シャツ
【課題】シャツを構成する生地の接続部が、人体の凹んだ部分に位置するよう設計し、肌との摩擦が低く、着心地の良いシャツを提供する。
【解決手段】本発明のシャツは、前身頃1と後身頃2と、少なくとも肩を覆う部分3を含むシャツ10であって、肩を覆う部分3と前身頃1及び後身頃2の接続部5,6は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。
【解決手段】本発明のシャツは、前身頃1と後身頃2と、少なくとも肩を覆う部分3を含むシャツ10であって、肩を覆う部分3と前身頃1及び後身頃2の接続部5,6は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の肌との摩擦抵抗を減らして着心地がよく、スポーツに好適なシャツに関する。
【背景技術】
【0002】
シャツは人体の上半身を覆い、普段の生活においては下着や中着として着用し、スポーツをする際にも有用である。スポーツシャツに関しては、特にマラソン、ランニング、ウォーキング、サイクリング、登山、スキーといった長時間のスポーツをする際には、人体の肌との摩擦が問題になることがある。例えば縫目が大きく突出していると、肌が摩擦により傷む場合がある。
【0003】
従来、脇下部を外して縫製した提案(特許文献1)、腕の付け根の部分から平行に下まで縫製ラインを伸ばした提案(特許文献2)、肩の縫製ラインを肩峰より下げて形成する提案がある(特許文献3)。しかし、これらのシャツの摩擦改善はいまだ満足されておらず、好適なウェアは依然として市場から要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77561号公報
【特許文献2】特開2005−89876号公報
【特許文献3】特開2002−266101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、シャツを構成する生地の接続部が、人体の凹んだ部分に位置するように設計し、肌との摩擦が低く、着心地の良いシャツを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシャツは、前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含むシャツであって、上記肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、上記前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることにより、シャツを構成する生地の接続部が、人体の凹んだ部分に位置し、肌との摩擦が低く、着心地の良いシャツを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるシャツの側面説明図である。
【図2】図2は図1のシャツの拡大側面図である。
【図3】図3は図1のシャツの前方向から見た斜視図である。
【図4】図4は図1のシャツの後ろ方向から見た斜視図である。
【図5】図5は図1のシャツの上方向から見た平面図である。
【図6】図6は本発明の別の実施例におけるシャツの上方向から見た平面図である。
【図7】図7Aは本発明の一実施例におけるシャツをデザインするための人体の正面図であり、図7Bは図7Aの点線部分の断面図である。
【図8】図8Aは同、人体の正面図、図8Bは同側面図である。
【図9】図9は図8A−BのI−I線の断面図である。
【図10】図10は図8A−BのII−II線の断面図である。
【図11】図11は図8A−BのIII−III線の断面図である。
【図12】図12Aは本発明の一実施例におけるシャツの前方向からみた平面図であり、図12Bは同シャツの後ろ方向からみた平面図である。
【図13】図13は比較例1のシャツの側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、マラソン、ランニング、ウォーキング、サイクリング、登山、スキーといった長時間のスポーツをする際に、シャツと人体の肌との摩擦により、皮膚が傷む現象を分析した。その結果、シャツの縫製部などの接続部が人体の突出部分に存在すると、皮膚と摩擦をおこすことを突き止めた。従来のシャツの場合、例えば肩、脇といった縫製部が集中する部分、かつ人体の突出部分で摩擦による皮膚の痛みが多く観察される。本発明のシャツはこれを解消しようとするものである。
【0010】
本発明のシャツは、主要部は前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含む3つの部分で構成される。ポケットや袖をつけるのは任意である。肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在する。これにより、従来の肩峰に沿った接続部による人体の肌に対する摩擦を解消できる。また、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。これにより、腕の前後の振りによる腕と脇の摩擦箇所に前身頃と後身頃の接続部が存在しないようにして、同接続部による人体の肌に対する摩擦がおきにくいようにしている。
【0011】
本発明のシャツは、肩を覆う部分と前身頃の接続部は、肩峰より前下側でかつ鎖骨の凸より上側に存在し、肩を覆う部分と後身頃の接続部は、肩峰より後下側でかつ肩甲骨の上を通過していることが好ましい。これにより、前部は人体の肩周辺部の最も凹の部分に接続部を配置し、後ろ部は下に掛かる重力を分散させ、人体の肌に対する摩擦を解消する。
【0012】
肩の部分には、さらに連続して袖部を存在させても良い。袖は半袖、7部袖、長袖などいかなる袖であっても良い。
【0013】
袖部をつける場合は、上腕を上から覆う部分と下から覆う部分を接続して形成することが好ましい。このようにすると、脇部分に接続部(縫製部)が集中せず、皮膚との摩擦もおきにくい。
【0014】
本発明のシャツにおいて、上記肩を覆う部分と前身頃の接触部と、上記肩を覆う部分と後身頃の接続部との交点から身頃部の長さ方向の下端部までの長さをLとした場合、上記前身頃と後身頃の接続部は、上記交点から水平にシャツの前中心に向かって身頃幅の5〜10%の距離で離れており、上記交点から下に1/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって身頃幅の0〜10%の距離で離れており、上記交点から下に2/3L離れた上記身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって身頃幅の15〜20%の距離で離れており、上記身頃部の長さ方向の下端部から水平に後中心に向かって身頃幅の15〜25%の距離で離れていることが好ましい。
【0015】
接続部は、ミシンによる縫製であっても良いし、シャツを構成する各生地部分を融着してホットメルトテープで覆い、これを表側としても良い。後者の場合は、縫製よりもさらに皮膚との摩擦を低減できるため、好ましい。上記融着は、特に限定されないが、例えば、超音波などの高周波を用いて生地を切断しながら溶かして融着させることができる。上記ホットメルトテープは、特に限定されないが、例えば、シール用ホットメルトテープなどを用いることができる。上記ホットメルトテープの幅は、8〜15mmであることが好ましい。8mm以上であれば、補強効果が発揮でき、耐洗濯性が良好になり、一方、15mm以下であれば、着用時の接触部による不快感をより低減でき、皮膚との摩擦をより低減できる。また、上記ホットメルトテープの厚みは、60〜200μmであることが好ましい。60μm以上であれば、補強効果が発揮でき、耐洗濯性が良好になり、一方、200μm以下であれば、着用時の接触部による不快感をより低減でき、皮膚との摩擦をより低減できる。
【0016】
本発明の生地としては、通常のシャツ生地を採用できる。例えば、織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などがある。編み物としては、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編などを含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。上記生地は、目付けが120〜230g/m2の範囲が好ましく、さらに好ましくは140〜210g/m2の範囲、特に好ましくは160〜200g/m2の範囲である。上記の範囲であれば、運動機能を損なわず、耐久性も良く、透けにくく軽くて動きやすい利点がある。
【0017】
上記シャツ生地を構成する繊維としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などを用いることができる。接触部における生地の融着を容易にするという点から、生地の構成繊維全体質量に対して、エチレンビニルアルコール繊維を20〜40質量%含むことが好ましい。
【0018】
シャツ生地、すなわちシャツを構成する各生地部分は、表面摩擦抵抗を低減する樹脂により処理されることが好ましく、ポリエチレンワックス組成物の分散液により処理されることがより好ましい。これにより、表面摩擦抵抗が低減され、皮膚との摩擦も起こりにくい。
【0019】
上記ポリエチレンワックス組成物の分散液は、ポリエチレンワックス組成物を水中に分散させることにより得られる。上記ポリエチレンワックス組成物の分散液におけるポリエチレンワックス組成物の濃度は、特に限定されないが、例えばポリエチレンワックス組成物及び水の合計体積に対して、0.1〜5.0質量%(W/V%)であることが好ましく、2.0〜3.5W/V%であることがより好ましい。なお、シャツ生地を処理した後の余分なポリエチレンワックス組成物の分散液は、マングルで絞ることにより取り除く。
【0020】
上記ポリエチレンワックス組成物としては、生地の表面摩擦抵抗を軽減する効果があるものであればよく、特に限定されない。例えば、日華化学社製の“サンマリナーS−713”などを用いることができる。
【0021】
上記ポリエチレンワックス組成物の有効成分量、すなわちポリエチレンワックスの含有量は、ポリエチレンワックス組成物全体に対して、10〜25質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることがより好ましい。また、生地に対する上記ポリエチレンワックス組成物の付着量は、0.5g/m2以上であることが好ましい。上記の範囲内であれば、表面摩擦抵抗を低減することができる。本発明において、生地に対するポリエチレンワックス組成物の付着量は、下記式(1)により算定するものである。
【0022】
(数式1)
付着量(g/m2)=W(g/m2)×EP×Con×CP (1)
但し、上記式(1)中、Wは目付け(g/m2)を示し、EPはポリエチレンワックス組成物の有効成分量を示し、Conはポリエチレンワックス組成物の分散液におけるポリエチレンワックス組成物の濃度を示し、CPは絞り率を示す。
【0023】
以下図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例におけるシャツ10の側面説明図である。このシャツ10は、前身頃1と後身頃2と、肩を覆う部分3で構成され、肩を覆う部分3と前身頃1及び後身頃2の接続部5,6は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。
【0024】
図2は図1の拡大側面図であり、前身頃1と後身頃2の接続部4は人体の脇の凹み部に沿っている状態を示している。
【0025】
図3はシャツ10の前方向から見た斜視図である。肩を覆う部分3と前身頃1との接続部5は、鎖骨の凸部7a,7bを避けていることが分かる。
【0026】
図4はシャツ10の後ろ方向から見た斜視図である。前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることが分かる。
【0027】
図5はシャツ10を上方向から見た平面図である。肩を覆う部分3と前身頃1の接続部5は、肩峰より下った部分に存在し、肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6も肩峰より下った部分に存在していることが分かる。
【0028】
図6は本発明の別の実施例におけるシャツの上方向から見た平面図である。このシャツはノースリーブ型のシャツである。
【0029】
図7Aは本発明の一実施例におけるシャツをデザインするための人体の正面図、図7Bは図7Aの点線部分の断面図である。図7Bにおいて、肩峰部11に接続部が存在すると、この部分は肌を傷めることがある。特に肩の先端は傷みやすい。これに対して本発明の接続部は、鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分12と背中側13に分散しているので、肌は痛みにくい。すなわち、鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分12であれば、人体と非接触になりやすい。また、背中側13は下に掛かる力(矢印a)が直角方向bとcに分散するため、肌は痛みにくい。
【0030】
図8Aは人体の正面図、図8Bは同側面図である。図9は図8A−BのI−I線の断面図であり、従来の接続部15に対して、本発明の接続部14は最も凹んだ位置に存在する。図10は図8A−BのII−II線の断面図であり、従来の接続部17に対して、本発明の接続部16は最も凹んだ位置に存在する。また、図11は図8A−BのIII−III線の断面図であり、従来の接続部19に対して、本発明の接続部18は最も凹んだ位置に存在する。
【0031】
図12Aは本発明の一実施例におけるシャツの前方向からみた平面図であり、図12Bは同シャツの後ろ方向からみた平面図である。図12に示しているように、シャツを平面に置いた際の身頃の幅方向の両端部を基準線VIIとし、接触部5と接触部6の交点a(基準線VIIと袖接触部との交点a)から身頃部の長さ方向の下端部VIII線までの長さ(垂直距離)をLとすると、IV線は、交点aを結ぶ線であり、V線と上記IV線は垂直距離で1/3L離れており、VI線と上記IV線は垂直距離で2/3L離れている。また、図12Aに示しているように、IV線と接続部4との交点bは、交点aよりシャツの前中心に偏っており、交点bと交点aとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの5〜10%であることが好ましい。また、図12Bに示しているように、V線と接続部4との交点dは、V線と基準線VIIとの交点cよりシャツの後中心に偏っており、交点dと交点cとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの0〜10%であることが好ましい。また、VI線と接続部4との交点fは、VI線と基準線VIIとの交点eよりシャツの後中心に偏っており、交点fと交点eとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの15〜20%であることが好ましい。また、下端部VIII線と接続部4との交点hは、VIII線と基準線VIIとの交点gよりシャツの後中心に偏っており、交点hと交点gとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの15〜25%であることが好ましい。なお、図12ではいろんな部位の身頃幅Wは均一であるシャツを示しているが、本発明のシャツにおいて、いろんな部位の身頃幅Wは異なっていてもよい。
【0032】
シャツ10は、特に限定されないが、以下のように製造することができる。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断する。次に、前身頃1と後身頃2を構成する生地部分を少なくとも外縁が重なるように重ね合わせた後、重ね合わせた生地部分を超音波で切りながら融着させた後、表面側をホットメルトテープで覆い、温度60〜160℃、圧力3.0〜7.0kg/cm2の条件で熱接着させて接続部4を形成する。同様にして、肩を覆う部分3と前身頃1の接触部5、及び肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6を形成する。なお、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するようにし、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するようにする。
【実施例】
【0033】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(製造例1)
シャツ生地の表面には、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(フルダル糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:72本)を用い、シャツ生地の裏面(肌側)には、エチレンビニルアルコール繊維としてマルチフィラメント糸(クラレ社製商品名“メディエル”、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:24本)、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(セミダル生糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:36本)を用いた。編物組織は、横編のリバーシブル鹿の子組織とし、表面はポリエステル繊維100質量%、裏面はポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維を質量比で50:50として、表面が小メッシュ調の生地を編成した。得られる編物におけるポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維の配合比は、質量比で61.4:38.6となるようにした。得られた編物の目付けは150g/m2であった。
【0035】
得られた編物を常法に従って精練染色して乾燥させた。次いで、ポリエチレンワックス組成物の分散液を用いてパディング処理をした。具体的には、ポリエチレンワックス組成物(日華化学社製“サンマリナーS−713”、有効成分量19質量%)を2.5W/V%になるように水中に分散して得られたポリエチレンワックス組成物の分散液に編物を通した後、マングルで絞り(絞り率75%)、ピンテンターを用いて150℃で乾燥して、シャツ生地を得た。
【0036】
得られた製造例1の生地におけるポリエチレンワックス組成物の付着量を、上記式(1)により算定したところ、すなわち付着量(g/m2)=150(g/m2)×0.19×0.025×0.75により算定したところ、0.53g/m2であった。
【0037】
(製造例2)
シャツ生地の表面には、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(フルダル糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:48本)を用い、シャツ生地の裏面(肌側)には、エチレンビニルアルコール繊維としてマルチフィラメント糸(クラレ社製商品名“メディエル”、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:24本)を用いた。編物組織は、横編のリバーシブル鹿の子組織とし、表面はポリエステル繊維100質量%、裏面はエチレンビニルアルコール繊維100質量%として、表面が小メッシュ調の生地を編成した。得られる編物におけるポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維の配合比は、質量比で76:24となるようにした。得られた編物の目付けは190g/m2であった。
【0038】
得られた編物を常法に従って精練染色して乾燥させた。次いでポリエチレンワックス組成物の分散液の代わりに、下記の帯電防止剤、可縫性向上製及び柔軟剤を水中に分散した処理液を用いた以外は、実施例1と同様にしてパディング処理をした。
(1)帯電防止剤(日華化学社製“ナイスポールFE18”):5質量%
(2)可縫性向上製(日華化学社製“AQ−1”):3質量%
(3)柔軟剤(大原パラジュウム社製“パラソルブ530FQ”):5質量%
【0039】
(摩擦抵抗)
製造例1及び2で得られたシャツ生地と肌との摩擦抵抗(肌と生地の滑り)を、下記のとおり測定した。20℃、65%相対湿度(RH)の条件下で、水平な机の上に生地を置き、生地の上に100gの重りを置いた。その後、1mm/secの引張り速度で生地を水平方向にばねばかりで引張った。製造例2のシャツ生地を引っ張る際にかかった力を100とした時、製造例1のシャツ生地を引っ張る際にかかった力は67であった。なお、かかった力、すなわち摩擦抵抗が大きいほど、滑り難く、皮膚との摩擦も大きいことを表す。
【0040】
上記のように、製造例1の生地の摩擦抵抗は67であり、製造例2の生地の摩擦抵抗は100であった。この結果から、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理した製造例1の生地がポリエチレンワックス組成物の分散液で処理していない製造例2の生地より、滑りがよく、肌との摩擦も少ないことが分かる。
【0041】
(実施例1)
製造例1で得られたシャツ生地を用いて図1〜図5に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断した。次に、前身頃1と後身頃2を構成する生地部分を外縁が重なるように重ね合わせ、超音波ミシンを用いて、重ね合わせた生地部分を超音波で切りながら溶かして融着させた後、表面側を幅10mmのホットメルト接着型テープ(日東紡社製“PL3000−AS063T12”、表地がナイロン、接着層がポリウレタンであるジャージー三層テープ)で覆い、温度60〜160℃、圧力3.0〜7.0kg/cm2の条件で熱接着させて接続部4を形成した。同様にして、肩を覆う部分3と前身頃1の接触部5及び肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6を形成した。なお、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するようにし、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するようにした。また、実施例1において、図12に示すシャツの身頃幅Wは51.5cmであり、交点bと交点aとの水平距離は、4.6cmであり、交点dと交点cとの水平距離は、4.9cmであり、交点fと交点eとの水平距離は、10.3cmであり、交点gと交点hとの水平距離は、12cmである。
【0042】
(実施例2)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、実施例1と同様にして、シャツを縫製した。
【0043】
(実施例3)
製造例1で得られたシャツ生地を用いて、以下のようにして図1〜図5に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断した。次に、縫製ミシンを用いて、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するように、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するように、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を縫い合わせた。
【0044】
(実施例4)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、実施例3と同様にして、シャツを縫製した。
【0045】
(比較例1)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、図13に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃21、後身頃22、袖部28を構成する生地部分を裁断した。次いで、縫製ミシンを用いて、一般的なシャツの縫製手順で、前身頃21、後身頃22、袖部28を縫い合わせた。すなわち図13に示されているように前身頃21と後身頃22の肩部分での接触部25を肩峰に沿うように形成し、前身頃21と後身頃22の身頃部分での接触部24を脇下から下に向かい一直線になるように形成した。
【0046】
(接触部の表面特性)
実施例1〜4及び比較例1のシャツにおける接触部の表面特性を、下記のとおり評価した。20℃、65%相対湿度(RH)の条件下で、初期荷重を10gf(0.098N)に設定し、KES−FB4表面試験機で、摩擦子の移動速度を1mm/secにして、接触部の上下の厚み(単位:mm)変動を測定して表面粗さの平均偏差(SMD)を算出し、その結果を下記表1に示した。なお、SMDの値が大きいほど、凹凸がある表面であることを表す。
【0047】
(着用試験結果)
実施例1〜4及び比較例1のシャツを着用してもらい、肩周辺及び脇周辺の接触部、シャツ生地の肌触り並びに肩周辺及び脇周辺の接触部の縫製について、比較例1のシャツを基準として一対比較法により5段階で評価し、その結果を下記表1に示した。被験者は、それぞれ5名とした。
【0048】
(肩周辺及び脇周辺の接触部について)
5 気にならない
4 あんまり気にならない
3 同等
2 やや気になる
1 気になる
【0049】
(シャツ生地の肌触り並びに肩周辺及び脇周辺の接触部の縫製について)
5 良い
4 やや良い
3 同等
2 やや悪い
1 悪い
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から分かるように、肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下り、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している実施例1〜4のシャツは、比較例1のシャツより、肩周辺及び脇周辺の接触部による不快感が低減している。また、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されているシャツ生地を用いた実施例1及び4のシャツが、比較例1のシャツより、肌触りが良好であることが分かる。
【0052】
また、実施例1〜4の比較から、接触部を通常の縫製ミシンで形成した場合より、シャツを構成する各生地部分を融着させてホットメルトテープで覆うことにより形成した場合の方が、肩周辺及び脇周辺の接触部による不快感がより低減することが分かる。また、実施例1と実施例2、及び実施例3と実施例4の比較から、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されているシャツ生地を用いた方が、肌触りがより良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1、21 前身頃
2、22 後身頃
3 肩を覆う部分
4、5、6、24、25 接続部
7a、7b 鎖骨の凸部
8、28 袖部
10、20 シャツ
11 肩峰
12 鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分
13 背中側部分
14、16、18 人体の脇部の最も凹んでいる部分(本発明の接触部の位置)
15、17、19 従来の接続部の位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の肌との摩擦抵抗を減らして着心地がよく、スポーツに好適なシャツに関する。
【背景技術】
【0002】
シャツは人体の上半身を覆い、普段の生活においては下着や中着として着用し、スポーツをする際にも有用である。スポーツシャツに関しては、特にマラソン、ランニング、ウォーキング、サイクリング、登山、スキーといった長時間のスポーツをする際には、人体の肌との摩擦が問題になることがある。例えば縫目が大きく突出していると、肌が摩擦により傷む場合がある。
【0003】
従来、脇下部を外して縫製した提案(特許文献1)、腕の付け根の部分から平行に下まで縫製ラインを伸ばした提案(特許文献2)、肩の縫製ラインを肩峰より下げて形成する提案がある(特許文献3)。しかし、これらのシャツの摩擦改善はいまだ満足されておらず、好適なウェアは依然として市場から要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−77561号公報
【特許文献2】特開2005−89876号公報
【特許文献3】特開2002−266101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、シャツを構成する生地の接続部が、人体の凹んだ部分に位置するように設計し、肌との摩擦が低く、着心地の良いシャツを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシャツは、前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含むシャツであって、上記肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、上記前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることにより、シャツを構成する生地の接続部が、人体の凹んだ部分に位置し、肌との摩擦が低く、着心地の良いシャツを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明の一実施例におけるシャツの側面説明図である。
【図2】図2は図1のシャツの拡大側面図である。
【図3】図3は図1のシャツの前方向から見た斜視図である。
【図4】図4は図1のシャツの後ろ方向から見た斜視図である。
【図5】図5は図1のシャツの上方向から見た平面図である。
【図6】図6は本発明の別の実施例におけるシャツの上方向から見た平面図である。
【図7】図7Aは本発明の一実施例におけるシャツをデザインするための人体の正面図であり、図7Bは図7Aの点線部分の断面図である。
【図8】図8Aは同、人体の正面図、図8Bは同側面図である。
【図9】図9は図8A−BのI−I線の断面図である。
【図10】図10は図8A−BのII−II線の断面図である。
【図11】図11は図8A−BのIII−III線の断面図である。
【図12】図12Aは本発明の一実施例におけるシャツの前方向からみた平面図であり、図12Bは同シャツの後ろ方向からみた平面図である。
【図13】図13は比較例1のシャツの側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、マラソン、ランニング、ウォーキング、サイクリング、登山、スキーといった長時間のスポーツをする際に、シャツと人体の肌との摩擦により、皮膚が傷む現象を分析した。その結果、シャツの縫製部などの接続部が人体の突出部分に存在すると、皮膚と摩擦をおこすことを突き止めた。従来のシャツの場合、例えば肩、脇といった縫製部が集中する部分、かつ人体の突出部分で摩擦による皮膚の痛みが多く観察される。本発明のシャツはこれを解消しようとするものである。
【0010】
本発明のシャツは、主要部は前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含む3つの部分で構成される。ポケットや袖をつけるのは任意である。肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在する。これにより、従来の肩峰に沿った接続部による人体の肌に対する摩擦を解消できる。また、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。これにより、腕の前後の振りによる腕と脇の摩擦箇所に前身頃と後身頃の接続部が存在しないようにして、同接続部による人体の肌に対する摩擦がおきにくいようにしている。
【0011】
本発明のシャツは、肩を覆う部分と前身頃の接続部は、肩峰より前下側でかつ鎖骨の凸より上側に存在し、肩を覆う部分と後身頃の接続部は、肩峰より後下側でかつ肩甲骨の上を通過していることが好ましい。これにより、前部は人体の肩周辺部の最も凹の部分に接続部を配置し、後ろ部は下に掛かる重力を分散させ、人体の肌に対する摩擦を解消する。
【0012】
肩の部分には、さらに連続して袖部を存在させても良い。袖は半袖、7部袖、長袖などいかなる袖であっても良い。
【0013】
袖部をつける場合は、上腕を上から覆う部分と下から覆う部分を接続して形成することが好ましい。このようにすると、脇部分に接続部(縫製部)が集中せず、皮膚との摩擦もおきにくい。
【0014】
本発明のシャツにおいて、上記肩を覆う部分と前身頃の接触部と、上記肩を覆う部分と後身頃の接続部との交点から身頃部の長さ方向の下端部までの長さをLとした場合、上記前身頃と後身頃の接続部は、上記交点から水平にシャツの前中心に向かって身頃幅の5〜10%の距離で離れており、上記交点から下に1/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって身頃幅の0〜10%の距離で離れており、上記交点から下に2/3L離れた上記身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって身頃幅の15〜20%の距離で離れており、上記身頃部の長さ方向の下端部から水平に後中心に向かって身頃幅の15〜25%の距離で離れていることが好ましい。
【0015】
接続部は、ミシンによる縫製であっても良いし、シャツを構成する各生地部分を融着してホットメルトテープで覆い、これを表側としても良い。後者の場合は、縫製よりもさらに皮膚との摩擦を低減できるため、好ましい。上記融着は、特に限定されないが、例えば、超音波などの高周波を用いて生地を切断しながら溶かして融着させることができる。上記ホットメルトテープは、特に限定されないが、例えば、シール用ホットメルトテープなどを用いることができる。上記ホットメルトテープの幅は、8〜15mmであることが好ましい。8mm以上であれば、補強効果が発揮でき、耐洗濯性が良好になり、一方、15mm以下であれば、着用時の接触部による不快感をより低減でき、皮膚との摩擦をより低減できる。また、上記ホットメルトテープの厚みは、60〜200μmであることが好ましい。60μm以上であれば、補強効果が発揮でき、耐洗濯性が良好になり、一方、200μm以下であれば、着用時の接触部による不快感をより低減でき、皮膚との摩擦をより低減できる。
【0016】
本発明の生地としては、通常のシャツ生地を採用できる。例えば、織物としては、平織、斜文織、朱子織、変化平織、変化斜文織、変化朱子織、変わり織、紋織、片重ね織、二重組織、多重組織、経パイル織、緯パイル織、絡み織などがある。編み物としては、丸編、緯編、経編(トリコット編、ラッセル編を含む)、パイル編などを含み、平編、天竺編、リブ編、スムース編(両面編)、ゴム編、パール編、デンビー組織、コード組織、アトラス組織、鎖組織、挿入組織などがある。上記生地は、目付けが120〜230g/m2の範囲が好ましく、さらに好ましくは140〜210g/m2の範囲、特に好ましくは160〜200g/m2の範囲である。上記の範囲であれば、運動機能を損なわず、耐久性も良く、透けにくく軽くて動きやすい利点がある。
【0017】
上記シャツ生地を構成する繊維としては、特に限定されず、例えば、ポリエステル繊維、エチレンビニルアルコール繊維などを用いることができる。接触部における生地の融着を容易にするという点から、生地の構成繊維全体質量に対して、エチレンビニルアルコール繊維を20〜40質量%含むことが好ましい。
【0018】
シャツ生地、すなわちシャツを構成する各生地部分は、表面摩擦抵抗を低減する樹脂により処理されることが好ましく、ポリエチレンワックス組成物の分散液により処理されることがより好ましい。これにより、表面摩擦抵抗が低減され、皮膚との摩擦も起こりにくい。
【0019】
上記ポリエチレンワックス組成物の分散液は、ポリエチレンワックス組成物を水中に分散させることにより得られる。上記ポリエチレンワックス組成物の分散液におけるポリエチレンワックス組成物の濃度は、特に限定されないが、例えばポリエチレンワックス組成物及び水の合計体積に対して、0.1〜5.0質量%(W/V%)であることが好ましく、2.0〜3.5W/V%であることがより好ましい。なお、シャツ生地を処理した後の余分なポリエチレンワックス組成物の分散液は、マングルで絞ることにより取り除く。
【0020】
上記ポリエチレンワックス組成物としては、生地の表面摩擦抵抗を軽減する効果があるものであればよく、特に限定されない。例えば、日華化学社製の“サンマリナーS−713”などを用いることができる。
【0021】
上記ポリエチレンワックス組成物の有効成分量、すなわちポリエチレンワックスの含有量は、ポリエチレンワックス組成物全体に対して、10〜25質量%であることが好ましく、15〜20質量%であることがより好ましい。また、生地に対する上記ポリエチレンワックス組成物の付着量は、0.5g/m2以上であることが好ましい。上記の範囲内であれば、表面摩擦抵抗を低減することができる。本発明において、生地に対するポリエチレンワックス組成物の付着量は、下記式(1)により算定するものである。
【0022】
(数式1)
付着量(g/m2)=W(g/m2)×EP×Con×CP (1)
但し、上記式(1)中、Wは目付け(g/m2)を示し、EPはポリエチレンワックス組成物の有効成分量を示し、Conはポリエチレンワックス組成物の分散液におけるポリエチレンワックス組成物の濃度を示し、CPは絞り率を示す。
【0023】
以下図面を用いて説明する。図1は本発明の一実施例におけるシャツ10の側面説明図である。このシャツ10は、前身頃1と後身頃2と、肩を覆う部分3で構成され、肩を覆う部分3と前身頃1及び後身頃2の接続部5,6は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している。
【0024】
図2は図1の拡大側面図であり、前身頃1と後身頃2の接続部4は人体の脇の凹み部に沿っている状態を示している。
【0025】
図3はシャツ10の前方向から見た斜視図である。肩を覆う部分3と前身頃1との接続部5は、鎖骨の凸部7a,7bを避けていることが分かる。
【0026】
図4はシャツ10の後ろ方向から見た斜視図である。前身頃1と後身頃2の接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることが分かる。
【0027】
図5はシャツ10を上方向から見た平面図である。肩を覆う部分3と前身頃1の接続部5は、肩峰より下った部分に存在し、肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6も肩峰より下った部分に存在していることが分かる。
【0028】
図6は本発明の別の実施例におけるシャツの上方向から見た平面図である。このシャツはノースリーブ型のシャツである。
【0029】
図7Aは本発明の一実施例におけるシャツをデザインするための人体の正面図、図7Bは図7Aの点線部分の断面図である。図7Bにおいて、肩峰部11に接続部が存在すると、この部分は肌を傷めることがある。特に肩の先端は傷みやすい。これに対して本発明の接続部は、鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分12と背中側13に分散しているので、肌は痛みにくい。すなわち、鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分12であれば、人体と非接触になりやすい。また、背中側13は下に掛かる力(矢印a)が直角方向bとcに分散するため、肌は痛みにくい。
【0030】
図8Aは人体の正面図、図8Bは同側面図である。図9は図8A−BのI−I線の断面図であり、従来の接続部15に対して、本発明の接続部14は最も凹んだ位置に存在する。図10は図8A−BのII−II線の断面図であり、従来の接続部17に対して、本発明の接続部16は最も凹んだ位置に存在する。また、図11は図8A−BのIII−III線の断面図であり、従来の接続部19に対して、本発明の接続部18は最も凹んだ位置に存在する。
【0031】
図12Aは本発明の一実施例におけるシャツの前方向からみた平面図であり、図12Bは同シャツの後ろ方向からみた平面図である。図12に示しているように、シャツを平面に置いた際の身頃の幅方向の両端部を基準線VIIとし、接触部5と接触部6の交点a(基準線VIIと袖接触部との交点a)から身頃部の長さ方向の下端部VIII線までの長さ(垂直距離)をLとすると、IV線は、交点aを結ぶ線であり、V線と上記IV線は垂直距離で1/3L離れており、VI線と上記IV線は垂直距離で2/3L離れている。また、図12Aに示しているように、IV線と接続部4との交点bは、交点aよりシャツの前中心に偏っており、交点bと交点aとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの5〜10%であることが好ましい。また、図12Bに示しているように、V線と接続部4との交点dは、V線と基準線VIIとの交点cよりシャツの後中心に偏っており、交点dと交点cとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの0〜10%であることが好ましい。また、VI線と接続部4との交点fは、VI線と基準線VIIとの交点eよりシャツの後中心に偏っており、交点fと交点eとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの15〜20%であることが好ましい。また、下端部VIII線と接続部4との交点hは、VIII線と基準線VIIとの交点gよりシャツの後中心に偏っており、交点hと交点gとの水平距離は、シャツの身頃幅Wの15〜25%であることが好ましい。なお、図12ではいろんな部位の身頃幅Wは均一であるシャツを示しているが、本発明のシャツにおいて、いろんな部位の身頃幅Wは異なっていてもよい。
【0032】
シャツ10は、特に限定されないが、以下のように製造することができる。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断する。次に、前身頃1と後身頃2を構成する生地部分を少なくとも外縁が重なるように重ね合わせた後、重ね合わせた生地部分を超音波で切りながら融着させた後、表面側をホットメルトテープで覆い、温度60〜160℃、圧力3.0〜7.0kg/cm2の条件で熱接着させて接続部4を形成する。同様にして、肩を覆う部分3と前身頃1の接触部5、及び肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6を形成する。なお、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するようにし、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するようにする。
【実施例】
【0033】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0034】
(製造例1)
シャツ生地の表面には、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(フルダル糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:72本)を用い、シャツ生地の裏面(肌側)には、エチレンビニルアルコール繊維としてマルチフィラメント糸(クラレ社製商品名“メディエル”、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:24本)、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(セミダル生糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:36本)を用いた。編物組織は、横編のリバーシブル鹿の子組織とし、表面はポリエステル繊維100質量%、裏面はポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維を質量比で50:50として、表面が小メッシュ調の生地を編成した。得られる編物におけるポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維の配合比は、質量比で61.4:38.6となるようにした。得られた編物の目付けは150g/m2であった。
【0035】
得られた編物を常法に従って精練染色して乾燥させた。次いで、ポリエチレンワックス組成物の分散液を用いてパディング処理をした。具体的には、ポリエチレンワックス組成物(日華化学社製“サンマリナーS−713”、有効成分量19質量%)を2.5W/V%になるように水中に分散して得られたポリエチレンワックス組成物の分散液に編物を通した後、マングルで絞り(絞り率75%)、ピンテンターを用いて150℃で乾燥して、シャツ生地を得た。
【0036】
得られた製造例1の生地におけるポリエチレンワックス組成物の付着量を、上記式(1)により算定したところ、すなわち付着量(g/m2)=150(g/m2)×0.19×0.025×0.75により算定したところ、0.53g/m2であった。
【0037】
(製造例2)
シャツ生地の表面には、ポリエステル繊維としてポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸(フルダル糸、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:48本)を用い、シャツ生地の裏面(肌側)には、エチレンビニルアルコール繊維としてマルチフィラメント糸(クラレ社製商品名“メディエル”、トータル繊度:84deci tex、フィラメント数:24本)を用いた。編物組織は、横編のリバーシブル鹿の子組織とし、表面はポリエステル繊維100質量%、裏面はエチレンビニルアルコール繊維100質量%として、表面が小メッシュ調の生地を編成した。得られる編物におけるポリエステル繊維とエチレンビニルアルコール繊維の配合比は、質量比で76:24となるようにした。得られた編物の目付けは190g/m2であった。
【0038】
得られた編物を常法に従って精練染色して乾燥させた。次いでポリエチレンワックス組成物の分散液の代わりに、下記の帯電防止剤、可縫性向上製及び柔軟剤を水中に分散した処理液を用いた以外は、実施例1と同様にしてパディング処理をした。
(1)帯電防止剤(日華化学社製“ナイスポールFE18”):5質量%
(2)可縫性向上製(日華化学社製“AQ−1”):3質量%
(3)柔軟剤(大原パラジュウム社製“パラソルブ530FQ”):5質量%
【0039】
(摩擦抵抗)
製造例1及び2で得られたシャツ生地と肌との摩擦抵抗(肌と生地の滑り)を、下記のとおり測定した。20℃、65%相対湿度(RH)の条件下で、水平な机の上に生地を置き、生地の上に100gの重りを置いた。その後、1mm/secの引張り速度で生地を水平方向にばねばかりで引張った。製造例2のシャツ生地を引っ張る際にかかった力を100とした時、製造例1のシャツ生地を引っ張る際にかかった力は67であった。なお、かかった力、すなわち摩擦抵抗が大きいほど、滑り難く、皮膚との摩擦も大きいことを表す。
【0040】
上記のように、製造例1の生地の摩擦抵抗は67であり、製造例2の生地の摩擦抵抗は100であった。この結果から、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理した製造例1の生地がポリエチレンワックス組成物の分散液で処理していない製造例2の生地より、滑りがよく、肌との摩擦も少ないことが分かる。
【0041】
(実施例1)
製造例1で得られたシャツ生地を用いて図1〜図5に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断した。次に、前身頃1と後身頃2を構成する生地部分を外縁が重なるように重ね合わせ、超音波ミシンを用いて、重ね合わせた生地部分を超音波で切りながら溶かして融着させた後、表面側を幅10mmのホットメルト接着型テープ(日東紡社製“PL3000−AS063T12”、表地がナイロン、接着層がポリウレタンであるジャージー三層テープ)で覆い、温度60〜160℃、圧力3.0〜7.0kg/cm2の条件で熱接着させて接続部4を形成した。同様にして、肩を覆う部分3と前身頃1の接触部5及び肩を覆う部分3と後身頃2の接続部6を形成した。なお、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するようにし、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するようにした。また、実施例1において、図12に示すシャツの身頃幅Wは51.5cmであり、交点bと交点aとの水平距離は、4.6cmであり、交点dと交点cとの水平距離は、4.9cmであり、交点fと交点eとの水平距離は、10.3cmであり、交点gと交点hとの水平距離は、12cmである。
【0042】
(実施例2)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、実施例1と同様にして、シャツを縫製した。
【0043】
(実施例3)
製造例1で得られたシャツ生地を用いて、以下のようにして図1〜図5に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を構成する生地部分を裁断した。次に、縫製ミシンを用いて、接続部4は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成するように、接続部5及び6は、肩峰より下った部分に存在するように、前身頃1、後身頃2、肩を覆う部分3を縫い合わせた。
【0044】
(実施例4)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、実施例3と同様にして、シャツを縫製した。
【0045】
(比較例1)
製造例2で得られたシャツ生地を用いて、図13に示すシャツを縫製した。先ず、前身頃21、後身頃22、袖部28を構成する生地部分を裁断した。次いで、縫製ミシンを用いて、一般的なシャツの縫製手順で、前身頃21、後身頃22、袖部28を縫い合わせた。すなわち図13に示されているように前身頃21と後身頃22の肩部分での接触部25を肩峰に沿うように形成し、前身頃21と後身頃22の身頃部分での接触部24を脇下から下に向かい一直線になるように形成した。
【0046】
(接触部の表面特性)
実施例1〜4及び比較例1のシャツにおける接触部の表面特性を、下記のとおり評価した。20℃、65%相対湿度(RH)の条件下で、初期荷重を10gf(0.098N)に設定し、KES−FB4表面試験機で、摩擦子の移動速度を1mm/secにして、接触部の上下の厚み(単位:mm)変動を測定して表面粗さの平均偏差(SMD)を算出し、その結果を下記表1に示した。なお、SMDの値が大きいほど、凹凸がある表面であることを表す。
【0047】
(着用試験結果)
実施例1〜4及び比較例1のシャツを着用してもらい、肩周辺及び脇周辺の接触部、シャツ生地の肌触り並びに肩周辺及び脇周辺の接触部の縫製について、比較例1のシャツを基準として一対比較法により5段階で評価し、その結果を下記表1に示した。被験者は、それぞれ5名とした。
【0048】
(肩周辺及び脇周辺の接触部について)
5 気にならない
4 あんまり気にならない
3 同等
2 やや気になる
1 気になる
【0049】
(シャツ生地の肌触り並びに肩周辺及び脇周辺の接触部の縫製について)
5 良い
4 やや良い
3 同等
2 やや悪い
1 悪い
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から分かるように、肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下り、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成している実施例1〜4のシャツは、比較例1のシャツより、肩周辺及び脇周辺の接触部による不快感が低減している。また、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されているシャツ生地を用いた実施例1及び4のシャツが、比較例1のシャツより、肌触りが良好であることが分かる。
【0052】
また、実施例1〜4の比較から、接触部を通常の縫製ミシンで形成した場合より、シャツを構成する各生地部分を融着させてホットメルトテープで覆うことにより形成した場合の方が、肩周辺及び脇周辺の接触部による不快感がより低減することが分かる。また、実施例1と実施例2、及び実施例3と実施例4の比較から、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されているシャツ生地を用いた方が、肌触りがより良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0053】
1、21 前身頃
2、22 後身頃
3 肩を覆う部分
4、5、6、24、25 接続部
7a、7b 鎖骨の凸部
8、28 袖部
10、20 シャツ
11 肩峰
12 鎖骨のやや上の部分の最も凹んでいる部分
13 背中側部分
14、16、18 人体の脇部の最も凹んでいる部分(本発明の接触部の位置)
15、17、19 従来の接続部の位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含むシャツであって、
前記肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、
前記前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることを特徴とするシャツ。
【請求項2】
前記肩を覆う部分と前身頃の接続部は、肩峰より前下側でかつ鎖骨の凸より上側に存在し、
前記肩を覆う部分と後身頃の接続部は、肩峰より後下側でかつ肩甲骨の上を通過している請求項1に記載のシャツ。
【請求項3】
前記肩部分には、さらに連続して袖部が存在する請求項1又は2に記載のシャツ。
【請求項4】
前記袖部は、上腕を上から覆う部分と下から覆う部分を接続して形成されている請求項3に記載のシャツ。
【請求項5】
前記接続部は、前記シャツを構成する各生地部分を融着してホットメルトテープで覆い、これを表側とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項6】
前記シャツを構成する各生地部分は、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項7】
前記肩を覆う部分と前身頃の接触部と、前記肩を覆う部分と後身頃の接続部との交点から身頃部の長さ方向の下端部までの長さをLとした場合、前記前身頃と後身頃の接続部は、前記交点から水平にシャツの前中心に向かって半身頃幅の5〜10%の距離で離れており、前記交点から下に1/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の0〜10%の距離で離れており、前記交点から下に2/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の15〜20%の距離で離れており、前記身頃部の長さ方向の下端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の15〜25%の距離で離れている請求項1〜6のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項1】
前身頃と後身頃と、少なくとも肩を覆う部分を含むシャツであって、
前記肩を覆う部分と前身頃及び後身頃の接続部は、肩峰より下った部分に存在し、
前記前身頃と後身頃の接続部は、人体の脇の凹み部から下に向いて下がり、脇腹から大臀部の上部に向かう曲線を形成していることを特徴とするシャツ。
【請求項2】
前記肩を覆う部分と前身頃の接続部は、肩峰より前下側でかつ鎖骨の凸より上側に存在し、
前記肩を覆う部分と後身頃の接続部は、肩峰より後下側でかつ肩甲骨の上を通過している請求項1に記載のシャツ。
【請求項3】
前記肩部分には、さらに連続して袖部が存在する請求項1又は2に記載のシャツ。
【請求項4】
前記袖部は、上腕を上から覆う部分と下から覆う部分を接続して形成されている請求項3に記載のシャツ。
【請求項5】
前記接続部は、前記シャツを構成する各生地部分を融着してホットメルトテープで覆い、これを表側とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項6】
前記シャツを構成する各生地部分は、ポリエチレンワックス組成物の分散液で処理されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のシャツ。
【請求項7】
前記肩を覆う部分と前身頃の接触部と、前記肩を覆う部分と後身頃の接続部との交点から身頃部の長さ方向の下端部までの長さをLとした場合、前記前身頃と後身頃の接続部は、前記交点から水平にシャツの前中心に向かって半身頃幅の5〜10%の距離で離れており、前記交点から下に1/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の0〜10%の距離で離れており、前記交点から下に2/3L離れた身頃部の幅方向の端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の15〜20%の距離で離れており、前記身頃部の長さ方向の下端部から水平に後中心に向かって半身頃幅の15〜25%の距離で離れている請求項1〜6のいずれか1項に記載のシャツ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−242241(P2010−242241A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90155(P2009−90155)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
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