説明

シリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置

【課題】シリコン基板に対して安価に且つ安定して高密度のテクスチャを形成可能なエッチング方法を得ること。
【解決手段】シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する添加剤と水とを含むアルカリ性のエッチング液をシリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するエッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施するシリコン基板のエッチング方法であって、1バッチ目の前記エッチング処理の終了後において、前回のバッチのエッチング処理における前記エッチング液中のシリコン濃度の増加量と、前回のバッチのエッチング処理終了後における前記エッチング液中へのアルカリ濃度の追加量と、の比が一定となるように、バッチ毎に前記エッチング液にアルカリを追加して前記エッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置に関し、特に、太陽光発電装置のセルとして用いられるシリコン基板の表面にテクスチャを形成する際に用いて好適なシリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電装置のセルにおいて、太陽光を効率良く吸収するためには、該装置を構成するシリコン基板に照射される光をできるだけ吸収する、すなわち光の反射率をできるだけ小さくすることが望ましい。このため、シリコン基板を高温のアルカリ性溶液やフッ酸と硝酸の混合液(以下フッ硝酸と呼ぶ)をエッチング液に用いてエッチングすることによって、アルカリ性溶液の場合は異方性エッチングのためシリコン基板の表面にテクスチャを形成し、フッ硝酸の場合は等方性エッチングのためシリコン基板の表面形状を制御している。すなわち、テクスチャを高密度で形成できれば、また表面形状を最適に制御できれば、光の反射率を小さくすることができ、その結果、太陽光を効率良くシリコン基板内に吸収することができる。なお、ここで言うテクスチャとは、シリコン基板の表面に形成する微小凹凸の総称である。
【0003】
通常、シリコン基板のエッチングを実施する場合はバッチ処理を行うことが一般的であるが、シリコン基板を投入する度にエッチング液の交換を実施することは薬液使用量やエッチング液作製時の時間を考慮すると効率的でないため、エッチング液の交換をせずに複数回のバッチ処理を行うこと(複数バッチ処理)を実施する必要がある。複数バッチ処理を実施する場合、エッチングを安定して実施するための方法として、たとえば特許文献1がある。特許文献1では、エッチング後にエッチングプロモータのフッ硝酸を添加し、さらにエッチング液の一部を引き抜いてエッチングインヒビターのヘキサフルオロ珪酸濃度を下げてヘキサフルオロ珪酸の濃度を調整して、引き続きエッチングを実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−210144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽電池の製造は大量生産を前提としており、複数バッチ処理が必須である。しかし、上記特許文献1ではエッチング液の一部を引き抜いているため、廃水量が増加して廃水処理の負荷が高くなる、という問題があった。さらに、エッチング液を一部抜き取ることによって、エッチングプロモータのフッ硝酸も系外へ排出されてしまい、その排出された分も追加してフッ硝酸を添加する必要があるため、薬液コストがかさむ、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、シリコン基板に対して安価に且つ安定して高密度のテクスチャを形成可能なシリコン基板のエッチング方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるシリコン基板のエッチング方法は、シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する添加剤と水とを含むアルカリ性のエッチング液をシリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するエッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施するシリコン基板のエッチング方法であって、1バッチ目の前記エッチング処理の終了後において、前回のバッチのエッチング処理における前記エッチング液中のシリコン濃度の増加量と、前回のバッチのエッチング処理終了後における前記エッチング液中へのアルカリ濃度の追加量と、の比が一定となるように、バッチ毎に前記エッチング液にアルカリを追加して前記エッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より少ない添加剤の添加量で、より少ないアルカリ性溶液の使用量で安定してシリコン基板表面にテクスチャを良好に形成させることができ、シリコン基板に対して安価に且つ安定して高密度のテクスチャを形成できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1におけるエッチング液のシリコンのモル濃度とNaOHのモル濃度との関係を示す特性図である。
【図2】図2は、バッチ処理回数に対するシリコン基板の表面における波長700nmの光の反射率(%)の変化を示す特性図である。
【図3】図3は、追加NaOH/増加Si比に対する波長700nmの光の反射率の変化を示す特性図である。
【図4】図4は、追加NaOH/増加Si比が1.6のときのシリコン基板表面の電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、追加NaOH/増加Si比が2.1のときの電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2にかかるウェットエッチング装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態3にかかるウェットエッチング装置の構成の一例を模式的に示す図である。
【図8−1】図8−1は、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬した場合のエッチング反応開始時における反応状態のイメージを模式的に示す図である。
【図8−2】図8−2は、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬していない場合のエッチング反応開始時における反応状態のイメージを模式的に示す図である。
【図9】図9は、テクスチャ形成添加剤にシリコン基板を浸漬するエッチング前処理とエッチング処理とを連続して実施する場合の処理方法を示す図である。
【図10】図10は、不純物(銅イオン)がエッチング液に混入した場合におけるエッチング前処理の有無による複数バッチ処理後の波長700nmの光の反射率の変化を示す特性図である。
【図11】図11は、ダメージエッチング済みのシリコン基板におけるエッチング前処理の有無による複数バッチ処理後の波長700nmの光の反射率の変化を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明にかかるシリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0011】
実施の形態1.
本発明者は、シリコン基板の表面光反射率を低減するために該シリコン基板の表面にテクスチャを形成するウェットエッチング処理において、添加剤を使用したアルカリ性条件下でのウェットエッチングの複数バッチ処理について検討した。その結果、エッチング液中のシリコン濃度に合わせてアルカリ性溶液を追加することにより、複数バッチ処理でシリコン基板表面に良好にテクスチャを形成できることを見出した。
【0012】
シリコン基板のケイ素(Si)は、エッチング液中で水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリと反応してエッチング液中に溶出し、これによりシリコン基板の表面にテクスチャが形成される。このエッチング反応は下記の数式(1)で示され、その際、水素ガスが発生する。また、この反応を促進するため、ウェットエッチングは通常は高温、高濃度アルカリの条件下で実施される。数式(1)において、OHがエッチングプロモータであり、Si(OH)2−がエッチングインヒビターである。
【0013】
【数1】

【0014】
テクスチャ形成のためにエッチング液中に添加される添加剤(テクスチャ形成添加剤)は、化学反応的にはエッチング反応に関与しないが、適度にシリコン基板表面でのエッチング反応を阻害して、テクスチャの形成に寄与する。また、テクスチャを形成させるためには異方性を高める、すなわち結晶面の違い(例えば(100)、(111)等)によってエッチング速度に差を生じさせることが必要条件であり、そのためにはアルカリの濃度をエッチング反応が進むレベルでできるだけ低くするほうが良い。逆にアルカリの濃度が高くなると、例えばNaOH濃度が0.8(モル:M)を超えると異方性が弱くなって、シリコンが未溶解の場合でも効率的にテクスチャを形成できなくなる。
【0015】
一方、エッチング反応が進むと、シリコン基板のシリコンがエッチング液中に溶解して、Si(OH)2−がエッチング液中に蓄積する。Si(OH)2−はエッチングインヒビターであり、上記数式(1)のエッチング反応を阻害する。すなわちエッチング反応が進みにくくなる。
【0016】
本発明者は、シリコン基板の表面にテクスチャを形成するウェットエッチング処理において、テクスチャ形成添加剤を使用したアルカリ性条件下でのウェットエッチングの複数バッチ処理を実施できる方法として、エッチングプロモータであるアルカリ性溶液をエッチングインヒビターであるSi(OH)2−の濃度に合わせてバッチ処理毎に追加することによって、アルカリ性溶液(例えばNaOH)の濃度が高くなっても異方性を保ってシリコン基板に効率的にテクスチャを形成できることを見出した。すなわち、エッチング液中に溶解したエッチングインヒビターであるシリコンSi(OH)2−はエッチング反応を抑制するが、アルカリ性溶液の異方性の作用を打ち消すものではない。また、テクスチャ形成添加剤もエッチングインヒビターであるシリコンに影響されない。
【0017】
また、アルカリ性溶液を使用したシリコン基板のエッチング反応は高温下で実施するため、アルカリ性溶液をバッチ処理毎にアルカリ性溶液(もしくは固体)を追加しても水が蒸発するためエッチング液量が増えることはないことから、エッチング液の一部を排出する必要がなく、廃水処理への負荷が抑制される。
【0018】
図1は、NaOH溶液をエッチング液に用いてシリコン基板の表面にテクスチャを形成するウェットエッチング処理を連続20バッチ実施する際のエッチング液のシリコンのモル濃度とNaOHのモル濃度との関係を示す特性図である。図1に示した数式においてxはシリコンのモル濃度(モル:M)、yはNaOHのモル濃度(モル:M)である。ここでは、エッチング開始時に所定の濃度(0.2968M)のNaOH溶液を調製している。
【0019】
そして、1バッチ目のエッチング処理の終了後においては、前回のバッチのエッチング処理におけるエッチング液中のシリコン濃度の増加量と、前回のバッチのエッチング処理終了後におけるエッチング液中へのアルカリ濃度の追加量と、の比(NaOHのモル濃度の追加量Δy/シリコンのモル濃度の増加量Δx、(モル/モル)、以下、追加NaOH/増加Si比と呼ぶ)が一定(所定の比率)となるように、エッチング液の交換をせずにエッチング液にNaOHを追加してエッチング液を再調製している。すなわち、図1においては、エッチングを開始する際のNaOHのモル濃度(オフセット値、ここでは0.2968)を除いて、xとyとが所定の比率の比例関係にある。ここでは、追加NaOH/増加Si比の所定の比率が、1.6倍となるようにアルカリ性溶液を追加している。
【0020】
図2は、バッチ処理回数に対するシリコン基板の表面における波長700nmの光の反射率(%)の変化を示す特性図である。図1に示すように、シリコンのモル濃度に応じてNaOHをバッチ処理毎に追加添加した。このとき、図2に示すように、波長700nmの光の反射率はほぼ10%で安定し、シリコン基板の表面に良好なテクスチャが形成されたと考えられる。
【0021】
また、エッチング開始後における上記追加NaOH/増加Si比が、1.0〜3.0となるようにNaOHを追加することが好ましい。このような条件とすることにより、エッチング液中のシリコン濃度に見合ったアルカリを補充できるため、アルカリ濃度が初期のバッチ時の濃度より高くなっても、エッチングの異方性を確保でき、高密度のテクスチャを連続して安定して形成できる。
【0022】
なお、以下に示す条件に限らず、最初のバッチでテクスチャをシリコン基板表面に均一に形成できる条件であれば、上記追加NaOH/増加Si比の範囲は有効である。さらに、エッチング液を交換した後の最初のバッチにおいては、液交換前のエッチング液が一部残っている、すなわち配管やポンプの中等の残留するエッチング液中にSi(OH)2−が一部残存している場合もあるが、それも含めて追加NaOH/増加Si比を上記の範囲に設定すればよい。
【0023】
図3は、追加NaOH/増加Si比に対する波長700nmの光の反射率(%)の変化を示す特性図である。ここでは、追加NaOH/増加Si比に対する、20バッチ目の単結晶シリコン基板の波長700nmの光反射率の変化を表している。エッチング条件は、テクスチャ形成添加剤として1,6−ヘキサンジオールを50mM、エッチング前のNaOH濃度:1.6wt%、エッチング液温度:90℃、エッチング時間:30分、各バッチのシリコン基板枚数:30枚とした。20バッチ処理したので600枚のウェハを使用した。
【0024】
図3から分かるように、追加NaOH/増加Si比が1.0より小さいと、NaOHがシリコンに対して不足してエッチング反応が進まなくなり、反射率が増加する。一方、追加NaOH/増加Si比が3.0より大きいと、NaOHが過剰となってエッチングの異方性が弱くなり、テクスチャが形成されず、反射率が増加する。
【0025】
図4は、追加NaOH/増加Si比が1.6のときのシリコン基板表面の電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)である。図5は、追加NaOH/増加Si比が4.1のときの電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)である。図4に示すように、追加NaOH/増加Si比が1.6の場合は、ピラミッド状の高密度のテクスチャが形成されていることが確認された。一方、図5に示すように、追加NaOH/増加Si比が4.1の場合は、ピラミッド状のテクスチャ間に隙間が生じている。この場合は、シリコン基板表面の光反射率は低下すると考えられる。
【0026】
以上のことから、太陽発電装置のセルを構成するシリコン基板のエッチング方法において、水とテクスチャ形成添加剤を含むアルカリ性溶液を用いて、エッチングインヒビターであるエッチング液中のシリコンの濃度の増加量とエッチングプロモータであるアルカリの濃度の追加量との追加NaOH/増加Si比が一定となるようにバッチ処理毎にアルカリ性溶液を追加してエッチングを行うことによって、シリコン基板のエッチングを複数バッチにわたって安定して実施でき、効率的にシリコン基板表面にテクスチャを形成できる、という効果が得られる。さらに、エッチング液の廃水量も削減でき、廃水処理への負荷を低減できる、という効果が得られる。
【0027】
なお、本発明のエッチングに使用するテクスチャ形成添加剤である1,6−ヘキサンジオールは、ヘキサメチレングリコールとも言うが、本明細書では1,6−ヘキサンジオールという名称を使用する。
【0028】
また、本発明のエッチングに使用するアルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液および水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)溶液等の強塩基のいずれか少なくとも一つを使用することが好ましい。
【0029】
また、本発明のエッチングに使用する添加剤(テクスチャ形成添加剤)は、1,6−ヘキサンジオールに限らず、例えばイソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル2−プロパノール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1−ペンタノール、2−ペンタノール(sec−アミルアルコール)、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール(イソアミルアルコール)、2−メチル−2−ブタノール(tert−アミルアルコール)、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1,2−ヘキサンジオール、1,3−ヘキサンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、2,4−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ヘキサントリオール、1,2,5−ヘキサントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,3,6−ヘキサントリオール、2−メチル−1−ペンタノール、3−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ペンタノール、2−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、5−ヘプタノール、6−ヘプタノール、7−ヘプタノール、8−ヘプタノール、2,4−ジメチル−3−ペンタノール1,2−ヘプタンジオール、1,3−ヘプタンジオール、1,4−ヘプタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘプタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、2,3−ヘプタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2,5−ヘプタンジオール、2,6−ヘプタンジオール、2,7−ヘプタンジオール、3,4−ヘプタンジオール、3,5−ヘプタンジオール、3,6−ヘプタンジオール、3,7−ヘプタンジオール等およびこれらに挙げた物質以外の異性体(同一炭素数で直鎖または側鎖のあるものおよび/またはOH基の位置が異なるもの)が挙げられる。さらにアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、蟻酸、プロピオン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、カプロン酸、吉草酸、乳酸等の有機酸およびその塩等が挙げられる。
【0030】
このようなエッチングによるテクスチャの形成は、シリコン基板などの半導体ウェハを用いて構成される太陽光発電装置や、シリコン薄膜などの半導体薄膜を有する太陽光発電装置の製造方法に適用することができる。たとえば、第1導電型の半導体ウェハの第1の主面にテクスチャを形成するテクスチャ形成工程と、テクスチャを形成した半導体ウェハの表面に第2導電型の拡散層を形成する拡散層形成工程と、半導体ウェハの端面に形成された拡散層を除去する拡散層除去工程と、半導体ウェハの第1の主面上に反射防止膜を形成する反射防止膜形成工程と、半導体ウェハの第1の主面および第1の主面に対向する第2の主面上に所定の形状の電極を印刷して焼成する電極形成工程と、を含む太陽光発電装置の製造方法におけるテクスチャ形成工程で、上述した方法を用いて半導体ウェハの第1の主面をエッチングすることによって、均一なテクスチャを形成することができる。
【0031】
上述した実施の形態1においては、水とテクスチャ形成添加剤とを含むアルカリ性溶液をエッチング液に用いた複数バッチ処理によりシリコン基板の表面をエッチングする際に、シリコン濃度に応じてNaOH等のアルカリ性溶液を追加してエッチングを実施する、すなわち、エッチングインヒビターであるエッチング液中のシリコンの濃度の増加量とエッチングプロモータであるアルカリの濃度の追加量との追加NaOH/増加Si比が一定となるようにバッチ処理毎にアルカリ性溶液を追加してエッチングを実施するので、複数バッチ数の処理でもシリコン基板の表面に効率的に安定してテクスチャを形成できる。
【0032】
これにより、実施の形態1によれば、より少ない添加剤の添加量で、より少ないアルカリ性溶液の使用量でプロセスとして安定してシリコン基板表面に高密度のテクスチャを良好に形成させることができ、大量処理が可能となる。その結果、シリコン基板の光吸収量が高くなり、このシリコン基板を用いて製作した太陽光発電装置では電流値が増加し、光電変換効率が向上する。また、エッチング液の一部を排出する必要がなく、廃水処理への負荷が低減できる。さらにエッチング液を交換することなく複数回のバッチ数をエッチングできるため、エッチング液の交換回数が低減して、生産時間を長く確保できる。
【0033】
したがって、上述した実施の形態1によれば、低反射率を有するシリコン基板の大量生産を効率的に実施でき、太陽光発電装置に好適なテクスチャを有するシリコン基板を大量に提供することができる。例えば10%以下の光反射率を有するシリコン基板の大量生産を効率的に実施できる。
【0034】
なお、実施の形態1ではエッチング対象として単結晶のシリコン基板について示したが、多結晶のシリコン基板についても上記と同様の効果が得られることを確認している。
【0035】
上記の実施の形態1では、複数バッチ処理による効率的なテクスチャ形成方法について説明した。以下の実施の形態2および3では、実施の形態1で説明したシリコン基板のエッチング方法を実現するエッチング装置について説明する。
【0036】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2にかかるウェットエッチング装置の構成の一例を模式的に示す図である。ウェットエッチングを行うエッチング槽1には、アルカリ供給部10と、テクスチャ形成添加剤供給部20と、純水供給配管40と、気体供給部50とが接続されている。
【0037】
アルカリ供給部10は、エッチング槽1に接続されるアルカリ供給配管11を有し、このアルカリ供給配管11の端部にアルカリ貯留槽12を備える。また、アルカリ供給部10は、アルカリ貯留槽12とエッチング槽1との間のアルカリ供給配管11上に、アルカリ貯留槽12からアルカリをエッチング槽1へと供給するアルカリ供給ポンプ13を備える。アルカリ貯留槽12は、たとえば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を貯留する。
【0038】
テクスチャ形成添加剤供給部20は、エッチング槽1に接続される添加剤供給配管21を有し、この添加剤供給配管21の端部に添加剤貯留槽22を備える。また、テクスチャ形成添加剤供給部20は、添加剤貯留槽22とエッチング槽1との間の添加剤供給配管21上に、添加剤貯留槽22から添加剤をエッチング槽1へと供給する添加剤供給ポンプ23を備える。添加剤貯留槽22は、実施の形態1で説明したテクスチャ形成添加剤(以下、添加剤と呼ぶ場合がある)を貯留する。
【0039】
純水供給配管40は、エッチング槽1へイオン交換水、蒸留水、または純水を供給する。また、気体供給部50は、エッチング槽1の底部付近に設けられる気体放出部51と、気体放出部51に接続される気体供給配管52とを有する。気体放出部51は、エッチング処理対象物72よりも下に位置するように配置されればよい。なお、気体放出部51として、小さい気泡を供給することができる装置であることが望ましい。
【0040】
また、エッチング槽1には温度制御部60が設けられている。この温度制御部60は、エッチング槽1内に設けられてエッチング槽1内のエッチング液を加熱するヒータ61と、エッチング槽1の外部に設けられるヒータ熱源62と、ヒータ熱源62とヒータ61との間を接続するヒータ配線63と、を備える。また、温度制御部60は、エッチング槽1内に投入される温度測定部64と、温度測定部64で測定されたエッチング液の温度に基づいて、エッチング液が所望の温度となるようにヒータ熱源62の温度制御を行う温度計付温度調整器65と、を備える。なお、ヒータ熱源62と温度計付温度調整器65とは、温度調整用信号線66を介して接続されている。
【0041】
さらに、エッチング槽1内には、キャリア支持台71が、気体放出部51よりも上部となるように設けられている。キャリア支持台71には、シリコン基板などのエッチング処理対象物72を複数保持するキャリア73が載置される。たとえば、1台のキャリア73には10枚〜100枚のシリコン基板を保持することが可能である。キャリア支持台71上には、たとえば1台〜10台のキャリア73を載置することができる。
【0042】
また、エッチング槽1には、オーバーフロー槽81が併設されている。このオーバーフロー槽81は、エッチング液循環配管82によりエッチング槽1と接続されている。また、エッチング液循環配管82上には、エッチング槽1からオーバーフロー槽81にオーバーフローしたエッチング液を、エッチング液供給管85を介してエッチング槽1へと循環させるエッチング液循環ポンプ83が設けられている。さらに、エッチング槽1およびオーバーフロー槽81には、エッチング液を排出するドレーン84が接続されている。
【0043】
また、本エッチング装置には、シリコン濃度測定部101、制御部102、シリコン濃度信号線103およびポンプ信号線104が設けられている。また、ここではキャリア73は2台となっている。シリコン濃度測定部101は、エッチング液循環配管82上に設置され、シリコン濃度信号線103を介して制御部102と連結されている。制御部102は、ポンプ信号線104を介してアルカリ供給ポンプ13と接続されている。シリコン濃度測定部101は、連続的にシリコン濃度をモニタリングすることができる。
【0044】
つぎに、このエッチング装置の動作について説明する。まず、エッチング槽1に、純水供給配管40を介して純水を供給し、アルカリ供給部10からアルカリ性溶液を供給し、テクスチャ形成添加剤供給部20からはテクスチャ形成添加剤を供給する。具体的には、アルカリ供給部10では、アルカリ供給配管11を介してアルカリ供給ポンプ13によってアルカリ貯留槽12からエッチング槽1にアルカリ性溶液が供給される。また、テクスチャ形成添加剤供給部20では、添加剤供給配管21を介して添加剤供給ポンプ23によって添加剤貯留槽22からエッチング槽1に所定量の添加剤が供給される。
【0045】
なお、ここでは、エッチング槽1内に満たされるエッチング液が実施の形態1で説明した濃度範囲となるように、所定量の純水、アルカリ性溶液および添加剤が供給される。例えば、予め供給する純水、アルカリ性溶液および添加剤の供給流量を測定しておき、上記所定濃度範囲となるように供給時間を設定する方法がある。また、エッチング槽1には水位計(図示せず)を設置し、アルカリ性溶液および添加剤を供給した後、純水を供給し、ある水位になったら純水の供給を停止させてエッチング液量を一定に保つことが可能である。さらに、エッチング液は高温に維持されるため水分が蒸発してエッチング液量が低下するため、水位計の測定値に基づいて適宜自動的に純水が供給されるようにしておくことが好ましい。
【0046】
ついで、気体放出部51から気体供給配管52を介して気体がエッチング槽1内に連続的に供給される。ここでエッチング槽1内に供給される気体としては、空気、酸素、窒素、オゾン、水素、ヘリウム、アルゴン、クリプトン、キセノン、メタン、プロパンのうち少なくとも1つを含む気体が好ましい。
【0047】
また、オーバーフロー槽81にオーバーフローしたエッチング液が、エッチング液循環ポンプ83によってエッチング液循環配管82を介してエッチング液供給部90からエッチング槽1に送られて循環される。エッチング液供給部90には、エッチング液がエッチング槽1内に均一に行き渡るように、適当な大きさの穴が適当な間隔で開けられている。さらに、ヒータ61によってエッチング槽1内のエッチング液を所定温度まで加熱する。
【0048】
ついで、図示しないロボットアームなどの搬送機構が、エッチング処理対象物72である単結晶のシリコン基板が収納された1台〜複数台のキャリア73(図6では2台)をエッチング槽1に投入してキャリア支持台71に載置する。そして、シリコン基板を所定時間浸漬して、シリコン基板に対してウェットエッチング処理を実施する。所定時間経過後、再度ロボットアームなどによってエッチング槽1からキャリア73を引き上げる。引き上げられた1バッチ目のキャリア73は、次工程に送られる。
【0049】
その際、シリコン基板は予めダメージエッチング処理が実施されていることが好ましい。ダメージエッチング処理としては、所定時間だけシリコン基板をアルカリ性溶液(例えばNaOH濃度として3wt%〜10wt%、温度:70℃〜90℃、ダメージエッチング時間:1分〜5分)に浸漬するなどの方法がある。しかし、ダメージエッチングが無い場合でも可能である。
【0050】
エッチング処理を実施中、シリコン濃度測定部101においてエッチング液循環配管82を流れるエッチング液中のシリコン濃度を赤外分光法(IR)で測定する。測定されたエッチング液中のシリコン濃度の値は、シリコン濃度信号線103を介して随時制御部102へ送られる。
【0051】
制御部102は、バッチ処理完了時またはエッチング処理を実施中に、追加が必要なアルカリ量をエッチング液中のシリコン濃度の測定値に基づいて算出する。算出した必要なアルカリ量の情報(追加量情報)は、ポンプ信号線104を介して制御部102からアルカリ供給ポンプ13に送られる。
【0052】
アルカリ供給ポンプ13は、制御部102から送られた必要なアルカリ量の情報(追加量情報)に基づいて、バッチ完了時またはエッチング処理を実施中に、一括してまたは連続的にアルカリ貯留槽12からアルカリ供給配管11を介してアルカリ性溶液をエッチング槽1へ追加供給する。
【0053】
そして、エッチング液循環ポンプ83によってエッチング槽1内が撹拌されて、追加供給されたアルカリ性溶液がエッチング槽1内のエッチング液と混合される。
【0054】
ついで、同様に別のシリコン基板が収納された1台〜複数台のキャリア73がロボットアームなどによってエッチング槽1に投入されて、順次エッチング処理が実施される。所定バッチ数のウェットエッチング処理が完了すると、エッチング槽1内のエッチング液はドレーン84を介して排出される。これにより、一連の複数バッチ処理が終了する。
【0055】
その後、上記の通り新たにエッチング液がエッチング槽1に調製され、上記と同様にして次ロットの複数バッチ処理が行われる。また、エッチングが終了したシリコン基板は、純水等で洗浄し、フッ酸で中和処理し、再度純水等で洗浄した後、乾燥させる。
【0056】
なお、バッチ数はシリコン基板のエッチング速度や処理時間などから決定される。また、エッチング処理の時間はバッチ数毎に変えることも可能であるが、追加するアルカリ性溶液の濃度と添加量とを調整することにより、エッチング処理時間を一定にすることも可能である。
【0057】
ここで、エッチング槽1に供給されるアルカリと添加剤は液体の方が好ましいが、固体を純水などに溶解させて供給してもよいし、固体を直接エッチング槽1に所定量投入してもよい。添加剤として1,6−ヘキサンジオールを用いる場合は、1,6−ヘキサンジオールは常温では固体であるため、純水等に予め溶解させて液体として供給する。液体の1,6−ヘキサンジオールの濃度は10wt%〜80wt%程度が好ましく、この濃度範囲であれば0℃でも固化しない。また、手作業もしくは機械等を使用して固体の状態で1,6−ヘキサンジオールを直接エッチング槽1へ投入してもよい。
【0058】
また、1バッチ前とバッチ処理後とに供給するアルカリは同一のアルカリ貯留槽12から供給してもよく、別々のアルカリ貯留槽12から供給してもよい。アルカリ貯留槽12を別々に設ける場合は、例えばバッチ処理後に供給するアルカリの供給設備が必要となる。
【0059】
また、エッチング反応で溶解したエッチング液中のシリコンは、別途乾燥、凝集沈澱などによって回収することが可能である。そして、シリコンを除いたエッチング液に再度アルカリを添加してエッチング液を再利用することも可能である。これによって、純水、添加剤の使用量を抑制できるだけでなく、廃水処理への負荷も低減できる。さらに、上述した説明では、バッチ式のエッチング処理について示したが、枚葉式でのエッチング処理も可能である。
【0060】
ここで、アルカリ性溶液や添加剤の供給については、添加剤供給ポンプ23やアルカリ供給ポンプ13を省略し、添加剤貯留槽22やアルカリ貯留槽12に秤量可能な機構を設けることも可能である。例えば、ポンプ(図示せず)により所定量の添加剤やアルカリ性溶液を外部からそれぞれ添加剤貯留槽22やアルカリ貯留槽12に供給する。この所定量は、添加剤貯留槽22やアルカリ貯留槽12の秤量機能で測定できる。続いて、添加剤貯留槽22やアルカリ貯留槽12に貯留した添加剤およびアルカリ性溶液を、添加剤貯留槽22やアルカリ貯留槽12に設定している弁(図示せず)を開けてそのままエッチング槽1へ落として供給する。
【0061】
なお、シリコン濃度はエッチング時に発生した水素ガス量の測定結果やエッチング前後のシリコン基板の重量の変化などから間接的に算出してもよく、エッチング液中のシリコン濃度を直接測定してもよい。また、予め実施したエッチング処理でのシリコン基板の重量の変化から1バッチ終了後のアルカリ供給量を推測してもよい。
【0062】
上述した実施の形態2によれば、実施の形態1で説明したシリコン基板のエッチング方法を実現することが可能であり、実施の形態1にかかるシリコン基板のエッチング方法の効果を得ることができる。
【0063】
なお、実施の形態2ではエッチング対象として単結晶のシリコン基板について示したが、多結晶のシリコン基板についても上記と同様の効果が得られることを確認している。
【0064】
実施の形態3.
図7は、本発明の実施の形態3にかかるウェットエッチング装置の構成の一例を模式的に示す図である。このエッチング装置は、実施の形態2にかかるウェットエッチング装置の構成において、気体放出部51の代わりに微細気泡発生部53がエッチング槽1の外部に設けられている。また、微細気泡発生部53は、エッチング液供給管85上のエッチング槽1とエッチング液循環ポンプ83との間に設けられている。この微細気泡発生部53として、スリット式、多孔質板式、配列多孔板式、極細ニードル式、メンブレン式、加圧溶解式、ベンチュリ式などの気泡発生装置を用いることができる。また、気体供給配管52は、微細気泡発生部53に接続されている。なお、実施の形態2と同一の構成要素には同一の符号を付してその説明を省略している。
【0065】
このような構成とすることによって、オーバーフロー槽81にオーバーフローしたエッチング液をエッチング液循環ポンプ83でエッチング槽1に戻す際に、微細気泡発生部53で発生された微細気泡が含まれたエッチング液がエッチング槽1に戻されることになる。なお、気体としては空気を使用してもよいし、実施の形態1で説明した他の気体を用いてもよい。また、バッチ式のウェットエッチング処理だけでなく、枚葉式でのウェットエッチング処理にも適用可能である。
【0066】
上述した実施の形態3によれば、実施の形態2にかかるウェットエッチング装置と同様に実施の形態1で説明したシリコン基板のエッチング方法を実現することが可能であり、実施の形態1にかかるシリコン基板のエッチング方法の効果を得ることができる。
【0067】
さらに、実施の形態3によれば、エッチング槽1に戻されるエッチング液に含まれる気泡が微細化されることによりエッチング液の撹拌が促進され、シリコン基板の面内により均一にテクスチャを形成できることができる、という効果が得られる。
【0068】
実施の形態4.
実施の形態4では、実施の形態1〜3で示したシリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置を用いたエッチングにおいて、より均一に安定してシリコン基板にテクスチャを形成させる方法について説明する。
【0069】
シリコン基板のエッチング反応が進むと、エッチング液中に溶解したシリコンが蓄積される。さらに、シリコン基板に付着して持ち込まれる金属および有機物等の異物、また環境中から溶解する金属および有機物等の異物、さらにウェットエッチング装置内から発生、溶出する金属および有機物等の異物もエッチング液中に溶解する。このようなシリコンおよび異物の存在によってテクスチャの形成が良好に進まない場合がある。
【0070】
さらに、シリコン基板のスライス方法が変わることによって、シリコンの表面形状が異なる。そして、スライス方法が変わることによって、テクスチャの形成が良好に進まない場合がある。特に、シリコン基板の表面形状が滑らかになるほどテクスチャを均一に形成させることが難しくなる。
【0071】
そこで、エッチング液の状態(シリコンの溶解量や異物の混入量)やシリコン基板の種類(シリコン基板のスライス方法等の違いやシリコン基板内部の金属量)によってテクスチャの形成状況が異なるため、安定してテクスチャを形成できる方法が求められている。
【0072】
テクスチャの形成は、異方性を高め、かつその状態でエッチング反応を進めることが重要であるが、さらに、テクスチャを形成する最初の反応、すなわちエッチング反応がスタートする時点でのシリコン基板の表面状態が重要であることを本発明者はさらに新たに見出した。すなわち、シリコン基板の表面状態をテクスチャが形成されやすい状態にすることが、シリコン基板の面内に均一にテクスチャを形成できるポイントであり、エッチング反応終了までそのエッチング直前のシリコン基板の表面状態の差が影響を及ぼすことを見出した。エッチング反応の開始時点でシリコン基板の面内全体に均一に予めテクスチャ形成の起点を作っておくことで、テクスチャの形成をより進みやすくすることができる。
【0073】
そこで、本発明者は、エッチング前処理としてテクスチャ形成添加剤である1,6−ヘキサンジオールを含有する水溶液(濃度は0.1wt%〜80wt%)に予めシリコン基板を1秒〜300秒程度浸漬させ、その後水洗等を経ずに実施の形態1〜3で示したシリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置を使用してエッチングする方法が、均一に安定してシリコン基板にテクスチャを形成させるために効果的であることを見出した。
【0074】
このような処理を行うことによって、予めテクスチャ形成添加剤をシリコン基板上に面内均一に吸着させ、上記異物によるテクスチャの形成が阻害されることを防ぐとともに、シリコン基板の表面に吸着したテクスチャ形成添加剤がテクスチャ形成の起点となってテクスチャが形成されやすくなる。
【0075】
一方、予めテクスチャ形成添加剤をシリコン基板上に面内均一に吸着させなかった場合は、シリコン基板の表面にテクスチャ形成の起点が無く、かつ異物や溶解したシリコンによるテクスチャ形成の阻害が生じやすくなる。なお、上記1,6−ヘキサンジオールを含有する水溶液にシリコン基板を浸漬後、エッチング液に投入すると、浸漬時にシリコン基板に付着した1,6−ヘキサンジオールはエッチング液中に徐々に移動すると考えられる。しかしながら、エッチング反応が開始されるまでシリコン基板上にも1,6−ヘキサンジオールが残存しており、そこを起点にエッチングによるテクスチャの形成が開始され、上述したエッチング液中に存在する溶解したシリコンや異物によるシリコン基板の吸着を抑制、すなわちテクスチャ形成を妨げることを抑制し、かつテクスチャを形成しやすくできる。
【0076】
図8−1は、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬した場合のエッチング反応開始時における反応状態のイメージを模式的に示す図である。図8−2は、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬していない場合のエッチング反応開始時における反応状態のイメージを模式的に示す図である。
【0077】
図8−1に示されるように、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬した場合は、シリコン基板205の表面に1,6−ヘキサンジオール203が吸着しているため、異物(有機物)201、異物(金属)202や1,6−ヘキサンジオール203がシリコン基板205の表面に吸着することが抑制され、これらの不純物に起因したNaOHによるエッチングの阻害が抑制される。
【0078】
一方、図8−2に示されるように、エッチング処理前にシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液へ浸漬していない場合は、シリコン基板205の表面に1,6−ヘキサンジオール203が吸着していないため、異物(有機物)201、異物(金属)202や1,6−ヘキサンジオール203がシリコン基板205の表面に吸着することができ、これらの不純物に起因したNaOHによるエッチングが阻害される。
【0079】
図9は、テクスチャ形成添加剤にシリコン基板を浸漬するエッチング前処理とエッチング処理とを連続して実施する場合の処理方法を示す図である。エッチング前処理とエッチング処理とを連続して実施する場合は、図9に示されるように、キャリア73にエッチング対象72であるシリコン基板を50枚セットし、濃度50wt%の1,6−ヘキサンジオールを含有する水溶液が入った前処理槽111に搬送機112を用いてキャリア73を30秒浸漬させる。キャリア73を浸漬させている際、搬送機112はキャリア73を保持したままでもよく、また離していてもよい。
【0080】
キャリア73を所定時間浸漬した後、搬送機112を用いてキャリア73を前処理槽111から引き上げる。つぎに、搬送機112を用いてキャリア73をエッチング槽1に浸漬させ、テクスチャを形成させるエッチングを実施する。エッチング槽1のエッチング液は、予めNaOH濃度、1,6−ヘキサンジオール濃度、温度が調整されている。エッチング槽1によるエッチングには、例えば実施の形態2および実施の形態3で説明したウェットエッチング装置を用いることができる。
【0081】
エッチング槽1においてテクスチャを形成させるエッチングを実施した後は、シリコン基板を純水で洗浄し、フッ過水素酸で表面の酸化膜を除去して、乾燥させる(図示せず)。
【0082】
図10は、不純物(銅イオン)がエッチング液に混入した場合におけるエッチング前処理の有無による複数バッチ処理後の波長700nmの光の反射率の変化を示す特性図である。図10に示す結果は、as slice(ワイヤーソーでスライスしたままの)シリコン基板に対して20回の複数バッチ処理を行った結果である。エッチング前処理としては、テクスチャ形成のエッチング前に予めシリコン基板を50wt%の1,6−ヘキサンジオール溶液に30秒間浸漬した。また、エッチング前処理を実施した場合および実施しない場合において、エッチング条件は同条件である。
【0083】
図10に示すように、エッチング前処理を実施した場合は、バッチ処理を重ねていっても全てのバッチにおいて波長700nmの光の反射率が10%〜11%台となった。一方、エッチング前処理を実施しない場合は、バッチ処理を重ねていくにつれて光の反射率が増加していく結果となった。これにより、エッチング前処理としてテクスチャ形成のエッチング処理前に予めシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液に浸漬させて、基板表面にテクスチャの起点を形成するとともに、不純物によるテクスチャ形成の阻害を抑制することができたことを確認できた。
【0084】
さらに、予めNaOHのみでエッチングしてダメージ層を除去して表面を平滑化したシリコン基板について、エッチング前処理の有無による影響を検討した。図11は、ダメージエッチング済みのシリコン基板におけるエッチング前処理の有無による複数バッチ処理後の波長700nmの光の反射率の変化を示す特性図である。図11に示す結果は、ダメージエッチング済みのシリコン基板に対して20回の複数バッチ処理を行った結果である。エッチング前処理としては、テクスチャ形成のエッチング前に予めシリコン基板を50wt%の1,6−ヘキサンジオール溶液に30秒間浸漬した。また、エッチング前処理を実施した場合および実施しない場合において、エッチング条件は同条件である。
【0085】
図11に示すように、エッチング前処理を実施した場合は、バッチ処理を重ねていっても全てのバッチにおいて波長700nmの光の反射率が10%〜11%台となった。一方、エッチング前処理を実施しない場合は、バッチ処理を重ねていくにつれて光の反射率が増加していく結果となった。これにより、シリコン基板の表面が平滑でテクスチャ形成の起点が少ない場合でも、テクスチャ形成のエッチング処理前にエッチング前処理として予めシリコン基板を1,6−ヘキサンジオール溶液に浸漬することによって、安定してテクスチャを形成できることが確認できた。
【0086】
なお、図10および図11に示したテクスチャ形成のエッチング条件は共通であり、NaOH濃度2wt%、エッチング液温度87℃、テクスチャ形成槽での1,6−ヘキサンジオール投入量2wt%、エッチング時間25分である。さらに、NaOHをバッチ毎に補給する量は、上記追加NaOH/増加Si比が2.0となるようにした。また、エッチング処理の1バッチのシリコン基板は50枚、エッチング液量は35Lである。
【0087】
上述した実施の形態4によれば、実施の形態1〜3で示したシリコン基板のエッチング方法およびエッチング装置を用いたエッチングにおいて、テクスチャ形成のエッチング前に予めテクスチャ形成の起点を成すテクスチャ形成添加剤をシリコン基板に接触、保持させるエッチング前処理を実施することにより、エッチング液中のシリコン、金属、有機物等の不純物に影響されることなく、高密度のテクスチャを安定して形成できる。その結果、シリコン基板の光吸収量が高くなり、このシリコン基板を用いて製作した太陽光発電装置では電流値が増加し、光電変換効率が向上する。
【0088】
なお、エッチング前処理で使用可能な薬品は、1,6−ヘキサンジオールのみならず、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、アセトン等のケトン類および有機酸もしくはその塩も使用できる。ただし、最も効果のあるのは1,6−ヘキサンジオールであり、沸点が低いIPA等を使用する場合は、揮発することによって減少した量を補充する必要がある。また、1,6−ヘキサンジオールのように揮発しなくても、シリコン基板やキャリアによって前処理槽の液体が槽外へ持ち出されるため、適宜補充する必要がある。また、エッチング前処理としての効果は1,6−ヘキサンジオールがシリコン基板の表面に付着していればよいので、浸漬に限らず、例えばシリコン基板表面に50wt%の1,6−ヘキサンジオールを含有する水溶液を塗布してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明にかかるシリコン基板のエッチング方法は、シリコン基板に対して安価に且つ安定して高密度のテクスチャを形成する場合に有用である。
【符号の説明】
【0090】
1 エッチング槽
10 アルカリ供給部
11 アルカリ供給配管
12 アルカリ貯留槽
13 アルカリ供給ポンプ
20 テクスチャ形成添加剤供給部
21 添加剤供給配管
22 添加剤貯留槽
23 添加剤供給ポンプ
25 エッチング時間
40 純水供給配管
50 気体供給部
51 気体放出部
52 気体供給配管
53 微細気泡発生部
60 温度制御部
61 ヒータ
62 ヒータ熱源
63 ヒータ配線
64 温度測定部
65 温度計付温度調整器
66 温度調整用信号線
71 キャリア支持台
72 エッチング処理対象物
73 キャリア
81 オーバーフロー槽
82 エッチング液循環配管
83 エッチング液循環ポンプ
84 ドレーン
85 エッチング液供給管
90 エッチング液供給部
101 シリコン濃度測定部
102 制御部
103 シリコン濃度信号線
104 ポンプ信号線
111 前処理槽
112 搬送機
201 異物(有機物)
202 異物(金属)
203 1,6−ヘキサンジオール
204 NaOH
205 シリコン基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する添加剤と水とを含むアルカリ性のエッチング液をシリコン基板の表面に供給してウェットエッチングにより前記シリコン基板の表面に凹凸を形成するエッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施するシリコン基板のエッチング方法であって、
1バッチ目の前記エッチング処理の終了後において、前回のバッチのエッチング処理における前記エッチング液中のシリコン濃度の増加量と、前回のバッチのエッチング処理終了後における前記エッチング液中へのアルカリ濃度の追加量と、の比が一定となるように、バッチ毎に前記エッチング液にアルカリを追加して前記エッチング処理を複数バッチにわたって繰り返し実施すること、
を特徴とするシリコン基板のエッチング方法。
【請求項2】
前記ウェットエッチングを実施する前工程として前記添加剤を前記シリコン基板の表面に接触、保持させること、
を特徴とする請求項1に記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項3】
前記添加剤が1,6−ヘキサンジオールであること、
を特徴とする請求項1または2に記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項4】
前記シリコンの濃度の増加量に対する前記アルカリ濃度の追加量の比がモル比で1〜3であること、
を特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のシリコン基板のエッチング方法。
【請求項5】
シリコン基板表面でのエッチング反応を阻害する添加剤とアルカリと水とが供給されてエッチング液が調製されるとともに前記エッチング液を貯留してシリコン基板のエッチング処理を行うエッチング槽と、
前記エッチング槽にアルカリを供給するアルカリ供給手段と、
前記エッチング槽に水を供給する水供給手段と、
前記エッチング槽に前記添加剤を供給する添加剤供給手段と、
前記エッチング液を所定の温度に加熱する加熱制御手段と、
前記エッチング液中のシリコン濃度に応じて前記エッチング液に追加供給するアルカリの供給量を決定する演算手段と、
を備え、
前記演算手段は、前記エッチング槽での前回の前記シリコン基板のエッチング処理における前記エッチング液中のシリコン濃度の増加量と、前記エッチング槽での前回の前記シリコン基板のエッチング処理終了後における前記エッチング液中へのアルカリ濃度の追加量と、の比が一定となるように、前記追加供給するアルカリの供給量を決定すること、
を特徴とするエッチング装置。
【請求項6】
前記エッチング槽からオーバーフローした前記エッチング液中のシリコン濃度を測定するシリコン濃度計測手段を備え、
前記演算手段は、前記シリコン濃度計測手段で測定したシリコン濃度に応じて前記追加供給するアルカリの供給量を決定すること、
を特徴とする請求項5に記載のエッチング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−238719(P2012−238719A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106612(P2011−106612)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】