説明

シンチレータ構造

【課題】散乱X線を除去できるシンチレータ構造を提供する。
【解決手段】シンチレータ23を、非X線入射側のシンチレータ層24とX線入射側のシンチレータ層25とで構成する。X線入射側のシンチレータ層25を、非X線入射側のシンチレータ層24に比べてX線14を可視光に変換する変換効率を低くする。X線入射側のシンチレータ層25が散乱X線を吸収する吸収層として機能し、シンチレータ23自体によって散乱X線を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の検出に用いられるシンチレータ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射線、特にX線を光に変換するシンチレータと、このシンチレータで変換された光を電気信号に変換する複数の画素を有する光電変換基板とを構成要素として含む平面形のX線検出装置がある。
【0003】
このようなX線検出装置では、検査対象物にX線を照射すると、その検査対象物の画像情報をもたらす通過X線の他に、その検査対象物により散乱された散乱X線が発生し、通過X線とともに散乱X線がX線検出装置に入射することで、検査対象物の画像情報に対する画質劣化となり、コントラストなどの画像特性の劣化が生じる。
【0004】
この散乱X線を除去するために、光電変換基板の画素間に対応して、X線入射側にグリッドを配置することが多い(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−151007号公報(第6頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、X線検出装置においては、画像特性の改善のため、画素のサイズおよび画素のピッチの微細化が図られることが多いが、画素のサイズおよび画素のピッチを微細化した場合には、画素間に対応してグリッドを製作することが困難となり、散乱X線を除去できなくなる。また、画素間に対応せずにグリッドを用いた場合には、散乱X線の除去の効果が低いうえに、グリッドが画素にかかって必要な情報が得られない、もしくはモアレが発生するなどの弊害がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、シンチレータによって散乱X線を除去できるシンチレータ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入射する放射線を可視光に変換するシンチレータ層を備え、このシンチレータ層の放射線入射側と非放射線入射側とで放射線を可視光に変換する変換効率が異なるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シンチレータ層の放射線入射側と非放射線入射側とで放射線を可視光に変換する変換効率が異なるため、グリッドを用いることなく、シンチレータ自体によって散乱X線を除去でき、画像特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すシンチレータ構造を用いたX線検出装置の断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を示すシンチレータ構造を用いたX線検出装置の断面図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態を示すシンチレータ構造を用いたX線検出装置の断面図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態を示すシンチレータ構造を用いたX線検出装置の断面図である。
【図5】従来のX線検出装置の断面図である。
【図6】第1の実施の形態のX線検出装置と従来のX線検出装置との比較試験の試験方法を(a)(b)(c)に示す模式図である。
【図7】第1の実施の形態のX線検出装置と従来のX線検出装置との比較試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
図1に第1の実施の形態を示す。
【0013】
放射線検出装置としてのX線検出装置11は、光電変換基板12、およびこの光電変換基板12上に形成されたシンチレータ構造13を有し、放射線としてのX線14が入射する側にX線14が透過する窓材15を有する筐体に収容されている。
【0014】
光電変換基板12は、平板状のガラス基板またはシリコンなどの基板18のX線入射側の表面に光を電気信号に変換するフォトダイオードなどの光電変換素子を備えた複数の画素19が形成され、これら画素19の表面を覆って保護膜20が形成されている。
【0015】
シンチレータ構造13は、光電変換基板12のX線入射側の表面に形成されたシンチレータ23を備えている。このシンチレータ23は、光電変換基板12上に形成されたX線入射側に対して反対側である非X線入射側のシンチレータ層24と、このシンチレータ層24上に形成されたX線入射側のシンチレータ層25とで構成されている。X線入射側のシンチレータ層25は、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて、X線14を可視光に変換する変換効率が低くなるように形成されている。
【0016】
これらシンチレータ層24,25は、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)・ナトリウム(Na)、ヨウ化セシウム(CsI)・タリウム(Tl)、ヨウ化ナトリウム(NaI)などのハロゲン化合物、あるいは酸硫化ガドリニウム(Gd2O2S)など酸化物系化合物などの等しい主成分の物質を用いて、気相成長法(真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法など)により同じ結晶構造である柱状結晶構造として連続して形成されている。
【0017】
この気相成長法での成膜途中に成膜条件を変更することにより、シンチレータ層24,25の変換効率を異ならせることができる。例えば、主成分として用いられるヨウ化セシウム(CsI)の変換効率は添加物質に依存するため、気相成長法によるシンチレータ23の形成途中で添加物質の添加量を変化させることにより、変換効率が異なるシンチレータ層24,25を形成することができる。すなわち、ヨウ化セシウム(CsI)などのハロゲン化合物を主成分とする非X線入射側のシンチレータ層24を成膜するときには所定量のタリウム(Tl)をドープし、X線入射側のシンチレータ層25を成膜するときにはタリウム(Tl)をドープしないあるいはタリウム(Tl)のドープ量を適正量より少なくするか多くするように成膜途中で切り換えることにより、X線入射側のシンチレータ層25は、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて、X線14を可視光に変換する変換効率が低くなるように形成することができる。
【0018】
このように構成されたX線検出装置11は、X線入射側のシンチレータ層25が、非X線入射側のシンチレータ層24に比べてX線14を可視光に変換する変換効率が低いため、グリッドを用いることなく、X線入射側のシンチレータ層25が散乱X線を吸収する吸収層として機能し、シンチレータ23自体によって散乱X線を除去でき、コントラストなどの画像特性を向上させることができる。
【0019】
画素19のサイズおよびピッチを微細化した場合、グリッドを使用することが困難となるが、X線入射側のシンチレータ層25の変換効率を低くすることにより散乱X線を効果的に除去することができる。
【0020】
また、変換効率が異なるシンチレータ層24,25を等しい主成分で連続して形成するため、次のような効果を奏する。同一工程内で製造することができ、シンチレータ23を容易に形成できる。X線拡大率の変化による影響を最小限に抑えることができる。X線の入射と変換効率の異なる複数の層が平行に近くなり、斜入射する散乱X線を効果的に除去できる。界面に線熱膨張係数起因の応力が発生しないため、熱起因の界面分離等が発生しない。界面に格子定数差起因の異常成長や格子欠陥などが発生しないため、界面に光学的な欠陥層や散乱層の発生を防止できる。
【0021】
また、変換効率の異なるシンチレータ層24,25を同じ結晶構造で形成しているため、同一工程内で製造することができ、生産性も良好となる。
【0022】
また、変換効率の異なるシンチレータ層24,25を柱状結晶構造に形成しているため、気相成長法を用いて、成膜途中で成膜条件を変更することにより変換効率の異なるシンチレータ層24,25を形成でき、生産性も良好となる。
【0023】
また、変換効率の異なるシンチレータ層24,25を気相成長法によって形成しているため、柱状結晶構造に容易に形成でき、解像度特性の向上を図りやすくできる。
【0024】
次に、図2に第2の実施の形態を示す。
【0025】
低エネルギのX線14に対応するように、X線入射側のシンチレータ層25の密度を、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて低くした例である。
【0026】
柱状結晶構造の場合には、X線入射側のシンチレータ層25の柱状結晶の太さを、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて細くする。
【0027】
このシンチレータ構造13により、散乱X線を除去したうえで、低エネルギのX線14を効果的に検出することができる。
【0028】
なお、X線入射側のシンチレータ層25の膜厚を、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて薄くすることでも同様の効果が得られる。
【0029】
次に、図3に第3の実施の形態を示す。
【0030】
高エネルギのX線14に対応するように、X線入射側のシンチレータ層25の密度を、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて高くした例である。
【0031】
柱状結晶構造の場合には、X線入射側のシンチレータ層25の柱状結晶の太さを、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて太くする。
【0032】
このシンチレータ構造13により、高エネルギの散乱X線を効果的に除去できる。
【0033】
なお、X線入射側のシンチレータ層25の膜厚を、非X線入射側のシンチレータ層24に比べて厚くすることでも同様の効果が得られる。
【0034】
次に、図4に第4の実施の形態を示す。
【0035】
X線検出装置11は、光電変換基板12と、この光電変換基板12のX線入射側に配置されるシンチレータパネル41とで構成される。
【0036】
シンチレータパネル41は、平板状のガラスやCFRPなどの放射線を透過する支持基板42の非X線入射側に、反射層43、およびシンチレータ構造13のシンチレータ23が形成され、さらに、このシンチレータ23を覆って保護層44が形成されている。
【0037】
シンチレータ構造13のシンチレータ23は、前記実施の形態と同様に、非X線入射側のシンチレータ層24とX線入射側のシンチレータ層25とで構成されている。シンチレータ23の成膜時には、支持基板42上にX線入射側のシンチレータ層25を形成し、このX線入射側のシンチレータ層25に連続して非X線入射側のシンチレータ層24を形成する。これらシンチレータ層24,25の構成は前記実施の形態と同様である。
【0038】
このように構成されたシンチレータパネル41では、X線入射側のシンチレータ層25が、非X線入射側のシンチレータ層24に比べてX線14を可視光に変換する変換効率が低いため、グリッドを用いることなく、X線入射側のシンチレータ層25が散乱X線を吸収する吸収層として機能し、シンチレータ23自体によって散乱X線を除去できる。そのため、シンチレータパネル41で変換された散乱X線の影響が少ない光を光電変換基板12で検出でき、コントラストなどの画像特性を向上させることができる。
【0039】
次に、シンチレータ構造13の有効性について試験した。
【0040】
図1の第1の実施の形態に示す2層のシンチレータ層24,25を有するシンチレータ構造13を用いたX線検出装置11の実施例と、図5に示す1層のシンチレータ層を有するシンチレータ構造を用いた従来例とについて比較試験した。なお、図5には、図1と同様の構成について同一符号を用いる。
【0041】
実施例および従来例ともに、シンチレータにはヨウ化セシウム・タリウムにタリウムをドープしたものを使用し、膜厚を200μmとした。実施例では、ヨウ化セシウム・タリウムにタリウムをドープしたものを使用して200μm成膜した層を非X線入射側のシンチレータ層24とし、このシンチレータ層24上にタリウムをドープしないX線入射側のシンチレータ層25を200μm成膜した。
【0042】
図6に比較試験の試験方法の模式図を示す。図6(a)に示す例1では、被写体31として厚さ2mmの鉛板を使用し、この被写体31をX線検出装置11のX線入射側に配置したものであって、散乱X線の影響が最も少ない状態となる。図6(b)に示す例2では、X線14が散乱した状態を模擬するために10cmのアクリル板32を通して被写体31にX線14を入射させたものであって、アクリル板で発生する散乱X線の影響が最も多い状態となる。図6(c)に示す例3では、X線14が散乱した状態を模擬するために4cmのアクリル板32と6cmのアクリル板32との間に被写体31を入れたものであって、被写体の入射と出射ともに散乱X線が多く発生しやすい状態となる。これら例1〜3において、管電圧80kVにてX線14を照射し、コントラスト比を比較試験した。
【0043】
図7に比較試験の比較結果を示す。図中、例1〜3の黒棒グラフが実施例であり、白棒グラフが従来例である。この結果から、例1〜3のいずれについても、実施例のコントラスト比が向上したことが分かる。
【0044】
なお、前記実施の形態では、シンチレータ23を、変換効率の異なる2層のシンチレータ層24,25で構成したが、3層以上のシンチレータ層で構成してもよく、あるいはX線入射側と非X線入射側とで変換効率が連続的に異なるように形成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 放射線検出装置としてのX線検出装置
12 光電変換基板
13 シンチレータ構造
14 放射線としてのX線
24 シンチレータ層
25 シンチレータ層
41 シンチレータパネル
42 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線を可視光に変換するシンチレータ層を備え、このシンチレータ層の放射線入射側と非放射線入射側とで放射線を可視光に変換する変換効率が異なる
ことを特徴とするシンチレータ構造。
【請求項2】
放射線入射側のシンチレータ層が、非放射線入射側のシンチレータ層に比べて放射線を可視光に変換する変換効率が低い
ことを特徴とする請求項1記載のシンチレータ構造。
【請求項3】
変換効率の異なるシンチレータ層が連続して形成されている
ことを特徴とする請求項1および2記載のシンチレータ構造。
【請求項4】
変換効率の異なるシンチレータ層が同種の主成分で形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載のシンチレータ構造。
【請求項5】
変換効率の異なるシンチレータ層が同じ結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載のシンチレータ構造。
【請求項6】
変換効率の異なるシンチレータ層が柱状結晶構造を有する
ことを特徴とする請求項1ないし5いずれか一記載のシンチレータ構造。
【請求項7】
変換効率の異なるシンチレータ層がハロゲン化合物を含む蛍光物質で形成されている
ことを特徴とする請求項1ないし6いずれか一記載のシンチレータ構造。
【請求項8】
放射線を透過する支持基板と、
この支持基板に形成された請求項1ないし7いずれか一記載のシンチレータ構造と
を具備していることを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項9】
光電変換基板と、
この光電変換基板上に配置された請求項8記載のシンチレータパネルと
を具備していることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項10】
光電変換基板と、
この光電変換基板上に形成された請求項1ないし7いずれか一記載のシンチレータ構造と
を具備していることを特徴とする放射線検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−256067(P2010−256067A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−103952(P2009−103952)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】