説明

シロキセン複合材料、シロキセン誘導体、およびそれらの製造方法

【課題】シロキセンに導入する官能基を任意に選択することが可能なシロキセン複合材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基、Eは炭素数1〜30の炭化水素基、1≦a≦5。)
で表されるシロキセン誘導体と、
下記式(3):
HNR (3)
(式(3)中、RおよびRは水素原子、炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよい。)
で表される含窒素化合物とを有機溶媒中で反応させて、
下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRは前記式(3)中のRおよびRと同一、Eおよびaは前記式(2)中のEおよびaと同一。)
で表されるシロキセン複合材料を得ることを特徴とするシロキセン複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シロキセン複合材料、シロキセン誘導体、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組成式:Si(OH)6−a(1≦a≦5)で表されるシロキセンは、層状シリコン骨格を有する水素化・水酸化物であり、発光材料や半導体材料として注目されている。しかしながら、シロキセンは凝集しやすいため、溶液や樹脂中に高度に分散させたり、均一な薄膜を形成したりすることが困難であり、そのままの状態で発光材料や半導体材料として使用することは困難であった。
【0003】
一方、Z.Naturforsch.、1979年、第34b巻、25〜30頁(非特許文献1)には、アルコール中でシロキセンを合成することによってアルコキシ基がシロキセン骨格に結合したシロキセン誘導体が得られることが開示されており、このアルコキシ化されたシロキセン誘導体は、シロキセンに比べて層間距離が拡大することも示されている。しかしながら、上記非特許文献1に記載の方法では、シロキセンに導入可能な官能基が、シロキセン合成を阻害せず且つシロキセン骨格に直接結合可能な有機基に含まれているものに制限されるため、任意の官能基をシロキセンに導入することは困難であった。
【0004】
また、上記非特許文献1には、前記アルコキシル化シロキセン誘導体に種々のアミド化合物をインターカレーションさせることによって層間距離を調整できることが開示されている。しかしながら、上記非特許文献1に記載の方法では、シロキセン骨格に結合可能な有機基が制限されるため、任意のインターカラントを層間に挿入することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Weissら、Z.Naturforsch.、1979年、第34b巻、25〜30頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、シロキセンに導入する官能基を任意に選択することが可能なシロキセン複合材料の製造方法およびそれにより得られるシロキセン複合材料、ならびに前記製造方法に用いるシロキセン誘導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酸の存在下で金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとを反応させることによって、カルボン酸エステル基を有する有機基がシロキセン骨格に結合したシロキセン誘導体が得られ、さらに、このシロキセン誘導体に任意の官能基を有するアミン化合物や任意の含窒素芳香複素環化合物を反応させることによって、シロキセンに任意の官能基を導入することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のシロキセン複合材料は、下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよく、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明のシロキセン誘導体は、下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、本発明のシロキセン複合材料の製造方法は、下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されるシロキセン誘導体と、
下記式(3):
HNR (3)
(式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよい。)
で表される含窒素化合物とを有機溶媒中で反応させて、
下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRは前記式(3)中のRおよびRと同一のものであり、Eおよびaは前記式(2)中のEおよびaと同一のものである。)
で表されるシロキセン複合材料を得ることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のシロキセン誘導体の製造方法は、下記式(4):
(M)(Si) (4)
(式(4)中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、テルビウムおよびトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子であり、xは1〜12の整数であり、yは1〜17の整数であり、x≦yである。)
で表される金属ケイ化物と、
下記式(5):
HO−E−COOR (5)
(式(5)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルとを酸の存在下で反応させて、
下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、RおよびEは前記式(5)中のRおよびEと同一のものであり、1≦a≦5である。)
で表されるシロキセン誘導体を得ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カルボン酸エステル基を有する有機基がシロキセン骨格に結合したシロキセン誘導体を得ることができる。また、このシロキセン誘導体を用いることによってシロキセンに任意の官能基を導入することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のシロキセン誘導体の化学構造を示す模式図である。
【図2】本発明のシロキセン複合材料の化学構造を示す模式図である。
【図3】実施例1で得られたシロキセン誘導体の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例1で得られたシロキセン誘導体のX線回折パターンを示すグラフである。
【図5】実施例2で得られたシロキセン複合材料の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例2で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図7】実施例3で得られたシロキセン複合材料の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例3で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図9】実施例4で得られたシロキセン複合材料の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例4で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図11】実施例5で得られたシロキセン複合材料の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図12】実施例5で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図13】実施例6で得られたシロキセン複合材料の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図14】実施例6で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図15】実施例7で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図16】実施例8で得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを示すグラフである。
【図17】実施例8で得られたシロキセン複合材料および比較例1で得られたシロキセン誘導体の蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図18】実施例8で得られたシロキセン複合材料および比較例1で得られたシロキセン誘導体の励起スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明のシロキセン誘導体およびその製造方法について説明する。
【0016】
<シロキセン誘導体>
本発明のシロキセン誘導体は、下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されるものである。
【0017】
また、本発明のシロキセン誘導体の1次構造は、シロキセン骨格の6個のケイ素原子により形成される構造を1構成単位とすると、下記式(2a):
[Si(O−E−COOR6−n (2a)
(式(2a)中、RおよびEは前記式(2)中のRおよびEと同義であり、nは各構成単位毎に独立に1〜5の整数であり、mは特に制限はなく、例えば500〜600000000の整数である。)
で表されるものである。
【0018】
このようなシロキセン誘導体の形状としては特に制限はないが、シロキセン誘導体の膜を形成する場合に膜厚制御が容易であり、また、反応生成物(例えば、本発明のシロキセン複合材料)の形態制御が容易であるという観点から、層状またはシート状であることが好ましい。図1には、本発明のシロキセン誘導体が層状化合物である場合の一例を示すが、本発明のシロキセン誘導体の構造はこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明のシロキセン誘導体においては、通常、ケイ素原子は互いに結合して略平面形状を形成していることが好ましい。また、前記ケイ素原子により形成されるシロキセン骨格は、単結晶シリコンのSi(111)面に対応する骨格であることが好ましい。さらに、カルボン酸エステル基を有する有機基(−O−E−COOR)は、ケイ素原子により形成された略平面に対して垂直方向に配置されていることが好ましい。
【0020】
本発明のシロキセン誘導体において、前記式(2)中、前記式(2a)中および図1中のRを構成する炭化水素基は炭素数1〜10の1価の炭化水素基である。Rを構成する炭化水素基の炭素数が前記上限を超えると、後述する本発明のシロキセン複合材料を製造する際に、Rが脱離しにくく、カルボン酸エステル基とアミノ基との反応性が低下し、アミド結合が形成されず、本発明のシロキセン複合材料を得ることが困難となる。従って、Rが脱離しやすいという観点から、Rを構成する炭化水素基の炭素数はとしては1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。
【0021】
を構成する炭化水素基は直鎖状のものであっても分岐状のものであっても環状のものであってもよいが、カルボン酸エステル基とアミノ基との反応においてRの嵩高さによるアミド化反応の阻害が起こりにくいという観点からRとしては直鎖状炭化水素基が好ましい。また、シロキセン誘導体1分子中にはRとして2種以上の炭化水素基が存在していてもよい。さらに、Rが1構成単位中に複数存在する場合(前記式(2a)中のnが1〜4の場合)には、それらは同じものであっても互いに異なるものであってもよい。
【0022】
このようなRを構成する炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基などの直鎖状、分岐状または環状の飽和炭化水素基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基などの直鎖状、分岐状または環状の不飽和炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、トリル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基のうち、カルボン酸エステル基とアミノ基との反応においてRがアミド化反応を阻害しにくいという観点から、直鎖状飽和炭化水素基、直鎖状不飽和炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
【0023】
本発明のシロキセン誘導体において、前記式(2)中、前記式(2a)中および図1中のEを構成する炭化水素基は炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。本発明のシロキセン誘導体が層状化合物である場合、このEを構成する炭化水素基の炭素数を調整することによってシロキセン誘導体やこれから得られる本発明のシロキセン複合材料の層間距離を制御することができる。一方、Eを構成する炭化水素基の炭素数が前記上限を超えると、カルボン酸エステル基を有する有機基(−O−E−COOR)が嵩高くなるため、シロキセン誘導体の層間にカルボン酸エステル基を有する有機基を導入することが困難となる。特に、後述するヒドロキシカルボン酸エステルを用いてカルボン酸エステル基を有する有機基を導入する場合には、シロキセン骨格の層間にヒドロキシカルボン酸エステルが入り込みにくくなるため、カルボン酸エステル基を有する有機基(−O−E−COOR)をシロキセン骨格に結合させることが困難となる。従って、シロキセン誘導体の層間にカルボン酸エステル基を有する有機基を導入しやすいという観点から、Eを構成する炭化水素基の炭素数としては1〜15が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0024】
また、Eを構成する炭化水素基は直鎖状のものであっても分岐状のものであっても環状のものであってもよいが、後述する本発明のシロキセン複合材料を製造する際のカルボン酸エステル基とアミノ基との反応において、Eの嵩高さによるアミド化反応の阻害が起こりにくく、また、カルボン酸エステル基の反応性の低下が起こりにくいという観点から直鎖状炭化水素基が好ましい。
【0025】
このようなEを構成する炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基などの直鎖状、分岐状または環状の飽和炭化水素基;ビニレン基、アリレン基、ブテニレン基、ヘキセニレン基などの直鎖状、分岐状または環状の不飽和炭化水素基;フェニレン基、ベンジレン基、トリレン基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。これらの炭化水素基のうち、Eを構成する炭化水素基がシロキセン骨格に起因する特性に変化を与えにくいという観点から、炭素鎖ができる限り短い炭化水素基(例えば、炭素数1〜5の炭化水素基)が好ましく、メチレン基、エチレン基が特に好ましい。
【0026】
本発明のシロキセン誘導体は、脱離しやすい炭化水素基(前記式(2)中、前記式(2a)中および図1中のR)をシロキセン骨格に結合した有機基に備えているため、後述するカルボン酸エステル基とアミノ基との反応が進行しやすく、本発明のシロキセン複合材料を容易に製造することが可能となる。また、本発明のシロキセン誘導体が図1に示すような層状化合物である場合には、シロキセン骨格に結合した有機基の炭素数を調整して層間距離を適切に制御することができるため、後述する本発明のシロキセン複合材料の製造方法において、シロキセン誘導体の層間に含窒素化合物が入りこみやすくなり、シロキセン誘導体の層間のカルボン酸エステル基と含窒素化合物のアミノ基を容易に反応させることが可能となる。
【0027】
<シロキセン誘導体の製造方法>
本発明のシロキセン誘導体は、金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとを酸の存在下で反応させることによって製造することができる。
【0028】
本発明のシロキセン誘導体の製造方法に用いられる金属ケイ化物は、下記式(4):
(M)(Si) (4)
(式(4)中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、テルビウムおよびトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子であり、xは1〜12の整数であり、yは1〜17の整数であり、x≦yである。なお、x、yは、金属原子Mの種類に応じて決まるものである。)
で表されるものである。
【0029】
前記式(4)中のMは、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムなど)、アルカリ土類金属(カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)、テルビウムおよびトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子である。このような金属原子のうち、結晶内でシロキセン誘導体のシリコン骨格がネットワークを構築するという観点から、カルシウム、ストロンチウムが好ましい。
【0030】
前記金属ケイ化物として、具体的には、二ケイ化一カルシウム、一ケイ化一カルシウム、二ケイ化ストロンチウムなどが好ましく、中でも、層状またはシート状のシロキセン誘導体およびシロキセン複合材料が得られるという観点から、二ケイ化一カルシウムが特に好ましい。
【0031】
本発明のシロキセン誘導体の製造方法に用いられるヒドロキシカルボン酸エステルは、下記式(5):
HO−E−COOR (5)
(式(5)中、RおよびEは前記式(2)中のRおよびEと同義である。)
で表されるものである。
【0032】
このようなヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸アルキルエステル(例えば、グリコール酸メチル)、ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル(例えば、p−ヒドロキシ安息香酸メチル)などが挙げられる。中でも、シロキセン誘導体やこれから得られるシロキセン複合材料の層間距離を微細に制御することが可能であるという観点から、グリコール酸アルキルエステルが好ましく、グリコール酸メチルが特に好ましい。
【0033】
本発明のシロキセン誘導体の製造方法においては、このような金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとを酸の存在下で反応させることによって、カルボン酸エステル基を有する有機基(−O−E−COOR)がシロキセン骨格に結合した、前記式(2)および前記式(2a)で表されるシロキセン誘導体が生成する。なお、このようにして形成したシロキセン誘導体において、前記式(2)中および前記式(2a)中のRおよびEは前記式(5)中のRおよびEと同一のものである。前記反応における金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとの混合割合としては特に制限はないが、金属ケイ化物1モルに対してヒドロキシカルボン酸エステルが少なくとも1モル以上であることが好ましい。
【0034】
前記反応において用いられる酸としては、塩化水素、テトラフルオロホウ酸などが挙げられる。このような酸の供給源として特に制限はないが、例えば、塩化水素の供給源としては、塩化水素ガス、濃塩酸、塩化水素含有有機溶媒などが挙げられる。また、供給方法としては、ヒドロキシカルボン酸エステルに塩化水素ガスをバブリングする方法、ヒドロキシカルボン酸エステルに濃塩酸を添加する方法、ヒドロキシカルボン酸エステルと塩化水素含有有機溶媒とを混合する方法などが挙げられ、中でも、ヒドロキシカルボン酸エステルに塩化水素ガスをバブリングする方法が好ましい。酸の濃度の下限としては特に制限はないが、金属ケイ化物1モルに対して酸が10モル以上であることが好ましい。また、酸の濃度の上限も特に制限はないが、金属ケイ化物1モルに対して20モル以下が好ましい。
【0035】
また、本発明のシロキセン誘導体の製造方法においては、必要に応じて溶媒を使用してもよい。このような溶媒としては、アルコール以外の有機溶媒が好ましく、1,4−ジオキサンがより好ましい。また、前記溶媒としては脱水処理を施した有機溶媒を使用することが特に好ましい。金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとの反応において、水やアルコールが存在すると、シロキセン骨格にヒドロキシル基が結合したシロキセンやアルコキシル基が結合したシロキセン誘導体が生成しやすく、本発明のシロキセン誘導体の収率が低下する傾向にある。溶媒の使用量としては特に制限はないが、金属ケイ化物の濃度が1〜10モル/Lとなる量が好ましい。
【0036】
本発明にかかる金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとの反応において、反応温度としては40〜70℃が好ましく、反応時間としては10〜20時間が好ましい。また、金属ケイ化物とヒドロキシカルボン酸エステルとの反応は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0037】
次に、本発明のシロキセン複合材料およびその製造方法について説明する。
【0038】
<シロキセン複合材料>
本発明のシロキセン複合材料は、下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよく、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されるものである。
【0039】
また、本発明のシロキセン複合材料の1次構造は、シロキセン骨格の6個のケイ素原子により形成される構造を1構成単位とすると、下記式(1a):
[Si(O−E−CONR6−n (1a)
(式(1a)中、R、RおよびEは前記式(1)中のR、RおよびEと同義であり、nは各構成単位毎に独立に1〜5の整数であり、mは特に制限はなく、例えば500〜600000000の整数である。)
で表されるものである。
【0040】
本発明のシロキセン複合材料の形状としては特に制限はないが、シロキセン骨格からなる層(無機層)とアミド結合を有する有機基(O−E−CONR)からなる層(有機層)とを規則的に配列させるという観点から、層状またはシート状であることが好ましい。図2には、本発明のシロキセン複合材料が層状化合物である場合の一例を示すが、本発明のシロキセン複合材料の構造はこれに限定されるものではない。
【0041】
本発明のシロキセン複合材料においては、通常、ケイ素原子は互いに結合して略平面形状を形成していることが好ましい。また、前記ケイ素原子により形成されるシロキセン骨格は、単結晶シリコンのSi(111)面に対応する骨格であることが好ましい。さらに、アミド結合を有する有機基(−O−E−CONR)は、ケイ素原子により形成された略平面に対して垂直方向に配置されていることが好ましい。
【0042】
本発明のシロキセン複合材料において、前記式(1)中、前記式(1a)中および図2中のRおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基である。また、RおよびRのうちの少なくとも一方は、置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基であることが好ましい。
【0043】
およびRを構成する炭化水素基および複素基の炭素数としては特に制限はないが、1〜30が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜10が特に好ましい。なお、この炭素数には、前記炭化水素基および複素基に結合していてもよい置換基の炭素数も含まれる。本発明のシロキセン複合材料が層状化合物である場合、このRおよびRを構成する炭化水素基および複素基の炭素数を調整することによってシロキセン複合材料の層間距離を制御することができる。一方、RおよびRを構成する炭化水素基および複素基の炭素数が前記上限を超えると、アミド結合を有する有機基(−O−E−CONR)が嵩高くなるため、シロキセン複合材料の層間にアミド結合を有する有機基を導入しにくくなる傾向にある。特に、後述する含窒素化合物との反応によりアミド結合を有する有機基を導入する場合には、シロキセン誘導体の層間に含窒素化合物が入り込みにくくなるため、シロキセン誘導体の層間でカルボン酸エステル基と含窒素化合物のアミノ基とを反応させることが困難となる傾向にある。
【0044】
また、RおよびRを構成する炭化水素基および複素基は直鎖状のものであっても分岐状のものであっても環状のものであってもよいが、シロキセン複合材料の光物性、半導体特性が向上するという観点から環状不飽和炭化水素基、環状複素基が好ましい。
【0045】
このようなRおよびRを構成する炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基などの直鎖状、分岐状または環状の飽和炭化水素基;ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基などの直鎖状、分岐状または環状の不飽和炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、トリル基などの芳香族炭化水素基が挙げられる。また、RおよびRを構成する複素基としては、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環などの含窒素芳香族複素環やアミノ基などが挙げられる。
【0046】
およびRを構成する炭化水素基および複素基に結合していてもよい置換基としては、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環などの含窒素芳香族複素環;チオフェン環などの含硫黄芳香族複素環;アミノ基などが挙げられる。中でも、前記炭化水素基および複素基が置換基としてアミノ基を有するものである場合には、隣接するシロキセン骨格のカルボン酸エステル基とアミド結合を形成しやすく、隣接するシロキセン骨格が互いに架橋されたシロキセン複合材料を得ることができる。
【0047】
また、本発明のシロキセン複合材料においては、前記式(1)中、前記式(1a)中および図2中のRとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよい。このような含窒素複素環としては、ピロール環、イミダゾール環、ピリジン環などが挙げられる。また、このような含窒素複素環には、上述したような置換基が結合していてもよい。
【0048】
このような炭化水素基、複素基、置換基、含窒素複素環の種類は、シロキセンに付与する所望の特性に応じて適宜選択することができる。
【0049】
本発明のシロキセン複合材料において、前記式(1)中、前記式(1a)中および図2中のEを構成する炭化水素基は炭素数1〜30の2価の炭化水素基である。本発明のシロキセン複合材料が層状化合物である場合、このEを構成する炭化水素基の炭素数を調整することによってシロキセン複合材料の層間距離を制御することができる。一方、Eを構成する炭化水素基の炭素数が前記上限を超えると、アミド結合を有する有機基(−O−E−CONR)が嵩高くなるため、シロキセン複合材料の層間にアミド結合を有する有機基を導入することが困難となる。特に、本発明のシロキセン誘導体を用いてシロキセン複合材料を製造する場合には、シロキセン誘導体を得ること自体が困難である。従って、シロキセン複合材料の層間にアミド結合を有する有機基を導入しやすいという観点から、Eを構成する炭化水素基の炭素数としては1〜15が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜5が特に好ましい。
【0050】
また、Eを構成する炭化水素基は直鎖状のものであっても分岐状のものであっても環状のものであってもよいが、カルボン酸エステル基とアミノ基との反応において、Eの嵩高さによるアミド化反応の阻害が起こりにくく、また、カルボン酸エステル基の反応性の低下が起こりにくいという観点から直鎖状炭化水素基が好ましい。
【0051】
このようなEを構成する炭化水素基としては、本発明のシロキセン誘導体において例示した炭化水素基が挙げられ、中でも、Eを構成する炭化水素基がシロキセン骨格やRおよびRを構成する炭化水素基および複素基に起因する特性に影響を与えにくいという炭素鎖ができる限り短い炭化水素基(例えば、炭素数1〜5の炭化水素基)が好ましく、メチレン基、エチレン基が特に好ましい。
【0052】
本発明のシロキセン複合材料は、シロキセン骨格に結合した有機基にアミド結合を備えているため、紫外線領域(特に波長260〜300nmの領域)の光の吸収率が、アミド結合を備えていない有機基を導入した場合に比べて高くなる傾向にある。また、その基本骨格であるシロキセン骨格がシリコンに対応する骨格(特に好ましくは、単結晶シリコンのSi(111)面に対応する骨格)であるため、シリコンと同様の性質を示す傾向にある。例えば、蛍光特性については同様のSi(111)面に対応する骨格を有する層状ポリシランやシロキセンの蛍光スペクトルに類似した蛍光スペクトルを示す。特に、この蛍光スペクトルは、励起波長が紫外線領域内であっても層状ポリシランやシロキセンに類似したものとなる。
【0053】
また、本発明のシロキセン複合材料は、図2に示すような層状化合物である場合、シロキセン骨格に結合した有機基の炭素数によって層間距離が異なるものとなる。
【0054】
<シロキセン複合材料の製造方法>
本発明のシロキセン複合材料は、本発明のシロキセン誘導体とNH基を有する含窒素化合物とを有機溶媒中で反応させることによって製造することができる。
【0055】
本発明のシロキセン複合材料の製造方法に用いられる含窒素化合物は、下記式(3):
HNR (3)
(式(3)中、RおよびRは前記式(1)中のRおよびRと同義である。)
で表されるものである。
【0056】
このような含窒素化合物としては、例えば、アルキルアミン(例えば、デシルアミン)などの無置換のアミン化合物;アミノアルキルイミダゾール(例えば、アミノプロピルイミダゾール)、アミノアルキルチオフェン(例えば、アミノエチルチオフェン)、ジアミノアルカン(例えば、ジアミノドデカン)などの置換アミン化合物;アミノピロール、アミノイミダゾール、アミノピリジンなどの複素環含有アミン化合物;イミダゾール、ピロール、ピリジンなどの含窒素芳香族複素環化合物が挙げられる。
【0057】
本発明のシロキセン複合材料の製造方法においては、本発明のシロキセン誘導体とこのような含窒素化合物とを有機溶媒中で反応させることによって、アミド結合を有する有機基(−O−E−CONR)がシロキセン骨格に結合した、前記式(1)および前記式(1a)で表されるシロキセン複合材料が生成する。なお、前記アミド結合は、下記反応式(6):
【0058】
【化1】

【0059】
に示すように、前記含窒素化合物が、シロキセン誘導体のSiH基に比べてカルボン酸エステル基に選択的に反応することによって生成する。このようにして生成したシロキセン複合材料において、前記式(1)中および前記式(1a)中のRおよびRは前記式(3)中のRおよびRと同一のものであり、前記式(1)中および前記式(1a)中のEは前記式(2)中および前記式(2a)中のEと同一のものであり、前記式(1)中のaは前記式(2)中のaと同一のものであり、前記式(1a)中のmおよびnは前記式(2a)中のmおよびnと同一のものである。前記反応におけるシロキセン誘導体と含窒素化合物との混合割合としては特に制限はないが、シロキセン誘導体中のカルボン酸エステル基1モルに対して含窒素化合物のNH基が1モル以上(より好ましくは1〜10モル)となることが好ましい。
【0060】
また、このようなシロキセン誘導体と含窒素化合物との反応においては、必要に応じて溶媒を使用することが好ましい。このような溶媒としては、アルコール以外の有機溶媒が好ましく、アセトニトリル、ピリジンがより好ましい。また、前記溶媒としては脱水処理を施した有機溶媒を使用することが特に好ましい。シロキセン誘導体と含窒素化合物との反応において、水やアルコールが存在すると、シロキセン骨格中のケイ素原子に結合した水素原子がヒドロキシル基やアルコキシ基に置換する傾向にある。溶媒の使用量としては特に制限はないが、シロキセン誘導体の濃度が0.1〜10モル/Lとなる量が好ましい。
【0061】
本発明にかかるシロキセン誘導体と含窒素化合物との反応において、反応温度としては40〜100℃が好ましく、60〜80℃がより好ましく、反応時間としては10〜100時間が好ましい。また、シロキセン誘導体と含窒素化合物との反応は、アルゴンガスや窒素ガスなどの不活性ガスの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
本発明のシロキセン複合材料の製造方法においては、本発明のシロキセン誘導体のカルボン酸エステル基に前記含窒素化合物のNH基を反応させるため、前記含窒素化合物として所望の官能基を有する化合物を使用することにより、シロキセン複合材料に所望の官能基を導入することが可能となる。これにより、シロキセンの特性(例えば、光物性や半導体特性)を変化させたり、制御したりすることができる。また、シロキセン複合材料に新たな特性を付与することも可能となる。さらに、シロキセン複合材料の層間にゲスト分子やゲストイオンをインターカレーションさせる場合には、シロキセン複合材料に導入する官能基の種類を変更することによってゲスト分子やゲストイオンとの親和性を調整することができ、インターカレーション制御が可能となる。
【0063】
また、シロキセン複合材料が図2に示すような層状化合物である場合、本発明のシロキセン複合材料の製造方法においては、使用する含窒素化合物の種類(特に、前記式(3)中のRおよびRを構成する炭化水素基および複素基の炭素数)によってシロキセン複合材料の層間距離を自由に制御することが可能である。これにより、シロキセン複合材料の層間にゲスト分子やゲストイオンをインターカレーションさせた場合においても、シロキセン複合材料の形状を極端に変化させずに、層間にゲスト分子やゲストイオンを容易に出入りさせることが可能となる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
硫酸(6ml)を塩化アンモニウム(20g)に加えて塩化水素ガスを発生させ、この塩化水素ガスをグリコール酸メチル(25g)にバブリングして塩化水素含有グリコール酸メチル溶液を調製した。シュレンク管に二ケイ化カルシウム(CaSi、244.3mg)を仕込み、真空ラインを用いてアルゴンガスでパージした。このシュレンク管に前記塩化水素含有グリコール酸メチル溶液(10ml、二ケイ化カルシウム1モルに対してグリコール酸メチル約50モル)を室温で添加した後、60℃で15時間加熱しながら攪拌し、アルゴン雰囲気下、塩化水素の存在下で二ケイ化カルシウムとグリコール酸メチルとを反応させた。
【0066】
反応終了後の溶液から、室温、減圧下で塩化水素を除去した後、脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF、5ml)を添加して懸濁液を調製した。この懸濁液を孔径10μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて減圧濾過した。濾滓を無水アセトン(5ml/回)で3回洗浄した後、25℃で1時間真空乾燥させて淡黄色粉体(290.8mg)を得た。
【0067】
得られた淡黄色粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図3および図4に示す。図3に示した赤外吸収スペクトルには、シロキセン骨格のSi−H結合とSi−O結合に由来するピーク、ならびにシロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルのカルボニル基に由来するピークが観測され、得られた淡黄色粉体は、下記組成式(7):
Si(O−CH−COOCH6−a (7)
(式(7)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(7a):
[Si(O−CH−COOCH6−n (7a)
(式(7a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン誘導体であることが確認された。これらの結果から推察される前記シロキセン誘導体の構造式の一例を、下記式(8):
【0068】
【化2】

【0069】
に示す。
【0070】
また、図4に示した結果から、前記シロキセン誘導体は層間距離が13.2Åの層状化合物であり、シロキセン骨格が単結晶シリコンのSi(111)面に対応する骨格であることがわかった。
【0071】
(実施例2)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(160.4mg)、無水アセトニトリル(5ml)、N−(3−アミノプロピル)イミダゾール(HN−(CH−[C]、2ml)を仕込み、60℃で18時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体とN−(3−アミノプロピル)イミダゾールとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水テトラヒドロフラン(無水THF)で洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて粉体(190.8mg)を得た。
【0072】
得られた粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図5および図6に示す。図5に示した赤外吸収スペクトルには、2100cm−1付近にSi−H結合に由来するピークおよび3150cm−1付近にイミダゾール環のC−H結合の伸縮振動モードに由来するピークが観測され、シロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルが選択的にアミド化されたと考えられる。従って、得られた粉体は、下記組成式(9):
Si(O−CH−CONH−(CH−[C])6−a (9)
(式(9)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(9a):
[Si(O−CH−CONH−(CH−[C])6−n
(9a)
(式(9a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料であることがわかった。これらの結果から推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(10):
【0073】
【化3】

【0074】
に示す。
【0075】
また、図6に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が25.4Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたプロピルイミダゾール基により層間が押し広げられたと考えられる。
【0076】
(実施例3)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(62.2mg)、無水アセトニトリル(5ml)、無水ピリジン(1ml)、1−アミノピロール(HN−[CN]、68.8mg)を仕込み、80℃で72時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体と1−アミノピロールとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトニトリルで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて粉体(79.5mg)を得た。
【0077】
得られた粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図7および図8に示す。図7に示した赤外吸収スペクトルには、2100cm−1付近にSi−H結合に由来するピークおよび3100cm−1付近にピロール環のC−H結合の伸縮振動モードに由来するピークが観測され、シロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルが選択的にアミド化されたと考えられる。従って、得られた粉体は、下記組成式(11):
Si(O−CH−CONH−[CN])6−a (11)
(式(11)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(11a):
[Si(O−CH−CONH−[CN])6−n (11a)
(式(11a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料であることがわかった。これらの結果から推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(12):
【0078】
【化4】

【0079】
に示す。
【0080】
また、図8に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が15.8Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたピロール環により層間が押し広げられたと考えられる。また、実施例2で得られたシロキセン複合材料に比べて、導入されたアミン化合物の長さが短いため、層間距離は短くなった。
【0081】
(実施例4)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(46.7mg)、無水アセトニトリル(3ml)、イミダゾール([C]、18.7mg)を仕込み、60℃で24時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体とイミダゾールとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトンで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて粉体(62.8mg)を得た。
【0082】
得られた粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図9および図10に示す。図9に示した赤外吸収スペクトルには、2100cm−1付近にSi−H結合に由来するピークおよび3100cm−1付近にイミダゾール環のC−H結合の伸縮振動モードに由来するピークが観測され、シロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルが選択的にアミド化されたと考えられる。従って、得られた粉体は、下記組成式(13):
Si(O−CH−CO[C])6−a (13)
(式(13)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(13a):
[Si(O−CH−CO[C])6−n (13a)
(式(13a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料であることがわかった。これらの結果から推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(14):
【0083】
【化5】

【0084】
に示す。
【0085】
また、図10に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が16.5Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたイミダゾール環により層間が押し広げられたと考えられる。また、実施例2で得られたシロキセン複合材料に比べて、導入された化合物の長さが短いため、層間距離は短くなった。さらに、図10に示したX線回折パターンにおいて、層間距離が4.94Åに相当するピークが観測された。これは、イミダゾール環がスタックした距離であると考えられる。
【0086】
(実施例5)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(202.5mg)、無水アセトニトリル(2ml)、無水ピリジン(2ml)、ピロール([CN]、3ml)を仕込み、80℃で72時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体とピロールとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトンで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて粉体(214.8mg)を得た。
【0087】
得られた粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図11および図12に示す。図11に示した赤外吸収スペクトルには、2100cm−1付近にSi−H結合に由来するピークおよび3100cm−1付近にピロール環のC−H結合の伸縮振動モードに由来するピークが観測され、シロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルが選択的にアミド化されたと考えられる。従って、得られた粉体は、下記組成式(15):
Si(O−CH−CO[CN])6−a (15)
(式(15)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(15a):
[Si(O−CH−CO[CN])6−n (15a)
(式(15a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料であることがわかった。これらの結果から推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(16):
【0088】
【化6】

【0089】
に示す。
【0090】
また、図12に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が16.1Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたピロール環により層間が押し広げられたと考えられる。また、実施例3で得られたシロキセン複合材料と比較すると、導入された化合物の長さが同等であるため、層間距離もほぼ等しくなった。さらに、図12に示したX線回折パターンにおいて、層間距離が4.94Åに相当するピークが観測された。これは、ピロール環がスタックした距離であると考えられる。
【0091】
(実施例6)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(155.4mg)、無水アセトニトリル(3ml)、無水ピリジン(0.5ml)、2−(2−アミノエチル)チオフェン(HN−(CH−[CS]、158.1mg)を仕込み、60℃で18時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体と2−(2−アミノエチル)チオフェンとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトンで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて粉体(192.3mg)を得た。
【0092】
得られた粉体の赤外吸収スペクトルおよびX線回折パターンをそれぞれ図13および図14に示す。図13に示した赤外吸収スペクトルには、2100cm−1付近にSi−H結合に由来するピークおよび3100cm−1付近にチオフェン環のC−H結合の伸縮振動モードに由来するピークが観測され、シロキセン骨格に結合したグリコール酸メチルが選択的にアミド化されたと考えられる。従って、得られた粉体は、下記組成式(17):
Si(O−CH−CONH−(CH−[CS])6−a (17)
(式(17)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(17a):
[Si(O−CH−CONH−(CH−[CS])6−n
(17a)
(式(17a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料であることがわかった。これらの結果から推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(18):
【0093】
【化7】

【0094】
に示す。
【0095】
また、図14に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが2本観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が18.0Åおよび17.1Åの層状化合物であることがわかった。これらの層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたエチルチオフェン基により層間が押し広げられたと考えられる。
【0096】
(実施例7)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(25.5mg)、無水アセトニトリル(3ml)、1,2−ジアミノドデカン(HN−(CH12−NH、168.5mg)を仕込み、60℃で18時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体と1,2−ジアミノドデカンとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトンで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて、下記組成式(19):
Si(O−CH−CONH−(CH126−a (19)
(式(19)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(19a):
[Si(O−CH−CONH−(CH126−n (19a)
(式(19a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料(32.9mg)を得た。なお、推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(20):
【0097】
【化8】

【0098】
(式(20)中、*は隣接するシロキセン骨格との結合部位を表す。)
に示す。
【0099】
得られたシロキセン複合材料のX線回折パターンを図15に示す。図15に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が19.7Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体を、1,2−ジアミノドデカンで架橋した場合の層間距離にほぼ等しかった。また、図15に示したX線回折パターンの2θ=18〜27°の領域において、層間内のドデシル基の結晶配向と考えられるピークが観測された。
【0100】
(実施例8)
シュレンク管に、実施例1で得られたシロキセン誘導体(85.4mg)、無水アセトニトリル(3ml)、無水ピリジン(1ml)、n−デシルアミン(CH−(CH−NH、354.8mg)を仕込み、80℃で13時間加熱しながら攪拌し、前記シロキセン誘導体とn−デシルアミンとを反応させた。得られた懸濁液を、グローブボックス内で、孔径1μmのテフロン(登録商標)製フィルターを用いて濾過した。濾滓を無水アセトンで洗浄した後、室温で1時間真空乾燥させて、下記組成式(21):
Si(O−CH−CONH−C10216−a (21)
(式(21)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(21a):
[Si(O−CH−CONH−C10216−n (21a)
(式(21a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン複合材料(108.4mg)を得た。なお、推察される前記シロキセン複合材料の構造式の一例を、下記式(22):
【0101】
【化9】

【0102】
に示す。
【0103】
得られたシロキセン複合材料のX線回折パターン、蛍光スペクトル(励起波長:275nm)および励起スペクトル(蛍光波長:420nm)をそれぞれ図16〜18に示す。図16に示したX線回折パターンにおいては、層間に相当すると考えられるピークが観測され、得られたシロキセン複合材料は、層間距離が28.6Åの層状化合物であることがわかった。この層間距離は、実施例1で得られたシロキセン誘導体の層間距離(13.2Å)に比べて拡大しており、アミド結合の先に導入されたドデシル基により層間が押し広げられたと考えられる。
【0104】
(比較例1)
A.Weissら(Z.Naturforsch.1979年、34b巻、25−30頁)に記載の方法に従って、実施例8で得られたシロキセン複合材料の層間距離(28.6Å)にほぼ等しい層間距離を有する、下記組成式(23):
Si(O−C12216−a (23)
(式(23)中、1≦a≦5である。)
および、下記構造式(23a):
[Si(O−C12216−n (23a)
(式(23a)中、nは1〜5の整数である。)
で表されるシロキセン誘導体を調製した。
【0105】
すなわち、窒素雰囲気下、二ケイ化カルシウム(142.8mg)とn−ドデカノール(5.0g)とを混合し、これに塩化水素のジオキサン溶液(4モル/L、25ml)を加えて、二ケイ化カルシウムとn−ドデカノールを室温で24時間反応させた。得られた懸濁液を濾過した後、濾滓を無水アセトンで洗浄して25℃で1時間真空乾燥させて淡黄色粉体(209.8mg)を得た。
【0106】
得られた淡黄色粉体(前記シロキセン誘導体)の蛍光スペクトル(励起波長:275nm)および励起スペクトル(蛍光波長:420nm)をそれぞれ図17〜18に示す。なお、推察される前記シロキセン誘導体の構造式の一例を、下記式(24):
【0107】
【化10】

【0108】
に示す。
【0109】
図17に示した結果から明らかなように、実施例8で得られたシロキセン複合材料と比較例1で得られたシロキセン誘導体は、ほぼ同じ蛍光スペクトルを示した。一方、図18に示した結果から明らかなように、実施例8で得られたシロキセン複合材料は、比較例1で得られたシロキセン誘導体に比べて、短波長領域(紫外線領域、特に波長270nmと300nm)において吸光度が高くなることがわかった。これは、シロキセン複合材料中のアミド基による紫外線吸収帯が、シリコン(蛍光極大波長:420nm)の蛍光励起に関与しているためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
以上説明したように、本発明によれば、アミド基を有する有機基がシロキセン骨格に結合したシロキセン複合材料を得ることが可能となる。このシロキセン複合材料は、紫外線領域にアミド基に由来する吸収帯を有し、幅広い励起波長吸収帯を備えるとともに、シリコンと同様の蛍光特性を示す。したがって、本発明のシロキセン複合材料は、太陽光を有効利用できる光デバイス材料として期待される。
【0111】
また、本発明によれば、シロキセン複合材料の形状を極端に変化させずに、シロキセン複合材料の層間にゲスト分子やゲストイオンを容易に出入りさせることが可能となる。したがって、従来の電気二重層キャパシタの電極材料においては、充放電の際にイオンの層間挿入や脱離による体積変化が問題となっていたが、本発明のシロキセン複合材料を使用することによってその問題が解消されることが期待できる。
【0112】
さらに、本発明によれば、単結晶シリコンのSi(111)面に対応する骨格を有するシロキセン複合材料を製造することが可能である。このような骨格を有するシロキセン複合材料は薄膜化することにより半導体薄膜として利用できる。
【0113】
このように、本発明のシロキセン複合材料は、半導体材料、電気・電子材料、光集積材料、太陽電池や二次電池などの電極材料、発光素子材料など、様々な分野への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよく、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されることを特徴とするシロキセン複合材料。
【請求項2】
下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されることを特徴とするシロキセン誘導体。
【請求項3】
下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表し、1≦a≦5である。)
で表されるシロキセン誘導体と、
下記式(3):
HNR (3)
(式(3)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子、あるいは置換基を有していてもよい炭化水素基または複素基を表し、前記NRにおいて、RとRが互いに結合して含窒素複素環を形成していてもよい。)
で表される含窒素化合物とを有機溶媒中で反応させて、
下記組成式(1):
Si(O−E−CONR6−a (1)
(式(1)中、RおよびRは前記式(3)中のRおよびRと同一のものであり、Eおよびaは前記式(2)中のEおよびaと同一のものである。)
で表されるシロキセン複合材料を得ることを特徴とするシロキセン複合材料の製造方法。
【請求項4】
下記式(4):
(M)(Si) (4)
(式(4)中、Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、テルビウムおよびトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属原子であり、xは1〜12の整数であり、yは1〜17の整数であり、x≦yである。)
で表される金属ケイ化物と、
下記式(5):
HO−E−COOR (5)
(式(5)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を表し、Eは炭素数1〜30の炭化水素基を表す。)
で表されるヒドロキシカルボン酸エステルとを酸の存在下で反応させて、
下記組成式(2):
Si(O−E−COOR6−a (2)
(式(2)中、RおよびEは前記式(5)中のRおよびEと同一のものであり、1≦a≦5である。)
で表されるシロキセン誘導体を得ることを特徴とするシロキセン誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−1604(P2012−1604A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136370(P2010−136370)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】