説明

シリコンウエーハのPN判定方法

【課題】 FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハ、特には高抵抗率シリコンウエーハであっても、高精度、高信頼性でPN判定を行うことができ、かつPN(導電型)のシリコンウエーハ面内分布を判定することのできるPN判定方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 フローティングゾーン法(FZ法)により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハのPN判定方法において、該シリコンウエーハの抵抗率を測定し、その後該シリコンウエーハに対して熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率を測定し、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差が正の場合は該シリコンウエーハの該熱処理工程前のPN(導電型)はN型、負の場合はP型と判定することを特徴とするシリコンウエーハのPN判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティングゾーン法(FZ法)により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハのPN判定方法に関し、特に抵抗率が5000Ωcmを超える高抵抗率シリコーンウエーハのPN判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧パワーデバイスやサイリスタ用として、フローティングゾーン法(FZ法)により育成されたシリコン単結晶インゴットを切断して作製した高抵抗率シリコンウエーハが使用されてきた。さらに、近年では各種センサー用として、FZ法により作製された5000Ωcmを超える高抵抗率シリコンウエーハの要求が高まっている。これに伴い、高抵抗率シリコンウエーハのPN(導電型)判定による品質管理の一層の向上が望まれている。
【0003】
しかしながら、従来のシリコンウエーハのPN(導電型)判定方法として主に用いられる点接触整流法や熱起電力法では、P型、N型シリコンウエーハともに、抵抗率が1000Ωcmまでのシリコンウエーハしか信頼すべき判定結果が得られないとされており(ASTM F42)、これより高抵抗率のシリコンウエーハでのP型、N型の判定は不正確であり、PN判定結果の信頼性が低いという問題があった。さらに、高抵抗率シリコンウエーハでは面内の位置により、PN(導電型)が異なる場合もあるため、シリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布を判定することは品質管理上重要であるが、前記点接触整流法や熱起電力法の場合ではシリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布を特定する事も難しいという問題があった。これらの問題が高抵抗率シリコンウエーハの高い品質管理を妨げる一因となっていた。
【0004】
これらの問題は、シリコンウエーハが高抵抗率である場合、電子とホールとの移動度の差が大きくなることに起因する。結果として、前記点接触整流法や熱起電力法等(特許文献1及び特許文献2)の従来法を用いた高抵抗率シリコンウエーハのPN(導電型)判定においては、例えば、多数キャリアとは異なるPN(導電型)が判定されてしまうことにより、PN判定ができなかったりシリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布を正確に判定することができないといった問題が生じる。従って、品質管理の精度や信頼性を低下させることとなっていた。
【0005】
そこで、品質管理を向上させて、より高い品質要求にこたえていくために、高抵抗率シリコンウエーハに対しても簡便かつ正確にPN判定をすることができ、その上シリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布をも判定することのできるPN判定方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−076080号公報
【特許文献2】特許第4218681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであって、FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハ、特には高抵抗率シリコンウエーハに対しても、簡便かつ正確なPN判定を行うことができ、その上シリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布をも判定することのできるPN判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、フローティングゾーン法(FZ法)により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハのPN判定方法において、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差が正の場合は該シリコンウエーハの該熱処理工程前のPN(導電型)はN型、負の場合はP型と判定することを特徴とするシリコンウエーハのPN判定方法を提供する。
【0009】
このように、熱処理工程により窒素のN型キャリアとしての作用が消去されることで、熱処理工程前後でのシリコンウエーハに含まれるN型キャリアの濃度を容易に減少させることができる。例えば、熱処理工程によりN型キャリアを除去することで抵抗率が増大する(キャリア濃度が減少する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはN型であると判定でき、抵抗率が減少する(キャリア濃度が増大する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはP型であると判定することができる。このキャリア濃度変化量は極少量であっても測定可能な抵抗率差として得ることができる。そのため、熱処理工程前後の抵抗率差が正の場合は該シリコンウエーハの該熱処理工程前のPN(導電型)はN型、負の場合はP型と判定することを特徴とするシリコンウエーハのPN判定方法であれば簡便かつ正確なPN判定を行うことができ、かつシリコンウエーハ面内の抵抗率分布の変化を測定することでシリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布を判定することもできるPN判定方法を提供することができる。
【0010】
また、本発明によれば前記シリコンウエーハの熱処理工程前抵抗率が5000Ωcm以上のシリコンウエーハに対してPN判定を行うことが可能である。
【0011】
このように、本発明に係るPN判定方法であれば、少量のキャリア濃度変化でも測定可能な抵抗率差として得られるため、熱処理工程前抵抗率が5000Ωcm以上の高抵抗率を有するシリコンウエーハに対しても、簡便かつ正確なPN判定方法を提供でき、かつシリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布を判定することもできるPN判定方法を提供することができる。
【0012】
さらに、前記シリコンウエーハのPN判定方法において、熱処理工程前後のシリコンウエーハの抵抗率が同値になるシリコンウエーハの熱処理工程前抵抗率をPN判定限界抵抗率とし、該PN判定限界抵抗率以下の熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対してPN判定を行うことが好ましい。
【0013】
N型キャリアとして作用する窒素の濃度よりもシリコンウエーハに含まれる窒素以外のキャリア不純物の濃度が低い高抵抗率シリコンウエーハの場合、熱処理工程後のシリコンウエーハの抵抗率が増大したとしても、熱処理工程前の導電型がP型である場合があり、また抵抗率が減少したとしても熱処理工程前の導電型がN型である場合がある。そのため、熱処理工程前後のシリコンウエーハの抵抗率が同値になるシリコンウエーハの熱処理工程前抵抗率をPN判定限界抵抗率とし、該PN判定限界抵抗率以下の熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対してPN判定を行うことにより、より正確なPN判定方法を提供することができる。
【0014】
また、前記PN判定限界抵抗率として、PN判定をするシリコンウエーハと同一育成条件により育成されたシリコンウエーハであって熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハに対し、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程前後の抵抗率から該シリコンウエーハの窒素添加量を算出し、該窒素添加量を用いて該シリコンウエーハのPN判定限界抵抗率を算出することで得られたPN判定限界抵抗率を用いることが好ましい。
【0015】
このように、PN判定をするシリコンウエーハと同一育成条件(例えばチャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)により育成されたシリコンウエーハであって熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハに対し、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程前後の抵抗率から該シリコンウエーハの窒素添加量を算出することができる。このようにして得られた窒素添加量は、同一育成条件(例えばチャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)により育成されたPN判定をするシリコンウエーハにも同量添加されていると仮定することができるため、適切なPN判定限界抵抗率の算出に用いることができる。これにより熱処理工程前後の抵抗率からシリコンウエーハの窒素添加量を算出し、該窒素添加量からPN判定限界抵抗率を算出することで、より適切なPN判定限界抵抗率を見積もることができるようになり、適切なPN判定限界抵抗率より低い熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対するPN判定の結果はより正確なものとなる。
【0016】
さらに、前記窒素添加量として、シリコンウエーハがN型ウエーハの場合は窒素添加量(ppba)=93/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)−93/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)とし、P型ウエーハの場合は窒素添加量(ppba)=263/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)−263/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)として算出することで得られた窒素添加量を用いることが好ましい。
【0017】
このような算出方法により熱処理工程前後の抵抗率からシリコンウエーハの窒素添加量を算出することで、ATSM F574の基準に沿った窒素添加量を算出することができる。このようにして算出された窒素添加量を用いてPN判定限界抵抗率を算出することで、より適切なPN判定限界抵抗率を得ることができ、適切なPN判定限界抵抗率より低い熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対するPN判定の結果はより正確なものとなる。
【0018】
また、前記PN判定限界抵抗率として、PN判定限界抵抗率(Ωcm)=356/窒素添加量(ppba)として算出することで得られたPN判定限界抵抗率を用いることが好ましい。
【0019】
このような算出方法により窒素添加量からシリコンウエーハのPN判定限界抵抗率を算出することで、ATSM F574の基準に沿って算出した窒素添加量を用いて、より適切なPN判定限界抵抗率を算出することができる。このようにして得られた適切なPN判定限界抵抗率より低い熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対するPN判定の結果はより正確なものとなる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製した高抵抗率シリコンウエーハであっても、簡便かつ正確にPN判定を行うことができ、かつシリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布の判定を行うこともできるPN判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】:本発明のPN判定を行う場合のフロー。
【図2】:FZ法による単結晶製造装置の一例を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明につき詳しく説明する。
前述のように、高抵抗率シリコンウエーハであっても簡便かつ正確にPN判定でき、その上シリコンウエーハ面内のPN(導電型)分布も正確に判定することのできるPN判定方法が求められていた。
【0023】
高抵抗率シリコンウエーハは、含有しているキャリア濃度が低い。そのためシリコンウエーハがN型、P型キャリアのどちらを多数有するか判定をすることが困難である。本発明者は、PN判定において通常用いられている点接触整流法と熱起電力法で判定が難しい高抵抗率シリコンウエーハのPN判定方法に関して鋭意検討を重ねた結果、FZ法において転位や結晶欠陥の抑制のために雰囲気中に添加される窒素が、N型キャリアとして作用すること、及びN型キャリアとして作用する窒素は熱処理工程により容易にN型キャリアとしての作用を失わせることができることに着目して、熱処理工程によりシリコンウエーハから窒素のN型キャリアとしての作用を消去することで、熱処理工程後にシリコンウエーハに含まれるN型キャリアの濃度を容易に減少させることができることを見出した。さらに、N型キャリアの濃度の減少は抵抗率の変化として正確に検出することができ、例えば、熱処理工程によりN型キャリアを除去することで抵抗率が増大する(キャリア濃度が減少する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはN型であると判定でき、抵抗率が減少する(キャリア濃度が増大する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはP型であると判定できることを見出し、熱処理工程前後での抵抗率の増減を用いることで高精度かつ高信頼性を有するPN判定方法を提供できる本発明に到達した。
以下、このPN判定方法の各工程について詳細に説明するが本発明の内容はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1に、本発明に係るFZシリコンウエーハのPN判定方法のフローの一例を示す。ここでまず、図1のフロー図の予備試験工程1、本試験工程1におけるシリコンウエーハサンプルの用意について説明する。
【0025】
(シリコンウエーハサンプルの用意)
以下、一般的なFZ法によるシリコン単結晶インゴットの育成方法について簡単に説明する。図2は、FZ法による従来のFZ単結晶製造装置30である。先ず、原料結晶棒1を、チャンバー20内に設置された上軸3の上部保持治具4に保持する。一方、直径の小さい単結晶の種(種結晶8)を、原料結晶棒1の下方に位置する下軸5の下部保持治具6に保持する。次に、誘導加熱コイル7により原料結晶棒1を溶融して、種結晶8に融着させる。その後、種絞りにより絞り部9を形成して無転位化する。そして、上軸3と下軸5を回転させながら原料結晶棒1と育成単結晶棒2を下降させることで浮遊帯域(溶融帯あるいはメルトともいう。)10を原料結晶棒1と育成単結晶棒2の間に形成し、該浮遊帯域10を原料結晶棒1の上端まで移動させてゾーニングし、育成単結晶棒2を成長させる。尚、この単結晶成長は、Arガスに微量の窒素ガスを混合した雰囲気中で行われ、N型シリコン単結晶インゴットを製造するためには、ドープノズル11より、製造する抵抗率に応じた量のArベースのPHガスを流し、また、P型シリコン単結晶インゴットを製造するためには、ドープノズル11より、製造する抵抗率に応じた量のArベースのBガスを流す。上記誘導加熱コイル7としては、銅または銀からなる単巻または複巻の誘導加熱コイルであって、冷却用の水を流通させた誘導加熱コイルが用いられている。このようにして育成したシリコン単結晶インゴットは一般的に純度が高く、高抵抗率となり、該シリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハは各種センサー、パワーデバイスなどに好適に用いられる。
【0026】
FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハは、CZ法(チョクラルスキー法)のように育成中のシリコン単結晶インゴットが石英るつぼに触れることがなく、高純度、高抵抗率のシリコンウエーハとして得ることができる。また、シリコン単結晶インゴットの育成雰囲気中に窒素を添加することで転位や結晶欠陥を抑制することができ、また、高電圧印加による放電発生の防止効果がある。高抵抗率シリコンウエーハに含有される窒素添加量は育成条件に依存し、抵抗率を調整するためのドープノズルからのドープガス流量等以外は同一育成条件(例えばチャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)を用いて作製したシリコンウエーハは同量の窒素添加量を有するものとみなすことができる。
【0027】
本発明においてPN判定するシリコンウエーハは特には限定されないが、例えば高抵抗率シリコンウエーハに対しても適用することができ、特に5000Ωcm以上の高抵抗率シリコンウエーハに対しても正確なPN判定を行うことができる。熱起電力法等では正確なPN判定が困難な5000Ωcmを超える高抵抗率シリコンウエーハであっても、シリコンウエーハに添加された窒素のキャリアとしての作用を熱処理工程により消去し、該N型キャリア濃度変化を抵抗率差として検出することができるため正確なPN判定を行うことができる。
【0028】
なお、以下では上記の様にして得られた高抵抗率シリコンウエーハを調査ウエーハサンプルとしてPN判定を行う本試験工程について詳述する。
【0029】
(本試験工程1:調査ウエーハサンプルの熱処理工程前抵抗率測定工程)
上記のようにして、調査ウエーハサンプルである高抵抗率シリコンウエーハを用意し、熱処理工程前にその高抵抗率シリコンウエーハの抵抗率を測定する。ここで得られる抵抗率は高抵抗率シリコンウエーハのキャリア濃度に依存する。キャリア不純物はシリコン単結晶インゴット育成雰囲気中に添加した窒素及びP(リン)などのN型キャリア不純物又はB(ボロン)などのP型キャリア不純物である。
【0030】
(本試験工程2:熱処理工程)
その後、高抵抗率シリコンウエーハに対して、乾燥酸素雰囲気下、1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、シリコン単結晶インゴット育成中に雰囲気に添加した窒素のN型キャリアとしての機能を消去する。
【0031】
(本試験工程3:調査ウエーハサンプルの熱処理工程後抵抗率測定工程)
熱処理工程後に高抵抗率シリコンウエーハの抵抗率を測定する。ここで得られる抵抗率は高抵抗率シリコンウエーハのキャリア濃度に依存する。キャリアはシリコン単結晶インゴット育成雰囲気中に添加したPHなどのN型キャリアまたはBなどのP型キャリアである。
【0032】
(本試験工程4:熱処理工程前後の抵抗率差変化算出工程)
熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差を算出する。この時に算出される抵抗率差は、N型キャリアとして作用する窒素の添加量に依存する。
【0033】
(本試験工程5:PN(導電型)判定)
前記算出工程において、熱処理工程によりN型キャリアを除去することで抵抗率が増大する(キャリア濃度が減少する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはN型であると判定でき、抵抗率が減少する(キャリア濃度が増大する)のであれば熱処理工程前において多数キャリアはP型であると判定することができる。すなわち、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差が正の場合は高抵抗率シリコンウエーハの熱処理工程前のPN(導電型)はN型、負の場合はP型と判定することを特徴とするシリコンウエーハのPN判定方法を提供することができる。
【0034】
ここで、上記のような本発明の判定方法を行うにあたって、以下のことを考慮し、図1に示すようにPN判定限界抵抗率を予め求めておくとより好ましい。
【0035】
N型キャリアとして働く窒素の濃度よりもシリコンウエーハに含まれる窒素以外のキャリア不純物の濃度が低い高抵抗率シリコンウエーハの場合は、熱処理工程後のシリコンウエーハの抵抗率が増大したとしても、熱処理工程前の導電型がP型である場合があり、また抵抗率が減少したとしても熱処理工程前の導電型がN型である場合がある。例えば、B(ボロン)などのP型キャリア不純物を添加して育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハであっても、N型キャリアとして働く窒素が一定量以上含有されていればN型キャリアが多数キャリアとなり熱処理工程前においてはN型シリコンウエーハとなるが、熱処理工程により窒素のN型キャリアとしての機能が消去された後においては、P型キャリアが多数キャリアとなり熱処理工程前後で導電型が反転することとなる場合がこれに該当する。
【0036】
このような場合に備えて、熱処理工程前後のシリコンウエーハの抵抗率が同値になる熱処理前抵抗率(PN判定限界抵抗率)を予め算出しておくことが好ましい。該PN判定限界抵抗率以下の熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対してPN判定を行うことで熱処理工程前後での導電型の反転も生じることがないため、一層精度高く、高信頼性のPN判定を行うことができる。以下、PN判定限界抵抗率を算出するための予備試験工程について詳述する。
【0037】
前記PN判定限界抵抗率は、本試験工程においてPN判定をするシリコンウエーハとドープノズルからのドープガス流量等以外は同一育成条件(例えばチャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)により育成されたシリコンウエーハであって熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハに対し、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程前後の抵抗率から該シリコンウエーハの窒素添加量を算出し、該窒素添加量を用いることで算出することができる。
【0038】
FZ法により作製されるシリコンウエーハに含有される窒素添加量は育成条件に依存し、ドープノズルからのドープガス流量等以外は同一育成条件(例えばチャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)を用いて作製したシリコンウエーハは同量の窒素添加量を含有するものとみなすことができる。従って、高抵抗率シリコンウエーハのPN判定限界抵抗率を算出する際の窒素添加量は、育成条件が同じであればより抵抗率の低い、例えば熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハに含まれる窒素添加量とすることができる。しかも、より抵抗率の低いシリコンウエーハはPN判定をする高抵抗率シリコンウエーハより高濃度に窒素以外のN型キャリア不純物またはP型キャリア不純物を含有し、窒素以外のN型キャリア不純物またはP型キャリア不純物が窒素より過剰に含まれている。従って、熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハであれば熱処理工程前後で導電型が反転することがなく、正確な窒素添加量を見積もることができる。このようにして求められた窒素添加量を用いてPN判定限界抵抗率を算出することで、より正確なPN判定限界抵抗率を得ることができる。以下、PN判定限界抵抗率を得るための工程についてさらに詳しく述べる。
【0039】
(予備試験工程1:熱処理工程前後抵抗率変化測定工程)
前記のように、熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハを例えば図2の装置を用いて用意し、その熱処理工程前後の抵抗率差を算出する。
【0040】
(予備試験工程2:窒素添加量の算出工程)
前記抵抗率差から窒素添加量を算出する。窒素添加量の算出にあたり、ASTM F574に従うことが好ましく、N型シリコンウエーハの場合、窒素添加量(ppba)=93/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)−93/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)、P型シリコンウエーハの場合、窒素添加量(ppba)=263/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)−263/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)として窒素添加量を算出することができる。
【0041】
(予備試験工程3:PN判定限界抵抗率の算出工程)
前記窒素添加量からPN判定限界抵抗率を算出する。PN判定限界抵抗率の算出にあたり、ASTM F574に従うことが好ましく、熱処理工程後抵抗率(P型シリコンウエーハ)(Ωcm)=263/(窒素添加量(ppba)−93/熱処理工程前抵抗率(N型シリコンウエーハ)(Ωcm))となる。PN判定限界抵抗率は熱処理工程前後においてシリコンウエーハの抵抗率が変化しない熱処理工程前抵抗率と定義されているから、前記式において熱処理工程後抵抗率(P型シリコンウエーハ)=熱処理工程前抵抗率(N型シリコンウエーハ)の場合の抵抗率がPN判定限界抵抗率となる。従って、PN判定限界抵抗率(Ωcm)=356/窒素添加量(ppba)と計算される。
【0042】
以上のような工程により、高抵抗率シリコンウエーハに対しても簡便かつ正確にPN判定を行うことができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製した直径6インチ(150mm)のシリコンウエーハ(サンプル1、サンプル2及びサンプル3)に対して本発明のPN判定を行う。熱処理工程前抵抗率を測定し、その後該シリコンウエーハに対して乾燥酸素雰囲気中で1200℃の温度で100分の熱処理工程を行い、熱処理工程後抵抗率を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差を算出しPN判定を行う。
【0045】
ここで予め、サンプル1、サンプル2及びサンプル3とドープノズルからのドープガス流量以外は同一育成条件(チャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)で育成した、熱処理工程前抵抗率が約3100Ωcm(サンプル4)及び約3400Ωcm(サンプル5)のN型シリコンウエーハを二枚作製した。該N型シリコンウエーハに対して乾燥酸素雰囲気中で1200℃の温度で100分の熱処理工程を行い、熱処理工程後抵抗率を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、窒素添加量(ppba)=93/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)−93/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)により窒素添加量を算出した。その後、PN判定限界抵抗率(Ωcm)=356/窒素添加量(ppba)によりPN判定限界抵抗率を算出した。
【0046】
サンプル4及びサンプル5のシリコンウエーハの中心、周辺(シリコンウエーハのエッジから5mmの位置)、その中間領域(R/2)について熱処理工程前後の抵抗率、熱処理工程前後の抵抗率差及び窒素添加量を表1右側に示す。表1左側にはサンプル4及びサンプル5に対して点接触整流法、熱起電力法によりPN判定をした結果を示す。なお、以下の表1−6において、Pはシリコンウエーハの導電型がP型であることを表し、Nはシリコンウエーハの導電型がN型であることを表し、JはPN判定ができないことを表す。
【表1】

【0047】
また、サンプル4及びサンプル5の結果から算出した窒素添加量、PN判定限界抵抗率を表2に示す。PN判定限界抵抗率は、中心部が35166Ωcm、R/2が44681Ωcm、周辺5mmが115370Ωcmであった。
【表2】

【0048】
次に、サンプル1、サンプル2及びサンプル3のシリコンウエーハの中心、周辺及びその中間領域(R/2)についての熱処理前抵抗率が同一育成条件によるサンプル4及びサンプル5から求めた該PN判定限界抵抗率以下の値であることを確認し、サンプル1、サンプル2及びサンプル3に対して本発明に係るPN判定方法を適用した結果を表3右側に示す。
【表3】

【0049】
(実施例2)
FZ法により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製した直径5インチ(125mm)のシリコンウエーハ(サンプル6、サンプル7、サンプル8、サンプル9、サンプル10及びサンプル11)に対して本発明のPN判定を行う。熱処理工程前抵抗率を測定し、その後該シリコンウエーハに対して乾燥酸素雰囲気中で1200℃の温度で100分の熱処理工程を行い、熱処理工程後抵抗率を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差を算出しPN判定を行う。
【0050】
ここで予め、サンプル6、サンプル7、サンプル8、サンプル9、サンプル10及びサンプル11とドープノズルからのドープガス流量以外は同一育成条件(チャンバー形状、口径、ワークコイルおよびその他治具形状・位置、Arガス流量、窒素ガス流量、結晶成長速度、結晶回転速度、偏芯量が同一)で育成した、熱処理工程前抵抗率が約4000Ωcm(サンプル12)及び約1900Ωcm(サンプル13)のN型シリコンウエーハを二枚作製した。該N型シリコンウエーハに対して乾燥酸素雰囲気中で1200℃の温度で100分の熱処理工程を行い、熱処理工程後抵抗率を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、窒素添加量(ppba)=93/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)−93/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)により窒素添加量を算出した。その後、PN判定限界抵抗率(Ωcm)=356/窒素添加量(ppba)によりPN判定限界抵抗率を算出した。
【0051】
サンプル12及びサンプル13のシリコンウエーハの中心、周辺、その中間領域(R/2)について熱処理工程前後の抵抗率、熱処理工程前後の抵抗率差及び窒素添加量を表4右側に示す。表4左側にはサンプル12及びサンプル13に対して点接触整流法、熱起電力法によりPN判定をした結果を示す。
【表4】

【0052】
また、サンプル12及びサンプル13の結果から算出した窒素添加量、PN判定限界抵抗率を表5に示す。PN判定限界抵抗率は、中心部が45375Ωcm、R/2が50526Ωcm、周辺5mmが80300Ωcmであった。
【表5】

【0053】
次に、サンプル6、サンプル7、サンプル8、サンプル9、サンプル10及びサンプル11のシリコンウエーハの中心、周辺及びその中間領域(R/2)についての熱処理前抵抗率が同一育成条件によるサンプル12及びサンプル13から求めた該PN判定限界抵抗率以下の値であることを確認し、サンプル6、サンプル7、サンプル8、サンプル9、サンプル10及びサンプル11に対して本発明に係るPN判定方法を適用した結果を表6右側に示す。
【表6】

【0054】
(比較例1)
比較例1として表3左側に、サンプル1、サンプル2及びサンプル3に対して前記熱処理前後での点接触整流法、熱起電力法によりPN判定を行った結果を示す。
【0055】
(比較例2)
比較例2として表6左側に、サンプル6、サンプル7、サンプル8、サンプル9、サンプル10及びサンプル11に対して、前記熱処理前後での点接触整流法、熱起電力法によりPN判定を行った結果を示す。
【0056】
比較例において示されるように、従来法である熱起電力法及び点接触整流法では高抵抗率シリコンウエーハのPN判定ができない部分があり、PN判定ができているところにおいてもその判定結果の信頼性は低いことが明らかである。一方で、本発明に係るPN判定方法により判定されたPN(導電型)結果は、シリコンウエーハの中心、周辺、その中間領域(R/2)のすべてに対してPN判定を行うことができ、その判定結果の信頼性は高いものであることが示された。その上、本発明に係るPN判定方法は熱処理工程前後の抵抗率を測定するだけで簡便かつ正確にPN判定を行うことができることが示された。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0058】
1…原料結晶棒、 2…育成単結晶棒、 3…上軸、 4…上部保持治具、 5…下軸、 6…下部保持治具、 7…誘導加熱コイル、 8…種結晶、 9…絞り部、 10…浮遊帯域、 11…ドープノズル、 20…チャンバー、 30…FZ単結晶製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティングゾーン法(FZ法)により窒素を添加しながら育成したシリコン単結晶インゴットを切断して作製したシリコンウエーハのPN判定方法において、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程後抵抗率から熱処理工程前抵抗率を引いた抵抗率差が正の場合は該シリコンウエーハの該熱処理工程前のPN(導電型)はN型、負の場合はP型と判定することを特徴とするシリコンウエーハのPN判定方法。
【請求項2】
前記シリコンウエーハの熱処理工程前抵抗率が5000Ωcm以上のシリコンウエーハに対してPN判定を行うことを特徴とする請求項1に記載のPN判定方法。
【請求項3】
前記シリコンウエーハのPN判定方法において、熱処理工程前後のシリコンウエーハの抵抗率が同値になるシリコンウエーハの熱処理工程前抵抗率をPN判定限界抵抗率とし、該PN判定限界抵抗率以下の熱処理工程前抵抗率を有するシリコンウエーハに対してPN判定を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のPN判定方法。
【請求項4】
前記PN判定限界抵抗率として、PN判定をするシリコンウエーハと同一育成条件により育成されたシリコンウエーハであって熱処理工程前抵抗率が2000〜5000Ωcmであるシリコンウエーハに対し、該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程前抵抗率)を測定し、その後該シリコンウエーハに対して1100℃〜1200℃の温度で100分以上の熱処理工程を行い、その後さらに該シリコンウエーハの抵抗率(熱処理工程後抵抗率)を測定することで、熱処理工程前後の抵抗率を得、熱処理工程前後の抵抗率から該シリコンウエーハの窒素添加量を算出し、該窒素添加量を用いて該シリコンウエーハのPN判定限界抵抗率を算出することで得られたPN判定限界抵抗率を用いることを特徴とする請求項3に記載のPN判定方法。
【請求項5】
前記窒素添加量として、シリコンウエーハがN型ウエーハの場合は窒素添加量(ppba)=93/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)−93/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)とし、P型ウエーハの場合は窒素添加量(ppba)=263/熱処理工程後抵抗率(Ωcm)−263/熱処理工程前抵抗率(Ωcm)として算出することで得られた窒素添加量を用いることを特徴とする請求項4に記載のPN判定方法。
【請求項6】
前記PN判定限界抵抗率として、PN判定限界抵抗率(Ωcm)=356/窒素添加量(ppba)として算出することで得られたPN判定限界抵抗率を用いることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のPN判定方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−4439(P2012−4439A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139660(P2010−139660)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】