説明

シリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法

【課題】装置が煩雑化することなく、カーボンルツボから発生した炭素含有ガスを効率よく炉体外に排出することができ、製造コストの増加を招くことがなく、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができるシリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るシリコン単結晶引上装置1は、石英ルツボ10aを内面に保持するカーボンルツボ10bを備え、前記カーボンルツボ10bの上端10baに積載されて設けられ、前記カーボンルツボ10bの上端上方の第1空間S1を通過するキャリアガスGの一部を遮蔽し、前記第1空間S1の下部であり前記カーボンルツボ10bの上端直上の第2空間S2を通過するキャリアガスGの流速を高める円筒形状の整流部を備えた整流部材40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法に関し、特に、低炭素濃度のシリコン単結晶を得ることができるシリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス形成用基板として用いられるシリコンウェーハ(以下、単にウェーハともいう)は、主として、チョクラルスキー法(以下、CZ法ともいう)により引上げられたシリコン単結晶から製造される。
シリコン単結晶の引上げは、炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、シリコン融液の液面に種結晶を接触させて、石英ルツボと種結晶を回転させながら種結晶を上方へ引上げて、種結晶の下端にシリコン単結晶を結晶成長させていくものである。
【0003】
一般的に、ウェーハ内に含まれる不純物である炭素は、ウェーハ製造時や半導体デバイス形成時に行われる熱処理において、ウェーハ内の酸素析出物の発生を促進させることが知られている。
なお、この酸素析出物がウェーハのバルク部に発生する場合には、不純物のゲッタリングサイトとなるため有効であるが、当該発生がデバイス形成領域となるウェーハの表層部で起こる場合には、ライフタイム等の半導体デバイス特性の低下を招くという問題がある。
このため、シリコン単結晶の引上時において、シリコン単結晶中に導入される炭素を抑制した低炭素濃度のシリコン単結晶を得ることが要求されている。
【0004】
低炭素濃度のシリコン単結晶を得る技術としては、特許文献1には、結晶成長室内に結晶融液用ルツボを有し、ルツボを加熱するヒータを配し、結晶成長室内壁に断熱材を配しており、断熱材が無機繊維からなり、耐火部材に収容されて結晶室内壁に取付けており、耐火部材に開口部を設けると共に断熱材背面の結晶成長室壁にガス排出口を配し、よって断熱材から発生する炭素含有ガスを強制的にガス排出口へ導き、炭素含有ガスの成長室内への流入を防止する構造を有する結晶成長装置が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、輻射シールドとルツボとの間に隙間を形成すると共に、該隙間の最小寸法を前記ルツボ内の溶融液面面積の10%以上35%以下となるよう配置し、前記ガス供給手段により前記ルツボ内に供給された前記不活性ガスは、前記隙間を経由して前記排気手段により排気される単結晶引上装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−319976号公報
【特許文献2】特開2008−87996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の装置は、断熱材から発生する炭素含有ガスを強制的にガス排出口へ導くことはできるものの、シリコン単結晶の製造時に使用するカーボンルツボから発生する炭素含有ガスを効率よく排出するにはガス排出口がカーボンルツボから遠い位置にあるため、限界があるものであった。加えて、特許文献1に記載の装置は、結晶成長室内(本発明では炉体内)の設計を大きく変更する必要があり、装置が煩雑化する問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の装置は、輻射シールド(本発明では遮蔽部材)とルツボとの間の隙間を調整するものであるが、この場合、前記隙間の下方空間においてキャリアガスが対流し、シリコン融液の液面振動が発生する場合がある。また、カーボンルツボから発生した炭素含有ガスが前記シリコン融液の上方付近まで逆流し、前記隙間の上方に位置する輻射シールドの外周部等に炭化物として固化し、この固化した炭化物が当該隙間を通ってシリコン融液に落下する場合があり、低炭素濃度のシリコン単結晶を得るには限界があるものであった。また、輻射シールドの形状を、使用する石英ルツボの形状に合わせて各々設計しなければならず、製造コストの増加を招くという問題があった。
【0009】
なお、炭素含有ガスを効率よく排出するという観点から、炉体内に供給するキャリアガスの供給量及び排出量を高くする方法も考えられる。しかしながら、この方法は大量のキャリアガスを必要とするため、製造コストの増加を招くという問題があった。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、装置が煩雑化することなく、カーボンルツボから発生した炭素含有ガスを効率よく炉体外に排出することができ、製造コストの増加を招くことがなく、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができるシリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシリコン単結晶引上装置は、炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶引上装置であって、前記石英ルツボを内面に保持するカーボンルツボを備え、前記カーボンルツボの上端に積載されて設けられ、前記カーボンルツボの上端上方の第1空間を通過するキャリアガスの一部を遮蔽し、前記第1空間の下部であり前記カーボンルツボの上端直上の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高める円筒形状の整流部を備えた整流部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るシリコン単結晶引上装置は、具体的には、炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶引上装置であって、前記石英ルツボを内面に保持するカーボンルツボと、前記カーボンルツボの外周囲に配置され、前記カーボンルツボを周囲から加熱する加熱ヒータと、前記シリコン融液の上方に保持され、前記引上げたシリコン単結晶への輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、前記遮蔽部材の外周囲に配置され、前記遮蔽部材を前記シリコン融液の上方に保持すると共に、前記遮蔽部材の外周囲において前記炉体内の空間を上部空間と下部空間に区分けする区分け部材と、前記遮蔽部材の上方に配置され、前記遮蔽部材の内面、前記遮蔽部材と前記シリコン融液との間及び前記石英ルツボと前記区分け部材との間を流れるキャリアガスを前記炉体内に供給するキャリアガス供給部と、前記カーボンルツボの下方に配置され、前記石英ルツボと前記区分け部材との間を流れたキャリアガスを前記炉体外に排出するキャリアガス排出部と、前記カーボンルツボの上端に積載されて設けられ、前記カーボンルツボの上端と前記区分け部材との間の前記区分け部材側の第1空間を通過するキャリアガスの一部を遮蔽し、前記第1空間の下部であり前記石英ルツボの上端を通る水平線までの間の前記カーボンルツボ側の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高める円筒形状の整流部と、前記整流部の下面に取り付けられ、前記カーボンルツボの上端に積載することで前記整流部を前記第1空間に保持すると共に、前記第2空間に相当する位置で前記キャリアガスを通過させる複数の脚部とを有する整流部材と、を備えることを特徴とする。
【0013】
前記円筒形状である整流部の内面は、前記整流部の外面方向に向かって下方に傾斜した傾斜面で構成されていることが好ましい。
【0014】
前記カーボンルツボの上端上面は前記カーボンルツボの内面から外面に向かって上方に傾斜した傾斜面で構成され、前記脚部の下面は、前記脚部の外面から内面に向かって下方に傾斜した傾斜面で構成され、前記傾斜面同士が係合するように前記脚部を前記カーボンルツボの上端に積載することが好ましい。
【0015】
本発明に係るシリコン単結晶の引上げ方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載のシリコン単結晶引上装置を用いて、シリコン単結晶を引上げることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、装置が煩雑化することなく、カーボンルツボから発生した炭素含有ガスを効率よく炉体外に排出することができ、製造コストの増加を招くことがなく、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができるシリコン単結晶引上装置及びそれを用いたシリコン単結晶の引上げ方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るシリコン単結晶引上装置の具体的な実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す整流部材40近傍を拡大した概略断面図である。
【図3】図1、2に示す整流部材40の具体的態様を示す概念図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のα方向から見た下面42b側の平面図である。
【図4】本発明に係るシリコン単結晶引上装置の具体的なその他の実施形態を示す整流部材40近傍を拡大した概略断面図である。
【図5】図2に示す整流部材40の脚部44をカーボンルツボ10bの上端10ba上に積載した際の好ましい態様を示す概略断面図である。
【図6】図1に示すカーボンルツボ10bが複数に分割されている場合のカーボンルツボ10bを示す上面概念図である。
【図7】整流部材40の複数の脚部44をカーボンルツボ10bの上面10baの分割線10b1b上に積載した様子と、分割線10b1b上に積載した複数の脚部44によりキャリアガスGが整流される様子を示す概念斜視図である。
【図8】実施例1、2及び比較例における炭素濃度の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るシリコン単結晶引上装置は、炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶引上装置であって、前記石英ルツボを内面に保持するカーボンルツボを備え、前記カーボンルツボの上端に積載されて設けられ、前記カーボンルツボの上端上方の第1空間を通過するキャリアガスの一部を遮蔽し、前記第1空間の下部であり前記カーボンルツボの上端直上の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高める円筒形状の整流部を備えた整流部材と、を備える。
【0019】
このように、本発明に係るシリコン単結晶引上装置は、前記カーボンルツボの上端に積載する整流部材を設けて、前記カーボンルツボの上端直上の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高めることで、石英ルツボとカーボンルツボとの間の界面付近やカーボンルツボの上端から発生する炭素含有ガスを前記流速が高まったキャリアガスの流れに乗せて流すことができるため、前記炭素含有ガスのシリコン融液への逆流を抑制することができる。従って、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができる。
また、本発明に係るシリコン単結晶引上装置は、炉体内の設計を大きく変更するわけではなく、前記整流部材をカーボンルツボの上端に積載するだけで足りるため、装置が煩雑化することがなく、装置自体は現存のものをそのまま使用することができる。従って、製造コストの増加を招くことがない。
【0020】
以下、本発明に係るシリコン単結晶引上装置の具体的な実施形態について添付図面を参照して、詳細に説明する。
図1は、本発明に係るシリコン単結晶引上装置の具体的な実施形態を示す概略断面図である。図2は、図1に示す整流部材40近傍を拡大した概略断面図である。図3は、図1、2に示す整流部材40の具体的態様を示す概念図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のα方向から見た下面42b側の平面図である。
【0021】
本実施形態に係るシリコン単結晶引上装置1は、図1に示すように、炉体3内で、石英ルツボ10aの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液5とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液5からシリコン単結晶Igを引上げる。
シリコン単結晶引上装置1は、カーボンルツボ10bと、加熱ヒータ15と、遮蔽部材20と、区分け部材25と、キャリアガス供給部30と、キャリアガス排出部35と、整流部材40と、を備える。
【0022】
カーボンルツボ10bは、石英ルツボ10aを内面に保持する。カーボンルツボ10bは、例えば、有底円筒形状で構成されている。
加熱ヒータ15は、カーボンルツボ10bの外周囲に配置され、カーボンルツボ10bを周囲から加熱する。加熱ヒータ15は、例えば、カーボン製の円筒形状で構成されている。
遮蔽部材20は、シリコン融液5の上方に保持され、前記引上げたシリコン単結晶Igへの輻射熱を遮蔽する。遮蔽部材20は、例えば、円筒形状で構成されたカーボン部材に全面をSiC(炭化ケイ素)コートしたものが用いられる。
区分け部材25は、遮蔽部材20の外周囲に配置され、前記遮蔽部材20を前記シリコン融液5の上方に保持すると共に、前記遮蔽部材20の外周囲において前記炉体3内の空間を上部空間と下部空間に区分けする。区分け部材25は、例えば、中空円板形状であるCIP材で構成されている。
【0023】
加熱ヒータ15の外周囲には加熱ヒータ15と一定の間隔を有して第1保温部材17が設けられ、更に、加熱ヒータ15の上方には加熱ヒータ15と一定の間隔を有して第1保温部材17の上端に積載されて保持された第2保温部材19が設けられており、前記区分け部材25は、前記第2保温部材19の上面に取り付けられている。前記第1保温部材17及び第2保温部材19は、例えば、円筒形状の断熱材で構成されている。
【0024】
キャリアガス供給部30は、遮蔽部材20の上方に配置され、前記遮蔽部材20の内面、前記遮蔽部材20と前記シリコン融液5との間及び前記石英ルツボ10aと前記区分け部材25との間を流れるキャリアガスG(好ましくはアルゴンガス)を前記炉体3内に供給する。キャリアガス供給部30は、例えば、バタフライ弁31を介して、炉体3に設けられたキャリアガス供給口32にキャリアガスGを供給するキャリアガス供給装置(例えば、キャリアガス供給ポンプ)33が接続されている。
【0025】
キャリアガス排出部35は、カーボンルツボ10bの下方に配置され、前記石英ルツボ10aと前記区分け部材25との間を流れたキャリアガスGを前記炉体3外に排出する。キャリアガス排出部35は、例えば、バタフライ弁36を介して、炉体3に設けられたキャリアガス排出口37からキャリアガスGを排出するキャリアガス排出装置(例えば、キャリアガス排出ポンプ)38が接続されている。
【0026】
整流部材40は、カーボンルツボ10bの上端10baに積載されて設けられ、前記カーボンルツボ10bの上端10baと前記区分け部材25との間の前記区分け部材25側の第1空間S1を通過するキャリアガスGの一部を遮蔽し、前記カーボンルツボ10bの上端10baと前記区分け部材25との間の前記第1空間S1の下部であり前記石英ルツボ10aの上端10aaを通る水平線Hまでの間の前記カーボンルツボ10b側の第2空間S2を通過するキャリアガスGの流速を高める円筒形状の整流部42と、前記整流部42の下面42bに取り付けられ、前記カーボンルツボ10bの上端10baに積載することで前記整流部42を前記第1空間S1に保持すると共に、前記第2空間S2に相当する位置で前記キャリアガスGを通過させる複数の脚部44とを有する。
複数の脚部44は、円筒形状の整流部42の下面42bにおいて円状に等間隔(図3(b)の例では4つ)に固定又は着脱可能に複数取り付けられている。
【0027】
炉体3内には、シリコン単結晶Igを引上げるために用いられるシード(図示せず)を保持するシードチャック45が取り付けられた引上用ワイヤ46が、石英ルツボ10aの上方に設けられている。引上用ワイヤ46は、炉体3外に設けられた回転昇降自在なワイヤ回転昇降機構47に取り付けられている。また、カーボンルツボ10b(カーボンルツボ10bの内面に保持している石英ルツボ10aも含む)は、炉体3の底部を貫通し、炉体3外に設けられたルツボ回転昇降機構50によって回転昇降可能なルツボ回転軸51に取付けられている。
【0028】
本発明に係るシリコン単結晶引上装置1は、上述したような整流部材40を備えているため、第2空間S2を通過するキャリアガスGの流速を高めることができる。従って、石英ルツボ10aとカーボンルツボ10bとの間の界面付近やカーボンルツボ10bの上端10baから発生する炭素含有ガスを前記流速が高まったキャリアガスGの流れに乗せてキャリアガス排出部35方向に流すことができるため、前記炭素含有ガスのシリコン融液5への逆流を抑制することができる。従って、カーボンルツボ10bから発生した炭素含有ガスを効率よく炉体3外に排出することができるため、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができる。
また、本発明に係るシリコン単結晶引上装置1は、炉体3内の設計を大きく変更するわけではなく、整流部材40をカーボンルツボ10bの上端10ba上に積載するだけで足りるため、装置が煩雑化することがなく、また、遮蔽部材20の形状を、使用する石英ルツボ10aの仕様に合わせて設計する必要がないため、製造コストの増加を招くことがない。
【0029】
前記円筒形状の整流部42の上端42aと前記区分け部材25との間は、空隙42c(高さX1)を備えることが好ましい。
このような構成とすることで整流部42の上端42aと区分け部材25の間(空隙42c)においてもキャリアガス排出部35方向へのキャリアガス流れ(図1中、L)を設けることが出来ると共に、前記整流部42により、前記空隙42cを流れるキャリアガスGの流速も高めることができる。従って、当該空隙42cからの前記炭素含有ガスの逆流を抑制することができる。
【0030】
前記カーボンルツボ10bの上端10baを通る水平線Hは、図2に示すように、前記加熱ヒータ15の上端15aを通る水平線Hより上方に設けられていることが好ましい。
このような構成とすることで、前記第2空間S2から加熱ヒータ15を遠ざけることができるため、加熱ヒータ15から発生する不純物ガス(加熱ヒータ15がカーボン製である場合は炭素含有ガス)のシリコン融液5への逆流を更に抑制することができる。
【0031】
前記整流部材40(整流部42及び脚部44)は、耐熱性が高く、炭素含有ガスを発生させない材料(好ましくは、SiC部材、又は、カーボン(黒鉛)部材の全表面にSiCをコートしたコート部材)で構成されていることが好ましい。
このような材料とすることで、炭素含有ガスの発生を防止することが出来ると共に、シリコン単結晶の引上げ中であっても、前記整流部材40が熱変形等することなく、シリコン単結晶の引上げを行う事ができる。
【0032】
整流部42の高さX2、第2空間S2の高さX3及び前述した前記空隙42cの高さX1は、引上げるシリコン単結晶の結晶径、キャリアガス供給部30から供給されるキャリアガスの供給量や炉体3内の炉内圧によって適時設計することができる。
【0033】
図4は、本発明に係るシリコン単結晶引上装置の具体的なその他の実施形態を示す整流部材40近傍を拡大した概略断面図である。
図4に示す整流部材40は、図2に示す整流部42が42Aに置き換わった構造を有している。その他は、図2に示す整流部材40と同様であるため説明を省略する。
【0034】
前記円筒形状である整流部42Aの内面42dは、前記整流部42Aの外面42e方向に向かって下方に傾斜した傾斜面で構成されていることが好ましい。
このような構成とすることで、第1空間S1を通過するキャリアガスGの一部を遮蔽し、当該遮蔽したキャリアガスGを前記第2空間S2方向に整流しやすくなるため、前記第2空間S2を通過するキャリアガスGの流速をより高めることができるため好ましい。
【0035】
前記整流部42Aの内面42dの傾斜面における傾斜角度(図4中、θ1)は、15°以上45°以下であることが好ましい。
このような範囲とすることで、当該遮蔽したキャリアガスGを前記第2空間S2方向に効率よく整流することができる。
【0036】
図5は、図2に示す整流部材40の脚部44をカーボンルツボ10bの上端10ba上に積載した際の好ましい態様を示す概略断面図である。
前記カーボンルツボ10bの上端10ba上面は前記カーボンルツボ10bの内面10bcから外面10bbに向かって上方に傾斜した傾斜面で構成され、前記脚部44の下面44aは、前記脚部44の外面44bから内面44cに向かって下方に傾斜した傾斜面で構成され、前記傾斜面同士が係合するように前記脚部44を前記カーボンルツボ10bの上端10baに積載することが好ましい。
【0037】
通常、シリコン単結晶Igの引上げ終了後、石英ルツボ10aの内面にシリコン融液5が残存している場合は、冷却の際、シリコン融液5が膨張するため、カーボンルツボ10bが外面10bb方向に熱変形し広がる場合がある(図5中、Pa)。従って、当該熱変形が生じた場合でも、熱変形される力(Pa)を妨げない構成とすることで、カーボンルツボ10bの当該熱変形によるクラックや割れを抑制することができる。
【0038】
前記カーボンルツボ10bの上端10baの傾斜面の傾斜角度(図5中、θ2)は、5°以上30°以下であることが好ましい。
このような範囲とすることで、効率よく、前記カーボンルツボ10bの前記熱変形によるクラックや割れを抑制することができる。
【0039】
図6は、図1に示すカーボンルツボ10bが複数に分割されている場合のカーボンルツボ10bを示す上面概念図である。図7は、整流部材40の複数の脚部44をカーボンルツボ10bの上面10baの分割線10b1b上に積載した様子と、分割線10b1b上に積載した複数の脚部44によりキャリアガスGが整流される様子を示す概念斜視図である。
前記カーボンルツボ10bが、図6に示すように、底部中央に開口部10b1aが設けられ、該開口部10b1aの周囲で半径方向に延びる分割線10b1bにより2以上に分割された構成を有する場合は、図7に示すように、前記複数の脚部44を前記カーボンルツボ10bの上端10baの前記分割線10b1b上に積載することが好ましい。
このような構成とすることで、図7に示すように、前記脚部44においてもキャリアガスGを整流させることができる。
【0040】
従って、分割線10b1bへの前記キャリアガスGの供給を遮蔽することができるため、シリコン融液5から発生するSiOxガスの前記分割線10b1bへの供給を遮蔽することができる。従って、前記分割線10b1bにおけるカーボンルツボ10bの目減りを抑制することができるため、カーボンルツボ10bの長寿命化を図ることができる。更に、前記カーボンルツボ10bの上端10baの前記分割線10b1bの界面から発生する炭素含有ガスも前記脚部44により遮蔽することができるため、当該炭素含有ガスのシリコン融液5への逆流も抑制することができる。
【0041】
本発明に係るシリコン単結晶の引上げ方法は、上述したようなシリコン単結晶引上装置を用いて、シリコン単結晶を引上げることを特徴とする。
このような方法により行うことで、製造コストの増加を招くことがなく、低炭素濃度のシリコン単結晶を引上げることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
(実施例1)
図1及び図2に示すようなシリコン単結晶引上装置1を用いて、直径18インチの石英ガラスルツボに原料シリコンを充填し、キャリアガス供給部30から供給するキャリアガスGの供給量を80リットル/minに制御しつつ、前記整流部42の高さX2を7.5cm、前記第2空間S2の高さX3を1cmとした整流部材40(カーボン(黒鉛)部材の全表面にSiCをコートしたコート部材)を用いて、直径205mm、長さ800mmの直胴部を有するディスクリート用シリコン単結晶の引上げを行った。その後、固化率0%、50%、90%の位置での結晶中の炭素濃度[Cs]を測定した。炭素濃度[Cs]の測定は、フォトルミネッセンス測定により行った。
【0043】
(実施例2)
図4に示すような整流部42Aを有する整流部材40(傾斜角度θ1:30°、カーボン(黒鉛)部材の全表面にSiCをコートしたコート部材)を用いて、その他は実施例1と同様な方法にて、直径205mm、長さ800mmの直胴部を有するディスクリート用シリコン単結晶の引上げを行った。その後、実施例1と同様な方法により、固化率0%、50%、90%の位置での結晶中の炭素濃度[Cs]を測定した。
【0044】
(比較例)
図1及び図2に示すシリコン単結晶引上装置1のうち、整流部材40を用いないで、その他は実施例1と同様な方法にて、直径205mm、長さ800mmの直胴部を有するディスクリート用シリコン単結晶の引上げを行った。その後、実施例1と同様な方法により、固化率0%、50%、90%の位置での結晶中の炭素濃度[Cs]を測定した。
以上の実施例1、2及び比較例の評価結果を図8に示す。
【0045】
図9を見ても分かるように、整流部材40を用いた場合(実施例1、2)は、炭素濃度[Cs]が大きく低下することが認められる。更に、整流部42Aを有する整流部材40を用いた場合(実施例2)の方が更に炭素濃度[Cs]が低下することが認められる。
【0046】
(実施例3)
カーボンルツボ10bの上端10ba及び脚部44の下面44aの積載状態を図5に示すような構成(傾斜角度θ2:20°)として、その他は、実施例1と同様な方法にて、直径205mm、長さ800mmの直胴部を有するディスクリート用シリコン単結晶の引上げを行い、その後、シリコン融液が全体積の20%程度残存した状態で、シリコン融液の冷却を行った。この引上げ及び冷却を、毎回カーボンルツボ10bを変更して10回繰り返して行い、10本のディスクリート用シリコン単結晶を引上げた。
その後、引上げを行った各々において、整流部材40の積載位置におけるカーボンルツボ10bのクラックや割れの発生を目視で評価し、10回における発生率を算出した。
【0047】
(実施例4)
実施例1の引上げ(カーボンルツボ10bの上端10ba及び脚部44の下面44aの積載状態が図2に示すような構成(傾斜角度θ2:90°(不図示))として、その他は、実施例3と同様な方法にて、10本のディスクリート用シリコン単結晶を引上げた。
その後、引上げを行った各々において、整流部材40の積載位置におけるカーボンルツボ10bのクラックや割れの発生を目視で評価し、10回における発生率を算出した。
表1に、実施例3、4における評価結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1を見ても分かるように、カーボンルツボ10bの上端10ba及び脚部44の下面44aの積載状態を図5に示すような構成とすることで、カーボンルツボ10bのクラックや割れの発生率が低減することが認められる。
【符号の説明】
【0050】
1 シリコン単結晶引上装置
10a 石英ルツボ
10b カーボンルツボ
15 加熱ヒータ
20 遮蔽部材
25 区分け部材
30 キャリアガス供給部
35 キャリアガス排出部
40 整流部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶引上装置であって、
前記石英ルツボを内面に保持するカーボンルツボを備え、
前記カーボンルツボの上端に積載されて設けられ、前記カーボンルツボの上端上方の第1空間を通過するキャリアガスの一部を遮蔽し、前記第1空間の下部であり前記カーボンルツボの上端直上の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高める円筒形状の整流部を備えた整流部材と、
を備えることを特徴とするシリコン単結晶引上装置。
【請求項2】
炉体内で、石英ルツボの内面に保持された原料シリコンを溶融してシリコン融液とし、チョクラルスキー法により前記シリコン融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶引上装置であって、
前記石英ルツボを内面に保持するカーボンルツボと、
前記カーボンルツボの外周囲に配置され、前記カーボンルツボを周囲から加熱する加熱ヒータと、
前記シリコン融液の上方に保持され、前記引上げたシリコン単結晶への輻射熱を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材の外周囲に配置され、前記遮蔽部材を前記シリコン融液の上方に保持すると共に、前記遮蔽部材の外周囲において前記炉体内の空間を上部空間と下部空間に区分けする区分け部材と、
前記遮蔽部材の上方に配置され、前記遮蔽部材の内面、前記遮蔽部材と前記シリコン融液との間及び前記石英ルツボと前記区分け部材との間を流れるキャリアガスを前記炉体内に供給するキャリアガス供給部と、
前記カーボンルツボの下方に配置され、前記石英ルツボと前記区分け部材との間を流れたキャリアガスを前記炉体外に排出するキャリアガス排出部と、
前記カーボンルツボの上端に積載されて設けられ、前記カーボンルツボの上端と前記区分け部材との間の前記区分け部材側の第1空間を通過するキャリアガスの一部を遮蔽し、前記第1空間の下部であり前記石英ルツボの上端を通る水平線までの間の前記カーボンルツボ側の第2空間を通過するキャリアガスの流速を高める円筒形状の整流部と、前記整流部の下面に取り付けられ、前記カーボンルツボの上端に積載することで前記整流部を前記第1空間に保持すると共に、前記第2空間に相当する位置で前記キャリアガスを通過させる複数の脚部とを有する整流部材と、
を備えることを特徴とするシリコン単結晶引上装置。
【請求項3】
前記円筒形状である整流部の内面は、前記整流部の外面方向に向かって下方に傾斜した傾斜面で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコン単結晶引上装置。
【請求項4】
前記カーボンルツボの上端上面は前記カーボンルツボの内面から外面に向かって上方に傾斜した傾斜面で構成され、前記脚部の下面は、前記脚部の外面から内面に向かって下方に傾斜した傾斜面で構成され、前記傾斜面同士が係合するように前記脚部を前記カーボンルツボの上端に積載することを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のシリコン単結晶引上装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のシリコン単結晶引上装置を用いて、シリコン単結晶を引上げることを特徴とするシリコン単結晶の引上げ方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−201564(P2012−201564A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68925(P2011−68925)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(507182807)コバレントマテリアル株式会社 (506)
【Fターム(参考)】