説明

ショルダアンカの補強構造

【課題】 ショルダアンカに生じる荷重を分散させることで、車体パネルに対する座屈や変形を抑える。
【解決手段】 第1車体パネルと、両端部が第1車体パネルに溶着されて、第1車体パネルとともに閉断面を形成する第2車体パネルと、第1車体パネルに積層される補強部材と、閉断面に貫通するように前記第1車体パネル及び前記補強部材に形成された貫通孔を介してショルダアンカが取り付けられるショルダアンカの補強構造である。第2車体パネルは、両端部以外の箇所が第1車体パネル及び補強部材に重なり3層となって溶着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショルダアンカの補強構造に係り、特に車体パネルに取り付けられるショルダアンカの補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両室内には、シートベルト等を車体側に固定するためのショルダアンカが存在している(例えば特許文献1参照)。図5は従来のショルダアンカの補強構造を表す断面図である。図5に示すように、車体100には、リヤクォータパネル101と、リンフォース102とによって閉断面が形成されている。リンフォース102は、その両端部がスポット溶接などにより溶着されてリヤクォータパネル101に固定されている。また、リヤクォータパネル101の内側面には、リヤクォータパネル101に重なるように補強部材103が溶着されている。リヤクォータパネル101と補強部材103とには、閉断面に貫通する貫通孔104,105が形成されていて、この貫通孔104,105を介してショルダアンカ106が取り付けられるようになっている。
【特許文献1】特開2003−118636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記したようにリンフォース102の両端部のみがリヤクォータパネル101に溶着されていると、その溶着部分にショルダアンカの荷重が集中してしまい、リヤクォータパネル101が座屈、変形しやすいおそれがあった。
【0004】
本発明の課題は、ショルダアンカに生じる荷重を分散させることで、車体パネルに対する座屈や変形を抑えることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1車体パネルと、
両端部が前記第1車体パネルに溶着されて、前記第1車体パネルとともに閉断面を形成する第2車体パネルと、
前記第1車体パネルに積層される補強部材と、
前記閉断面に貫通するように前記第1車体パネル及び前記補強部材に形成された貫通孔を介してショルダアンカが取り付けられるショルダアンカの補強構造であって、
前記第2車体パネルは、前記両端部以外の箇所が前記第1車体パネル及び前記補強部材に重なり3層となって溶着されていることを特徴としている。
【0006】
請求項1記載の発明によれば、第2車体パネルの両端部以外の箇所が、第1車体パネル及び補強部材と重なって3層となって溶着されているので、ショルダアンカに生じる荷重を第2車体パネルの両端部だけでなく3層となる部分にも分散させることができる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のショルダアンカの補強構造において、
前記第2車体パネルは、前記両端部及び前記3層となる部分以外の箇所が、前記第1車体パネルに重なり2層となって溶着されていることを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、第2車体パネルの両端部及び3層となる部分以外の箇所が、第1車体パネルに重なって2層となって溶着されているので、ショルダアンカに生じる荷重を、第2車体パネルの両端部及び3層となる部分だけでなく2層となる部分にも分散させることができる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のショルダアンカの補強構造において、
前記第2車体パネルは、前記両端部、前記3層となる部分及び前記2層となる部分以外で、かつ前記貫通孔に対向する箇所が、前記第1車体パネルに接着されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3記載の発明によれば、第2車体パネルの両端部、3層となる部分、2層となる部分以外で、かつ貫通孔に対向する箇所が、第1車体パネルに近接して接着されているので、第1車体パネルと第2車体パネルとにより形成される閉断面が、ショルダアンカの取付位置と当該取付位置の対向位置とに張り渡されることになる。これにより、第1車体パネルの剛性を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ショルダアンカに生じる荷重を第2車体パネルの両端部以外の箇所にも分散させているので、車体パネルに対する座屈や変形を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
[第一の実施の形態]
以下、第一の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造について図を参照にして説明する。図1は、ショルダアンカの補強構造の構成部材であるリヤクォータパネルを表す正面図である。このリヤクォータパネル1の内側にはシートベルトを固定するためのショルダアンカ2が取り付けられている。
【0013】
ショルダアンカ2の取付構造について図2を参照にして詳細に説明する。図2は、図1のA−A断面を表す断面図である。この図2に示すように本発明の第1車体パネルとしてのリヤクォータパネル1は、外観をなすリヤクォータパネル外側部材11と、最後端ピラー延長部12と、リヤクォータパネル内側下方部材13とから構成されている。
【0014】
最後端ピラー延長部12は、リヤクォータパネル外側部材11の端部から内側に向けて断面視略コ字状に延出している。リヤクォータパネル内側下方部材13は、最後端ピラー延長部12の先端に溶着されて、当該最後端ピラー延長部12の下方を覆うように断面視略逆L字状に湾曲している。リヤクォータパネル内側下方部材13におけるリヤクォータパネル外側部材11に対向する外側部材対向部131の内側には、補強部材14がリヤクォータパネル内側下方部材13に積層するように配置されており、この補強部材14の両端部がリヤクォータパネル内側下方部材13に対して溶着されている(図2の溶着部19,20参照)。この補強部材14には、ショルダアンカ2を固定するための貫通孔141が形成されている。また、リヤクォータパネル内側下方部材13にも、貫通孔132が補強部材14の貫通孔141と一致する位置に形成されている。
【0015】
また、リヤクォータパネル内側下方部材13と、最後端ピラー延長部12との間に形成される空間には、本発明に係る第2車体パネルとしての断面視逆S字状のリンフォース16が配置されている。このリンフォース16は、一端部がリヤクォータパネル内側下方部材13の先端部に溶着部21で溶着され、他端部が最後端ピラー延長部12とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部17で溶着されている。これにより、リヤクォータパネル内側下方部材13とリンフォース16とにより閉断面18が形成される。そして、この閉断面18に貫通するように補強部材14及びリヤクォータパネル内側下方部材13に形成された貫通孔132,141を介してショルダアンカ2が取り付けられる。
【0016】
また、リンフォース16の他端部近傍の湾曲部15は、補強部材14に接触するように湾曲している。この湾曲部15は、補強部材14の上端部とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部19で溶着されている。これにより、リンフォース16の湾曲部15、リヤクォータパネル内側下方部材13及び補強部材14が3層となって溶着されることになる。
【0017】
次に、本実施形態に係るショルダアンカの補強構造の作用について説明する。
走行時における繰り返し振動や、車両衝突時の衝撃などによりショルダアンカ2に荷重が付与される(図中矢印B参照)と、この荷重はショルダアンカ2から、リンフォース16の一端部とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部21や、最後端ピラー延長部12とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部17に分散されるだけでなく、補強部材14の一端部とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部19にも分散される。溶着部19に分散された荷重はリンフォース16に伝達されることになる(図2の矢印C)。
【0018】
以上のように、この第一の実施の形態のショルダアンカの補強構造によれば、リンフォース16の両端部以外の箇所である湾曲部15が、リヤクォータパネル内側下方部材13及び補強部材14と重なって3層となって溶着されているので、ショルダアンカ2に生じる荷重をリンフォース16の両端部だけでなく3層となる部分(溶着部19)にも分散させることができる。このように、一箇所にかかる力を分散させることで、リヤクォータパネル1や、リンフォース16などの車体パネルに対する座屈や変形を抑えることが可能となる。
【0019】
なお、本実施形態では、3層となる部分での溶着が溶着部19の一箇所のみである場合を例示したが、2箇所以上であってもかまわない。
【0020】
[第二の実施の形態]
第一の実施の形態では、リンフォース16とリヤクォータパネル1とが3箇所の溶着部17,19,20で溶着されて、ショルダアンカ2にかかる荷重を分散させる場合について説明したが、この第二の実施の形態では、リンフォース16Aとリヤクォータパネル1とを4箇所で溶着する場合を例示して説明する。なお、以下の説明において、第一の実施の形態と同一の部分においては同一の符号を付してその説明を省略する。
【0021】
図3は、第二の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造を表す断面図である。この図3に示すように、第二の実施の形態におけるリンフォース16Aは、最後端ピラー延長部12に接触するように断面視略逆S字状に形成されている。このリンフォース16Aにおける最後端ピラー延長部12に接触する部分をピラー接触部23と称す。このピラー接触部23と最後端ピラー延長部12とは溶着されている(図3の溶着部22)。これにより、ピラー接触部23と最後端ピラー延長部12とが2層となって溶着されることになる。
【0022】
そして、ショルダアンカ2に荷重が付与される(図中矢印B参照)と、この荷重はショルダアンカ2から、リンフォース16Aの一端部とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部21や、最後端ピラー延長部12とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部17に分散されるだけでなく、補強部材14の一端部とリヤクォータパネル内側下方部材13との溶着部19に分散される。溶着部19で分散された荷重(図3の矢印C)は、ピラー接触部23と最後端ピラー延長部12との溶着部22で分散されて、最後端ピラー延長部12に伝達されることになる(図3の矢印D参照)。
【0023】
以上のように、この第二の実施の形態のショルダアンカの補強構造によれば、リンフォース16Aの両端部及び湾曲部15以外の箇所であるピラー接触部23が、最後端ピラー延長部12と重なって2層となって溶着されているので、ショルダアンカ2に生じる荷重をリンフォース16Aの両端部や湾曲部15だけでなく2層となる部分(溶着部22)にも分散させることができる。このように分散箇所を増やせば、一箇所にかかる力をさらに分散させることができ、リヤクォータパネル1や、リンフォース16Aなどの車体パネルに対する座屈や変形をより一層抑えることが可能となる。
【0024】
なお、本実施形態では、2層となる部分での溶着が溶着部22の一箇所のみである場合を例示したが、2箇所以上であってもかまわない。
【0025】
[第三の実施の形態]
第一及び第二の実施の形態では、リンフォース16とリヤクォータパネル1と溶着のみで固定された場合について説明したが、この第三の実施の形態では、リンフォース16Bとリヤクォータパネル1とを溶着及び接着により固定する場合について説明する。なお、以下の説明において、第一及び第二の実施の形態と同一の部分においては同一の符号を付してその説明を省略する。
【0026】
図4は第三の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造を表す断面図である。この図4に示すように、第三の実施の形態におけるリンフォース16Bは、最後端ピラー延長部12に接触するとともに、リヤクォータパネル外側部材11に近接するように断面視略逆S字状に形成されている。このリンフォース16Bにおけるリヤクォータパネル外側部材11に近接する部分をパネル近接部24と称す。パネル近接部24は、貫通孔132,141と対向する位置に配置されていて、接着剤25によりリヤクォータパネル外側部材11に接着されている。
【0027】
以上のように、第三の実施の形態に係るショルダアンカの取付構造によれば、リンフォース16Bの両端部、湾曲部15及びピラー接触部23以外で、かつ貫通孔132,141に対向する箇所であるパネル近接部24が、リヤクォータパネル外側部材11に近接して接着されているので、リヤクォータパネル1とリンフォース16Bとにより形成される閉断面18が、ショルダアンカ2の取付位置と当該取付位置の対向位置とに張り渡されることになる。これにより、リヤクォータパネル1の剛性を高めることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】第一の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造の構成部材であるリヤクォータパネルを表す正面図である。
【図2】図1のA−A断面を表す断面図である。
【図3】第二の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造を表す断面図である。
【図4】第三の実施の形態に係るショルダアンカの補強構造を表す断面図である。
【図5】従来のショルダアンカの補強構造を表す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 リヤクォータパネル(第1車体パネル)
2 ショルダアンカ
11 リヤクォータパネル外側部材
12 最後端ピラー延長部
13 リヤクォータパネル内側下方部材
14 補強部材
15 湾曲部
16 リンフォース(第2車体パネル)
18 閉断面
17,19,20,21,22 溶着部
23 ピラー接触部
24 パネル近接部
25 接着剤
131 外側部材対向部
132,141 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1車体パネルと、
両端部が前記第1車体パネルに溶着されて、前記第1車体パネルとともに閉断面を形成する第2車体パネルと、
前記第1車体パネルに積層される補強部材と、
前記閉断面に貫通するように前記第1車体パネル及び前記補強部材に形成された貫通孔を介してショルダアンカが取り付けられるショルダアンカの補強構造であって、
前記第2車体パネルは、前記両端部以外の箇所が前記第1車体パネル及び前記補強部材に重なり3層となって溶着されていることを特徴とするショルダアンカの補強構造。
【請求項2】
請求項1記載のショルダアンカの補強構造において、
前記第2車体パネルは、前記両端部及び前記3層となる部分以外の箇所が、前記第1車体パネルに重なり2層となって溶着されていることを特徴とするショルダアンカの補強構造。
【請求項3】
請求項2記載のショルダアンカの補強構造において、
前記第2車体パネルは、前記両端部、前記3層となる部分及び前記2層となる部分以外で、かつ前記貫通孔に対向する箇所が、前記第1車体パネルに接着されていることを特徴とするショルダアンカの補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−347211(P2006−347211A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172423(P2005−172423)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】