説明

シリンダヘッドの製造方法

【課題】シリンダヘッドの製造、特にバルブシートの切削加工に伴う刃具の摩耗量を小さくするとともに安定させて、製造コストを削減するとともに、製品の寸法精度を向上可能なシリンダヘッドの製造方法を提供すること。
【解決手段】吸排気バルブと密着可能なシート面Bを有する円環状のバルブシートSを備えたシリンダヘッドの製造方法であって、前記バルブシートSのシート面Bは硬質粒子分散型材料から構成され、55vol%以上80vol%以下のCBN、及びAlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつ硬さ(硬さの種類)27GPa以上38GPa以下、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具12、13、33により切削加工して前記シート面Bを形成することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関用シリンダヘッド、特にバルブシート部分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガソリンエンジン等の内燃機関は、吸気ポートから燃焼室内に導入された燃料と空気からなる混合気に燃焼室内で点火して、爆発、膨張させることでピストンに直線運動を与え、その直線運動をクランクシャフトにより回転運動に変換するようになっている。
【0003】
上記内燃機関が燃焼室で混合気を燃焼し、膨張した燃焼ガスがピストンを作動させる際の燃焼圧を維持するとともに、混合気と、燃焼ガスとの混合を抑制しながら吸排気を行なうために、燃焼室には吸排気ポートの燃焼室側開口部に吸排気バルブと密着可能にバルブシートが円環状に形成され、所定のタイミングで該バルブシートのシート面をバルブで開閉して燃焼室と吸排気ポートの間を開閉するようになっている。そのため、バルブシートのシート面を、バルブシートの逃げ面やバルブガイド穴と高い精度で同軸状にし、かつ高い真円度にするために、工具本体に各部位を切削加工する刃具を一体的に配置したものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−059313号公報
【0004】
しかしながら、バルブシートは、例えば燃焼室で発生したSO等の腐食性ガスを含んだ高温、高圧の燃焼ガスに長期間にわたり曝され、シート面にはバルブが当接することによる大きな力が繰返し加わるため、高温における高い耐腐食性、耐磨耗性が要求され、その結果、バルブシートの材料として耐腐食性、耐磨耗性に優れた材料が用いられている。
しかしながら、耐腐食性、耐磨耗性に優れた材料は、一般的に切削性が悪く、切削加工における刃具の摩耗が大きいため、刃具寿命が短く製造コストの増大に繋がっている。また、初期における摩耗量が加工数に比例せず不規則であり、摩耗量に応じた刃具調整をするのが難しく、寸法精度の向上など品質面での改善が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、シリンダヘッドの製造、特にバルブシートの切削加工に伴う刃具の摩耗量を小さくするとともに安定させて、製造コストを削減するとともに、製品の寸法精度を向上可能なシリンダヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1記載の発明は、吸排気バルブと密着可能なシート面を有する円環状のバルブシートを備えたシリンダヘッドの製造方法であって、前記バルブシートのシート面は硬質粒子分散型材料から構成され、55vol%以上80vol%以下のCBN、AlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつ硬さ(硬さの種類)27GPa以上38GPa以下、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具により切削加工して前記シート面を形成することを特徴とする。
【0007】
この発明に係るシリンダヘッドの製造方法によれば、バルブシートのシート面は硬質粒子を分散させた硬質粒子分散型の材料により構成されているので、SO等の腐食性ガスに対する耐食性や、バルブから繰返し受ける打撃や、摺動に対して充分な耐変形性、耐磨耗性等を備えており、その結果、耐久性の高いバルブシート、ひいては高性能で耐久性が高いシリンダヘッドを得ることができる。
また、かかる硬質粒子分散型の材料を、55vol%以上80vol%以下のCBN、及びAlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつビッカース硬度27GPa以上38GPa以下、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具により切削加工するため、切削加工時における刃具の摩耗量が通常の超硬工具に比較して、最大で約85%の低減をすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載のシリンダヘッドの製造方法であって、前記硬質粒子分散型材料は、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のCr−Wの少なくとも1種を硬質粒子として分散させたFe基合金からなることを特徴とする。
【0009】
この発明に係るシリンダヘッドの製造方法によれば、硬質粒子分散型材料は、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のCr−Wの少なくとも1種を硬質粒子としてFe基合金に分散させているので、バルブシートとしての耐食性、耐熱性、耐変形性、耐磨耗性等を維持しつつ被削性が向上し、基地強化形材料に対して上記の刃具で切削加工した場合に比較して刃具の摩耗量を最大で約50%削減することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドの製造方法であって、請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドの製造方法であって、前記切削加工は、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下であることを特徴とする。
【0011】
この発明に係るシリンダヘッドの製造方法によれば、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下とされているので、刃具の摩耗量を抑制しつつ、切削加工の効率を下げることなく表面粗度が小さく寸法精度が高いシート面を容易に形成し、ひいては低コストで高精度のシリンダヘッドを高い生産性にて製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る製造方法によれば、シリンダヘッドのバルブシートに耐食性、耐磨耗性等が高い材料を適用して高性能エンジンに対応可能としつつ、寸法精度を向上させるとともに、製造コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1(a)は、本発明の被加工物であるシリンダヘッドWのバルブシートS及びバルブガイドGの軸線を含む縦断面を示す図であり、図1(b)は、バルブシートSにおけるテーパ面A、B(シート面)、Cを示す図である。シリンダヘッドWは、燃焼室と、バルブ穴Hと、バルブシートSと、バルブガイドGとを備えており、バルブガイドGの内周孔にはバルブステムが挿入されるとともに、バルブシートSのシート面Bには、バルブフェースが当接して、燃焼ガスが燃焼室から漏れないようにされている。
バルブシートSのテーパ面A,B,Cを構成する材料の組成は、例えば、Fe基合金に硬質粒子であるCo−Moを10mass%と、Cr−Wを10mass%分散させた硬質粒子分散型材料とされている。
【0014】
シリンダヘッドWは、シリンダヘッドWの素材にバルブシートSを嵌挿する凹部、バルブガイドGを嵌挿する孔等、所定の形状を切削加工によって形成した後、上記凹部、孔に、バルブシート材料、バルブガイド材料を圧入、焼嵌め、又は冷嵌めによって嵌挿し、バルブシートSのシート面を構成するテーパ面B、逃げ面となるテーパ面A、C、及びバルブガイドGの内周を切削加工し、さらに、所定の加工を施すことによって図1(a)、(b)に示すようなシリンダヘッドWが製造される。
【0015】
図2から図6は本発明に係る穴加工工具と切刃チップ(刃具)の実施形態を示すものであって、図2、図3は、第1の穴加工工具の一実施形態を、図4、図5は上記第2の穴加工工具の一実施形態を、図6は切刃チップの軸線回りの回転軌跡を示しており、これらにより形成されるバルブシートSのテーパ面A、B、Cを示す図である。図2、図3、及び図4、図5によって示される第1、第2の穴加工工具1,21は、それぞれ軸線O,Xを中心とした外形略多段円柱状をなすものであって、先端部は軸線O,Xを中心として先端側に向うに従い漸次縮径する略円錐台状に形成されている。
【0016】
また、工具本体2,22の後端部には該工具本体2,22をマシニングセンタ等の工作機械の駆動軸に取り付けるためのアーバ部2A,22Aとされている。このアーバ部2A,22Aによって工作機械の駆動軸に取り付けられた第1、第2の穴加工工具1,21は、軸線O,X回りに図中に符号Tで示す工具回転方向に回転させられつつ、該軸線O,X方向先端側に送りを与えられ、シリンダヘッドWのバルブシートS等の加工に供される。
【0017】
これらの工具本体2,22内には上記軸線O,Xに沿って形成された取付孔2C,22Cにはブッシュ3,23を介して、第1の穴加工工具1においては荒加工リーマ4が、第2の穴加工工具21においては仕上げ加工リーマ24が軸線Xと同軸に、それぞれその先端をブッシュ3,23から突出させて取り付けられ、いずれも外形略円柱軸状のシャンク部の先端部に切刃部4B,24Bが形成されている。
【0018】
工具本体2,22の先端部外周には、軸線O,Xに直交する断面がL字状をなす取付凹部2D,22Dが形成されており、各取付凹部2D,22Dには、先端に上記切刃チップ12,13および切刃チップ33が装着されたカートリッジ14,34がクランプネジ15,35によって取り付けられている。ただし、第1の穴加工工具1においては、その工具本体2に軸線Oを挟んで互いに反対側に一対の上記取付凹部2D,2Dが形成され、これらの取付凹部2D,2Dに切刃チップ12,13がそれぞれ先端に装着されたカートリッジ14,14が取り付けられ、第2の穴加工工具21の工具本体22には取付凹部22Dは1つだけ形成され、カートリッジ34も切刃チップ33を先端に装着したものが1つ取り付けられている。
このようにして、工具本体2,22の上記円錐台状の先端部には、切刃チップ12,13および切刃チップ33が取付けられ、バルブシート加工穴の開口部に複数段の加工面を形成するようになっている。
【0019】
切刃チップ12,13,33は、55vol%以上80vol%以下のCBN、及びAlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつ硬さ(硬さの種類)27GPa以上38GPa以下、抗折力が1.0GPa以上1.35GPa以下の焼結体とされており、互いに同形同大の略正三角形平板状に形成されたポジティブチップであり、その一方の正三角形面がすくい面とされて、このすくい面の3つの辺稜部にそれぞれ切刃12A,13A,33Aが形成されている。
【0020】
また、切刃チップ12,13,33は、上記すくい面を工具回転方向Tに向けるとともに、3つの切刃12A,13A,33Aのうちの1つを工具本体2,22の先端外周側に向けて後端側に向かうに従い外周側に延びるように傾斜させ、カートリッジ14,14,34の先端に形成されたチップ取付座に適宜のクランプ手段16,16,36によって着脱可能に装着されている。
また、カートリッジ14,34の軸線O,X方向の位置は、調整手段17,37を構成する調整駒17A,37Aに円錐状の頭部が密着する、調整ネジ17B,37Bのねじ込み量を調整して、調整駒17A,37Aを前進させることにより調整可能とされている。
【0021】
そして、上記切刃チップ12,13,33のうち、第1の穴加工工具1の工具本体2にカートリッジ14,14を介して取り付けられた切刃チップ12,13は、図6に示すように一方の切刃チップ12が他方の切刃チップ13よりも僅かに工具本体2の先端側かつ内周側にずらして配置されており、しかも、図2に示すように、この一方の切刃チップ12の先端外周側に向けられた切刃12Aの軸線Oに対する傾斜角θ12が、他方の切刃チップ13の先端外周側に向けられた切刃13Aの軸線Oに対する傾斜角θ13よりも小さく設定されて、これらの切刃12A,13Aの軸線O回りの回転軌跡が交差するようにされている。
【0022】
一方、第2の穴加工工具21の工具本体22に取り付けられた切刃チップ33は、その先端外周側に向けられた切刃33Aの軸線Xに対する傾斜角θ33が、上記傾斜角θ12よりも大きく、かつ傾斜角θ13よりは小さく設定されるとともに、第2の穴加工工具21のブッシュ23の先端位置を第1の穴加工工具1のブッシュ3の先端位置と等しくした場合における切刃33Aの軸線X回りの回転軌跡が、上記切刃12A,13A同士の回転軌跡の交点よりも先端外周側にあって、該切刃12A,13A双方の回転軌跡に交差するように配置されている。
また、上記第2の穴加工工具の仕上げ加工リーマ24の先端は、図4に示すように、第1の穴加工工程において荒加工された加工穴に仕上げ加工リーマ24を先導しつつ案内させるためのパイロット部24Dが設けられている。
【0023】
次に、シリンダヘッドWの製造において、第1、第2の穴加工工具1、21を用いてバルブシートSを切削加工する場合について説明する。
本実施形態の穴加工工程は、第1の穴加工工程と、第2の穴加工工具21とからなり、第1の穴加工工程は、上記第1の穴加工工具1によりバルブ穴Hの燃焼室側に開口する開口部に設けられた円環状のバルブシートSに3段のテーパ面A〜Cのうち穴奥側のテーパ面Aおよび開口縁側のテーパ面Cの形成とバルブガイドG内周の開口部側端部の荒加工を行い、第2の穴加工工程は、第2の穴加工工具21により、バルブシートSの3段のテーパ面A〜Cのうちテーパ面Aとテーパ面Cの間に位置するテーパ面B(シート面)の形成とバルブガイドG内周の仕上げ加工を行なうようになっている。
また、切削加工の条件は、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下とされている。
【0024】
第1の穴加工工程は、図7に示すように、上記第1の穴加工工具1の先端部をバルブ穴Hの穴奥側に向けて、上記軸線OをバルブシートSおよびバルブガイドGの中心線と同軸とし、上記軸線O回りに工具回転方向Tに回転しつつ該軸線O方向先端側に向けて送りを与えて前進させる。
【0025】
すると、図8に示すように上記第1の穴加工工具1が前進し、バルブガイドGの開口部側端部の内周には、荒加工リーマ4の荒加工刃によって荒加工部Rが形成されるとともに、図7に示すように、切刃チップ12の切刃12Aによって、バルブシートSの内周穴奥側にバルブ穴Hの中心線に対して傾斜角θ12で傾斜するテーパ面Aが、上記切刃チップ13の切刃13Aによって、バルブシートSの外周開口縁側にバルブ穴Hの中心線に対して傾斜角θ13で傾斜するテーパ面Cがそれぞれ形成される。
【0026】
バルブシートSにテーパ面A,Cが形成されるとともに、バルブガイドG端部内周が荒加工された後、第2の穴加工工具21により第2の穴加工工程に移行する。
この第2の穴加工工程は、第2の穴加工工具21の先端部をバルブ穴Hの穴奥側に向けて、軸線XがバルブシートSおよびバルブガイドGの中心線と同軸とし、軸線X回りに工具回転方向Tに回転しつつ該軸線X方向先端側に向けて送りを与えて前進させる。
【0027】
すると、仕上げ加工リーマ24先端のパイロット部24Dが、上記荒加工部R内に嵌挿され、仕上げ加工リーマ24の軸線Xが荒加工部Rの中心線、すなわち第1の穴加工工具1の軸線Oと同軸とされ、仕上げ加工リーマ24および工具本体22が軸線Oに案内されるように前進させられる。
【0028】
その結果、図9に示すように、パイロット部24DがバルブガイドGの荒加工部Rに嵌挿されてガイドされながら仕上げ加工部24Eに先行して直進し、仕上げ加工リーマ24がバルブガイドGを貫通してバルブガイドG内周がその全長に亙って所定の内径に仕上げられたところで、第2の穴加工工具の上記切刃チップ33の切刃33AがバルブシートSに到達し、図6に示すように、第1の穴加工工程によってバルブシートSに形成されたテーパ面A,Cの間に、バルブ穴Hの中心線に対して傾斜角θ33で傾斜する中間のテーパ面Bが形成される。
【0029】
上記実施の形態においては、バルブシートSのテーパ面A、B、Cを構成する材料の組成が、Fe基合金に硬質粒子であるCo−Moを10mass%と、Cr−Wを10mass%分散させた硬質粒子分散型材料とされているので、SO等の腐食性ガスに対する耐食性や、耐磨耗性を充分に備えており、高性能エンジンのシリンダヘッドを低コストで生産することができる。
【0030】
また、上記硬質粒子分散型の材料を、55vol%以上80vol%以下のCBN、AlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつビッカース硬度27GPa以上38GPa以下(2700以上3800以下と記載されているようですが、請求項1と整合が取れないため、単位をGPaとしています)、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具により切削加工するため、切削加工時における刃具の摩耗量が通常の超硬工具に比較して、最大で約85%の低減をすることができる。
【0031】
セラミックバインダーで硬度を上げすぎた焼結体では硬質粒子と衝突した時の衝撃に耐えられず、微少チッピングを発生させる。一方、メタルバインダーを使用した焼結体では、耐摩耗性が不足する。基本的に高硬度材を念頭においた焼結体は、硬質粒子分散材において、刃先靭性と耐摩耗性のバランスが最適な状態となる。
【0032】
また、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下とされているので、刃具の摩耗量を抑制しつつ、切削加工の効率を下げることなく表面粗度が小さく寸法精度が高いシート面を容易に形成し、ひいては低コストで高精度のシリンダヘッドを高い生産性にて製造することができる。
【0033】
また、工具本体2,22にリーマ4,24と切刃チップ12,13,33とが一体に取り付けられた第1、第2の穴加工工具1,21を軸線O,X回りに回転しつつ、バルブシートSとバルブガイドG穴を形成するので、バルブシートSのテーパ面A,B,C及びバルブガイドG穴内周との間に高い同軸性を確保することができる。
また、第1の穴加工工程において形成された荒加工部Rに、第2の穴加工工程において仕上げ加工リーマ24が案内されるようにしてバルブ穴Hが仕上げ加工されるので、加工工程を第1、第2の穴加工工程の2段階に分けているにも拘らず、第1の穴加工工具1の軸線Oと第2の穴加工工具21の軸線Xとの間に高い同軸性を確保することができる。
【0034】
なお、この発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
上記実施の形態においては、バルブシートSのテーパ面A,B,Cを構成する材料の組成が、Fe基合金に10mass%のCo−Moと、10mass%のCr−Wを硬質粒子として分散させた硬質粒子分散型材料とされる場合について説明したが、テーパ面A、B、Cを構成する材料に分散させる硬質粒子としては、例えば、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のCr−Wの少なくとも1種を単体で用い、又は、これらを複数組合せて用いてもよい。
【0035】
また、バルブシートSの材料は、テーパ面A,B,Cを構成する材料の組成が、Fe基合金に硬質粒子として分散させた硬質粒子分散型材料とされていればよく、シート材(テーパ面A、B、Cに相当する部分)とバック材を別組成の材質で構成するいわゆる2層構造や全体を硬質粒子分散型材料とする等の構成を選択することができ、さらに、例えばテーパ面B(シート面)のみを硬質粒子分散型材料で構成してもよい。
【0036】
また、上記実施の形態において、切削加工条件は、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下の場合について説明したが、これに限らず、他の切削条件においても適用することができる。
【0037】
また、上記実施の形態においては、バルブシートSのテーパ面A,B,Cが切刃チップ12、13、33によってプランジ加工される場合について説明したが、穴加工工程の工程手順、構成については任意に選択可能である。例えば、軸線回りに回転される工具本体の先端部にリーマを取り付け、このリーマの根元部分に、バルブシートSの3段のテーパ面A,B,Cを形成する3つの切刃チップを取り付け、このうち加工穴の穴奥側のテーパ面Aと開口縁側のテーパ面Cの中間に位置するテーパ面Bを、工具本体がなす円錐の母線方向に沿って摺動するスライダーに取り付けた切刃チップにより切削部分の軌跡がテーパ面Bを描きつつ切削加工する、いわゆるトラバース加工によりバルブシートSを形成する場合にも適用できる。
【0038】
ここで、上記本発明に係るシリンダヘッドWの製造方法におけるバルブシートSの切削加工について行なった検証試験を実施した。
この、検証試験では、刃具材種として、MB710、MB730、MB825、MB835の4種類を、バルブシートの材種として、W23D、W−8の2種類を用いた。
刃具材種の特性は、以下の表1に示すとおりである。
【0039】
【表1】

熱伝導度は、いずれも50−70(W/m・K)である。
また、W23D及びW−8の特性は、以下の表2に示すとおりである。
【0040】
【表2】

とされる。
【0041】
また、この切削加工における切削条件は以下のとおりである。
トラバース加工 プランジ加工
切削速度 90m/min 166m/min
送 り 0.1mm/rev. 0.07mm/rev.
ap 0.1mm 0.25mm

上記のような刃具材種、及びバルブシートの材種、切削条件のもと行なった検証試験を、バルブシートと刃具の材種、及び切削加工条件による摩耗量、表面粗さについてまとめた結果は、図10に示すとおりである。
【0042】
この検証試験の結果から、バルブシートのシート面は硬質粒子分散型材料から構成され、55vol%以上80vol%以下のCBN、及びAlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつビッカース硬度27GPa以上38GPa以下、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具により切削加工をすることにより良好な結果が得られることが確認された。
【0043】
また、硬質粒子分散型材料は、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Mo、
0.5mass%以上40mass%以下のFe−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のCr−Wの少なくとも1種を硬質粒子として分散させたFe基合金からなるものが好適であることが確認された。
【0044】
さらに、切削加工条件が、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/min以上200m/min以下において大きな効果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)本発明の実施形態におけるシリンダヘッドWのバルブシートS及びバルブガイドGの軸線を含む縦断面図であり、(b)バルブシートSにおけるテーパ面A,B,Cを示す図である。
【図2】第1の穴加工工具1の軸線Oを含む断面に直交する側断面図である。
【図3】図2に示す第1の穴加工工具1の正面図である。
【図4】本発明の穴加工工具の一実施形態を示す、第2の穴加工工具21の側断面図である。
【図5】図4に示す第2の穴加工工具21の正面図である。
【図6】切刃チップの軸線O,X回りの回転軌跡と、これらにより形成されるバルブシートのテーパ面とを示す図である。
【図7】本発明の穴加工方法の一実施形態を説明する第1の図である(第1の穴加工工程)。
【図8】本発明の穴加工方法の一実施形態を説明する第2の図である(第1の穴加工工程)。
【図9】本発明の穴加工方法の一実施形態を説明する第6の図である(第2の穴加工工程)。
【図10】本発明の効果を確認するための検証試験の結果を示す図であり、バルブシートと刃具の材種、及び切削加工条件による摩耗量、表面粗さを示す図である。
【符号の説明】
【0046】
12,13,33 切刃チップ
S バルブシート
A、C テーパ面
B テーパ面(シート面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気バルブと密着可能なシート面を有する円環状のバルブシートを備えたシリンダヘッドの製造方法であって、
前記バルブシートのシート面は硬質粒子分散型材料から構成され、
55vol%以上80vol%以下のCBN、及びAlとTiN又はAlとTiCのバインダーを含み、かつビッカース硬度27GPa以上38GPa以下、抗折力1.0GPa以上1.35GPa以下の刃具により切削加工して前記シート面を形成することを特徴とするシリンダヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のシリンダヘッドの製造方法であって、
前記硬質粒子分散型材料は、0.5mass%以上40mass%以下のFe−Mo、
0.5mass%以上40mass%以下のFe−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Cr、0.5mass%以上40mass%以下のCo−Mo、0.5mass%以上40mass%以下のCr−Wの少なくとも1種を硬質粒子として分散させたFe基合金からなることを特徴とするシリンダヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシリンダヘッドの製造方法であって、
前記切削加工は、送りが5/100mm/rev以上12/100mm/rev以下、切削速度が50m/分以上200m/分以下であることを特徴とするシリンダヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−105105(P2008−105105A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287952(P2006−287952)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】