説明

シンチレーション検出器

【課題】より正確にβ線を検出することを可能とするシンチレーション検出器を提供する。
【解決手段】サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出するためのシンチレーション検出器10であって、β線およびγ線に感応して光を発する板状のシンチレータ12と、これに略平行に近接して配置された、γ線に感応して光を発する板状のシンチレータ13と、両者間を遮光する板状の遮光体14と、シンチレータ12に対して遮光体14とは反対側に設けられた、サンプルガスが導入されるガス導入室15と、2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する光検出部17,18とを有し、シンチレータ12および遮光体14は、シンチレータ12に入射したβ線がシンチレータ13に入射しないように構成され、シンチレータ12,13および遮光体14は、γ線透過性を有するものが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータを用いてβ線を検出するためのシンチレーション検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料再処理施設から大気中に放出される気体廃棄物中には、放射性クリプトン(85Kr)が含まれる。このため、再処理施設の周辺には、いわゆるモニタリングポストとして、大気中の85Kr濃度を測定するためのクリプトンガスモニタが設置されている。
【0003】
図12は、従来のクリプトンガスモニタ50の概略構成図である。図12において、クリプトンガスモニタ50は、β線検出用のプラスチックシンチレータ51を有する。このプラスチックシンチレータ51の両側には、それぞれ、大気が導入されるガス導入室52,53が形成されるとともに、光電子増倍管(PMT: PhotoMultiplier Tube)54,55が配置されている。2つのPMT54,55の出力はコインシデンス回路56に接続されており、コインシデンス回路56の出力は測定器57に接続されている。
【0004】
このクリプトンガスモニタ50では、図13に示されるようにガス導入室内の85Krから放出されるβ線がプラスチックシンチレータ51に入射すると、プラスチックシンチレータ51が当該β線に感応して光を発する。この光は、2つのPMT54,55により電流パルスであるβ線検出パルスに変換されてコインシデンス回路56に出力される。コインシデンス回路56は、PMT54,55の出力信号から熱雑音を除去してβ線検出パルスを取り出し、測定器57に出力する。測定器57は、β線検出パルスをカウントし、その結果から大気中の85Kr濃度を算出する。
【0005】
しかし、上記プラスチックシンチレータ51は、γ線に対しても感度を有し、図14に示されるように宇宙線(γ線)が入射した場合にも発光する。このため、上記クリプトンガスモニタ50では、宇宙線をも検出してしまい、β線だけを正確に検出することができない。
【0006】
特許文献1には、プラスチックシンチレータを用いてβ線を検出するシンチレーション検出器において、バックグラウンドとしてのγ線の影響を除去してβ線だけを正確に検出するようにしたものが開示されている。
【0007】
図15は、特許文献1に開示されているシンチレーション検出器60の概略構成図である。このシンチレーション検出器60は、筐体61を有し、その測定面側と反対面側とには、それぞれ同一仕様のプラスチックシンチレータ62,63が取り付けられている。両プラスチックシンチレータ62,63の中間位置には、γ線透過性のβ線遮蔽体64が設けられている。また、プラスチックシンチレータ62に対しては一対のPMT65,66が配置され、プラスチックシンチレータ63に対しては一対のPMT67,68が配置されている。
【0008】
上記構成では、測定面側のPMT65,66では、測定面側から入射する放射線のうちβ線とバックグラウンドとしてのγ線との両方が検出される。一方、反対面側のPMT67,68では、放射線のうちバックグラウンドとしてのγ線のみが検出される。そして、測定面側で検出されたβ線およびγ線の両方の検出信号から反対面側で検出されたγ線検出信号が差し引かれることにより、正味のβ線検出信号が得られる。
【0009】
【特許文献1】特開平1−287494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記特許文献1に記載されたシンチレーション検出器60には、次の問題がある。すなわち、宇宙線(γ線)成分を効果的に除去するためには、宇宙線の到来方向(天頂方向)に対して測定面を垂直に配置するのが良いが、このような配置では、プラスチックシンチレータ62,63に入射する宇宙線(すなわちノイズ)の量が多く、β線の検出感度に不利である。一方、プラスチックシンチレータ62,63に入射する宇宙線の量を少なくするためには、宇宙線の到来方向に対して測定面を平行に配置するのが良いが、このような配置では、図15の矢線Xのようにプラスチックシンチレータ62に入射した宇宙線がプラスチックシンチレータ63に入射せず、宇宙線成分を除去することができない。
【0011】
そこで、本発明は、より正確にβ線を検出することを可能とするシンチレーション検出器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシンチレーション検出器は、サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出するためのシンチレーション検出器であって、β線およびγ線に感応して光を発する板状の第1のシンチレータと、前記第1のシンチレータに略平行に近接して配置された、γ線に感応して光を発する板状の第2のシンチレータと、前記2つのシンチレータの間に配置された、両者間を遮光する板状の遮光体と、前記第1のシンチレータに対して前記遮光体とは反対側に設けられた、前記サンプルガスが導入されるガス導入室と、前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する2つの光検出部と、を有し、前記第1のシンチレータおよび前記遮光体は、前記第1のシンチレータに入射したβ線が前記第2のシンチレータに入射しないように構成され、前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、γ線透過性を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るシンチレーション検出器は、サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出するためのシンチレーション検出器であって、互いに略平行に近接して配置された、β線およびγ線に感応して光を発する板状の2つのシンチレータと、前記2つのシンチレータの間に配置された、両者間を遮光する板状の遮光体と、前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、前記サンプルガスが導入される2つのガス導入室と、前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する2つの光検出部と、を有し、前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、一方のシンチレータに入射したβ線が他方のシンチレータに入射しないように構成されるとともに、γ線透過性を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の好適な態様では、前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、互いに密着して配置される。
【0015】
また、本発明の好適な態様では、前記2つのシンチレータは、天頂方向に略平行に配置される。
【0016】
本発明に係る放射線検出装置は、上記いずれかのシンチレーション検出器を備えた放射線検出装置であって、前記2つの光検出部は、それぞれ一対の光電子増倍管を含み、前記放射線検出装置は、それぞれ対応する前記一対の光電子増倍管の出力信号について同時計数を行う2つの同時計数器と、前記2つの同時計数器の出力信号について非同時計数を行う非同時計数器と、をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より正確にβ線を検出することを可能とするシンチレーション検出器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0019】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係るクリプトンガスモニタ1の全体構成を示す概略図である。このクリプトンガスモニタ1は、空気中の放射性クリプトン(85Kr)の濃度を測定する装置であり、例えば核燃料再処理施設の周辺でモニタリングポストとして用いられる。
【0020】
図1において、クリプトンガスモニタ1は、放射線検出装置100を有する。この放射線検出装置100は、サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出する装置であり、本実施の形態では、大気中の85Krから放出される低エネルギーβ線を検出する。放射線検出装置100は、その主要構成要素として、シンチレーション検出器10を有する。このシンチレーション検出器10は、シンチレータを用いて放射線を検出するものである。なお、図には示されていないが、シンチレーション検出器10は、これを外部の放射線から遮蔽するため、鉛等の遮蔽体で蔽われている。
【0021】
図2および図3は、それぞれシンチレーション検出器10の概略構成を示す側断面図および上面図である。図2,3に示されるように、シンチレーション検出器10は、円筒状の筐体11を有する。筐体11の中央部分には、2つの矩形平板状のシンチレータ12,13が、筐体11の軸方向に沿って延びるように、互いに略平行に近接して配置されている。
【0022】
シンチレータ12,13の寸法は、互いに略同一であり、次のとおりである。すなわち、矩形平面の一方の辺の長さは、筐体11の高さと略同一であり、例えば300mmである。他方の辺の長さは、筐体11の直径と略同一であり、例えば350mmである。厚さは、例えば2mmである。
【0023】
シンチレータ12,13は、β線およびγ線に感応してシンチレーション光を発するものであり、ここではプラスチックシンチレータである。本実施の形態では、シンチレータ12,13は、互いに同一仕様であり、略同一の特性を有する。
【0024】
2つのシンチレータ12,13の間には、矩形平板状の遮光体14が配置されている。この遮光体14の面形状はシンチレータ12,13と略同一であり、単位面積当りの質量は例えば200mg/cm2であり、厚さは例えば0.1〜1.0mmである。遮光体14は、表面が反射材でコートされており、シンチレータ12,13間を遮光する機能と、光を反射する機能とを有する。
【0025】
シンチレータ12,13および遮光体14は、本実施の形態では、互いに密着して配置されており、3重のサンドイッチ構造を形成している。
【0026】
2つのシンチレータ12,13を挟んだ両側には、ガス導入室15,16が形成されている。ガス導入室15は、筐体11およびシンチレータ12により仕切られた略半円筒状の室であり、ガス導入室16は、筐体11およびシンチレータ13により仕切られた略半円筒状の室である。ガス導入室15,16には、不図示のポンプ等によって、サンプルガスとして85Krを含む外気が導入される。具体的には、図2の矢印Aで示されるように、ガス導入室15,16の一方(図2では上側)の開口から外気が導入され、他方(図2では下側)の開口から排出される。
【0027】
また、2つのシンチレータ12,13を挟んだ両側には、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する光検出部17,18が配置されている。具体的には、筐体11のシンチレータ12に対向する部分には、光検出部17として、シンチレータ12の光を検出する一対の光電子増倍管(PMT)17a,17bが取り付けられている。また、筐体11のシンチレータ13に対向する部分には、光検出部18として、シンチレータ13の光を検出する一対のPMT18a,18bが取り付けられている。PMT17a,17b,18a,18bは、シンチレータ12または13の光を電流に交換倍増し、電気的な検出パルスとして出力する変換器である。
【0028】
上記構成において、シンチレータ12,13および遮光体14は、一方のシンチレータに入射したβ線が他方のシンチレータに入射しないように構成されている。すなわち、シンチレータ12または遮光体14は、ガス導入室15内の85Krから放出されたβ線を遮蔽し、シンチレータ13または遮光体14は、ガス導入室16内の85Krから放出されたβ線を遮蔽する。本実施の形態では、85Krのβ線を遮蔽するβ線遮蔽能を遮光体14が有し、85Krのβ線は実質的に遮光体14で遮蔽される。ただし、シンチレータに十分なβ線遮蔽能を持たせ、シンチレータでβ線を遮蔽してもよい。
【0029】
また、シンチレータ12,13および遮光体14は、一方のシンチレータに入射したγ線が他方のシンチレータに入射するように、γ線透過性を有する。
【0030】
また、シンチレータ12,13は、宇宙線(γ線)の影響を出来るだけ小さくするため、天頂方向(図2の矢印B方向)に平行に配置される。
【0031】
また、上記シンチレーション検出器10では、85Krのβ線は、当該β線の入射によるシンチレータの微弱な発光をPMTが受光することにより検出される。そこで、筐体11の内壁には、反射材がコートされている。また、放射線検出装置100は、シンチレーション検出器10が暗室状態となるように構成されている。
【0032】
再び図1を参照すると、シンチレーション検出器10のPMT17a,17bの出力は、それぞれプリアンプ21a,21bを介して、コインシデンス回路22の入力に接続されている。このコインシデンス回路22は、2つの入力信号について同時計数を行う(すなわちコインシデンスをとる)回路であり、具体的には2つの入力パルスが同時に入ってきたときのみ出力パルスを出すものである。したがって、コインシデンス回路22がパルスを出力した場合には、極めて高い確率で、シンチレータ12の発光がPMT17a,17bの両方で検出されたといえる。このような作用により、コインシデンス回路22は、PMT17a,17bの出力信号から、熱雑音などのノイズを除去し、シンチレータ12の発光を示す検出パルスを取り出す。
【0033】
同様に、PMT18a,18bの出力は、それぞれプリアンプ23a,23bを介して、コインシデンス回路24の入力に接続されている。コインシデンス回路24は、PTM18a,18bの出力信号から、熱雑音などのノイズを除去し、シンチレータ13の発光に対応する検出パルスを取り出す。
【0034】
コインシデンス回路22,24の出力は、アンチコインシデンス回路25の入力に接続されている。このアンチコインシデンス回路25は、2つの入力信号について非同時計数を行う(すなわちアンチコインシデンスをとる)回路であり、具体的には、入力されたパルスのうち、同時に入ってきたパルスを除き、残ったパルスを出力するものである。アンチコインシデンス回路25の出力は、測定器200に接続されている。
【0035】
測定器200は、上記放射線検出装置100の出力信号に基づいて大気中の85Krの濃度を演算する装置である。図1において、測定器200は、計数回路210、演算回路220、および表示部230を有する。
【0036】
計数回路210は、アンチコインシデンス回路25の出力パルスを計数するカウンタであり、本実施の形態では、出力パルスの計数率(単位時間当たりのパルス数)を求める。
【0037】
演算回路220は、計数回路210により求められた計数率に基づき、大気中の85Kr濃度を表すパラメータとして、単位体積当たりの放射能量(Bq/cm3)を算出する。
【0038】
表示部230は、演算回路220により算出された85Kr濃度を画面上に表示させる。
【0039】
以下、上記構成を有するクリプトンガスモニタ1の動作について説明する。
【0040】
(ガス導入室15内の85Krのβ線がシンチレータ12に入射した場合)
図4に示されるように、ガス導入室15内の85Krからβ線が放出され、当該β線がシンチレータ12に入射した場合、シンチレータ12はβ線に感応してシンチレーション光を発する。このシンチレーション光は、PMT17a,17bに受光されるが、遮光体14に遮光されるためPMT18a,18bには受光されない。
【0041】
PMT17a,17bは、それぞれ、上記シンチレーション光をβ線検出パルスPβ1に変換し、当該β線検出パルスPβ1をプリアンプ21a,21bを介してコインシデンス回路22に出力する。
【0042】
コインシデンス回路22は、プリアンプ21a,21bから上記β線検出パルスPβ1を受けると、これらは同時入力なので、当該β線検出パルスPβ1をアンチコインシデンス回路25に出力する。
【0043】
ところで、上記β線は、シンチレータ12または遮光体14により遮蔽され、シンチレータ13には入射しない。このため、シンチレータ13は発光せず、コインシデンス回路24からは上記β線に対応するパルスは出力されない。
【0044】
よって、アンチコインシデンス回路25は、一方のコインシデンス回路22からのみβ線検出パルスPβ1の入力を受けることとなり、当該β線検出パルスPβ1を測定器200に出力する。
【0045】
(ガス導入室16内の85Krのβ線がシンチレータ13に入射した場合)
ガス導入室16内の85Krからβ線が放出され、当該β線がシンチレータ13に入射した場合、上記と同様に、一方のシンチレータ13のみ発光し、この発光に対応するβ線検出パルスPβ2が測定器200に出力される。
【0046】
(シンチレータに宇宙線が入射した場合)
図5に示されるように、シンチレータ13側から宇宙線が到来し、当該宇宙線がシンチレータ13に入射した場合、当該宇宙線は、シンチレータ13および遮光体14を透過し、反対側のシンチレータ12にも入射する。これにより、シンチレータ12,13の両方が同時に光を発する。
【0047】
PMT17a,17bは、それぞれ、上記シンチレータ12の光をγ線検出パルスPγ1に変換し、プリアンプ21a,21bを介してコインシデンス回路22に出力する。コインシデンス回路22は、当該γ線検出パルスPγ1をアンチコインシデンス回路25に出力する。
【0048】
これと同時に、PMT18a,18bは、それぞれ、上記シンチレータ13の光をγ線検出パルスPγ2に変換し、プリアンプ23a,23bを介してコインシデンス回路24に出力する。コインシデンス回路24は、当該γ線検出パルスPγ2をアンチコインシデンス回路25に出力する。
【0049】
よって、アンチコインシデンス回路25は、コインシデンス回路22,24からγ線検出パルスPγ1,Pγ2を同時に受けることとなり、パルスを出力しない。
【0050】
なお、シンチレータ12側から宇宙線が到来した場合にも、上記と同様に、アンチコインシデンス回路25はパルスを出力しない。
【0051】
以上のように、放射線検出装置100は、β線がシンチレータ12に入射した場合にはβ線検出パルスPβ1を測定器200に出力し、β線がシンチレータ13に入射した場合には、β線検出パルスPβ2を測定器200に出力し、γ線がシンチレータ12または13に入射した場合には、パルスを出力しない。すなわち、放射線検出装置100は、測定された放射線の成分から、γ線の成分を取り除き、β線の成分だけを検出して出力する。
【0052】
測定器200では、計数回路210は、放射線検出装置100から入力されるβ線検出パルスPβ1およびPβ2をカウントし、単位時間当たりのパルス数である計数率を求め、当該計数率を演算回路220に渡す。演算回路220は、計数回路210から受けた計数率に基づいて、大気中の85Krの濃度(Bq/cm3)を算出し、得られた85Kr濃度を表示部230に渡す。表示部230は、演算回路220から受けた85Kr濃度を表示画面上に表示させる。
【0053】
以上のとおり、本実施の形態に係るシンチレーション検出器10は、β線およびγ線に感応して光を発するシンチレータ12,13と、両者間を遮光する遮光体14と、シンチレータ12,13を挟んで両側に設けられた、サンプルガスが導入されるガス導入室15,16と、シンチレータ12,13を挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する光検出部17,18と、を有する。そして、シンチレータ12,13および遮光体14は、一方のシンチレータに入射したβ線が他方のシンチレータに入射しないように構成されるとともに、γ線透過性を有する。
【0054】
上記構成では、一方側のガス導入室の放射性核種から放出されたβ線は、当該一方側のシンチレータに入射し、他方側のシンチレータには入射しない。そして、上記一方側のシンチレータは、上記β線の入射により光を発する。この光は、上記一方側の光検出部にて検出されるが、遮光体14に遮られ他方側の光検出部には検出されない。一方、シンチレータ12,13および遮光体14のγ線透過性により、γ線は、両方のシンチレータを発光させ、両方の光検出部で検出される。分かり易く言えば、放射性核種から放出されるβ線は片側のシンチレータでのみ検出され、γ線は両方のシンチレータで検出される。
【0055】
よって、本実施の形態に係るシンチレーション検出器によれば、γ線とβ線の弁別が可能となり、正確にβ線を検出することが可能となる。具体的には、両方のシンチレータによる検出信号のアンチコインシデンスをとることによって、検出信号からγ線の成分を取り除くことができ、β線だけを検出することができる。この結果、感度良く85Krのβ線を検出することができ、高感度のクリプトンガスモニタを提供することが可能となる。
【0056】
なお、上記取り除かれるγ線成分としては、宇宙線の成分の他に、内部発生するγ線の成分なども含まれる。また、本実施の形態によれば、γ線成分のみならず、高エネルギーβ線などを除去することも可能である。
【0057】
また、本実施の形態では、2つの板状のシンチレータ12,13は、互いに略平行に近接して配置される。このため、2つのシンチレータが離して配置された場合と比較して、一方のシンチレータに入射したγ線を他方のシンチレータに確実に入射させることができる。これにより、より確実にγ線成分をキャンセルすることが可能となり、より正確にβ線の量を検出することが可能となる。また、シンチレータ12,13をγ線(宇宙線)の到来方向に平行に設置した場合であっても、両方のシンチレータで確実にγ線を検出することができる。このため、シンチレータをγ線の到来方向に平行に設置することによるノイズ低減効果と、γ線成分をキャンセルすることによるノイズ低減効果との両立を図ることが可能となり、より正確にβ線を検出することが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態では、2つのシンチレータ12,13および遮光体14は密着して配置されるので、上記近接配置による効果がより顕著に得られる。
【0059】
また、本実施の形態では、互いに略同一の特性を有する2つのシンチレータ12,13を用いるので、2つのシンチレータ12,13でγ線を同様に検出することができ、γ線成分のキャンセルを良好に行うことができる。
【0060】
また、本実施の形態では、2つのシンチレータ12,13の両方を用いてβ線を検出するので、一方のシンチレータだけでβ線を検出する構成と比較して、β線の検出を効率的に行うことができる。
【0061】
また、本実施の形態に係る放射線検出装置100は、上記シンチレーション検出器であって、光検出部17および18がそれぞれ一対のPMT17a,17bおよびPMT18a,18bを含むシンチレーション検出器を有する。そして、一対のPMT17a,17bの出力信号について同時計数を行うコインシデンス回路22と、一対のPMT18a,18bの出力信号について同時計数を行うコインシデンス回路24と、2つのコインシデンス回路22,24の出力信号について非同時計数を行うアンチコインシデンス回路25とを有する。
【0062】
上記構成では、コインシデンス回路22は、一対のPMT17a,17bの出力信号から、熱雑音等のノイズを除去して、β線検出パルスおよびγ線検出パルスを出力する。コインシデンス回路24は、一対のPMT18a,18bの出力信号から、熱雑音等のノイズを除去して、β線検出パルスおよびγ線検出パルスを出力する。アンチコインシデンス回路25は、コインシデンス回路22,24から入力されるパルスのうち、同時入力されるγ線検出パルスを除去し、β線検出パルスを出力する。
【0063】
よって、本実施の形態に係る放射線検出装置100によれば、2つのシンチレータ12,13のシンチレーション光に基づいて、熱雑音やγ線の影響を除去しつつ、シンチレータ12または13へのβ線の入射を示すパルスを取り出すことができる。
【0064】
なお、本実施の形態では、円筒形のシンチレーション検出器を例示したが、シンチレーション検出器の形状はこれに限られず、例えば、図6,7に示されるように四角筒形状であってもよい。
【0065】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係るクリプトンガスモニタは、上記クリプトンガスモニタ1と殆ど同じものであるが、円筒状のシンチレータを有するものである。以下、本実施の形態に係るクリプトンガスモニタについて説明するが、上記クリプトンガスモニタ1と共通する部分については、同一の符号を用い、説明を省略する。
【0066】
図8および図9は、それぞれ本実施の形態に係るシンチレーション検出器30の概略構成を示す側断面図および上面図である。図8,9に示されるように、シンチレーション検出器30は、円筒状の筐体31を有する。この筐体31の中央部分には、筐体31と同心の円筒板状のシンチレータ32が配置されている。このシンチレータ32の内側には、筐体31と同心の円筒板状のシンチレータ33が、シンチレータ32と略平行に近接して配置されている。そして、2つのシンチレータ32,33の間には、円筒板状の遮光体34が配置されている。シンチレータ32,33および遮光体34は、互いに密着して配置されており、3重のサンドイッチ構造を形成している。
【0067】
2つのシンチレータ32,33を挟んだ両側には、ガス導入室35,36が形成されている。ガス導入室35は、筐体31とシンチレータ32とに挟まれたドーナツ状の外周側の室であり、ガス導入室36は、シンチレータ33により仕切られた円筒状の内周側の室である。
【0068】
また、2つのシンチレータ32,33を挟んだ両側には、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する光検出部37,38が配置されている。具体的には、筐体31には周方向に等間隔で、光検出部37として、シンチレータ32の光を検出する4個のPMT37a,37b,37c,37dが取り付けられている。また、シンチレータ33の内周側には筐体31の上面部分に、光検出部38として、シンチレータ33の光を検出する2個のPMT38a,38bが取り付けられている。
【0069】
図10は、本実施の形態に係る放射線検出装置300の回路構成図である。図10において、PMT37a,37bの出力は、それぞれコインシデンス回路41aの入力に接続されている。PMT37b,37cの出力は、それぞれコインシデンス回路41bの入力に接続されている。PMT37c,37dの出力は、それぞれコインシデンス回路41cの入力に接続されている。PMT37d,37aの出力は、それぞれコインシデンス回路41dの入力に接続されている。また、PMT38a,38bの出力は、それぞれコインシデンス回路42の入力に接続されている。コインシデンス回路41a,41b,41c,41dの出力は、OR(論理和)回路43の入力に接続されている。OR回路43およびコインシデンス回路42の出力は、アンチコインシデンス回路44の入力に接続されている。アンチコインシデンス回路44の出力は、測定器200に接続されている。
【0070】
このように、本実施の形態では、シンチレータ32の光る部分によって光を検出するPMTが違うため、隣り合うPMTから発生した信号のコインシデンスをとった後、全てのPMTからの信号のORをとる。この構成により、シンチレータ32のどの部分が光っても当該光が検出される。
【0071】
そして、上記第1の実施の形態と同様に、外周側のガス導入室35内の85Krから放出されたβ線は外周側のPMT37a,37b,37c,37dにより検出され、当該β線に対応するβ線検出パルスがOR回路43からアンチコインシデンス回路44に入力される。また、内周側のガス導入室36内の85Krから放出されたβ線は内周側のPMT38a,38bにより検出され、当該β線に対応するβ線検出パルスがコインシデンス回路42からアンチコインシデンス回路44に入力される。また、シンチレータ32,33に入射したγ線は、外周側のPMTおよび内周側のPMTの両方に検出され、当該γ線に対応するγ線検出パルスがOR回路43およびコインシデンス回路42から同時にアンチコインシデンス回路44に入力される。アンチコインシデンス回路44は、OR回路43からのβ線検出パルスとコインシデンス回路42からのβ線検出パルスとを測定器200に出力する。
【0072】
以上のとおり、本実施の形態では、円筒板状のシンチレータ32,33が用いられる。このように、シンチレータの形状は、平板に限られず適宜に変更可能である。例えば、図11に示されるように、四角筒状のシンチレータを有する二重四角筒構造とすることも可能である。
【0073】
また、本実施の形態では、一方のシンチレータ32側に4個のPMTが設けられ、他方のシンチレータ33側に2個のPMTが設けられる。このように、一つのシンチレータに対応するPMTの個数は2個に限られず適宜に変更可能である。また、2つのシンチレータ間で、対応するPMTの個数が異なっていてもよい。
【0074】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更することができる。例えば、検出対象の放射線核種は、85Krに限られず、例えば放射性キセノン(133Xe)などであってもよい。また、2つのシンチレータおよび遮光体は、隙間を開けて配置されてもよい。
【0075】
また、上記実施の形態では、2つのシンチレータの両方を用いてβ線を検出する構成としたが、一方のシンチレータによりβ線を検出する次のような構成としてもよい。すなわち、シンチレーション検出器は、β線およびγ線に感応して光を発する板状の第1のシンチレータと、当該第1のシンチレータに略平行に近接して配置された、γ線に感応して光を発する板状の第2のシンチレータと、2つのシンチレータの間に配置された、両者間を遮光する板状の遮光体と、第1のシンチレータに対して遮光体とは反対側に設けられた、サンプルガスが導入されるガス導入室と、2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する2つの光検出部とを有する。そして、第1のシンチレータおよび遮光体は、第1のシンチレータに入射したβ線が第2のシンチレータに入射しないように構成され、2つのシンチレータおよび遮光体は、γ線透過性を有する。
【0076】
上記構成では、ガス導入室の放射性核種から放出されたβ線は、第1のシンチレータに入射し、第2のシンチレータには入射しない。そして、第1のシンチレータは、上記β線の入射により光を発する。この光は、第1のシンチレータ側の光検出部にて検出されるが、遮光体に遮られ第2のシンチレータ側の光検出部には検出されない。一方、2つのシンチレータおよび遮光体のγ線透過性により、γ線は、両方のシンチレータを発光させ、両方の光検出部で検出される。分かり易く言えば、放射性核種から放出されるβ線は第1のシンチレータでのみ検出され、γ線は両方のシンチレータで検出される。
【0077】
よって、上記構成のシンチレーション検出器によれば、上記シンチレーション検出器10と同様の効果を得ることができる。例えば、γ線とβ線の弁別が可能となり、正確にβ線を検出することが可能となる。また、2つのシンチレータは互いに略平行に近接して配置されるので、2つのシンチレータが離して配置された場合と比較して、より確実にγ線成分をキャンセルすることが可能となる。
【0078】
なお、上記構成では、第1および第2のシンチレータのγ線に対する感度は、互いに略同一であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】第1の実施の形態に係るクリプトンガスモニタの全体構成を示す概略図である。
【図2】第1の実施の形態に係るシンチレーション検出器の概略構成を示す側断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係るシンチレーション検出器の概略構成を示す上面図である。
【図4】シンチレータにβ線が入射した場合を示す模式図である。
【図5】シンチレータに宇宙線が入射した場合を示す模式図である。
【図6】四角筒形状を有するシンチレーション検出器の概略構成を示す側断面図である。
【図7】四角筒形状を有するシンチレーション検出器の概略構成を示す上面図である。
【図8】第2の実施の形態に係るシンチレーション検出器の概略構成を示す側断面図である。
【図9】第2の実施の形態に係るシンチレーション検出器の概略構成を示す上面図である。
【図10】第2の実施の形態に係る放射線検出装置の回路構成図である。
【図11】二重四角筒形状を有するシンチレーション検出器の概略構成を示す上面図である。
【図12】従来のクリプトンガスモニタの概略構成図である。
【図13】シンチレータにβ線が入射した場合を示す模式図である。
【図14】シンチレータに宇宙線が入射した場合を示す模式図である。
【図15】特許文献1に開示されているシンチレーション検出器の概略構成図である。
【符号の説明】
【0080】
1 クリプトンガスモニタ、10,30 シンチレーション検出器、11,31 筐体、12,13,32,33 シンチレータ、14,34 遮光体、15,16,35,36 ガス導入室、17,18,37,38 光検出部、17a,17b,18a,18b,37a〜37d,38a,38b 光電子増倍管(PMT)、21a,21b,23a,23b プリアンプ、22,24,41a〜41d,42 コインシデンス回路、25,44 アンチコインシデンス回路、43 OR回路、100,300 放射線検出装置、200 測定器、210 計数回路、220 演算回路、230 表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出するためのシンチレーション検出器であって、
β線およびγ線に感応して光を発する板状の第1のシンチレータと、
前記第1のシンチレータに略平行に近接して配置された、γ線に感応して光を発する板状の第2のシンチレータと、
前記2つのシンチレータの間に配置された、両者間を遮光する板状の遮光体と、
前記第1のシンチレータに対して前記遮光体とは反対側に設けられた、前記サンプルガスが導入されるガス導入室と、
前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する2つの光検出部と、を有し、
前記第1のシンチレータおよび前記遮光体は、前記第1のシンチレータに入射したβ線が前記第2のシンチレータに入射しないように構成され、
前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、γ線透過性を有する、
ことを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項2】
サンプルガス中の放射性核種から放出されるβ線を検出するためのシンチレーション検出器であって、
互いに略平行に近接して配置された、β線およびγ線に感応して光を発する板状の2つのシンチレータと、
前記2つのシンチレータの間に配置された、両者間を遮光する板状の遮光体と、
前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、前記サンプルガスが導入される2つのガス導入室と、
前記2つのシンチレータを挟んで両側に設けられた、それぞれ対応するシンチレータの光を検出する2つの光検出部と、を有し、
前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、一方のシンチレータに入射したβ線が他方のシンチレータに入射しないように構成されるとともに、γ線透過性を有する、
ことを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたシンチレーション検出器であって、
前記2つのシンチレータおよび前記遮光体は、互いに密着して配置されることを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載されたシンチレーション検出器であって、
前記2つのシンチレータは、天頂方向に略平行に配置されることを特徴とするシンチレーション検出器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたシンチレーション検出器を備えた放射線検出装置であって、
前記2つの光検出部は、それぞれ一対の光電子増倍管を含み、
前記放射線検出装置は、
それぞれ対応する前記一対の光電子増倍管の出力信号について同時計数を行う2つの同時計数器と、
前記2つの同時計数器の出力信号について非同時計数を行う非同時計数器と、
をさらに有する、
ことを特徴とする放射線検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−225569(P2007−225569A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50223(P2006−50223)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】