説明

シリコン結晶成長用石英坩堝のコーティング方法及びシリコン結晶成長用石英坩堝

【課題】失透コーティングに形成されるピンホールの直径を小さく抑えることができるシリコン結晶成長用石英坩堝のコーティング方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るコーティング方法では、シリコン結晶成長用石英坩堝の内面に厚さ80μm以上4mm以下の無気泡石英層を形成し、前記無気泡石英層の表面をアルカリ土類水酸化物で被覆した後、前記表面に失透が発生する温度以上に加熱する。前記被覆は、前記内面を前記アルカリ土類水酸化物の溶液に浸漬させて行なってもよい。また、前記加熱は、前記シリコン結晶成長用石英坩堝に、溶融原料の固体原料を充填する前に行なってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン結晶の製造において原料融液を貯留するシリコン結晶成長用石英坩堝において、原料融液に酸化珪素の混入を防ぐための失透層によるコーティングを形成するためのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶を成長させるチョクラルスキー法において原料融液を収容するために使用される坩堝は、その内表面に、坩堝から原料融液への不純物の混入を防ぐためのコーティングがなされている。このコーティングは、単結晶の質や歩留まりに大きな影響を及ぼすものであり、様々な研究がなされている。
【0003】
例えば、特願平9−110579号公報には、単結晶を成長させるチョクラルスキー法において溶融半導体材料を収容するための坩堝の内表面に、失透促進剤を約600℃以下の温度で付着させてから600℃を越える温度に加熱し、実質的に失透したシリカの層を内表面に形成する方法が開示されている。そして、失透促進剤としては、カルシウム、バリウム、マグネシウム、ストロンチウムおよびベリリウムから成る群から選択されるアルカリ土類金属を包含するものが挙げられている。この方法によれば、チョクラルスキー法が実施されている間、特にポリシリコン溶融の間、安定な種結晶核が、失透促進剤によりもたらされた核形成部位に形成され、坩堝表面でガラス質シリカが結晶化し、坩堝表面に実質的に均質および連続的なβ−クリストバライトの失透シェルが形成される。坩堝の内表面に形成される実質的に均質および連続的な失透シェル(本発明における失透コーティングに相当)は、溶融原料(シリコンメルト)と接触すると、均質に溶解するため、β−クリストバライト粒子のメルト中への放出が抑制され、成長結晶中に形成される転位を最小限に抑えることができる。なお、失透シェルを坩堝の外表面に形成した場合、坩堝を強化できるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特願平9−110579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法は、失透促進剤として水酸化バリウムを採用し、実際に広く採用されているが、坩堝内全面に均一な失透シェル(失透コーティング)を形成することは難しく、実際には、所々にピンホールを有するが形成されることになる。ただし、これらピンホールが直径の小さいものであれば、通常、原料融液はその粘性により流入することができず、結晶を製造するにあたって大きな問題とはなっていない。また、例え原料融液が流入できる程度の直径であったとしても、原料融液と坩堝を構成する石英が接触する面積が小さければ、原料融液への不純物の混入も極めて低くなるため、やはり結晶を製造するにあたって大きな問題とはなっていない。
【0006】
しかしながら、省資源、省コスト等を目的として近年実施が試みられている坩堝の繰り返し使用においては、溶融原料の流入できる程度のピンホール下で露出した石英層の、流入した溶融原料の侵食や固化時の堆積膨張による損傷が、使用を繰り返す毎に拡大するという問題があった。そして、石英層の損傷が進行すると、最終的には坩堝内表面の破壊を招くという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、失透コーティングに形成されるピンホールの直径を小さく抑えることができるシリコン結晶成長用石英坩堝のコーティング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るコーティング方法では、シリコン結晶成長用石英坩堝の内面に厚さ80μm以上4mm以下の無気泡石英層を形成し、前記無気泡石英層の表面をアルカリ土類水酸化物で被覆した後、前記表面に失透が発生する温度以上に加熱する。
【0009】
前記被覆は、前記内面を前記アルカリ土類水酸化物の溶液に浸漬させて行なってもよい。また、前記加熱は、前記シリコン結晶成長用石英坩堝に、溶融原料の固体原料を充填する前に行なってもよい。
【0010】
本発明に係るシリコン結晶成長用石英坩堝は、原料融液との接触面に失透コーティングを有し、前記失透コーティングの下に厚さ80μm以上4mm以下の透明石英層を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るコーティング方法では、失透コーティングが形成される石英層には気泡が含まれず、また、その表面も極めて滑らかなものとなるため、失透が発生する際に形成されるピンホールの径を小さいものに抑えることができる。なお、石英坩堝は、必要な強度を得るために、白濁した石英で構成するのが一般的であるが、本発明者は、この白濁した石英に含まれる気泡と、白濁した石英層の表面粗さに起因する失透促進剤の塗布厚のばらつきが、失透コーティングに径の大きなピンホールを形成することを見出した。本発明は、この新たな知見に基づくものである。無気泡石英層は、少なくとも80μm以上の厚みがあれば失透コーティングを形成することができるが、厚すぎると坩堝の強度が不十分になる。そのため、無気泡石英層の厚みは4mm以下とすることが必要である。
【0012】
本発明に係るシリコン結晶成長用石英坩堝は、本発明に係るコーティング方法により失透コーティングが形成されたものであり、ピンホールの径が極めて小さく、繰り返し使用しても石英層が損傷することはない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】無気泡石英層の上に形成した失透コーティングの、使用後の表面状態を示す図面代用写真である。
【図2】白濁した石英層の上に形成した失透コーティングの、使用後の表面状態を示す図面代用写真である。
【図3】失透コーティングが形成された無気泡石英層の破断面を示す図面代用写真である。
【図4】失透コーティングが形成された白濁した石英層の破断面を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0014】
実施例として、4mmの厚さの無気泡石英層に水酸化バリウムを塗布し、単結晶の製造の際に、無気泡石英層の上に失透コーティングを形成した。そして、単結晶の製造を行なった後の失透コーティングの表面を目視で確認し、また、撮影した。一方、比較例として、無気泡石英層を有さず、白濁した石英のみで構成された公知の石英坩堝についても同様に、単結晶の製造を行なった後の失透コーティングの表面を目視で確認し、また、撮影した。なお、表面の撮影には、デジタルハイスコープシステムDH−2400DP(製品名、株式会社ハイロックス)を使用した。対物レンズの撮影倍率は100倍とし、同じ設定状態のまま、実施例と比較例の供試体の各々について撮影を行なった。また、参考として、実施例、比較例の各々の失透コーティングが形成された石英層の破断面のデジカメ写真を図3、図4に示す。
【0015】
目視により、実施例ではあまり大きなピンホールは確認されなかったが、比較例では極めて大きなピンホールが形成されていることが確認された。図1は、目視で確認された実施例における比較的大きなピンホールであり、図2は、同じ条件で撮影した、比較例におけるピンホールである。実施例におけるピンホールは径も小さく、また石英層が露出する面積が極めて小さく、溶融原料の流入による損傷が生じる可能性が低い。これに対し、図2で示すピンホールは極めて大きく溶融原料が流入する可能性が高い。また、ピンホールの底には石英層が大きく露出している部分があり、ピンホールに流入した溶融原料により損傷する可能性が高い。なお、図2に示すピンホールは、図1に示すピンホールよりも大きく、同じ倍率では全体像を撮影することができなかったため、ピンホール全体のおよそ3分の2が2枚に分けて撮影されている。また、図3において、上側に位置する層が無気泡石英層である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン結晶成長用石英坩堝の内面に厚さ80μm以上4mm以下の無気泡石英層を形成し、前記無気泡石英層の表面をアルカリ土類水酸化物で被覆した後、前記表面に失透が発生する温度以上に加熱することを特徴とするコーティング方法。
【請求項2】
前記被覆は、前記内面を前記アルカリ土類水酸化物の溶液に浸漬させて行なう請求項1に記載のコーティング方法
【請求項3】
前記加熱は、前記シリコン結晶成長用石英坩堝に、溶融原料の固体原料を充填する前に行なう請求項1または2に記載のコーティング方法
【請求項4】
原料融液との接触面に失透コーティングを有し、前記失透コーティングの下に厚さ80μm以上4mm以下の無気泡石英層を有することを特徴とするシリコン結晶成長用石英坩堝。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−232857(P2012−232857A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100295(P2011−100295)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【特許番号】特許第4854814号(P4854814)
【特許公報発行日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【出願人】(511107119)FTB研究所株式会社 (2)
【Fターム(参考)】