説明

シートおよびその製造方法

【課題】セルロースナノファイバーで構成される膜は、乾燥状態ではある程度良好なガスバリア性を示すものの、高湿度条件下においてはガスバリア性が著しく低下する。高湿度条件下においても優れたガスバリア性を有するシートおよびその製造方法の提供。
【解決手段】セルロースナノファイバーから構成される膜を備え、該膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行に配向していることを特徴とするシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーから構成される膜を備えるシートおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、非食品、医薬品等の包装に用いられる包装材料には、内容物の変質を抑制し、それらの機能や性質を保持するために、酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体(ガス)を遮断するガスバリア性を備えることが求められる。従来、このような包装材料としては、温度・湿度等による影響が少ないアルミニウム等の金属からなる金属箔や塩化ビニリデンフィルムをガスバリア層として用いた包装材料が一般的に用いられてきた。しかし、金属箔を用いた包装材料は、包装材料を透視して内容物を確認することができない、使用後の廃棄の際に不燃物として処理しなければならない、焼却時に残渣が残る等の欠点を有していた。また、塩化ビニリデンフィルムを用いた包装材料は、焼却時にダイオキシンが発生する等の欠点を有していた。そのため近年、このような包装材料は環境汚染を招くとしてその使用を控えるようになっている。
そのようななか、アルミニウムや塩素を含まないポリビニルアルコール(PVA)やエチレンビニルアルコール共重合体等のPVA系樹脂への代替が進んでいる。たとえば基材上に、PVA系樹脂を配合したコーティング剤をコーティングしてバリア層を形成した積層体が提案されている(たとえば特許文献1)。
【0003】
しかしPVA系樹脂は、塩化ビニリデンと同じく石油由来材料であるため、さらに環境負荷の少ない天然物由来材料が期待されている。特にセルロースは、天然物由来材料であり、生産量も多いことから、包装材料をはじめ各種機能性材料への利用が期待されている。
そのようななか、木材パルプ等の植物繊維を、酸化触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いて酸化処理(TEMPO酸化処理)した材料をフィルム等に用いることが提案されている。該TEMPO酸化処理では、セルロース分子中の1級水酸基(グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合した水酸基)の部分が高い選択性で酸化され、−CHOHがホルミル基を経てカルボキシ基に変換される。たとえば特許文献2には、このような材料を用いたガスバリア材が提案されている。
また、近年、セルロースナノファイバーが注目されている。天然のセルロース繊維は、セルロース分子数十本〜数百本からなる幅約数nm〜数十nmのミクロフィブリルの集合体であり、各ミクロフィブリルが水素結合により強固に結合している。セルロースナノファイバーは、このようなセルロース繊維をナノオーダーにまで解繊したものであり、結晶性が高く、強度、耐熱性等に優れることから各種機能性材料への応用が期待されている。
セルロースナノファイバーとしては、たとえばバクテリアセルロースや、木材パルプなどのセルロース成分を機械的な処理を施すことにより解繊してナノファイバー化したものがある。しかしこれらのセルロースナノファイバーは、繊維幅が大きく、均一性にも劣るため、得られる膜の透明性やガスバリア性に劣る問題がある。
最近、セルロースナノファイバーの調製方法として、TEMPO酸化処理を利用した方法が見出され、研究されている。TEMPO酸化処理したセルロース繊維は、水性媒体中で簡単な機械的処理を行うことで容易に解繊させることができる。これは、ナノファイバー表面に導入されているカルボキシ基の静電反発によるものと考えられる。たとえば特許文献3には、上記のようにして調製された、平均繊維径200nm以下のセルロース繊維を含むガスバリア用材料からなる層を有するガスバリア性複合成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−316025号公報
【特許文献2】特開2001−334600号公報
【特許文献3】特開2009−057552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のようなセルロースナノファイバーで構成される膜は、乾燥状態ではある程度良好なガスバリア性を示すものの、高湿度条件下においてはガスバリア性が著しく低下する問題がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を有するシートおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、膜中でのセルロースナノファイバーの配向性を高めることにより上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は以下の構成を有する。
[1]セルロースナノファイバーから構成される膜を備え、該膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行に配向していることを特徴とするシート。
[2]前記表面近傍に位置したセルロースナノファイバーは、略同一方向に配向している、[1]に記載のシート。
[3]前記表面近傍に位置したセルロースナノファイバーは、その疎水面を該膜表面側に向けて配向している、[1]または[2]に記載のシート。
[4]前記セルロースナノファイバーが酸化セルロースからなる、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のシート。
[5]前記セルロースナノファイバー層に基材が積層されている、[1]〜[4]のいずれか一項に記載のシート。
[6]前記基材の表面に無機化合物からなる蒸着層が形成されている、[5]に記載のシート。
[7]前記無機化合物が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる、[6]に記載のシート。
[8]さらに、熱溶着可能な熱可塑性樹脂層を有する、[1]〜[7]のいずれか一項に記載のシート。
[9]ガスバリア材である、[1]〜[8]のいずれか一項に記載のシート。
[10][1]〜[9]のいずれか一項に記載のシートを製造する方法であって、
前記セルロースナノファイバーを水性媒体中に分散させて水性分散液を調製し、該水性分散液を支持体上に塗工して塗膜を形成し、乾燥させる工程を有し、
該工程にて、前記塗膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーを、該塗膜表面に対して略平行に配向させる配向処理を行うことを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を有するシートおよびその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のシートは、セルロースナノファイバーから構成される膜(以下、セルロースナノファイバー膜ということがある。)を備え、該セルロースナノファイバー膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行に配向していることを特徴とする。
従来、セルロースナノファイバー膜は、上述した水性分散液を用いたコーティング法やキャスト法等の湿式法により塗膜を形成し、該塗膜をオーブン等でそのまま乾燥させることにより作製されている。このようにして形成される膜中では、セルロースナノファイバーの配向方向がランダムになっているため、膜の緻密性が充分ではなく、水蒸気などのガスが通過しやすく、ガスバリア性、特に高湿度条件下でのガスバリア性が不充分となっていたと考えられる。
これに対し、本発明のシートが備えるセルロースナノファイバー膜は、該膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行に配向していることで、セルロースナノファイバーが元々持つ高い結晶性に加え、通常の湿式法で形成される膜を上回る緻密性を有する。そのため、ガスバリア性や耐水性が向上し、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発揮する。
【0009】
以下、セルロースナノファイバー膜についてより詳細に説明する。
「セルロースナノファイバー」は、セルロースまたはその誘導体(以下、セルロース類ということがある。)の繊維幅3〜5nmのミクロフィブリルまたは該ミクロフィブリルの集合体から構成される。
本発明に用いられるセルロースナノファイバーの平均繊維幅は3〜50nmであることが好ましく、3〜30nmであることがより好ましい。
セルロースナノファイバーは、非常に細い繊維幅に対して非常に長い繊維長(たとえば1μm以上)を有している。本発明に用いられるセルロースナノファイバーの平均繊維長は、配向させやすさ、製膜後の強度等を考慮すると、0.05〜3.0μmが好ましく、0.1〜1.5μmがより好ましい。
【0010】
セルロースナノファイバーは、セルロースナノファイバー間の凝集を抑え、均一な分散体を得るためには、カルボキシ基を有することが好ましい。該カルボキシ基は、酸型(−COOH)であってもよく、塩型(−COO)であってもよい。
セルロースナノファイバーのカルボキシ基量(セルロースナノファイバー1g中に含まれるカルボキシ基のモル量)は、0.1〜3.5mmol/gが好ましく、0.5〜2.5mmol/gがより好ましく、1.0〜2.0mmol/gがさらに好ましい。該カルボキシ基量が上記範囲の下限値以上であると、該セルロースナノファイバーの水性分散液の粘性が低く、透明性も高い。また、該水性分散液を用いて形成される膜の透明性やガスバリア性も向上する。該カルボキシ基量が上記範囲の上限値以下であると、該セルロースナノファイバーの調整時の酸化処理工程を短縮できる。また、該セルロースナノファイバーの水性分散液の粘性が低い。また、該水性分散液を用いて形成される膜の耐水性や耐熱性も向上する。
【0011】
セルロースナノファイバーは、公知の製造方法により製造できる。該製造方法としては、たとえば、セルロースナノファイバー前駆体に解繊処理を施してナノファイバー化する方法が挙げられる。ここで、セルロースナノファイバー前駆体は、解繊処理が施されていないセルロース類であり、ミクロフィブリルの集合体から構成される。
セルロースナノファイバー前駆体としては、酸化セルロースからなるものが好ましい。酸化セルロースは、酸化処理により、セルロース分子中のグルコピラノース環の少なくとも一部にカルボキシ基が導入されたものである。酸化セルロースは、他のセルロース誘導体を用いる場合に比べて環境負荷が小さく、また、ナノファイバー化しやすい。すなわち、天然のセルロース原料(パルプ等)に含まれるセルロースは、ミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)により多束化しているが、カルボキシ基の導入によって該凝集力が弱くなり、ナノファイバー化しやすくなる。
酸化セルロースとしては、特に、前記酸化処理が、触媒として2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(TEMPO)等のN−オキシル化合物を用いた酸化処理(TEMPO酸化処理)であるものが好ましい。該TEMPO酸化処理を行うと、セルロース分子中の1級水酸基(グルコピラノース環の6位の炭素原子に結合した水酸基)の部分が高い選択性で酸化され、−CHOHがホルミル基を経てカルボキシ基に変換される。TEMPO酸化処理によれば、カルボキシ基を、酸化処理の程度に応じて均一かつ効率よく導入できる。また、TEMPO酸化処理は、他の酸化処理に比べて、セルロースの結晶性を損ないにくい。そのため、TEMPO酸化処理により得られる酸化セルロースのミクロフィブリルは、天然のセルロースが有する高い結晶構造(I型結晶構造)を保持しており、この高い結晶構造により高いガスバリア性が得られる。
【0012】
TEMPO酸化処理による酸化セルロースの製造は、たとえば、パルプ等のセルロース原料を、水中にて、N−オキシル化合物の存在下で酸化処理することにより実施できる。
このとき、N−オキシル化合物とともに、酸化剤を併用することが好ましい。酸化剤を併用する場合、反応系内においては、順次、N−オキシル化合物が酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩を生成し、該オキソアンモニウム塩により、セルロースが酸化される。かかる酸化処理によれば、温和な条件下でも酸化反応を円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。
また、N−オキシル化合物および酸化剤とともに、さらに、N−オキシル化合物以外の他の触媒として、臭化物およびヨウ化物から選ばれる少なくとも1種を併用してもよい。
【0013】
前記セルロース原料としては、セルロースを含むものであれば特に限定されず、たとえば各種木材パルプ、非木材パルプ、バクテリアセルロース、古紙パルプ、コットン、バロニアセルロース、ホヤセルロース等が挙げられる。また、市販されている各種セルロース粉末や微結晶セルロース粉末を使用できる。
【0014】
N−オキシル化合物としては、TEMPOのほか、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−フェノキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンジルピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルオキシピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセチルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−メタクリロイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−ベンゾイルアミノピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−シンナモイルアミノピペリジン−1−オキシル、4−プロピオニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−エトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミド−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、2,2,4,4−テトラメチルアゼチジン−1−オキシル、2,2−ジメチル−4,4−ジプロピルアゼチジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−オキソピロリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチル−4−アセトキシピペリジン−1−オキシル、ジtert−ブチルアミン−N−オキシル、ポリ[(6−[1,1,3,3−テトラメチルブチル]アミノ)−s−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ等が挙げられる。
N−オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0.1〜10質量%の範囲内であり、0.5〜5質量%が好ましい。
【0015】
酸化剤としては、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、目的の酸化反応を推進し得る酸化剤であれば、いずれの酸化剤も使用できる。
酸化剤の使用量は、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、1〜100質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。
臭化物としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属塩が挙げられる。
ヨウ化物としては、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化アルカリ金属塩が挙げられる。
臭化物およびヨウ化物から選ばれる触媒の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択することができ、特に限定されない。通常、酸化処理するセルロース原料の固形分に対して、0〜100質量%の範囲内であり、5〜50質量%が好ましい。
【0016】
TEMPO酸化の反応条件(温度、時間、pH等)は、特に限定されず、得ようとする酸化セルロースの所望のカルボキシ基量、平均繊維幅、平均繊維長、透過率、粘度等を考慮して適宜設定できる。
反応温度は、1級水酸基への酸化の選択性の向上、副反応の抑制等の点から、50℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。反応温度の下限は、特に限定されないが、0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましい。
反応時間は、処理温度によっても異なるが、通常、0.5〜6時間の範囲内である。
反応中、反応系内のpHを、4〜11の範囲内に保つことが好ましい。特に酸化剤に次亜塩素酸塩を使用する場合、該pHは、8〜11がより好ましく、9〜11がさらに好ましく、9.5〜10.5が特に好ましい。該pHが11超であるとセルロースが分解してしまい低分子化する恐れがあり、酸性領域であると次亜塩素酸が分解し、塩素が発生する恐れがある。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、pHは、20℃におけるpHである。
pHは、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニア水、有機アルカリ等のアルカリを添加することにより調節できる。
反応は、反応系内にエタノール等のアルコールを添加することにより停止させることができる。
【0017】
酸化処理後、必要に応じて、得られた反応液に酸を添加して中和処理を行ってもよい。上記酸化処理後の反応液中に含まれる酸化セルロースはカルボキシ基が塩型となっているが、中和処理を行うことにより酸型とすることができる。
中和に用いる酸としては、酸化セルロース中の塩型のカルボキシ基を酸型とし得るものであればよく、たとえば塩酸、硫酸等が挙げられるが安全性や入手のしやすさから塩酸が好ましい。
酸化処理後、または中和処理後、反応液は、そのままセルロースナノファイバーの調製に用いてもよいが、該反応液中の触媒、不純物等を除去するために精製処理を行うことが好ましい。精製処理は、たとえば、ろ過等により酸化セルロースを回収し、水等の洗浄液で洗浄することにより実施できる。洗浄液としては、水系のものが好ましく用いられ、たとえば水、塩酸等が挙げられる。
また、該反応液、または精製処理した酸化セルロースに対し、乾燥処理を施してもよい。
【0018】
セルロースナノファイバー膜は、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースナノファイバーおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を含有してもよい。該他の成分としては、特に限定されず、当該セルロースナノファイバー膜の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、無機針状鉱物、レベリング剤、消泡剤、水溶性高分子、合成高分子、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤等が挙げられる。
これらのうち、有機金属化合物またはその加水分解物は、セルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応して複合化し、膜の耐水性、耐湿性、ガスバリア性等を向上させるため好ましい。
また、無機層状化合物は、膜の面配向を促進する上、耐水性、耐湿性、ガスバリア性等を向上させるため好ましい。
【0019】
有機金属化合物としては、たとえば、一般式AM(OR)m−n[式中、Rはアルキル基であり、Aは水素原子または非加水分解性の有機基であり、Mは金属元素であり、mは該Mの金属元素の酸化数であり、nは0以上の整数であり、n<mである。]で表される化合物が挙げられる。かかる化合物は、水の存在下でM−ORの部分が加水分解し、M−OHを生じる。この−OHがセルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応する。
式中、Rのアルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましく、エチル基が特に好ましい。
m−nが2以上の整数である場合、式中の複数のRはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
Aにおける非加水分解性の有機基としては、特に限定されず、たとえばアルキル基、アリール基、該アルキル基またはアリール基に反応性官能基が結合したもの等が挙げられる。反応性官能基としては、一般的にシランカップリング剤にて、Si原子に結合する有機基が有する官能基として用いられているものと同様であってよい。具体例として、たとえばビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、塩素原子、イソシアネート基等が挙げられる。
Aとしては、反応性官能基が結合していてもよいアルキル基または水素原子が好ましい。該アルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
nが2以上の整数である場合、式中の複数のAはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
Mの金属元素としては、たとえばケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)等が挙げられる。これらの中でもSiが好ましい。
mはMの金属元素の酸化数であり、たとえばSiの場合は4である。
nは0または1が好ましい。
m−nは1以上の整数であり、2以上が好ましい。m−nの値の上限はmである。
有機金属化合物は、水性分散液に直接配合してもよく、予め加水分解してから配合してもよい。
【0020】
無機層状化合物とは、層状構造を有する結晶性の無機化合物をいい、無機層状化合物である限り、その種類、粒径、アスペクト比等は特に限定されず、使用目的等に応じて適宜選択することができる。
無機層状化合物として具体的には、たとえば、カオリナイト族、スメクタイト族、マイカ族等に代表される粘土鉱物が挙げられる。これらのうち、スメクタイト族の無機層状化合物として、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト等が挙げられる。これらの中でも、組成物中での分散安定性、組成物の塗工性等の点から、モンモリロナイトが好ましい。
無機層状化合物は、水性分散液に直接配合してもよく、予め水等の水性媒体に分散させてから配合してもよい。
【0021】
本発明においては、前記セルロースナノファイバー膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置したセルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行(膜の厚さ方向に対して略垂直)に配向(以下、「面配向」ということがある。)している必要がある。
セルロースナノファイバーを面配向させると、配向方向がランダムな場合(3次元に配向している場合)に比べて、セルロースナノファイバー間の隙間が小さくなり、緻密性が高くなってガスバリア性が(低湿度条件下、高湿度条件下ともに)向上する。また、シート強度(耐衝撃性、屈曲性等)も向上する。
以下、セルロースナノファイバー膜内の、セルロースナノファイバーが面配向している部分(少なくとも一方の表面近傍)を配向領域ということがある。
セルロースナノファイバー膜においては、該膜内の少なくとも一方の表面近傍が配向領域となっていればよく、該膜内に、セルロースナノファイバーが面配向していない非配向領域を有してもよい。たとえば一方の表面近傍のみが配向領域となっており、他方の表面近傍が非配向領域となっていてもよい。また、両方の表面近傍が配向領域となっており、それらの間が非配向領域となっていてもよい。また、セルロースナノファイバー膜内全てが配向領域となっていてもよい。
前記配向領域内のセルロースナノファイバーは、上記効果が得られる範囲内であれば、膜表面に対して完全に平行に配向している必要はなく、わずかに傾斜していてもよい。この場合の傾斜角度(セルロースナノファイバーの軸方向と膜表面とがなす角度)は、劣角(小さい方の角度)として、60度以内が好ましく、30度以内がより好ましい。該傾斜角度が小さいほど(面配向度が高いほど)、上記効果が向上する。
該傾斜角度は、セルロースナノファイバー膜を厚さ方向に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡等により観察することにより確認できる。
配向領域におけるセルロースナノファイバーの面配向度は一様であってもなくてもよい。たとえば膜の厚さ方向で、面配向度が変化していてもよい。
【0022】
前記配向領域内のセルロースナノファイバーは、略同一方向に配向(一軸配向)していてもよく、していなくてもよい。本発明の効果に優れることから、一軸配向していることが好ましい。
セルロース分子やセルロースの結晶は高い弾性率と強度を持つ。そのため、高い結晶性を持つセルロースナノファイバーを一軸配向させると、それだけで強度が向上するだけでなく、セルロースナノファイバーが平行に並び、それらが水素結合することで、セルロースナノファイバー間の隙間がさらに小さくなり、緻密性が高くなってガスバリア性が(低湿度条件下、高湿度条件下ともに)向上する。また、緻密性の高さに加え、セルロースナノファイバー間方向での水素結合もより強固になるため、強度もより向上する。さらに、該セルロースナノファイバー膜が偏光性を有するものとなり、該シートを偏光板等の光学用途に利用できる。
なお、このとき、必ずしも配向領域内の全セルロースナノファイバーが同一方向に配向している必要はなく、配向方向がずれているものがあってもよい。この場合、主たる配向方向(たとえば後述する一軸延伸により配向させる場合はその延伸方向)とのずれは、60度以内が好ましく、30度以内がより好ましい。該配向方向のずれが小さいほど(一軸配向度が高いほど)、上記効果が向上する。
該ずれの大きさは、セルロースナノファイバー膜の表面を上方から走査型電子顕微鏡等により観察することにより確認できる。
【0023】
前記配向領域内のセルロースナノファイバーは、その疎水面を膜表面側に向けて配向していてもよい。ここでの「膜表面」は、該セルロースナノファイバー膜の表面のうち、その近傍が配向領域となっている側の表面を意味する。両側近傍が配向領域となっている場合は、該セルロースナノファイバーからの距離が近い方の表面である。
セルロース類の分子は、水素結合によりシート状の構造となっており、親水基(水酸基、カルボキシ基等)の立体的な配置により、シート上下面が疎水性の高い疎水面となっている。そのため、該分子から構成されるセルロースナノファイバーには疎水的な面と親水的な面が存在している。
セルロースナノファイバーが、その疎水面を膜表面側に向けて配向していると、該セルロースナノファイバー膜の少なくとも一方の表面の疎水性が高くなり、耐水性、耐湿性が向上する。結果、膜表面への水分子の吸着が抑えられ、高湿度条件下におけるガスバリア性が向上する。
【0024】
前記配向領域におけるセルロースナノファイバーの好ましい配向例として、たとえば下記(1)〜(4)等が挙げられる。
(1)セルロースナノファイバーが面配向し、かつ一軸配向していない(配向方向が一定ではない)。
(2)セルロースナノファイバーが、一軸配向している。
(3)セルロースナノファイバーが、その疎水面を膜表面側に向けて面配向し、かつ一軸配向していない。
(4)セルロースナノファイバーが、その疎水面を膜表面側に向けて一軸配向している。
【0025】
セルロースナノファイバー膜の厚さ(乾燥厚さ)は、0.1〜5μmが好ましく、0.1〜1μmがより好ましい。該厚さが5μmを超えると屈曲性が悪くなり、0.1μm未満であると、支持体(表面の凹凸)の影響を受けてガスバリア性が低下するおそれがある。
【0026】
前記セルロースナノファイバー膜は、セルロースナノファイバーを水性媒体中に分散させて水性分散液(以下、ナノファイバー分散液ということがある。)を調製し、該ナノファイバー分散液を支持体上に塗工して塗膜を形成し、乾燥させる工程を行うことにより、また、該工程にて、該塗膜の少なくとも一方の表面近傍に位置したセルロースナノファイバーを面配向させる配向処理を行うことにより形成できる。
水性媒体としては、水、または水と有機溶剤との混合溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、水と均一に混和可能なものであればよく、たとえばエタノール等のアルコール、エーテル類、ケトン類等が挙げられる。水性媒体としては水が好ましい。
ナノファイバー分散液のpHは、4〜10が好ましく、6〜10がより好ましく、6〜8がさらに好ましい。該pHが4以上であると、該分散液中のセルロースナノファイバーの分散安定性が良好で、該pHが10以下であると、セルロースのアルカリによる分解が抑えられ、分子量が低下し、強度が低下することがないと言う点で好ましい。
該pHは、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ;または塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸等の酸を添加することにより調節できる。
ナノファイバー分散液中、セルロースナノファイバーの固形分濃度は、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。該固形分濃度が5質量%以下、特に3質量%以下であると、分散性、透明性が良好である。該固形分濃度の下限は特に限定されず、0質量%超であればよい。塗液を乾燥させて膜を形成させる際のエネルギー効率あるいはシェアをかける際の力の伝わる効率の観点からは0.1質量%以上が好ましい。
【0027】
ナノファイバー分散液は、たとえば、前記TEMPO酸化処理により得られた酸化セルロース等のセルロースナノファイバー前駆体に水性媒体を加えて水性液を調製し、必要に応じてpH調節を行い、解繊処理(ナノファイバー化処理)することにより調製できる。
水性媒体としては前記と同様のものが挙げられ、水が好ましい。
pH調節は前述したアルカリまたは酸を添加することにより実施できる。
該水性液の解繊処理前のpHは、特に限定されず、解繊処理後のpHが4〜10に調整できればよい。
解繊処理は、特に限定されず、超音波ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、対向衝突型ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、遊星ミル、高速回転ミキサー、グラインダー磨砕等を用いた機械的処理により実施できる。
解繊処理の際、系内のpHが低下することがあり、解繊処理後、必要に応じてpH調節を行ってもよい。
得られた処理物のpHが所望の値である場合、該処理物をそのままナノファイバー分散液として使用できる。
【0028】
ナノファイバー分散液には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、セルロースナノファイバーおよびpH調整に用いた成分以外の他の成分を配合してもよい。該他の成分としては、特に限定されず、当該ナノファイバー分散液により形成する膜の用途等に応じて、公知の添加剤のなかから適宜選択できる。具体的には、アルコキシシラン等の有機金属化合物またはその加水分解物、無機層状化合物、レベリング剤、消泡剤、水溶性高分子、合成高分子、無機系粒子、有機系粒子、潤滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、磁性粉、配向促進剤、可塑剤、架橋剤等が挙げられる。
これらのうち、有機金属化合物またはその加水分解物を配合すると、上述したように、セルロースナノファイバー表面のカルボキシ基と反応して複合化し、耐水性、耐湿性、ガスバリア性等が向上するため好ましい。また、無機層状化合物を配合すると、配向性、耐水性、耐湿性、ガスバリア性等が向上し、好ましい。
有機金属化合物、無機層状化合物の具体例は上述したとおりである。
【0029】
前記ナノファイバー分散液の塗工方法は特に限定されず、コーティング法、キャスト法等の公知の方法が利用できる。コーティング法としては、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、マイクログラビアコート法、コンマコート法、エアナイフコート法、バーコート法、メイヤーバーコート法、ディップコート法、ダイコート法、スプレーコート法等が挙げられ、いずれの方法を用いてもよい。
塗膜の乾燥温度は、塗膜中の水性媒体を除去できればよく、特に限定されないが、乾燥温度が高いほど、または乾燥時間が長いほど、膜の緻密化、セルロースナノファイバーの配向や疎水化の促進とパッキング、TEOSなどを添加したときのシロキサンネットワークの構築が充分に行われ、高湿度条件下でのガスバリア性が良好となる傾向がある。かかる観点から、乾燥温度は、80℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、乾燥時間は、30秒間以上が好ましく、10分間以上がより好ましい。
乾燥温度の上限は、ガスバリア層形成用組成物中の固形分濃度や用いる水性媒体の種類、乾燥時間等を考慮して適宜設定すればよい。乾燥時間は、180分間以下が好ましい。
【0030】
(配向処理)
該配向処理は、前記支持体の、ナノファイバー分散液を塗工する面に対して行ってもよく、塗膜に対して行ってもよい。塗膜に対して行う場合、乾燥させる前に行ってもよく、乾燥と同時に行ってもよく、乾燥後に行ってもよい。特に疎水面を膜表面に向けて配向させる場合は、塗膜中に水性媒体が残っている状態(Wet状態)で行うことが好ましい。
該配向処理方法として具体的には、たとえば以下の方法(a)〜(h)等が挙げられる。これらの方法は、いずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0031】
(a)Wet状態の塗膜の少なくとも一方の表面に非極性溶媒を接触させる方法。
Wet状態の塗膜の表面に非極性溶媒を接触させると、該塗膜中のセルロースナノファイバーのうち、非極性溶媒との界面近傍に位置するセルロースナノファイバーの疎水面が該界面側に向くとともに、該界面に近づく。これにより、該界面近傍に、セルロースナノファイバーが上記(2)の配向例のように配向した配向領域が形成される。
非極性溶剤としては、たとえばヘキサン等のアルカン類、その他、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル等が挙げられ、ナノファイバー分散液中の水性媒体と混合しないものが好ましい。
(b)Wet状態の塗膜に一方向から熱風をあてながら乾燥させる方法。
Wet状態の塗膜に対して一方向から熱風をあてると、該方向に沿って塗膜中の水性媒体が流動し、これに伴ってセルロースナノファイバーも流動し、一軸配向する。
【0032】
(c)前記ナノファイバー分散液からなる塗膜をプレス(塗膜の厚み方向に圧縮)するとともに、ずり変形させる方法。
Wet状態の塗膜をプレスおよびずり変形させると、塗膜中のセルロースナノファイバー間の水素結合により、面配向度が向上し、配向領域が形成される。特にTEMPO酸化セルロースを用いた場合のように、セルロースナノファイバー表面にカルボキシ基がある場合に面配向しやすい傾向がある。
(d)塗膜を一軸延伸する方法。
一軸延伸することで、セルロースナノファイバーのファイバー間の水素結合などの相互作用を緩めて再配向させることができる。
一軸延伸は、塗膜の乾燥前に行ってもよく、乾燥後に行ってもよい。水が存在しない状態ではセルロースナノファイバー膜の伸びが小さく、また、ファイバー間の水素結合が強固であるため、一軸延伸を乾燥後に行う場合は、加湿等を行い、湿潤条件下で行うことが好ましい。
【0033】
(e)支持体表面および/または塗膜表面をラビング処理する方法。
あらかじめ支持体表面を一定方向に擦る(ラビングする)ことによって直線状の溝をつけ、その上にナノファイバー分散液を塗布すると、該溝に沿ってセルロースナノファイバーが配列して、少なくとも支持体表面と接する側の表面近傍にてセルロースナノファイバーが一軸配向した塗膜が形成される。
また、塗膜表面を一定方向にラビングした場合、該表面近傍のセルロースナノファイバーが一軸配向させることができる。これは、膜表面の分子(セルロースナノファイバー)のせん断によるものと考えられる。塗膜表面へのラビング処理は、塗膜の乾燥前に行ってもよく、乾燥後に行ってもよい。
(f)高速(リバース)グラビアなどの高シェア塗工法により塗膜を形成する方法。
(g)Wet状態の塗膜に電場をかける方法。
(h)Wet状態の塗膜に磁場をかける方法。
【0034】
セルロースナノファイバーは、上述したような非常に細い繊維幅に対して非常に長い繊維長(高アスペクト比)、疎水面、高い結晶性、高い剛直性、ナノファイバーというある程度の大きさを持った単位構造等の性質を有することから、セルロースナノファイバー膜を形成する際に、上記のような配向処理を行うことで、セルロースナノファイバーの繊維方向を揃える配向処理を行うことにより、面配向(一軸配向を含む)させて緻密な膜を形成することができる。また、疎水面を一定方向に向ける等により、膜表面の性状(疎水性、撥水性、耐湿バリア性)を調節できる。
配向処理によりセルロースナノファイバーが配向したかどうか(配向領域が形成されているかどうか)は、たとえば、走査型電子顕微鏡によりセルロースナノファイバー膜表面を観察することにより確認できる。
また、同じ材料(ナノファイバー分散液)を同量使用して、配向処理(セルロースナノファイバーの配向度を高める処理)を行わずに形成したセルロースナノファイバー膜(以下、未配向膜ということがある。)との比較によって、配向の状態を確認できる。たとえば配向処理して得たセルロースナノファイバー膜および未配向膜の比重を測定し、未配向膜に比べて比重が大きければ、セルロースナノファイバーが少なくとも面配向して緻密性が向上したと判断できる。また、配向処理して得たセルロースナノファイバー膜および未配向膜の表面に対する水の接触角を測定(疎水性を評価)し、未配向膜に比べて該接触角が大きければ、セルロースナノファイバーの疎水面が該表面側に向いたと判断できる。
【0035】
本発明のシートは、前記セルロースナノファイバー膜のみから構成される単層シートであってもよく、さらに、該セルロースナノファイバー膜以外の他の層(たとえば後述する基材)を有する多層シートであってもよい。
本発明のシートが前記セルロースナノファイバー膜のみから構成される単層シートである場合、該シートは、上記のようにして支持体上に形成したセルロースナノファイバー膜を該支持体から剥離することにより得られる。
本発明のシートが、該セルロースナノファイバー膜以外の他の層を有する多層シートである場合、該多層シートは、前記支持体として該他の層を用いて該他の層上に直接前記セルロースナノファイバー膜を形成してもよく、また、上記のようにして作成した単層シートと、他のシートとを積層することにより作成してもよい。後者の場合、単層シートと他のシートとは、接着剤を用いて積層してもよく、直接積層してもよい。
【0036】
本発明のシートは、前記セルロースナノファイバー膜に基材が積層されていることが好ましい。これにより、ガスバリア性がさらに向上する。また、シート強度、成形性等の点からも好ましい。
基材としては、特に限定されず、一般的に使用されている種々のシート状の基材(フィルム状のものを含む)のなかから、当該シートの用途に応じて適宜選択して使用することができる。このような基材の材質として、たとえば、紙、板紙、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン−6、ナイロン−66等)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂、これらの高分子を構成するモノマーのいずれか2種以上の共重合体等が挙げられる。
該基材は、帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を含有してもよい。
該基材は、表面に、アンカーコート処理、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理を施すことで、該表面に積層される層(たとえば前記ガスバリア層、後述する蒸着層等)との密着性が向上する。これらの表面処理は公知の方法により実施できる。
基材の厚さは、当該シートの用途等に応じて適宜設定できる。たとえば包装材料として用いられる場合、通常、10〜200μmの範囲内であり、10〜100μmが好ましい。
【0037】
前記基材の表面には、無機化合物からなる蒸着層が形成されていてもよい。これにより、ガスバリア性がさらに向上する。
無機化合物としては、特に限定されず、従来、ガスバリア材等において蒸着膜を形成するために用いられているものが利用できる。具体例として、たとえば酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素、酸化スズ等の無機酸化物が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
無機化合物としては、特に、酸素ガスや水蒸気に対するバリア性に優れることから、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。これらの中でも、酸化アルミニウムまたは酸化ケイ素が好ましい。
蒸着層の厚さは、用いられる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には数nm〜500nmの範囲内、好ましくは5〜300nmの範囲内で、所望のガスバリア性等を考慮して適宜選択される。この蒸着層の厚さが薄すぎると蒸着膜の連続性が維持されず、反対に厚すぎると可撓性が低下し、クラックが発生しやすくなって、該蒸着層のガスバリア性が充分に発揮されないおそれがある。
蒸着層は、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ気相成長法(CVD法)等の公知の方法により形成できる。
基材上に蒸着層を形成する場合、該基材の蒸着層を形成する面に、前述したような表面処理を施すことが好ましい。この場合、該表面処理としては、アンカーコート処理が好ましい。
基材として、蒸着層が形成された市販のフィルムまたはシートを用いることもできる。
基材として、蒸着層が片面に形成されているものを用いる場合、前記ガスバリア層は、基材の蒸着層側に積層されてもよく、その反対側に積層されてもよい。印刷適性、屈曲性等の点から、蒸着層側が好ましい。
【0038】
本発明のシートは、さらに、熱溶着可能な熱可塑性樹脂層を有することが好ましい。かかるシートは、ヒートシールによる加工、密封等が可能であることから、包装材料として有用である。
熱溶着可能な熱可塑性樹脂層としては、たとえば、未延伸ポリプロピレンフィルム(CPP)等のポリプロピレンフィルム;低密度ポリエチレンフィルム(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPE)等のポリエチレンフィルム;等が挙げられる。
該熱可塑性樹脂層は、通常、押し出し成形によって、または接着剤層を介して、セルロースナノファイバー膜上に積層される。
本発明のシートは、上記のほか、必要に応じて、印刷層、中間フィルム層等を設けてもよい。たとえば中間フィルム層を設けたシートの構成例として、基材/セルロースナノファイバー膜/接着層/中間フィルム層/接着層/ヒートシール層との構成が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
なお、以下の各例において、pHは、自動滴定装置(平沼産業社製「自動滴定装置COM−1700」)を用い、20℃におけるpHを測定した。
【0040】
<製造例1>
針葉樹クラフトパルプ30gを水600gに浸漬し、ミキサーにて分散させた。分散後のパルプスラリーにあらかじめ水200gに溶解させたTEMPOを0.3g、NaBrを3g添加し、更に水で希釈し全体を1400mLとした。系内を20℃に保ち、セルロース1gに対し10mmolになるよう次亜塩素酸ナトリウム水溶液を計りとり、pH10に調製した後、系内に添加した。滴下開始からpHは低下を始めたが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液で自動滴定装置を用いてpHを10に保った。滴下開始から2時間後、0.5N水酸化ナトリウムが2.5mmol/gになったところでエタノールを30g添加し、反応を停止させた。反応系に0.5N塩酸を添加し、pH2まで低下させた。酸化パルプをろ過し、0.01N塩酸または水で繰返し洗浄して酸化パルプを得た。
該酸化パルプのカルボキシ基量を以下の手順で測定したところ、1.6mmol/gであった。
[酸化パルプのカルボキシ基量の測定]
酸化パルプを固形分重量で0.1g量りとり、1質量%濃度で水に分散させ、塩酸を加えてpHを3とした。その後0.5N水酸化ナトリウム水溶液を用いて電導度滴定法によりカルボキシ基量(mmol/g)を求めた。
【0041】
該酸化パルプを、固形分濃度が1.0質量%となるように水で希釈し、得られた希釈液に1N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを8とした後、超音波ホモジナイザーで20分間処理することにより、セルロースナノファイバー分散液を得た。該分散液は透明で、pHは6であった。
【0042】
<実施例1>
ポリスチレンシャーレに製造例1のセルロースナノファイバー分散液を流し込み、50℃8時間乾燥処理して厚さ15μmのフィルムを得た。このフィルムを加湿条件下、0.5mm/minで100%の伸びになるまで1軸延伸した。
【0043】
<比較例1>
ポリスチレンシャーレに製造例1のセルロースナノファイバー分散液を流し込み、50℃8時間乾燥処理して厚さ15μmのフィルムを得た。
【0044】
実施例1、比較例1で得たフィルムについて、それぞれ、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製「S−4800」)にてフィルム表面を観察した。その結果、実施例1の配向フィルムにおいては、比較例1のフィルムに比べ、当該フィルム中のセルロースナノファイバーが延伸方向に配向していることが確認できた。
また、これらのフィルムについて、電子比重計(アルファーミラージュ社製「MD−300S」)にて比重を測定した。その結果、該比重は、実施例1の合フィルムが1.50g/cm、比較例1のフィルムが1.48g/cmであり、実施例1の方が大きかった。
【0045】
<実施例2>
ガラス板の上に置いたPETフィルム(厚さ12μm)上に、製造例1のセルロースナノファイバー分散液を、乾燥後の塗膜の厚さが150nmとなるよう塗布して塗膜を形成した。該塗膜の表面に、120℃の熱風を、風速17m/sにて1方向からあてることで乾燥させ、積層体を得た。
【0046】
<比較例2>
ガラス板の上に置いたPETフィルム(厚さ12μm)上に、製造例1のセルロースナノファイバー分散液を、乾燥後の塗膜の厚さが150nmとなるよう塗布して塗膜を形成した。該塗膜を、120℃のオーブンで15分間乾燥させ、積層体を得た。
【0047】
実施例2、比較例2で得た積層体について、それぞれ、30℃、70%RH雰囲気下での酸素透過度(cm/m・day)を、酸素透過度測定装置MOCON OX−TRAN 2/21(モダンコントロール社製)を用いて測定した。
その結果、該酸素透過度は、実施例2の積層体が55cm/m・day、比較例2の積層体が130cm/m・dayであり、実施例2の積層体の方が、高湿度条件下での酸素ガスバリア性が高いことが確認できた。
【0048】
<実施例3>
製造例1のセルロースナノファイバー分散液を水で倍量に薄めたものを、シリコンオイルを塗ったガラスシャーレに流し込み、塗膜を形成した。該塗膜上に更にヘキサンを流し込んで該塗膜表面を被覆し、そのまま50℃18時間乾燥させ、膜厚15μmのフィルムを得た。
【0049】
<比較例3>
製造例1のセルロースナノファイバー分散液を水で倍量に薄めたものを、シリコンオイルを塗ったガラスシャーレに流し込み、塗膜を形成した。該塗膜をそのまま50℃18時間乾燥させ、膜厚15μmのフィルムを得た。
【0050】
実施例3、比較例3で得たフィルムについて、それぞれ、接触角測定装置(協和界面科学社製「CA−V」)を用いて、該フィルム表面(ガラスシャーレ側とは反対側の表面)への水の接触角を測定した。その結果、該接触角は、実施例3のフィルムが80°、比較例3のフィルムが17°であり、実施例3の方が疎水性が高くなっていた。
また、実施例3および比較例3のフィルムをそれぞれ切り取り、5cmのマスクを貼り付け、30℃、70%RH雰囲気化での酸素透過度(cm/m・day)を、酸素透過度測定装置MOCON OX−TRAN2/21(モダンコントロール社製)を用いて測定した。その結果、該酸素透過度は、実施例3が5.8cm/m・day、比較例3が15cm/m・dayであり、実施例3のフィルムの方が、高湿度条件下での酸素ガスバリア性が高いことが確認できた。
【0051】
上記結果から、セルロースナノファイバーの配向性を高めたことで、膜の緻密性、耐水性、撥水性等が向上し、ガスバリア性、特に高湿度環境下でのガスバリア性が向上したことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノファイバーから構成される膜を備え、該膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーが、該膜表面に対して略平行に配向していることを特徴とするシート。
【請求項2】
前記表面近傍に位置したセルロースナノファイバーは、略同一方向に配向している、請求項1に記載のシート。
【請求項3】
前記表面近傍に位置したセルロースナノファイバーは、その疎水面を該膜表面側に向けて配向している、請求項1または2に記載のシート。
【請求項4】
前記セルロースナノファイバーが酸化セルロースからなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のシート。
【請求項5】
前記セルロースナノファイバー層に基材が積層されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシート。
【請求項6】
前記基材の表面に無機化合物からなる蒸着層が形成されている、請求項5に記載のシート。
【請求項7】
前記無機化合物が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムおよび酸化ケイ素から選ばれる、請求項6に記載のシート。
【請求項8】
さらに、熱溶着可能な熱可塑性樹脂層を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシート。
【請求項9】
ガスバリア材である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のシート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のシートを製造する方法であって、
前記セルロースナノファイバーを水性媒体中に分散させて水性分散液を調製し、該水性分散液を支持体上に塗工して塗膜を形成し、乾燥させる工程を有し、
該工程にて、前記塗膜内の少なくとも一方の表面近傍に位置した前記セルロースナノファイバーを、該塗膜表面に対して略平行に配向させる配向処理を行うことを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2011−202101(P2011−202101A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72640(P2010−72640)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】