説明

シリンダブロックの冷却構造

【課題】機関暖機状態に応じてボア壁部を適切に冷却できるシリンダブロックの冷却構造を提供する。
【解決手段】シリンダブロックの冷却構造1は、エンジンのシリンダブロック10Aのうち、ボア13とウォータジャケット14との間の部分に設けられた溝部11と、溝部11に設けられた高熱伝導材12と、を備える。高熱伝導材12は、シリンダブロック10Aの母材よりも高い線膨張係数を有するとともに、ウォータジャケット14を流通する冷却水の温度が所定値αよりも高い場合に溝部11の壁面に接触するように、溝部11の壁面に対して非接触の状態で設けられている。また、高熱伝導材12は、シリンダブロック10Aの母材よりも高い熱伝導率を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダブロックの冷却構造に関し、特に高熱伝導材を備えるシリンダブロックの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダブロックなどに高熱伝導材を備える技術が知られている。特許文献1では、シリンダライナの外周とシリンダブロックのシリンダライナ挿入穴の内周との間に高熱伝導部材を配設した内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−71246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボア壁部からの伝熱を促進する高熱伝導材を備えることで、ボア壁部の冷却を促進できる。結果、ノッキングの発生を抑制できる。しかしながら、機関暖機中にはピストンのフリクションを低減する観点から、ボア壁部の温度上昇を促進できることが望ましい。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み、機関暖機状態に応じてボア壁部を適切に冷却できるシリンダブロックの冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明はエンジンのシリンダブロックのうち、ボアと冷却媒体通路との間の部分に設けられた溝部と、前記溝部に設けられた高熱伝導材と、を備え、前記高熱伝導材が、前記シリンダブロックの母材よりも高い線膨張係数を有するとともに、前記冷却媒体通路を流通する冷却媒体の温度が所定値よりも高い場合に前記溝部の壁面に接触するように、前記溝部の壁面に対して非接触の状態で設けられているシリンダブロックの冷却構造である。
【0007】
また本発明は前記高熱伝導材が、前記シリンダブロックの母材よりも高い熱伝導率を有する構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば機関暖機状態に応じてボア壁部を適切に冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のシリンダブロックの概略構成図である。
【図2】図1に示すA部の拡大図である。
【図3】実施例1における伝熱の様子を示す図である。
【図4】実施例2のシリンダブロックの概略構成図である。
【図5】TiNiのNi含有率と形状回復温度Afとの関係を示す図である。
【図6】誘導部の説明図である。
【図7】実施例2における伝熱の様子を示す図である。
【図8】実施例2における冷却水の流通の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1はシリンダブロック10Aの概略構成図である。図2は図1に示すA部の拡大図である。シリンダブロック10Aは、シリンダブロックの冷却構造(以下、冷却構造と称す)1Aを備えている。冷却構造1Aは、溝部11と高熱伝導材12とを備えている。シリンダブロック10Aには、ボア13やウォータジャケット(以下、W/Jと称す)14が形成されている。シリンダブロック10Aは図示しないエンジンに設けられる。シリンダブロック10Aはデッキ面にW/J14が開口したオープンデッキタイプのシリンダブロックになっている。
【0012】
溝部11はシリンダブロック10Aのうち、ボア13と冷却媒体通路であるW/J14との間の部分に設けられている。溝部11はシリンダブロック10Aのデッキ面に開口するとともに、ボア13の延伸方向においてW/J14に対応させて設けられている。このため溝部11とW/J14とは深さが同等になっている。
【0013】
高熱伝導材12は溝部11に設けられている。高熱伝導材12は板状の形状を有し、溝部11の開口部から底部にかけて設けられている。高熱伝導材12はシリンダブロック10Aの母材よりも高い線膨張係数を有するとともに、W/J14を流通する冷却媒体である冷却水の温度(冷却水温)が所定値αよりも高い場合に溝部11の壁面(具体的には、ボア側の壁面およびW/J14側の壁面)に接触するように、溝部11の壁面に対して非接触の状態で設けられている。
【0014】
したがって、高熱伝導材12は冷却水温が所定値α以下である場合に、溝部11の壁面との間に隙間が形成されるように設けられている。隙間は例えば数μmから数十μm程度の大きさの僅かな隙間である。所定値αには、例えば機関暖機完了時の冷却水温を適用できる。高熱伝導材12はボア側の壁面およびW/J14側の壁面のうち、いずれか一方の壁面と非接触の状態で設けられてもよい。
【0015】
高熱伝導材12はシリンダブロック10Aの母材よりも高い熱伝導率を有している。シリンダブロック10Aの母材は例えばアルミダイキャストであり、高熱伝導材12の材質は例えば亜鉛である。高熱伝導材12の材質は、例えばシリンダブロック10Aの母材をアルミダイキャストとする場合に、アルミダイキャストよりも線膨張係数が大きく、且つ熱伝導率が高いアルミ合金であってもよい。この点、鋳造で用いられるアルミダイキャストはSiなどの添加物が多い。このため、添加物が少ないアルミ合金はアルミダイキャストと比較して例えば2倍程度、熱伝導率が高くなる。
【0016】
次に冷却構造1Aの作用効果について説明する。図3は冷却構造1Aにおける伝熱の様子を示す図である。(a)は機関暖機中の伝熱の様子を、(b)は機関暖機後の伝熱の様子を示す。そして、(a)は冷却水温が所定値αよりも低い場合の様子を、(b)は冷却水温が所定値αよりも高い場合の様子を示している。
【0017】
(a)に示すように、溝部11の壁面と高熱伝導材12との間には、機関暖機中に隙間が形成される。結果、矢印H1で模式的に示すように、空気による断熱効果でボア13壁部からW/J14を流通する冷却水への伝熱が抑制される。このため、冷却構造1Aは機関暖機中に、ボア13に設けられるピストンのフリクションを低減できる。
【0018】
一方、エンジンの暖機が進むと高熱伝導材12が熱膨張する。結果、(b)に示すように、溝部11の壁面と高熱伝導材12とが機関暖機後に接触する。このため、冷却構造1Aは矢印H2で模式的に示すように、機関暖機後にボア13壁部からW/J14を流通する冷却水への伝熱を促進できる。そしてこれにより、ボア13壁部の冷却を促進できる。結果、具体的にはこれにより、ノッキングの発生を抑制できる。このように、冷却構造1Aは機関暖機状態に応じてボア13壁部を適切に冷却できる。
【0019】
また、このようにしてボア13壁部の冷却を促進する冷却構造1Aによれば、シリンダブロック10Aに設けられるシリンダヘッドの冷却性を特段高めることなく、ノッキングの発生を抑制することも可能になる。具体的には例えばシリンダヘッドを断熱性の高いヘッドガスケットを介してシリンダブロック10Aに設けることで、ボア13壁部の冷却を促進しつつ、シリンダヘッドの冷却性が高まることを抑制できる。この点、シリンダヘッドの冷却は大きな冷却損失を伴うことがわかっている。このため、冷却構造1Aは冷却損失の増大を抑制しつつ、ノッキングの発生を抑制するにあたっても好適である。
【実施例2】
【0020】
図4はシリンダブロック10Bの概略構成図である。シリンダブロック10Bは冷却構造1Aの代わりに冷却構造1Bを備える点以外、シリンダブロック10Aと実質的に同一である。冷却構造1Bは溝部11および高熱伝導材12の代わりに、以下に示す形状記憶材15を備えている。
【0021】
形状記憶材15はW/J14に設けられている。形状記憶材15は板状の形状を有し、W/J14の開口部から底部にかけて設けられている。W/J14に設けられた形状記憶材15は、流路断面積を減少させるとともに冷却水の流速を増加させることで、熱伝達率の向上を図るウォータジャケットスペーサとして機能する。
【0022】
形状記憶材15は冷却水温が所定値α´よりも高い場合に、ボア13側から、ボア13とは反対側に位置するように形状が変化する。所定値α´には、例えば機関暖機完了時の冷却水温を適用できる。所定値α´と所定値αとは同じ値であってよい。この点、所定値αではなく所定値α´としたのは、後述するように冷却構造1Bと冷却構造1Aとを組み合わせて用いた場合に、高熱伝導材12に係る所定値αと形状記憶材15に係る所定値α´とが、実際には多少なりとも異なってくる可能性があることを考慮したものである。
【0023】
形状記憶材15はボア13側に位置する場合に、W/J14の壁面のうち、ボア13側の壁面に密接するように設けられている。また、ボア13とは反対側に位置する場合に、W/J14の壁面のうち、ボア13とは反対側の壁面に密接するように設けられている。
【0024】
図5はTiNiのNi含有率と形状回復温度Afとの関係を示す図である。形状記憶材15の材質をTiNiとする場合、TiNiの組成によって、冷却水温が所定値α´よりも高い場合に、上述のように形状記憶材15を変形させることができる。TiNiの組成は、エンジンの暖機し易さに応じて、すなわち、機関暖機完了時の冷却水温に応じて設定できる。
【0025】
エンジンが暖機し易い場合、例えば60℃から80℃の間で形状記憶材15が変形するようにTiNiの組成を設定できる。また、エンジンが暖機し難い場合、例えば80℃で形状記憶材15が変形するようにTiNiの組成を設定できる。これらに対しては、例えば範囲Rで示す範囲が好適である。この点、TiNiの組成はさらに例えばNi含有率を50at%とする組成が好ましい。
【0026】
TiNiの熱伝導率は、アルミダイキャストの熱伝導率が100W/mK程度であるのに対して、12W/mK程度と大幅に小さくなっている。
【0027】
図6は誘導部15aの説明図である。(a)は、シリンダブロック10Bを上面視で示す。(b)は、(a)に示すB部を拡大して示す。形状記憶材15は、冷却水温に応じてW/J14を流通する冷却水を第1の流通経路P1または第2の流通経路P2に誘導する誘導部15aをさらに備えている。誘導部15aは冷却水温が所定値α´よりも低い場合に、冷却水を第1の流通経路P1に誘導する。また、冷却水温が所定値α´よりも高い場合に、冷却水を第2の流通経路P2に誘導する。誘導部15aはW/J14のうち、冷却水の入口部Inに設けられている。
【0028】
流通経路P1、P2はともに入口部Inから冷却水の出口部Outに冷却水を流通させる経路となっている。第1の流通経路P1は直列に配置された複数のボア13のうち、入口部Inおよび出口部Out側の端に設けられたボア13の側方に沿って、入口部Inから出口部Outに冷却水を流通させる経路となっている。第2の流通経路P2は直列に配置された複数のボア13に沿って、入口部Inから出口部OutにU字状に冷却水を流通させる経路となっている。
【0029】
これに対し、誘導部15aは機関暖機中と機関暖機後との間で(b)に示すように変形する。そしてこれにより、入口部Inで冷却水の流れを制御することで、W/J14に流入する冷却水を第1の流通経路P1または第2の流通経路P2に誘導する。誘導部15aは、流通経路P1、P2のうち、いずれか一方の流通経路に冷却水を誘導する場合に、他方の冷却経路よりも流量が大きくなるように冷却水を流通させることができる。誘導部15aは、流通経路P1、P2のうち、いずれか一方の流通経路に冷却水を誘導する場合に、他方の冷却経路に冷却水を流通させなくてもよい。
【0030】
次に冷却構造1Bの作用効果について説明する。図7は冷却構造1Bにおける伝熱の様子を示す図である。図8は冷却構造1Bにおける冷却水の流通の様子を示す図である。図7、図8ともに(a)は機関暖機中の伝熱の様子を、(b)は機関暖機後の伝熱の様子を示す。そして、(a)は冷却水温が所定値α´よりも低い場合の様子を、(b)は冷却水温が所定値α´よりも高い場合の様子を示す。図8において、流通経路P1、P2の矢印の太さは流量の大きさを模式的に示す。
【0031】
図7(a)に示すように、形状記憶材15は機関暖機中にボア13側に位置する。結果、矢印H1´で模式的に示すように、ボア13壁部からW/J14を流通する冷却水への伝熱が抑制される。このため、冷却構造1Bは、機関暖機中にピストンのフリクションを低減できる。
【0032】
一方、機関暖機後には形状記憶材15が変形する。結果、図7(b)に示すように形状記憶材15がボア13とは反対側に位置する。このため、冷却構造1Bは矢印H2´で模式的に示すように、機関暖機後にボア13壁部からW/J14を流通する冷却水への伝熱を促進できる。そしてこれにより、ボア13壁部の冷却を促進できる。
【0033】
冷却構造1Bは、このように形状記憶材15の変形によって、機関暖機状態に応じてボア13壁部を適切に冷却できる。また、形状記憶材15の材質をTiNiとすることで、機関暖機のし易さに応じた適切な変形を実現できる。さらに、形状記憶材15の材質をTiNiとすることで、低い熱伝導率によって機関暖機中にボア13壁部の断熱性を高めることもできる。
【0034】
図8(a)に示すように、誘導部15aは機関暖機中にW/J14に流入する冷却水を第1の流通経路P1に誘導する。結果、冷却水は主に第1の流通経路P1を流通する。このため、冷却構造1Bはボア13壁部の冷却を抑制することで、機関暖機中にピストンのフリクションを低減できる。
【0035】
一方、誘導部15aは機関暖機後にW/J14に流入する冷却水を第2の流通経路P2に誘導する。結果、図8(b)に示すように冷却水は優先的に第2の流通経路P2を流通する。このため、冷却構造1Bはボア13壁部の冷却を促進できる。そして、冷却構造1Bはこのように誘導部15aでW/J14を流通する冷却水の流れを制御することで、機関暖機状態に応じてボア13壁部をより適切に冷却できる。
【0036】
また、冷却構造1Bは冷却構造1Aと組み合わせて用いることで、換言すれば溝部11および高熱伝導材12をさらに備えることで、機関暖機状態に応じてボア13壁部をさらに適切に冷却できる。
【0037】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0038】
冷却構造 1A、1B
シリンダブロック 10A、10B
溝部 11
高熱伝導材 12
ボア 13
W/J 14
形状記憶材 15
誘導部 15a


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロックのうち、ボアと冷却媒体通路との間の部分に設けられた溝部と、
前記溝部に設けられた高熱伝導材と、を備え、
前記高熱伝導材が、前記シリンダブロックの母材よりも高い線膨張係数を有するとともに、前記冷却媒体通路を流通する冷却媒体の温度が所定値よりも高い場合に前記溝部の壁面に接触するように、前記溝部の壁面に対して非接触の状態で設けられているシリンダブロックの冷却構造。
【請求項2】
請求項1記載のシリンダブロックの冷却構造であって、
前記高熱伝導材が、前記シリンダブロックの母材よりも高い熱伝導率を有するシリンダブロックの冷却構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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