説明

シークインテープ供給装置

【課題】 駆動機構から切り離された送り機構において、ミシンの振動や切替時の衝撃による入力部材とテープ送出部材の遊動を規制し、テープの交互送りをより的確に行う。
【解決手段】 シークインテープ供給装置11のベース17に、テープを送る2台の送り機構21R,21Lと、送り機構21R,21Lを左右方向に移動し針棒7に前方から交互に相対させる切替機構22と、針棒7と相対する送り機構21Rに動力を供給する駆動機構23とを設置する。送り機構21R,21Lは、原点位置から所定のストロークで移動するテープ送出部材と、駆動機構23の動力をテープ送出部材に伝える動力伝達手段61とを備える。動力伝達手段61は、テープ送出部材の原点位置と対応する待機位置で切替機構22によって出力レバー51に連結される入力レバー62と、出力レバー51から切り離された入力部材62を待機位置に保持する保持部材とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シークインを連ねた複数本のテープをミシンの縫付位置に交互に供給するシークインテープ供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の送り機構の位置を左右方向に切り替え、針棒と相対する位置の送り機構からテープを前後方向に供給する装置が知られている。例えば、特許文献1には、2台の送り機構を結合するスライドシャフトと、スライドシャフトを左右方向に移動して送り機構の位置を切り替える切替モータと、送り機構下部の送りローラを左右方向に貫通する駆動シャフトと、駆動シャフト上のクラッチを介して送り機構を交互に動作させる駆動モータとを備えたシークインテープ供給装置が記載されている。
【特許文献1】特公平2−6552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のシークインテープ供給装置によれば、色やサイズが異なる2本のテープを2台の送り機構によって交互に供給することができる。しかし、駆動シャフトから切り離された側の送り機構において、送りローラがミシンの振動や切替時の衝撃で遊転する可能性があった。送りローラが遊転すると、その原点位置(テープの送り開始位置)が変化するため、送り再開時にシークインの穴が縫付位置からずれ、縫付ミスが発生するという問題点があった。
【0004】
本発明の目的は、上記課題を解決し、テープの交互送りをより的確に行うことができるシークインテープ供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、シークインを連ねたテープを送る複数の送り機構を切替機構によりミシンヘッド上の針棒に交互に相対させ、針棒と相対する送り機構を駆動機構により動作させるシークインテープ供給装置において、送り機構が、原点位置から所定のストロークで移動するテープ送出部材と、駆動機構の動力をテープ送出部材に伝える動力伝達手段とを備え、動力伝達手段が、テープ送出部材の原点位置と対応する待機位置で切替機構によって駆動機構に連結される入力部材と、駆動機構から切り離された入力部材を待機位置に保持する保持部材とを備えたことを特徴とする。
【0006】
上記シークインテープ供給装置おいて、好ましくは、次のような構成を採用できる。
(A)送り機構がテープ送出部材を原点位置で停止させる停止部材を備え、動力伝達手段が入力部材をテープ送出部材に接続する伝動部材を備え、保持部材が伝動部材を停止部材に押し付ける弾性部材を含むことを特徴とするシークインテープ供給装置。
(B)保持部材が入力部材を吸着する磁石を含むことを特徴とするシークインテープ供給装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシークインテープ供給装置によれば、駆動機構から切り離された側の送り機構において、動力伝達手段の入力部材を待機位置に保持するので、ミシンの振動や切替時の衝撃による入力部材及びテープ送出部材の遊動を規制し、テープの交互送りをより的確に行うことができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
シークインテープ供給装置(11)は、シークイン(S)を連ねたテープ(T)を送る複数の送り機構(21)を切替機構(22)によりミシンヘッド(3)上の針棒(7)に交互に相対させ、針棒と相対する送り機構を駆動機構(23)により動作させる。送り機構は、原点位置から所定のストロークで移動するテープ送出部材(37)と、駆動機構の動力をテープ送出部材に伝える動力伝達手段(61)とを備える。動力伝達手段は、テープ送出部材の原点位置と対応する待機位置で切替機構によって駆動機構に連結される入力部材(62)と、駆動機構から切り離された入力部材を待機位置に保持する保持部材(86,88)とを備えている。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1に示すように、多頭刺繍機1の機枠2には、複数のミシンヘッド3が並設され、各ヘッド3の左側にシークインテープ供給装置11が設置されている。ミシンヘッド3の下側にはベッド4が配置され、ベッド4と同じ高さのテーブル5上に加工布を保持する刺繍枠(図示略)が載置される。テーブル5の片端にはコントローラ6が設置され、コントローラ6により刺繍機1の全体が制御される。なお、シークインテープ供給装置11を各ミシンヘッド3の左右両側に2台ずつ設置することもできる。
【0010】
図2、図3に示すように、ミシンヘッド3にはブラケット12が固定され、ブラケット12の右側にシークインが連なるテープTを供給する2つのリール13と、テープTをヘッド3の下側の縫付位置に案内する複数のローラ14とが設けられている。ブラケット12の左側には、昇降体18を案内する案内軸15と、送りねじ19を駆動する昇降モータ16とが配設され、送りねじ19に昇降体18が螺合されている。昇降体18にはシークインテープ供給装置11のベース17が取り付けられ、モータ16により案内軸15に沿って斜めに昇降される。そして、供給装置11が縫付位置に接近する供給位置と、縫付位置から上方に離れた休止位置とに昇降される。従って、シークイン縫いを行わないミシンヘッド3で、供給装置11を休止位置に退避させ、縫付位置の周辺を開放することができる。
【0011】
ベース17には、ブラケット12上のローラ14に続いてテープTを案内するテープ案内機構20と、テープTを前後方向に送る左右2台の送り機構21(L,R)と、送り機構21を針棒7に交互に相対させる切替機構22と、針棒7と相対する送り機構21に動力を供給する駆動機構23とが設置されている。この実施例では、ミシンヘッド3に複数本の針棒が左右に配列され、色替え機構(図示略)により1本の針棒7(図2に左端の針棒を軸線で示す)が針板9の針穴9aに整合する縫付位置に割り出される。そして、左右どちらか一方の送り機構21が、切替機構22によって縫付位置の針棒7に前方から相対する位置に配置される。
【0012】
図4、図5、図6に示すように、2台の送り機構21はフレーム24上に並設されている。フレーム24は左右一対の側板25と、側板25の前端を結合するブロック26と、側板25の中間部を結合するロッド27と、側板25の後端部を結合するロッド28とから構成されている。ベース17には、ブロック26を支持するロッド29と、ロッド27,28を支持するブロック30,31とが固定的に設けられている。そして、これらの部材26〜31の組み合わせにより、フレーム24がベース17に左右方向へ移動可能に支持されている。
【0013】
左右の送り機構21は正面L字形のボディ32を対称状に備えている。ボディ32は、長孔33(図8参照)を通るボルト34で側板25にテープTの送り方向(前後方向)へ位置調整可能に取り付けられている。ボディ32の下部には、テープTを案内する案内溝35と、シークインSの穴hに係合する送りピン36を備えたテープ送出部材37と、テープTから先頭のシークインSを切り離すカッター38とが配設されている。テープ送出部材37はスライダ39に支持され、スライダ39がロッド40で前後方向に案内される。テープ送出部材37の前方には、送りピン36の前進端位置を微調節するためのストッパ41が設けられている。
【0014】
切替機構22は切替モータ43とレバー44とリンク45とから構成されている。切替モータ43はベース17の下部に設置され、モータ軸46がレバー44とリンク45を介してフレーム24前端のブロック26に連結されている。そして、切替機構22は、切替モータ43の回転によりフレーム24を左右方向へ移動し(図5a,b参照)、左右の送り機構21の案内溝35、テープ送出部材37及びカッター38を針棒7に前方から相対する位置に交互に配置するように構成されている。なお、図4は左側の送り機構21Rが針棒7と相対する位置に配置された状態を示し、この位置がレバー44に当接するストッパ47によって微調整される。
【0015】
駆動機構23は送りモータ48、駆動レバー49、リンク50及び出力レバー51で構成されている。送りモータ48は切替モータ43の上側においてベース17上に設置され、モータ軸52が駆動レバー49とリンク50を介して出力レバー51に連結されている。出力レバー51は支軸53に揺動可能に支持され、支軸53がホルダー54でベース17に保持されている。出力レバー51には2本のアーム55,56が形成され、第一アーム55がリンク50に連結され、第二アーム56に長孔57が形成されている。そして、出力レバー51が送りモータ48の動力を第二アーム56から左右の送り機構21に交互に出力するようになっている。
【0016】
送り機構21は、送りモータ48の動力をテープ送出部材37に伝える動力伝達手段61を備えている。動力伝達手段61は、入力レバー62と中間リンク63と伝動レバー64と水平リンク65とから構成され、水平リンク65が偏心部材69を介してスライダ39に連結されている。左右の入力レバー62は、送り機構21の上部に対向配置され、下部において水平軸66で側板25に回動可能に支持されている。入力レバー62の上部は下部よりも薄く形成され、両方のレバー62の上部間にフレーム24の左右方向の移動量と略同じ幅のスペース67(図4参照)が形成されている。スペース67には第二アーム56が上方から挿入され、入力レバー62の上端部に長孔57に嵌入可能な連結ピン68が突設されている。
【0017】
そして、入力レバー62はフレーム24の左右方向の移動により連結ピン68と長孔57の嵌合を介して出力レバー51に交互に連結され(図5a,b参照)、出力レバー51が針棒7と相対する位置の送り機構21に送りモータ48の動力を上方から供給する。従って、送り機構21の下部から動力部材を省き、送り機構21の左右両側を開放し(図2参照)、オペレータの作業性を改善できる。また、送りモータ48の回転数制御により、ミシンヘッド3毎にテープTの送りピッチを変えて、異なるサイズのシークインSを縫い付けたり、切替モータ43の回転方向を相違させることで、一部のヘッド3で右側の送り機構21Rを動作させ、別のヘッド3で左側の送り機構21Lを動作させたりするなど、多頭刺繍機1の機動性を高めることも可能となる。
【0018】
図6、図7に示すように、入力レバー62の下部には水平部70が突設され、水平部70に長孔71が形成されている。中間リンク63は、長孔71に嵌入するスライドピン72を一端に備え、他端に連結軸73がネジ74で固定されている。連結軸73は送り機構21のボディ32にブッシュ75で回動可能に支持され、連結軸73の外端に伝動レバー64の上端部が連結されている。伝動レバー64の下端部は水平リンク65の一端に接続され、水平リンク65の他端が偏心部材69とスライダ39を介してテープ送出部材37に接続されている。そして、動力伝達手段61は、出力レバー51に連結される連結ピン68を入力端とし、ボディ32上に設けられた水平リンク65を出力端とし、送りモータ48の動力をテープ送出部材37に伝え、送りピン36を原点位置から所定のストロークで駆動するように構成されている。
【0019】
図7、図8に示すように、ボディ32の前端には、針棒7に対する左右の送り機構21の前後方向位置を別々に調整する2つの調整ネジ76が設けられている。調整ネジ76の摘み77は側板25の折曲部78に挿通され、ネジ部79がボディ32の垂下部80に螺着されている。テープTをセットするときには、シークインSの穴hを針8の落下点に合わせ、ボルト34を緩めて調整ネジ76を回し、ボディ32を側板25に対して前後方向(テープ送り方向)に移動し、カッター38を2つのシークインSの接続部に一致させる。
【0020】
そして、テープ送出部材37の原点位置であるストローク後端位置をスケール81に合わせて偏心部材69で調節し、テープ送出部材37のストローク前端位置をストッパ41で調節する。従って、この実施例のシークインテープ供給装置11によれば、針棒7に対する2台の送り機構21の前後方向位置を別々に調整し、シークインSのサイズが異なる多種類のテープTをミシンヘッド3の縫付位置に交互に供給することができる。なお、ストローク調整時には、入力レバー62が垂直な待機位置に静止し、長孔71が水平な向きに保持されている。
【0021】
送り機構21の位置調整時には、ボディ32上に設けられた水平リンク65、伝動レバー64及び中間リンク63が針棒7に対する位置を変化させる。例えば、右側(図7の上側)の送り機構21Rにおいて、直径3mmのシークインSが連なるテープTを供給する場合、ボディ32と一緒に水平リンク65、伝動レバー64、中間リンク63が針落ち点の近くに移動し、中間リンク63上のスライドピン72が長孔71のほぼ中央部に位置する。左側の送り機構21Lにおいて、直径6mmのシークインSが連なるテープTを供給する場合は、ボディ32の後退に伴って各動力伝達部材65,64,63が針落ち点から離れ、スライドピン72が長孔71の後側へ変位する。
【0022】
この実施例の動力伝達機構61では、ボディ32上に設けられた中間リンク63が入力レバー62から切り離され、双方の接続部に位置する長孔71が経路長伸縮部として機能し、連結ピン68から水平リンク65に至る動力伝達経路の長さを調整ネジ76による調整量に合わせて伸縮させる(図7に伸縮量δを示す)。これにより、ボディ32と一緒に移動する動力伝達部材65,64,63の変位量を吸収し、左右の入力レバー62を共に待機位置に静止させておくことができる。従って、動力伝達手段61の入力端である連結ピン68を切替機構22により出力レバー51の長孔57にミスなく連結し、サイズが異なる2種類のシークインSを針落ち点に交互に供給することができる。なお、中間リンク63と入力レバー62との接続部において、長孔71を中間リンク63側に設け、スライドピン72を入力レバー62側に設けてもよい。
【0023】
一方、フレーム24の左右両側面には、伝動レバー64をテープ送出部材37の原点位置(ストローク後端位置)に停止させる停止板83が設けられている。停止板83は長孔84を通るネジ85でボディ32に取り付けられ、偏心部材69と組み合わせて調節される。伝動レバー64の連結軸73には保持バネ(捩りバネ)86が嵌挿され、その一端がボディ32に係止され、他端が伝動レバー64に係止され、保持バネ86の弾力により伝動レバー64が停止板83側(図8の時計回り方向)に付勢されている。そして、出力レバー51から切離された側の動力伝達手段61において、保持バネ86で伝動レバー64を停止板83に押し付け、スライドピン72と長孔71との嵌合を介して(図6参照)、入力レバー62をテープ送出部材37の原点位置と対応する待機位置に保持するようになっている。
【0024】
このため、2台の送り機構21の連結ピン68を共に同じ軸線A(図4、図5参照)上に揃えておくことができる。従って、出力レバー51から切離された側の送り機構21においてテープ送出部材37を原点位置に停止させ、ミシンヘッド3の振動や切替時の衝撃による送りピン36の変位を防止し、切替後にこの送り機構21を直ちに動作させることができる。なお、入力レバー62の保持部材として、磁石を使用することも可能である。例えば、図9に示すように、垂直位置の入力レバー62の上部において、フレーム24の左右の側板25に磁石88を取り付け、磁石88の吸着力で入力レバー62と連結ピン68を待機位置に保持するように構成することができる。
【0025】
その他、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の構成や形状を任意に変更して実施することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例を示す多頭刺繍機の正面図である。
【図2】該刺繍機のシークインテープ供給装置を示す正面図である。
【図3】該供給装置の右側面図である。
【図4】該供給装置の主要部を示す図3の拡大断面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】図6のVII−VII線断面図である。
【図8】図7の矢印VIII方向から見た供給装置の右側面図である。
【図9】保持部材の変更例を示す図4の部分断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 多頭刺繍機
3 ミシンヘッド
7 針棒
11 シークインテープ供給装置
16 昇降モータ
21 送り機構
22 切替機構
23 駆動機構
37 テープ送出部材
38 カッター
43 切替モータ
48 送りモータ
51 出力レバー
61 動力伝達機構
62 入力レバー
65 水平リンク
68 連結ピン
71 長孔(経路長伸縮部)
76 調整ネジ
86 保持バネ
88 磁石
S シークイン
T テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シークインを連ねたテープを送る複数の送り機構を切替機構によりミシンヘッド上の針棒に交互に相対させ、針棒と相対する送り機構を駆動機構により動作させるシークインテープ供給装置において、
前記送り機構が、原点位置から所定のストロークで移動するテープ送出部材と、前記駆動機構の動力をテープ送出部材に伝える動力伝達手段とを備え、該動力伝達手段が、テープ送出部材の前記原点位置と対応する待機位置で前記切替機構によって駆動機構に連結される入力部材と、駆動機構から切り離された入力部材を前記待機位置に保持する保持部材とを備えたことを特徴とするシークインテープ供給装置。
【請求項2】
前記送り機構がテープ送出部材を前記原点位置で停止させる停止部材を備え、前記動力伝達手段が前記入力部材をテープ送出部材に接続する伝動部材を備え、前記保持部材が該伝動部材を前記停止部材に押し付ける弾性部材を含む請求項1記載のシークインテープ供給装置。
【請求項3】
前記保持部材が前記入力部材を吸着する磁石を含む請求項1記載のシークインテープ供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−207641(P2009−207641A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52778(P2008−52778)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000135690)株式会社バルダン (125)
【Fターム(参考)】