説明

シートの製造方法及び加工装置

【課題】高い伸縮特性を有するシートを好適に製造することができるシートの加工装置を提供すること。
【解決手段】本発明のシートの製造方法は、互いに噛み合う歯溝20、30が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロール2、3を回転させ、それらの噛み合い部分に基材シート10を供給し、基材シート10に延伸加工を施す工程を具備している。基材シート10の流れ方向にその破断荷重の10〜90%の張力を加えながら基材シート10をロール2、3間に供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸加工を施す工程を具備するシートの製造方法及びそれに使用されるシートの加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールを備えた加工装置を使用し、該ロールを回転させてそれらの噛み合い部分に不織布等のシートを供給し、該シートに加工を施す技術が種々提案されている(例えば、下記特許文献1〜4参照)。
【0003】
【特許文献1】特表2002−501127号公報
【特許文献2】特開2001−328191号公報
【特許文献3】特開2003−73967号公報
【特許文献4】特開2004−174234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これらの技術のように歯溝を有する一対のロール間にシートを通して延伸加工を施す場合、歯溝の深さを深くすれば、延伸倍率が高い加工を施すことができるが、ロール同士を噛み合わせて回転させる必要があるため、高い延伸倍率で延伸加工を施すには歯溝の形状からくる制限があり、高い伸縮性の付与や深い凹凸形状等の加工を施すことが困難であった。
【0005】
従って本発明は、高い伸縮特性を有するシートの製造方法及びそれに使用されるシートの加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールを使用した延伸加工方法について検討した結果、搬送張力よりも高い張力をかけた状態でロールの間を通すと、従来に比べて高い伸縮特性(小さい力でも伸び易い)を有したシートが得られることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールを回転させ、それらの噛み合い部分に基材シートを供給し、該基材シートにその流れ方向に延伸加工を施す工程を具備しているシートの製造方法であって、前記基材シートの流れ方向にその破断荷重の10〜90%の張力を加えながら前記噛み合い部分に前記基材シートを供給するシートの製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0008】
また、本発明は、前記本発明のシートの製造方法を実施するためのシートの加工装置であって、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールと、前記歯溝の噛み合い部分に基材シートを供給するシートの供給手段と、前記ロール間に供給されるシートに張力を加える張力付加手段とを備えているシートの加工装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来にない高い伸縮特性を有するシートを好適に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき、図面を参照しながら説明する。
図1及び2は本発明のシートの加工装置(以下、単に加工装置ともいう。)の一実施形態を模式的に示したものである。
【0011】
図1に示すように、本実施形態の加工装置1は、互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロール2、3と、加工する基材シート10の流れ方向の滑りを防ぐ滑り防止手段4と、ロール2、3による加工前後の基材シート10の流れ方向に張力を加える張力付与手段5、6を備えている。加工装置1は、ロール2、3が回転されているときにそれらの噛み合い部分に供給された基材シート10にその流れ方向に延伸加工を施して伸縮性を付与する。本実施形態の加工装置1では、ロール2、3は同じ形態のロールで構成されている。ロール2、3に互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられているとは、図1に示すように、ロール2、3の回転軸と、歯20、30がロール2、3の幅方向に延びる方向とが、それぞれ平行になるように周面部に設けられ、歯20と歯20、又は歯30と歯30の間が溝になっていて、噛み合い部分では、互いのロールの歯が互いの溝に噛み合うように設けられていることを意味する。
【0012】
図2に示すように、各ロール2、3における隣接する歯20、30どうしのピッチPは、1.0mm〜5.0mmであり、前記各歯の幅Wが前記ピッチの1/2未満であり、且つ前記歯の高さHは隣接する歯のピッチ以上であることが好ましい。各ロールにおける歯溝の形態が斯かる範囲であり、これらロール2、3間に供給されるシートに従来にない高い伸縮性を付与することができる。ここで、ロールにおける隣接する歯どうしのピッチとは、1つの歯の中心線とそれと隣り合う歯の中心線との距離をいう。ロールの歯の幅とは、1つの歯の幅をいう。歯の幅は均等でなく、歯の根元から歯の先端に向って細くなる台形型の歯であってもよい。ロールの歯の高さとは、歯の根元から先端までの長さをいう。
【0013】
各ロール2、3における隣接する歯どうしのピッチPは、伸びの均一化を考慮すると、1.5〜3.5mmが好ましく、2.0〜3.0mmがより好ましい。また、各ロール2、3における歯の幅Wは、歯の強度を考慮すると、歯どうしのピッチの1/4〜1/2が好ましく、1/3〜1/2がより好ましい。さらに、各ロールの歯の高さHは、材料に伸縮性を与えるためには延伸倍率を高くすることを考慮すると、歯のピッチが例えば2.0mmの場合は2.0(ピッチの1.0倍)〜4.0(ピッチの2.0倍)mmが好ましく、2.5(ピッチの1.25倍)〜3.5(ピッチの1.75倍)mmがより好ましい。
【0014】
また、各ロール2、3における歯20、30の先端の角部は、材料が角部でダメージが与えられないように、面取りしておくのが好ましい。面取りの曲率半径は0.1〜0.3mmが好ましい。
【0015】
ロール2、3の歯20、30の噛み合い深さDは材料に伸縮性を与えるために延伸倍率を高くすることを考慮すると、1.0mm以上が好ましく、2.0mm以上がより好ましい。ここで、歯の噛み合い深さとは、ロール同士を噛み合わせて回転させるとき、隣接する歯の重なり合う長さをいう。
【0016】
ロール2、3は、何れか一方の回転軸に駆動手段(図示せず)からの駆動力が伝達されることによって噛み合って回転する。ロール2、3の各軸に歯20、30とは別に、一般的な、JIS B1701に規定されているギアを駆動伝達用のギアとして取り付けてもよい。それによって、ロール2、3の歯20、30が噛み合うのではなく、これらのギアが噛み合うことによって、ロール2、3に駆動が伝達され、ロール2、3を回転させることができる。この場合、ロール2、3の歯20、30は接触することはない。
【0017】
図1に示すように、滑り防止手段4は、ロール2と接触したロール41、42を具備している。ロール41、42はゴムロールで構成されており、それらの周面部をロール2に押し当てることで、その間を通過する材料の滑りや収縮を抑制することができるので、結果として延伸加工を行うロール2、3間を通過する基材シート10の滑りや収縮を抑制することができる。本発明では、後述するように、基材シート10に高い張力をかけた状態でロール2、3間を通過させることでも、基材シート10の滑りや収縮を抑制できるので、滑り防止手段4による上述の効果は、より一層高められる。ロール41、42はロール3に周面部を押し当てるように配置することもでき、これにより、上記同様の効果を奏させることができる。滑り防止手段4のほかの例としては、一方のロールにその周面部において開孔する吸引路を設け、該吸引路を通して加工済みのシートを吸引する吸引手段を付設することで、材料の滑り若しくは収縮を抑制することもできる。
【0018】
本実施形態においては、張力付与手段5は、ロール2、3の上流側に配された一組のニップロール51、52と、ニップロール51、52とロール2、3との間の搬送経路上に配された張力検出器(図示せず)と、該張力検出器の検出出力に基づいてニップロール51、52の周速度を制御する制御部(図示せず)とを備えており、前記張力検出器の検出出力に基づいてニップロール51、52の周速度をロール2、3の周速度に対して所定速度に調整し、ロール2、3間に供給される基材シート10に所望の張力を付与する。前記制御部による具体的な制御方法としては、所望の張力よりも大きな張力を検出した場合、ロール51、52の周速度を微増することによって、この区間の張力を小さくすることによって、所望の張力に近づくよう調整する。所望の張力より小さい張力を検出した場合、ロール51、52の周速度を微減することによって、この区間の張力を大きくすることによって、所望の張力に近づくよう調整する。
【0019】
張力付与手段6は、ロール2、3の下流側に配された一組のニップロール61、62と、ニップロール61、62とロール2、3との間の搬送経路上に配された張力検出器(図示せず)と、該張力検出器の検出出力に基づいてニップロール61、62の周速度を制御する制御部(図示せず)とを備えており、前記張力検出器の検出出力に基づいてニップロール61、62の周速度をロール2、3の周速度に対して所定速度に調整し、加工済みの基材シートに所望の張力を付与する。前記制御部による具体的な制御は、前述の張力付与手段5における制御と同様に行われる。
【0020】
加工装置1は、制御手段(図示せず)を備えており、該制御手段は、前記駆動手段や滑り防止手段4を所定の動作シーケンスに従って制御する。
【0021】
本実施形態の加工装置1によれば、延伸倍率が好ましくは50%以上、特に好ましくは100〜400%という高い延伸倍率の延伸加工を行うことができる。ここで、延伸倍率とは(歯溝を有するロールの噛み合いによって材料が延伸された時の長さ−該ロールの噛み合いによって延伸する前の材料長さ)/(該ロールの噛み合いによって延伸する前の材料長さ)×100(%)のことをいう。
【0022】
次に、本発明のシートの製造方法の一実施形態を、前記実施形態の加工装置1を用いて基材シートに加工を施す工程を具備するシートの製造方法に基づいて説明する。
【0023】
図1に示すように、加工装置1における一対のロール2、3を回転させながらそれらの噛み合い部分に基材シート10を供給する。そして、図3に示すように、ロール2、3間において、基材シート10に延伸加工を施す。
【0024】
基材シート10に張力を与えることによって、より効果的に伸縮性を付与する観点から、加工前の基材シート10にニップロール51、52によってその流れ方向に張力を加えた状態でロール2、3間に供給する。供給する基材シート10に加える張力は、加工前の基材シートの流れ方向に破断荷重の10%〜90%、好ましくは20%〜80%とする。以下に示す基材シート10の破断荷重が例えば、100mm幅あたり約60Nの場合は、延伸加工前に加える張力は100mm幅あたり6〜54Nが好ましく100mm幅あたり12〜48Nがより好ましい。従来の搬送張力は、100mm幅あたり3〜5Nなので、高い張力をかけた状態で延伸加工を施すことになる。
また、加工済みの基材シート10にニップロール61、62によって張力を加えて前記ロール間から引き出すことが好ましい。供給する基材シート10に加える張力は、加工後の基材シートの流れ方向に加工後の基材シートの破断荷重の5%〜80%加えることが好ましく、10%〜70%加えることがより好ましい。材料の破断荷重は延伸加工前に比べて、加工後では小さくなる。また、延伸加工によって伸縮性を付与された加工済み基材シート10はわずかな張力でも伸びやすい。そのような観点から、加工済みの基材シート10に加える張力を加工前の基材シート10に加える張力よりも弱くすることが好ましい。
【0025】
加工を施す基材シート10の材質に特に制限はないが、加工装置1による延伸加工によ
りもたらされる効果をより一層奏させる上で、伸縮性を有する不織布が好ましく、特に、弾性繊維層の少なくとも一面に、実質的に非弾性の非弾性繊維層が配され、両繊維層は、弾性繊維層の構成繊維が繊維形態を保った状態で、繊維交点の熱融着によって全面接合されており、非弾性繊維層の構成繊維の一部が弾性繊維層に入り込んだ状態、及び/又は、弾性繊維層の構成繊維の一部が非弾性繊維層に入り込んだ状態になっている伸縮性不織布(以下、伸縮性複合不織布という。)が好ましい。また、弾性繊維と非弾性繊維の接合をより強固にするため、エンボス加工を施した伸縮性複合不織布がより好ましい。
【0026】
非弾性繊維層の厚みは、弾性繊維層の厚みの1.2〜20倍が好ましく、且つ坪量は非弾性繊維層よりも弾性繊維層の方が高くなっていることが好ましい。また、弾性繊維層の構成繊維の繊維直径が、非弾性繊維層の構成繊維の繊維直径の1.2〜5倍であり、且つ10〜100μmであることが好ましい。
【0027】
前記弾性繊維層の構成繊維は、チレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー又はポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマーからなる繊維であることが好ましい。また、非弾性繊維層の構成繊維は、非弾性繊維層を構成する繊維としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PETやPBT)、ポリアミド等からなる短繊維からなる繊維が好ましい。
【0028】
上述のような構成の基材シートに加工装置1を用いて、上述のような高い張力を与えるとともに延伸倍率が200%を超えるような高い延伸加工を施すことによって、伸度が80〜160%(100cN/25mm荷重負荷時)といった高い伸縮性を有するシートを連続的に製造することができる。ここで、伸度とは(引っ張り荷重を与えた後の材料長さ−引っ張り荷重を与える前の材料長さ)/(引っ張り荷重を与える前の材料長さ)×100(%)のことをいう。
【0029】
上述の基材シート10のほか、以下に説明する積層シート及び単層の繊維シートを基材シートとして用いることが高い伸縮性を得る上で好ましい。
【0030】
前記積層シートとしては、図4(a)及び(b)に示すように、弾性伸縮性を有する第1繊維層(弾性層)11の両面に、それぞれ実質的に非弾性の第2及び第3繊維層(非弾性繊維層)12,13が積層されており、これらが規則的なパターンで、部分的に接合されている積層シート10Aが挙げられる。
【0031】
斯かる積層シート10Aは、第1のカード機から供給されて一方向(流れ方向,MD)に連続搬送されている繊維ウエブ(第3繊維層)上に、繊維成形機により成形された弾性繊維を供給して、該繊維ウエブ上に、弾性繊維からなる層(第1繊維層)を連続的に形成し、更にその上に、第2のカード機から供給される繊維ウエブ(第2繊維層)を連続的に供給した後、得られた3層構造の積層シートに対して、エアースルー方式のドライヤーにより熱風処理を施し、熱風処理後の積層シートに対して、周面にエンボス用凸部が規則的に配置されたエンボスロール及びそれに対向配置されたアンビルロールを備えたエンボス装置により熱エンボス加工を施すことによって得ることができる。これにより、図4に示すように、接合部14が規則的なパターンで形成された積層シートが得られる。
【0032】
上述した積層シートの製造方法においては、ドライヤーによる熱風処理を、弾性繊維と非弾性繊維との熱融着や繊維の入り込みを目的として行っているが、斯かる熱風処理は省略することもできる。
【0033】
前記第1繊維層(弾性層)11は、伸ばすことができ且つ伸ばした力から解放したときに収縮する性質を有するものであり、少なくとも面と平行な一方向において、100%伸張後に収縮させたときの残留歪みが20%以下であることが好ましく、さらに好ましくは100%伸張後に収縮させたときの残留歪みが10%以下であることがより好ましい。これらの値は、少なくとも、MD方向及びCD方向の何れか一方において満足することが好ましく、両方向において満足することがより好ましい。最大伸度は30〜500%、特に300〜500%であることが好ましい。
【0034】
第1繊維層(弾性層)11は、弾性材料からなる弾性繊維を含むものが好ましい。弾性材料としては、熱可塑性エラストマー、ゴム、エチレン・プロピレン共重合体等が挙げられ、これらの中でも、比較的容易に繊維状の弾性体が成形できる点から、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、ポリウレタン、スチレン系(SBS,SIS,SEBS,SEPS等)、オレフィン系(エチレン、プロピレン、ブテン等の共重合体等)、塩化ビニル系、ポリエステル系等を挙げることができる。これらは一種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
第1繊維層11中の、弾性材料からなる弾性繊維の含有率は、50〜100重量%、特に、75〜100重量%であることが好ましい。第1繊維層11の弾性繊維樹脂にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(PETやPBT)、ナイロン等の非弾性樹脂や有機又は無機顔料、各種添加剤(酸化防止剤、可塑剤、等)を含むこともできる。また、第1繊維層中に非弾性繊維、有機又は無機顔料を含むことができる。
弾性層としては、繊維層からなるものに代えて、フィルム状のもの、ネット状のもの等を用いることもできる。フィルムやネットの形成材料としては、上記各種の弾性材料を用いることができる。
【0036】
第2及び第3繊維層(非弾性繊維層)12、13は、伸張性を有するが、実質的に非弾性のものである。ここでいう、伸張性は、構成繊維自体が伸張する場合と、構成繊維自体は伸張しなくても、繊維同士の交点において熱融着していた両繊維同士が離れたり、繊維同士の熱融着等により複数本の繊維で形成された立体構造が構造的に変化したり、構成繊維がちぎれたりして、繊維層として伸張する場合の何れであっても良い。
【0037】
非弾性繊維層を構成する繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル(PETやPBT)、ナイロン等やポリ乳酸等の生分解樹脂からなる繊維等が挙げられる。非弾性繊維層を構成する繊維は、短繊維でも長繊維でも良く、親水性でも撥水性でも良い。また、芯鞘型の複合繊維、分割繊維、異形断面繊維、捲縮繊維、熱収縮繊維等を用いることもできる。これらの繊維は一種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に短繊維においては延伸により毛羽が起こりやすいが、本方法を用いると接合部の破壊が起こりにくいため、強度が高く、かつ、毛羽立ちが防止でき肌触りの良いものができる点で好ましい。
【0038】
接合部14は、例えば、図4(b)に示すように、積層シート10Aの流れ方向(MD)及びその直交方向(CD)の両方向に不連続に形成されていることが好ましい。また、積層シート10Aは、第2繊維層12及び/又は第3繊維層13は、肌触りの良い伸縮性不織布(伸縮性シート)を得る観点から、接合部14が積層シート10Aの表面に凹部を形成しており、それ以外の部分が、凸部となっていることが好ましい。
【0039】
一方、前記基材シート10に用いられる前記単層の繊維シートとしては、弾性成分と実質的に非弾性の成分とを含み、エンボス加工による部分的なエンボス部が形成されている単層の繊維シートが挙げられる。例えば、(1)芯部が弾性成分から構成され、鞘部が実質的に非弾性の成分からなる芯鞘型複合繊維、又は弾性成分若しくは非弾性の成分からなるサイド・バイ・サイド型複合繊維、多数分割型複合繊維で構成された、繊維ウエブや各種製法の不織布等に、上述した第1実施形態におけるのと同様のパターンでエンボス加工によるエンボス部を形成したもの、(2)弾性繊維と非弾性繊維とを混合状態で含む、繊維ウエブや各種製法の不織布等に、上述した積層シートにおける接合部と同様のパターンでエンボス加工によるエンボス部を形成したもの等を用いることができる。繊維シートの具体例としては、カード法で得られた繊維ウエブやスパンボンド、メルトブローンなどによって紡糸した繊維ウエブ、水流交絡繊維ウエブ、ニードル交絡繊維ウエブに、ヒートロールで多数の熱融着部を平面視において散点状に形成したものを挙げることができる。
弾性成分としては、上述した弾性繊維の構成材料を挙げることができる。実質的に非弾性の成分としては、上述した非弾性繊維の構成材料が挙げられる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態の加工装置1及びそれを用いたシートの製造方法によれば、噛み合って回転するロール2、3間に基材シート10に所定の張力を付加しながら一度通しただけで、あらかじめ張力を与えておくことにより基材シート10を構成する繊維層が延伸されやすくなること、また高い張力を与えることによって噛み合って回転するロール2、3間での該基材シート10の流れ方向すなわち延伸方向での材料の滑り、収縮を抑えることの効果より、該基材シート10に効果的に延伸加工を施し、これによって発現される、高い伸縮性を備えたシートを好適に製造することができる。また、本実施形態の加工装置は、基材シートを一度通すだけで優れた延伸加工を施すことができるため、加工済みのシートをそのままその応用製品の製造ラインにインラインで供給することができる。
【0041】
また、延伸倍率が低い場合でも高い張力を与えることによって、高い延伸倍率で延伸加工を施したものと同等の伸縮性を備えたシートを製造することができるので、以下のような加工上優位な効果が奏される。即ち、従来技術のように歯溝を有する一対のロール間にシートを通して延伸加工を施す場合、歯溝の深さを深くすれば、延伸倍率が高い加工を施すことができるが、ロール同士を噛み合わせて回転させる必要がある。よって、高い延伸倍率で延伸加工を施すには、歯溝の形状の制限があるため、ロールの歯の幅は小さくしなければならない。しかし、本実施形態のように、低い延伸倍率で延伸加工を施すロール(歯溝を有するロール)では、ロールの設計時において、形状の制限が幾分か緩和されるため、高い延伸倍率で延伸加工を施すロールよりも歯の幅を広くすることが可能となる。従って、低い延伸倍率で延伸加工でき、すなわち歯溝の強度を確保することができる。これによって、装置寿命を長くすることができるほか、装置の製作の手間、コストを抑えることができる。また、本実施形態においては、上述のように張力をかけた状態で基材シートに延伸加工を施すことによって当該基材シートに高い伸縮性を付与することができるほか、それに伴って当該基材シートに凹凸形状を付与することもできる。
【0042】
本発明は、前記実施形態に制限されない。
前記実施形態の加工装置1は、JIS B1701に規定されている標準基準ラック寸法に準じた寸法形状の規定から外れるような形態の歯溝を有するロールを使用したが、これは高い張力をかけながら高い延伸倍率で延伸加工を施すことによって、伸縮性に優れたシートが得られるからである。本発明のシートの製造方法は、該規定に適合する歯溝を有するロールを使用することもでき、その場合にも同様の効果が奏される。
【0043】
また、例えば、図5に示す実施形態の加工装置1’のように、ロール2、3を基材シート10の機械流れ方向に直列に複数(図4では便宜上2機)配置し、これらのロール2、3によって基材シート10に延伸加工を繰り返し施すことによって、基材シート10により高い伸縮性を発現させることもできる。
【0044】
また、本発明の加工装置及びそれを用いたシートの製造方法は、前述したような不織布を基材シートとし、伸縮性のシートを製造する場合に特に好適であるが、それ以外、例えば、他の不織布、紙、樹脂フィルム或いはこれらを複合化した複合シート等を基材シートとし、該基材シートに高い延伸加工を施すことができる。このような延伸加工が施されたシートに伸縮性の付与を施すことができる。
【0045】
本発明の加工装置には、必要に応じてヒーター等を備え、ロールを加熱したりしてその温度を調整する温度調節手段を付設してもよい。また、一方のロールにその周面部において開孔する吸引路を設け、該吸引路を通して加工済みのシートを吸引する吸引手段を付設し、加工済みのシートを移送できるようにしてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
下記実施例1及び2の装置を使用し、下記加工条件で各ロール間に下記基材シートを一度だけ通して加工を施した。加工を施したシートについて下記条件で荷重を負荷したときの伸度を調べた。その結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例1〕
<ロールの形態及び歯の噛み合い深さ>2本とも同じ仕様
ロールの歯のピッチ:2mm
ロールの歯の幅:0.7mm(根元)、0.525mm(歯の先端)
ロールの歯の高さ:3.5mm
ロールの歯のP.C.D(Pitch Circle Diameter):150mm
ロールの歯の噛み合い深さ:2.7mm
【0048】
<基材シートの材質>
加工を施す基材シートには、下記弾性繊維からなる弾性繊維層の両面に下記非弾性繊維からなる非弾性繊維層がエアースルー法により複合化された伸縮性複合不織布を用いた。また、130℃のヒートエンボス加工を施している。
弾性繊維:スチレン系の熱可塑性エラストマー繊維、繊維径30μm
弾性繊維層の坪量:40g/m2
非弾性繊維:PET/PE芯/鞘構造繊維、繊維太さ2dtex
非弾性繊維層の坪量:10g/m2
複合シート坪量:60g/m2
基材シートの破断荷重:58N/100mm幅(N=3測定値の平均)
【0049】
<加工条件>
加工前の基材シートにかける張力:30N/100mm幅(破断荷重の51.7%)
加工済みの基材シートにかける張力:1.0N/100mm幅
【0050】
〔伸度の測定〕
加工を施したシートから幅25mm、長さ75〜100mmの試験片を作製し、該試験片をシートの機械流れ方向が引っ張り方向となるように引張り試験機にセット(チャック間距離50mm)し、ロードセル速度300m/minで引っ張ったときの荷重−伸度特性を調べた。3本の試験片について同じ測定を行ってそれらの平均値を求めた。そして、100cN/25mmのときの伸度を評価伸度に採用した。
【0051】
〔比較例1〕
加工前の基材シートにかける張力を5N/100mm幅(破断荷重の8.6%)に変更した以外は、実施例1と同様にして実施例1と同じシートを加工した。
【0052】
〔実施例2〕
下記の一般的なインボリュート歯車の形状の歯溝を有する一対のロールを供えた装置を使用し、実施例1と同様にして実施例1と同じシートを加工した。
<ロールの形態及び歯の噛み合い深さ>
ロールの歯のモジュール:0.75mm
なお、ロールの歯の幅、高さ、ピッチは歯のモジュールによりJIS B1701によって規定される。
ロールの歯のP.C.D:150mm
ロールの歯の噛み合い深さ:0.75mm
<加工条件>
加工前の基材シートにかける張力:30N/100mm幅(破断荷重の51.7%)
加工済みの基材シートにかける張力:1.0N/100mm幅
【0053】
〔比較例2〕
加工前の基材シートにかける張力を5N/100mm幅(破断荷重の8.6%)とした以外は、実施例2と同様にして実施例1と同じシートを加工した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示したように、実施例1及び2の何れの場合にも、高い張力をかけることで、張力が低い場合と比べて、高い伸縮性を有するシートを製造できることがわかった。これに対し、比較例1及び2のように低い張力をかけて延伸加工を施したシートは、伸度はそれぞれ77%、20%と伸縮性は高い張力をかけたときと比較して劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のシートの加工装置及びシートの製造方法は、加工を施すシートに応じて、多様な産業上の利用が可能であり、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品、衣料、医療用の包帯や湿布材等の様々な物品の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のシートの加工装置の一実施形態及びそれを用いたシートの製造工程を模式的に示す図である。
【図2】同実施形態におけるロールの部分拡大図である。
【図3】本実施形態の加工装置において一対のロール間で基材シートに延伸加工を施している状態を模式的に示す図である。
【図4】本発明のシートの製造方法に用いられる基材シートの一形態を模式的に示す拡大図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】本発明のシートの加工装置の他の実施形態及びそれを用いたシートの製造工程を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1、1’ シートの加工装置
2、3 ロール
20、30 歯
4 滑り防止手段
5、6 張力付与手段
10、10A 基材シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールを回転させ、それらの噛み合い部分に基材シートを供給し、該基材シートにその流れ方向に延伸加工を施す工程を具備しているシートの製造方法であって、
前記基材シートの流れ方向にその破断荷重の10〜90%の張力を加えながら前記噛み合い部分に前記基材シートを供給するシートの製造方法。
【請求項2】
加工済みの基材シートをその流れ方向に張力を加えながら前記ロール間から引き出す請求項1に記載のシートの製造方法。
【請求項3】
前記一対のロールを前記基材シートの流れ方向に複数配置し、該基材シートに前記延伸加工を繰り返し施す請求項1又は2に記載のシートの製造方法。
【請求項4】
前記基材シートが不織布からなり、前記延伸加工によって該基材シートの流れ方向に伸縮性を付与する請求項1〜3の何れかに記載のシートの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のシートの製造方法を実施するためのシートの加工装置であって、
互いに噛み合う歯溝が回転軸方向に沿うように周面部に設けられた一対のロールと、前記ロール間に供給される基材シートの流れ方向に張力を加える張力付加手段とを備えているシートの加工装置。
【請求項6】
加工済みの基材シートの流れ方向に張力を加えながら前記ロール間から引き出して搬送する搬送手段を備えている請求項5に記載のシートの加工装置。
【請求項7】
前記一対のロール間に供給される基材シートの流れ方向の滑りを防ぐ滑り防止手段を備えている請求項5又は6に記載のシートの加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−38304(P2008−38304A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216457(P2006−216457)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】