2I内の「直線」の選択が検出されると、柔軟媒体における両端部の座標値の入力を促すメッセージがコマンド欄4に表示される。前記座標値は、コマンド欄4にキーボード204から数値入力するか、ポインティングデバイス205によってグラフィック画面3に直接指示することにより入力することができる。柔軟媒体の両端部の座標を指定した時点で、グラフィック画面3上には両端部21を結ぶ直線(破線)22が引かれ、柔軟媒体がどのように搬送経路内に設置されているかを確認することができる。
【0032】
また、柔軟媒体の描画図形として、図4に示すように屈曲した搬送経路に対応させて、「円弧」や「スプライン」の形状で作成することも可能である。次に、この点について、図4〜図6を参照しつつ説明する。
【0033】
図4は、屈曲した搬送経路での柔軟媒体の配置を示す画面表示図であり、直線の柔軟媒体を屈曲した状態からスタートさせるために、搬送径路の途中の屈曲部分に柔軟媒体を曲げて配置した状態を示している。図5(a),(b)は、屈曲した柔軟媒体の作成手順を説明するための説明図である。また、図6は、任意の形状の柔軟媒体を作成する方法を説明するための説明図である。
【0034】
図4に示すように、全搬送径路の一部を切り出した部分搬送経路100のモデルにおいて、例えば300mmの柔軟媒体の挙動シミュレーションを行うとき、部分搬送経路100内には300mmを超える直線部分は存在しないため、柔軟媒体200を屈曲した状態で配置する必要がある。
【0035】
屈曲した柔軟媒体200のモデル作成は、形状作成画面2Iの円弧ボタン又はスプライン曲線ボタンを使用する。例えば円弧を作成するには、図5(a)に示すように円弧ボタンを押した後に、円弧が通る始点31、中間点32、及び終点33を選択する。この選択には画面上をクリックするか、或いはコマンド覧4に数値を入力して行う。スプライン曲線を選択したときは、図5(b)に示すように、スプライン曲線が通る数点34を選択する。
【0036】
また、図6のように、柔軟媒体の端部35を始点として線を作成すると、それぞれの線が繋がり、直線、円弧、及びスプライン曲線を組み合わせた任意の形状を作成することができる。すなわち、これら指定された点の位置を検出することにより柔軟媒体の直線形状或は曲線形状を選択することができる。
【0037】
<柔軟媒体の弾性体としての定義>
図7は、柔軟媒体を複数の剛体要素に分割する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0038】
上述したように柔軟媒体が定義されると、次に、柔軟媒体を複数のバネ−質量系に離散化する際の分割数又は分割サイズの入力を促すメッセージがコマンド欄4に表示される。図7の例では、直線で柔軟媒体を定義し、分割数を10とし、さらに分割法選択画面2Kにおいて「等分割」を選択した場合の一例が示されている。
【0039】
同図において、各質点51の間を結ぶ回転バネ52は、柔軟媒体を弾性体と見なした際の曲げ剛性を表現し、また並進バネ53は引っ張り剛性を表現する。両バネ52,53の定数は弾性理論から導くことが可能である。回転バネ定数krと並進バネ定数ksは、ヤング率E、幅w、紙厚t及び質点間の距離ΔLを用いて、次式によって与えられる。
【0040】
【数1】
【0041】
質点の質量mは、柔軟媒体の長さL、幅w、紙厚t、密度ρ、分割数nとすると、次式によって計算される。
【0042】
[数2]
m=Lwtρ/(n−1)
以上の作業により、柔軟媒体がプログラム上で曲げと引っ張りの力に反応する弾性体としてモデル定義されることになる。
【0043】
図8は、回転バネによる復元力を説明するための説明図である。
【0044】
プログラム内で柔軟媒体は、回転バネ52により、曲げに対して復元力が発生する。復元力は、変形が元の形状に戻ろうとする力であり、図8(a)に示すように、剛体要素が直線に並んでいる状態を復元力0の状態とすると、図8(b)に示すように角度φをもった状態では直線に戻るための復元力が発生する。
【0045】
図9は、屈曲した柔軟媒体の分割処理を説明する画面表示図であり、要素サイズを2mmに指定して、1要素サイズが2mmになるように等分割した例を示している。
【0046】
同図に示すように、任意の形状で柔軟媒体を定義して、「等分割」を選択した場合は、剛体要素の分割は直線、円弧、及びスプライン曲線を組み合わせた全長を等分割する。等分割は、分割数を入力するか、或いは分割後の1要素のサイズを指定する方法でも良い。
【0047】
また、部分的に分割サイズを変えて剛体要素の分割を行うには、例えば柔軟媒体を部分的に細かく分割する際は柔軟媒体の一部を選択し、選択された部分に対して、分割数又は分割サイズを指定する。図10は、部分的分割処理の一例を示す画面表示図であり、この例は、選択した領域内44の柔軟媒体の長さを、分割サイズを1mmにして等分割した例である。
【0048】
柔軟媒体の一部を選択するには、図10に示すように領域を矩形で指定する方法の他に、柔軟媒体の端部からの距離を数値入力して範囲を指定する方法でも良い。同様に、部分的に等比分割を含む不等分割を行うこともできる。等比分割の場合は、分割比の他に、要素サイズの最大値を入力するか、或いは分割数を入力して分割を行う。
【0049】
次に、柔軟媒体の媒体種の選択について説明する。本実施の形態の媒体種選択画面2Jには、代表的な柔軟媒体種名が予め登録してあり、計算しようとしている柔軟媒体の種類をポインティングデバイス205でクリックして選択する。後述する運動計算処理に必要となるパラメータは、柔軟媒体のヤング率、密度、及び厚さの情報であり、媒体種選択画面2J中に表示される紙種には前記パラメータがデータベースとして割り当てられている。
【0050】
本実施の形態では、媒体種に再生紙Aを選択しているが、これによって、前記パラメータとして、再生紙Aのヤング率5409Mpa、密度6.8×10−7kg/mm3、紙厚0.0951mmという値がデータベースから選択されることになる。
【0051】
<搬送条件と摩擦係数の設定>
前述したような、柔軟媒体のモデル定義によってバネ−質量要素への離散化が行われた後に、搬送条件の設定を行う。この搬送条件設定処理では、搬送ローラの駆動条件、及び搬送ガイドや搬送ローラと柔軟媒体との接触時の摩擦係数を定義する。
【0052】
図11及び図12は、本実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0053】
メニューバー1中の「搬送条件」ボタン1cを押すと、サブ構成メニュー2に、駆動条件、摩擦係数及び搬送ローラを定義する画面が表示される。図11では、搬送ローラの駆動制御の入力例を示しており、今、サブ構成メニュー2の駆動条件「ローラ」を選択した段階(図11の「ローラ」の部分が反転表示されている)である。
【0054】
サブ構成メニュー2の「ローラ」を選択した状態で、グラフィック画面3に表示してある搬送ローラの中から駆動条件を定義する搬送ローラを選択する。必要な搬送ローラの選択が終了した時点でコマンド欄4に、特徴点の入力として時間とローラの回転数を入力すると、図12に示されるようにグラフィック画面3に、時間に対するローラの回転数を示すグラフが表示される。
【0055】
例えば、コマンド欄4から、時間と回転数の組から成る特徴点を随時入力すると、グラフィック画面3にグラフを作成、表示することができる。本実施の形態では、0〜1秒までに直線的に搬送ローラの回転数を0〜120rpmまで上昇させ、1〜3秒までは120rpmを維持、3〜4秒の間に120rpm〜0に減速するように特徴点の入力を行った。その結果として、横軸に時間、縦軸にローラの回転数を取ったグラフが図12に示すようにグラフィック画面3に表示されている。
【0056】
摩擦係数を定義する場合も、サブ構成メニュー2の駆動条件の中の「摩擦係数」を選択した状態で、グラフィック画面3に表示してある搬送ローラ又は搬送ガイドを個々に選択し、それら選択された搬送ローラ又は搬送ガイド毎に柔軟媒体との摩擦係数μをコマンド欄4より入力する。柔軟媒体の質点と搬送ローラ又は搬送ガイドとの接触計算により得られる垂直抗力をNとすると、前記入力された摩擦係数μにより、図13のように柔軟媒体の搬送方向とは逆向きに摩擦力μNが働くように設定される。
【0057】
<運動計算処理>
次に、搬送経路内での柔軟媒体の運動を計算する運動計算処理について、図14を参照して説明する。
【0058】
図14は、本実施の形態に係る運動計算処理を示すフローチャートである。
【0059】
まずステップS61では、運動計算の実時間Tと、運動方程式の解を数値的に求める際に使用する数値時間積分の時間刻みΔtとを設定する。以降ステップS62〜ステップS67が数値時間積分のループであり、柔軟媒体の運動は初期時間からΔt毎に計算され、RAM209に結果が保存される。
【0060】
ステップS62では、Δt秒後の計算を行う際に必要な初期加速度、初期速度、初期変位を設定する。これらの値は1サイクル終わる毎にその計算結果(すなわち前回のサイクルの計算値を初期値とする)が投入される。
【0061】
続くステップS63では、柔軟媒体を形成する各質点に働く力を定義する。この力には、回転モーメント、引っ張り力で表される復元力、接触力、摩擦力、重力、空気抵抗力、及びクーロン力があり、個々の質点に対し働く力を計算した後、その合力を最終的に柔軟媒体に加わる力として定義する。
【0062】
次のステップS64では、前記ステップS63で求めた各質点に働く力の合力を質点の質量で除し、さらに初期加速度を加算することでΔt秒後の加速度を計算し、さらにステップS65では速度を、ステップS66では変位を計算する。すなわち、ステップS65では、加速度にΔtを乗算し、さらに初速度を加算することでΔt秒後の速度を計算し、ステップS66では、速度にΔtを乗算し、さらに初期変位を加算することでΔt秒後の変位を計算する。
【0063】
なお、本実施の形態ではステップS63〜ステップS66の一連のΔt秒後の物理量計算にEulerの時間積分手法を採用しているが、Kutta−merson、Newmark−β法、Willson−θ法等、他の時間積分手法を採用しても良い。
【0064】
そして、ステップS67では、計算時刻がステップS61で設定した実時間Tに到達したか否かを判断し、到達していれば当該運動計算処理を終了する。到達していない場合は再度ステップS62に戻り、時間積分を繰り返す。
【0065】
柔軟媒体を任意の形状で定義した場合は、本来は直線形状の柔軟媒体が、運動計算の開始前において既に要素が成す角度だけ回転バネ52に変形が生じていると見なされる。柔軟媒体の基準形状が直線、すなわち要素角度0°であるため、バネ剛性により0°に戻すような復元力を運動計算の1ステップ目から生じさせることになる。
【0066】
図15は、CPU206がROM206からRAM209に読み出されたプログラムに基づいて実行される、柔軟媒体を任意形状で定義する場合の挙動シミュレーションの概要を示すフローチャートである。
【0067】
前述したように、まず、CPU206は、ユーザの操作に応じて柔軟媒体を直線や円弧を含む任意の形状で作成し(ステップS111)、次に剛体要素への分割を行う(ステップS112)。このとき、作成した柔軟媒体の剛体要素同士が成す角度が算出される(ステップS113)。直線で作成した部分は角度0°が算出され、曲線で作成した部分は曲率と分割数から角度φが計算され、それらの情報がRAM209に格納される。
【0068】
そして、CPU206は、運動計算(シミュレーション)を開始する(ステップS114)。シミュレーションの開始に応じてステップS113により算出された角度が0°でない場合(すなわち、柔軟媒体が曲線形状として設定されている部分)は、運動計算の第1ステップ目から角度を0°に戻す復元力が各質点に働く(ステップS115)。以降、運動計算は設定した実時間に達するまで通常どおり行われる。
【0069】
図16は、屈曲した搬送経路内に配置された柔軟媒体の挙動シミュレーションの一例を示す概念図である。
【0070】
図16に示すように、屈曲した搬送径路内に円弧形状で柔軟媒体200Aが定義されており、運動計算処理を開始に応じて、図中の点線で示すように柔軟媒体200Aに対して直線に戻ろうとする復元力を発生させる。復元力発生後の柔軟媒体200Bは搬送ガイド100に接触することになる。さらに、柔軟媒体の端部にカール量が設定されている場合、カールの部分においては、設定されたカールの形状に戻る復元力が働くことになる。この処理の後、実際にシミュレーションが実行されることになる。
【0071】
<結果表示処理>
図17は、本実施の形態に係る結果表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0072】
結果表示はメニューバー1中の「結果表示」ボタン1dを押すと、図17に示すようにサブ構成メニュー2には、動画メニューとプロットメニューが表示される。サブ構成メニュー2の中では、動画とプロットの内容を選択できるようになっている。動画メニューは、再生ボタン71、停止ボタン72、ポーズボタン73、早送りボタン74、及び巻き戻しボタン75を有している。これらのボタンによりグラフィック画面3で柔軟媒体の挙動を可視化することができる。
【0073】
結果表示処理の後は、グラフ表示処理を行う。図18は、本実施の形態に係るグラフ表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0074】
このグラフ表示処理では、サブ構成メニュー2のプロットメニューから、グラフ化したい質点の加速度、速度、変位、及び抵抗のいずれかの計算結果を選択すると、図18に示すように、グラフィック画面3に時系列グラフが表示される。
【0075】
<実施の形態の利点>
(1)本来直線である柔軟媒体を搬送径路の途中に屈曲した状態で定義し、定義された柔軟媒体を質量をもった複数の剛体要素に分割し、各剛体要素間の初期角度を算出しておく。そして、各剛体要素間をバネで連結することで引っ張りや回転の復元力を算出して、初期角度を直線形状に戻そうとする力を算出する。つまり、屈曲した状態で定義した柔軟媒体に対して、その各要素が成す角度が0°に戻るような回転バネの復元力を初期の計算ステップから発生させる処理を実行するようにしたので、屈曲した状態で定義した柔軟媒体の挙動として、直線の柔軟媒体が搬送経路の屈曲部分を通過するのと同じ挙動を得ることができる。これにより、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても簡単に柔軟媒体を定義してシミュレーションを開始することが可能になる。これにより、計算モデルの規模や計算負荷の増大化を抑制することができるだけでなく、設計図面から読み込んだ搬送径路をそのままシミュレーションに使えるなど、計算モデルの作成が容易となる。
【0076】
また、実際に実物を作る前から様々な条件で搬送経路の機能評価が可能となり、特に柔軟媒体のモデル化方針に関してシミュレーション上の詳細な知識を有さない設計者であっても、比較的精度の良い計算結果を導くことができる。
【0077】
(2)柔軟媒体の初期形状は、直線、円弧又はスプライン曲線を含むいくつかの図形を組み合わせて定義することによって、どのような形状の搬送径路内でも径路に合った形で柔軟媒体を配置することができる。
【0078】
(3)柔軟媒体の剛体要素の分割を行う際、柔軟媒体の全体又は一部に対して、所望の分割方法及び要素サイズを指定することで適切な分割サイズを計算し、自動的に分割する処理を実行するようにしたので、ユーザが剛体要素の分割に戸惑うことなく、最適な柔軟媒体モデルの作成を行うことができる。
【0079】
(4)柔軟媒体は、形状によらず部分的に要素サイズを指定して様々な要素サイズを共存させるようにしたので、柔軟媒体の挙動をより高い精度で評価したい部分は要素サイズを小さくし、高い精度が要求されない部分は要素サイズを大きめに設定することで、計算の負荷を軽減することが可能になる。
【0080】
なお、本発明の目的は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによって達成される。
【0081】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード及び該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0082】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。又は、プログラムコードをネットワークを介してダウンロードしても良い。
【0083】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティング・システム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0084】
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】搬送機構を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図3】柔軟媒体を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図4】屈曲した搬送経路での柔軟媒体の配置を示す画面表示図である。
【図5】屈曲した柔軟媒体の作成手順を説明するための説明図である。
【図6】任意の形状の柔軟媒体を作成する方法を説明するための説明図である。
【図7】柔軟媒体を複数の剛体要素に分割する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図8】回転バネによる復元力を説明するための説明図である。
【図9】屈曲した柔軟媒体の分割処理を説明する画面表示図である。
【図10】部分的分割処理の一例を示す画面表示図である。
【図11】実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図12】実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図13】搬送条件設定処理時の摩擦係数の説明図である。
【図14】実施の形態に係る運動計算処理を示すフローチャートである。
【図15】柔軟媒体を任意形状で定義する場合の挙動シミュレーションの概要を示すフローチャートである。
【図16】屈曲した搬送経路内に配置された柔軟媒体の挙動シミュレーションの一例を示す概念図である。
【図17】実施の形態に係る結果表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図18】実施の形態に係るグラフ表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【符号の説明】
【0086】
1 メニューバー
2 サブ構成メニュー
3 グラフィック画面
4 コマンド欄
51 質点
52 回転バネ
53 並進バネ
100 搬送経路
200 柔軟媒体
204 キーボード
205 ポインティングデバイス(PD)
206 CPU
208 ROM
209 RAM
210 ハードディスクドライブ(HDD)
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙やフィルムなどのシート状の柔軟媒体を搬送するための搬送経路の設計に利用可能なシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やレーザービームプリンタなどの装置に設置され、紙などのシート状の柔軟媒体を搬送する搬送経路を設計する際には、開発期間の短縮化や費用の低減化を目的として、搬送経路内を移動する柔軟媒体の挙動を計算機シミュレーションにより解析して画面上に描画することが行われている。
【0003】
このようなシミュレーションの技術としては、柔軟媒体を有限要素法による有限要素で表現し、搬送経路内の搬送ガイドやローラとの接触判断を行い、運動方程式を数値的に解くことにより、柔軟媒体のガイドとの搬送抵抗や当接角を評価する設計支援プログラムが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。
【0004】
また、柔軟媒体をより簡易的に質量とバネにより表現することで、計算速度を向上させる手法も知られている。
【0005】
柔軟媒体の運動を解析するにあたっては、上述のように、有限要素或いは質量−バネ系で離散的に表現された柔軟媒体の運動方程式を立て、解析対象時間を有限の幅をもつ時間ステップに分割し、時間0から時間ステップ毎に未知数である加速度、速度、変位を順次求める(数値時間積分)ことにより解析する、ニューマークのβ法、ウイルソンのθ法、オイラー法及びKutta−merson法などが広く知られている。
【0006】
ここで、柔軟媒体は剛体要素に分割され、その分割された各剛体要素間をバネで連結した柔軟媒体モデルを作成し、このモデルを用いて、元の形状からの変位に比例した力を発生させる。すなわち、元の形状は初期形状として描画した形状であって、外力により変形すると、この形状に戻そうとする復元力が働くことになる。
【0007】
通常、柔軟媒体は、複写機などの装置にセットするときは直線である。そのため、柔軟媒体の初期形状は直線で定義し、復元力が0の状態から挙動計算をスタートさせる。
【特許文献1】特開平11−195052号公報
【特許文献2】特開平11−116133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来のシミュレーション技術では、次のような問題点があった。
【0009】
一機種につき給紙から排紙まで全搬送経路を一度にシミュレーションすると、計算の負荷や計算モデルの規模が膨大なものとなってしまうため、必要に応じて、全搬送経路の内、評価したい部分だけを切り出し、搬送経路の途中からシミュレーションを行うと効率的である。しかし、従来では柔軟媒体を直線で定義するため、搬送経路の途中から計算するには、(1)適当な直線部分に柔軟媒体を配置するか、(2)直線の柔軟媒体を配置できる形に搬送経路を変更する(例えば、柔軟媒体のスタート位置に直線の搬送ガイドと搬送ローラを設ける等)、といったことが必要となる。
【0010】
ところが、搬送径路内には所望の長さの柔軟媒体を配置できる直線部分はほとんど存在しないため、全搬送経路のうち所望の評価したい部分だけを切り出してシミュレーションを行うことは困難である(上記(1))。また、設計図面と異なる搬送ガイドや搬送ローラの追加を行うと(上記(2))、設計者に誤解を招き易いだけでなく、CADなどで作成した設計図面上の搬送経路を読み込み、そのまま挙動のシミュレーションを行いたい場合などにおいても、ユーザに対して、上記追加部分に関連した修正作業を強いる結果になるといった問題があった。
【0011】
本発明は上記従来の問題点に鑑み、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても簡単に柔軟媒体を定義してシミュレーションを開始することができるシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するため、搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置は、予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定手段と、前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション手段とを有し、前記シミュレーション手段は、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とする。
【0013】
また、搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置のシミュレーション方法は、予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定ステップと、前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーションステップとを有し、前記シミュレーションステップにおいて、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても柔軟媒体を簡単に定義してシミュレーションを開始することが可能になる。これにより、計算モデルの規模や計算負荷の増大化を抑制することができ、且つ計算モデルの作成が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のシミュレーション装置、シミュレーション方法、及び設計支援プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
このシミュレーション装置は、コンピュータで構成されており、ビデオRAM(VRAM)201、キーボード204、ポインティングデバイス(PD)205、CPU206、ROM208、RAM209、ハードディスクドライブ(HDD)210、及びフロッピー(登録商標)ディスクドライブ(FDD)211等の各デバイスが、I/Oバス(アドレスバス、データバス及び制御バスから成る)207を介して接続されている。
【0018】
CPU206は、ROM208に記憶された制御プログラム(搬送経路の設計を支援するための、本発明に関連した設計支援プログラム等)に基づいて本装置の各ユニットを制御する。RAM209は、設計支援プログラム等をCPU206が実行するときのワークエリアやエラー処理時の一時退避エリアとして用いられる。ハードディスクドライブ210及びフロッピー(登録商標)ディスクドライブ211は、搬送経路設計支援用のデータベースやアプリケーションプログラムなどの保存用に用いられる。
【0019】
ビデオRAM201は、ディスプレイ装置202の画面に表示される文字やイメージを展開記憶するメモリであり、キーボード204は、入力に関する各種キーを備え、ポインティングデバイス205は、画面上でアイコンなどを指し示すためのマウス等である。
【0020】
上記構成のシミュレーション装置に電源を投入すると、CPU206はROM208のブートプログラムに従って装置を初期化し、HDD210からOS(オペレーティング・システム)のロードを行い、その後に、以下で詳述する本実施の形態の処理を実現するために、設計支援プログラム等を動作させることになる。
【0021】
なお、本発明に関連した設計支援プログラムは、ROM208に記憶されているものとしたが、もちろんハードディスク210等に記憶させるようにしても良いし、記憶媒体によって本発明が限定されるものでもない。
【0022】
[本実施の形態の処理]
柔軟媒体の搬送経路内における挙動シミュレーションについて、以下、本実施の形態に係る一連の処理を説明する。なお、この一連の処理は、図1に示したシミュレーション装置の例えばROM208に、本実施の形態に係る設計支援プログラムをCPU206で実行することにより実現される。
【0023】
すなわち、本実施の形態の設計支援プログラムは、紙やフィルムを含むシート状の柔軟媒体が搬送ガイドや搬送ローラで構成される搬送経路内を搬送されていく挙動をシミュレーションすることで、搬送経路の設計を支援するプログラムである。そして、この設計支援プログラムにより実行される上記シミュレーション装置は、搬送ガイドや搬送ローラを含む搬送経路の機構部品を定義する処理と、本来直線である柔軟媒体を搬送径路の途中に屈曲した状態で配置する処理と、配置された柔軟媒体を質量をもった複数の剛体要素に分割し、各剛体要素間の初期角度を算出する処理と、各剛体要素間をバネで連結することで引張りと回転の復元力を発生させる処理と、搬送条件となるローラ駆動の方法、並びにローラ及び搬送ガイドと柔軟媒体との摩擦係数を設定する処理とを実行し、その後、これらのすべての処理に基づいて、柔軟媒体の挙動を数値シミュレーションによって時系列的に求め、これによって得られた柔軟媒体の挙動をディスプレイ装置202に表示する。以下、このような本実施の形態に係るシミュレーション装置の処理について、詳細に説明する。
【0024】
<搬送機構の定義>
図2は、搬送機構を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0025】
同図に示すように、本画面は、主な処理の切り替えを行うメニューバー1と、各処理のサブ構成メニュー2と、定義した搬送経路や処理結果が表示されるグラフィカル画面3と、プログラムメッセージの出力や必要に応じて数値入力を行うためのコマンド欄4とで構成される。
【0026】
まず、搬送経路を定義する。搬送経路の定義を行うため、メニューバー1中の「搬送経路」ボタン1aを押すと、搬送経路の定義処理のサブ構成メニュー2が図2に示すように画面の左側に所望の範囲領域をもって表示される。サブ構成メニュー2には、2つローラで一対の搬送ローラを定義するローラ対定義ボタン2Aと、1つのローラを単独で定義するローラ定義ボタン2Bと、直線の搬送ガイドを定義する直線ガイド定義ボタン2Cと、円弧の搬送ガイドを定義する円弧ガイド定義ボタン2Dと、スプライン曲線で搬送ガイドを定義するスプラインガイド定義ボタン2Eと、柔軟媒体が搬送される経路の分岐を行うフラッパー(ポイント)を定義するフラッパー定義ボタン2Fと、柔軟媒体が搬送経路内の所定の位置にあるか否かを検出するセンサを定義するセンサ定義ボタン2G等を表示することができる。
【0027】
これらの各ボタン2A〜2Gは、実際の複写機やプリンタの搬送経路を構成する部品である。したがって、紙などの柔軟媒体の搬送経路を構成するために必要な部品の全てが揃っていることが望ましい。各構成部品の定義をサブ構成メニューにより実施すると、グラフィック画面3上にその位置形状が反映される。
【0028】
<柔軟媒体の定義>
次に、柔軟媒体を定義する。図2のメニューバー1中に設けられた「媒体定義」ボタン1bを選択することで、柔軟媒体のモデル定義へ移行することができる。
【0029】
図3は、柔軟媒体を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。この画面では、予め上述のとおり定義された搬送経路内の構成部品が表示されている。
【0030】
メニューバー1の「媒体定義」ボタン1bが選択されたことを検出することによって、図3に示すように、サブ構成メニュー2には、描画形状選択画面2I、媒体種選択画面2J、及び分割法選択画面2Kが表示される。
【0031】
ここで、搬送経路内での柔軟媒体が初期位置として位置及び形状を決定するために、描画図形選択画面2I内の「直線」の選択が検出されると、柔軟媒体における両端部の座標値の入力を促すメッセージがコマンド欄4に表示される。前記座標値は、コマンド欄4にキーボード204から数値入力するか、ポインティングデバイス205によってグラフィック画面3に直接指示することにより入力することができる。柔軟媒体の両端部の座標を指定した時点で、グラフィック画面3上には両端部21を結ぶ直線(破線)22が引かれ、柔軟媒体がどのように搬送経路内に設置されているかを確認することができる。
【0032】
また、柔軟媒体の描画図形として、図4に示すように屈曲した搬送経路に対応させて、「円弧」や「スプライン」の形状で作成することも可能である。次に、この点について、図4〜図6を参照しつつ説明する。
【0033】
図4は、屈曲した搬送経路での柔軟媒体の配置を示す画面表示図であり、直線の柔軟媒体を屈曲した状態からスタートさせるために、搬送径路の途中の屈曲部分に柔軟媒体を曲げて配置した状態を示している。図5(a),(b)は、屈曲した柔軟媒体の作成手順を説明するための説明図である。また、図6は、任意の形状の柔軟媒体を作成する方法を説明するための説明図である。
【0034】
図4に示すように、全搬送径路の一部を切り出した部分搬送経路100のモデルにおいて、例えば300mmの柔軟媒体の挙動シミュレーションを行うとき、部分搬送経路100内には300mmを超える直線部分は存在しないため、柔軟媒体200を屈曲した状態で配置する必要がある。
【0035】
屈曲した柔軟媒体200のモデル作成は、形状作成画面2Iの円弧ボタン又はスプライン曲線ボタンを使用する。例えば円弧を作成するには、図5(a)に示すように円弧ボタンを押した後に、円弧が通る始点31、中間点32、及び終点33を選択する。この選択には画面上をクリックするか、或いはコマンド覧4に数値を入力して行う。スプライン曲線を選択したときは、図5(b)に示すように、スプライン曲線が通る数点34を選択する。
【0036】
また、図6のように、柔軟媒体の端部35を始点として線を作成すると、それぞれの線が繋がり、直線、円弧、及びスプライン曲線を組み合わせた任意の形状を作成することができる。すなわち、これら指定された点の位置を検出することにより柔軟媒体の直線形状或は曲線形状を選択することができる。
【0037】
<柔軟媒体の弾性体としての定義>
図7は、柔軟媒体を複数の剛体要素に分割する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0038】
上述したように柔軟媒体が定義されると、次に、柔軟媒体を複数のバネ−質量系に離散化する際の分割数又は分割サイズの入力を促すメッセージがコマンド欄4に表示される。図7の例では、直線で柔軟媒体を定義し、分割数を10とし、さらに分割法選択画面2Kにおいて「等分割」を選択した場合の一例が示されている。
【0039】
同図において、各質点51の間を結ぶ回転バネ52は、柔軟媒体を弾性体と見なした際の曲げ剛性を表現し、また並進バネ53は引っ張り剛性を表現する。両バネ52,53の定数は弾性理論から導くことが可能である。回転バネ定数krと並進バネ定数ksは、ヤング率E、幅w、紙厚t及び質点間の距離ΔLを用いて、次式によって与えられる。
【0040】
【数1】
【0041】
質点の質量mは、柔軟媒体の長さL、幅w、紙厚t、密度ρ、分割数nとすると、次式によって計算される。
【0042】
[数2]
m=Lwtρ/(n−1)
以上の作業により、柔軟媒体がプログラム上で曲げと引っ張りの力に反応する弾性体としてモデル定義されることになる。
【0043】
図8は、回転バネによる復元力を説明するための説明図である。
【0044】
プログラム内で柔軟媒体は、回転バネ52により、曲げに対して復元力が発生する。復元力は、変形が元の形状に戻ろうとする力であり、図8(a)に示すように、剛体要素が直線に並んでいる状態を復元力0の状態とすると、図8(b)に示すように角度φをもった状態では直線に戻るための復元力が発生する。
【0045】
図9は、屈曲した柔軟媒体の分割処理を説明する画面表示図であり、要素サイズを2mmに指定して、1要素サイズが2mmになるように等分割した例を示している。
【0046】
同図に示すように、任意の形状で柔軟媒体を定義して、「等分割」を選択した場合は、剛体要素の分割は直線、円弧、及びスプライン曲線を組み合わせた全長を等分割する。等分割は、分割数を入力するか、或いは分割後の1要素のサイズを指定する方法でも良い。
【0047】
また、部分的に分割サイズを変えて剛体要素の分割を行うには、例えば柔軟媒体を部分的に細かく分割する際は柔軟媒体の一部を選択し、選択された部分に対して、分割数又は分割サイズを指定する。図10は、部分的分割処理の一例を示す画面表示図であり、この例は、選択した領域内44の柔軟媒体の長さを、分割サイズを1mmにして等分割した例である。
【0048】
柔軟媒体の一部を選択するには、図10に示すように領域を矩形で指定する方法の他に、柔軟媒体の端部からの距離を数値入力して範囲を指定する方法でも良い。同様に、部分的に等比分割を含む不等分割を行うこともできる。等比分割の場合は、分割比の他に、要素サイズの最大値を入力するか、或いは分割数を入力して分割を行う。
【0049】
次に、柔軟媒体の媒体種の選択について説明する。本実施の形態の媒体種選択画面2Jには、代表的な柔軟媒体種名が予め登録してあり、計算しようとしている柔軟媒体の種類をポインティングデバイス205でクリックして選択する。後述する運動計算処理に必要となるパラメータは、柔軟媒体のヤング率、密度、及び厚さの情報であり、媒体種選択画面2J中に表示される紙種には前記パラメータがデータベースとして割り当てられている。
【0050】
本実施の形態では、媒体種に再生紙Aを選択しているが、これによって、前記パラメータとして、再生紙Aのヤング率5409Mpa、密度6.8×10−7kg/mm3、紙厚0.0951mmという値がデータベースから選択されることになる。
【0051】
<搬送条件と摩擦係数の設定>
前述したような、柔軟媒体のモデル定義によってバネ−質量要素への離散化が行われた後に、搬送条件の設定を行う。この搬送条件設定処理では、搬送ローラの駆動条件、及び搬送ガイドや搬送ローラと柔軟媒体との接触時の摩擦係数を定義する。
【0052】
図11及び図12は、本実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0053】
メニューバー1中の「搬送条件」ボタン1cを押すと、サブ構成メニュー2に、駆動条件、摩擦係数及び搬送ローラを定義する画面が表示される。図11では、搬送ローラの駆動制御の入力例を示しており、今、サブ構成メニュー2の駆動条件「ローラ」を選択した段階(図11の「ローラ」の部分が反転表示されている)である。
【0054】
サブ構成メニュー2の「ローラ」を選択した状態で、グラフィック画面3に表示してある搬送ローラの中から駆動条件を定義する搬送ローラを選択する。必要な搬送ローラの選択が終了した時点でコマンド欄4に、特徴点の入力として時間とローラの回転数を入力すると、図12に示されるようにグラフィック画面3に、時間に対するローラの回転数を示すグラフが表示される。
【0055】
例えば、コマンド欄4から、時間と回転数の組から成る特徴点を随時入力すると、グラフィック画面3にグラフを作成、表示することができる。本実施の形態では、0〜1秒までに直線的に搬送ローラの回転数を0〜120rpmまで上昇させ、1〜3秒までは120rpmを維持、3〜4秒の間に120rpm〜0に減速するように特徴点の入力を行った。その結果として、横軸に時間、縦軸にローラの回転数を取ったグラフが図12に示すようにグラフィック画面3に表示されている。
【0056】
摩擦係数を定義する場合も、サブ構成メニュー2の駆動条件の中の「摩擦係数」を選択した状態で、グラフィック画面3に表示してある搬送ローラ又は搬送ガイドを個々に選択し、それら選択された搬送ローラ又は搬送ガイド毎に柔軟媒体との摩擦係数μをコマンド欄4より入力する。柔軟媒体の質点と搬送ローラ又は搬送ガイドとの接触計算により得られる垂直抗力をNとすると、前記入力された摩擦係数μにより、図13のように柔軟媒体の搬送方向とは逆向きに摩擦力μNが働くように設定される。
【0057】
<運動計算処理>
次に、搬送経路内での柔軟媒体の運動を計算する運動計算処理について、図14を参照して説明する。
【0058】
図14は、本実施の形態に係る運動計算処理を示すフローチャートである。
【0059】
まずステップS61では、運動計算の実時間Tと、運動方程式の解を数値的に求める際に使用する数値時間積分の時間刻みΔtとを設定する。以降ステップS62〜ステップS67が数値時間積分のループであり、柔軟媒体の運動は初期時間からΔt毎に計算され、RAM209に結果が保存される。
【0060】
ステップS62では、Δt秒後の計算を行う際に必要な初期加速度、初期速度、初期変位を設定する。これらの値は1サイクル終わる毎にその計算結果(すなわち前回のサイクルの計算値を初期値とする)が投入される。
【0061】
続くステップS63では、柔軟媒体を形成する各質点に働く力を定義する。この力には、回転モーメント、引っ張り力で表される復元力、接触力、摩擦力、重力、空気抵抗力、及びクーロン力があり、個々の質点に対し働く力を計算した後、その合力を最終的に柔軟媒体に加わる力として定義する。
【0062】
次のステップS64では、前記ステップS63で求めた各質点に働く力の合力を質点の質量で除し、さらに初期加速度を加算することでΔt秒後の加速度を計算し、さらにステップS65では速度を、ステップS66では変位を計算する。すなわち、ステップS65では、加速度にΔtを乗算し、さらに初速度を加算することでΔt秒後の速度を計算し、ステップS66では、速度にΔtを乗算し、さらに初期変位を加算することでΔt秒後の変位を計算する。
【0063】
なお、本実施の形態ではステップS63〜ステップS66の一連のΔt秒後の物理量計算にEulerの時間積分手法を採用しているが、Kutta−merson、Newmark−β法、Willson−θ法等、他の時間積分手法を採用しても良い。
【0064】
そして、ステップS67では、計算時刻がステップS61で設定した実時間Tに到達したか否かを判断し、到達していれば当該運動計算処理を終了する。到達していない場合は再度ステップS62に戻り、時間積分を繰り返す。
【0065】
柔軟媒体を任意の形状で定義した場合は、本来は直線形状の柔軟媒体が、運動計算の開始前において既に要素が成す角度だけ回転バネ52に変形が生じていると見なされる。柔軟媒体の基準形状が直線、すなわち要素角度0°であるため、バネ剛性により0°に戻すような復元力を運動計算の1ステップ目から生じさせることになる。
【0066】
図15は、CPU206がROM206からRAM209に読み出されたプログラムに基づいて実行される、柔軟媒体を任意形状で定義する場合の挙動シミュレーションの概要を示すフローチャートである。
【0067】
前述したように、まず、CPU206は、ユーザの操作に応じて柔軟媒体を直線や円弧を含む任意の形状で作成し(ステップS111)、次に剛体要素への分割を行う(ステップS112)。このとき、作成した柔軟媒体の剛体要素同士が成す角度が算出される(ステップS113)。直線で作成した部分は角度0°が算出され、曲線で作成した部分は曲率と分割数から角度φが計算され、それらの情報がRAM209に格納される。
【0068】
そして、CPU206は、運動計算(シミュレーション)を開始する(ステップS114)。シミュレーションの開始に応じてステップS113により算出された角度が0°でない場合(すなわち、柔軟媒体が曲線形状として設定されている部分)は、運動計算の第1ステップ目から角度を0°に戻す復元力が各質点に働く(ステップS115)。以降、運動計算は設定した実時間に達するまで通常どおり行われる。
【0069】
図16は、屈曲した搬送経路内に配置された柔軟媒体の挙動シミュレーションの一例を示す概念図である。
【0070】
図16に示すように、屈曲した搬送径路内に円弧形状で柔軟媒体200Aが定義されており、運動計算処理を開始に応じて、図中の点線で示すように柔軟媒体200Aに対して直線に戻ろうとする復元力を発生させる。復元力発生後の柔軟媒体200Bは搬送ガイド100に接触することになる。さらに、柔軟媒体の端部にカール量が設定されている場合、カールの部分においては、設定されたカールの形状に戻る復元力が働くことになる。この処理の後、実際にシミュレーションが実行されることになる。
【0071】
<結果表示処理>
図17は、本実施の形態に係る結果表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0072】
結果表示はメニューバー1中の「結果表示」ボタン1dを押すと、図17に示すようにサブ構成メニュー2には、動画メニューとプロットメニューが表示される。サブ構成メニュー2の中では、動画とプロットの内容を選択できるようになっている。動画メニューは、再生ボタン71、停止ボタン72、ポーズボタン73、早送りボタン74、及び巻き戻しボタン75を有している。これらのボタンによりグラフィック画面3で柔軟媒体の挙動を可視化することができる。
【0073】
結果表示処理の後は、グラフ表示処理を行う。図18は、本実施の形態に係るグラフ表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【0074】
このグラフ表示処理では、サブ構成メニュー2のプロットメニューから、グラフ化したい質点の加速度、速度、変位、及び抵抗のいずれかの計算結果を選択すると、図18に示すように、グラフィック画面3に時系列グラフが表示される。
【0075】
<実施の形態の利点>
(1)本来直線である柔軟媒体を搬送径路の途中に屈曲した状態で定義し、定義された柔軟媒体を質量をもった複数の剛体要素に分割し、各剛体要素間の初期角度を算出しておく。そして、各剛体要素間をバネで連結することで引っ張りや回転の復元力を算出して、初期角度を直線形状に戻そうとする力を算出する。つまり、屈曲した状態で定義した柔軟媒体に対して、その各要素が成す角度が0°に戻るような回転バネの復元力を初期の計算ステップから発生させる処理を実行するようにしたので、屈曲した状態で定義した柔軟媒体の挙動として、直線の柔軟媒体が搬送経路の屈曲部分を通過するのと同じ挙動を得ることができる。これにより、柔軟媒体の初期配置の際に直線部分を選択又は作成するといった作業を行わなくとも、搬送経路の途中のいかなる部位にあっても簡単に柔軟媒体を定義してシミュレーションを開始することが可能になる。これにより、計算モデルの規模や計算負荷の増大化を抑制することができるだけでなく、設計図面から読み込んだ搬送径路をそのままシミュレーションに使えるなど、計算モデルの作成が容易となる。
【0076】
また、実際に実物を作る前から様々な条件で搬送経路の機能評価が可能となり、特に柔軟媒体のモデル化方針に関してシミュレーション上の詳細な知識を有さない設計者であっても、比較的精度の良い計算結果を導くことができる。
【0077】
(2)柔軟媒体の初期形状は、直線、円弧又はスプライン曲線を含むいくつかの図形を組み合わせて定義することによって、どのような形状の搬送径路内でも径路に合った形で柔軟媒体を配置することができる。
【0078】
(3)柔軟媒体の剛体要素の分割を行う際、柔軟媒体の全体又は一部に対して、所望の分割方法及び要素サイズを指定することで適切な分割サイズを計算し、自動的に分割する処理を実行するようにしたので、ユーザが剛体要素の分割に戸惑うことなく、最適な柔軟媒体モデルの作成を行うことができる。
【0079】
(4)柔軟媒体は、形状によらず部分的に要素サイズを指定して様々な要素サイズを共存させるようにしたので、柔軟媒体の挙動をより高い精度で評価したい部分は要素サイズを小さくし、高い精度が要求されない部分は要素サイズを大きめに設定することで、計算の負荷を軽減することが可能になる。
【0080】
なお、本発明の目的は、実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(又はCPUやMPU等)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することによって達成される。
【0081】
この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラムコード及び該プログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0082】
また、プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、CD−RW、DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。又は、プログラムコードをネットワークを介してダウンロードしても良い。
【0083】
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティング・システム)等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【0084】
更に、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前述した実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】実施の形態に係るシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。
【図2】搬送機構を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図3】柔軟媒体を定義する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図4】屈曲した搬送経路での柔軟媒体の配置を示す画面表示図である。
【図5】屈曲した柔軟媒体の作成手順を説明するための説明図である。
【図6】任意の形状の柔軟媒体を作成する方法を説明するための説明図である。
【図7】柔軟媒体を複数の剛体要素に分割する処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図8】回転バネによる復元力を説明するための説明図である。
【図9】屈曲した柔軟媒体の分割処理を説明する画面表示図である。
【図10】部分的分割処理の一例を示す画面表示図である。
【図11】実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図12】実施の形態に係る搬送条件設定処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図13】搬送条件設定処理時の摩擦係数の説明図である。
【図14】実施の形態に係る運動計算処理を示すフローチャートである。
【図15】柔軟媒体を任意形状で定義する場合の挙動シミュレーションの概要を示すフローチャートである。
【図16】屈曲した搬送経路内に配置された柔軟媒体の挙動シミュレーションの一例を示す概念図である。
【図17】実施の形態に係る結果表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【図18】実施の形態に係るグラフ表示処理の際に表示される画面の一例を示す画面表示図である。
【符号の説明】
【0086】
1 メニューバー
2 サブ構成メニュー
3 グラフィック画面
4 コマンド欄
51 質点
52 回転バネ
53 並進バネ
100 搬送経路
200 柔軟媒体
204 キーボード
205 ポインティングデバイス(PD)
206 CPU
208 ROM
209 RAM
210 ハードディスクドライブ(HDD)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置において、
予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定手段と、
前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション手段とを有し、
前記シミュレーション手段は、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
さらに、前記柔軟媒体のカール量を設定するカール量設定手段とを有し、
前記シミュレーション手段は、前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、前記柔軟媒体設定手段によって設定されたカールの部分に対してカールの形状に戻ろうとする復元力を働かせるとともに、カールの部分ではない部分に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置のシミュレーション方法において、
予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定ステップと、
前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーションステップとを有し、
前記シミュレーションステップにおいて、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行することを特徴とするシミュレーション装置のシミュレーション方法。
【請求項4】
さらに、前記柔軟媒体のカール量を設定するカール量設定ステップとを有し、
前記シミュレーションステップにおいて、前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、前記柔軟媒体設定ステップにおいて設定されたカールの部分に対してカールの形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行するとともに、カールの部分ではない部分に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置のシミュレーション方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のシミュレーション方法をシミュレーション装置に実行させるプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラム記憶する記憶媒体。
【請求項1】
搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置において、
予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定手段と、
前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション手段とを有し、
前記シミュレーション手段は、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
さらに、前記柔軟媒体のカール量を設定するカール量設定手段とを有し、
前記シミュレーション手段は、前記形状設定手段によって設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、前記柔軟媒体設定手段によって設定されたカールの部分に対してカールの形状に戻ろうとする復元力を働かせるとともに、カールの部分ではない部分に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項3】
搬送経路内を移動するシート状の柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーション装置のシミュレーション方法において、
予め定義された構成部品が表示される表示画面上において、前記搬送経路内で動作がシミュレーションされる柔軟媒体の形状を設定する形状設定ステップと、
前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の挙動をシミュレーションするシミュレーションステップとを有し、
前記シミュレーションステップにおいて、設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、柔軟媒体に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行することを特徴とするシミュレーション装置のシミュレーション方法。
【請求項4】
さらに、前記柔軟媒体のカール量を設定するカール量設定ステップとを有し、
前記シミュレーションステップにおいて、前記形状設定ステップにおいて設定された柔軟媒体の形状が曲線形状の場合、シミュレーションの開始に応じて、前記柔軟媒体設定ステップにおいて設定されたカールの部分に対してカールの形状に戻ろうとする復元力を働かせてシミュレーションを実行するとともに、カールの部分ではない部分に対して直線形状に戻ろうとする復元力を働かせることを特徴とするシミュレーション装置のシミュレーション方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のシミュレーション方法をシミュレーション装置に実行させるプログラム。
【請求項6】
請求項5に記載のプログラム記憶する記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−248769(P2006−248769A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71896(P2005−71896)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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