説明

シリンダライナの冷却構造

【課題】環状冷却水通路の略全周囲に亘る旋回流を確実に生成して、シリンダライナを効果的に冷却できるシリンダライナの冷却構造を提供すること。
【解決手段】旋回流生成部30,30,…は、前方の側面31と後方の側面32とは、傾きが異なっていて、ジャケット冷却水通路3から、第1連通路6,6,…を通って上記旋回流生成部30,30,…に流入した冷却水は、傾きの大きい前方の側面31,31,…に案内されて、周方向一方の速度成分をもって、環状冷却水通路5に流入して、強い旋回流となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディーゼルエンジン、ガスエンジン等の内燃機関のシリンダライナの冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシリンダライナの冷却構造は、シリンダライナの下部外周とフレームとの間にジャケット冷却水通路を形成し、上記シリンダライナの上部外周とフレームとの間に環状冷却水通路を形成し、シリンダヘッドにシリンダヘッド冷却水通路を形成したものがある(特許文献1:実開平5−32756号公報)。
【0003】
そして、このシリンダライナの冷却構造では、上記ジャケット冷却水通路と上記環状冷却水通路とを第1連通路で連通し、上記環状冷却水通路と上記シリンダヘッド冷却水通路とを第2連通路で連通し、上記第2連通路と第1連通路とを環状冷却水通路の周方向に交互に配置することによって、環状冷却水通路内の冷却水が周方向の部分旋回流となるようにして、冷却効果を向上させ、均一な冷却が行なわれるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−32756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のシリンダライナの冷却構造では、上記第1連通路からの環状冷却水通路への冷却水の流れは、環状冷却水通路の周方向の一方か他方かは確定的には定まらず、なりゆきで定まるため、どうしても、環状冷却水通路の全周囲に亘る全旋回流にはならなくて、部分旋回流となって、よどみ点が生じて、シリンダライナの効果的な冷却ができないという問題がある。
【0006】
そこで、この発明の課題は、環状冷却水通路の略全周囲に亘る旋回流を確実に生成して、シリンダライナを効果的に冷却できるシリンダライナの冷却構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明のシリンダライナの冷却構造は、
シリンダライナと、
上記シリンダライナの下部外周との間にジャケット冷却水通路を形成すると共に、上記シリンダライナの上部外周との間に環状冷却水通路を形成するフレームと、
上記シリンダライナの上端部に設けられると共に、シリンダヘッド冷却水通路を有するシリンダヘッドと、
上記ジャケット冷却水通路と上記環状冷却水通路とを連通する第1連通路と、
上記環状冷却水通路と上記シリンダヘッド冷却水通路とを連通する第2連通路と、
上記環状冷却水通路と上記第1連通路との間に設けられ、上記第1連通路からの冷却水に周方向の一方の速度成分を与えて上記環状冷却水通路に流入させて、上記環状冷却水通路に旋回流を生成させる旋回流生成部と
を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成のシリンダライナの冷却構造によれば、上記旋回流生成部が、上記第1連通路からの冷却水に、上記環状冷却水通路の周方向の一方の速度成分を与えて上記環状冷却水通路に流入させるから、上記環状冷却水通路に略全周に亘る旋回流が生成される。
【0009】
したがって、この発明によれば、環状冷却水通路の略全旋回流によって、シリンダライナを効果的に冷却することができる。
【0010】
また、1実施形態では、
複数の上記旋回流生成部が、上記環状冷却水通路の周方向に隣り合って設けられて、上記第1連通路と第2連通路とが環状冷却水通路の周方向に交互に設けられていない。
【0011】
上記実施形態では、上記第1連通路と第2連通路とが環状冷却水通路の周方向に交互に設けられていなくて、複数の上記旋回流生成部が上記環状冷却水通路の周方向に隣り合って設けられているから、円周方向の旋回流が強められて、第1連通路から環状冷却水通路に流入した冷却水が直ちに第2連通路から流出することが防止される。
【0012】
したがって、環状冷却水通路の冷却効果を増大することができる。
【0013】
もし、上記第1連通路と第2連通路とが環状冷却水通路の周方向に交互に設けられていると、上記第1連通路と第2連通路とが直通して、上記第1連通路からの冷却水が隣の第2連通路から直ちに流出して、冷却水を環状冷却水通路での冷却に十分に利用できなくなるのである。
【0014】
1実施形態では、
上記環状冷却水通路は、上記シリンダライナの軸方向において、下端から上方に行くにつれて、半径方向の幅寸法が徐々に大きくなる。
【0015】
上記実施形態によれば、上記環状冷却水通路は、上記シリンダライナの軸方向において、下端から上方に行くにつれて、半径方向の幅寸法が徐々に大きくなる領域を有するから、上記環状冷却水通路の上記領域において、下方の第1連通路から旋回流生成部を通して流入した冷却水は、自然に、旋回しつつ、スムーズに下から上へと流れて、上方の第2連通路から流出する。
【0016】
このように、上記環状冷却水通路の上記領域において、冷却水は、自然に、旋回しつつ、スムーズに下から上へと流れるから、圧力損失を少なくして、シリンダライナを効果的に冷却することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、旋回流生成部によって、環状冷却水通路の略全周に亘る冷却水の略全旋回流を生成するから、シリンダライナを効果的に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の1実施形態のシリンダライナの冷却構造の断面図である。
【図2】上記シリンダライナの冷却構造のシリンダライナとフレームの断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施形態により詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、シリンダライナ1の外周をフレーム2で支持し、このフレーム2とシリンダライナ1の薄肉の下部との間にジャケット冷却水通路3を形成している。一方、上記シリンダライナ1の厚肉の上部とフレーム2との間に、環状冷却水通路5を形成している。上記環状冷却水通路5とジャケット冷却水通路3とは、シリンダライナ1の軸方向と平行な第1連通路6によって連通させている。
【0021】
一方、上記シリンダライナ1の上端には、シリンダヘッド11を取り付けている。このシリンダヘッド11には、弁座12等を冷却するためのシリンダヘッド冷却水通路13を設けている。このシリンダヘッド冷却水通路13と、上記環状冷却水通路5とを、上記シリンダライナ1の軸方向と平行な第2連通路15によって連通させている。
【0022】
なお、21はピストン、22は弁、23は燃料噴射弁、25は燃焼室である。
【0023】
図1では、1気筒分のシリンダライナ1しか示していないが、実際には、フレーム2には、図2に示すように、複数のシリンダライナ1(1つのみを示す)を保持するようになっている。
【0024】
図1のIII−III断面である図3に示すように、上記フレーム2には、上記環状冷却水通路5の一部を形成する環状溝51から、旋回流生成部30と流出部40とを放射状に突出させている。上記旋回流生成部30と流出部40とは、環状冷却水通路5の周方向に2個ずつ交互に配置している。つまり、2つの上記旋回流生成部30,30は、互いに隣接し、2つの上記流出部40,40は、互いに隣接している。上記旋回流生成部30には、第1連通路6が連通し、上記流出部40は、第1,2図に示すように、第2連通路15が連通している。
【0025】
上記環状冷却水通路5は、図1,2に示すように、シリンダライナ1の軸方向において、下端から上方に行くにつれて、半径方向の幅寸法が徐々に大きくなる領域55を有する。このように、上記環状冷却水通路5は、上記シリンダライナ1の軸方向において、下端から上方に行くにつれて、半径方向の幅寸法が徐々に大きくなる領域55を有するから、上記環状冷却水通路5の領域55において、下方の第1連通路6から旋回流生成部30を通して流入した冷却水は、自然に、旋回しつつ、スムーズに下から上へと流れて、上方の第2連通路15から流出するようになっている。
【0026】
図3に示すように、上記旋回流生成部30の上記環状冷却水通路5の反時計回り方向の前方の側面31と後方の側面32とは、傾きが異なっていて、上記環状冷却水通路5の中心(シリンダライナ1の中心と一致する)と第1連通路6の中心とを通る半径方向に対する上記前方の側面31の傾きは20°であり、上記半径方向に対する上記後方の側面32の傾きは10°である。4つの上記旋回流生成部30,30,…の全てにおいて、上記半径方向に対する前方の側面31の傾きは20°であり、上記半径方向に対する後方の側面32の傾きは10°である。したがって、上記ジャケット冷却水通路3から、第1連通路6,6,…を通って上記旋回流生成部30,30,…に流入した冷却水は、傾きの大きい20°の前方の側面31,31,…に案内されて、環状冷却水通路5の図3において反時計回り方向の速度成分をもって、環状冷却水通路5に流入して、強い旋回流となる。しかも、2つの上記旋回流生成部30,30が、互いに隣接しているから、より強い旋回流となって、つまり、略全旋回流となって、第1連通路6と第2連通路15とが直通(短絡)することがない。
【0027】
一方、上記流出部40の両側面の成す角度は、20°であり、つまり、上記環状冷却水通路5の中心と第2連通路15の中心線とを通る半径方向に対する上記流出部40の両側面の傾きは、等しい10°である。
【0028】
なお、図3において、45はフレーム2に設けたボルト穴である。
【0029】
上記構成のシリンダライナの冷却構造において、上記ジャケット冷却水通路3から、第1連通路6,6,…を通って旋回流生成部30,30,…に流入した冷却水は、旋回流生成部30,30,…の20°の大きい傾きを有する前方の側面31,31,…に案内されて、環状冷却水通路5に、図3において反時計回り方向の速度成分をもって、流入して、強い旋回流となる。しかも、2つの上記旋回流生成部30,30が、互いに隣接しているから、より強い旋回流となって、つまり、よどみ点が殆どない略全旋回流となって、第1連通路6から旋回流生成部30を通して環状冷却水通路5に流入した冷却水が直ちに第2連通路15から流出することがなく、つまり、第1連通路6と第2連通路15とが直通(短絡)することがない。
【0030】
このように、上記環状冷却水通路5に、冷却水の強い略全旋回流が生じ、かつ、第1連通路6と第2連通路15とが直通(短絡)することがないから、シリンダライナを効果的に冷却することができる。
【0031】
上記第1連通路6から環状冷却水通路5に流入した冷却水は、環状冷却水通路5内において、下端から上方に行くにつれて半径方向の幅寸法が徐々に大きくなる領域55によって、自然に、旋回しつつ、スムーズに下から上へと流れて、流出部40を経由して上方の第2連通路15から流出する。
【0032】
このように、上記環状冷却水通路5の領域55において、冷却水は、自然に、旋回しつつ、スムーズに下から上へと流れるから、圧力損失を少なくして、シリンダライナを効果的に冷却することができる。
【0033】
上記実施形態では、旋回流生成部30,30,…の全てにおいて、前方の側面31の傾きは20°であり、後方の側面32の傾きは10°であったが、前方の側面の傾きが後方の側面の傾きよりも大きいならば、どのような角度であってもよい。要は、全ての旋回流生成部の前方の側面が、冷却水に、前方方向の速度成分をもって、環状冷却水通路に冷却水を流出させるものならば、前方の側面の形態は、平面、曲面、傾きの異同に関係なく、どのような、形態であってもよい。
【0034】
また、上記実施形態では、旋回流生成部30,30,…および第1連通路6,6,…の数は、夫々、4個であり、流出部40,40,…および第2連通路15,15,…の数は、夫々、4個であったが、これらの数は、任意の数であってもよい。
【0035】
また、旋回流生成部30,30,…および流出部40,40,…の周方向の間隔は、不等間隔に設けても、等間隔に設けてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1 シリンダライナ
2 フレーム
3 ジャケット冷却水通路
5 環状冷却水通路
6 第1連通路
11 シリンダヘッド
13 シリンダヘッド冷却水通路
15 第2連通路
30 旋回流生成部
31 前方の側面
32 後方の側面
40 流出部
55 領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナと、
上記シリンダライナの下部外周との間にジャケット冷却水通路を形成すると共に、上記シリンダライナの上部外周との間に環状冷却水通路を形成するフレームと、
上記シリンダライナの上端部に設けられると共に、シリンダヘッド冷却水通路を有するシリンダヘッドと、
上記ジャケット冷却水通路と上記環状冷却水通路とを連通する第1連通路と、
上記環状冷却水通路と上記シリンダヘッド冷却水通路とを連通する第2連通路と、
上記環状冷却水通路と上記第1連通路との間に設けられ、上記第1連通路からの冷却水に周方向の一方の速度成分を与えて上記環状冷却水通路に流入させて、上記環状冷却水通路に旋回流を生成させる旋回流生成部と
を備えることを特徴とするシリンダライナの冷却構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシリンダライナの冷却構造において、
複数の上記旋回流生成部が、上記環状冷却水通路の周方向に隣り合って設けられていて、上記第1連通路と第2連通路とが環状冷却水通路の周方向に交互に設けられていないことを特徴とするシリンダライナの冷却構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシリンダライナの冷却構造において、
上記環状冷却水通路は、上記シリンダライナの軸方向において、下端から上方に行くにつれて、半径方向の幅寸法が徐々に大きくなることを特徴とするシリンダライナの冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−68084(P2013−68084A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204989(P2011−204989)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【Fターム(参考)】