説明

ショットキーダイオードおよびその製造方法

【課題】結晶欠陥の影響が抑制されたショットキーダイオードおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】陽極酸化法により、炭化ケイ素基板8の表面に存在する結晶欠陥9の位置に局所的に酸化膜10を形成し、この後、炭化ケイ素基板8の表面に金属電極11を形成することにより、炭化ケイ素基板8の表面に存在する結晶欠陥9と金属電極11の間に絶縁体である酸化膜10が存在するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素基板の表面に金属電極を形成してなるショットキーダイオードおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大電力半導体素子用の材料として使用および期待されている炭化ケイ素(SiC)の実用素子の一形態としてショットキーダイオードがある。このショットキーダイオードは金属電極と炭化ケイ素の接触面に形成されるショットキー障壁を利用し、整流作用を実現させる素子である。この時、整流作用の性能を決定する一要素としてショットキー障壁高さが存在するが、炭化ケイ素においては結晶内および結晶表面に存在する結晶欠陥がショットキー障壁高さを低下させることが知られている(例えば、非特許文献1)。そのため、ショットキーダイオードを設計通りに作製するためには炭化ケイ素中の結晶欠陥の密度を低減もしくはその影響を抑制する必要があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Observation of Inhomogeneity of Schottky Barrier Height on 4H-SiC Using the Electrochemical Deposition" Masashi Kato, Kazuya Ogawa and Masaya Ichimura, Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 46, No. 41, 2007 Oct., pp. L997-L999.Abstract in International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ショットキー障壁高さを低下させるような結晶欠陥の密度の低減は従来結晶成長技術の向上により達成されてきたが、結晶欠陥の根絶は困難である。そのため、ショットキー障壁高さの局所的な低下が実用素子作製における問題点となっており、結晶欠陥の影響を抑制する技術が求められている。
【0005】
本発明は上記点に鑑みたもので、結晶欠陥の影響が抑制されたショットキーダイオードおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明らは、炭化ケイ素表面に絶縁体である二酸化ケイ素を形成する一手法である陽極酸化法に着目した。この手法は、特開2003−133308号公報に記載されているように、電解液中に、炭化ケイ素基板からなる陽極と、この陽極と対をなす陰極とを設け、両電極間に電位差を与える、つまり電解液中で炭化ケイ素基板に陽極電流を流すことで、電解液中の水酸化物イオンと炭化ケイ素を化学反応させ、炭化ケイ素基板の表面に酸化膜である二酸化ケイ素を形成する方法である。
【0007】
この陽極酸化法において、炭化ケイ素基板と電解液の界面にはショットキー障壁と同様のエネルギー構造が形成される。また、結晶欠陥の位置においては炭化ケイ素基板と電解液の界面においてもショットキー障壁高さが局所的に低くなる。一方、陽極酸化法において二酸化ケイ素の形成速度は炭化ケイ素基板の表面に流れる電流密度に比例し、電流はショットキー障壁高さが低いところに優先的に流れる。これらのことから、炭化ケイ素基板に対して陽極酸化法を実施した場合、結晶欠陥位置に二酸化ケイ素が局所的に形成される。つまり炭化ケイ素基板の表面における結晶欠陥位置には二酸化ケイ素という絶縁体が形成されることとなる。
【0008】
このように陽極酸化により絶縁体を局所的に形成した炭化ケイ素基板に対し金属電極を形成しショットキーダイオードを作製した場合、ショットキー障壁を低下させる結晶欠陥と金属電極の間には絶縁体が存在することとなる。よって結晶欠陥と金属電極との間の電気伝導がなされないため、結晶欠陥はショットキーダイオードにおけるショットキー障壁高さに影響を与えないこととなる。すなわち、結晶欠陥のない炭化ケイ素基板を用いて構成したショットキーダイオードと同等の物が得られると考えられる。
【0009】
本発明は上記した検討をもとになされたもので、請求項1に係る発明は、炭化ケイ素基板の表面に金属電極を形成してなるショットキーダイオードにおいて、前記炭化ケイ素基板の表面に存在する結晶欠陥と前記金属電極の間に絶縁体が存在していることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、結晶欠陥と金属電極の間に存在する絶縁体により、結晶欠陥と金属電極との間の電気伝導がなされないため、結晶欠陥はショットキーダイオードにおけるショットキー障壁高さに影響を与えないこととなる。
【0011】
また、この請求項1に記載のショットキーダイオードは、請求項2に記載の方法によって製造することができる。すなわち、請求項2に記載の発明では、陽極酸化法により、炭化ケイ素基板の表面に存在する結晶欠陥の位置に局所的に酸化膜を形成し、この後、前記炭化ケイ素基板の表面に前記金属電極を形成することを特徴とする。
【0012】
炭化ケイ素基板に対して陽極酸化法を実施した場合、炭化ケイ素基板の表面における結晶欠陥位置に酸化膜が形成されるので、酸化膜が局所的に形成された炭化ケイ素基板に対し金属電極を形成することにより、ショットキー障壁を低下させる結晶欠陥と金属電極の間に絶縁体を存在させたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明において利用される陽極酸化法を実施する装置の構成を示す図である。
【図2】陽極酸化法による酸化後、金属電極を蒸着した状態の断面構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において利用される陽極酸化法を実施する装置を図1に示す。処理槽1に電解液7を入れ、オーミック電極を有する炭化ケイ素基板2を基板の支持装置3に固定し、電解液7中に浸す。また陰極電極4も電解液7に浸され、陰極電極4は導線6を使って電圧源5の陰極に、炭化ケイ素基板2のオーミック電極も導線6を使って電圧源5の陽極に接続される。
【0015】
この装置を用い、電圧源5により炭化ケイ素基板2に陽極電圧を印加する。この電圧印加は、炭化ケイ素の絶縁破壊電界を超える電圧を印加しない条件で行う。但し、その電圧は、炭化ケイ素基板2の不純物濃度によって異なる。この電圧印加により、電解液7中の水酸化物イオンが炭化ケイ素基板2と化学反応し、炭化ケイ素基板2が酸化されるが、この反応は炭化ケイ素基板2においてショットキー障壁が低くなる結晶欠陥位置においてのみ起こる。
【0016】
この陽極酸化法による酸化後、炭化ケイ素基板2を基板の支持装置から取り外し、酸化膜以外の炭化ケイ素表面の不純物を化学洗浄により除去した後、真空蒸着法またはスパッタ法により炭化ケイ素表面に金属電極を蒸着する。
【0017】
陽極酸化法による酸化後、金属電極を蒸着した状態の模式図を図2に示す。炭化ケイ素基板8の表面に存在する結晶欠陥9の上に、陽極酸化法による酸化膜10が形成されており、金属電極11と結晶欠陥9との間に存在している。この陽極酸化法による酸化膜10が結晶欠陥9と金属電極11間の電気伝導を防ぐこととなり、結晶欠陥9がショットキー障壁高さに与える影響を抑制できる。
【0018】
図2に示したような炭化ケイ素基板と金属電極の構成を用いてショットキーダイオードを作製することにより、結晶欠陥の影響が抑制されたショットキーダイオードが得られる。
【符号の説明】
【0019】
1 処理槽
2 炭化ケイ素基板
3 基板の支持装置
4 陰極電極
5 電圧源
6 導線
7 電解液
8 炭化ケイ素基板
9 結晶欠陥
10 酸化膜
11 金属電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素基板の表面に金属電極を形成してなるショットキーダイオードにおいて、
前記炭化ケイ素基板の表面に存在する結晶欠陥と前記金属電極の間に絶縁体が存在していることを特徴とするショットキーダイオード。
【請求項2】
炭化ケイ素基板の表面に金属電極を形成してなるショットキーダイオードの製造方法において、
陽極酸化法により、炭化ケイ素基板の表面に存在する結晶欠陥の位置に局所的に酸化膜を形成し、
この後、前記炭化ケイ素基板の表面に前記金属電極を形成することを特徴とするショットキーダイオードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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