説明

シリンダ装置

【課題】油圧緩衝器において、ピストンロッドを最小長位置付近でロックすることができ、そのロック状態を容易に目視で確認することができるようにする。
【解決手段】ピストン部2から延出されたピストンロッド3の先端部にキャップ部材7を取付け、キャップ部材7にダストカバー8を取付ける。シリンダ部2の端部にロック部材12を取付け、ロック部材12を上方に切起こして係合部13を形成する。キャップ部材7を下方に切起こして係合片14及び窓部15を形成する。ピストンロッド3を最小長位置付近まで短縮し、キャップ部材7を回転させて、係合部13と係合片14とを係合させることよってピストンロッド3をロックする。窓部15から係合部13と係合片14との係合状態を目視して確認することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧緩衝器、ガススプリング等のシリンダ部の一端部からロッドが延出されたシリンダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の懸架装置に装着される筒型の油圧緩衝器においては、搬送、保管する際のスペース上の効率、並びに、ピストンロッドの表面を錆の発生及び汚れの付着から保護するため、ピストンロッドを最小長位置付近で保持することが望ましい。ところが、キャビテーション防止等の目的でシリンダ内の油液を常時加圧するガスを封入した油圧緩衝器では、通常、ガスの圧力によってピストンロッドが伸長状態となる。
【0003】
そこで、従来は、合成樹脂製のバンドや金属製のワイヤを用いてピストンロッドを最小長位置で拘束し、あるいは、例えば特許文献1に記載されているように、油圧緩衝器本体及びピストンロッドの先端部に互い係脱可能な係合部材を取付け、これらの係合部材を互いに係合させることにより、ピストンロッドの最小長位置で保持するようにしている。
【特許文献1】実開平2−132147号公報
【0004】
しかしながら、上述の合成樹脂製のバンドや金属製のワイヤを用いた場合には、油圧緩衝器を車両等に取付ける際、バンドを切断したり、ワイヤを解いたりする手間がかかり、また、使用済みのバンドやワイヤを廃棄又は再利用する処理に手間がかかるという問題がある。一方、特許文献1に記載されているように係合部材を取付けたものでは、ピストンロッドを覆うダストカバーが設けられている等の理由により、係合部材の係合状態を目視で確認することができない。係合状態を目視するために、ダストカバーに窓を設けることも考えられるが、窓から係合部を覗き込むことになるので、視認性が悪く、充分な解決とは言えない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、ロッドを最小長位置付近でロックすることができ、そのロック状態を容易に目視で確認することができるシリンダ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、シリンダ部の一端部からロッドが延出され、該ロッドをその最小長位置付近でロック可能なロック機構を備えたシリンダ装置において、前記ロック機構は、前記シリンダ部の一端部に取付けられたロック部材と、該ロック部材に対向させて前記ロッドの先端部に取付けられたキャップ部材とからなり、前記ロック部材の回転によって前記ロック部材に形成された第1係合部が前記キャップ部材に形成された第2係合部に前記ロッドの先端側で係合して前記ロッドをロックすることを特徴とする。
請求項2の発明に係るシリンダ装置は、上記請求項1の構成において、前記ロック部材及び前記キャップ部材は、板状の部材であり、該板状の部材を切起こして前記第1及び第2係合部が形成されていることを特徴とする。
請求項3の発明に係るシリンダ装置は、上記請求項1又は2の構成において、前記第2係合部は、前記キャップ部材を貫通する係合穴であり、前記第1係合部は、前記係合穴に挿通されて該係合穴の縁部に係合して前記ロッドをロックすることを特徴とする。
請求項4の発明に係るシリンダ装置は、上記請求項1乃至3のいずれかの構成において、前記キャップ部材には、前記ロッドを覆う円筒状のダストカバーが取付けられていることを特徴とする。
請求項5の発明に係るシリンダ装置は、上記請求項1乃至4のいずれかの構成において、シリンダ部に油液及びガスが封入された油圧緩衝器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
発明に係るシリンダ装置によれば、ロック機構によってロッドを最小長位置でロックすることができ、このとき、ロック部材の第1係合部がキャップ部材の第2係合部にロッドの先端側で係合するので、係合状態を容易に目視して確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1乃至図3に示すように、本実施形態に係る油圧緩衝器1(シリンダ装置)は、筒型の油圧緩衝器であって、油液が封入されたシリンダ部2のシリンダ(後述の図7の符号2A参照)にピストン(図示せず)が摺動可能に嵌装されており、このピストンにピストンロッド3(ロッド)の一端部が連結され、ピストンロッド3の他端部がシリンダ部2の端部に装着されたロッドガイド(後述の図7の符号4参照)及びオイルシール5に挿通されてシリンダ部2の外部に延出されている。
【0009】
油圧緩衝器1には、シリンダ2A内のピストンの摺動によって油液の流れが生じる油路及びその油路の油液(図示せず)の流動を制御して減衰力を発生させるオリフィス及びディスクバルブ等からなる減衰力発生機構(図示せず)が設けられている。また、シリンダ部2には、高圧ガスが封入されたリザーバ(後述の図7の符号6参照)が設けられており、ピストンロッド3の伸縮に伴うシリンダ2A内の容積変化をリザーバ6のガスの圧縮、膨張によって補償するようになっている。あるいは、シリンダ2Aの底部側にフリーピストン(図示せず)を摺動可能に嵌装してガス室(図示せず)を形成し、ガス室内に高圧ガスを封入してもよい。
【0010】
ピストンロッド3の先端部には、略円板状のキャップ部材7が溶接等によって取付けられ、キャップ部材7の外周部に円筒状のダストカバー8の上端部が嵌合、固定されている。ダストカバー8は、シリンダ部2よりもやや大径であり、シリンダ部2及びピストンロッド3を覆って、その下端部は、ピストンロッド3が最大長位置にあるとき、シリンダ部2の上端部に達するように延ばされている。
【0011】
ピストンロッド3の先端部には、車体側のサスペンション部材に連結するためのネジ部等からなる取付部9が形成され、また、シリンダ部2の底部には、サスペンションアーム等のサスペンション部材に連結するための取付アイ10が取付けられている。
【0012】
油圧緩衝器1には、ピストンロッド3をその最小長位置でロックするためのロック機構11が設けられている。本発明の要部であるロック機構11について次に説明する。
【0013】
シリンダ部2のピストンロッド3が延出された上端部には、略リング状(円板状)のロック部材12が取付けられている。ロック部材12は、オイルシール5のリテーナ5Aの上に重ねた状態でシリンダ部2内に嵌合され、シリンダ部2の上端部を内側にかしめることによって、ロッドガイド4及びオイルシール5と共にシリンダ部2の上端部に固定されている。図4に示すように、ロック部材12は、内周部の直径方向の2箇所が上方に切起こされて、内周部及び周方向の一端部が開口された略矩形の係合部13(第1係合部)が形成されている。
【0014】
ピストンロッド3に取付けられたキャップ部材7は、ロック部材12の係合部13に対向する内周側の直径方向の2箇所の外周部が下方に切起こされて、ピストンロッド3の外周部から直径方向に延びる略矩形の係合片14(第2係合部)が形成されている。キャップ部材7には、係合片14を下方に切起こすことによって、その形状の窓部15(開口)が形成されている。そして、係合片14は、ピストンロッド3をほぼ最小長位置まで短縮させた状態で、キャップ部材7を回転させることにより、ロック部材12の係合部13の開口を通して係合部13の下に係合、すなわち、係合部13が係合片14の上(ピストンロッド3の先端側)に係合し、これにより、ピストンロッド3を最小長位置でロックできるようになっている。なお、本実施形態では、キャップ部材7は、ピストンロッド3に溶接されて固定されているので、ピストンロッド3(すなわちピストン)と共に回転するが、ピストンロッド3に対して回転可能に取付けるようにしてもよい。
【0015】
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
ピストンロッド3の伸縮に対して、ピストンの移動によってシリンダ部2内の油路に生じる油液の流れをオリフィス及びディスクバルブ等からなる減衰力発生機構によって制御して減衰力を発生させる。このとき、ピストンロッド3の侵入、退出に伴うシリンダ2A内の容積変化をリザーバ6又はガス室のガスの圧縮、膨張によって補償する。
【0016】
リザーバ6又はガス室のガスの圧力によって、ピストンロッド3には、常時、伸長方向の力が作用している。油圧緩衝器1の保管及び搬送等のために、ピストンロッド3を最小長位置でロックする場合には、図1に示すように、ピストンロッド3をリザーバ4又はガス室のガスの圧力に抗して最小長位置付近まで短縮させ、この状態でキャップ部材7を回転させて、図2に示すように、ピストンロッド3に取付けられたキャップ部材7の係合片14をシリンダ部2に固定された係合部材12の係合部13に係合させる。これにより、ピストンロッド3を最小長位置でロックすることができる。
【0017】
ピストンロッド3のロックを解除する場合には、ピストンロッド3をロック時とは反対方向に回転させて、係合部13と係合片14との係合を解除することにより、ロックを解除することができる。なお、ピストンロッド3を短縮方向に押圧しながら回転させることにより、係合部13と係合片14との係合を円滑に解除することができる。
このとき、係合部13が係合片14の上に係合するので、キャップ部材7の窓部15において、係合部13及び係合片14の係合状態を容易に目視して確認することができ、ロック及びロック解除を容易に行うことができる。
【0018】
また、係合部13及び係合片14は、円板状のロック部材12及びキャップ部材7を切起こして形成されているので、軸方向の寸法を充分小さくすることができ、ピストンロッド3のストロークに殆ど影響することがない。
【0019】
次に、上記実施形態の変形例について図5及び図6を参照して説明する。なお、上記実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0020】
図5に示す変形例では、係合片14の係合面に複数の歯溝16が形成され、係合部13には、歯溝16に対向させて爪部17が突出されており、歯溝16と爪部17との噛合いによって係合部13と係合片14との係合状態を強固に保持できるようになっている。これにより、ロック状態が不用意に解除されるの防止することができる。この場合、ロックを解除する際には、ピストンロッド3を短縮方向へ押圧して歯溝16と爪部17との噛合いを解除することにより、係合部13と係合片14との係合を解除することができる。
【0021】
図6に示す変形例では、係合部13の周方向の開口側の先端部が内側に折曲され、内側に突出されて保持突起18が形成されている。そして、係合部13に係合片14が係合したとき、保持突起18によって係合状態が強固に保持できるようになっている。これにより、ロック状態をが不用意に解除されるの防止することができる。この場合、ロックを解除する際には、ピストンロッド3を短縮方向へ押圧して保持突起18を係合片14から離間させることにより、係合部13と係合片14との係合を解除することができる。
【0022】
次に、本発明の第2実施形態について図7乃至図8を参照して説明する。なお、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0023】
図7乃至図9に示すように、本実施形態では、ロック部材12の内周部の直径方向の2箇所に、上方に折曲された一対の係合部19(第1係合部)が形成されている。一対の係合部19の先端部は、互いに反対方向に鉤型(L字型)に折曲する係止部20が形成されている。キャップ部材7には、ロック部材12の一対の係合部19に対向させて係合部19を挿通可能な一対の係合穴21(第2係合部)が開口されている。そして、ピストンロッド3をほぼ最小長位置まで短縮させて、係合部19を係合穴21に挿通させた状態で、キャップ部材7を回転させることにより、係合部19の先端の係止部20を係合穴21の縁部に引掛けることにより、ピストンロッド3を最小長位置でロックできるようになっている。
【0024】
また、ピストンロッド3のロックを解除する場合には、ピストンロッド6をロック時とは反対方向に回転させて、係合部19の係止部20と係合穴21の縁部との係合を解除することにより、ロックを解除することができる。なお、ピストンロッド6を短縮方向に押圧しながら回転させることにより、係止部20と係合穴21の縁部との係合を円滑に解除することができる。
このとき、係合部19が係止穴21の外側(ピストンロッド3の先端側)でその縁部に係合するので、係合状態を容易に目視して確認することができ、ロック及びロック解除を容易に確実に行うことができる。
【0025】
なお、上記第1及び第2実施形態では、本発明を油圧緩衝器に適用した場合について説明しているが、本発明は、このほか、油圧シリンダ、ガススプリング等のシリンダ部からロッドが延出されたシリンダ装置にも同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る油圧緩衝器の要部を一部破断して示す側面図である。
【図2】図1の油圧緩衝器において、ピストンロッドをロックした状態を示す図である。
【図3】図1の油圧緩衝器の側面図である。
【図4】図1に示す油圧緩衝器のロック機構を拡大して示す斜視図である。
【図5】図1に示す油圧緩衝器のロック機構の変形例を拡大して示す斜視図である。
【図6】図1に示す油圧緩衝器のロック機構の他の変形例を拡大して示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る油圧緩衝器の要部を示す縦断面図である。
【図8】図7の油圧緩衝器の要部を示す斜視図である。
【図9】図7に示す油圧緩衝器のロック部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 油圧緩衝器(シリンダ装置)、2 シリンダ部、3 ピストンロッド(ロッド)、7 キャップ部材、11 ロック機構、12 ロック部材、13 係合部(第1係合部)、14 係合片(第2係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ部の一端部からロッドが延出され、該ロッドをその最小長位置付近でロック可能なロック機構を備えたシリンダ装置において、前記ロック機構は、前記シリンダ部の一端部に取付けられたロック部材と、該ロック部材に対向させて前記ロッドの先端部に取付けられたキャップ部材とからなり、前記ロック部材の回転によって前記ロック部材に形成された第1係合部が前記キャップ部材に形成された第2係合部に前記ロッドの先端側で係合して前記ロッドをロックすることを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
前記ロック部材及び前記キャップ部材は、板状の部材であり、該板状の部材を切起こして前記第1及び第2係合部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。
【請求項3】
前記第2係合部は、前記キャップ部材を貫通する係合穴であり、前記第1係合部は、前記係合穴に挿通されて該係合穴の縁部に係合して前記ロッドをロックすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
前記キャップ部材には、前記ロッドを覆う円筒状のダストカバーが取付けられていることを特徴とする請求項項1乃至3のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項5】
シリンダ部に油液及びガスが封入された油圧緩衝器であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−36265(P2009−36265A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−199658(P2007−199658)
【出願日】平成19年7月31日(2007.7.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】